第4夜

第4夜

「はは、久々に心のそこから笑えたかな・・・」
「こな、ちゃん・・・」
その言葉とは裏腹に空を見上げてこぼれそうになる涙をごまかそうとしている。つかさは急に切なくなってこなたを抱きしめた。
「一人で闘ってたんだね。大丈夫!私でよければ側にいるよ?」
「ありがとう、つかさ」
こなたはつかさを抱きしめ返すと、堰を切ったように涙を流し始めた。嗚咽を漏らし、身体を震わせる彼女につかさの手が優しく触れる。
「つかさのことは知ってた。でも、巻き込みたくなかった。私が何とかすれば、つかさ達は今までどおり、普通の女子高生でいられると思ったから・・・」
「水臭いよ、こなちゃん。私たち友達だよ?困ったときは相談してよ」
「その通り。何度も同じ歴史を繰り返す必要は無い。宗教の垣根を取り払い、一致団結しなくては・・・。人の欲望は大きくなりすぎた・・・」
いつからいたのか、暗闇の中から柊ただおが二人の少女に歩み寄ってくる。
「お父さん・・・」
「おじさん・・・」
ただおは二人にうなずくと、手を取り帰ろうと促した。もう、月も沈み始めている、こんな時間に女の子だけで出歩くのは危険だと、にっこりと微笑んで。
駅に向かい、いつもの二人に戻った彼女達の背中を眺めながらただおは思った。この二人の前に立ちはだかる運命を変えることが出来ればと・・・。

「というわけでぇ~、ギリシャのゼウス神しかり、インドのインドラ神しかり、各国各宗教により、雷は神格化されてるっちゅーわけや」
黒井の声が教室に響く。昼食後のこの時間、机の上に伏して眠る生徒もいれば、必死にノートに板書する生徒もいる。
昨夜遅く月夜の舞を演じた二人は当然のように舟をこぎ、その目はうつろなまま黒板を眺めていた。
「何にせよやなぁ、大昔の人間は得体の知れない大きな力を”神”さんか”化け物”かどちらかに決定することで生活に対する不安を払拭しとったちゅーわけや」
「センセー!この授業は受験生に関係あるんでしょーかっ!?」
「うるさい、白石っ!受験にカンケーないお前が言うな!」
教室中にどっとわらいが押し寄せる。
「この時間の授業、ウチの科目、それほど受験に影響せんわ!受験で聞きたいことがあれば日曜でも祝日でも相手したるさかい!」
いつものように快活な笑いを響かせる黒井。今日も自慢の八重歯が光る、独身女教師27歳。
キンコーン、カーンコーン
「今日はここまでや!ほなまたな」
黒井が教室から出て行き、休み時間が訪れる。
「ねむいね~」
「ねむいよね~」
うつろな目をした少女二人は引きつるような笑顔で席から離れられないでいた。
「そういえば、かがみんはまだ、怒ってるのかな?」
「セバスチャン白くなって・・・。え!?あ、うん。でも、もうすぐ元に戻ると思うよ。こなちゃんのことでメールも入ってたし」
「なら、いいんだけど・・・。昨日のことは説明してない・・・んだよね?」
「うん。お姉ちゃんには”ちから”が無いってお父さんが言ってた。だから、何も知らないよ」
「むむむ。となるとまだまだ、かがみんには隠し事を続けるわけか・・・。正直、それが一番辛いな・・・」
「こなちゃん、お姉ちゃん大好きなんだね?私、ちょっと嫉妬しちゃうな」
頭をポリポリとかきながら照れ笑いを見せるこなた。
始業のベルが鳴る。放課後まではあとちょっと。次の授業の教科書を出そうとして、二人がそれを供に忘れたことに気づく時にさえセバスチャンは白かった。

放課後、こなた達の教室にかがみがもじもじしながらやってきた。久々の登場だ。
「あ、あのさぁ、怒ってないわけじゃないのよ?ただ、人にはそれぞれいろいろな事情ってのがあるなーって思ったし、あ、あんまり長い間怒り続けるのも疲れるって言うか・・・」
「ごめん!」
「へ!?な、なによ?素直じゃないの?」
こなたの素直な謝罪の言葉にあさっての方向を眺めながら顔を赤くしていたかがみはびっくりして振り向く。
「かがみんが私のことそんなに心配してくれてたなんて、私、私・・・」
ヒクヒクと鼻を動かしながら、誰がどう見ても大袈裟な演技で泣きまねをするこなたにあわててかがみが飛びつく。
「ちょ、ちょっと泣くこと無いじゃない!もう、怒ってないってば」
「こなちゃんの泣きまねにうろたえるお姉ちゃん萌え~、ふふふ」
「つ、つかさぁ!?」
「あう、私のセリフとられた!つかさのくせに~」
「つかささん、モノマネできるんですね~。新境地、ですわね」
昨夜の出来事などまるで無かったかのように、普段となんら変わらぬ仲の良い4人の姿が映し出されていた。

