ep02 第六夜

第六夜


白金色の影が形を成す。それはやはり”狐”。
 しかし、先程のそれとは違い身体は数倍大きく、体毛は艶やかに光り輝き、
九つに分かれた尾が威嚇するように揺らめいている。
「九尾……」
 そんな言葉がかがみの口を動かす。
「せっかく私に丁度いい身体を手に入れたと言うのに……」
 白金に輝く”狐”の口が裂け、悲しそうな遠吠えをしてみせる。
「私を怒らせた罰を受けるがいい!」
 九尾は頭を尻の方に向け、向きを変えるようにくるりと回る。
 九本の尾が扇のように広がり、そこから巨大な衝撃波が放たれる。
「きたわね~!?そりゃっ!」
 かがみは両腕を前に突き出し、上下に広げる。
 伸ばしきった腕をそのまま左右別々の方向へと、円を描くように回した。
 描かれた両腕の軌跡が光り、”雪女”の前に透明の膜が形成された!
「こなた!後ろへ!」
 あるはずの無い地面を蹴りつけ、こなたはかがみの背後に回る。
 大きな音共に”雪女”の作り出した膜は真っ白になり、砕けた。
「ほひょ~!さっきまでのとは威力が違うね~」
「何のんきに言ってるのよ!ほら、また来たわよ!」
 自らの放った衝撃波を追いかけるように九尾が近づいてくる。
 こなたは右手へと散開し、かがみは”雪女”に抱えられるように後退していく。

九尾の目標はかがみであったのだろう。
 自らの絶対的優位をいとも簡単に覆し、あまつさえ、不意の事とはいえ、後ずさりさせられるという辱めを受けた。
 九尾は長大な尾をなびかせながら、かがみに突っ込む。
 しかし、かがみも簡単にはやられない。
 ひょいと上空に飛び上がり、九尾の背後から”つらら”を撃ち放つ。
「甘いんだよ!」
 九尾は九本の尾を広げ、それを球状に自身の身体にかぶせる。
 さながら、ドーム型のバリケードといった風貌。
 つららは、そのドームに当たり、跳ね返され砕け散る。
 上にいるかがみへと身体を向け、咆哮する九尾。
 その咆哮と共に九尾の周りに数体の”狐”が出現する。
「うお!増えたぁ~!」
 九尾の背後を衝こうとしたこなたの目の前にも”狐”が現れる。
「やっかいね……」
 尾を振るごとに放たれる衝撃波を”雪女”と共に軽やかに交わすかがみ。
 しかし、その表情に余裕は無い。
 あまりにも連続する攻撃に、先手を取れないでいたのだ。
「つかさがもどれば……」

別行動をとっていたつかさは必死に走る。
 頭上で戦闘を繰り広げる九尾に気づかれぬよう、視界の外側を走る。
 ちょうど、体育館を半周し、氷柱となったみゆきの背後へと達した。
 その瞬間、突如出現した”狐”が唸りを上げ、つかさの前に立ちはだかった!
「うわあぁ!」
 咄嗟に袖から短刀を取り出し応戦する。
 運よく突き出した刃が、頭上から飛び込んできた”狐”の胸部を貫き、危機を脱する。
 ”狐”は悲鳴すら上げず煙のように消失していく。
 その煙の向こうには、いつの間にか大量に現れていた”狐”と死闘を繰り広げるかがみとこなたがいた。
「うそ!は、はやくしなくちゃ!」
 わたわたと慌てふためき、短刀をしまうと、目の前の氷柱に手を当て呪を唱える。
 つかさの両手から褐色の光があふれ出し、それが氷柱を取り囲む。
 徐々に氷柱は小さくなっていき、中からピンク色の長い髪の毛が見えてきた。
「ゆきちゃん!」

ふらふらと立つみゆき。
 背後からではみゆきの状態が分からない。
 正面に回り、もう一度名前を呼ぶ。
「……ん、ふあ?あ、れ、つかさ、さん?」
 みゆきは、焦点の合わない瞳を少しずつ下に落とし、可愛らしい巫女を見つけた。
「ゆきちゃん!よかったぁ!」
 思わずつかさはみゆきに飛びついた。
 余りに突然のことで、みゆきは背後に倒れそうになったが、何とか踏みとどまり、つかさを受け止める。
「よかったよぉ!うれしいよぉ!」
「つかささん……」
 つかさはまるで子供のようにはしゃいだ。
 みゆきが戻ってきた。ちゃんと体温も感じる。鼓動も聞こえる。
「ほら、心臓の音がとくとくって……ほへ?やわらかい、ね」
「え!?あ、あああの、つ、つつつつつかささん!わ、私、なんでこんな格好に……」
 みゆきはようやく正気を取り戻し、自らが全裸であることに気づいた。
 が、すぐさま、恥ずかしさが限界に達し、意識が遠のいていく。
 みゆきは、薄れ行く意識の中で、つかさにされた”キス”を思い出し、恍惚とした表情で床に抱かれていった。

「こんなんじゃ、キリがない!」
「かがみんや~、なんか大きいの一発ぶっぱなしちゃってよー」
 次々と襲い掛かる”狐”。
 それ自体はさして強くもないが、時折放たれる九尾の衝撃波がかがみ達の動きを妨げる。
 さらに、九尾が咆哮するたび、共鳴するように蘇る”狐”。
 全くもって埒があかない。
 四方八方からの攻撃に、少々疲労を感じ、互いに背中を預けるこなたとかがみ。
「ま、まだ、慣れないのよ。あんたの方が戦い慣れてるんでしょ?なんとかしてよ!」
 こなたが自らの手足を使い、呪を織り交ぜながら敵を駆逐していくのに対し、かがみはほぼ防戦を強いられていた。
 是非もない。かがみはつい先程、力を自分のものにしたばかりだ。
 どれほどその潜在能力が高かったとしても、使い方を知らないのであれば、全ては無意味だ。
「がんばって、リーダー!」
 こなたはかがみにウィンクをする。
 横目でそれを確認し、かがみはうなずいた。
 だが、意識すればするほど”雪女”は動いてくれない。
 どうすればいい?


「くっくっく……。そろそろ終わりかい?」
 九尾の顔がにやけたかのように見えた、その時!
 かがみとこなたの周りを黄金の光が包む。
「召喚します。草薙の剣!」
 声と共に、周りにいた”狐”が横一文字に分断されていく。
「つかさ!」
「ごめん、遅くなっちゃった」
 あれだけ無数にいたと思われる”狐”の群れは周囲に無く、ただ一体、九尾を残すのみとなっていた。
「なんなんだい!なんなんだい、お前達は!?」
 激昂し、身震いする九尾。
 ざわざわと森の木々が葉を擦るように、九本の尾が揺らめく。
 白金色に輝いていた毛並みが逆立ち、周囲を強力な瘴気が取り囲む。
「もう許さないよ!後悔する間もなく捻りつぶしてやる!」
 天井に向かい大きく唸りを上げる九尾。
「一気に!」
 こなたが叫ぶ。彼女の勘が指し示す、勝敗の分かれ目。
 かがみは迷いを打ち消し、頷く。
 まずは、動かなくちゃ!さっきもそうだった。
 難しいことは分からないけど、とにかく動くんだ!
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