ep02 第二夜

第二夜



「で、なんでゆきちゃんいるの?」
「つかさ、黒っ!」
 最近はカバンの中に詰めて持ち歩いてる巫女服を整えながらつかさが問う。
「百聞は一見にしかず!目の前で見てみたいのです!」
 家から持ってきたデジカメとレポート用のノート、みんなの足を引っ張らないようにと考えたのか、ジャージ姿のみゆきが力強く答えた。
「なるほどねぇ~。みゆきさん好奇心旺盛だねぇ~」
 陵桜セーラー服を脱ぎ捨て、”北高”セーラー服に着替えるこなた。
「泉さん。前から気になってたのですが、それは?」
「あぁ、これ?似合わないかな?とくちゅー品なのだよ!」
「はぁ・・・。なんか、霊力が上がるとか、袖にプロテクターとか・・・」
「あはは、ないない!そんなのないよ~!ただのコスプレ!今度、みゆきさんの分も作るから『禁則事項です!』って練習しておいてね?」
「はぁ、わ、わかりました」
「あは。でも、ゆきちゃん気をつけてね?ほんとに危ないからね?」
「はい、つかささん!」

 紫の巫女は目を閉じ、ゆっくりと言霊を紡ぎだす。それをじっと見つめるみゆき。
 両の手の指を身体の正面で絡ませながら、少しずつイメージをしていく。
 自分が呼び出したいものを両手で再現しながら、そのものに宿る八百万の神に呼びかけ、具現化する。
 ほぼ毎回呼び出す土で作られたヴェール。対物理衝撃用の結界、いわば防御壁。
 つかさの掌から、あふれ出した水のように、黄金色の霧が湧き出してくる。
 その黄金色の霧を、雲でも掴むように優しく抱きかかえ、みゆきの頭からかぶせていく。
 その全てをみゆきに纏わせると、つかさは小さく頷き、微笑んだ。

「すごいですわね!実際目の前で見てみると・・・」
 みゆきが感嘆の声をあげ、自らにまとわりつく黄金色に輝くヴェールを興味深げに眺める。
 するとそこへ、つかさがゆっくりと近づいてきた。
 つかさはみゆきの真横に立つと両手でみゆきの腕を掴み、目を閉じる。相手の身体を少しだけ引き寄せ・・・
「わ!わ!な、なにをするんで・・・・」
「わお!つかさ大胆!!!」
 小さな唇を少しだけ尖らせ、みゆきの頬に口づけする。
「・・・。ふふふ、ちょっと、恥ずかしいんだけどね!こうすると、土の神様が喜んでくれるの!」
「な、なるほど・・・」
「ふむふむ、じゃあ、土の神様は男神なわけだねぇ~、ふぉふぉふぉ。つかさ!グッジョッ!」
 こなたの親指が力強く突き出される。
 実際には、みゆきの頬に触れる直前でつかさの唇は止まったのだが、傍から見ればそれは口づけ以外の何ものでもなかった。
「さ、さあ、い、行きまひょうか!?」
 動揺して声を裏返すみゆき。不覚にも、つかさにときめいたなんて事は今後、何があっても話すまいと心に決めた。



 かがみの表情は先程とは比べるべくもなく明るく元気な笑顔を浮かべていた。
 それは同一人物に見えないほどに。
「あはは!なんか、いいよね!こういうの!」
「もう、柊ちゃんどうしたの?子供みたい!うふふ」
「私はこういうひぃらぎも好きだっけどなあ~」
 そもそも私たち3人は仲がよかった。5年も同じクラスで授業を受けていれば嫌でもそうなる。
 かがみは自分自身の過去を懐かしむかのような表情で、目の前の友人達と談笑を楽しんだ。
 3人は当然のことではあるのだが、世間一般的な女子高生がするように、洋服を眺め、雑貨を手に取り、雑誌を流し読みして、無邪気に笑う。
 彼女達の家からそれほど遠くもない商店街。小学校、中学校のころであればこの辺りに来ることさえ一大イベント!立派な”お出かけ”だった。

「ふー、ちょっとのど乾いたな?何か飲もう!?」
「う~私ミートボール~」
「それ、飲み物じゃないよ、みさちゃん!」
「おなかすいたってば!」
「あはは!じゃあ、いつも行ってたファミレスにしよ?」
 3人は近くのファミレスに入り、なれた所作で”いつも”の席へと着く。
 ドリンクバーを注文し、各々好きな飲み物をとり、席へと戻る。
 取り留めのない世間話が続く。それは普通の女の子にしてみれば本当に普通の、何の変哲もない時間。
 だが、今のかがみにはそれがすごく新鮮に感じられていた。

 私の正体を知らないこの子達と、見る事の出来ない、内にある真実と戦う必要のない新しい私。
 自分は普通の高校生なのだ。そう、普通の女の子なんだ!
 ・・・違う。
 ふいに脳裏をかけめぐる”あの3人”の笑顔・・・。
 私を救ってくれた3人の笑顔・・・。