――××町における連続殺人未遂及び殺人事件に関する情報ですが、現在警察では市民の方からの情報提供に頼らざるを得ない状況となっております。
もし、何か少しでも不審な人物などを目撃された方がいらっしゃいましたら、こちらまで、御連絡下さい――

深夜、静まり返る××町。
風はなく、妙に湿気を帯びた空気が身体にまとわりつく。雨でも降りそうな空模様。月は当然のように見えない。
辺りを歩く人は全くいない。時折、人影を見かけるもののテレビで流れるニュースのせいか、みな足早にこの辺りを通り過ぎていく。
そこにゆっくりと、実にゆっくりと足らしきものを引きずりながら移動している一つの影。
「ぐふふ、ずいぶんゆっくりしてるんだねぇ?獲物を探してるのかな?それとも・・・」
暗闇の中、声はすれども姿は見えず。うごめく者はその動きをしばし硬直させ声の主を探す。
3,4階はあろうビルの屋上から落ちてくる影が一つ。羽根のように広がった蒼髪はまるで天使の羽根を想起させた。
「私に傷つけられたせいかな?かな?」
地上すれすれでクルリと一回転し、着地する。まるで曲芸師のような身の軽やかさはその小さな身体に詰め込まれた際限なきちから。
ニヤリと含み笑いをし、こなたは地面を蹴る。
イタチの様な形をしたうごめいていた者は先ほどとは目を疑うほどのスピードでこなたに向かって突進する。
「あら?不正解か。待っていたんだね、私を・・・」
スピードはほぼ互角。互いの対峙していた距離からちょうど半分のところで火花が散る。
「武器を持つのは苦手なんだけど」
こなたの両手に握られた真新しいメリケンサックに抉られた様な刀創。再び傷ついたそれを握り締め、顔の前に両手をかざす。
”かまいたち”と呼ばれる獣は右後ろ足から少量の血を流し、次の間を測るように後ずさった。
再びこなたの跳躍!ほぼ水平に流れるように少女の身体が舞う。
迎え撃つ獣は身をかがめ、全身の力を一転に集中する。両前足のカギ爪をキラリと一閃させ、こなたに襲い掛かった!
突進してくる相手の右側にもぐりこみ、こぶしを突き出す。獣はそれを食らうことなく身体をよじり地面へ。着地するやいなや追撃のジャンプ。
右へと身体をひねったこなたはそのまま一回転し、体制を整え三度獣の懐へ。
「つかさ!いま!」
「うん!」
少女の声と同時に不可思議な言葉の羅列が暗闇の街に響き始めた。
こなたの背後、10数メートルほどの距離にいたつかさの身体を、乳白色のもやが包み込み、やがてそれは指を絡ませた彼女の両手に円を描くように集結してくる。
かまいたちの追撃!右、左、右。交互に繰り出される鋭利な刃物の様なカギ爪がこなたを襲う。その全てを軽やかなフットワークでかわしているものの、爪とこなたとの距離は徐々に近づいていく。
「はやく!」
言うが早いか、彼女の背中が何かにぶつかる。
ガシャーン!
店舗のシャッターだ。かまいたちの全身全霊を込め振り上げた両前足がこなたの頭上に襲い掛かる!絶体絶命!
刹那!
乳白色の球体がかまいたちに向かいとてつもないスピードで迫ったかと思うと、獣の全身に絡みつき、まるで乳白色の縄に絡め取られるかのようにかまいたちはその場に倒れこんだ。
「ふぅー。あぶなかたよ~」
額の汗を袖で拭い去り、ほっと安堵の溜息をつく。
「ちょっと、油断しちゃったね。足の傷もほとんど回復してたみたいだね」
「うん。予想外だった。さて、止めを刺すから、つかさはあっちに」
「うん」
つかさは巫女服のすそを軽くはたいて、後ろを向いた。
何か影絵でも作るかのように複雑に指と指を絡め合わせながら、こなたが呟く。
うなりを上げ、必死に身をよじるかまいたち。だが、つかさの放った縫縛(ほうばく)の縄は一向に解ける気配はない。
「ネトゲの中なら出てきてもいいよ、ばいにー」
こなたは呟き、光り輝く右手を獣の額にそっとかざす。
一瞬のうちに光はかまいたちの全身を包み込み、すべてが光の中に入ると同時に霧のように消えていった。

「ありがと、助かった。私の術はどうしても詠唱が長いからね」
ペロリと舌を出し微笑むこなた。
「うぅん。私一人じゃあの子を追い込むことも出来ないよ」
「それにしても純血の巫女は違うね~!呪縛系一つにしてもあんなに強固に固められるとは、いやはや」
「ふふふ、なんか、誉められるのってうれしいね」
「あは。巫女服も似合ってるよ!」
「ありがと。でも、こなちゃん・・・それは・・・」
「ん?これ?」
こなたは先ほどの戦闘で少し汚れたセーラー服を整えながら続けた。
「”闘う女子高生”って良くないかな?これも、いわゆる一つの萌え要素!!!」
「どんだけ~」
少女たちは笑いあい、夜の帳の中に消えていった。

明日は満月。月光は人の狂気を呼び覚ます―――
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