ID:JkNnDwOK0氏:タイトル不明

私達が高校を卒業して、かなりの月日が経った。
皆はそれぞれ希望の大学に行った。私はと言えば、受験に失敗し、そのまま自宅警備員になってしまった。
皆とは自然と連絡を取らなくなってしまった。

皆、元気にしてるかな―――


夏の、ある雨の夜のことだった。
某県の峠道を、1台の黒いセダンが走っていた。
運転しているのは泉 こなた。同日に開催されたネットのオフ会の帰り道である。
父親の車を借りて参加していたのだ。
「あー、盛り上がってこんな時間になっちゃったよー。家に着くのは2時過ぎかな……」
ハンドルを握りながら呟く。
さっきまで星空が広がっていたが、今は雲が広がり何も見えない。
「んあーっ……。少し休憩するかな……」
こなたは車を待避所に寄せて、ハザードを点けて停車した。
「ふぅ……」
ハンドルから手を離し、体の力を抜く。
そうしてボーっとしているうちに、かつての友達のことを思い出していた。
(かがみ、つかさ、みゆき……。今頃どうしてるかな……)
高校を卒業して、自然と離れてしまった彼女等の顔が脳裏に浮かんできた。
(私はこんな風になっちゃったけど……。皆は、いい人生を送ってるといいな……)
そう考えているうちに徐々に睡魔が襲ってきた。
知らず知らずのうちに、こなたは眠りについていた。

「……はっ!」
どれくらいの時間が経っただろうか。こなたは目を覚ました。
「いかんいかん、早く帰らなきゃいけないのに……」
そう言うと、こなたは車のエンジンをかけて出発した。
空は相変わらず雲だらけで何も見えない。
今にも泣き出しそうな夜空だ。
(降ってこなきゃいいけど……)
こなたの思いとは裏腹に、ぽつぽつと、雨粒がフロントガラスを叩き始めた。
「うあーっ、とうとう落ちてきたかー」
こなたは嫌々のようにワイパーのスイッチをINTに入れた。
程なくして雨は本降りとなった。街灯もそんなにない峠道、視界は最悪である。
「まったくついてないよ……」
呟きながらハンドルを操作するこなた。と、車の行く先に人影を見つけた。


(こんな夜更けに、こんな峠道で……。一体誰だ?)
徐々に車は人影に近づいていく。
ヘッドライトの照らす範囲がそこに到達した時、こなたは思わず声を上げた。
「か、かがみ!」
そう、そこに立っていたのはかつての友人、柊 かがみだったのだ。
「おっす、こなた」
車を寄せてこなたが窓を開けると、かがみは車内を覗いてそう言った。
「ちょっとかがみ、こんなところで何してるの!?」
こなたの問いかけに、かがみは笑って答えなかった。
「……まぁいいや。とにかく乗ってよ!」
「ん、ありがと!」
こなたがドアを開けると、かがみは助手席に乗り込んだ。

「……で、何処まで行けばいい?」
ハンドルを握りながら問いかけるこなた。
かがみは依然として笑顔である。
「このまま行ってくれればいいよ。停めて欲しいとこについたら言うから。」
「へーい」
暫し沈黙。
その後、口を開いたのはこなたの方だった。
「そんでさ、最近どうなの?」
「へっ?」
「高校出てから連絡出来なかったけどさ……。どう、上手くやってる?」
かがみは少し黙り、そして話し始めた。
「……うん。希望通り弁護士になれたし、いい人も、見つけた……。今、子供もいる。」
「へぇ……。良かったよ。」
「実はね、……あんたには礼を言いたくてね。」
「へっ?」
突然の言葉に、こなたは驚いた。
「高校時代、なんだかんだであんたと一緒に過ごした時間は、本当に楽しかったよ。
今でも色あせることはないよ。あんたとの思い出は、一生の宝物だよ。」
「え、あの、そりゃ、どうも……」
なんだかよく分からない返事をしてしまうこなた。
「良かった。あんたにまた会えて。」
「私もかがみに会えて良かったよ……」
その後、2人は車内で思い出話に花を咲かせた。
語り合っている間、2人は高校時代に戻っているかのようだった。


「あっ、こなた、ここでいいよ」
不意にかがみが声を上げた。そこは峠道の途中だった。
「ここ……って、何にもないじゃん。もっと先まで行くよ。」
「ありがとう。でも、ここでいいのよ。」
かがみは首を振った。
「……分かった。」
こなたは車を停めた。かがみはドアを開けて、傘を差して外に出た。
「ありがとう、こなた。……それじゃ、元気でね。」
「うん。また会おうね、かがみ。」
言葉を交わすと、こなたは車を出した。
ミラーには、かがみの姿はもう写っていなかった。


