無人島奇潭

ここに流れ付いてどれくらいたったのだろう。
本来なら私達はみゆきの別荘のある八丈島にいるはずだった。
ここがどこなのかわからない。唯言えることは、私達の見知らぬ島、恐らく、無人島。
私達がまず目にしたのは想像を絶する光景だった。目の前に広がる弱肉強食の世界。
野獣が野獣を喰らい、更に大きな野獣がそれを喰らう。
どの生物も見たことのない、みゆきの言葉を借りれば、現代には存在しない古生物、或いはそれに酷似した生物。
確かに恐竜に似た生物がアンモナイトに似た生物を食していた。
空を飛ぶ生物も鳥もいるが、翼竜に似たのもいる。
ここはつまり、ロストワールドと言ったところだろうかか。
そうこうしているうちに、洞窟からつかさの声が聞こえてきた。
「大丈夫?つかさ。まだ苦しい?」ここにきてからみんなの調子がおかしい。
そしてこの前、遂につかさが倒れてしまった。
吐き気をもよおした後、体が痺れると言い、そのまま今に至る。
かく言う私も腹の調子が悪い。私はつかさの看病、みゆきは薬草の調達、こなたは狩猟。
それぞれの分担を持って、今、ここにくらしている。


「ただいま。つかさの具合いはどう?」こなたが帰ってきた。
腕にこれまた奇怪な生物を抱えている。正直食欲の減退する容姿だ。
「うん。熱は引いた。今は落ち着いてる」
「そっか。みゆきさんのお陰…って、かがみもか。つかさにつきっきりだもんね。どっこらしょういち」
こなたは出、帰り、毎度の様に私達を気遣う。
ここにきてこなたは少し優しくなった気がする。あいつも調子良くないくせに。
「みゆきももう少しで帰るだろうから、そしたらご飯にしよ」そして、あまり時間を取らずにみゆきが帰ってきた。
「ただいま戻りました。この袋のは擦り潰して傷薬に。こちらのは茹でて出た汁が胃腸薬になります」
「ありがと、みゆき。それにしても凄いわね。その知識」
「色々調べましたから。役に立てて光栄です」現に薬に限らず、あらゆる点で私達はみゆきに助けてもらっている。
みゆきがいなければ、私達は初日で全滅していたかも知れないのだ。
「つかささんのお加減は…」「うん。悪くないよ。みゆきのお陰」「いえ、そんな」
照れるみゆき、うつ向いているが、顔は明らかに赤面していた。
「みんな~ご飯できたよ~」こなたが先程の生物を捌いて持ってきた。今日はそれの焼き物と、スープだ。
「つかさ、食べられる?」「うん。ありがとう…お姉ちゃん…」このまま好調に向かっていれば良いのだが…。


みゆきの薬が効を成したのか、つかさの具合いは次第に良くなっていった。
つかさだけじゃない。私もこなたもみゆきも、みんなの体調が回復していた。
そんなある日、私達4人はまとまって探索に出ることにした。よくよく考えてみれば、久しぶりの集団行動だ。
猟師を兼ねたこなたを筆頭に、私、後ろに脅えたつかさ、最後はみゆき、こなたはまるでRPGだと笑っていたが、
何が起るかわからない旅路、私は苦笑いしかできないでいた。
鬱蒼とした原生林を抜けると、その先に沼が存在した。この暑さだ、少し涼みたいと思った矢先、こなたが沼に枯れ木を投げた。
その枯れ木に何かが飛び付いた。大きな魚だろうか、何となく鰐にも見えたが…。
「泳いだらあの様に…かがみんなんか美味しそうだから、パク!」と、おどけるこなた。
こなたの行動に感謝せねばなるまい。つかさは既に涙ぐんでいた。
「そろそろ戻りませんと…」もう少し状況を知りたかったが、日の向きがそれは危険だと教えてくれていた。


洞窟に戻って、私達は驚愕した。そこが無惨にも荒らされていたのだ。
そして、犯人なのか、洞窟から逃げ去る何かを目撃した。毛むくじゃらの猿に似た何かだ。
私達は何度かそいつを目撃していた。島に着いた当初からそいつらは島のあちらこちらにいたのだ。
「もしかしたら、あの生物はここの原住民なのかも知れません」みゆきが呟いた。
「彼等にはある種の、人間に似た思考、社会性がある様に感じられます」
「確に、人間みたいに行動するし、槍とかの道具も使えるみたいだね…」
私はふと、遥か昔に生きた原始人を思い出していた。
「今回の件を除けば、私達に危害を与えたことはありません。ですが」
「これはちょっと…危ないかもね」
結局私達は引越を決意した。荒らされた物は、食料等言うに及ばず、持って来た物全て。
洞窟内はゴミ箱の様に荒れていた。


