『半分の誕生日パーティ』:ID:dOQrjgxw0氏

「皆と一緒にお誕生日パーティして、皆からいっぱいプレゼント貰いたいな」
 今一番何がしたい? って何の気はなしにお喋りをしていたときだった。つかさはそう言った。
「つかさとかがみの誕生日って、あと半年ぐらいあるじゃん」
 全然今やりたいことじゃないじゃん、ってあたしは笑った。つかさも、うん、そうだよね、と笑った。
 今は、まだまだ寒い季節。夏の訪れまで遠い。
 冬休みが終わって、皆とまた顔を合わせる日々が始まっていた。
 あたしは、つかさのその言葉を大して気にしなかった。いつものつかさの抜けたところがでたのだと思った。
 だから何とも思っていなかった。こんな会話は、今までに何回もしてきてたし、だからこのやりとりも今までの中の一つでしかないと思
っていた。
 単に、あたしにとっては。

 かがみにその話をした。それも、いつものとおり。帰り道、二人だけのときだった。つかさは用があるからって、先に一人で帰っていた。
 冷たい風が頬を撫でて、寒い。
 かがみもやっぱりいつもどおりに、馬鹿ね、って笑った。だけど少しだけ、その笑顔が寂しく見えた。

 つかさとかがみの誕生日まで、あと半年もある。つかさの話を聞いて、今年の誕生日パーティは、少し豪華なものにしてやろうとか考え
ていた。そんな考えをした後は決まって、あと半年もあるじゃない、と自分に呆れた。
 でもそんな計画を、皆と一緒に考えるのは楽しい。
 今年もお誕生パーティしようね、って皆と約束した。二人の家に皆が集まって、あたしとみゆきさんはプレゼントを持っていって、ケー
キを食べて……。つかさには何をあげようか、かがみには何をあげようか。今年はちゃんとしたのをあげよう。結構悩んだ。二人に直接欲
しいものを訊いたりしたのだけど、二人ともにこにこ笑って頷くだけだった。
 その話をしてるとき、つかさは本当に楽しそうに笑っていた。かがみも、そうだったんだけど、あたしにはやっぱりどこか寂しげで、今
にも泣き出してしまいそうに見えた。
 何でかな。あたしにはわからなかった。

 冬が終わる。冬の余韻を、訪れる春がかき消していく。つかさとかがみの誕生日まで、あと数ヶ月になった。
 皆との計画が、少しずつだけど実現に向かっていくのは、わくわくした。
 だけど、肌寒いこの季節。つかさはよく風邪で学校を休むようになった。
 三日も学校を休んだり、一週間も休むときもあった。たまにつかさが学校に来たときは、久しぶり、なんて言ってふざけた。久しぶりに
学校にきたつかさは、何故だかよく笑った。
 今日もつかさは学校に来ていない。心配になって、学校の帰りにお見舞いにいきたい、ということををかがみに話した。
 かがみは「うん」と切なく微笑んで、いいよと言ってくれた。
 つかさの顔色は、青白かった。ベットの上で無理して元気そうに笑うつかさは、痛々しくて、来てくれてありがとう、と言われても、あ
たしは何だか言葉を返せなかった。
 それだから、「何だか死んじゃう人みたいだね」ってあたしは無理矢理笑った。だって、本当にそんな気がした。冗談にして、不安を消
し去りたかった。
 つかさはベットの上で寂しげに笑うだけだった。
 つかさが学校を休んだ日は、毎日お見舞いに行こうと決めた。

 春が中旬を迎える頃には、つかさは殆ど学校に来なくなった。あたしは毎日、つかさのお見舞いにいった。つかさは、こなちゃんいつも
ありがとう、って弱々しく笑っていた。

 そんなある日のことだった。いつものようにつかさのお見舞いにきたあたしは、かがみが、ベットに寝るつかさに抱きついて、泣いてい
るのを見てしまった。つかさは、とても優しい顔で、まるでこの世に悲しいものなんかないみたいに微笑んで、かがみの頭を撫でていた。
 かがみは、つかさに抱きしめられながら、絶対お誕生パーティしようね、って泣いていた。つかさも、うん、絶対にね、って微笑んでい
た。
 その数日後、つかさは入院した。

 かがみは震えながら、あたしたちにつかさのことを説明してくれた。
 一月の初め、つかさは、半年後、半分の確立で、死んでしまうかもしれない、そう診断されていた。
 かがみは泣きながら、何度もあたしたちに謝っていた。ごめんね、ごめんね。そう繰り返していた。
 目の前が真っ白になるってことは、こういうことだったんだと思った。何も考えられなくなって、本当に目の前が真っ白になった。
 もう、春は終わり、夏になる。つかさは、もう、いつ死んだとしても、おかしくなかった。
 あたしは、かがみに訊いた。何でもっと早く教えてくれなかったの。かがみは、それはつかさの意思であることを教えてくれた。

 半分の確立で、死ぬ。でも半分の確立で、生きられる。それなら、半分の確立で生きられるほうを、信じたい。そして、もし半分の確立
で死んでしまっても後悔しないように、皆と楽しい思い出をたくさん作りたい。だから、皆には教えないで。