「柊ちゃん!」
「わっ!な、なに!?」
「ちぇー、せっかく久しぶりに遊んでるのにそんな顔するなよ~」
「・・・けんか・・・したの?」
 声には出さず、首を振るかがみ。
「やっぱ、あの3人にはかなわねぇーなー!」
「そん・・・」
「柊ちゃんに初めて会ったときのこと、覚えてる?」
 あやのがかがみの発しようとした言葉をさえぎるように言葉を挟む。
「初めて会ったとき、柊ちゃんすごく怖くてね」
 笑い声を消すように片手を口に当てるあやの。
「そーそー!『誰も近寄るな!』ってオーラ出てたよなー!」
「うんうん。で、しばらく、会話すらしなかったんだけど・・・」
 かがみは真剣なまなざしであやのを見つめながら、同時に過去の思い出を振り返っていた。



 夕闇迫る繁華街で二人の少女を取り囲むやんちゃっぽい男たち。
 一人はあやの、もう一人は親友を必死で守ろうとするみさお。
 この頃から周りより少し大人びていたあやのに男共がちょっかいを出そうと近づいてきた。
 必死の抵抗むなしく、路地に追い込まれ、今や絶体絶命のピンチ。
 そこへ・・・。
「おまわりさーん!ここです!!変な人たちが・・・」
 ぎくりとして、その場から逃げ出す男達。ほっと安堵のため息を漏らし、その場にうずくまるみさおとあやの。
 うっすらと涙を浮かべる二人の目に映ったのは、逃げていった男たちと入れ替わりに現れた、柊かがみ。
「あ、あなたが、助けてくれたの?」
「まあ、そういうことになるわね」
「ひ、ひいらぎ・・・、だっけ?」
「そう、柊かがみ。名前くらいは覚えててくれたんだ」
「ありがとう。柊さん・・・」
「べ、別にたいしたことじゃないわよ。だいたい、あーゆー弱いものいじめする奴ら、大っ嫌いなの!だから、助けたとかじゃなくて、たまたまそうなっただけだから」
 じゃあね、と手を振りかがみはその場を後にして繁華街の中に消えていった。



「あの時の柊ちゃんの顔ったらなかったわ!」
「そだそだ!ありがとうって言った途端に、顔真っ赤にしちゃってさ!」
 目の前で笑いあう二人は紛れもなく自分の親友だ。
 あの日以来、私は少しずつ変わってこれた。きっかけをくれたのはこの二人。
「でも、よく覚えてたよね?私服だったのに。あの時ってクラス変わってそんなに間がなかったと思ったけど・・・」

「―――うらやましかったんだ…」

「え?」
「二人が、うらやましかった・・・。クラスの中で私はいつも一人で校庭を眺めてた。
 でも、あんた達二人はいつも一緒で、いつも楽しそうで・・・。私もそんな友達が欲しいって思ったんだ・・・」
 紫色のツインテールをふるふると震わせ、らしくない弱々しい声でかがみはつぶやいた。
 実の父に告白された自分の真実に触れていたかがみは全てに対して消極的になっていた。

―――かがみ、お前の中には・・・

 そう、私は馴れ合ってはいけない。私は友達を作ってはいけない。私は独りでなければいけない。
 私は・・・。


「じゃあ、早く行ってきなさいよ!」
「おー!早く行けってば!」
「え!?・・・」
 二人の声に目を見開いて顔を上げる。
 そこには満面の笑みでかがみを見つめるあやのとみさおがいる。
「悔しくなんかないってば!私らひぃらぎの友達だかんな!」
「うん!私もみさちゃんも柊ちゃんの友達だから、泉ちゃんも妹ちゃんも高良ちゃんもみんな友達だから!」
 かがみは、一気に溢れ出しそうになる涙を必死でこらえ、勢いよく立ち上がった。
「あ、ありがと!二人ともだ、だ、大・・・大好き!」
 顔面を真っ赤にしながら、振り絞った言葉。今の自分の、本当の気持ち。ありがとう、峰岸、日下部。
「きもっ!」
「あはは、らしくないよ、柊ちゃん」
 堪えきれなかったのはかがみの涙ではなく、あやのとみさおの笑い声だった。
「え、えーっ!?な、なんで!?い、今のシーンは感動して大泣きって場面だろ!?」
「いいんだよ、ひいらぎはツンデレで」
「そうそう、長い付き合いでしょ?あんまり素直な柊ちゃんだと、こっちが恥ずかしくなっちゃうよ」
「お、おまえら・・・」
 赤面したまま、目を閉じ、額に手を当てながら首を横に振る。
 かがみの顔に生気が舞い戻る。
 何をくだらないことで私は悩んでいたんだろう?簡単なことだ。あのときそうしたように、峰岸と日下部にしたようにすればいいんだ!
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