目の前に美味しそうな羊がいるとする。
私はその羊のことを本当に大切に思っているし、きっとこの子も私のことが好き。
降りかかる困難に困るこの子の助けになってあげたい。
獣の牙に狙われてもこの子に指1本触れさせはしない。
でも無垢な笑顔を向けられると、私はいつも不安になる。
愛しさのあまり目の前の羊を食べてしまいそうになる自分に。
私は羊の皮を被った狼だから。
「かがみー、いい加減つかさを起こしてきて」
「嫌だよ。どうせ起きないもん」
私とつかさは1日置きに交互でお弁当を作る当番をやってる。
つかさは意外に責任感が強いところがあるから、当番の日の朝はちゃんと早起きをするんだけど。
私が当番の日には全然起きてこないから、その度にお母さんに起こしてくるように声を掛けられていた。
でも私はいつも適当な理由を付けて断ってる。
だってつかさの寝顔なんて見たら何するか、自分でもわかんなくなりそうだから。
冷凍食品を並べたお皿を片手に、弁当箱におかずを盛り付けていく。
お弁当を作ると言っても大抵は冷凍食品や夕飯の残り物を温め直すだけなのだから情けない。
凝り性のつかさはともかく、ネトゲ廃人のこなたでさえまともな料理を作るのだからますます気が滅入る。
料理の練習をすれば、つかさは私の作ったお弁当に対してどんな反応をしてくれるだろうか。
「わー、お姉ちゃんのお弁当おいしいよ」
「お姉ちゃん、お料理上手になったねー」
「おはようお姉ちゃん、今日も暑いよねー」
そうだね、夏も本番って感じだよねー。って、あれ。
朝っぱらから桃色空間を創造している間につかさが起きてきていた。
不意のつかさの笑顔に思わず画面がぐらつく。まずいよ、顔に出てないかな。
「おはよう、つかさ。早く準備しないと置いてくよー。早く寝癖直してきな」
平常心を装いつつ、つかさに背中を向けてそう応える。
「あうう、急がなきゃ」
そう言って、つかさは台所から出て行った。
「何でこう、無愛想な言い方しかできないかな…」
握りこぶしでこめかみを小突きながら、私は溜息を漏らした。
つかさと並びながら登校していると校門でこなたの後ろ姿を見つけた。
できればもう少しつかさと2人でいたかったから、敢えて気付かない振りをしてみる。
「あ、こなちゃんだ。おーい、こなちゃーん!」
と企むのも束の間、つかさも気付いたみたいでこなたに声をかけてしまった。
「あ、かがみんにつかさ。おはよー」
「おーっす」「おはよー、こなちゃん」
今日もこなたのアホ毛は健在のようで、それを見るたびにいつも引っ張ってみたくなる。
うちの学校はプールがないから機会がないけど、濡らしたら垂れるのかな。
そういやいつかの旅行で一緒にお風呂入ったけど、垂れてたかな…?
揺れるアホ毛を眺めながら脳内のアルバムを広げていると、
「つかさー、この間言ってた本なんだけど持ってきたよー」
「あぁ、あのときの?」
「うんうん。つかさも読んでみてよー」
そう言ってこなたは鞄を漁って本を取り出した。
それはどうみてもアブノーマルな方向にベクトルが伸びていそうな奴。多分、○合物。
「絶対おもしろいからさー」
つかさに本を押し付けるこなたの目は…そう、ハイエナの目だ。
「ちょっと、あんたの趣味につかさを巻き込まないでよ」
「えー、おもしろいんだって。かがみん読んでみない?」
「折角だけど遠慮しとくわ…」
最終更新:2007年07月21日 01:53