ID:2BcYWkhw0氏:こなたの旅(ページ6)

26

 私は都心のとあるホテルの入り口に居る。丁度エレベータに乗ろうとした時だった。
「すみません、お客様」
後ろから私に声をかける人がいた。振り返ると女性だ、制服からするとホテルスタッフらしい。
スタッフ「恐れ入りますが御用はなんでしょうか」
こなた「このホテルに泊まっている人に会いに行くところだけど」
スタッフは大きく頭を下げた。
スタッフ「すみませんがそのお客様とお約束はしていますか」
私は頷いた。するとスッタッフはフロントの受付の方を向いた。
スタッフ「受付でサインをお願いします」
私は受付でサインをした。さすがにこのクラスのホテルになると受付の対応が違う。あのスタッフはコンシュルジュってところかな。
うちのレストランもあのくらいの対応をすれば一流って言われるのかな。
受付でサインを済ますと再びエレベータに向かった。

『コンコンコン』
ドアをノックした。ドアが開いた。
「¿Quién es usted?」
こなた「ほえ??」
見たことの無い男性が出てきた。髭を蓄えている。
「Váyase.」
何を言っているのか分からない。私はポケットからメモリー板を出して男性に見せた。男性はメモリー板を見ると溜め息をついた。
神崎「やはり無駄だったか」
こなた「もうこのホテルに入ってから居場所は分かっているからね、こんなに便利なのに何故今まで見つからなかったの?」
やっぱり神崎さんだった。このメモリー板を持ってからお稲荷さんの居場所は直ぐに分かるようになった。例え別の人に化けていても見破るのは簡単だ。
私は部屋の中に入った。
神崎「前にも言っただろう、起動しなければ只の箱に過ぎない」
こなた「自動で起動できるようにしなかったの、そんなのお稲荷さんなら簡単にできるじゃん?」
神崎「機械に判断と選択はさせない」
こなた「へ、分かんない、もっと簡単に教えて」
神崎「私達の母星で起きた事件だ、機械が我々に反抗してしまってね」
こなた「あ、それって、よくゲームとかで出てくるネタだね」
神崎「いや、実際に起きた、私達の星ではね、それで長い戦いが起きた……」
こなた「神崎さん達が今こうして居るって事は機械に勝ったんだね?」
神崎「勝ったっと言うより我々が機械の制御を自分自身に取り込んだ、だから機械は我々の意思なしでは動かないようにした」
こなた「取り込んだって?」
神崎「機械の制御権を全て我々の中、遺伝子に組み込んだ、これで機械は我々の道具に戻った、機械は我々の脳からの命令がないと動かない、君達の細胞にいるミトコンドリアと
   同じ、ミトコンドリアの遺伝子を細胞の核に移してミトコンドリアを制御しているのとね、それに至るまで多大の犠牲を余儀なくされたがな、その副産物として
   変身と長寿、そして君達の言う超能力を得た」
こなた「ふ~ん」
言っている意味の半分も理解できなかった。みゆきさんなら理解できただろうけど……無表情の私にちょっと不機嫌な様子の神崎さんだった。
神崎「他人事だな、君たちもいずれそれに直面するぞ、自分の作った道具に滅ぼされるなんて考えただけでも恐ろしいとはおもわんのか?」
こなた「でも私が生きている内は大丈夫でだよね」
神崎「それは、どうかな……」
神崎さんは改まって私を見た。わたしの顔を見て話を続けるのを諦めたのか話題を変えた。
神崎「ところで何の用だ?」
こなた「作戦の続きがあるでしょ、忘れちゃったの?」
神崎さんは部屋にある置時計を見た。
神崎「もうそんな時になるのか……本当にしなければならないのか?」
こなた「もちろん、その為にきたんだよ、最後まで付き合ってもらうから」
神崎「そうだったな……ちょっと待ってくれ準備する」
神崎さんはいそいそと身支度を始めた。
こなた「……その姿で行くつもりなの?」
神崎「そのつもりだが、何か問題があるか?」
こなた「ん~、最初に私に見せた姿がいいかも……」
ひげもじゃで背が高すぎ。すごく威圧感がある。
神崎「そうか……30分ほど余計にかかるがいいか」
神崎さんは洗面所に向かった。
こなた「なんで洗面所に、変身ならここですればいいじゃん?」
神崎「君は着替えをする時見せびらかすのか?」
こなた「そ、そんな事はしないけど……」
神崎「それと同じだ、失礼する」
そのまま洗面所に入った。お稲荷さんの変身って着替えみたいなものなのか……始めて知った。
そういえばめぐみさんの時は私の前でよく変身していたけど、同性だったから気にならなかっただけなのかな……まだまだお稲荷さんについては良く分からないことだらけだ。
神崎「君の作戦はいつ思いついた?」
洗面所の更衣室のドア越しに声が聞こえた。
こなた「神崎さんが言った時、殺し屋が来るって」
神崎「そうか……」
それ以降神崎さんは話してこない。きっと狐に戻ったに違いない。
……
……
 そう、あの時……神崎さんは私に金縛りの術をかけようとしていた。
神崎「泉、私を見ろ……」
この重みのある言葉で直ぐに分かった。まともに彼をみれば術を防ぐ術はない。でも幸い私には彼が残したボイスレコーダを持っている。
はたして私が使って神崎さんの術を封じる事ができるだろうか。どのくらいの範囲で効果があるのか分からない。でも使うしかない。まずは神崎さんを止めないと私の
作戦は始まらない。
『カチ』
私は手をズボンの後ろのポケットにまわしてそっとスイッチを入れた。そしてゆっくり神崎さんの方を向いた。
神崎「どうだ、動けないか……」
うごけ……ん?……!
しめた、動けそうだ。それならここは術にかかった振りをする。私は何も言わなかった。神崎さんの隙を狙う。
神崎「お前を巻き込む分けないはいかない、このまま最終電車で帰ってもらう、特急に乗れなくても終点の駅ならホテルは沢山ある……」
私に催眠術をかけるつもりなのか私の顔に腕をゆっくり伸ばしてきた。私の額にその手が触れるか触れないかの距離まで来た瞬間、
私は一歩神崎さんの真横に移動して身体を一回転させて神崎さんの背後に回り私の腕を神崎さんの首に回してもう片方の腕で完全にロックした。俗に言う裸締めだ。
神崎「うぉ!?」
こなた「動かないで、腕にちょこっと力を加えれば頚動脈から頭に血が行かなくなるよ、そうなれば数秒で落ちるよ」
神崎「な、何故効かない……なぜ……?」
こなた「神社でボイスレコーダ拾っちゃったからね」
神崎「まさか……もっと遠くで捨てるべきだったな……なんて素早い身のこなし、見えなかった、しかも急所を的確に狙うとは……東洋の武道と言うやつか……」
こなた「武術はちょこっと齧っただけ、油断したから素早く見えただけ、だけど技の効果は本物だよ」
神崎さんは全身の力を抜いて渡しに委ねた。
神崎「そうだな、本物の様だ、抵抗はしない……それでこの状態で私に何をする気だ?」
こなた「それより私を帰した後どうするつもりだったの?」
神崎「あの殺し屋には個人的に因縁がある、ヨーロッパに居た頃友人だった人間を何人か殺されている」
こなた「敵を討つつもりなの?」
神崎「そうだ……」
思ったよりも深刻だった……
こなた「それで、その後はどうするの」
神崎「殺し屋があやめを殺した様に見せかける、殺し屋の死体が一緒ならあやめと刺し違えたと思うだろう、そして、殺し屋の雇い主が分かれば貿易会社の全貌が明らかに……」
半分は私が立てた作戦と同じ、だけど半分は全く違う。
こなた「残念でした、殺し屋の雇い主は分からないよ、神崎さんも長年貿易会社を調べている割には分かってないね?」
神崎「なんだと、何故だ!?」
神崎さんが少し暴れそうだったので腕に少し力を加えた。すると直ぐに大人しくなった。
こなた「武器の密売を隠せるくらいの力をもってるんだよ、殺し屋を雇ったなんて分かりっこない」
お稲荷さんらしくない。親友を殺されて頭に血が上って冷静な判断ができないのかもしれない。
神崎「君なら何かあるとでも言うのか」
こなた「あやめさんの死体を利用するのは全く同じ、だけどその方法が少し違う……聞いてみる?」
神崎「もしその話を聞いて私が断ったらどうする」
こなた「このまま絞め落とすよ、と言いたい所だけど、どうしても神崎さん……お稲荷さんの協力が必要なんだ……」
私は絞めていた腕を解いた。神崎さんは私から一歩離れて手で首を擦りながら振り返った。
神崎「何故放した……いくら素人でも同じ技にはかからないぞ」
こなた「そうかもしれないけど、そっちもお稲荷さんの術は使えないよ」
神崎「……そうだった、話してみろ、その作戦とやらを」
こなた「神崎さんは殺し屋に催眠術をかけてあやめさんを殺したと思い込ませて」
神崎「それで……その後はどうする」
こなた「それだけでいいよ……うんん、もしかしたらメモリー板も取り戻しにくるかもしれないから、それも奪還させたと思い込ませる必要もあるかもね」
神崎「ばかな、そうしたら彼は証拠隠滅を図るぞ……話にならん、私は私のやり方で……」
こなた「殺し屋を殺してどうするの、殺したって神崎さんの友達は帰ってこない、あやめさんだって!!」
この時、殺し屋が家に火をつけるなんて思ってもいなかった。あの時は私の作戦を説明するのでいっぱいだった。
神崎「……殺し屋を許せと言うのか?」
こなた「うんん、そうは言ってない、ただ、誰一人傷つけたくないだけ」
神崎「傷つけない……どうやって」
こなた「あやめさんのパソコンを使う、以前盗んだデータを公に知らせたらどうなるかな、それもあやめさんが亡くなった時間に合わせて送ったら?」
神崎さんは暫く考えた。
神崎「パソコンの操作はどうするつもりだ」
こなた「証拠を消す為に必ず殺し屋はパソコンに何かをするはず、それを合図に発信するようにする」
神崎「……出来るのか?」
こなた「元気だま作戦よりは簡単だと思うけど?」
神崎さんはまた考え込んだ。
こなた「真奈美さんが何故亡くなったか教えたから知っているでしょ?」
神崎「ああ、知っている、柊さんと握手をした時、彼女の意識から鮮明なイメージが飛び込んできた……装置のスイッチを入れていなかった……慌てて入れたがもう遅かった」
やっぱり私の思った通りだった。
神崎「あのイメージで真奈美が捕らわれているという推測は絶望的になった……それでも微かな希望に賭けたのだがな……」
こなた「つかさが旅をしたから亡くなったんて言わないでよ」
神崎「分かっている……」
こなた「それじゃ何をすればいいのか分かるよね?」
神崎さんはあやめさんの方をじっと見つめた。
神崎「……いいだろう、君の作戦にかけよう……」
こなた「そうこなくっちゃ!!」
神崎さんは振り返って私を見た。
神崎「そのセリフはあやめが生前よく使っていた……」
こなた「感傷に浸るのは作戦が終わってから」
神崎「そうだな……」

 って言ったみたものの実際殺し屋をどうやって催眠術にもっていく方法までは思いつかなかった。
こなた「えっと……その殺し屋さんってどんな人?」
神崎「そんなのを聞いてどうする?」
こなた「誘き出すのに参考になるかなって……」
神崎「なんだ、もうとっくに考えてあるのかと思った」
呆れ顔の神崎さんだった。
神崎「彼の対処は私がする、君はあやめが生きている様に振舞ってくれればいい」
こなた「この部屋でパソコン打ってればいいかな?」
神崎さんは頷いた。
神崎「仕掛けは出来るだけ急いでくれ」
私は部屋のカーテンを閉めて椅子に腰掛けた。カーテン越しの影が外からは長髪の女性が居る様に見える。
神崎「それでいい」
神崎さんは部屋を出た。

