ID:W145K4B60:ひよりの旅(ページ3)

-ゆたか「ねぇ、私達が来る前に弾いていた曲って何、今度聞いてみたいな……」
みなみ「いつでも来て、弾いてあげる」
ゆたか「ありがとう、今度聴きにいくから」
今頃に成ってそんなのを聞くなんて。
でも、もう完全に仲直りしたみたいだ。もっとも喧嘩と言うよりは意見の相違からくる意地の張り合いだったのかもしれない。それでお互い気まずくなってしまっていたに違いない。
ひより「さて、すっかり日も落ちたし、この辺りでお開きにしましょうか」
『ファ~~』
チェリーちゃんが大きな欠伸をし、前足を前に出して背伸びをした。公園を出るのを察知したみたい。
私達は辺りを見回し話しに夢中になっていたのに気が付いた。公園の街灯が点灯している。
みなみ「ゆたか、ひより、頑張って」
私とゆーちゃんは頷いた。みなみちゃんはチェリーちゃんを連れて公園を出た。私とゆーちゃんも公園を出て駅に向かう。
ゆーちゃんの決意が分った。みなみちゃんの想いも分った……いや、分っていない。みなみちゃんは私に何を忠告したかったのだろう。聞きそびれてしまった。
それにしてもつかさ先輩に憧れるなんて……私にはそれを完全に理解は出来なかった。
一人で旅をして、家を出て、全く新しい環境で、全く新しい人々の中でレストランを切り盛りしている。そこで出会った人達と共に……強さ、たくましさを感じる。
その辺りに憧れのだろうか。それとも……いや、今はまなぶとまつりさんの事を考えないと……
う~ん。頭がいっぱいになった。
帰って、お風呂に入りながら頭を整理しよう。
 
 その日曜日が来た。頭を整理どころか何の対策も思い浮かばないまま時間がすぎてしまった。
ゆたか「おはよ~」
待ち合わせの駅前に既にゆーちゃんは居た。私を見つけるとにっこり挨拶をした。
ひより「おはよ~」
挨拶を返した。
ゆたか「コンちゃん来るかな」
心配そうに駅の改札口を見るゆーちゃんだった。
ひより「どうかな、あの時の感じからするとどっちとも言えない」
ゆたか「私、いろいろ考えたのだけど、何も思い浮かばなくて」
ひより「それはこっちも同じだよ、ただ言えるのは小手先の作戦じゃダメだね、かと言ってあまり深く掘りすぎてもダメかも」
ゆたか「それじゃ何も出来ないよ」
ひより「そうだね、何もできない……でも、それが一番良いのかもしれない、自然の流れに合わすしかないよ」
無策の策と言うのだろうか。我ながら情けない。
 
 約束の時間を過ぎてもまなぶが現れる気配はなかった。
このまま待っていても仕方がない。
ひより「さて、行こうか」
ゆたか「え、待っていなくて良いの?」
私は頷いた。しかしゆーちゃんは納得出来ない様子だった。
ひより「まつりさんと会って、またまなぶさんが狐に戻った所を見られたらそれこそお仕舞いだよ、」
ゆたか「そうだよね、それだけは避けないとね」
ひより「だから来ないのも正解なのかもしれない」
ゆたか「それじゃ、私達だけで行こう……あ、あれ?」
ゆーちゃんは不意に建物の陰の方を向いた。
ひより「何?」
ゆたか「あれ、犬……うんん、狐だよ……さっき影が横切ったのが見えた」
私もゆーちゃんと同じ方向を見た。
ひより「何は見えないけど……」
ゆーちゃんはまた別の所に顔を向けた。
ゆたか「あ、まただ、きっとコンちゃんだよ」
ひより「どこ、どこ?」
私はキョロキョロと周りを見渡したが何も見つける事はできなった。
ゆーちゃんはゆっくりと歩き始めた。
ゆたか「今度はこっちだよ、私達を誘導しているのかも」
ひより「ゴメン、私にはさっぱり……」
私はゆーちゃんの後に付いていった。ゆーちゃんは影を追いながら歩いて行った。
 
