ID:MlhYWMqe0氏:みんなの為のヒロイン 二人の為の舞台

ここから先は、これまで以上にわたしが重要になってくる。
緊張が更に増してきた。それも悪い方に。
体は震えて思うように動かないし、頭には失敗のイメージしか浮かばない。声もきっと震えてる。

「ちょっと緊張し過ぎじゃないか?」

わたしは、そう君がなんで全然緊張してないかを知りたい。

「次はセリフもあるからな。もっとリラックスしてだな……おっと、もう行かなきゃな」

去り際に頑張れよと言い残して去っていく彼。

「リラックスって……この状況で出来る訳ないじゃない……」

それでも、頑張らないといけない。クラスの為、委員長の為、そう君の為。そして、終わった後にもかなり重要な約束が待っている。

なんでこんな事になっちゃたんだろう? そう君がやる気を出したのはわたしの希望通りだけど、色々と悩みの種が一緒についてきた挙句、それも満足に悩めないこの状況。

すべては、1ヶ月前のLHR――



LHRが始まって20分。文化祭の出し物を決める会議のハズが、『近くの人と相談して案を出してください』の声と共に雑談の時間に変わるのは良くある話で、この教室もまさにその状態。文化祭の案を考えているのは極一部の人だけ。

「なぁ、かなた。昨日飾ってたがプラモがだな――」

わたしは数少ない後者のうちの一人。別にみんなとお喋りしてるのもいいんだけど、そうやってて時間が足らなくなって、危うく中途半端な作品を展示しそうになった去年の文化祭を繰り返したくないしね。

「おい、聞いてるのか? 机の上に置いてあった三連星の奴――」

とりあえず、衛生管理で許可を取るのが面倒な飲食系の模擬店は却下で……展示は去年やったから、舞台発表がいいかな。

「でな、その衝撃で上の棚から白い奴が落ちてきて、上手いこと『俺を踏み台にしたー!』的な感じに――」

「ああもう! うるさいよ!」

振り返って、さっきからわたしの耳に、どうでもいい話を半強制的に届けていた人物を睨む。見てもないのに手を使って状況を説明していた彼は、ヘラヘラした笑顔でわたしの顔を見ている。

「怒るなよ。奇跡的状況だぞ? こう、肩に足が乗った状態で丁度ビームサーベルが鉛筆立てに引っ掛かってな。
まだ残してあるから帰りに見に来いよ」

「残念だけど興味ないよ。今は文化祭に何をやるかで頭が一杯なの!」

「急がなくても時間はあるだろ? 去年の今頃なんてまだ何も決まってなかったじゃないか」

「そのせいでみんな学校に泊まる事になったんじゃない! しかも無許可で!」


あの後、先生達を誤魔化すのがどれだけ大変だったか……彼、泉そうじろうは『外せない用事がある』と言って一人だけ泊まらなかったからその苦労をしらない。しかも外せない用事っていうのは夕方のアニメの事。

「とにかく、考えてる間は話しかけないで。それが嫌なら一緒に考えてよ」

「そうだな。アニメでも流したらどうだ?」

「そう君がやりたいだけでしょ。クラスみんなでやれる事を考えて」

「そんなもん、模擬店か舞台発表しかないだろ。でも、面倒だから却下」

「年に一度の行事くらいやる気だしてよ……」

その後も、そう君との実のない話し合いは続き、いつの間にかHR終了まで五分を切っていた。
結局、誰からもいい案は出ず、明日のHRに持ち越しになった。

「まったく……真面目に考えてるの? 小学生みたいな案ばっかり出して」

「小学校の時から身長の変わらん奴に言われたくないな」

「ちゃんと伸びてるよ!」

「伸びてるって言っても、ミリ単位だろ?」

「ち、小さくても変化は変化だよ! そう君が大きくなり過ぎなの!」」

わたしも小学生の時より5センチは伸びてるのに……そう君はその間に30センチ弱も身長を伸ばして、180センチの大台に手が届く所まできている。男女差があるとは言え、不公平だと思う。

「はぁ、幼稚園の頃は同じくらいだったのに……」

「幼稚園かぁ……そういやそんな頃から一緒だったな」

しかも、一度もクラスが離れなかったんだよね。ここまでくると、奇跡的と言うより作為的な感じがする。

「そう君はあの頃から全然変わらないよね。見た目はともかく、中身はあの頃のまま」

「お前もだろ。懐かしい話も出てきた所だし、ここらで一区切りとするか?」

「……? 一区切りって?」

「そろそろ付き合ってみるか?」

一瞬、思考が停止した気がした。顔が熱くなるのがわかる。えっ? 付き合うって?

