ep02 第七夜

第七夜


九尾は力をため、次の一撃にかけるかのように全身を小さく震わす。
 こなたが突っ込む!
 全身に炎の鎧を纏い、一直線に向かっていく!
「かがみ、あと、任せたよ!」
 目標まで数十センチのところで九尾の全身から放たれる巨大な衝撃波!
「ぐくぅ……」
 押し返される小さな身体。わずかに残っている勢いで、右の拳が九尾の体表に触れる。
 しかし、不十分。相手にダメージを負わすことなく、こなたの身体が吹き飛ぶ!
「うわぁーっ!」
 叫び声を上げるこなたに追撃のかぎ爪が襲い掛かる!
 度重なる攻撃に、ついにこなたの身体が悲鳴を上げた。
「こなちゃん!」
 つかさが声とともに巨石を召還した。
 九尾の周りに焦げ茶色の霧が浮び、それが中心に引き寄せられるように物質化すると、
妖魔の身体はからめとられ、石に捕まった。


「な、生意気なぁーーーー!」
 振り上げた右前足が硬直し、そのままの形を維持する。
 が、すぐに巨石に亀裂が入り始める。
 長くは持たない!
「かがみー!」
 満身創痍。疲労と怪我で動くことの出来ないこなたが叫ぶ。
 その声を合図に、かがみと”雪女”が舞い上がる!
「とどめぇーーーー!」
 かがみは両手を大きく振り上げ、頭上へと持ち上げる。
 大きく身体をそらし、弓なりになると、”雪女”の身体に触れた。
 一瞬のうちに”雪女”は形状を変え、かがみの倍はあろうかという紫銀色の曲刀が出現する!
「危ない!」
 つかさは思わず顔を背け、目を閉じた。
 巨石がその形を保てなくなり、崩壊する。
 かぎ爪が勢いを取り戻し、こなたを切裂く!!!


「雪の舞、氷華繚乱!」

 一閃!
 かがみの斬撃がわずかに早く、九尾の動きを止めた!
 曲刀はその持ち主を軸に大きく弧を描いていく。
 巨大な扇を広げたかのような軌跡をたどり、九尾の額に触れると、
垂直に振り下ろされた刃は、白金に輝く全身を真っ二つに切裂いた。

 重たい砂袋を放り投げるような音がして、九尾の身体が床に落ちる。
 切断面を覆い隠していた氷の膜が、侵蝕するように広がっていき、
九尾であったものは無機質な氷塊に変わっていった。
 気がつけば、氷塊の周りには、短く刻まれた蒼髪がいくらか散らばっており、
かがみ、つかさ、そしてこなたが取り囲むようにそれを見下ろしていた。
「ネトゲにおいで……」
「たまにだったら付き合ってあげるわよ」
 こなたの拳とかがみの曲刀が振り下ろされ、九尾は無数の結晶となり、消失した……。



「ふう、おわたよ~~」
 こなたは両手を広げてその場にお尻から倒れこむ。
「おつかれさま~」
 つかさはこなたの脇に膝をつき、細かい擦り傷を一つ一つ丁寧に癒していく。
「玉藻前(たまもまえ)――。美しい女性の姿を借り、朝廷や時の権力者を誘惑し、世を混乱させると言われています。
狐狗狸さん同様、憑き物。それも、とても強力な……。言い換えれば、”狐”達の女王だったのでしょう……」
 みゆきの冷静で落ち着いた響きが聞こえた。
「なるほどね~。雑魚が集まって、かたまって、上位妖魔に変化したってところね」
 紫銀色の曲刀が掌に吸い込まれるように消えた。
「それにしても……なぁ、みゆき。あんたその格好どうするの気!?」
 かがみは意地悪っぽい笑みを見せ、問いかける。
「いやぁ、私はもう少しそのままでもいいんだけどねぇ~」
「あんたには聞いてないけどな」
 どこからか拝借してきたであろう白い布切れで身体を隠すみゆき。
 それを猫口のこなたが舐めるようにじっくりと鑑賞する。
「え!?いや、こ、こここれは。ど、どうしましょう?」
「ゆきちゃん、すっごく柔らかいんだよ?えへへへ」
「つ、つかささん!」
 人差し指で頬をかき、にっこり笑うつかさ。
 こそこそと這いずり、みゆきの布切れを奪おうとする、こなた。
 足首を掴んでそれを阻止するかがみ。
「お、お、お恥ずかし…………」
 赤面リミット限界突破。
「みゆき!」
「ゆきちゃん!」
「ちゃ~んす!」
 3人は再び床に倒れていくみゆきに飛びついた!