ひより・ゆたか「ここは……」
影に導かれて来た所は、神社の奥にある倉庫。それは私達が最初にコンを連れてきた場所だった。
まなぶ「ごめん、街中で、人前で話したくなかったから此処に連れてきた、人気の無いここなら話が出来る」
私達の後ろからまなぶの声がする。私達は振り返った。
ひより「まなぶ……さん」
ゆたか「え、この人が?」
そうか、ゆーちゃんは人間になったコンを見ていないのか。まなぶは私達に歩いてきた。
まなぶ「結論から先に言う、今日は柊家に行かない」
ゆたか「ど、どうしてですか、正体さえ知られなければ大丈夫ですよ」
まなぶ「その正体が問題なんだ、私はまだ1日も人間で居られない、そんな不安定な状態でまつりさんと会うなんて出来ない」
ゆたか「で、でも」
まなぶ「せめてすすむと同じくらい、一週間は人間で居られるようにする、そらからだよ……一ヵ月後か、一年後か」
ゆたか「それならコンちゃんの姿で……」
まなぶは首を横に振った。
まなぶ「やっぱり犬じゃだめなんだ、人間として彼女と会いたい、そう思うようになった、それがどう言う意味かもね、私は彼女、柊まつりが好きだってこと」
ひより「す……き」
その言葉を聞いた瞬間なんとも言えない感情が込み上げてきた。
ゆたか「そうなんだ、それじゃしかがないね、ちゃんと変身できるようになってからでも遅くないかも、その時になったら手伝いを……」
まなぶ「いや、もういいよ、田村さんはもう充分に協力してくれた、あとは私だけでしたい」
そうだった。これ以上私の出る幕はない。
ひより「その通り、もう私の出来る事はここまで、後は二人の問題だよ」
ゆたか「ひよりちゃん、そんな中途半端でいいの?」
私は頷いた。
ひより「中途半端どころか、目的はそれだよ、これ以上の介入はそれこそ余計なお節介になるからね」
ゆたか「う~ん……」
ゆーちゃんは納得のいかないような表情をした。
まなぶ「それより、すすむが変な事を言い出して困っている」
ゆたか「変な事?」
まなぶ「ああ、整体院を閉めて遠くに引っ越すなんて言いだした」
私とゆーちゃんは顔を見合わせた。
ゆたか「どうして、いのりさんは諦めちゃうの」
まなぶは両手を広げてお手上げのポーズをした。
まなぶ「それは私も言った、だけどダンマリだったね、その代わりに、仕事をしすぎた様だって言っていた、そろそろ攻撃されるって……意味が分らん
    人間の君達なら何か分るのではないか?」
私とゆーちゃんはまた顔を見合わせた。分るはずもない。
まなぶ「すすむは大勢の人間を治してあげているのになぜ攻撃されなければならない、小早川さんなんか初診の時とは見違えるほど元気になったじゃないか」
その言葉にピンと来た。
ひより「それは、同業者とか、他の団体から圧力がかかるのかな、整体で出来る範囲を超えて治しちゃうと怪しまれるのかも、正当な治療をしなかった…違法な
    事をしたんじゃないかとか……」
まなぶ「それは、妬み、嫉妬って言いたいのか」
ひより「まぁ、そうとも言うね……」
まなぶ「人間って嫉妬深い生き物なんだな」
人間以外の人から言われると身につまされるような思いに駆りたたられる。何も言い返せなかった。
まなぶはメモ帳を取り出し書こうとしたけど止めた。
まなぶ「書き留める必要はないか、我々もまた嫉妬深いのかもしれないからな」
まなぶはメモ量を仕舞った。
まなぶ「さて、私は帰る、すすむには思い留まるよう説得してみるつもりだ、時間があったら君達も頼むよ、予定では二ヵ月後に引越しみたい」
ひより・ゆたか「はい」
まなぶは後ろを向くと狐の姿になった。そしてそのまま草むらに消えていった。狐に戻っても気を失わなくなっている。思ったよりも早くまつりさんの再会ができそうだ。
ひより「さて、私達も行きましょうか」
ゆたか「行くって、何処に?」
ひより「柊家だよ、約束しているしね」
私が歩き出してもゆーちゃんはその場に留まったままだった。
ゆたか「でも、コンちゃん、宮本さんは居ないし……」
肩を落とし落胆している様子が私にも分る。
ひより「かがみ先輩の様子もみないといけないから、泉先輩のミッション……あ」
しまった。これは内緒の話しだった。
ゆたか「……ひよりちゃん、この状況で別の依頼まで出来るの……私はそんなに頭が回らない、いのりさんと佐々木さん……私じゃ力不足だった」
ゆーちゃんは佐々木さんが引っ越すのを気にしているのか。そのおかげでミッションはスルーだ。良かった。
ひより「いや、優先順位を見誤っただけだよ、まつりさんはコンの時に基本的なコミュニケーションが取れていたからまなぶさんになっても手を掛ける必要は無かった、
    私なんか必要ない位だよ、問題なのはいのりさんと佐々木さん、人間同士だけの付き合いだから手を焼く必要があった、それだけだよ、ゆーちゃんのせいじゃない」
それでもゆーちゃんは動こうとしなかった。
ゆたか「ひよりちゃんは凄いね、そんな分析まで直ぐにできるなんて、なんでそんなに切り替えが早いの……まるで図書館でいくつもの小説を代わる代わる読んでいるような、
    週刊誌の漫画を好きな順番で観ているような……楽しんでいる、そんな感じにさえ見える……これも他人事だからできるの?」
ひより「え、えっと、それは~」
私ってそんなに気移りするように見えるのかな。私はまつりさんもいのりさんもかがみさんも別の物語だとは思っていない。
ひより「別の漫画とか小説とか、そんなんじゃないよ、この物語は一つ、全てはつかさ先輩の一人旅から始まった一つの物語、こう考えられない?」
ゆーちゃんは目を閉じて暫く考えた。そして目を開けて首を何度も横に振った。
ゆたか「だめ、ダメだよ、まつりさんはまつりさん、いのりさんはいのりさんだよ、それぞれ別だよ……ごめんなさい、少し考えたいの……ごめんなさい」
ゆーちゃんは走って倉庫を出て行ってしまった。そして私一人が残った。
私ってあまりに客観的に考えすぎるのだろうか。ネタを探すときとかは主観的に考えると詰まる場合が多い、だから一歩も二歩も引いて考える。
時には自分でさえも他人として考える……ゲームのプレーヤーとキャラクターと同じ関係、キャラクターを画面から操作しているからキャラクターがいくら危険な目に遭っても
悲しい出来事があっても進んでいける……泉先輩もそれに似ているように思っていたけど……従姉妹のゆーちゃんがあの反応じゃ違うのかな、やっぱり私は普通じゃないのかな……。
腕時計を見た。もう行かないと約束の時間に間に合わない。一回深呼吸をした。
それでも私は行くしかない。柊家に。
 
