ID:i+U8J76m0氏:親父達の挽歌

「そうじろう?ご飯できましたよ?」
眠る彼に優しく囁きかける。生業故、彼は生活が不規則だ。
不本意だったが、食事は共にとりたいと言う彼の願いに私は従う。
「ふわぁぁお…おはよう、ただお。今日も美味しそうだな」
これといって特別な物などない、極普通の朝食。そうじろうはそれでも開口一番にそう言ってくれる。
「まだ寝てた方が良いんじゃないですか?」
「んあぁ、少しでもただおと一緒にいたいんだ。…つれないこと言わないでくれよ…」
半目の彼、泉そうじろう。私と共に家庭を捨てた咎人。ここに来てからもう半月になる。
二人の決意はお互いの家庭を崩壊させ、私は職を失った。今は彼に養ってもらっている状態だ。
この年で再就職は難しい。話には聞く言葉。私はそれを今、ひしひしと実感している。
「すまないね。私がふがいないばかりに…」
何度同じ言葉を吐いただろう。その都度彼は
「気にするなって。気長に待てばいいさ」
彼に甘えてはいられない。不透明な未来、いつお互い働けなくなるかわからない。蓄えは必要不可欠だった。
「それじゃあ、私は」
「おぅ、いってら~」
私は今日もハローワークへ向かう。
男二人、まだまだこれからだ。


柊家の朝、台所に小柄な少女が立っていた。
「こなたちゃん、そこまでしてくれなくていいのよ?」
少々呆れ気味のみき。この家に来てからこなたひっきりなしに働いていた。
「おばさん、おはようございます。毎日お世話になってるんで、これくらいは…」
これくらい、家庭内の仕事の大半をこなたは自発的に行っていた。
「色々気を使ってくれるのは嬉しいけど、もうこなたちゃんは柊家の一員なんだし、もっと気楽にしてくれていいのよ?」
「…はい」柊家の一員、それは泉の姓を棄てる様な気がして、こなたは複雑な気分になった。
「おはよう、お母さん。おっす、こなた。また朝ご飯作ったんだ。…お母さんこなたをコキ使いすぎ」
階段からかがみが降りてきた。くんくんと鼻を鳴らすかがみ。
「違うよ。私が勝手に…」
「でも、こなたってホント料理上手いわよね。お母さん大丈夫?」
「私も負けてられないわね♪」
うつ向きこなたは赤面していた。それをからかうかがみ。
「ほらほら、それくらいにして、後は私がするから、二人はみんなを起こしてきて」「ほ~い」「はい」
階段をかけ上がる二人。「つかさはまだ寝てるかな…」
「寝てるわね。絶対。もう、ぶったたいても良いから。こなた、格闘術でも使ったら?」
かがみはこなたに組み技の真似をしかけた。「ははははは、こう!?」
逆にあっさりと組ませられるかがみ。「痛たたたたたた!わ、私にかけるな!!ギブ!ギブ!!」
「…ふむ、んじゃま、トントン、つかさ、朝だよ~」
「そんなんじゃ駄目よ。ガチャ、こら!!つかさ、起きろ!!遅刻するぞ!!」
寝返りをうつつかさ。「むにゃむにゃ…あと5分…」
「泉師範、よろしくお願いします」
「うむ。…せりゃ」つかさの腕に技が決まる。
「痛!?何!?あ…こなちゃん?痛い、痛いよ、こなちゃん!!」
「やっと目が覚めたわね。つかさ、ご飯よ?ご飯」
新しい朝が来た。希望?の朝が…。


