ID:54HZLp8l0氏:萌え上がる女たちの戦場(民明書房刊)

その場所には、おびただしい数の「声」が響いていた。
名乗りを上げる者、号令する者、呼応する者、断末魔の叫びを上げる者、声にならぬ叫びを上げた者――そこは紛れもなく戦場だった。
時間の経過は、ひたすら冷酷に優劣を明らかにしていくこととなる。
この戦い、押されているのは、泉こなたを総大将とする陵桜軍である。
絶対的な人手不足による多方面戦線維持の失敗、それが敗因であった。
もともと少人数であった上、この一帯は各地に群雄が割拠し、何度戦っても勝利を得られなかった。
超えられない壁が存在したのである。

「今回も相当厳しいわね……」
そう言って嘆息するのは、柊かがみ。
楽天的なこなたにあきれることもあるが、こなたが最も信頼している陵桜軍の副将であり、かがみもこなたを信じ抜いている。
「お姉ちゃん、ごめんね、私にも才能があったら……」
声の主は柊つかさ――かがみの双子の妹である。気弱で凡庸、しかし心優しいつかさは姉の、仲間達の苦悩を忸怩たる思いで見つめていた。
そのつかさの様子を見て、高良みゆきは声をかけた。
「一つだけ、時間を稼ぐ方法があります……」
眼鏡をかけた知的な面貌、上品な物腰から発せられる言葉は常に正確であり、軍師としてなくてはならない存在であった。
「みゆきさん、その方法って?」
沈黙を守っていたこなたが、みゆきに尋ねた。
「それは……」

「無茶よ!本当にみゆきはそれでいいの!?」
かがみは声を荒げて、反対の意を明らかにした。
「分かってます……でもこれしか手段がないんです。お役に立てなくて申し訳ありません」
みゆきの表情からは、これが苦渋の決断だということがひしひし伝わってくる。だからこそかがみは強硬に反対したのだ。
みゆきの示した案とは、戦力の一点集中であった。だがその間、誰かが孤軍奮闘を強いられることになる。
極めて基本的な作戦であるが、実行するには至らなかった。互いに仲間を思いやる気持ちが強いために……。
重い雰囲気の中、こなたが口を開いた。
「もう、やるしかないのかも……」
かがみは耳を疑った。そして思わず食って掛かった。
「アンタ、どういうつも……ま、まさか!」
かがみは言葉を続けることができなかった。こなたの考えていることが分かってしまったのだから。
「こなちゃん……」
「泉さん……」
こなたは返事をせずに、いつものニヤけた表情に戻った。

あの一件以来、かがみはこなたが何を言ってきても無視し続けた。その都度自己嫌悪に陥りながら……。
かがみが後ろ向きな態度を取り続けたところで、作戦決行日が近づくのを止めることはできない。
「その日」は容赦なく訪れた。
「柊ー、いいのかよ?」
日下部みさお――元気なことが取り柄の、かがみの親友である。
「知らないわよ!あのバカのことなんか!」
まただ、とかがみは心の中でつぶやいた。
「柊ちゃん……そういう言い方はないと思うよ」
そう言ってかがみをたしなめたのは、峰岸あやの――やはりかがみの親友で、温和な性格だが時には厳しい物言いをする。
かがみは何も言い返せなかった。あやのはさらに言葉を続けた。
「柊ちゃんと泉さんってその程度で壊れるような仲だったの?違うでしょ?」
さっきより幾分柔らかな雰囲気を漂わせていた。
「行ってきなよ、柊」
みさおのその言葉を聞いて、かがみの中で何かが吹っ切れた。
「二人とも……。そうだね、ほんとにバカだったのは私だったよ」
「柊ちゃんったら」
「行くんだろ、柊」
「うん、行ってくるよ!」

こなたが出陣の準備を整えていると、かがみが来たとの知らせがあった。
「や、やあ……どしたの、かがみ?」
ぎこちない調子で尋ねた。
「見送り……来てあげたのよ」
「え?」
こなたは驚きを隠せなかった。あれほど反対していたかがみがなんで……。
「ちゃんと生きて帰ってきなさいよ」
その言葉を聞いた瞬間、こなたは胸が熱くなってくるのを感じ、そして強く言い放った。
「うん、行ってくるよ」
二人の目はほんの少しだが、光っていた。

こなたが単身敵軍と戦っている間に、みゆきの策が功を奏し、陵桜軍は逆転勝利を収めることになった。
次は軍を返し、こなたの救援に向かわなければならない。
「急ぐわよ!もうあいつ一人じゃ持たない!」
先頭を切って進むのはかがみであった。
「あいつも生き残って……それで私たちの勝ちなんだからね!」
かがみはさらに足を速めた。

「もうすぐ……もうすぐかがみたちが来る」
そう自分に言い聞かせながらこなたは耐えていた。だがそれももう限界が近づいていた。
足はふらつき、目はかすみ、いるはずのないかがみの声が聞こえてきた。
「私もう駄目かも……かがみ、ごめん」
覚悟を決めて目をつぶった。
「こーなたー!」
「かがみの声……?空耳に決まって……」
「こーなたー!」
それでも、と目を開けた先には、見覚えのある顔があった。
「か、かがみ……」
その後かがみの姿に元気付けられたこなたは、かがみとの連携で敵を打ち破り、こなたとかがみの武勇伝は語り草となった。
あらゆる困難、圧倒的多数を誇る敵を突破するその力はやがて、幸運の星を意味するらき☆すたと呼ばれる。
近年、インターネット掲示板において、スレッドを維持するための行為を保守と呼ぶが、これは星が保守に転じたもので、その由来がこの戦にあることは言うまでもない。

「……って、民明書房の本に書いてあったよ。じゃ保守しよっか」
こなたがかがみのツッコミをくらうのは二秒後のことであった。

ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。