 柊家の玄関の前、ゆーちゃんは見当たらない。きっと帰ってしまったのだろう。気を取り直して私は呼び鈴を押した。出てきたのはかがみ先輩だった。
かがみ「いらっしゃい」
かがみ先輩は私を見てから周りを見渡した。
かがみ「ゆたかちゃんと宮本さんは、一緒だって聞いていたけど?」
ひより「はぁ、実は諸事情がありまして……」
かがみ先輩は溜め息をついた。
かがみ「そっちも大変ね、まつり姉さんも居なくてね、急に仕事が入ったとか言って出て行ったわ……連絡する時間もなくて、ごめんなさい」
これで私の目的は泉先輩のミッションだけになってしまった。これは今までの出来事に比べればお遊びみたいなもの。かがみ先輩は彼氏とうまく行っているいみたいだし、
私の出る幕はなさそうだ。ゆーちゃんも心配だし……
ひより「そうですか、それでは今日は無しと言う事で、お手数を掛けました」
私は会釈をして帰ろうとした。
かがみ「待って、興味があるわ諸事情に、良かったら聞かせて」
かがみ先輩はドアを開けた。かがみ先輩は笑顔で私を迎えた。
ひより「……お邪魔します……」
吸い込まれるように私は泉家に入った。そしてかがみ先輩の部屋に案内された。
 
かがみ「宮本さんがまつり姉さんを好きだって?」
〇ッキーを食べながら驚くかがみ先輩だった。私は今までの出来事をかがみ先輩に話した。
ひより「はい」
かがみ「まぁ、分らないではないわね、宮本さんの正体がコンならばね……人間としてか……彼は本気みたいね、私はその気持ちを大事にしたい、問題はまつり姉さんが
    どう思っているか、それだけだわ、私から見た感じではまんざらでも無さそうよ、他に彼氏もいなさそうだし」
ひより「本当ですか!?」
私は少し声を高くして聞き返した。かがみ先輩は食べかけた〇ッキーをお皿に置いた。
かがみ「あくまで私が見た感じよ、本人に直接聞いたわけじゃない、確証はないわ」
ひより「そ、そうでした、軽率でした」
かがみ「それより、いのり姉さんと佐々木さんが心配ね」
ひより「あの、佐々木さんが整体院を辞めて、引越しするのは……」
かがみ「そうね、これも本人聞かないと真意は分らないけど、大筋、田村さんの推理で合っていると思う、確かにあの整体院は評判が良すぎたかもしれない、
    そこに利害が出てきて、いろいろな事を考える族(やから)が出てくるのも確かよ……考えてみれば私達人間の方もややこしいわね……」
かがみ先輩はまたお皿に盛った〇ッキーを食べだした。
かがみ「田村さんも遠慮なく食べなさいよ、お茶も入れたし」
かがみ先輩はお菓子の盛られたお皿を私に差し出した。私はお皿を掴んだ……あれ、かがみ先輩はお皿を放そうとしない。私は少し力を入れた。しかしかがみ先輩は放そうとしない。
ひより「いゃ~、かがみ先輩、全部食べたいならそう言って下さいよ……」
かがみ先輩は何も言わなかった。しまった。禁句(タブー)を言ってしまったか。私は慌ててお皿を放した……
ひより「か、かがみ先輩?」
私の問い掛けにまったく反応しない。まるで人形の様に固まっている。
ひより「かがみ先輩、冗談はよしてください……」
全く反応がない。もっともかがみ先輩はこういった冗談はしないタイプだ。私はかがみ先輩の目の前で手を振った。反応なし。この時、事の重大さに気付いた。
ひより「かがみ先輩!!!」
ありったけの大声、そしてかがみ先輩の両肩を掴んで前後左右に激しく揺さぶった。かがみ先輩の全身が激しく揺れる。
ひより「しっかり、しっかりするっス、だめ、死んだらダメ、つかさ先輩が、ご両親が……私だって……私だって……」
なんだろう。目の前のかがみ先輩が歪んで見える。目頭が熱くなってきた。
こんな時は救急車を呼ぶのが先だっけ……
頭はそう思っていても手ははかがみ先輩から放れなかった。
泉先輩との漫才。時には怒って、時には笑って……そんな光景が頭の中を過ぎっていく。
冷静に。
早くかがみ先輩から離れて電話を……
別の私が私に語りかけてくる。私は我に返ってかがみ先輩を放した。そして携帯電話を取り出し119番に掛けようとした。
かがみ「ちょっと、お菓子が全部床に落ちちゃったじゃない……」
電話をする動作を止めてかがみ先輩の方を見た。かがみ先輩は何事も無かった様に床に落ちたお菓子を拾ってお皿に戻していた。
ひより「かがみ……先輩?」
かがみ先輩は私の方を見た。私の顔を見て驚いた。私の目から涙が出ていたのに気付いたのだろう。
かがみ「な、なによ、お菓子が落ちたくらいでそんな、泣くなんて……」
ひより「え、たった今、何が起きたのか分らなかったっスか?」
かがみ「何って、お皿からお菓子が落ちて……」
ひより「その前っス、よく思い出して下さい、かがみ先輩は人形みたいに動かなかった」
かがみ「あ、あぁ、そ、そうだったかしら、最近論文を書いていて徹夜続きだったから、疲れが出たのかも……」
思いついたような言い訳だった。私には嘘だと直ぐに分った。
ひより「そんな在り来りなもんじゃなかったっス、あれはどう見ても意識が飛んでいました」
かがみ先輩は残りのお菓子を全て拾うとお皿を机の上に置いた。
かがみ「田村さんには隠せないわ……最近、意識が飛ぶことがあってね……この前もゼミ途中で抗議の意味が分らなくなった……」
ひより「それは尋常じゃないっス、早くお医者さんに診てもらわないと……」
かがみ「大丈夫よ、高校受験の時もそんな事があったから、田村さん、もしかして心配して泣いてくれたの、嬉しいじゃない」
笑顔ではいるけど、いつもの笑顔とは違った。作っている。
ひより「以前、呪いにかかったって言っていましたけど、その後遺症とかじゃないっスか?」
かがみ「……そんなの、分るわけないじゃない、呪いの知識なんて全くないのよ」
やっと本音が出た。見栄っ張りもここまでくると頑固者って感じだ。皆に心配を掛けまいとしているのだろうか。
ひより「それは私も同じです」
かがみ「この事は、皆には内緒にして……」
力ない声だった。
やっぱりそう言う事だったのか。このまますんなり内緒にして良いのだろうか。呪いならお医者さんに診せても分らないだろう。仮に何かの病気だったら皆に分かってしまう。
皆に知られないように確認する方法……ある。あるじゃないか。
ひより「佐々木さんならそれが分かるかも、治療法も知っているいるかも」
かがみ「だから大丈夫だって、この話は止めましょう」
ここは折れてはだめだ。
ひより「他人の私ですら涙がでてしまった、これがつかさ先輩、ご家族、泉先輩、高良先輩だったらどうだっか想像できます?」
かがみ「つかさ……お母さん……こなた……」
さぁ、かがみ先輩、ここで想像力を使って下さい。かがみ先輩が亡くなったらどれだけの人が悲しむのか……
ひより「かがみ先輩の恋人はどうですか」
ここでダメ押しだ。
かがみ「わ、分かったわよ、白黒付けようじゃない、でも佐々木さんの所は休診中じゃないの」
やった。診てもらう気になってくれた。
ひより「それは問題ないっス」
私は携帯電話を取り出した。
かがみ「ま、まさか、今から?」
ひより「善は急げ、っス」
佐々木さんは快く引き受けてくれた。
私達はかがみ先輩の用意した車に乗って佐々木整体院に向かった。
 