 これから殺し屋が来るまでの時間はどのくらいか覚えていない。夢中でパソコンを操作していた。
つかさの家に着くまでの時間から逆算すると多分1、2時間位の時間だった。

 突然部屋の明りが消えた。そしてパソコン本体の隣においてあったUPSのランプが点灯した。
1から2分くらい経っただろうか、部屋の外から神崎さんの呼ぶ声が聞こえた。メモリー板の明りを頼りに部屋を出て声のする方に向かった。
玄関の入り口に神崎さんが立っていた。その直ぐ隣に見知らぬ人影が見える。明りを向けると男性がマネキン人形の様に静止して立っていた。もう神崎さんが金縛りの術を
かけた後のようだ。
こなた「この男性が?」
神崎「そう、殺し屋だ」
身長はさほど高くない。顔つきはどう見ても東洋人系の顔……日本人にしか見えない。
こなた「ヨーロッパの殺し屋じゃないの?」
神崎「いや、彼は変装の名人だ、どんな民族にも違和感なく溶け込める」
こなた「急に停電になったけど?」
神崎「もちろん彼の仕業だ、彼は潜入するとき電源と通信を遮断する……言い忘れていたがこの状況でメッセージは送れるのか?」
こなた「幸いUPSがああったから大丈夫、メッセージもあやめさんの携帯電話経由で送るから問題ないよ」
神崎「そうか……」
ほっと一呼吸整えると神崎さんは殺し屋の額に手を添えた。
神崎「彼はもうあやめを殺した……メモリー板も回収した事にする」
こなた「それじゃこれを」
私は神崎さんに携帯電話を渡した。
神崎「これは?」
こなた「あやめさんの机の中に入っていた携帯、多分機種変更で使わなくなったやつ、これをメモリー板だと思い込ませて」
神崎「……君はあざといな……」
神崎さんは受け取った携帯電話を殺し屋のズボンのポケットに入れた。
こなた「彼をあやめさんの部屋に移動させないと……」
『パチン!!』
神崎さんが指を鳴らすと殺し屋の足が動いた。そして誘導するようにあやめさんの部屋に移動した。

 部屋に移動すると私はあやめさんの周りに張り付いている繭の様な物を引き剥がした。引き剥がすと繭の様な物は泡の様に解けて消えた。
あやめさんを抱き起こすと椅子に座らせた。
こなた「準備はいいよ」
神崎さんは殺し屋から手を放そうとしなかった。
こなた「どうしたの、もしかして催眠術がかけらないとか??」
神崎「……彼は此処を離れる際、火を放すつもりだ……台所から出火させて事故にみせつもりらしい……」
こなた「大丈夫、もうメッセージは送られているはずだから……」
神崎「いや、そうじゃない、火事になればあやめは……あやめの身体は焼け爛れるぞ……場合によっては身元が判らないほどに、それでも良いのか?」
こなた「……もう亡くなっているからあやめさんは何も感じないよ……」
神崎「……君は冷酷だな……」
神崎さんは片手を上げた。
神崎「この指を鳴らして3分後に金縛りの術が解ける、それと同時に彼はあやめを殺し、メモリー板を奪還したと思い込むはずだ……」
私は頷いた。
神崎さんは両目を閉じて全身を震わせながら指を鳴らした。
『パチン!!』
神崎さんは椅子に座っているあやめさんをじっと見ていた。
こなた「急いで出よう!!」

私は彼の手を引いて家を出た。そして次の駅まで歩いて行き始発電車でつかさの家に向かった。
これがあの時、あやめさんの家で起きた一部始終。
……
……
神崎「これでいいのか」
洗面所から出てきたのは初めて会った時の神崎さんの姿だった。いろいろ思い出していたらもう30分も経ってしまったようだ。
こなた「うん、それでいい」
神崎「本当に行くのか?」
こなた「もちろん、行かないと私の作戦は終了しないからね」
神崎「何故私が行く必要がある」
こなた「神崎さんから直接話して欲しいから」
神崎「泉さん、君の方が適任だと思うが……それに私の話を聞いて信じてくれるかどうかも分からない」
こなた「信じる信じないは向こうが決める事、真実を話すのが大事なの……」
神崎さんは黙って何も言い返してこなかった。
こなた「行こう」
私達は部屋を出た。

 ホテルを出た私達は私の車に乗って出発した。
神崎「何処に行く……」
こなた「神社だよ」
神崎「神社?」
こなた「そう、神社、つかさと真奈美さんが初めて会った場所、そしてあやめさんと真奈美も……そこが一番話すのに相応しいと思ったから」
神崎「あの神社か」
こなた「待ち合わせ時間に間に合うように少し急ぐよ」
私はアクセルを踏んだ。

 神社の頂上が見えてきた。待ち合わせをしていた人はもう既に居た。
神崎「どうしても話さなければならんのか?」
こなた「そうだよ、5年間も騙し続けたのだから、ちゃんと責任とってよ」
今日はあやめさんの四十九日。納骨を終えた正子さんと待ち合わせをした。正子さんに会わせたい人がいると約束をした。
話すには打ってつけの日。だから今日にした。
階段を登ってくる私達に気付いた。私達に微笑みかける正子さん。
こなた「どうも遅くなっちゃって……」
正子「いいえ、私もついさっき来たばかりなのよ」
正子さんは神崎さんに気付いた。私の陰に隠れているのをのど着込むように見た。
正子「彼が?」
こなた「はい、会わせたい人です……ほら、神崎さん……」
私は神崎さんの後ろに廻り彼の背中を押して正子さんの前に立たせた。そして私は2、3歩下がった。
神崎さんは正子さんに会釈をした。
正子「貴方は……確か……あやめと一緒に家に来たわよね?」
神崎「……はい、よくご存知で……」
正子「良く覚えている、なんせあやめが初めて男性を連れてきたのだから……」
神崎さんのあの姿はあやめさんの生前からの姿だったのか……変身し直させて良かったかもしれない。
神崎「実は正子さんに言わなければならない事実がありまして……」
正子「事実?」
正子さんは不思議そうな顔で私の方を向いた。私はただ頷くしかなかった。正子さんは再び神崎さんの方を向いた。
神崎「……あやめ……いや、あやめさんは……」
正子「あやめがどうかしましたか?」
神崎さんを見て首をかしげさらに不思議そうな顔をする正子さんだった。
神崎「貴女の娘さんは5年前に既に亡くなっていた、それまでの間、私が成り済ましていました……」
神崎さんはその場で深々と頭を下げた。経緯の説明がない。お稲荷さんの話もしない。あまりに短い言葉だった。これじゃ何がなんだか分らない。理解出来ないじゃないか。
最初からちゃんと説明しないと。私が話そうとした時だった。
正子「確か……あの時は土砂降りの雨だったかしら……ずぶ濡れになって小脇に壊れたヘルメットを抱えて帰って来たわね……」
私は立ち止まった。。
正子「どうしたの?……そう聞くと「何でもない」……そう言って部屋に入って言ったわね……覚えています」
神崎「土砂降り……壊れたヘルメット……ば、ばかな……入れ替わった最初の時……」
正子「悲しげなあやめの表情でしたね、なんとなく違和感があった……」
神崎「そんなはずはない、容姿はもちろんあやめの記憶は全てトレースした、幼少から亡くなる寸前までの記憶、彼女の性格も、癖も……」
正子さんは話を続けた。多分神崎さんの話を理解できていない。
正子「……そして次の日、部屋から出てきたあやめは元のあやめに戻っていた……」
どんなに正確に変身しても他人は他人。母親は騙せないか……
神崎「何故聞かなかった、何故黙っていた?」
正子さんは目を閉じながら話した。
正子「それを聞いたら……あやめがどこか遠くへ行ってしまうような……そんな気がしたから……でも、部屋から出てきたあやめはあやめだった、私の娘そのものでした……
   あれから5年……もうそんなに経つのね……」
正子さんの目から涙が一筋流れた。

 涙を流している正子さん見て急に私も悲しくなった。そして、 彼女と出逢ってから今までの出来事が走馬灯のように浮かんできた。
取材や作戦じゃくてもっといろいろ話したかった。ゲームやアニメの話、皆と軽食を食べながらバカな話でもして……
その時気付いた。私の会っていたあやめさんはあやめさんだった。少なくとも金縛りの術を使う直前までは神崎あやめだった。
私は大事な親友を一人失った……
私はあやめさんを見殺しにした。私はあざとく……冷酷だった。
こなた「正子さん、わ、私……」
この作戦を考えたのは私。だから私は正子さんに話そうとした。でも正子さんは首を振って私を止めた。
正子「もう済んだ事だから……それより二人共、あやめの墓前で手を合わせて欲しい……」
正子さんは振り返ると神社の奥の方を向いて手を合わせた。
神崎「墓前……まさか、あやめは……」
正子「そう、この地に散骨しました……幼少から此処が好きでした、そして今でも……そう思いまして」
神崎さんは正子さんのすぐ後ろに立つと手を合わせた。
私はそのままの位置で手を合わせた。
……あれ。目頭から熱い物が頬を伝った。
涙だった。
本人には一度も会っていないのに。泣く事なんて無いと思っていたのに……
祈りが終わっても私は暫くその場を動く事ができなかった。
涙で目がくもって見えなかったから。

 こうして私の作戦は終わった。
成功したのか。失敗したのか……今の私には分らなかった。


27

 あれから半年以上が過ぎた……
元に戻った。かえでさんは出産が近いので相変わらずつかさが代わりを務めている。
それ以外は普段と全く変わらない生活……
いや変わった……
つかさ「こなちゃん」
仕事が終わり、私が更衣室に入るのを呼び止めた。珍しい。
こなた「ん、今日は早番だよ?」
私のタイムシフトを間違えた。そう思った。
つかさ「知ってる……」
私がそのまま更衣室に入るとつかさも後から直ぐに入ってきた。
こなた「どうしたのさっきから、何か用でもあるの?」
つかさ「う、うん……」
もじもじしてはっきりしない。私は構わず着替え始めた。
つかさ「こなちゃん……かえでさんの事黙っていたの……怒ってる?」
こなた「……ほぇ、もう半年も経つのに何を言ってるの?」
着替えながら聞き返した。
つかさ「最近のこなちゃん……少し変わったから……」
こなた「変わった?」
つかさ「う、うん……いつもの元気がないような気がして、それに何となく……そっけない様な……」
元気がない。そっけない……
こなた「そうかな、私は普段と何も変えていないけど……つかさの気のせいだよ」
つかさ「う、うん……ごめんね、邪魔しちゃって……」
つかさは部屋を出ようとした。
こなた「ちょっと待って」
着替え終わった私はつかさを呼び止めた。
つかさは振り返った。
こなた「もし、かえでさんと井上さん、二人同だったらどっちに薬を渡した?」
つかさ「えぇ??」
つかさは凄く困った顔をした。そして目を上下左右に動かしながら考えている。
つかさの反応はだいたい想像できた。それでもこんな質問をするのだから私ってそうとうSなのかもしれない。
こなた「別に考えなくてもいいじゃん、私なら迷うことなくかえでさんを選ぶよ」
つかさは悲しそうな顔をして俯いた。
こなた「優しいね、つかさは……井上さんは会ったことも話したこともない赤の他人、かえでさんを選んでも誰も文句は言わないよ」
つかさ「で、でも……」
こなた「そうだよ、つかさは内緒にしていた、だから私は神崎さんをみゆきさんの居る所に連れてこられた」
つかさがかえでさんの容態を話していたら私はどんな作戦をしていただろうか……きっともっと冷酷な……
そんな私の思惑とは裏腹に驚いた顔で私を見るつかさだった。
こなた「ほらほら、そう言う事だから私は全然怒っていない」
つかさ「うん……でも、なんだかこなちゃん……変わったよ」
変わったって何が変った?
こなた「それよりかえでさんが出産したら戻ってくるよ、つかさはどうするの?」
つかさ「私のお店に戻りたいけど……ひろしさんがお父さんの後を継ぎたいって……」
こなた「それならもうお店畳んじゃってこのままこの店に残ればいいじゃん?」
つかさ「そうしたいけど……かえでさんが……」
こなた「かえでさんが反対するわけないじゃん、もし反対したら、私も店を辞めちゃうって言うから」
つかさ「そ、そんな事して……大丈夫なの?」
こなた「そしたらつかさと二人で新たに店を出す……」
つかさはまた驚いた顔で私を見た。
こなた「……なんちゃってね、その時になったら考えればいいじゃん?」
つかさ「ふふ……そうだね……」
つかさが笑った。そういえば半年前からつかさが笑ったのをはじめて見たような気がした。
そして私も釣られるように笑った。
つかさ「そうそう、今日お姉ちゃんと会う約束してたでしょ?」
こなた「え???」
つかさ「先週の約束をすっぽかしたから注意するように言われたの」
すっかり忘れていた。
こなた「えへへ……ゲーセン寄ろうとしてたりして」
つかさ「今日は大丈夫だね!」
こなた「それじゃお先に!!」
つかさ「お疲れ様~」
私は店を後にした。

