ID:nR74Vo2U0氏:ランニング

男「んー、みさおもうちょっと腕の振りに気を使ってみたら?」
みさお「腕?あう、わかったよ」
男「ははは、みさおは相変わらずだな。俺が先輩だって覚えてる?
  ま、気にしてないけどさ。俺が卒業してもがんばれよ?
  お前ならいいとこまでいけるかもしれないし」
みさお「おう、先輩にそう言われるとやる気が出るな~」
男「じゃあな」

それがちょうど半年前のこと。
みさおは高校生活最後の大会を控え毎日のようにトレーニングに励んでいた。
彼女の性格ゆえあまり口に出して言うことなどなかったが、彼女はその先輩にほのかな恋心を抱いていた。
それは、この脳天気本人も気づいてはいなかったが。

かがみ「最近の日下部はすごいよねー。人が変わったようにマジになっちゃって」
あやの「あら、柊ちゃん、みさちゃんは昔からあんなタイプなんだよ」
かがみ「いやいや、知ってるけどさ。今回は特に気合入ってるなーって」
あやの「そういえば、そうかも?家でも自主トレしてるって言ってたし・・・」
かがみ「え?だれが言ってたって?くわしく教えれ!ほれ!」
あやの「もうー、からかわないでよー」
よく言うもので、あるときには何も感じないが、無くなるとその存在に気づかされる。
みさおも同じで、近頃のかがみ達にとっては必要不可欠な存在となりつつあった。
こなた「かがみん!しゅくだ・・・」
かがみ「ダメ!たまには自分でやりなさいよ!?」
こなた「いいじゃん、いいじゃん~」
かがみ「また!髪の毛で遊ぶなって!」
こなた「おひょ~!やっぱ、一人じゃ落とすのは難しいね。みさきちの助けが・・・」
あやの「みさちゃんなら走り込みに行ったんじゃないかしら?」
こなた「・・・そか。じゃ、また来るよ・・・」
あやの「泉ちゃんも寂しそうねぇ」
かがみ「なんだかんだ言ってるけど、あいつも日下部のこと好きなんだよな~」
かがみが哀愁漂うこなたの背中を見送る。
あやの「”も”って、柊ちゃん”も”ってことね」
かがみ「うっ。さっきの仕返しか!?」
あやの「あははは」

こなた「おーい!みさきちやーい!」
みさお「おう!ちびっ子!」
肩にかけたタオルで額の汗を拭いながらみさおが近づいてきた。
最近の彼女は担任の許可を得て一日中トレーニング用のスウェットを着用している。それだけ本気なのだ。
こなた「ほい!」
みさお「さんきゅ!んぐんぐ、ぷはー、生き返るよなー」
こなた「がんばってるねぇ?」
みさお「まぁなー。これが最後だしさ、一回くらいは結果出したい!って思わね?」
こなた「あるある!レアアイテム必死で張込んで皆に羨望のまなざしで見つめられたいってね~」
みさお「あ゛~、よくわからんけど、そんな感じ」
こなたから渡されたスポーツ飲料で喉を潤し、しばしの休息。
みさお「ウチの学校ってそんなに部活に力入れてるわけじゃないからさ、こうやって自分でやんないとね」
少し寂しそうな顔してる。こなたはそう思ったが、口には出さず、振返って校舎に向かった。
こなた「私、着替えてくるよ!」
みさお「え?」
しばらくして、こなたは体操着を着用して戻ってきた。胸には「6-3」の白い布きれ付き。
こなた「いくよー?ほりゃ!」
みさお「うおっ!待って!」
二人の少女が全力でグラウンドを駆け回る。
先に走り出したこなたも何時になく真剣な表情。だが、その差は徐々に詰まっていき、横に並んだかと思うと一瞬で抜き去られた。
こなた「ぐおー!」
みさお「みゅー!」
みさおとこなたの差はゆっくりと開いていき、グラウンド1週する間には4分の1ほど差がついていた。
みさお「はーはー、いきなり走り出すなよ!」
こなた「はーはーはーはー。うぅ、はぁ。や、やっぱ速いね、はぁはぁ」
みさお「ちびっ子も何もしてないわりに速かったぜ!ちょっと嫉妬するよ」
二人は仰向けになって倒れこみ大声で笑った。

放課後、帰り道。
みさおとあやのに挟まって、なぜか青い毛の小動物が紛れ込んでいる。
あやの「泉ちゃんすごいね」
こなた「いやいや、それほどでも~」
みさお「マジすげぇって!なんで陸上部に入らなかったんだよ?」
こなた「いやぁ、部活やってると夕方のアニメ見れなくなっちゃうし~」
あやの「あはは、そういうの好きなんだね」
みさお「さてと、私はこっから走って行くから、また明日な!」
こなた「うおぅ!がんばるねぇ?」
あやの「最近いつもなの。気をつけてね、みさちゃん!」
みさお「大丈夫だってヴぁ!じゃなー!」
言うが早いかみさおは夕闇の町の中に消えていった。