すすむ「診て欲しいのは田村さんではないのか?」
ひより「はい、かがみ先輩です」
私は頷いた。かがみ先輩は私の後ろでやや緊張気味な様子だった。
すすむ「とりあえず診療室へ」
私達は診療室に案内された。佐々木さんは椅子を二つ用意し、私とかがみ先輩はその椅子に座った。そして佐々木さんも向かい合う形で椅子に座った。
すすむ「それで、彼女の何を診て欲しいと言うのだ?」
ひより「呪いの後遺症が無いかどうかです」
すすむ「な、なんだと?」
佐々木さんはかがみ先輩の方を見た。
ひより「時々意識が飛ぶ事があるそうです、ついさっき、一時間くらい前にも……」
佐々木さんは腕を組んで険しい顔になった。
すすむ「私は呪術に関しては専門ではない、詳しくは判らん、見た所呪いは完全に解かれているみたいだが……良いだろう、私の分かる範囲で調べてみよう」
ひより「ありがとう」
かがみ「お願いします……」
佐々木さんは立ちありかがみ先輩の目の前に立った。
すすむ「いや、そのまま、座ったままで良い、リラックスして」
かがみ先輩は目を軽く閉じた。佐々木さんはかがみ先輩の額に触れるか触れないかくらいまで手を近づけてかざした。そして佐々木さんも目を静かに閉じた。
 
 3、4分くらい経っただろうか。自分にはちょっと長く感じた時間だった。佐々木さんは静かに目を開けた。
すすむ「……呪いは完全に消えている、問題ない」
かがみ先輩は立ち上がり得意満面の態度で私を見た。
かがみ「ふふ、だから言ったじゃない、ひより!!」
ひより「そ、そうですね、でも、良かったじゃないですか」
ひより、かがみ先輩は私をそう呼んだ。泉先輩や高良先輩を呼ぶように名前で呼んだ……
かがみ「当たり前じゃない、こんな時に病気なんかしてられない」
すすむ「ただし疲労が溜まっているのは確かだ、どうだ、私の整体を受けるが良い、休診中だから御代はいらない」
ひより「良いんじゃないですか、これを期に受けてみたら?」
かがみ「ちょっと、痛いのは……」
すすむ「私の整体はそんなものじゃない」
かがみ「それじゃ、お言葉に甘えまして……」
私は立ち上がり診療室を出て受付室でかがみ先輩を待つことにした。
 
 かがみ先輩……泉先輩、高良先輩の親友、つかさ先輩の双子の姉、いのりさん、まつりさん、二人の姉がいる。努力家で高校時代には高良先輩に匹敵する成績までになっている。
抜け目ない性格と思いきや、泉先輩によくいじられたりするし、つかさ先輩みないなボケもたまにしたりする。裏表がはっきりした性格だ。
それゆえ、ツンデレといわれているのかも知らない。
初めて会ったのは泉先輩の紹介だった。『先輩』だったからか私とかがみ先輩は泉先輩を通してしか交流がなかった。今回だって泉先輩のミッションがなければ頻繁に会うなんてなかった。
私は何でかがみ先輩の分析をしているの。それは高校時代に既にしている。昔のネタノートを見れば書いてあるじゃない。
私は一呼吸を置いて考えた。
『ひより』なんてそんなに親しくなったのだろうか。どうして。頻繁に会っているから。それだけなら日下部先輩はかがみ先輩と私以上に会っているのに名前で呼んでいない。
何故……私を……?
それとも私の考えすぎだろうか……
 