 かがみの法律事務所……
先週もそういえば約束した場所はそこだった。いったいかがみは私に何の用があるのかな。つかさに確認させるほど大事な話なのだろうか。
約束だけして要点を言わないなんてかがみらしくない。
事務所に入るとかがみの事務室に通された。
通されたけどかがみの姿が見えない。椅子に座っても居ないし……
『ドカン!!』
もの凄い勢いでドアが開いた。顔半分が埋まるくらいの大量の書類を抱えてかがみが入ってきた。
かがみ「ちょっと、突っ立ってないで手伝え!!」
私は黙って半分くらいの書類を取った。かがみは自分の机に書類を置き、その上に残りの書類を積み重ねた。
かがみ「ふぅ~」
かがみは自分の手で肩を揉みながら私をじっと見た。
『バシッ!!』
いきなり私の背中をひっぱ叩いた。
こなた「痛いよ!!」
かがみ「なにしけた顔してる、らしくないわよ!!」
こなた「らしくないって、私がどうしたららしくなるのさ!」
かがみは私を指差した。
かがみ「普段のあんたならそんな口答えしないわよ、動じないで「あ、そう?」なんて聞き流す」
……確かにそうかもしれない。
かがみ「そうね、この前のあんたのした事は元気だま作戦と違って数字では出てこない、人情に訴える作戦、しかも死体とは言え人間を一人傷つける……」
こなた「もうその話は止めて……」
かがみは言うのを止めた。だけど直ぐに話した。
かがみ「神崎さんを連れてきた時の勢いはどうした?」
こなた「……」
私は何も言えなかった。
かがみ「後悔しているのか……そんな感じね……」
こなた「今その作戦をしろって言われても、もう出来ない……」
かがみ「どう言う心境の変化があったか知らないけど、少し安心した」
かがみは笑顔で椅子に座った。そしてさっき持ってきた書類を一枚手に取って見た。
かがみ「あんたは貿易会社の情報をネット経由で暴露した、大手新聞社、雑誌会社、そして神崎あやめの働く出版社……だけどどれ一つとして動いた会社はなかった……そうよね?」
私は小さく頷いた。かがみは更にもう一枚書類を手に取った。
かがみ「動いたのは只一人、井上浩子さん……彼女が各界に働きかけて貿易会社の不正を告発した……そして今や何カ国も巻き込む国際問題にへと発展している……
    あんたの機転が功を奏した、やるじゃない」
こなた「それは……みゆきさんの秘薬が完成していたから、そうでなければ井上さんはそんな事できなかったよ」
かがみ「そうね……」
こなた「はは、これでみゆきさんは億万長者だよ、すごいね」
かがみは書類を置き立ち上がった。
かがみ「それがそうでもない」
こなた「そうでもないってどう言う事?」
私は耳を疑って聞き返した。
かがみ「薬は未完成品で製品として認められなかったそうよ、それでみゆきの研究チームは解散、研究員も解任された」
こなた「う、嘘……なんで?」
かがみ「みゆきが貿易会社に融資をしたのが発覚してね……」
まさか……なんで……理解出来ない。
こなた「……そんなの関係ないじゃん、それに融資したのは告発される前の話だよ……うんん、そんなのあの薬の価値と比べれば屁みないたもんだよ」
かがみ「そうね、屁みたいなもの、だけど世間は、社会はそう見なかったって事よ」
淡々と話すかがみを見て居ても立ってもいられなかった。
こなた「あの薬の効力はかがみが一番知ってるでしょ、かえでさんだって、お腹の赤ちゃんも、井上さんも救ったんだよ……」
かがみ「私の脳腫瘍を完治させた……凄い薬だわ、まさにお稲荷さんの知識と技術には敬服する以外にない」
こなた「……私だ……私がみゆきさんに融資なんかさせたから……」
かがみは首を横に振った。
かがみ「いや、こなたのせいじゃない、たまたま都合の良いネタがみゆきにあっただけ、例え融資をしなくても別の理由で同じ結果になっていた」
こなた「何で、どうして?……」
まったく理解ができなかった。
かがみ「早すぎたのよ……」
こなた「早すぎた?」
かがみ「あの薬は数世紀の時間を先取りしたような物、そんな物が出回ったらどうなる、現在流通している薬の7,8割がゴミになってしまう
    製薬業界は大混乱よ、人類にあの薬を受け入れる準備はまだなかった、それだけよ」
こなた「……それだけの理由で?」
かがみ「それだけの理由があれば充分なの、人類が選んだ選択よ」
こなた「私はそんなの選んでない……」
これが無意識の、自分の意思とは関係ない選択ってやつなのか、私達だけのちからじゃ止められない選択……
かがみ「ワールドホテルのけいこさんにしても、貿易会社の経営者にしてもそれを知っていたからお稲荷さんの知識を世に出すのに選別していたのよ、、
    人類が受けいれらるような基本的な知識だけを利用していた、だから同じようなデータになったのよ」
こなた「私には理解出来ないよ……」
かがみはまた椅子に座り書類を見だした。
かがみ「だから私は貿易会社の弁護を引き受ける事にした」
こなた「へ、どうして、あんな会社の弁護を?」
かがみ「こなたが消したデータ以外にまだお稲荷さんのデータを隠し持っている……それを全て消すため、弁護を引き受ければあの会社の情報を全て閲覧できる」
こなた「そんな事して大丈夫なの……」
かがみ「もちろんバレれれば私の弁護士としての生命は絶たれるわね、だからこなたを呼んだのよ、あんたなら分からないように消せるでしょ?」
こなた「出来るけど……どうしてそんな事を」
かがみ「私達姉妹の夫は全員お稲荷さん、夫はもう人間になっている、そして子供達も居る……私達家族を守る為よ……そんな理由じゃ納得できんか?」
こなた「うんん……そうじゃないけど……」
私はポケットからメモリー板を取り出した。かがみはそれを見た。
こなた「それじゃこれも要らないって事?」
かがみ「要らない……出来れば処分して欲しい、と言っても宇宙船の墜落に耐えて更に4万年も地中に埋まって
壊れないような物を処分なんてできない、だけどあんたが持っている分には
    私はなにも言わない、めぐみさんからもらったUSBメモリーも含めてね……」
私はメモリー板を仕舞った。
かがみ「それで、返事は、引き受けるの、引き受けないの?」
こなた「引き受けるよ……かがみが捕まる所なんて見たくないよ……」
かがみ「ありがとう……」
かがみの素直なお礼を見たのは初めてかもしれない。

かがみ「ところでこの地球にお稲荷さんは他に居ないのか?」
こなた「うん、メモリー板に反応があるのは神崎さんだけだよ」
かがみ「力を消す装置を使っているお稲荷さんがいたら分らないじゃない?」
こなた「うんん、狐に戻った時はあの装置は意味ないって言ってから、少なくとも現役のお稲荷さんは神崎さんだけだよ」
かがみ「そうなの……ちょっとは期待していたけど、やっぱり真奈美さんは……」
こなた「微かな希望を打ち砕く訳じゃないけど、つかさと神崎さんが握手をした時、神崎さんはつかさのイメージを見たって、特に首の傷が致命的だった」
かがみ「……あの時ね……装置のスイッチを入れるの忘れたって……お稲荷さんでも忘れる事あるのね……」
こなた「それじゃ用が済んだら帰るよ」
私は部屋を出ようとした。
かがみ「待て、相変わらず薄情だな……少しは付き合え」
こなた「いや、忙しそうだし……」
かがみ「今日の仕事は終わった」
かがみは書類を置いて立ち上がった。
こなた「い、いや、じゃなんでそんな大量の書類を……見る為じゃないの?」
かがみは笑いながら私よりも先に部屋を出た。

 かがみに連れられて居酒屋に来た。
居酒屋だけあってレストランかえでとは雰囲気がちがっていた。
かがみ「どうこの店、個室もあって雰囲気でるでしょ?」
こなた「う、うん……それより良いの、ワインもう2杯目だよ、酔い潰れても送ってあげないよ……」
かがみ「酔っている様に見えるか、まだ2杯しかでしょ!!」
いや、もう充分酔っている……
かがみ「そうそう、神崎あやめさんを殺したとされる殺し屋が捕まったわよ、国際手配されていてかなりの大物みたいね……決め手は神崎あやめの携帯電話……」
こなた「神崎さんの仲間も殺されたって言ってた」
かがみ「ふ~ん」
かがみ目が細くなりにやけた。
こなた「な、なに、急にそんな顔して……気持ち悪いよ……」
かがみ「事務所に来てから神崎さん、神崎さんって、よくその話をするわね」
こなた「そんな話してないよ……」
かがみ「顔が赤くなっているじゃない、白状しなさいよ」
こなた「白状ってなに、お酒が入れば赤くなるよ……」
今日はやけに絡むな……
かがみはおつまみを一口食べた後私に近づいた。
かがみ「あれから何度も会ってるんでしょ?」
こなた「会ってるけど?」
かがみ「何処までいったのよ、」
こなた「何処までって……」
かがみは私の背中を叩いた。
かがみ「なに照れてるのよ、隠すような歳かよ、あんたが神崎さんを気にしているのはバレバレだ」
こなた「……」
そんな風に見えていたのか。だけど言っている事はだいたい合っていた。
かがみ「私は別に構わないと思う、お稲荷さんなら浮気は絶対にしないし」
こなた「いや、無理だよ……」
かがみ「何が無理なのよ!!」
かがみは迫ってきた。
こなた「冷酷であざとい……って」
かがみ「冷酷、あざとい……何よそれ?」
こなた「作戦をする時、神崎さんにそう言われた……好きとか嫌いとか以前の問題だよ……」
かがみは自分の席に戻りワインを飲み干した。
かがみ「あんたギャルゲーとかしている割にまったく分かってないわね、言葉通りの意味じゃないわよ」
言い方がカチンときた。私は立ち上がった。
こなた「もう帰る……」
かがみ「まぁ、待て、分らないなら教えてあげる、神崎さんはあんたの作戦に協力したでしょ……」
こなた「したよ……それがどうかしたの」
かがみは溜め息を付いた。
かがみ「これだけ言ってまだ分らないのか……鈍いわね……とにかく彼はまんざらでも無いって事よ、諦めるな」
こなた「諦める……何を?」
かがみは私をじっと見た。
かがみ「あんたを見ていると昔のつかさ……いや、ひよりを思い出す、まったく同じだ」
こなた「さっきから何言っているのか分らないよ……」
かがみ「だったら考えろ、気付いたら手遅れになるぞ」
こなた「かがみ……酔ってるよ……」
かがみ「うるさい、今日は最後まで付き合ってもらうわよ」
こなた「わかったよ……」
なんか非常にハイテンションのかがみだ。しょうがない今日は付き合うか……

 そういえばこうやって飲み会をするのは久しぶりかもしれない。
それもかがみと二人だけなんて学生時代まで遡らないとしていないかもしれない。
職場ではちょくちょくやっている。つかさやあやのは毎日のように会っているから気にもしていなかった。みゆきさんやみさきちにしてみれば一年に数回程度だ。
かがみにしてもつかさに比べれば少ない。時間が合わない。特に社会人になってからはその一言で会わなくなった。ゆたかやひより、みなみに関しても同じだ。
たまにはこんな時間が有ってもいいかな……
かがみ「みゆき……」
酔い潰れたかがみが寝言のように一言。みゆきさんの名を口にした。
もしかしたら薬が認められなかったのを一番悔しくおもっているのはかがみじゃないかな。現代の医学では治せない病気をたった一晩で完治したのを目の当たりにしている。
しかも自分の身体で……
だからこそみゆきさんもあの薬を再現しようと頑張ったのかもしれない。
今度みゆきさんと飲みにいくかな。