「な、なに言って……」

「顔、真っ赤だぞ」

そう言ってゲラゲラ笑い出す。それを見て、余計と顔が熱くなってきた。

「ふざけないで!」

「おいおい、そんなに怒るなよ。全部が冗談って訳でもないんだからな」

「……どういうことなの?」

「ここから発展していくか、このままで行くか。お前に選んでほしいってことだ」

いきなりの事に頭が混乱してきた。わたしとそう君が付き合う? そんなこと、考えたこともなかった。わたし達は幼馴染で、なんだかんだでここまで一緒だった。
周りの人達が、『付き合ってるんでしょ』とか言ってきたりもしたけど、そんな関係じゃないと否定してきた。それを――

「……わたしに変えさせるの?」

「そういうことだな。文化祭の終わりには答えがほしい」

文化祭の終わり。文化祭まではあと一ヶ月。少し長すぎる気もするし、短い気もする。

「お前に選ばせる代わりと言っちゃなんだが、文化祭の出し物は俺が企画してやる」

「……」

「全部任しとけ。俺が絶対成功させてやる。お前は、文化祭の事も、俺とのこれからのことも、深く考えず気楽にやれよ。文化祭まで、まだ一ヶ月もあるしな」

「……うん」

やっと言葉を絞り出せた。深く考えるなって……自分が考えさせてるくせに。ムリに決まってるよ……
その後も、しばらくの間そう君の言葉が頭の中でグルグル回っていた。気が付いた時には、もう教室に誰も居なくて空の橙色を通り越して暗くなり始めていた。

帰ってからもわたしの頭の中は混乱しっぱなし。そう君の言葉を思い出す度に心臓がバクバク鳴って、今日は全然眠れなかった。



次の日、寝不足の頭をふらつかせながらいつも通り早めに学校へ行くと、珍しく私より先にそう君が席に着いていた。ただし、机に突っ伏して寝ているけど。
つついてみても、揺さぶってみても起きる気配はない。

「完全に熟睡モードね……」

しばらくの間、耳たぶを引っ張ったりほっぺたをつねったりしてみたけど、なんの反応もなかった。

「起こさない方がいいよ。彼、昨日は寝てないみたいだから」

昨日、散々悩まされた仕返しにと、耳と鼻の穴に鉛筆(そう君の)を差し込んでいる時、不意に声をかけられた。振り返ってみると、クラス委員長がいた。

「そうなの?」

「学校に来たら泉君が先にいて、わたしに色々と押し付けてすぐに寝ちゃったの。でも、昨日でこれを書いたのなら寝不足でも仕方ないけど」

「書いたって……なにを?」

「文化祭の出し物の案」

そう言えば昨日、そんなことも言ってたっけ。俺に全部任しとけって言ってたけど……

「ざっと読んだけど、すごいのが出来そうよ。泉君って実は天才かも。今日のLHRでみんなに配るからね」

そう言って委員長は自分の席に戻って、大量のプリントを整理し始めた。多分、そう君が書いてきたっていう案のコピーだと思う。
でも、そう君はなにを書いてきたんだろう? 天才かもって思わせるくらいだから、相当すごいのだと思うけど。
今の鉛筆が刺さった間抜け顔からはそんな雰囲気は感じられない。鉛筆を刺したのはわたしだけどね。


4限目。LHRの時間まで、わたしはなんとか居眠りをせずに乗り切った。後ろの席のそう君は朝の状態から微動だにせずに寝ていたけど。(鉛筆はいつの間にか誰かが抜いていた)

始めに配られた数枚のプリントを見て、わたしは思わず後ろを振り返った。相変わらず寝ているそう君がいただけだったけど。

『クラス発表案 演劇』

1枚目のプリントには大きくそう書かれていた。2枚目以降には、物語のあらすじやまだ未完成っぽいけど台本、役名とかが書いてあった。以外に思ったのか、クラスのみんながチラチラそう君を見ている。

小さな病院が舞台。事故で声を失った少女と、少女の主治医主である人公の青年の話。少女は声を失ったことに絶望して人と関わろうとしなくなる。それを、主人公や仲のいい友達、偶然出会った幼馴染が励まし、次第に心を開いていく。
そして、最後で奇跡的に声を取り戻し主人公に自分の気持ちを打ち明ける。

本当にこれをそう君が書いたのかな? そう君のことだから、けっこうふざけた内容かと思ってたけど……

最後の1枚には、そう君が構想する配役が書いてあった。所々空白だけど、大体その役っぽい雰囲気の人を割り当ててある。チョイ役だけど、ちゃっかりそう君自身の名前も入っている。