かがみ「ありがとうございました」
診療室からかがみ先輩の声がした。整体が終わったみたいだった。あれこれ考えているうちに時間がすぎてしまったようだ。診療室からかがみ先輩が入ってきた。
かがみ先輩を見て驚いた。肌が艶々しているように見える。顔色も良いし、表情も温泉でも入っていたみたいにスッキリしていた。
かがみ「何だろう、体が軽くなったよう……ひよりもしてみたら、体の中か洗われた様よ」
笑顔で私に整体を勧めるかがみ先輩。
ひより「休診中なのに二人もしてもらったら佐々木さんに悪いような気が……」
診療室から佐々木さんも入ってきた。
すすむ「私は一向に構わない、田村さんも疲れが溜まっているぞ」
かがみ「ほらはら、遠慮しない、受けてきなさい」
私の手を取って引くかがみ先輩。あまり乗る気はしなかった。
まてよ、佐々木さんと話せるチャンスかもしれない。
ひより「それじゃ……お願いします……」
かがみ「終わるまで待っているから」
ひより「い、いえそんな、誘ったのは私なので待っていなくても良いです……」
かがみ「車だし、家まで送るわよ」
ひより「そこまでしてくれなくとも……」
すすむ「それなら私が送ろう、この後も特に用事はない、それに見たところかがみさんより疲れが酷い、時間が掛かる」
かがみ先輩は暫く考えている。
かがみ「分かりました、佐々木さん、済みませんが後をよろしくお願いします、今日はありがとうございました」
かがみ先輩は深々と頭を下げた。
かがみ「それじゃひより、またね」
私に手を振るとかがみ先輩は外へ出て行った。この前と違ってあっさりした感じがした。引越しの件で一言二言あるのかと思ったがそれはなかった。
でもそれはそれで良いのかもしれない。質問をする人が代わっただけ。それだけの話しだ。
すすむ「それでは田村さん、診療室へ……」
佐々木さんは診療室に体を向けた。
ひより「その前に一つ聞きたい事があります」
すすむ「何かね?」
佐々木さんは立ち止まり振り返った。
ひより「コン……いや、まなぶさんから聞きました、引越しされるようですね」
すすむ「あいつ……余計な事を……」
佐々木さんは私から目を逸らした。
ひより「この整体院は街にもやっと定着しようとしているのに、どうしてですか、評判を妬む人が居るからですか?」
佐々木さんは目を逸らしたまま黙っている。
ひより「いのりさんは……好きではなかったのですか、別れてもいいのですか?」
佐々木さんは何も言わない。そんな中途半端な態度に少し苛立ちを覚えた。
ひより「何故です、それだったら何故私をまなぶの講師役なんかさせたの、直ぐに引っ越しするなら最初から真奈美さん達の仲間と一緒に行動すればよかったじゃないですか」
私は少し声を荒げた。
すすむ「何も知らない小娘が、知った風に……好き嫌いで全てが決まるわけじゃない、もう良い、帰ってくれ」
ひより「だったら教えてください、それまで帰りません」
小娘だなんて、確かに彼等の十分の一も生きていないかもしらないけど。私はもう小娘じゃない。そんな言われ方をすれば怒りもする。
すすむ「全くどいつも、こいつも柊かがみのように強情なやつばかりだ」
かがみ先輩が強情ってどうゆう事?
ひより「何故かがみ先輩の名前をこんな場面でだすの、それに強情ってなんですか、佐々木さんはそんなにかがみ先輩と面識はないでしょ?」
すすむ「この前会った時、いろいろ言われたものでな……」
あの時は佐々木さんに意見を言っただけで強情とは違う。嘘を言っている。佐々木さんは何かを隠している。まさか。
ひより「まさか、かがみ先輩に何かあったの?」
そのとき佐々木さんの身体が少し揺れたように見えた。
ひより「診療室でかがみ先輩と何を話したの、私には会話が聞こえなかった、何を話話したの、呪いが完全に解けていなかったとか……」
 