こなた「ここでいいよ、止まって」
車はゆっくりと止まった。
運転手「990円です……」
私は1000円を運転手に手渡した。
こなた「おつりはいいから」
私はかがみを肩に抱くとタクシーを降りた。
『ピンポーン』
呼び鈴を鳴らすとすぐに出てきた。
ひとし「泉さん……あ、かがみ、かがみじゃないか……」
私とかがみを見て少し驚いた顔をした。
こなた「よせば良いのに、飲みすぎちゃったみたいで……」
ひとしさんは呆れた顔でかがみを見たがすぐに近づいてかがみを抱き寄せた。
こなた「それじゃこれで……」
ひとし「介抱して疲れたでしょう、少し休んでいけばどうだい?」
こなた「でも、もう遅し迷惑でしょ?」
ひとし「子供達はもう寝てしまった、問題ない」
こなた「それじゃお言葉に甘えまして……」

 ひとしさんはかがみを今のソファーにそっと寝かすと毛布をかけてあげた。
ひとし「少しここで休ませる……お茶でいいかな?」
こなた「え、長居する気はないので……」
ひとし「来たばっかりでそれはないだろう」
ひとしさんは台所の方に向かいすぐに戻ってきた。ひとしさんは私にお茶お出すとかがみの方を向いて心配そうな顔になった。
ひとし「普段はこんなにハメを外す事はないんだけどな……」
こなた「まぁ、いろいろあったから……」
ひとしさんは私の方を見た。
ひとし「君の方がいろいろあっただろう、仲間が迷惑をかけたみたいだな、礼を言わないといけない」
仲間って神崎さんの事を言っているのかな。
こなた「うんん、それよりかがみがいろいろやらかそうとしてるけど、良いの?」
ひとし「……貿易会社の弁護の話か?」
私は頷いた。
ひとし「さすがかがみ第一の親友だな、話したのか……私は反対したのだが彼女がどうしてもって言うから根負けしてまったよ……」
こなた「反対したの?」
ひとし「ああ、第一危険すぎる、それに情報を消さなくとも大半の人間は真実とは見ないで自然に消されるもの……」
こなた「それじゃ何で……」
ひとし「それは君だよ、泉さんが行った一連の行動が彼女を動かしたみたいだな、「こなたには負けられない」……そう言っていた」
ひとしさんは再びかがみの方を向いた。
こなた「一つ聞いていいですか?」
ひとし「ん、どうぞ?」
ひとしさんはかがみの方を向いたまま答えた。
こなた「……かがみを何で好きになったの?」
ひとし「聞いていないのか?」
こなた「ひろしに護衛を頼まれて守っているうちに好きになったって……それくらいしか、かがみはそう言う話はあまりしないから……」
ひとしさんは私の方を向いた。
ひとし「そうだな、それで正解、ほぼ全てを話していると言って良い」
こなた「……かがみのどこが気に入ったの?」
ひとし「……急にそう聞かれてもね……」
ひとしさんは困った顔をした。話を変えよう。
こなた「故郷の星に帰りたくなかったの?」
ひとし「故郷か……故郷はこの地球だ、私はここで生まれてここで育った、真に故郷と呼べるのはけいこ、めぐみ、すすむくらいだろう」
こなた「神崎さんは?」
ひとし「……ああ、彼もそう、彼は1万年前、私達の集団から離れた……そう聞いている」
こなた「他に離れた人はいたの?」
ひとし「10名程同じ頃別れた、彼らは東に向かった、恐らくシベリアから北米を経て南米に行ったと思う、そこで知識を先住していた人類に教えたに違いない」
10名も南米に……でもメモリー板には何の反応も無かった。
こなた「で、でも」
ひとし「……そう、彼らはとっくに亡くなったみたいだな……私みたいに人間になったか、争いに巻き込まれたのか、自然災害だったか……今となっては知る事はできない」
こなた「ごめんなさい、変な事聞いちゃって」
ひとし「いや、別に構わない、すべて私の生まれる前の話だ、気にしていない、そう考えると神崎が生き残ったのは奇跡に近い、たった一人で……」
こなた「そうですね……」
かがみ「う~ん……」
かがみが唸った。
こなた「あ、かがみが起きるとまた騒ぎ出すから帰ります」
ひとし「ふふ、そうだな」
ひとしさんは玄関の外まで見送ってくれた。

呼んだタクシーが目に前に止まった。
こなた「これで失礼します」
ひとし「そうそう、かがみの何処が好きになったって話だけど……理由は無い、ただ好きになった……」
こなた「ただ好きになった……それだけ?」
ひとし「言葉では形容しにくくてね、そう言うしかない……」
タクシーのドアが開いた。もっと聞きたかった。だけど……
こなた「それじゃ……」
私はタクシーに乗り込んだ。

 かがみが言っていた。神崎さんの話ばかりするって……ひとしさんと話したときも結局神崎さんの話しになってしまった。
何でだろう……
私がひよりと同じだって……
結局それもかがみから詳しく聞けなかった。
何だろう。この変な気持ちは……


28

こなた「ふぁ~」
大きな欠伸……これで何回目だろう。
 今日は休日。
暇と言えば暇だ。
今日のかがみの依頼は休み。それでもって裁判の準備で忙しいそうだ。
あんな会社の弁護なんて適当でいいじゃん。そう言ったら、決まったからには全力で弁護するなんて言うし。
仮に無罪になったらどうするって聞いた。そうしたら
かがみは無罪にはならないって言う。それじゃ全力で弁護と矛盾するじゃん。
かがみ曰く、弁護士は無罪にするのが仕事じゃない。適正な罰をうけさせるのが仕事だって。貿易会社はもう既に社会的制裁を受けているから弁護する必要があるって……
確かにもう企業としての貿易会社は潰れたも同然だけど……
難しくて分らないや。
あやめさんの友人、井上さんと争う形なってしまった。本来なら私達は井上さんを支持する立場だけど……複雑だよね。

あやのやつかさは出勤日、遊びに行けない……
なんで今日に限って休みが合わないのかな……
テレビもこの時間帯に面白いのは放送していない。
何もする事がない。こんな時は溜まった留守録のアニメを観るけど、そんな気にはなれない。
オンゲー・オフゲーもする気になれない。ベッドに寝てボーと天井を見ている。
そういえば本棚に未だ読んでいない漫画がたまっているのを思い出した……何故か読む気になれない。
 かがみと会ってから一週間、それなり私は考えた。
考えた。何を。かがみは面白半分に私をからかっているだけ。そうだよ。
でも……あの時のかがみはからかっている様には見えなかった。
私がひよりと同じだって。何処が、どうゆう風に?
そういえばひよりはあれから会っていない。会えばそことなく聞けもするけど……あまり聞きたくないかな……
それでもかがみ言いたい事は分かった。私が神崎さんを好きだって。そう言っているのは分る。
私が……神崎さんを、お稲荷さんを好きだって?
ばかみたい。
仮に私が好きだとしても……
『ピンポーン』
呼び鈴の音がした。品物が届いたかな、、いや、最近ネットショップで何も買っていない。回覧板か何かな……
私は徐に身体起こした。
『ピンポーン』
こなた「はいはい今行きますよ」
独り言をいいながら玄関に向かった。

 ドアを開けるとそこには……
ゆたか「こんにちは~」
ゆたか「ゆーちゃん!!」
思わず昔の呼び名で呼んでしまった。
ゆたか「遊びにきたよ、いきなりで迷惑だったかな、急に時間が空いたから……」
こなた「うんん、そんな事ないよ、入って入って!!」
私は居間にゆたかを通した。
こなた「それにしても久しぶりだね」
ゆたか「うん、お姉ちゃんにお弁当を渡してから会っていないね」
こなた「あっ、そうそう、お弁当箱返さなきゃ!!」
ゆたか「うんん、あれは元々お姉ちゃんのもだから、私が卒業して此処を出る時間違えて持って行っちゃった」
立ち上がったけどゆたかがそう言うので直ぐに座った。
こなた「それにしても急だね、もう映画化の仕事は終わったの?」
ゆたか「うん、もう9割りくらい終わったから、昨日打ち上げして休暇をもらったの」
こなた「そなの、それならひよりも一緒に来ればよかったのに」
ゆたか「うんん、ひよりだけは今日も仕事、明日休みだって」
こなた「そうなんだ……」
ゆたかは辺りを見回した。
ゆたか「おじさんは?」
こなた「お父さん……お父さんは正子さんとお買い物に行ったよ」
ゆたか「正子さんと……」
こなた「ついでに映画も観るとか言ってたかな……」
ゆたかはにっこり微笑んだ。
ゆたか「ねぇ、これってデートじゃない?」
こなた「デートって、デート?」
ゆたかは何度も頷いた。
こなた「まさか、あの歳で?」
ゆたか「うんん、年齢なんか関係ないよ」
こなた「それはそうかもしれないけど……有り得ない……」
ゆたか「そうかな、そうでも無い様な、ゆいお姉ちゃんが言っていたけど、正子さんは不思議と懐かしい感じがするって……かなたおばさんに似ているって」
ゆい姉さんがそんな事言っていた?
確かにゆい姉さんは生前のお母さんに会っている。
こなた「でも、ゆい姉さんだって幼かったでしょ、そんなの覚えているかな?」
ゆたか「う~ん、でもそう言ってたし、おじさんとそんな話しなかったの?」
こなた「そんな話なんかしない」
ゆたかはまた笑顔で話した。
ゆたか「でもこのまま仲が良ければ結婚だって、お姉ちゃん、新しいお母さんができるかも?」
私は笑った。
こなた「お父さんが正子さんと、あははは、まさか……それに今更お母さんなんて言われてもね……」
ゆたか「嬉しくないの?」
こなた「別に……」
嬉しいとか嬉しくないとか……でも、正子さんなら……なんて思ってみたりもする。
ゆたか「正子さんは何時まで此処に?」
こなた「新しい家も完成したし、来週には引っ越すかな……」
ゆたか「今まで一緒に暮らしているのに分らなかったの?」
こなた「……そこまで気にする余裕がなかったから」
ゆたかの顔が曇った。
ゆたか「ひよりから全部聞いたよ……いろいろあったって……」
こなた「そうだよ、いろいろあった……って、ひよりから聞いたの?」
ゆたか「うん」
話したのか。っと言ってもゆたかは知っても構わない。
ゆたか「みゆき先輩の話は……残念だったね」
ゆたかも知っていた。いや、これは結構大きく報道されたから普通なら気付くだろう。
こなた「お稲荷さんの知識を世に出すのが早すぎた、そうかがみが言ってた」
ゆたか「たかしさんがつかさ先輩のやさしさに最大限の礼を尽くしたのがあの薬、そうだとしたらあの薬は
お稲荷さんの知識の中でも特に高いものだったんだね」
こなた「それなら自分の物にしちゃえば良いのに、馬鹿だよ……」
ゆたかは呆れた私を諭すように放し始めた。
ゆたか「私も以前に調べた事があってね、お姉ちゃんは世界四大文明って知っている?」
こなた「そのくらいは、黄河、メソポタミア、インダス、エジプト……」
ゆたか「うん、それに中南米に栄えた文明……これも全部お稲荷さんが教えた知識が元になってる」
お稲荷さんは4万年前に地球に来た、それを考えれば想像できる。調べるまでも無い。
ゆたか「例えば……ピラミッドの建造方法は現代でも大きな謎の一つになってる、何千年も崩れない石の積み方は現代でもかなり難しい技術だって、
    それを三つも造っているのに後世にその技術が伝わっていない……それに中米のマヤ文明に至っては高度な文字や天文学、
建築技術もあったのに全部放放棄したかのようにみんな忘れてしまった、それと同じ事がみゆき先輩にも起きた、私はそう考える」
こなた「……なんでそんなに沢山教えたのかな?」
ゆたか「メモリー板が見つからなかったから、人間に故郷までの通信をしてもらおうと思ったって言ってた……だけど、それも諦めたって」
こなた「誰がそんな話を?」
ゆたか「かがみ先輩とひとしさん」
こなた「ふ~ん、でもゆたかに話して漫画のネタにされたらまずいんじゃないの?」
ゆたかは首を横に振った。
ゆたか「真実を知らない大多数のひとは只のネタだと思うから、だから私やひよりに話したと思う……逆に私達がネタにするから
    神話化される、」
こなた「なんとなく分ったような気がした……」
昔話や神話をまさか本当だとは誰も思わないか……
ゆたか「かがみ先輩、お姉ちゃんの事すごく褒めてた、だから貿易会社の弁護を引き受けられたって」
かがみはそんな事までゆたかに話したのか。
こなた「私の作戦が中途半端だった、かがみがその穴埋めみたいな事をしている……」
ゆたか「だからお姉ちゃんも手伝ってるわけだね」
こなた「まぁね……」