そこから更に暫く行くと、こなたはまた見知った顔に出くわした。
「えっ?……今日はどういう日なんだろう……」
そこに立っていたのは柊 つかさだった。
「おーい、つかさー」
車を横付けし、こなたは声をかけた。
「あっ、こなちゃん!」
つかさは満面の笑みで答えた。
こなたはつかさを車に乗せ、走り出した。
「さっき、上でかがみを乗せたよー。かがみもつかさも、こんなところで何したの?」
「えへへ、ちょっとね。」
つかさも、かがみと同じく答えようとはしなかった。
こなたは少しは気になったが、次第にどうでもよくなってしまった。
「かなり久しぶりだけどさ、どう、最近。」
「うん、上手く行ってるよ。調理師の資格も取れたし、今、そっち方面で働けてるし。」
「結婚は?」
「んー……。まだ考えてないかな。」
「そっか……」

話し込んでいるうちに、つかさが降りたいと言うポイントに到着した。
かがみの時と同じく峠道だった。
「それじゃあ、またね、こなちゃん!!」
つかさは笑顔で手を振った。
「うん、また会おうね!」
こなたも笑顔で手を振り返し、車を出した。
ミラーに写っていたつかさの姿は、直ぐに見えなくなってしまった。


そこから暫く走ると、今度は高良みゆきが立っているのを見つけた。
「……今日は本当に不思議な日だよ……」
ほうっと、こなたは息を吐いた。
「みゆきさーん、お久しぶり。乗ってく?」
窓を開けて呼びかけると、みゆきは笑顔でこなたの方を向いた。
「あら、泉さん。お久しぶりです。」
みゆきが助手席に乗り込むと、車は走り出した。
「今日は本当に変な日だよー。」
車を出してから少しして、こなたが口を開いた。
「?何故ですか?」
首を傾げるみゆき。
「何か、同じ道で昔の友達に連続で会うんだよー。」
かがみとつかさを乗せたよ、とこなたは続けた。
「うふふ、それは本当に不思議ですね。」
みゆきは相変わらず笑顔である。
「そんでさー、みゆきさんは最近どうなの?」
「どう、と言いますと?」
「生活とか、上手く行ってるのかなー、って。」
「そうですね、上手く行っている……かは分かりませんが、一応医師免許を取ることが出来ました。」
「ふえー、凄いじゃん!!」
「ですが……、お医者さんは今でも苦手です……」
「あははは、何だよそれー!」
2人は休む間も無く話した。
高校時代の思い出、大学のこと、そしてこれからの生活について。

「ありがとうございました、ここで結構です。」
みゆきがそう言って指した場所は、やはり峠道だった。
こなたは最早気にしなくなっていた。
「おっけー。よっこらせっと……」
車を路肩に寄せるこなた。
「ありがとうございました。泉さんも、お体に気をつけて。さようなら。」
みゆきは笑顔で手を振った。
「それじゃねー、みゆきさん。またいつかー。」
こなたも手を振り返し、車を動かした。


峠道は終わり、車は街中に入っていた。
(本当に、さっきの出来事は何だったんだろう……)
その道中、こなたは考えていた。
(でも、皆頑張っているんだなぁ……。私も負けていられない。)
こなたは通りかかったコンビニの駐車場に車を停め、エンジンを止めてシートにもたれかかった。
(予備校、行こうかな……)
そうしているうちに、いつの間にかこなたは目を閉じていた。

そして、夢を見た。

夢の中で、あの3人が笑顔で手を振っているような気がした。


―――雨の峠道、ある待避所の周りにはパトカーと救急車が駆けつけていた。
その中心には大型のトラックと、大破した黒いセダンがある。
「しっかし、酷い事故だなぁ……」
「トラックが居眠り運転で待避所に突っ込んだみたいだな……。セダンの人可哀想に……」
「ドアが開きましたー!」
現場の警察官が話していると、不意に声が上がった。
ぶつかられたことで歪んで、開かなくなったドアがこじ開けられたのだ。
車内からは、1人の女性の遺体が運び出された。
「……やっぱりダメだったか……」
「ですね……」
「でも、苦しまずに逝けたんでしょうかね……。」
「……かもな……」
警官達の視線は女性の顔に向けられていた。


左目の下に泣き黒子がある女性は、
まるで微笑んでいるかのような、本当に安らかな顔で眠っていた。




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