あやの「あのね、泉ちゃん」
こなた「ほへ?なに?」
あやの「みさちゃんとこれからも仲良くしてあげて?」
こなた「何かと思えば。改まって言われるとなんか恥ずかしいね!」
あやの「私ね、みさちゃんからお兄ちゃん取っちゃったから・・・」
少しうつむくあやの。おろした髪の毛が横顔を隠す。
こなた「・・・」
あやの「口には出さないけど、寂しいと思うの。だから、ね?」
こなた「うん、わかたよ!私もみさきちは大好きだからね!」
あやの「ありがとう!これは内緒の話なんだけど、去年まではみさちゃんにもいい人がいたんだよ?」
こなた「うおぉ!これはびっくり!」
あやの「ふふふ。みさちゃん本人は気づいてないと思うんだけど、いつも一緒に走りこみしてる男子の先輩がいてね・・・」
その先輩は陸上の選手として有名私立にも入れるほどの実力者だったらしい。
だが、家族間の問題と本人の希望もありこの陵桜に入学したのだとあやのは説明した。
こなた「それでか・・・」
あやの「今度が最後の大会でしょ?その先輩にお礼がしたいんだと思うの。ううん、みさちゃんが言ってたわけじゃないんだけど」
こなた「・・・。いいね。分り合ってるんだね。みさきちのやつ、あやのさんを彼女にすればよかったのに!」
あやの「あははは、みさちゃんが男の子だったら、分からないね」
気がつくと日は沈み、辺りは暗闇に包まれていた。

こなた「え?じゃあ、かがみんも知ってるの!?」
かがみ『当たり前じゃないの!ていうか、あいつが単純なだけよ。ちょっと仲のいい子なら誰でも気づくって!』
電話越しにかがみの笑い声が聞こえる。
かがみ『一緒に走るとか私には出来ないからな~。こなた、私からもお願いするわ!日下部助けてあげて!』
こなた「まかせたまへ~」

次の日。日下部みさおは学校を休んだ。
あやのは何も聞いてなかったので携帯に電話をしたが繋がらない。
こなたもかがみも電話した。でも、繋がらない。
結局3人で自宅に電話した。みさおの母親が電話に出ると、今日は普通に学校へ行ったと言われた。
校内を3人で駆け回る。途中、つかさやみゆきを捕まえて5人で探した。
でも、結果は・・・。
放課後もみさおの行きそうなところを手分けして探し回る。
お気に入りの洋食屋、練習用のグラウンド、ビンテージのショップ、ランニングコース。
どこにもいない。嫌な予感が全員の脳裏をかすめる。
顔面蒼白で地面に座り込んでしまい、動けないあやの。
かがみの提案で日下部兄を呼び出し、なんとか引き取ってもらう。
兄「まだ、うちにも連絡がないんだ。何か分かったらこっちにも連絡してくれるかな?すまない・・・」
かがみは無言でうなずく。声を出すと一緒になって涙が出そうになるから。
そして次の日。やっぱりみさおの姿はない。
次の日も次の日も、何時までたっても連絡一つなかった。

大会五日前。朝からこなたは上下のスウェットスーツでグラウンドを走っていた。
何も言わず無言で。
あやのもかがみも止める事が出来なかった。
いつから走っていたのか何度か転んで膝に穴が開こうと、肘を擦りむこうと、こなたは走るのを止めなかった。
すでに限界は超えているはず。それでもこなたは走るのを止めなかった。
止めちゃいけない、止めちゃいけない。止まったらダメなんだ。
そんな声がこなたの頭の中を駆け回る。
始業のベルが鳴り、教師達がこなたを押さえつけるまでこなたは走り続けた。
ななこ「どしたんや、泉!しっかりしいや!おかしいで!?」
こぼれそうになる涙を必死でこらえ下唇をかみ締めるこなた。
授業中も上の空。グラウンドを眺めたまま。何もやる気が起きない。
何も考えられず、考えようともしなかったこなたの視界の隅にふと何かが動いた。

こなた「え!?」
見間違えるはずもない、あのスウェットは・・・
こなた「みさきち!」
同じ時、別の場所でも日下部みさおの名を呼ぶ声が上がる!
あやの「みさちゃん!」
かがみ「日下部!」
3人は授業中であることを忘れ飛び出した!必死に走った!
帰ってきた!みさきちが帰ってきた!ずっと頭の中で否定していた言葉もすらすらと出てくる。
生きてて良かった!
グラウンドに飛び出るとみさおは無言で走っていた。
3人が口々に彼女の名を呼ぶ。
しかし、なぜか彼女は振り向こうとしなかった。
足を止めることもせず、走り続ける。
まるで、朝の自分を見ているようだ。こなたはそう思い、彼女に近づく。
こなた「ねぇ、みさ・・・」
発した言葉をかき消すようにみさおが口を開く。
みさお「心配かけたね、ごめん。でも、今は走らせて・・・」
その表情はやつれ、何かに取り付かれているかのようだった。
目はこなたに向くものの、その中にいたのはこなたではない別の誰かだ。
こなたは声を出せないままその場に立ち尽くした。
何があったの?