 ゆたかが急に私を見て微笑んだ。
こなた「な、何……急に……」
ゆたか「ひとしさんに何故かがみ先輩を好きになったって質問したって?」
こなた「え?」
なんでゆたかがそんな話を知っている。ひとしさんが話した?
……違う、かがみだ。まさかあの時起きていた?
こなた「かがみから聞いたの?」
ゆたか「うん」
ゆたかは大きく頷いた。
かがみめ余計な事を……かがみはつかさよりお喋りなのか?
そういえばつかさとひろしの時もかがみはよく私にあれこれ話していたっけ……
かがみの場合は親しい人には表裏を見せない。それは恋愛にしても同じって訳か……
ゆたか「お姉ちゃん!!」
ゆたかの顔が真面目になった。私は返事を忘れてゆたかを見た。
ゆたか「神崎さんとよく会ってるって?」
こなた「……会ってる」
ゆたか「会って何をしてるの?」
こなた「……何をって……メモリー板の使い方を教えてもらってる……すすむさんが教えてくれないから……」
ゆたか「それはね、彼の立場を勘得ると、未婚の女性と何度も会えないから、いのりさんに気を使っているの」
そうだったのか。全く気にもしていなかった……
ゆたか「それでその後はどうしてるの?」
まるで尋問をうけているようだ……
こなた「どうしてるって……お腹が空くから食事したり、買い物したり……」
ゆたか「おじさんと正子さんと同じだよ、それってデートって言うの」
こなた「だから……そんなんじゃないよ……」
ゆたか「お姉ちゃん!!!」
さっきよりも私を呼ぶ声が力強くなった。
こなた「な、何……」
ゆたか「お姉ちゃんは神崎さんをどう思っているの?」
どう思っている?
ゆたか「べ、別に……」
ゆたか「好きなの、嫌いなの?」
好きか嫌いか……そう言われれば答えは決まっている。
ゆたか「お姉ちゃんが神崎さんをなんとも思っていなければ話しはこれで終わり、だけどお姉ちゃんのその表情はそうじゃないって言っている」
こなた「ふふ、どっちでもいいじゃん……もう関係ないし」
ゆたか「関係ない……関係ないってどういう意味?」
こなた「私がどっちでも意味ないって事だよ」
ゆたか「だからそれじゃ分らない!!」
いつもの笑顔のゆたかじゃない。なんでそんなに構ってくるかな。
こなた「神崎さんは私の他に好きな人が居るって意味だよ」
これは言いたくなかった。ゆたかがあまりにしつこいから勢いで言ってしまった。
ゆたか「他に好きな人……それは誰なの?」
こなた「……神崎さんは井上さんが好きなんだよ」
ゆたか「井上さんって、井上浩子さん?」
こなた「そうだよ、だから、もう良いでしょ、もうこの話は終わり!!」
私は立ち上がり自分の部屋に行こうとした。しかしゆたかも立ち上がり私の前に回りこんで立ちはだかった。
こなた「どいてよ……」
ゆたか「それは直接本人から聞いたの?」
こなた「だから……どいて……」
私はゆたかを睨みつけた。ゆたかはどこうとはしなかった。
こなた「……聞かなくても分るよ、神崎さんは井上さんを助けようと必死になってたからね……」
ゆたか「本人に聞いてもいないのに決め付けるなんて、それじゃダメだよ」
こなた「聞く……聞くって神崎さんに井上さんが好きなのなんて聞けるわけないじゃん」
ゆたかは激しく首を横に振った。
ゆたか「ちがう、ちがう、そうじゃなくて、お姉ちゃんの気持ちを話すの」
こなた「私の……気持ち?」
ゆたかは頷いた。
ゆたか「相手がどう思っているなんて関係ない、まず自分の気持ちを言わなきゃ何も始まらないよ」
……ゆたかってこんなに積極的だったかな?
こなた「……話すって……そんなの言えないよ……」
ゆたか「……それは分る、すっごく分る……だから敢えて言うの、そうじゃないと手遅れになる、ひよりの様に……」
かがみも同じような事を言っていた。
こなた「ひよりがどうしたのさ?」
ゆたか「ひよりはまなぶさんが好きだった、だけどその気持ちを話すのが遅れて結果的にまつりさんに先を越された」
かがみが言いたかったのはその事なのかな……
こなた「だけど井上さんと私じゃ……比べたら私の方が……悪いに決まって……」
ゆたか「それを決めるのは神崎さんでしょ、お姉ちゃんじゃない、言うのは簡単だよ、言えないなら握手でもすれば嫌でも相手に伝わる、
    だってお稲荷さんだもんね、それともメモリー板を使う?、それってお稲荷さんの力を超えられるって聞いたよ」
こなた「もういいよ、ゆうちゃん……言いたい事は分かったから……」
ゆたか「本当?」
こなた「うんうん」
ここは嘘でも言っておこう。そうじゃないと永遠に説教されそうだ。
ゆたかは体を移動させて通りを空けてくれた。これで自分の部屋にいけるけどゆたかもこれ以上追求しそうにないので
戻って居間の椅子に座った。ゆたかも私の後に付いてきた。
そして椅子に座った。その時だった。左手の薬指に光る物を見つけた。

こなた「それは?」
ゆたかは私の視線を追って自分の左手を見た。
ゆたか「これ?」
ゆたかはにっこり笑い左手の甲を私に見せた。薬指に指輪がはまっている。
こなた「それってもしかして……」
ゆたかは頷いた。
ゆたか「婚約指輪……」
こなた「やったじゃん、マネージャさんとか言ってた人?、……あれ、他の人は?」
ゆたか「両親やゆいお姉ちゃん、おじさんにも言っていない、身内ではおねえちゃんが最初だよ」
こなた「結婚式には必ず行くから」
ゆたか「式は当分お預け……かな、でも籍は入れるつもり……」
こなた「おめでとう……」
ゆたか「ありがとう」
こなた「ひよりより先立ったね」
ゆたか「うんん、ひよりの方が先だったりして……」
私は驚いて席を立った。
こなた「本当に?」
ゆたか「今日仕事って言うのは嘘で本当は結婚届を出しに行って……あっ!! これは内緒だよ」
ゆたかは慌てて口に人差し指を差し出してポーズを取った。
こなた「分ってるって、何れバレるだろうけど、それまで黙ってるよ」
ゆたか「ありがとう」
こなた「それにしてもダブルなんて……学生時代からは想像もつかない……」
ゆたか「そうかな……確かに最初はひよりは私とみなみの出会いから親友になるまでの過程を漫画のネタにしようと……
    うんん、実際にネタにしていた、ひよりはそういった想像力は凄いと思う、だけど一つ一つが断片的だから私が
    それを繋げて一つの物語にする、だから私達は二人で一人分の仕事をしている……半人前かも……」
こなた「いやいや、それで映画化できるほどの作品ができるのだから一人前だよ」
ゆたか「これもお稲荷さんのお陰だよ」
こなた「お陰って……唐突に……」
ゆたか「お稲荷さんの存在が私達の想像力を膨らませたのは確かだから……」
こなた「それならつかさがその最初の切欠を作ったようなもんだよ」
ゆたかは遠目になって上を向いた。
ゆたか「もし、宇宙船が事故を起こさなかったらお稲荷さんは4万年も地球に居なかった、きっと調べ終わったら帰ったよね?」
こなた「そうだろうね、元々のお稲荷さんの体は地球に合わなかったみたいだし……」
ゆたか「そう考えると私達とお稲荷さんが出会うって凄いことだよ、無数にある星の中から地球を見つけただけでも奇跡だよ、
それに宇宙の歴史を一年にすると人間の歴史なんて数秒にもならないって言うでしょ、その数秒の中で他の星の人間と出会えるなんて……」
こなた「まぁ、そうだね」
ゆたか「だからお姉ちゃんもその出会いを大事にね」
こなた「まぁ……そうする……」
なんだかゆたかに言い包まれた感じがしてならない。
それでも嫌な気はしなかった。

ゆたか「おじさん……遅いね……」
確かに遅い。もうとっくに帰ってきても言い時間だった。
ゆたか「せっかく報告しようかと思ったのに……」
左手の指輪を見ながら呟くゆたか……
こなた「いや、お父さんより両親が先じゃない?」
ゆたか「そうかもしれないけど、高校三年間も居させてもらっているから……」
ゆたかは立ち上がり帰り支度を始めた。
ゆたか「叔父さんを元気付けようと思ったけど、それも必要ないみたいだし、むしろそれが必要なのはお姉ちゃん……かな」
こなた「それは余計なお世話だよ」
ゆたかは笑いながら玄関に歩いて言った。
ゆたか「そうそう、さっきお姉ちゃんが言った事、あれは少し違うと思うよ」
こなた「さっき言った事、何?」
ゆたか「神崎さんが井上さんを好きだったって言ったでしょ」
こなた「そうだけど……」
ゆたか「神崎さんは約束を守るために井上さんを助けようとした、私はそう思う」
こなた「約束……誰と?」
ゆたかは溜め息を付いた。
ゆたか「だから……うんん確証はないから言えない、お姉ちゃん自身が確かめて……それに諦めたらおわりだから」
こなた「う、うん……」
ゆたか「それじゃ、おやすみなさい」
こなた「おやすみ……」
ゆたかは玄関を出た。
ゆたかは何を言いたかったのだろう。
私は首を傾げた。

 もう日が替わる時間だ……お父さん遅いな。
正子さんがこの家に来る事になって直ぐだったかな。世間体が悪いって事で結局正子さんは近所のアパートを借りて住む事になった。
でも直ぐにお父さんとよく会うようになった。
ちょくちょく家に来て掃除とかお父さんの世話をやくようになった。
ゆい姉さんもよく遊びに来るからそんな二人の姿を見てお母さんに似ているなんて思ったに違いない。
私の休日は仕事の時が多いし時間も不定期……
そういえば二人が会っている所を見たことがない。いったいどんな話をしていたのだろう。
まさか本当に二人は……
その時、玄関に人の気配がした。
そうじろう「ただいま」
帰ってきた。私は自分の部屋に忍び足で向かった。
そうじろう「こなた~」
私を呼んでいる。私はパソコンのスイッチを入れ、ヘッドホンを付けた。
暫くするとドアをノックする音が聞こえた。私は気付かない振りをした。
ドアを開ける気配がした。私はそこで初めて気付いた振りをする。
こなた「あ、お父さんお帰り……」
わざとらしくヘッドホンを外した。でもお父さんはそれに気付かない。そればかりか何か思い詰めた顔をしている。
そうじろう「こなた、折り入って話がある……」
こなた「どうしたの、改まちゃって?」
まさか……ゆたかの言う通りに……?
私は座ったままお父さんの顔を見上げた。
そうじろう「こなたももう大人だ、私の言う事は理解できると思う……後は許してくれるかどうかが……」
こなた「前置きは良いから何なの?、こっちはゲームの真っ最中だから……」
ゲームなんかしてもいないのに白々しい……
そうじろう「そ、そうか、そうだな……」
それでもお父さんは激しく動揺していた。これはマジな話に違いない。そう確信した。
そうじろう「お父さんは……」
お父さんは緊張している。こんなお父さんを見たのは初めてだ。
自然に私も体全身に力が入ってきた。手に持っているヘッドホンを強く握っているのが自分で分った。
そうじろう「お父さんは、正子さん……神崎正子さんににプロポーズをした……」
何とななくそれは分っていた。だけど改めてそう聞かれると、どう対応していいのか分らない。
なんて言ったら良いのか……