「ははは、実に面白い戦いでしたね?」
 深い紺色の袈裟を羽織った男が、無精ひげの残るあごを掻きながら呟く。
「そうですね。特にあの二人の成長には驚かされるばかりです」
 それに紫色の袴を着けた常装の男が答える。
「ただ……」
 烏帽子をはずし、常装の男がうつむく。
「さすがに”アレ”は予想外でしたね……」
「……柊さん……」
 柊と呼ばれた男の顔はどこと無く不安げで、苦悩に満ちていた。
「まあ、何とかなりますよ。かなたは、俺達なんかとは比べ物にならないくらい素晴らしい術を持ってたじゃないですか!」
 無精ひげの男が明るい声を放つ。
 大きな体育館裏の草地に風が吹いた。
「さて、そろそろ行かないと見つかりますな」
「そうですね。それより、そうじろうさん……」
「ん?なんです?」
「鼻血……拭いたほうが……」
 柊の声にそうじろうが反応し、右手で鼻をこする。
「うおおおっ!こ、これはですね!」
「あぁ、いいんですよ。私も見ちゃいましたし……。どうやって育ったんですかね?」
「確かに、ウチのと何が違うんだろ……?」
 二人の男は腕組みし、くびを傾げる。
「勝ち組だけど、5等分?」
「勝ち組だけど、幼女趣……げふん、げふん」
 そういって、男達は体育館を後にする。
 草地に夥しい量の血痕を残して……。


 いつの間にか日は傾き、夕映えが美しく空を染めていた。
「それにしても、おねえちゃんが来てくれて、すっごい助かったよー!」
「そだねぇ~。一時はどうなるかと思ったけどね~」
 いつもの制服に着替え、のんびりと歩く4人。
「あはは。あ、あんた達だけじゃ、心配だからね」
「うそうそ~。『ご、ごめぇ~ん!』とか言って入って来たじゃん?」
 こなたが両手を組んで、かがみのモノマネをしてみせる。
「ば、そ、そんなこと言ってないわよ!」
 かがみが赤面し顔を背ける。
「うふふ。でも、本当に助かりました、かがみさん。改めてありがとうございます」
「え?あ、うん。気にしないで。あはは」
 みゆきの言葉に赤面。どちらにしても赤面。
「ところで、あの”スタンド”!名前決めたの!?」
 こなたははしゃぎながら、かがみに擦り寄る。
「”スタンド”?あぁ、”雪女”ね。わ、私がその、”雪神”だから、”雪兎”なんて、どうかな?」
 頬を人差し指で掻きながら、呟く。
「かわいい!”雪兎”ちゃん!おねえちゃんと同じ髪型だし、すっごくいいと思うよ!」
「ふむふむ~。あの厨二病ぽい技名を恥ずかしげもなく叫んだ人の命名としてはまともだねぇ~」
「ちょ、厨二病って誰のことよ!」
 かがみは左手を振り上げた。
 それに応じて、こなたが頭を抱えて走り出す。
「ちょっと、待ちなさいよ!ちょっと、こなたー!」
「うふふふ」
「あははは」
 次第に暗闇が押し寄せる街中に少女達の笑い声が響く。
 寒空の下、暖かな気持ちがあふれ出す。









――ばか!あんたが言ったんじゃない。「かがみんはうさちゃん」って……。
――兎は寂しくなると死んじゃうんだよ……?


「もう!こなたぁ!電車来たわよー!」

Fin
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