 あたしは、そのとき、気づいた。
 あのとき、つかさが言った言葉。
『皆と一緒にお誕生日パーティして、皆からいっぱいプレゼント貰いたいな』
 その言葉は、『生きたい』っていう、意味だったんだ。
 つかさは、生きたいって、言っていたんだ。

 半分の死亡率。その確立は、呆れてしまうほど、高い。あたしたちが明日交通事故に遭う確立よりも、ずっとずっと、高い。
 何でつかさなんだろう。何でつかさに、そんな残酷な確立が、ついてしまったんだろう。
 あたしだったら良かった。あたしがそうだったら良かった。
 それができないから、皆悲しいんだと、やつれていくつかさを見て気づいた。


 つかさが入院する病室でお誕生日パーティをした。ささやかな、お誕生パーティ。二人の誕生日にはまだ少しあったけど、明日、つかさが死んでしまうかもしれないと考えると、今すぐにでもやらなければいけない気がした。
 つかさは蒼白の顔で、皆ありがとう、と小さな声で笑った。そんなつかさを見ていると、胸の奥がきりきりと痛んで、何もできない自分
を憎く思った。つかさの手を握ると、お年寄りみたいに細くて、冷たかった。
 つかさに何をプレゼントすればいいのかわからなかった。だから、つかさが好きそうなものは、全部用意した。驚かせたかった。それで
、刹那的でもいいから、幸せをあげたかった。
 横たわるつかさに、プレゼント何が欲しい? 何がしたい? って訊いた。つかさは静かに微笑んで、来年も、お誕生パーティして欲し
いな、と言った。
 その日、夜、かがみは電話で、つかさの死亡率が八割まで上がっていることを、教えてくれた。

 神様、って思った。神様、つかさを助けてください。
 お願いします、って手を合わせた。気づけば泣いていた。顔中が濡れていた。悲しみと苦しさが涙と一緒に嗚咽となって漏れた。
 お願いします、お願いします。つかさを助けてください。どうか、どうか。
 何でつかさが死ななきゃいけないの。何でつかさが残酷を身に背負わなければいけないの。
 あたしなら良かった。あたしに、その絶望を全部寄こしてくれればいいんだ。そうすればつかさは助かるから、助かるんだから。
 つかさが助かるのなら、体が裂けてしまって、構わないんだ。

 夜中、あたしたちは、つかさの病室に呼び出された。その意味を、誰もが知っていた。
 病室に皆集まった。かがみとかがみの家族、みゆきさんとあたしは二人とも親に付き添ってもらっていた。黒井先生もいた。
 ベットにねるつかさを見て死んでいるんじゃないかって思った。医者が、深刻そうな顔で、覚悟をしたほうがいいでしょう、とか言った。

 ふざけんな。ふざけんな。何でよ、何でだよ。何でつかさなのさ。教えてよ、神様、ねえ教えてよ。
 病室を飛び出した。そして、屋上に駆け上がった。
 屋上にでると、月が大きくて、綺麗だった。夏の夜風は生ぬるく、肌を凪いだ。
 何故なんだろう。
 何故、あたしたちは、こんなにも悲しまなきゃ、いけないんだろう。
 手すりに飛びついた。病院の下は、コンクリートだ。
 神様に、最後のお願い。
 あたしが死ぬから、つかさは助けて。
 だからつかさを助けて。

 ……でも、あたしにそんな勇気は、なかった。怖くって、足がすくんで、動けなくなって、そこで気を失った。

 目を覚ますと病室のベットに寝ていた。側に、お父さんが座っていた。お父さんはあたしを見ると、ほっとした顔になって、あたしの頬
を撫でた。
 病室は、白いスーツに日の光が反射して、真っ白だった。室内なのに眩しくて、目を細めた。
 ぼんやりとしていた。思考ができなかった。
 お父さんが言う。つかさちゃんはな……。そこで、気がついた。つかさ。
 つかさは、死んでしまったの?
 つかさは――



 ――呼んだ?

 隣から声が聞こえた。
 あたしが寝るベットの隣に、もう一つベットがあった。よく見れば、ここはつかさが入院する病室だった。
 そのベットの上で、つかさが笑っていた。こなちゃんおはよう、って、愛しい、だけど少し白い顔で、笑っていた。

 ああ、神様。
 神様、ありがとう。
 でも、今度は、胸が一杯で、苦しいよ。

 つかさの病気は順調に回復に向かった。だけど、完全には治らなかった。
 病室で、かがみとつかさは、教えてくれた。
 これからの五年間、つかさは、一割の死亡率が付きまとう。
 一割。とても低い確率だけど、普通の人に比べれば、何倍も何倍も高い。あたしたちより何倍も高く、つかさは死んでしまうかもしれな
い。これから、五年間。
 だけど、二人は教えてくれた。今度は、教えてくれた。笑って、教えてくれた。
 そして、あたしたちは、約束した。
 これから、ずっとずっと、百年でも、千年でも、永遠でもいい。
 皆で、誕生日を祝っていくことを、約束した。

 今、何がしたい?
 そんなの決まってる。
 皆と一緒に、もう一度誕生パーティをするんだ。そして、用意したたくさんのプレゼントを、つかさに――。
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