29

 お父さんは何て言った?
ヘッドホンが壊れるくらいの力が入っていた。私はヘッドホンを机の上に置いた。
こなた「ふふ、お父さん……エープリルフールはもうとっくに過ぎたよ……そういえばずいぶん前にも似た様な嘘を……」
そうじろう「嘘じゃない……これは本当の話……」
私の話に割り込むように話してきた。
……嘘じゃない……
お父さんの顔は真剣そのものだった。
こなた「そ、それで相手は……?」
そうじろう「受けてくれなければこなたに話さない」
なんだろうこの気持ちは……
私は立ち上がると部屋を出た。
そうじろう「何処へいく……まだ話は終わっていない……」
私は制止を無視して歩いた。お父さんが後から付いてくるのが分る。
そして……お母さんの位牌の前で立ち止まった。
そうじろう「こなた……」
お父さんもすぐ後ろで止まった。
若い頃……生前のお母さんの写真……にっこり微笑んでいる。
こなた「……正子さんってお母さんに似ている……そうゆい姉さんが言ってたみたいだね……」
私はお母さんの写真を見ながら話した。
もちろん容姿はぜんぜん似ていない。似ているのは内面的な事を言っているに違いない。
そうじろう「……それを何処で?」
こなた「つい一時間くらい前までゆたかが遊びに来ていたから……」
そうじろう「そ、そうか、ゆーちゃんから聞いたのか……」
おとうさんは私の前に移動すると座り位牌に手を合わせた。
そうじろう「こなたが神崎さんの母親を連れてきた来た時正直驚いた……知るはずも無いかなたの面影を感じて俺に合わせたのかと思った」
こなた「そんなの知らない……家を焼かれてしまったから呼んだだけ、私の友達の母親だから」
そうじろう「知らなかったのか……これも何かの縁なのかもしれない……」
こなた「もしかしてお母さんの代わりで?」
お父さんは振り返って私を見た。
そうじろう「違う、違うぞこなた、それは断じてない、かなたの代わりではない、神崎正子、一人の女性として愛しているから……決して代わりではない」
愛している……か、例え娘にでもそんなに簡単にはっきり言えるなんて……
そうじろう「お母さんを……かなたを裏切ったと言いたいのか?」
裏切り……お母さんはどう思っているのだろう……亡くなっているから聞けるはず無いもない。
それなら正子さんの亡くなった旦那さんはどうなの……?
あやめさんならどうした?
皆聞けない。
そうじろう「……こなた、これは浮気でも裏切りでもない、分って欲しい」
聞けないなら生きている人で決めるしかない。
私はどう思う……
お父さんのあの真剣な態度、正子さんは受けたって言っていた。
そうじろう「こなた……」
お父さんは涙目になっているた。
こなた「……正子さんは?」
そうじろう「アパートに送って来た」
そうなのか……お父さんは私が許すかどうか試しているのか……
私の意見なんてどうでも良いのに……
こなた「正子さんが受け入れたのならもう私の出る幕はないよ、早く家に連れてきて一緒に住んだら?」
そうじろう「い、いや……あやめさんの喪が明けてから……それに妹のゆきにも相談した、やはり娘の意見も聞かないとな……」
あやめさんは本当は5年前に亡くなっている。喪がどうのこうのは当てはまらない。
って言う事は……正子さんはお稲荷さんの話をしていないのか……
今まで娘の私が話をしていないくらいだから話せないかもしれない。
そうじろう「こなた?」
お父さんは驚いた顔をした。
でも……今はその時じゃないみたい。
こなた「ん?」
そうじろう「も、もしかして、私達を許してくれるのか?」
こなた「さっきそう言わなかった?」
お父さんは私の右手を両手で握った。
そうじろう「ありがとう、ありがとう……」
ありがとう、おとうさんは何度もそう言った。
こんなに動揺したお父さんを見るのは初めてだ。
こなた「お父さんと正子さんが結婚したら……あやめさんとは姉妹ってことになるね……」
そうじろう「……歳は同だったな……誕生日は5月1日だそうだ、彼女はこなたの姉になる……本当に残念だった、
      お父さんの所に取材に来たのは代理だったが、とても楽しい子だった……」
そう、本当は井上さんが取材に来る筈だった。急病であやめさんが代わりを引き受けた。それはまなみちゃんの演奏会の時も……
こなた「それじゃ正子さんに挨拶しに行かないと……」
そうじろう「い、いや、それはもう少しまってくれ……」
こなた「どうして、私が許したならもう何も阻む者は居ないよ?」
そうじろう「時間を見ろ、もう遅い」
こなた「それじゃ明日だね、私は早番だから夕方には帰れる、どうせ家に呼ぶんでしょ?」
そうじろう「そ、そうだが……」
こなた「それじゃ決まりだね……それにしてもどうやって正子さんを落としたの、口説いたとか?」
そうじろう「こ、こら、人聞きの悪いこと言うな、別に口説いてなんかいない、ただ自然に……」
お父さんの顔が赤くなっている……これはいじり甲斐があるってもんだ。
こなた「確かに……確かにゆいの言うとおりかなたの面影があった……しかしそれだけではプロポーズなんかしない……」

 その後、おとうさんは正子さんと出会った時からプロポーズするまでの話をし始めた。
他人にまったく躊躇することなく、それも嬉しそうに話している。
そう、まるでお母さんの話を私に聞かせているいる時のお父さんとまったく同じだった。
それに引き換え私は……
つかさやかがみだって、いや、私以外の皆もそうやっていた。
お父さんを見ていてなんだか勇気が沸いてきた。
そうさ、簡単だ。選んでボタンを押すだけ。いつも私がゲームでやってきたじゃないか。
そうじろう「こ、こなた」
突然微笑んだ私にお父さんは話を止めた。
こなた「うん?」
そうじろう「あやめさんの件については本当に残念という他はない、だがこなた……彼女はそうとう危険な取材もしていたそうじゃないか、
      いままでよくこなたが巻き込まれなかったのが不思議なくらいだ」
いや、思いっきり巻き込まれている。二回の潜入取材、メモリー板、いのりさんの参加、みゆきさんの薬、かがみの弁護……
私の周辺も巻き込んで大騒ぎになった。
大騒ぎになったけど……何故か嫌な感じはしなかった。
そうじろう「わ、悪かった、彼女はこなたの親友だったな、悪く言うつもりはなかった」
こなた「お父さん、あやめさんの取材を受けたでしょ……」
そうじろう「そうだった、彼女と会っていなければこなたが正子さんを招こうと提案しても賛成はしなかった」
お父さんは不思議そうに私を見た。
こなた「ん?」
そうじろう「い、いや、何ていうのか、あやめさんとこなたはどうして出会ったのかって……どう見ても接点がみつからんのだよ」
接点……
こなた「片や出版社随一の記者、片やしがないレストランのホール長、まぁどう見ても接点なんかないよね……」
そうじろう「い、いや、皮肉と捉えないでくれ、ただ純粋にどう出会ったか聞きたかっただけで……」
慌てて言い訳をするお父さん。
接点、それは一言で言えばお稲荷さん。もっと限定的にいえば私のげんき玉作戦、それらをあやめさんは追っていくうちに私に出会った。
ある意味出会いべくして出会った……これって運命ってやつなのかな。
つかさが一人旅に出ていなければ、私もレストランで働くこともなかった。
それじゃ何をしていた?
ふふ、ニートになっていたかな……
そうじろう「こ、こなた?」
不思議そうに私を見るお父さん。はたしてお稲荷さんの話をした時、お父さんはどんな反応をするのだろう。
素直に受け入れてくれるのか。みさきちみたいに鼻で笑ってネタで終わってしまうのか……
そうじろう「……すまない、今はそんな話をするべきではなった、こなたが話す気になったら……それでいい」
そうじゃない、そうじゃないけど……今はそれで良いのかもしれない。
お父さんは部屋を出ようとした。
こなた「お父さん」
お父さんは立ち止まり振り向いた。
そうじろう「ん?」
こなた「結婚……おめでとう」
そうじろう「あ、ありがとう」
照れくさそうに小走りに自分の書斎に行ってしまった。

こなた「ふぅ~」
溜め息を一回。
お母さんの写真を見た。
お父さんはお母さんにもあんな風に告白したのかな……
それにしても私って……どうして言えないのかな。
倒産はさりげなく言っていた。
私が女性でお父さんが男性だから

……いや、性別なんて関係ない。
好きなら好きって言えばいいだけじゃん。
そうだよ、普段ゲームでやっているようにカーソルで選んでエンターキーを押すだけ……簡単じゃないか。
なんか勇気が湧いてきた。
今度の休みの時神崎さんと会う。丁度メモリー板の使い方も一段落しそうだし。するならその時だ。
こなた「お父さんが出来たなら私にだって出来るよね」
お母さんの写真に向かってそう呟いて部屋を出た。


こなた「こうでしょ?」
つかさがひろしと一時別れた時に見たと言う光の幻想をイメージした。
もちろん実際に見たわけじゃない。あくまでイメージ。
足元がぼんやりと光りだした。
そして床も光りだす……
神崎「ほぅ、もう会得したか……これで私の教える事は全てだ」
理屈は詳しく知らないけど大気のエネルギーを制御する技術らしい。

 時間が経つのは早い。気付けばもうその時が来てしまった。
ここは柊家が管理する神社の倉庫裏。メモリー板の使い方を教えてもらうって言ったらつかさが此処を教えてくれた。
私も長年この神社に出入りしてきたけど初めて知った所だった。
ここには神社関係者以外滅多に人が来ない。メモリー板の使い方をレクチャーしてもらうには打ってつけの場所。