烏がけたたましく鳴いている。いやな天気だ。
神主がパン工場勤めになるとは、さしもの私も思って見なかった。
夕飯の買い物を終え、私は今まさにアパートのドアに手をかけようとしていた。
「お帰り、お父さん」
ふと背後から聞き慣れた声が聞こえた。こんなへんぴな場所まで…人違い、そう思ってノブを握る。
「無視しないで。お父さん」
間違いであってほしかった。しかし、その声を無視しても、また次に同じ声がかけられるだろう。
私は恐る恐る振り返った。
「久しぶりだね、お父さん」
案の定、そこには我が娘、まつりが立っていた。久しぶりに見たその顔は少し痩せたかの様に見えた。
「…お父さん…少し、良い?」
まつりが何をしにきたのか、大方の予想はつく。私をつれて家に帰る。以外ない。
「…あぁ…ここじゃ、なんだから…」
この状況をそうじろうに知られたくない。私は娘を誘って街の喫茶店に入った。
お互い珈琲を頼む。気まずい沈黙。耐えられず、私は声をかけた。
「よくここがわかったね。…そっちはどうだい?」
そんな事言えた義理ではない。火に油を注ぐような言葉だと、理解していてもそれしか思い浮かばなかった。
「…大変よ?今までにないくらい。…お父さん知らないでしょ?つかさ、妊娠したんだよ?」
「!?」
思いもよらない告白だった。

「相手は同じクラスの男の子。つかさは産むって言ってるけど、堕ろさすわよ」
「…」
「開いた口が塞がらない?そりゃそうよね、あの『つかさ』が、よ?最近学校も休んでるみたいだし」
「私のせい…だよな」
「当然じゃない!それにね、かがみが万引きで捕まったわ!お母さんも体壊しちゃうし
 今うちをきりもりしてるの、誰だかわかる?こなたちゃんよ!?うちの子じゃないのに、そこまでしなくていいのに
 『お世話になってるから』って!『みんな大変だから』って!あの子一人で頑張ってる!!お父さん、父親としての自覚、あるの!?」
「すまなかった…」
「すまないなんてもんじゃない!お父さんのワガママでどれだけうちが辛い思いしてるか、考えた事、あるの!?」
言葉がでない。迷惑をかけていた、それは承知していた。
その償いにと仕送も欠かさず行っていた。まさかそんな事になっていたとは。
「お父さん、私と帰って」
「…」
「それにおじさんも!こなちゃん、そのうち倒れちゃうわよ!?」
「…少し…」
「ん?」
「…少し、考えさせてくれ。夜、また電話する」
「ばかぁ!!!」
「!?」
まつりの平手が飛んだ。店内の視線が私達に集まる。
「考える時間なんて…あるわけ…ないじゃない…」
遂にまつりは泣き出してしまった。
なだめようとする私の手を払い、まつりは嗚咽を漏らす。
突き刺さる周りの視線が痛い。
「もぅ、もぅやだよぉ…」
ふと、脳裏に潮時と言う言葉が浮かんだ。
「…まつり、今はまだ決断できない。だけど、すぐに答えをだすから…だから」
拳でテーブルを殴り、まつりは店を飛び出してしまった。
すぐに私も店を出て、まつりを探し回ったが、見つける事はできなかった。
「ただいま」ドアを開けると、そこにそうじろうが立ってた。
「お帰り。どこか行っていたのかい?コレ、ひっかけてあったけど…」
そうじろうは買い物袋を持っていた。まつりと出る前ドアにぶら下げていた物だった。
「…よ、用事を思い出してね。すぐに夕飯の準備するから…」
「…ただお」
「?」
「さっき、娘さんと会ってたんだろ?」
「…」
「すまない。仕事の打ち合わせで、俺もあそこにいたんだ。
 最初は只のちわ喧嘩かと思ったんだが、ちらっと見たら、さ。それに、コレ」
住所のない、宛名だけが書かれた封筒。
「帰って来た時に偶然会っちゃってね。そこで渡されたんだ」
「まつり…に?」
「ああ」
「まつりは…」
「これだけ渡してすぐに…。凄い睨まれたよw」
「そう…ですか」