佐々木さんは暫くしてからゆっくり私の方に向いた。
すすむ「さすが私達の正体を見破っただけのことはある、感情に任せて言った失言からそこまで分かるとは」
ひより「呪いは解けていなかった……」
すすむ「呪いならまだましだ、彼女の脳に悪性新生物がある……」
ひより「あくせいしんせいぶつ……まさかそれって」
すすむ「そう、脳腫瘍だ、それもかなりの悪性だろう、場所もおそらく外科的には取り除けまい」
目の前が急に真っ白になった。
ひより「そ、それで、さっきの整体で綺麗スッキリ治しちゃったのでしょ?」
佐々木さんは首を横に振った。
すすむ「私の整体は今まで人間から得た知識や技術を私なりに統合、改良をしたものだ、残念ながら悪性新生物には対応していない」
ひより「で、でも、かがみ先輩、あんなに肌艶も綺麗になって、健康その物だった」
佐々木さんはまた首を横に振った。
すすむ「免疫を強めるようにしたが気休めだ、進行を遅らすくらいしかできない……あともって半年くら……」
ひより「やめてー!!!」
私は両耳を手で押さえて叫んだ。この先は聞きたくなかった。
ひより「何故です、何故、かがみ先輩がそんな病気にならないといけない、呪い……呪いのセイでしょ、」
すすむ「あの呪いは脳に直接働きかけるもの、全く影響がなかったとは言えない、しかし呪われなくとも何れは発病しただろう」
身体が熱い、怒りが込み上げてきた。
ひより「だったら責任を取って、かがみ先輩がお稲荷さんに何をした、何もしていないでしょ、勝手に呪って、かがみ先輩を病気にして」
佐々木さんには何も責任は無い。それは分かっていた。だけどこう言うしかなかった。
佐々木さんは私の顔をじっと見た。
すすむ「目から水が出ているな……泣いているのか、残念ながら私達は泣くと言う心理状況を理解していない、人間になっても頭の中までは変わらないのでね、
    大事な物を失った時、得た時に泣くと聞いたが……柊かがみは田村さんにとってそう言う存在なのか、親でも姉妹でもない赤の他人ではないか」
ひより「……そんな事はどうでもいいから、早く治して……」
すすむ「……治す方法はある、だが人類の技術では合成できない物質がいくつかあって……無理だ……」
ひより「もういい、何処にでも引っ越して、二度と私達の前に現れないで」
私は立ち上がった。
すすむ「彼女は自分でも分かっていたのだろう、病気の事を言ってもあまり驚かなかった、只、内緒にしてくれと言っていた……私は約束を破ってしまったな、すまない」
私はそのまま診療室を出た。
別れの言葉も何も言わない。
所詮人間とお稲荷さんはそんな関係。分かり合えるはずも無い。
 
 何もする気がしない。気が重くなるばかりだった。大学に行っても上の空。家に帰ってもボーとしているだけ。
ときよりかがみ先輩の事を思い出しては涙を流すだけだった。
佐々木さんと別れてから一週間、そんな事の繰り返し。
自分の部屋で机に向かってペンを取っても何も描けなかった。
『ピピピーピー』
私の携帯電話に着信が入った。泉先輩からだ。いつもはメールのやりとりだけだったのに。珍しい。携帯電話を手に取った。
ひより「もしもし……」
こなた『やふ~ひよりん』
まだ半年も経っていないのにとても懐かしい声に思えた。
ひより「先輩、久しぶりっス、どうしました」
こなた『いや~最近めっきり報告が途絶えちゃっているからどうしたのかなと思ってね、かがみんのミッションは行き詰まったかな?』
そういえば最近になって何も報告していなかった。そうだ。こんなミッションなんか関係ない。もっと大事な事を言わなければ。
ひより「そんな事よりもっと大事な話があります」
こなた『なんだい改まって……』
ひより「かがみ先輩は……」
『内緒にして』
かがみ先輩の声が私の頭の中に響いた。
ひより「かがみ先輩は……」
こなた『かがみがどうしたの?』
ひより「かがみ先輩には彼氏がいるっス」
病気なんて言えない……何故、いつもの私なら話しているのに……
こなた『お、おお、その断定的な言葉、それ、それだよ、それを待っていたんだ、まぁ、だいたい想像はしていたけど、これは面白く成ってきたぞ』
声が弾んでいる。楽しんでいるようだ。
こなた『しかし、どこでその情報を仕入れたの、かがみ自らそんなのは言わないはず』
ひより「実はかがみ先輩から「ひより」って呼ばれているっス」
こなた『なるほどねぇ~かがみの信頼を得たってことか、ひよりんもやるじゃん』
ひより「い、いえ、それほどでも……」
こなた『そうそう、かがみは親しくなると呼び捨てになるんだよね、高校時代初めて会った時なんかね……』
かがみ先輩の出会いの話しを長々話す泉先輩……ゲームの話しをしている時よりも活き活きとしていた。かがみ先輩が病気と分かったらどうなるのだろうか。
私と同じようになるのかな。いや、もっと悲しむかもしれない。つかさ先輩はどうなのだろう……ますます言えなくなってしまう。
やばい。また涙が出てきてしまった。これが電話でよかった……
こなた『ちょっと、ひよりん、聞いているの?』
やばい、上の空だった。
ひより「は、はい、聞いてるっス……それよりそっちの状況はどうなんですか、つかさ先輩達と上手くいっています、例の店長さんとは?」
こなた『ふ、ふ、ふ、聞いておどろけ、私はホール長になったのだよ』
ひより「え、それは凄いっすね、おめでとうございます」
こなた『声が棒読みだよ……まぁいいや、つかさとはシフト制になってからあまり会えなくてね、同じ部屋を借りているのにおかしいよね』
なぜか素直に喜びを表現できなかった。
こなた『最近松本店長とつかさが私達スタッフに内緒で何かしているみたいだけど、まぁ、つかさの腕も上がっているからもしかしたら副店長になる打ち合わせかもね』
ひより「二人揃って凄いですね、応援しています」
こなた『ありがとう……』
『ただいま~』
携帯からつかさ先輩の声が聞こえたとても小さい声、遠くからのようだ。
こなた『お、つかさが帰ってきた、やばい、今日は私が夕食当番だった、それじゃまた連絡よろしくね』
ひより『は、はい……』
二人は私が思っていた以上に成功している。すごいな。
携帯電話を切って机に置いた。結局話せなかった……
 