「この泉君の案をベースにしてやっていきたいと思います」

反対の声はなかった。まあ、これだけ準備されたら反対もしにくいよね。
その後、残った配役と小道具、大道具、照明や音響、衣装の係りを決めてLHRは終了した。わたしは衣装の係りになった。帰りのHRでも少し話し合い、練習は来週から始めることになった。ちなみに、この時にやっとそう君が目を覚ました。

気が付くと、少し気が楽になってた。あんまり悩んでも仕方がないんだし、しばらくは楽しい文化祭気分に浸っていようと思う。そう君も深く考えるなって言ってたし。その時になったら答えも出ると思う。



あの時のわたしの考えは甘かった。でも、あれは予想しようがない事件だから仕方ないか……
衣装を作ってた時が懐かしい。衣装が完成してみんなで喜んでいたのが5日前の放課後午後5時。
そう君がいきなり教室に入ってきて、その楽しい気分を見事に壊してくれたのが、その5分後のこと。


「そんな……ムリだよ……。それに、どうしてわたしが?」

「ヒロインは『小柄で髪の長い少女』って設定だから、代役はお前が適任だ。そうじゃなくても、今の段階で仕事が終わってるのが衣装グループだけなんだ。だから、お前しかいない」

確かにこのクラスで『小柄』で『髪が長い』に当てはまるのはわたしと元のヒロイン役の子しかいない。他の裏方作業のチームの作業が遅れているのも聞いている。
衣装チームには、わたし以外に4人女の子がいるけど、長身だったり、ちょっと大きめの体だったり、衣装を着れる人がいない。

「でも、セリフとか覚えないといけないし……間に合わないよ……」

「中盤のセリフは心の中の声だから、録音でもなんとかなる。それ以外はクライマックスのシーンでしかセリフがない。後は舞台上での動きだけだ、まだ間に合う」

そう君の説得から、必死さがつたわってくる。今の状況を考えれば当然。

「委員長のケガ……そんなに酷いの……?」

そう君の話によると、委員長は練習中に舞台から落ちてケガをしたらしい。先生が車で病院まで連れて行ったらしいけど――

「右脛の骨にヒビと、右足首の捻挫。まともに歩ける状態じゃない」


委員長のケガは、わたしの予想よりだいぶ酷かった。

「……そう君、台本見せて」

「やってくれるのか!?」

「うん。委員長みたいにうまくは出来ないかもしれないけど、頑張ってみる」

わたしがやらなかったら、委員長だけじゃなくて、クラスみんなのやって来たことが無駄になっちゃう。

「後、そう君言ってたよね? 俺が絶対成功させてやるって。あれ訂正してほしいな」

「なんでだ? まぁ、俺に信用がないのはわかるが……」

「違うよ。そう君は信頼してるけど、そうじゃないの。『みんなで成功させる』の!」


そうして、わたしの怒涛の1週間が始まった。次の日、痛々しい姿で登校してきた委員長に指導をしてもらっ
て練習し、その合間に中盤のセリフの録音もした。セリフが無い分、動きが多いのでそれを覚えるのが大変。
でも、一番大変なのが――

「最後のセリフって、こんなに長いの……」

わたしが本番で言う唯一のセリフは、舞台中で最長のものだった。今のところ、練習で一回も成功していない。

「どうしよう、間に合わないかも……」


それが、本番2日前。


『あいつ自身が決めることだろ?』

セリフを言い終え、わたしとは反対側の舞台袖に消えていくそう君。これで、そう君の出番は全て終了。見事に『ヒロインの昔の友人』という名も無い役をやり遂げた。

「かなたさん、大丈夫?」

後ろから、松葉杖をついた委員長が話しかけてきた。

「だいじょーぶ、ヘイキだぺっっ――!」

「だ、大丈夫!? 思いっきり舌噛んでたけど……!」

なにやってんだろわたし……。そう君が見たら笑い死にしそうね。口に当てた手を見てみる。血はでてないみたい。

「ヘイキ……ではないかな……」

「そうだと思った。ずっと動きがギクシャクしてたから」

そうだったんだ……自分ではうまくいってたつもりだったけど……。

「でも、この後のことを考えたら、そう緊張することでもないでしょ?」

「へっ?」

「全部しってるのよ。この後、返事をしに行く予定なんでしょ?」

委員長の問題発言で、一気に顔が熱くなった。え? なんで委員長が?