新居に住み初めて少し日が経った頃、外から聞き慣れた音が聞こえてきた。
これは、祭りでよく聞く、太鼓?規則的に鳴らされるその音は、まさに太鼓の音だ。
神事には事欠かせない太鼓、それにまず釣られたのはつかさだった。
「ねぇ、太鼓だよ!この島、誰かいるんだよ!」
防壁にと敷き積めた岩を外し、つかさは制止も聞かず飛び出してしまった。
幸いつかさはすぐに見付かったが、そこは得も知れぬ場所だった。
「こんな所あったんだ…」つかさがそれを見上げる。
巨大な門、に似た建造物。辺りは木や岩で柵が作られ、仕切りの様でもあった。
「何よ、これ」「この先から聞こえるね」
「あ、皆さん、上!」
みゆきが指差す先には、私達の家を襲ったあいつらがいた。
あいつらも私達を認め、何かを相談している。途端、そいつらが私達に矢を放ってきた。
容赦のない襲撃に、つかさとこなたが射たれてしまった。
全然攻撃を止めようとしない姿勢は、憤怒なのか、ヤツ等なりの威嚇なのか、私達は全力でそこを後にした。
みゆきの用意した薬草で二人の傷を静める。こなたは腕を。つかさは足をやられていた。
激痛に二人の顔が淀む。二人共汗が止まらず、四六時中うめき、もがいていた。
「どうしよう!?どうしよう!?みゆき!!」
「落ち着いて!これはもしかしたら、毒、でしょうか?まさか…」
確かに二人の患部は尋常ならざる色をしていた。
「まだ間に合うでしょうか?かがみさん!今から薬を作り直します!手伝って!」
みゆきに言われるまま、私は薬の再調合に取り掛かった。
もしかしたら…そう考えると涙が止まらなかったがその度にみゆきに叱られ、励まされた。
私は、弱すぎる。


みゆきの腕は神がかっていた。
あれから二人で夜通しで薬を作り、二人に塗り、飲ませたのだが痛みは次第に和らぎ、そして傷も回復していった。
みゆきの言葉通り、副作用で二人の髪は少しずつだが抜けていた。
流石に二人ともその事に落胆の色を隠せなかったが、命あっての物種と知るや、今はお互い笑い合っている。
みゆきはただのWikiではない。そう実感せずにはいられなかった。世界中のどんな辞典より正確だろう。
あくる日、再び太鼓の音が響いた。先の件で私達は若干のトラウマになっていた。
現につかさは耳を塞ぎ必死にそれを堪えている。
猟に出ていたみゆきが帰ってきた。今は私とみゆきが交代で猟に出ている。
悔しいながら、お互いこなたには足元にも及ばない。
「かがみさん、彼等、ですが…」彼等、つまり私達を襲撃した猿モドキだ。
「彼等にも、身分、らしきものがある様なんです」「身分?」
「はい。さっき彼等の行動を見ていたのですが、奇形、病気等、体に疾患のある者は門の外に棄てられるらしく、その後…」
「その後?」
「森から現れた動物達の餌に…」
「うげっ!」
あれからそこには行っていないが、門の辺りに骨が散乱していたのは覚えていた。
「あの太鼓はつまり、餌の時間を知らせる音だったのではないでしょうか?」
だとしたら、あの襲撃は私達を逃がす為の、ふと思ったが、それはないか。二人もやられているのだから。
「それでは、今からお食事にしますね?」見てくれの悪い生物が、みんなの力でご馳走にもなる。
味も良いのだからまた凄い。
私達はいつになったら帰れるのか。今日も壁に正の字ができあがった。