大会前々日。
あの日からみさおはちゃんと家には帰っているらしい。
食事もし、睡眠もちゃんと摂っている。
だが、数日間の失踪の件だけは誰にも何も言わなかった。
こなたは朝と放課後の走り込みには必ず顔を出し、物言わぬ友人と一緒に走った。
周りの人間は彼女までおかしくなったと言う。
だが、そうじゃなかった。こなたにはみさおの何かに少し触れることが出来たのだ。
こなた「みんなも明日おいでよ。みさきちの事を友達だと思うなら・・・」

大会前日。
初めに着たのはあやのだった。みさおとこなたの後ろを必死になって着いていく。
すぐに引き離されるのだが、それでも着いていく。
次にかがみがやってきた。彼女もまた一心不乱に先頭を走る二人に食らいついていく。
それはもう、必死になって、歯を食いしばり、足の痛みも忘れ、何もかも忘れて・・・。
日が沈む頃、みさおの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

大会当日。
みさお「行って来るね。今日までみんなごめん。これが終わったら・・・」
帰ってきてから初めてじゃないだろうか?
みさおは満面の笑みで、そう、いつものあのみさおの晴れ渡る空のような笑顔で友人達に挨拶をした。

競技開始の空砲―――
パァーン!

しなやかに動くみさおの四肢は芸術品のように美しかった。
女性独特丸みを残しつつもしっかりと鍛え上げられた筋肉がムチのようにしなり、風に溶け込むかのように・・・。
友人達が見守る中、ゴールラインを必死に駆け抜けるみさお。
結果は・・・惜しくも2着。だが、彼女にとっての自己ベストを大幅に上回る好成績。
図らずも笑顔が飛び出る。

疲労しきった身体で控え室に戻ると、優しき友人達が彼女を囲んでくれた。
みさお「みんなごめんね。迷惑かけたのに、心配かけたのに、ほんと、ごめんな」
彼女の顔はすでに涙でいっぱいになっていた。
みさお「あと、一つだけわがまま、いいかな?」
あやの「うん。みんなで走ったから、私達みんなみさちゃんのこと信じてるから」
みさおは早々に身支度を整え、競技場を後にした。

みさおの背中を見ながら、歩いていく。
何の変哲もない普通の住宅街だ。
やがて、一軒の家の前で彼女は止まり、チャイムを押した。
中からは彼女達の母親と同じくらいの主婦が顔を出し、みさおに微笑みかけた。
5人はみさおに促されるままその家に上がった。

一同は座敷に通された。そこには自分達とそう変わらない年齢の少年の遺影が掲げられていた。
みさお「先輩、ごめんな~、1着とれなかったぜ!でもな!聞いてよ!すごいタイムが出たんだ!
    ほら!ほら!すごいだろ?私もやるときはやるんだってヴぁ!」
少年の母親が部屋の片隅で嗚咽を漏らす。あやのもこなたも声を押し殺して泣いた。
かがみは泣き崩れて、呆然とするつかさにしがみついた。みゆきも姿勢こそ崩さないものの、瞳から涙が滴り落ちる。

夕闇のせいで視界が悪かった。みさおはランニング途中に見かけた憧れの先輩の姿を見つけ、喜んだ。
何ヶ月ぶりの再会だろう?誉めて欲しい!自分のがんばってる姿を見て欲しい!
思わず車道に飛び出すみさお。走ってきた車に気づくことなく。
一人の男が叫びを上げてみさおを突き飛ばす。
鈍い音と自動車のブレーキ音が交錯する。
衝撃で意識を失ったみさおが気づいたときには病院のベッドにいた。
医者が隣で何か言っていたがそんなことはどうでもよかった。
みさお「先輩は・・・」
医者「・・・」
次の日からみさおは毎日のように先輩の自宅へ行くようになった。
そして、それ以外の時間は誰の目にも触れられないようにひたすらに走り続けた。
とにかく、走った。18歳の女子高生が風呂に入ることさえもせず、ひたすらに走り続けた。
その時間だけは、走っている時間だけは何もかもを忘れることが出来たから。

みさお「あはは、私が男がどーのとかってにあわねっだろ?はずかしくってさ!学校これなかったよ!」
笑ってる。あの、みさおの笑顔だ。
あやの「もう、心配したんだからね!」
こなた「いやいや、そんなこったろーとおもたよ~。やっぱみさきちは私達側だね」
つかさ「私達側って?」
かがみ「頭悪い子グループだろ?」
こなた「うぐっ!当ってるけど他人に言われると腹が立つ」
みさお「あははは。でも、ほんとわりぃーなー!さぁ、たまには私がおごってやるぜ!どこ行く?」
みゆき「まぁ!どうしましょうかしら?」
あやの「ねぇ、ミートボールのお店!みさちゃんが好きな、あそこにしよう?」
みさお「そだな~。じゃあ、いくぜー!」
こなた「おぅ!走って行くの?」
みさお「当然だって!ビリの奴はおごりだってヴぁ!」
かがみ「おい!言ってることむちゃくちゃじゃないか!」
日の沈みかかった街に少女達の笑い声が溶け込んでいった。

―――――

「みさお!走ってるときのお前ってすっげーいい顔してるな!」


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