第6夜

第6夜

――本日未明、××町にてまたもや男性の凍死体が発見されるという事件がありました――

朝のニュースが誰とも無く語りかける。この電車の中の誰かが使ってるワンセグ放送からもれ出た声は泉こなたを安心させた。
これで2件目、いずれも”凍死体”が発見されている。恐らく正体はやつに間違いない。奴はあの凍てつく吹雪で人を凍死させるのだ。
だからかがみは大丈夫。かがみはさらわれた。殺されたわけじゃない。
こなたは自分にそう言い聞かせ、まだ戻らぬ友人の安否で思考を埋めていた。
「こなちゃん降りよ?」
気がつけば××町。西の空を夕日が燃やし始め、夜が近いことを物語っていた。


数時間前――
「私も行きます!」
「だめだよ!危険すぎる!」
「私だってかがみさんの事が気がかりなんです!」
「気持ちは分かるけど、危ないよ、ゆきちゃん」
「そだよ、多少は分かってもらえたと思うけど、でも、奴らは普通の人がどうこう出来る相手じゃないんだよ!?」
「・・・」
みゆきらしくない昂ぶり。その昂ぶりは彼女の友人に対する熱い思いを物語っていた。
しかし、現実は甘くはない。漫画やアニメのようにスーパーヒーローが現れて命を救ってくれる保障などどこにもないのだ。
「ふぅ、やっぱり駄目なんですね。だけど、協力くらいは、させてください」
みゆきはカバンの中から包みを取り出す。
「これは?」
二人はそれを受け取り、不思議をうに眺める。
「こんなものが役に立つか分かりませんが、使い捨てカイロです。相手はずいぶん冷たそうですからね。
それと、世界各国の水、氷、雪などにまつわる妖怪や化け物のデータをネットで検索してきました。
黒井先生のお話がこんなところで役に立つとは思いませんでしたけどね」
「みゆきさん・・・」
そういってみゆきはファイルできれいにまとめたコピー用紙をこなたに手渡した。
「ありがとうゆきちゃん!私たちがんばるよ!」


「それにしても場所が××町でよかたねぇ」
「そだね・・・」
「注目は浴びたけど、私たちの服を疑問に思う人はいなかったしねぇ~」
「でも、恥ずかしいな」
照れ笑いを浮かべながら頭をかく。
つかさはもちろん紫の巫女装束。こなたは何故か、”超監督”。
「さて、なんて名前にする?」
「なまえ?」
「そ、そろそろ私たちも名前を決めなきゃ!これ、ヒーロー物の基本なのだよ!」
つかさの目の前にこなたの人差し指が突き出される。
「”退魔師つかこな”?いやいや、世界の、大いなる闇をなぎ払う、セーラー服の団!”SOS団”が常考?それとも巫女巫女ナーs」
「いかほど~」
笑いを交え会話する二人。その雰囲気から緊張は伝わってこない。だが、その笑顔の中にとてつもなく強く、激しく、熱い意志をにじませていた。


次第に街は黒く染まり、それとともに物々しい雰囲気が漂ってきた。警邏隊の巡回が始まったのだ。
何度か少女たちは帰宅を促されたが、その度に適当な言い訳を繰り返した。
「さすがに、これ以上はうろうろ出来ないかな」
「だね、どっかで待機してた方がいいよさそだね」
「といっても、緊急事態でどこのお店も閉まりかけてるよ?」
「だいじょぶ!私にまっかせなさぁ~い!」
こなたは意気揚々と入り組んだ路地をすすんだ。やがて目の前に現れたのは見覚えのある雑居ビル。
「ウチもしばらく休業しててね、パティなんか「生活費がパターンレッドデース!」って、言ってたよ」
スカートのポケットからガチャガチャと鍵の束を取り出し、セキュリティを解除。玄関に鍵を差込み扉を開けると、そこはこなたのバイト先であった。
「いいの!?」
「むふふ、私、来春からここで店長待遇でバイトするのだよ、雇われだけどね」
そういったこなたはどこか自慢げだった。
「とにかく、ここで待とう。あまり遠くに現れたりしたら、被害者が出るかもしれないけど…」
「そこはまかせて!来る途中に結界張っておいたから」
「おぉ!つかさGJ!やるねぇ~あんたぁ~」
「えへへ。侵入防ぐほど強くはないけど、侵入者を広い範囲で知ることだけは出来るよ」
「じゃ、ちょっと、身体休めておこう」
「うん」
二人は喫茶店のベンチシートに横たわり、しばしの休息をとることにした。

屋外からの音がパタリとやんだ。遠くで電車や自動車の走る音は聞こえるものの、この雑居ビルの周辺にから音というものが消えたかのような、そんな錯覚さえ覚える静寂。
「きたよ」
ぱちりとつぶらな瞳を開いてつかさが起き上がる。
「やな感じだね・・・」
澱んだ空気がべっとりと身体にまとわりつき吐き気をもよおす。自らに課せられた使命や運命さえなければこの場から逃げ出したい。
こなたの脳裏にふっとかがみの顔が浮かぶ。
だめだ、こんな弱気なことを考えてたら、かがみに笑われちゃう。
「行こう・・・」
「うん・・・」
立ち上がる二人。その小さな両肩に大切な人の運命を乗せて。


「うわーっ!」
巡回していた警邏隊の絶叫が聞こえた!まずい、被害者が出る!!!
こなたとつかさは”術”を唱え路地を駆け抜ける。
狭かった路地を抜けると大きな交差点に出た。
目の前では3,4人の警邏隊と人外の者とが格闘を演じていた。形勢は空を舞う物の怪たちの圧倒的な有利。
人間の英知である銃というものを全く意に介さず、手を振るたびに巻き起こる風で一人、また一人と屈強な男たちをなぎ倒していった。
「・・・・・・・・・・」
つかさが詠唱を開始する。その横をこなたがすり抜けて空を舞う物の怪に近づく。
体は透き通るように青白く、自らの背丈よりも長い髪の毛と細く長い四肢を持つ。美しい女性を思わせるような物の怪。
「雪女(ゆきめ)だ」
こなたは紫色の細長い包みを握り締めさらに雪女に近づく。
「危ない!」
警邏隊の一人が叫ぶ。が、その直後雪女の右腕が勢い良く振り払われ、生まれでた凍てつく風に当てられると叫んだままの表情で凍りついた。
「紺屋の白袴・・・違うわ。餅は餅屋だよ、おじさん」
こなたは”印”を結び高く跳躍した。
ようやくこなたの存在に気づいた雪女達はゆらりと揺れるように少女に迫り来る。
「こなちゃん!」
つかさの詠唱が完成し、こなたの周りを乳白色の光が包みこむ。同時につかさの存在にも気づき、一体が彼女に迫る。
こなたは握っていた包みからするりと何かを取り出した。
「お父さんにもらった特製の独鈷杵だよ。行くよ?」
迫りくる雪女に向かいビルの壁を蹴りつけたこなたは弾丸のように突っ込む。
こなたの眼前に巻き起こる吹雪!止まれない!
「・・・・・・・明王火炎呪!」
握り締めた独鈷杵から炎が唸りをあげて噴き出す。吹雪は掻き消え、雪女の顔がゆがむ。
「タイマシカ?マダイタノカ?」
「まだまだいるよ?悪かったね」
こなたの剣撃。雪女の頭上に激しく振り下ろされる。が、雪女は軽々とそれをかわし、両手からいくもの吹雪を巻き起こした!
「くっ!ちょっと強めだね?経験値ウマーだといいんだけどな?」
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