私は気が付いた。今までゆーちゃんに言っていたのは間違えだった。親しくなった人に対して
他人事なんて言えるはず無い。かがみ先輩の病気でそれが分かった。私はゆーちゃんの喜怒哀楽を観て弄んでいただけだった。
そう言われても反論できない。今までゆーちゃんに言ってどれほど傷ついたのだろう。バカ……私のバカ……コミケ事件からまったく私は変わっていない。
 
それから間もなく私は風邪をこじらせて寝込んでしまった。
 
もう私は何も出来ない……
 
『ピンポーン』
熱はは引いた。でもまだ体はダルイ。ここ数日大学にも行けなかった。たとえ私の風邪が治ってもかがみ先輩の病気は治らない。これからどうして良いかも分からない。
普段の私なら皆に事情を話してこれからどうするか決める。だけど……それすらも出来なくなってしまったなんて。
『コンコン』
ノックの音がした。お母さんかな……
ひより「は~い」
ドアが開くとそこにはゆーちゃんが居た。私と目が合うとにっこり微笑んだ。さっきの呼び鈴はゆーちゃんだったのか。
ゆたか「おはよ~風邪をこじらせたんだって?」
ひより「まぁね……それよりいいの、大学に行かなくて」
ゆたか「ふふ、今日は日曜日だよ」
そうか日曜日なのか。曜日の感覚がなくなってしまった。あの日以来時間がとってもゆっくりに進んでいるように感じる。
ゆたか「座ってもいい?」
ひより「良いけど、風邪……うつるかもよ?」
私の警告をよそにして私の寝ているベッドの横に腰を下ろした。そして私を優しく見下ろしてじっと見つめた。
ひより「な、何……私の顔に何か付いてる?」
ゆたか「うんん、昔からお見舞いをされてばっかりだったから、こうして誰かをお見舞いをしてみたいと思っていた、ひよりちゃんが初めてになったね」
もう少しすればもう一人お見舞いに行かなければならない人が居る……そして一度入院をすれば退院することはない。
ひより「それで、その初めてのお見舞いはどう?」
私をじっと見るゆーちゃん
ゆたか「ん~どうかな、分からない、もっと時間が経てば分かるかも」
ひより「そう……」
私はそれ以上聞かなかった。それ以降私は何も話さなかった。ゆーちゃんも自分から話そうとはしなかった。
朝日が窓から入ってきて部屋の温度が上がった。心地よい温度だ。このまま眠ってもいいくらいだった。そんな私の心境を知ってか知らずか、ゆーちゃんはゆっくりと立ち上がった。
ゆたか「長居すると悪いから帰るね」
ひより「うん……お構いもしませんで、ごめんね」
ゆたか「うんん、お大事にね……」
ゆーちゃんは私に後ろを向いてドアの所まで移動して止まった。
ゆたか「ひよりちゃん、話してくれないの?」
話してくれない……何のことかな……
ひより「話すって……あぁ、お見舞いされた気分だね……なんだか上から覗かれて、恥かしいような……」
ゆたか「違うよ、もっと大事な事、何故黙っているの……かがみ先輩の事」
ま、まさか、どうしてゆーちゃんが知っている。そんな筈はない、かがみ先輩は内緒にするって言っていた。
ひより「な、なんの話しか分からない……」
ゆーちゃんはゆっくり振り返った。
ゆたか「取材の途中でひよりちゃんと別れて思った、ひよりちゃんは一人で柊家に行ったのに私は逃げてしまったって、だから、もう一度佐々木さんの所にに行ってみようと、
    そう思って、行ったの……佐々木さんの整体院に、そこに佐々木さんは居なかった、でも、コンちゃん……宮本さんがいてね……全て話してくれた」
まなぶが話したのか。余計な事を……もう一人悲しむ人が増えるだけなのに。
ひより「全て聞いたのなら私から話す必要はないよ……もう私に出来る事は何もない」
ゆたか「ひよりちゃんらしくない、こんな時は、私に、みなみちゃんに、場合によっては高良先輩や泉先輩にだって話して相談するでしょ?」
ひより「だって……だって、かがみ先輩は内緒にしろって言うし、先輩の気持ちにを考えるともう何も出来ない」
また涙が出てきた。ゆーちゃんに見られないように布団で顔を隠した。足音が私に近づいてきた。
ゆたか「ひよりちゃん、溺れちゃったね……そう思ったから此処に来たの、ひよりちゃんが私を救ってくれたように」
ひより「溺れる、私が?」
ゆたか「他人事じゃないと人は救えない、そう言ったのは誰だっけ?」
私は布団を取り上半身を起こした。
ひより「救う、どうやって、お稲荷さんにだって治せない病だよ、何も出来ないよ……」
ゆたか「そうかな、私はそうは思わない、だって他人事だもん、なんでも出来る」
ゆーちゃんはにっこり微笑んだ。
ひより「え……」
ゆたか「やれるだけやって、それでダメなら……悲しいけど諦めるよ、でも、それまでは……諦めない、他人事ってこうゆう事ででしょ、ひ・よ・り」
ゆーちゃんは人差し指で私の額を突いた。
ゆたか「一人だけ、ありふれた物で化学物質を合成できるお稲荷さんが居るらしいの、今ね、コンちゃんとみなみちゃんでそのお稲荷さんを探してもらっている」
ひより「ゆ、ゆーちゃん……」
ゆたか「溺れるのはまだ早いよ、ひよりちゃん、かがみ先輩が亡くなるまではね、うんん、絶対に死なせない、そうだよね?」
ひより「そんな事言ったって……」
ゆたか「コンちゃんもみなみちゃんもひよりちゃんのおかげで手伝ってくれていると思ってる、私たちに任せて風邪を治すのに専念して……それから、
    かがみ先輩の病気も治るように祈っていて……奇跡は滅多に起きないけどね、祈りや願いがないと起きないって誰かが言っていた、私もそう思う」
ゆーちゃんは腕時計をみた。
ゆたか「あっ、いけない、もう約束の時間、それじゃ、ひよりちゃんお大事に」
ひより「待ってゆーちゃん、わたし、私……佐々木さんと喧嘩してしまった……引越しを止められなかった」
ゆたか「しょうがないよ、あの状態じゃ私も同じ事をしてたかも、でもね、別れても生きてさえいれば何とかなるよ、今はかがみ先輩が優先だね」
ゆーちゃんはにっこり微笑むと部屋を出て行った。
 
