「旅行行こうよ旅行!」
こなたがこんなこと言うなんて珍しいな。
よーしお父さん娘の為に頑張っちゃうぞー!
「たまには旅行もいいかもな……この原稿が終わったらパーッと旅行行くか!」
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「ゆいちゃん、運転手頼むよ」
「ゆい姉さんにまかしとけ!熱海までかっ飛ばして行くからね!」
まあ、熱海ぐらいが適当だろ。同じ埼玉在住の永遠の五歳児も熱海行ってるし。
オトナ帝国のヒロシはカッコ良かったなー、あの台詞俺も言ってみた……
「お父さん!なにボーっとしてるの?行くよ」
いやー俺って幸せだなー。
軽自動車に四人乗りでこなたにゆーちゃんにゆいちゃんそして俺。
これなんてハーレム?
最高だよ最高だぁ。
渋滞に巻き込まれてなければな。
「全然進まない……」
こなた、コミケの行列を思い出せ。こんなもんじゃないだろ。
「温泉…間に合うかな…?」
ゆーちゃん、大丈夫だよ、温泉は逃げないからな。
「………………チッ」
ゆいちゃん、怒らない怒らない。
結局熱海に着いたのは夕方だった。え?海は?水着のお姉さんは?
さて、女性陣はみんなして風呂か。
さすがは俺の予約した旅館、なかなかの質だ。
あー今頃三人して露天風呂で何話てんのかな……
『ゆい姉さんは胸大きくていいなー』
『ははは!こなたがグラマラスになったらゆい姉さんびっくりだ!』
『私の体で赤ちゃん産めるのかな……』
『ゆーちゃん気が早いよ!』
なーんてな……
あれ、こんなことしてる俺ってすげえ寂しい大人だな……
旅館のきれいに磨かれた窓から望む星空には月が輝いていた。
『人間って何の為に生きてるのかしらね…』
短かった家族三人の頃のかなたの一言を、ふと思い出した。
人間って何の為に生きているのか。
そんなの決まってるじゃないか。少なくとも俺にとっては。
俺はかなたの為に、そしてかなたが遺してくれた愛娘こなたの為に生きてるんだ。
うわ、青臭い。
「臭いよな……」
それでも俺はいつだって青臭くありたいもんだな。
青い春を捨てきれてないあたり、俺もまだどっかガキなのかもな。
夜空にそっと呟いた俺の『臭いよな…』は誰の耳に届くこともなく消えた。
おしまい
最終更新:2007年10月05日 00:41