「他にも色々言わないといけないけど、時間がないから1つだけ。この後のセリフ全部忘れていいよ」

「へっ?」

委員長、本日2度目の問題発言。忘れていいなら忘れたいけど……

「わたし、アドリブなんて出来ないよ?!」

「大丈夫。たぶんだけど、自然に言葉が出ると思うから。さ、出番よ。頑張ってね」

まったく意味の分からない言葉をと共にわたしを送り出す委員長。しかも、他にも何か隠してるみたいなことを言っていた。もう何がなんだかわからなくなってきた。

混乱しっぱなしの状態で、わたしは舞台に出た。

『ちゃんと言わなくちゃ。自分の声で、自分の気持ちを』

録音した最後のセリフが流れ、舞台の照明が明るくなる。遂に、わたしがセリフを言う時が来てしまった。委員長は忘れていいと言った最後のセリフ。それを言う相手が反対側の舞台袖から出てきて――

「えっ……!」

舞台袖から現れたのは白衣をきた主人公ではなく、そう君だった。いつになく真剣な表情をした、普段より少しかっこよく見えるそう君。
慌てて舞台袖を見る。舞台監督の男子が持っているスケッチブックには『ご自由に』と書かれている。
こういうことね……。これは誰の計画だろう? そう君? 委員長? この際どっちでもいい。とにかく、これが委員長が隠してたことらしくて、わたし以外の全員が知ってるっぽいことはわかった。


「まぁ、なんだ。お前が決めろみたいなことを言ったのは俺だけどな」

そう君が喋り始める。まるで、元々決めてあるセリフのようにスラスラと。

「やっぱり、お前には俺を選んでほしい。こんな状況じゃないと、こういう言葉も言えないだらしない俺だけど、一緒にいてほしい」

そう君の目は真っ直ぐわたしを見ていた。こんな状況を作ってまで……本当に、バカなんだから。

「だらしなくったっていいよ」

そう君の姿が霞んで見える。いつの間にか、わたしは泣いていたらしい。

「だらしなくても、不真面目でも、ここが一番安心できる場所なの……!」

わたしは、そう君に抱きついた。涙がどんどん溢れてくる。エンドロールと委員長による即興のナレーションが流れ、幕が閉まっていく。大きな拍手の音が聞こえてきた。

「お前の言うとおりだったな。やっぱり『俺』じゃなくて、『俺達』じゃなきゃ成功しなかった」

「うん……。みんなのおかげだね」



後日聞かされた話。そう君は元々、主人公に代わって告白される役で、演劇が終わった直後に委員長を押しのけて、わたしに告白する予定だったという。
しかも、クラス全員が協力者で、最初に配られたプリントで計画を知らせたらしい。わたしにだけ、内容の違う別紙を用意して。つまり、プリントを刷ってきた委員長は最初の協力者。わたしを除いたクラス会議なんかも行われていたらしい。

計画外だったのは委員長のケガと、代役がわたししかいなかったこと。そのせいで計画が大きく狂い、困っていたそう君に委員長がした提案が――

「どうせなら、舞台中に告白しちゃえば? ってね。もし、かなたさんが泉君をフッたら、後ろから主人公が登場すして演技を続ける予定だったの。黙っててゴメンね」

「全然気付かなかったなぁ。みんな、全然隠してる素振り見せないもん。みんなすごい演技力だったよ」

みんなのおかげで、わたしはこれからもそう君と一緒。きっと、いつまでも……





あーあ、結局消されちゃった。せっかくの家族写真だったのに。お炊き上げされなかっただけいいけど……

「ねぇ、お父さん。さっきのはプロポーズの時の話でしょ? じゃあ、二人はいつから付き合ってたの?」

カメラの画像が消された悲しみにくれていると、こなたがそう質問した。

「しっかり覚えてるぞ。高2の文化祭の時からだ。あの時はだな――」

そう君がこなたに語ったのは、あの文化祭のわたしの知らない部分。実は3回も行われていたクラス会議や、わたしが様子を見に来た時用のダミーの練習。クラス全体での口裏合わせなど、そこまでしてたのって内容だった。

「でな、俺の告白は成功したわけだ。まあ、委員長のせいで二人とも逃げようが無くなった感じはあるがな」

「ふーん、いいクラスメイトだったんだね。ホントにアニメかゲームの中みたい」

「だろ? で、これまた委員長が最後に言ったナレーションがよかったんだな」

そうそう。結局、あのナレーション通りの未来にはならなかったけど――

「へぇ、なんて言ったの?」

二人が覚えていてくれれば、また来年に戻ってこられる――

『二人のこれからはまだ誰にもわかりません。だからこそわたし達は、二人が互いを支えあい、信じあい、いつかはそれを次へと繋ぎ、眠りに着く時まで離れない。そんな未来を信じています』

そう君が眠りに着くまで、わたしは二人を見守りながら待ってる。

あの時のように、また抱き合える日を……
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