ID:MD4bR4M > O氏:みなみ!みなみ!ライフ!

「…………ない」
私のげた箱にはある筈の靴がなかった。
わかっている。陰険なイジメだ。
昔から言われてきた。協調性がないと。根暗だと。
「みなみちゃん?どうしたの?早く帰ろうよ?」
いけない。
「……!なんでもない」
急いでげた箱の扉をしめ、顔だけは平常心を保って返したつもりだった。
「……何かあったの?」
『なんでもない!』とムキになって怒鳴ってしまった。
怯えたような目をしてゆたかが引き下がった。
「い、行こうよ!岩崎さんなんかあれみたいだから……」
空気を察してか、田村さんがゆたかを外へ連れ出した。
何をしているんだ私は……
心配させたくなくて強がってこのザマだ。やはり私には足りないんだ。


独りで校内を靴を探してさまよう姿ははたからみたら滑稽だろう。
嘲笑があちこちから聞こえる気がする。被害妄想だ……きっとそうだ……

急いでゆたかに謝れば良かったのかもしれない。でも、あの怯えた目が忘れられない。
私がまた近づいても逃げられるんじゃないか。
そう考えるだけでカラダがこわばる。胸の奥が締めつけられる。
怖い。友達を失うのが怖い。
胸の震えが足に伝わり膝が校舎裏のアスファルトに折れる。
俯いたら視界がぼやけてきた。涙腺が……はちきれそうだ……

……一つの人影が私の前にある?
「岩崎さん?話しようよ?」
桜色のハンカチ
差し出したのは長い黒髪に銀縁の丸眼鏡の……
「……田村さん」


「一人でかかえこむのはよくないよ」
私達は屋上に登り橙の日を二人で眺めていた。
吹く風に髪がなびく。
「私は……よくわからない。どこまで友達に頼っていいのか……」

「じゃんじゃん頼ってくれてもいいよ?岩崎さんはもっと他人に頼ってもいいんじゃないかな?」

「……迷惑じゃないの?」

「多少の迷惑でも許せるのが友達じゃないの?それに私達三人は………

友達だよ?」

「……ありがとう……ありがとう……ありがとう…」
私に優しく触れた田村さんの手からは、鉛筆のにおいがした。どこか落ち着く、ヌクモリあるにおい。
「田村さん。私ゆたかに謝ってくる」

「まだ駅に居るよ。頑張ってね。岩崎さん」


田村さんから靴を借りて学校を飛び出した。駅に居てほしい。

最悪だ。
電車は非情にも駅に止まり、発信していた。私の頭の中には鉄の車輪が線路を叩く音だけが響いた。




……いた。
駅のホームにいる小学生みたいに小さな彼女。
五十メートル走より速く足を動かして駆け寄った。
「……ゆたか!」

こちらに気付いたゆたかは目を見開いた。フラッシュバックする怯えた目。
ダメ。ここで引いちゃダメ。

「ゆたか……さっきはごめ……」
言い切ることなく、私の言葉は遮られた。
「つらかったよね……もう大丈夫だよ……みなみちゃん」
精一杯背伸びして小さな手で私の頭を撫でるゆたか。
なんで……なんでみんなこんなに優しいの……


涙腺は決壊した。

自分よりずいぶん小さなカラダにしがみつき、子供のように泣いた。
周りの視線も気にならなかった。ずーっと泣いた。ゆたかのセーラー服がぐしょぐしょになるまで泣いた。

ゆたかは黙って撫でていてくれた。

空はもう黒く、形のいい満月がホームから望めた。
二人でベンチに腰掛け、ずっとそれを見つめていた。

秋から冬にさしかかったこの時期の風は冷たかったが、私の心はどこか暖かかった。
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