手紙の内容は、それぞれ家に戻れというものと近状報告だった。
まつりの言葉通り、つかさ、かがみ、みき、そしてこなたちゃんの事情等が淡々と記されていた。
「潮時…かもしれないな」
そうじろうが呟いた。潮時、あの時頭をよぎった言葉だ。
「まさかの事態、だよ。これは。奥さん、娘さん達の事もある…」
「…」「俺達の逃避行もこれまでだ」
「…そう…ですよね」
私のワガママが引き起こした悲劇。彼を愛してしまった。それ故の悲劇。
家庭を捨て、彼との愛に走って、無くしたモノは計り知れず。
「準備、しますね」「俺も、だな」
それから柊の家に着いたのは、夜中に入る手前だった。
私達を待ち構えていたのは憤怒と悲観に満ちた家族の面々。まつりとかがみ、つかさだった。
「今まで、すまなかった」土下座する私とそうじろう。
「今更何しにきてんのよ!」と、かがみ。「帰ってきたんだ…」つかさ。
「こなたちゃん、倒れたわよ」
とっさに頭を上げるそうじろう。
「アルバイトの帰り、道端で急にね。今は安静にしてるけど」
床の間の戸を開けると、いのりがみきとこなたちゃんの看病をしていた。
「お帰り。原因は疲労ね。二人とも注射してもらったから」
そうじろうは二人に平謝り、私もそうするしかできなかった。
「お父さん、私、ママになるんだよ?いいよね?」
不意につかさが口を開いた。
「つ、つかさ…それは…」
いきなりの言葉に言うべきものを失ってしまった。
「私は子供を捨てないよ?誰かさんと違ってね♪あはははは~」
つかさは階段をかけて行ってしまった。何も言い返せない自分が情けなく腹立たしい。
「今日はもう遅いから、続きは明日で、ね?」いのりに促され、私達は久方ぶりにこの家で床についた。
翌朝、良い香りに私は目を覚ました。それと同時に人の気配を感じた。
「起きたの?ご飯よ、ご飯」かがみだった。言葉がいやに刺々しい。
「おはよう…」既に家族とそうじろう、こなたちゃんは席についていた。
「遅すぎよ、いつまで寝てんの!?」まつりの声が飛ぶ。
「すまないね…」
あんな事があった後だ、当然ながら肩身が狭い。
食事を終え、娘達は学校へ。私達は家族会議へと突入した。
「で、どうすんのよ?これから」切り出したのはまつりだった。
「お父さんとおじさん、これからも付き合うつもり?」
「今までの事は心から謝ります。俺は金輪際、柊家とは関わらないつもりでおります」そうじろうの弁。
「で、お父さんは?」「私も…彼と同じで、彼とは二度と、会わないようにする…」
心が揺らぐせいか、言葉の最後が萎んでしまう。
「わかりました。これから二人は絶対会わない、と言うことで」と、みきが言葉を強めて言う。
「その代わり、こなたは、こなたとの付き合いだけは続けさせてやってくれないでしょうか?
 あいつ、友達がいなくて、かがみちゃん達がいなくなっちゃうと、ほんと、一人なんです。だから、だから…」
みんなにすがるそうじろう。
「まぁ、それくらいだったら。こなたちゃん、良い子だし。ね?」その意見には誰もが同意した。
こうして私とそうじろうの関係は終焉を迎えた。
月日が流れ、私達家族の関係は順調に回復している。
~あれから私とそうじろうは会っていない~
『今度の週末、呑みに行きませんか?ーただお』送信→
→受信『喜んで!!ーそうじろう』
~表だって、は~

親父達の挽歌・完




番外編 ~寿司~

ただお「今日は、君の握ったお寿司を食べたい」
そうじろう「そうか?俺の握りは絶品だぞ?ほら…ほら…」
ただお「んんん…、違…それは、それは私の、お稲荷さん…はぁん!」
そうじろう「寿司を握る前に、こっちをいただいちゃおうかな…」
ただお「ひゃあああああ!?…あ、やめ…んあぁ…あ、あれ?」
そうじろう「やっぱりおあずけだ。夜までの辛抱!!よしっ、寿司の準備、するぞ!」
ただお「ちょ、そうじろうの意地悪ぅ~」
ツールボックス

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