「えっほ!えっほ!」
すっかり、でもないが、体の回復したこなたは日々運動をしている。
ヤツ等にやられた事を根に持っている様で、私相手に格闘技の実践。こなたさんマジ痛いです…。
つかさも日常生活には問題がないらしく、今はここの料理番をしている。
まただ、またあの音が聞こえる。嫌な事ばかり思い出させる。つかさは今でも耐えがたいようで、反射的に手を耳に当てている。
しばらく音は止まない、はずだが…今日は違った。
代わりに何かの鳴き声が聞こえる。一つではない、複数の。何匹もの獣が吠えている、そんな感じだ。
今まではこんな事なかったのに。
「ちょっと!みんな!見て!」こなたが外から呼び掛けてくる。
「こな…ちゃん?」つかさは口をぱくぱくしている。
「なんでしょう…初めてみますね…」唖然と見上げるみゆき。
「何何?なんかあった…!!」今まで見た事のない巨大な生物が森を歩んでいた。木々を薙倒し、進む姿は、まるで怪獣。
怪獣が森の中を歩いている。ふと何かが崩れる音がした。轟音を響かせ、土煙が上がっていく。
確かあっちの方向は…、勇む私をつかさが抑えた。「お姉ちゃん、危ないよ。行っちゃ駄目だよ」
つかさも、いや、みんなアレがどこにいたのか気付いたのだろう。みんなの足が震えていた。
数日後、私は何が起きたのか知りたくて、みゆきとつかさを残してそこに足を向かわせた。
「やあ、かがみん」門の袂にこなたがいた。「ばれたらみゆきに叱られるわよ?」「ははは。お互い様だね」
門は見事に崩れ去り、瓦礫と化していた。
その奥には
「街があったんだね…かがみん」
街、そう。私達のそれとは同じではないが、確かにそこには街の面影があった。
道があり建物が作られ、多分ヤツ等なりの生活があったのだ。
「入ってみる?」見て回りたい気がしたが、地面に転がるヤツ等の死体がその気を減退させた。しかし、
「早くかがみんもおいでよ!」こなたは遠慮なしにつき進む。
「ちょ、待ちなさいよ!」私はそれ等を見ないように、こなたを追った。
「あのでかいヤツがやったのかな」
「かがみ、あの時行ってたらまきぞい喰らってたかもしれないね」
この破壊され様、瓦礫とヤツ等の死体。もし私が来てたらと思うとぞっとした。
それにしても広い。生きたヤツ等がどこにも見当たらない。
ヤツ等は動物達の餌でもあったわけだから…「かがみんも食べられてたかもね。プ」
無性に腹が立ったので、こなたの頭頂に拳を叩き込んでやった。
「痛たたたたた、酷いよ、かがみん…。あ、あーかがみん!ほら!あそこ!海!海だよ!」
こなたは走って行ってしまった。あの先に見えるのは…海だ!海が見える!
こなたの追っている物は、間違いなく海と、歪な形をした船だった。
帰れる!
私達、帰れるんだ!


私は走った。走って走って走りまくった。「こなた!早く早く!」こなたの事情も知らないで。
「待ってよ…かがみん…」苦しそうなこなたの声にも耳を貸さずに。
私は気付かなかった。途中からこなたがついてこなかった事を。
洞窟について迷わず叫んでいた。「みんな!海!海だよ!帰れるんだよ!」
でも、そこから返事は聞こえてこなかった。私の声が響くだけ。
「みんな?…どうしたの?…?…ひっ!?」
目を覆いたくなる光景。まさにそれだ。入って早々、赤い絨毯の中でつかさが倒れていた。
胴と首が離れ、所々食いちぎられて。傍らに落ちた血の付いた竹槍が、その状況を物語っていた。
「つかさ…嘘でしょ?…つかさ!つかさ!つかさ!」
恐る恐るつかさの頭を抱いて、私は号泣した。
「かがみ…さん…、すいま…せん…お役に…立てませんで…」
みゆきだ。みゆきが岩盤に持たれて私に呟いている。
「みゆき!みゆき!」みゆきの肩を抱いて初めて気が付いた。
みゆきの、右腕がない。それだけじゃない。右の脇も真っ赤に染まっていて、押さえる左手から、膓がもれていた。
「すいません…つかささんを…守れま…」
「みゆ…き?」みゆきは私に持たれかかって、そのまま動かなくなってしまった。
「う、嘘だ!みんなで、みんなで帰ろうよ?ね?冗談はやめてさ…みんなで帰ろうよぉ…」
みんな、死んでしまった?
今まで一緒に生きてきたみんなが?
こなたも帰ってこない。
私は馬鹿だ、救い様のない馬鹿だ、勝手に飛び出して、みんなを見殺しにして…。
もう、生きていたくない。私も死ぬよ。私は竹槍を握って、お腹を突こうとした。
でも、できない。死にたいのに、死ねない。今度は情けなくて涙が溢れてきた。
「…がみ…がが…み…」外から声が聞こえる。
「かがみ…みんな…」こなただ。こなたが帰ってきた!?
「こなた!?」私は飛び出した。こなたはそこにいた。全身血だらけで。
「みんなは…」洞窟を見てこなたも絶叫した。
「こなたぁ、みんな、みんな、死んじゃったよぉ、私も、私も殺してよぉ、こなたぁ」
「かがみは…死んじゃダメ…だよ」「だけど、だけど、私、何の役にも立てなかった!ただの足手まといでしかなかった!」
こなたの肩で泣きわめく私に、平手打ちが食らわされた。
「あたしは…まだ、生きる…よ。それに、あたしを治したの、かがみじゃん。覚えてるよ?」血まみれの手で私の頬にふれる。
「ああ、ヤツ等に襲われてね。でも大丈夫。倒したから…」そう言って力なく力瘤をみせるこなた。
「今はさ、二人を弔って、それから、帰ろ?」
それから洞窟の先に穴を掘って、つかさとみゆきを埋葬した。
二人とも泣いた。涙が枯れるまで泣き散らした。
遂に島を離れる。地獄からの生還。……たった二人の生き残り。
二人の事を考え、口にする度に、こなたの平手が飛ぶ。こなたは泣きながら私を叩く。
「今を、これからを考えなきゃ」、ぶつ度にこなたは言った。


