「遅い! 遅れるのなら、せめて途中で連絡するのがマナーでしょ」
「いやあ、ごめんごめん。携帯は家に置きっぱなしでさ」
「そんなんじゃ、携帯電話の意味ないでしょ。もっと普段から持ち歩くようにしなさいよ」
「うん……そうだね……」
こなたが約束の時間に遅刻をして、私が怒る。
それはいつもどおりの光景だったけれど、今日の彼女の反応は違っていた。
「なによ、どうかしたの?」
こなたの雰囲気はこれまで見たことのないほどに暗かった。
その表情は、高校に入った私達が出会う以前のものではないかと、私の勘が告げていた。
「ちょっと思い出したんだ。中学時代の友達に、毎日メールをしてくる子がいたことを」
「毎日って、それくらい普通じゃないの?」
「一日に百件くらいだよ。しかも、すぐに返事をしないと催促のメールがくるっていう」
「うわっ。それは病気に近いわね……」
「でも、その子に何度でも返信してあげてたのは私だから。私だけだから」
「こなた……」
「それで、思ったんだ。電話は出なければ留守だと諦めるけれど、メールは違うんだ、って」
「メールだって、気づかないことくらいあると思うけど」
私の反論に、こなたは首を振った。
「違うよ。だって携帯へのメールはすぐにその人に届くでしょ。言いたい事が既に伝えられた後なんだよ」
「伝えられた後……?」
「うん。だから返事が無いのは、メールの内容を見た上で拒否されているように感じるんだと思う」
こなたの論理が正しいのかを知ろうと、私がメールを送ってからずっと返事の無い場合を考えた。
「そう、なのかな。うん……。不安を感じるかも」
「だから私は携帯を持ち歩かないようにしてるんだよ。メールをしても、見ていないと思わせられるように」
「そっか……。それじゃあ、無理に持てなんて言えないわね」
私はポケットから携帯電話を取り出し、見つめながら思った。
今まで便利な機械としか見ていなかったけれど、これはとても危険な物なのかもしれない。
誰とでも瞬時に繋がることが出来て、同時に、逃げることは許されなくなる。
どうして何の疑問も抱かずに、今日まで使ってきたんだろう……。
「という話はどうかな。結構頑張って考えたんだけど、今の言い訳は百点満点として何点くらい?」
「……え?」
口を開けて呆ける私を見ながら、こなたはニヤニヤと笑っていた。
それで理解した。
私が真剣に聞いていた話は遅刻の言い訳に過ぎない上に、悪質な冗談であったことに。
とりあえず、こうしよう。
今日はこいつに百回以上のメールをしてやる。
最終更新:2007年11月29日 01:15