こなた「光だけじゃなくて熱も制御できるんでしょ?」
神崎さんは頷いた。
神崎「その気になれば爆発で辺りを吹き飛ばし一面焼け野原にさえ出来る、そして一瞬で周りを凍結することだってね」
こなた「凄いね……お稲荷さんってこのメモリー板の能力が使えるんでしょ?」
私はポケットからメモリー板を取り出した。
神崎「ああ、使えるがメモリー板ほど強力ではない……」
こなた「ふ~ん、貿易会社ってこのメモリー板の本当の能力をしらなかったんだね、知っていたらあんな遣い方しなかったよね」
神崎「そうだな、メモリー板の情報を解析していけば何れ気付いたかもしれないがな」
私はメモリー板をじっと見た。
神崎「その技術はほんの基本にすぎない、どうだ今の人類ではとうて成しえない力を手にした感想は、地球を支配出来る力を得たんだ」
私は笑った。
こなた「ふふ、中二病じゃあるまいし……そんなの興味ないよ……うちのレストランのイベントの時とかのイルミネーションに使えそうだね」
神崎さんも笑った。
神崎「そう言う遣い方もあったか……ふふ」
あれ、これって、なんか良い雰囲気じゃない?
これってフラグが立った?
チャンス?
なんだかドキドキしてきた。
そういえば告白なんて……初めて?
うぁ、この歳になって初めて、おかしいかな……
神崎「一つ聞きたい事がある」
こなた「は、はぃ!!?」
突然の質問に声が上擦ってしまった。
神崎「メモリー板の使い方を得て何をするつもりなんだ、野心か野望か……さっきの話からするとそんな風にも思えない、真意を聞きたくてね」
真意か……
こなた「そう言うのって教える前に聞かない?」
私の質問返しに神崎さんは苦笑いをした。
神崎「……そうだな、そうかもしれない、何に使おうと君の自由、誰も君を阻むものは居ない、私でさえも」
それならどうして私に教えたのか聞きたいくらいだった。
こなた「メモリー板の持ち主としてはどんなものなのかちゃんと知っておきたかったから……答えになってるかな?」
神崎さんは頷いた。
神崎「それで、それを知った感想はどうだ?」
また難しい質問を……みゆきさんを連れてきたいくらいだ。
こなた「変身、つかさの見た光の幻想、かがみの呪いと病気を治した薬、金縛りの術に催眠術……深い原理は分らないけど、それが魔法じゃないってのが分ったよ、
    うんん、多分教えてもらう前から分っていた、だけどこれだけ進んだ現代でもお稲荷さんの知識と技術はやっぱり魔法なんだなと思った、
    これだけチートな物をつかったら反則だよ」
神崎「それで?」
まだ続きをききたそうだ。もうないのに……
こなた「……だからこのメモリー板はここに在ってはいけないんじゃなかったって、でも私はそれを持っている、私達以外の人がそれを知ったらきっと
    欲しがるよね、貿易会社みたいに、でもさ貿易会社って特別な会社じゃないよ、普通の人が経営して普通の人が働いていた普通の会社……
    私も普通の人間、私はこのメモリー板をずっと隠していく自信がない、例え隠しきれたとしても私が死んだらどうなるかな……
そう思うと誰にも渡せなくなっちゃう」
神崎「そうか……それで?」
私の言いたい事を分っているみたいだった。
こなた「貿易会社の裁判が終わったらこのメモリー板を壊そうと思ってる」
神崎「壊すのか……本当にそれでいいのか、そうしたらもう魔法はつかえなくなるぞ」
こなた「もう充分に教えてもらった、太古の時代からお稲荷さんから教えてもらった知識と技術を使って今の暮らしができているし、
    なによりかがみの病気を治してくれたのが一番嬉しかった……」
神崎さんは立ち上がった。
神崎「壊すか……賢明な判断だ」
まだ私の話は終わっていない。
こなた「それにね……」
神崎「まだあるのか?」
こなた「それに……あやめさんと逢わせてくれたらもう充分……お稲荷さんじゃないと出来ないよね」
神崎さんは寂しそうな顔になった。
神崎「私が会わせたのははい、彼女が、あやめ自身がそうさせたにすぎない、彼女の意思がなければそうはならなかった……」
こなた「それでもお稲荷さんじゃなきゃ出来なかった」
神崎さんは苦笑いをしながら帰り私宅をしだした。

さて……もうそろそろ時間だ。もう心の準備は出来ている。
あとは言うだけ。
神崎さんが帰りの支度をしている。言うなら今だ。
こなた「あ、あの~」
神崎さんが支度を止めてこっちを向いた。
神崎「泉さん、メモリー板を壊す前にして欲しいことがある」
こなた「え、え、あ、な、何ですか?」
私の声が小さくて聞こえなかったのか突然の事で言葉が詰まった。
神崎「母星との交信がしたい」
こなた「あ、それなら……」
私はメモリー板を神崎さんに渡そうとした。
神崎「いや、壊す直前でいい」
神崎さんはメモリー板を受け取ろうとはしなかった。
こなた「直前って?」
神崎「私の目的は終わった、もうこの地球にいる理由がなくなった」
え、どう言うことなの。ちょっと……
こなた「無くなった……って?」
神崎「そう、無くなった、私は故郷に帰る」
ちょっ、帰るって。そんな話は聞いていない。
こなた「地球ってやっぱり人間が居て住みにくいのかな……」
神崎「住み難い、いや、もう故郷より長く此処に居る、狐に変身してしまうのを除けば快適に近い、どんなに鍛えても必ず狐の姿になってしまう期間ができてしまう、
   そんな私を助けてくれたのも人間だった」
それじゃ帰る必要なんかないじゃないか。
こなた「もしかして故郷に危機が来ていて大変だから?」
神崎「そういえば先に帰った仲間の中にはそれで帰った者もいたそうだな、それに、その危機は私が一人帰ったところでどうにか出来る問題ではないらしい」
こなた「それじゃ何で?」
神崎「あやめとの約束が終わった……」
こなた「あやめさんとの約束?」
約束って、いつ、どんな約束を。
神崎「そう、井上浩子と神崎正子をよろしく頼む……それが彼女の死に際の私へのメッセージだった」
こなた「えっ!?」
神崎「もちろんあやめはもう瀕死で言葉すら発する事はできなかった、彼女の記憶をトレースすした時に彼女の意思が私にそう伝えた」
あやめさんとの約束。違う……それじゃ違うじゃないか。
こなた「そ、それじゃ井上さんの病気を治そうとしたのは……?」
神崎「あやめとの約束を果たす為」
まさか、これってゆたかが言っていた約束した相手って……
それに言葉を交わした約束じゃない。あやめさんの意識の中のメッセージを勝手に約束にしている。
うそ、それって、まさか……
こなた「あやめさんと神崎さんって……?」
神崎「私は神崎あやめを愛していた」

 その時私の頭は真っ白になった。

神崎「此処には彼女の思い出がありすぎる……ここに残っていても辛いだけだ……」
神崎さんはあやめさんを好きだった……
私ってどんだけニブチンなの。
こなた「井上さんを必死に救おうとしていたからてっきり井上さんを……」
神崎「彼女とは直接会っていない、もちろん神崎あやめとしては会っていたが彼女には特別な感情はない、それがどうかしたのか?」
こなた「え、い、いや、な、なんでもない、何でもないよ……」
神崎さんが好きなのが井上さんからあやめさんになっただけ。何ら問題はない。そうだよ。全く問題なんか無い。
神崎「井上さんには私の話は伏せていて欲しい、あくまで神崎あやめは半年前に亡くなった、そうでなければ約束の意味が無くなってしまう」
こなた「そうだよね、うんうん、意味はないね……そ、そうだ、帰るならこのメモリー板もそのまま持って帰ってもらえればわざわざ壊す必要なんかないじゃん?」
え……私って何を言っている?
違うよ。私はそんなのを言いたいんじゃなくて……。
神崎「……なるほど、確かに壊す必要はないな……それにそれの方がより安全」
こなた「つかさもけいこさんに会いたがっていたから交信するならつかさも一緒でいかな、もう二度と通信なんか出来そうにないし」
どうして……喉元まで出掛かっているのに言えない。
言えないよ。
神崎「私に許可を取るまでも無いだろう」
こなた「はは、そうだよね、私がすればいい……」

 それから街に出て食事をして別れた。
何を話したのかはっきり覚えていない。
そして私は言おうとしていた言葉を一言も言う事が出来なかった。

30

『カタカタ』
静寂した部屋にキーボードを叩く音だけが響く……
『ギャチャ!!』
ドアを開ける音がした。それでも私は作業を止めなかった。
かがみ「お! ちゃんとやってるわね、感心、感心」
私は振り向きもせずモニターを見ていた。
かがみ「もう家にきてからかれこれ2時間も……、小休止しなさい、お茶とお茶菓子持ってきたわよ」
ここはかがみの法律事務所の別室。私はここに来てはかがみの依頼を履行していた。
モニターの机とは別の私の後ろにあるテーブルにお皿を置く音がした。
こなた「別に疲れていないから……」
かがみ「まぁ、こなたにしならゲームをやっている時間と比べて2時間はたいした事はないかもしれないけど、根を詰めると体に毒よ」
いつになく優しい声のかがみ。普段の私なら「気持ち悪い」って言っている……だけどそんな気分ではなかった。
諦めて部屋を出るかと思ったけど椅子を動かす音が聞こえた。かがみは座ってお茶をすすりだした様だ。
確かにただモニターに向かっていても面白くない。
私は作業しながら話した。
こなた「裁判はいつ終わるの?」
かがみ「……なにしろ企業が相手だから時間はかかるのは確かよ、
    だから少しくらい休んでも一向に差し支えない」
こなた「かがみの依頼はもう少しで終わるよ、だからもう少しやっていくよ」
かがみ「ちょっ!! 私の見立てではあと1年はかかる作業よ……
    それもメモリー板の力ってやつなのか?」
かがみは相当驚いている。声を聞いてだけで分る。
こなた「そんな所……」
かがみ「それにしても早すぎるわよ」
こなた「早いに越したことはないでしょ、裁判が終わったらもう作業は出来なくなるんでしょ?」
かがみ「……それはそうだけど……」
かがみは黙ってしまった。またキーボードを叩く音が響く。
かがみ「あ、そうそう、知っているかもしれないけどあやめさんを殺した犯人が捕まったわよ、
    容疑はもちろんあやめさんの殺害」
一瞬手が止まった。
かがみ「なんだ、知らなかったのか?」
こなた「ふ~ん、捕まったんだ……」
かがみ「なによその気の無い返事は……」
私は再び手を動かし始めた。かがみはそのまま話を続けた。
かがみ「出国する寸前で押さえたそうよ、決め手があやめさんが使っていた携帯電話」
また手が止まってしまった。
かがみ「あんたの機転で殺し屋が捕まったのよ、やるじゃない」
こなた「別に……」
かがみの溜め息が聞こえた。
かがみ「そうそう、ヨーロッパを中心に活動していた職業としての殺し屋よ、日本では一人だけみたいだけど、
分っているだけで10人以上の要人を手に掛けていた様ね、きっとその中に神崎さんの友人含まれているわね……」
私はかがみの話を聞きながら手を動かした。
かがみ「どうあがいても彼の極刑は免れない」
こなた「そんなの自業自得」
かがみ「そう、自業自得、この日本の裁判で判決が出ても犯人引渡し条約があるからその国々で同じような裁判をする事になるわね、
恐らく彼が生きている内には終わらないわよ、事実上の終身刑のようなものになる、これも言い換えれば因果応報ってやつ」
こなた「因果応報ね……」
かがみ「なによ言い直して、言いたい事があるなら言いなさい」
こなた「けいこさんやつかさはお稲荷さんと人間が共存できるようにしようとした」
かがみ「失敗しちゃったけどね……」
こなた「……そして今度はお稲荷さんの記録を全て消そうとしている……そんでもってその両方に私は関わっている……これって良い事なの、悪い事なの?」
かがみ「ふ~ん、こなたもいろいろ考えるようになったわね、偉い偉い」
こなた「ふざけないでよ!!」
かがみ「ごめん……」
このあとかがみは暫くなにも話さなかった。答えを考えていたのだろうか。