「それじゃ、出すよ~」こなたが船と岸を結ぶ紐をほどいた。「よっこらそうじろう!」こなたが笑う。
「笑えないけどさ、せめて二人の分も、あっ、あたしも同じだ…。かがみ、ぶって?」
私を元気付けようとしてくれている。私もそれに答えて、こなたの頭に拳を叩き込む。
「痛たたたたたた…加減してよ…かがみぃ」
私達は海に向かって花束を投げた。
どれくらい漂ったのか、もう島が遠く見えて、まるで何もなかったみたい。
気が付いたら私達は眠っていた。そしてどこかの島に流れ付いていた。
「かがみ…かがみ…あれ…」こなたは何かを指差した。
その先にあったのは、毛むくじゃらの、アイツ等の姿だった…。


ー無人島奇潭・完ー











船を見つけた後、私が少しでも冷静を保っていられたら……
私とこなたの不在にみゆきが気づき、周囲を警戒していたのなら……
きっと、悪夢が現実に這い出てくることはなかっただろう
これは、そんな「もしも」に「もしも」が重なった話





「こなた、戻ろう!」私はこなたと一緒に走った。ここから出られる。こんな嬉しいことはない。
「はぁ…はぁ…みんな!!海だよ!帰れるよ!!」
「門の先に…海があって、船があるの!みんな!それに乗って早く!」
息を切らす私達。何を言っていたのか、頭の中がこんがらがって上手く言葉に出せなかった気がする。
「え?帰れるの?ここから出られるの!?」「本当ですか!?かがみさん、こなたさん!」
案の定二人も興奮していた。私達は街の話を二人に聞かせた。
「それでは、早く支度しないといけませんね」みゆきは携帯用の薬の準備、「えーと、火、お鍋!」つかさはお弁当の準備。
プロの手裁きは驚くほど早かった。
忘れ物、と言っても、流れ付いた時点で何もなかったに等しかったので、持って行く物は二人のこしらえた薬と弁当。
あとは「助かる」と信じる事。
門の周辺は相変わらずの地獄だった。今は何もいない。行くなら今だ。ん?
「お姉ちゃん…怖いよぉ…」つかさが私の裾を掴んでいた。
「大丈夫だから。怖かったらずっと上向いてな」空はこの日を讚えるかのように晴れ渡っていた。
「よし、みんないるね」あの時の順列で私達はそこを突っ切る。
途中、瓦礫の隙間からうごめくヤツ等の腕やらが見えたが、敢えて無視し、目標を目指す。
時折、声をかけ合いみんなの存在を確認する。つかさは袖を掴んでいるので声がなくともわかる。
「みゆき、いる?」「もちろんです!」これで安心できる。
そしてついに来るべき場所へ着いた。
「本当だ、船だ、船があるよ?ゆきちゃん」
「ええ、でもどうやって…」確に漕ぐ物がそれには付いていなかった。しかし、こなたは見付けた。
「これ、足で漕ぐんじゃない?ほら、これ。アヒルのであるじゃん」「あ…ホントだ。ってアレ、白鳥じゃないのか?」
「1、2、3、4、5、6…みんな乗れるね!」「それでは、漕ぎ手は交代と言うことで…」
みんな乗り込み、岸と船を繋ぐ紐をほどいて、遂に私達は脱出した。
全員無事、感無量だ。今ならこれまでの事が笑い話にすらできる気がする。
「えっほ!えっほ!ふぃー疲れた。つかさ交代!」
「早いな、おい。ちょっと、気を付けなさいよ?海の上なんだから!」
「かがみさん?私も替わりますよ?」「お、サンキュ~」「あは、面白~い」
こうして不思議な島での生活は終りを告げた。
私達はいつの間にか眠りに付き、気が付いたら見知らぬ港にいた。外人だらけの、異国の地。
みゆきの外国語を頼りに、藁をもすがる思いでその地をさ迷った挙句、遂に日本行きの船に乗ることができた。
やっと帰れる!そう思ったのも束の間。船の行き着いた先は日本ではなかった。
言い間違い?聞き間違い?
再びみゆきの奮闘が始まった。そして様々な出会いと別れを繰り返し、1年後。
遂に私達は日本に帰ってきたのである。
「留年だね…」「やっちゃったわね…」「あ、はははは」「お父さん、お母さん、ごめんなさい…」
生きていれば色んな事がある!…よね!?


ー無人島奇潭・ハッピーエンド版?完ー 
ツールボックス

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