ID:2Kh89rCE0氏:流星群の夜

今日あたりペルセウス流星群が極大を迎えるというので、深夜二時頃家を出た。
本当はつかさと一緒に見る予定だったけど、部屋へ行ったらつかさは熟睡してたから、独りで見る事にしたのだ。

玄関から出てすぐに空を見上げたけど、流星群はおろか星すらほとんど見えない。
最初は、室内の電灯に慣れた目には星の光が微か過ぎるからだと思った。
でもしばらく空を見ていて、そうではなく結構雲が出てるのが原因らしいと気付いた。
これでは今日流星群を見るのは無理だ、そう思って家に戻ろうとした。
でも真夏の夜の湿った空気は思ったより快適で、クーラーの効いた部屋にいるよりなんだか気分が良かったので、もう少し外にいる事にした。
足はこなたの家の方に向いていた。別に家まで行こうと思ったわけじゃないけど。
遠いしね。ただそっちの方角に行きたかっただけの話。

時々空を見上げながら、これで横に恋人でもいればもっともっと楽しいんだろうな、
と思いながら歩く。たまに雲の切れ間に星が覗くけど、流星はひとつも見えない。

道の先に懐中電灯の光があるのに気付いた。他にも流星群をみようとしている人がいるのだろうか。
仲間を見つけたような気分。
流星群を探すのを中断し、ゆらゆら揺れる懐中電灯の光を見つめる。
人影が徐々に顕わになってくる。
背の低い、髪の長い小柄な女の子だ。
まだ何十メートルも離れてるのに、私はその子に呼びかけた。

「こなた」

懐中電灯の光が一瞬停止し、また前と同じペースで揺れながらこちらに向かってくる。
私は満ち足りた気分でこなたを待った。
こなたは開口一番、あきれたような口調で言った。

「かがみん、年頃の子がこんな夜中に一人で歩いてちゃあぶないよ?」
「……それはあんたも同じ事でしょ」
「あたしは格闘技経験者だから大丈夫だよ」
「あ、そ。ところで……」
私は期待を込めて訊ねた。

「どうしてこんな所にいるの?」
「別にー……ただ、歩いてたら自然と足がかがみんの家の方に向いたんだよ」
「そう」
口元がほころぶのを感じながら、私は出来るだけさりげなく相槌を打った。

ふと気付くと、こなたが私の顔を見ていた。今度は顔が熱くなるのを感じながら、私は言った。
「な、何よ?」
「うふふ」
こなたはいつものような調子で笑ったが、いつもと違ってからかうような表情じゃなかった。
しばらく無言で、私達は目的地もなく歩いた。いつも一緒に歩いてる時よりもずっと近く、肩が触れ合うくらいの距離を保って。

私は夜空を指さす。
「見えないね」
「うん」
「でも良かった」
「なにが?」
私はわざとこなたの肩に肩を軽くぶつけて言った。
「今夜外に出て」
こなたは下を向いて、小さな声で「あたしも」と呟いた。


携帯を見ると、もう三時半を回っていた。空は相変わらず雲に覆われている。
「今日はもう駄目かもね」
「だね」
「あんた帰りはまた歩かなきゃならないんだし、大変でしょ。今日はもううちに来たら?」
こなたはちょっと笑って、私の腕を取った。
「そうだね、かがみんにお持ち帰りされようかなあ」
「ば……何馬鹿な事言ってんのよ、もう……」
私の声には力がない。こなたが身体を預けてきたからだ。

今夜、この街で流星群は見えなかった。
でも、私にとって今夜は「流星群の夜」としてずっと記憶に残る事になるだろう。

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最終更新:2007年08月13日 14:10
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