かがみ「善悪なんて立場や状況で変わってしまう、絶対的なものじゃない、まぁ普通に私達の立場を考えれば人間を基準に考えるわね、
    つかさやけいこさんがしようとしていたのは紛れも無く良いこと、おそらく殆どの人に異論はないでしょうね、
    でも失敗した、だから今の私の行動がある、
    私はこれで良いと思っている、もともとこれは私が考えた事、こなたはそれに従っただけ、こなたは悪いと思っているわけ?」
こなた「うんん、悪いと思ったら手伝わない、だけど……」
かがみ「お稲荷さんの知識を勝手に消して良いのかって言うんでしょ、そう、そうよね、私もそれで助かった、それがあれば助かった命が幾つあるか、
    でも、貿易会社の件もある、彼らはそれを武器に利用しようとした、実際に作って使用した記録もあるわよ、それで奪われた命がいくつあるのか、
    差し引きゼロって言い方もあるかもしれない、でも命はそう言うものじゃない、
    お稲荷さんの知識ってそう言う物、お稲荷さん達は故郷でそういった知識を得てはその諸刃の剣に悩みながら克服してきた、
    そのプロセスを飛ばして得た知識は使いこなせない、それが私の結論、だからお稲荷さんの知識を消す必要があるのよ……
    まぁ、人間も自分自身の知識を使いこなしているかと言えば疑わしいけどね」
私は画面に向かって作業を続けた。
かがみ「ちょっと、人が一所懸命に話している間くらいは手を休ませなさい!!」
こなた「立て込んだ作業があって……もうちょっとだから……」
かがみ「あんたのそう言う所、全く変わっていない!!」
かがみのさっきの説明。私でも納得ができるものだった。
それに引き換え私が神崎さんにした話ときたら……全然説得力がない。ダメじゃん。
かがみみたいに頭の回転が早くて活舌だったら……
かがみ「それでこなた、折角使い方を会得して早々すまないけど、メモリー板はこの案件が解決したら……」
こなた「壊すって言いたいんでしょ?」
かがみ「えぉ!?」
意外だったのかかがみが言葉を詰まらせた。
こなた「さっきの話を聞けば分るよ、そんなに驚かなくても……」
かがみ「そ、それなら話は早いわ……壊してくれる?」
こなた「壊すのはそんなに難しくないよ、『壊れろ』って命令するだけ、だけどね残っている燃料が暴走してちょっとした爆発をするかもしれない」
かがみ「ちょっとした爆発?」
こなた「うん、たいした事じゃない、竜巻が来た位の被害だから」
かがみ「竜巻って……おい、尋常じゃないじゃない……」
こなた「うん、だから壊すのは止めて持って行ってもらう話になったから心配しなくていいよ……それにめぐみさんからもらったUSBメモリーも
    同じ燃料が使われているみたいだから一緒に持って行ってもらうから」
かがみ「……なんだもうそんな事まで考えていたのか、流石ね……っておい!!」
いつものかがみの突っ込みが始まるか……
かがみ「持って行ってもらうって何処に誰が持っていくのよ?」
その突っ込みも流石だよ。
こなた「神崎さんだよ、お稲荷さんの故郷に持って帰っるって、母星と連絡して迎いに来てもらう……」
かがみ「あぁ、なんだそう言う事なの」
こなた「うん、そう言う事……」
かがみが話さなくなったと思ったら直ぐに話し出した。
かがみ「……帰る、帰るって言ったわよね?」
こなた「うん、言ったけど……」
かがみ「帰るって、あんた、こんな所でパソコン操作していていいのか?」
こなた「……私がどうこう出来る問題じゃないし……」
かがみが私の近くに歩いてくる気配を感じた。
かがみ「出来る出来ないの問題じゃないでしょ、あんた神崎さんの事が好きじゃないのか、止めないのか……」
こなた「神崎さんはあやめさんが好きだったって……止められないよ……」
後ろから両肩を掴まれ座ったまま椅子を回された。私はかがみの正面を向いた状態になった。これじゃパソコンの操作が出来ない。
私は腰に力をいれて元に位置に回転させようとしたけどかがみが私の両肩を押さえているから動かない。
かがみは私の目を睨んだ。私は目を逸らした。
かがみ「帰る意味が分っているのか、彼の故郷がどのくらい遠いか分っているのか」
私は何も答えなかった。
かがみ「何か言いなさいよ……少なくともこなたの方から一生掛かっても会いに行けない距離……」
こなた「……そんなの知っている……」
かがみ「だったら何故……あやめさんに遠慮しているのか、彼女はもう居ない、遠慮なんか必要ないじゃない、引き止めなさいよ、
まだ告白もしていないのか、それとも神崎さんなんか好きでもなんでもないのか、二度と逢えなくなるのよ、
さようならで終わりでいいのか?」
執拗に責めて来るかがみ。最後のさようならで終わりでいいのか……
そう言われたら急に目頭が熱くなった。かがみがそれに気付いた。
かがみ「こなた……あんた……」
両肩から腕を放した。
こなた「引き止めるなんて……言えなかったよ……」
かがみ「言えなかった……」
こなた「好き……なんて……引き止めるにはそれを言わないとダメでしょ……だから」

かがみ「やっと言ったわね……その涙で判った……本気のようね」
そうかもしれない。この言葉を言うのは他人には初めてかもしれない。
かがみ「……でもそれは私にではなく神崎さんに言えばよかったのに……」
でもそれが本人ではくかがみに言うなんて……
こなた「……ボタンを押すだけだと思った……只それだけの簡単なものだと思ってた……でも本人が目の前に居ると……つかさみたいに出来なかった」
かがみが私から離れて席に戻った。
かがみ「……あんたもしかして告白しようとしていたの?」
私は黙って頷いた。
かがみ「つかさは自分の気持ちを後先考えずに直ぐに表に出すのよ、論外よ……
すごい、凄いわよ、こなた、しようとしただけでも凄いわ……私はそうしようとすら出来なかった……」
こなた「えっ!?」
私は始めてかがみの方を向いた。
かがみに嘲笑されるのかとおもった。思いっきり弄られるのかと思った。
かがみ「そうよね、言えるはずないわよ、言ったらどうなるのか、嫌われたどうしよう、冗談だろって言われるかもしれない、頭の中が
    ネガティブでいっぱいになっちゃうのよね……分るわ、私もそうだったからよくわかるわよ、うんん、今もそうだから」
まるで私と同じように俯いているかがみの姿がそこにあった。
こなた「今もそうって……結婚して子供までいるのに……」
かがみ「……彼……ひとしから私に近づいてきた、私は何もしていないのよ……」
こなた「何もしていないって?」
私が聞き返すとかがみはゆっくり顔を持ち上げて私を見た。
かがみ「大学時代、彼から声をかけて来たのよ、その内容までは覚えていない、他愛ない事だった……
    でも彼は次第に私の心の中が判っているような行動をし始めるのよ……将来の夢、好きな食べ物、場所……次第に彼に惹かれたわ
    そして気が付けば私の彼の腕に抱かれていた……もし彼が本気じゃなかったら……私は……私は……」
今まで一度も聞いたたことの無い恋愛の話をしている。あのかがみが……
かがみ「……だから私は一度も彼に……好きとか、愛しているなんて一度も言った事はない……」
こなた「でもさ……ひとしさんはお稲荷……」
かがみは腕を私の前に出して手を広げた。
かがみ「お稲荷さんだから私の心を読み取るって言いたいんでしょ?」
私は頷いた。
かがみ「ひとしがお稲荷さんだと知ったのはまなみちゃんが生まれてからなのよ……それまで私はずっと人間として彼と接していた……
    普通じゃとっくに愛想尽かれていたわよ……私は運が良かっただけ……」
かがみが恥ずかしがりやなのは知っていた。だけどここまでだったなんて……
だけど私はかがみとほぼ同じかそれ以上に奥手だ。
かがみはやもめの私をあまり弄らなかったのはその為だったのか……
かがみは立ち上がった。
かがみ「そうよ、神崎さんもお稲荷さんじゃない、こなたの心は分っている筈よ、それなのに帰るだなんて……もしかしたらあやめさんに遠慮しているのは
    むしろ神崎さんの方かもしれない……こなた、まだ諦めるは早いわよ!!」
かがみは再び私に近づいた。
こなた「早いって言われても……どうすれば……」
かがみ「まずははっきりとあんたの意思を伝えるのよ」
こなた「……でも……」
かがみ「わかってる、分っているわよ、それができていれば悩んでいない、いいわ私も一緒に考えるから諦めるなよ!!」
かがみは私の肩を何度か叩いた。
こなた「う、うん……」
私は椅子を回転させてパソコンの作業に戻ろうとした。
かがみ「待ちなさい」
半回転したくらいで動きを止めた。
こなた「な、なに??」
かがみ「こなた、あんたに会わせたい人がいる、今度の休日は空けておきなさいよ」
こなた「会わせたい人……誰、私の知っている人?」
かがみ「それは内緒、いろいろ勘ぐられたくないからな、只言えることは私があんたにひとしの話を出来たのはその人のおかげだと思っている」
確かに今のかがみはさっきまでとは違っていた。カウンセリングみたいなものなのかな……
こなた「空けるのはいいけど……その分作業が遅れるけどいいの?」
かがみ「別に構わない、裁判は遅れているし、それに裁判が長引いた方が良いでしょ、別れる日が延びるわよ、それに対策だって念入りにできるし」
かがみは微笑みながらウィンクをした。
こなた「え、あっ、そ、そうだね……」
もうかがみの対策は始まっているようだ。かがみがこんなに頼もしく見えたのは初めてだった。
かがみ「それじゃ、約束を忘れるなよ、あんたよくすっぽかすからな」
こなた「はは、そうだね……」
かがみ「お、今日初めて笑ったな、そうそう、それで良いのよ」
こなた「でもさ……なんで私が神崎さんを好きだって分ったの? お稲荷さんでもないのに」
かがみ「はぁ!?」
かがみは一瞬驚いた顔をして笑い出した。
かがみ「ははは、あんた、黙っていれば分からないと思ってたの、ほんとこなたって相変わらず鈍いわね……あの時神崎さんを連れてきた来た時点で
    分ったわよ、あんたが良く言うフラグってやつをビンビン立てていたわよ、多分あの時居た人の殆どがそう思ったわよ」
こなた「はは、そう、フラグね……はは自分の事だと分らないね……ははは」
私達は笑った……
かがみ「ポチっ!!」
『カチッ!!』
こなた「あっ!!」
突然かがみはパソコンの電源ボタンを押して強制終了させた。
こなた「ちょっ、かがみ~今日の作業未の分のデータみんな消えちゃったよ!!」
半分起こり気味で言うとかがみは笑いながら話した。
かがみ「今日の仕事は終わりよ」
こなた「終わりって……今日の作業でどれほど手間が掛かったか分るの?」
かがみは私の話を聞こうとせずこそこそと何かの支度をし始めた。
かがみ「こなた、出かけるわよ支度しなさい」
こなた「出かけるって……何処に?」
かがみ「こんな時は飲むに限る……っと言ってもこなたはそう言うのは苦手だったわよね……ゲームセンターならどう?」
こなた「……そんな気分じゃない……」
かがみ「なに言ってるのよ、昔、私がそう言っても無理矢理に連れて行ったでしょ」
それって高校時代の話なのか……
こなた「誰かを連れ立って行く歳じゃないし……」
かがみ「そんなの気にした事ないくせに」
かがみは私の腕を掴み引っ張った。私はは渋々立った。
こなた「分ったよ……ちょっと準備するから待って」
かがみ「ふふ、ゲーセンなんて行くの久しぶりね、行っておくけど子供を相手に鍛えたから以前の様にはいかないからな!!」
なんかすっごく息巻いているし……
私がかがみを呆然と見ていると。
かがみ「どうしたの、行くの、行かないの?」
こなた「行くけど……」
かがみ「行くけど何よ?」
こなた「仕事を中断してまで何で私に構ってくれるのかなって……」
かがみ「なに水臭いこと言っているのよ、私とこなたの仲じゃない、そんなの気にするな」
こなた「う、うん」
私は周りの書類を片付けだした。かがみはもう準備が出来たのか部屋の扉の前で私を待っている。
かがみ「こなた、支度しながらでいいから聞いて、私達はお稲荷さんの痕跡を消そうとしている、だけどねどうしても消せない物があってね」
こなた「突然何を言い出すと思ったら……その消せない物って何?」
かがみ「私よ」
こなた「かがみが、何で?」
かがみ「私は現代の医学では治せない病気に掛かった、でもお稲荷さんの秘薬で治った」
こなた「そうだけどそれがどうかしたの?」
かがみ「よく考えてみて、私は今此処に居ない筈の人間なの、こなたとこうして話している筈はない、つまり私がこうして生きているのは
    お稲荷さんが居たから……」
こなた「分り易いね、その通りだけど、まさかかがみを消すわけにはいかないよ……」
かがみ「そう、だから私の言動すべてがお稲荷さんの知識がもたらした結果そのものになるのよ、良い事、悪い事、その全てがね」
こなた「……そうだとしたら、かえでさんや井上さん、
    みゆきさんの臨床試験で助かった人もそうなるよ……」
かがみ「そうね、だけど私がその最初の人……だから私はなるべく良いことをしようと思って……」
こなた「メンドクサイじゃん、そんなの、今まで通りのかがみで良いんじゃない、
    命が助かって良かった位で思っていれば、一人で背負う必要なんかないよ」
かがみ「メンドクサイっておま……」
こなた「はいはい、準備できたよ、行こうよ、見せてもらおうか子供と鍛えた実力とやらを」
かがみ「何よその言い方……何かのネタか?」
こなた「え、知らないの、これね……」
かがみ「分った、分った、語りだすと長いから行こう」
私達は部屋を出た。

今日は全てを忘れられそうだ。
昔に戻って遊びまくろう。

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