 教えたゆーちゃんに教えられるなんて……それに私がするはずだった事を先にするなんて。
ひより「ふふふ……ははは」
なぜか笑った。そしてさっきよりも大粒の涙が出てきた。この涙は大事な物を得たのか失ったのか……
私は涙を拭かずそのまま床に就いた。何故か涙を拭きたくなった。
熱っぽいせいか頭が回らない。考えるのを止めた。
今はただかがみ先輩の回復を祈った。
 
 私はゆーちゃんと待ち合わせをしていた。東京都内のとある駅前。
こんな所で待ち合わせは初めてだ。私もこの駅を降りるのは初めてだった。
風邪が治り私もかがみ先輩を救うために皆の手伝いに参加している。あれから何週間か経つけど目的のお稲荷さんは見つかっていない。まなぶは
以前住処だったつかさ先輩と泉先輩が住む町の神社に行ったがもぬけの殻だったと言う。お稲荷さん達は全員何処かに引っ越してしまったみたいだ。
そういえばつかさ先輩の彼氏もお稲荷さん。二人は別れたと聞いたがそれと関係あるのだろうか。
「おまたせ」
後ろから男性の声。まなぶの声。私は振り向いた。
ひより「まなぶさん……」
まなぶ「なんだい、私ではいけないような顔をして」
ひより「い、いや、ゆーちゃんと会う約束をしたものだから、意外だった」
まなぶ「小早川さんは岩崎さんと一緒に別行動してもっている、彼女達は彼の自宅に向かっている、私達は彼の仕事場に向かう、どちらかに居るはずだ」
ひより「彼って誰?」
まなぶ「もちろん私の仲間の……」
ひより「ほ、本当に、早く行こう……何処!?」
私はまなぶの手を掴み歩き出した。早くかがみ先輩の病気を治してもらいたった。逸る気持ちを抑えられなかった。
 
ひより「……法律事務所……」
まなぶ「そうだ、そこに私の仲間が居る、そこに居なければ小早川さんが向かっている自宅に居る」
私が思っていたのとはかけ離れた所に案内された。病院かどこかの研究所かと思っていた。
待てよ……法律事務所……って。確かかがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いていたって言っていた。
ひより「ちょっと、かがみ先輩の彼氏も法律事務所で働いているって聞いたけど、これって偶然なのかな」
まなぶは法律事務所の玄関を見ながら答えた。
まなぶ「偶然もなにもない、かがみさんの彼氏だよ」
ひより「え……も、もしかして、かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……」
まなぶ「その様だな、すすむが彼女を呪いの診断をした時に微かに仲間を感じたそうだ」
かがみ先輩の彼氏もお稲荷さん……かがみ先輩はそれを知っているのだろうか。ややこしいとか言っている所から察するに知らないと考えた方がいいかもしれない。
まなぶ「かがみさんには悪いが尾行させてもらった、それでこの法律事務所と自宅を突き止めた」
まてよ、何故だ。何故そんなまどろっこしい事をする。
ひより「こんなコソコソしていないで直接頼めば済むでしょ、かがみ先輩の恋人なら直ぐにでも病気を治すはず」
まなぶ「いや、彼では病気は治せない、恐らく彼なら仲間の居場所を知っていると思ってね、かがみさんと一緒に居ない所を見計らって彼と会う作戦だ、
    事務所から出てきたら聞くつもりだから、しばらく張り込みをしよう」
ひより「え、あ、はい……分った」
そんなにうまい話はなかったか。
 
それにしても、つかさ先輩、かがみ先輩、いのりさんにまつりさん。ものの見事に四姉妹がお稲荷さんと関係している。良い意味でも、悪い意味でも。
偶然かもしれない。だけどそれだけでは片付けられない運命的な何かを感じてならい。
その運命の一端に参加している私、これもまた運命なのだろうか。
そもそも私は漫画のネタ探しから始まったのが切欠だ。それだったら……つかさ先輩にしても一人旅が切欠。どちらも世間一般に珍しいものじゃない。
不思議だな……私はまなぶを見ながら考えていた。
まなぶ「……私の顔に何か付いているのか?」
まなぶは事務所の出入り口を見ながら話した。私の目線に気付いたようだ。この状況なら聞けるかもしれない。前から聞きたい質問があった。
ひより「ちょっと二つ質問いいかな?」
まなぶ「なんだい?」
彼は事務所から目を離さなかった。
ひより「何故まなぶさんは真奈美さん達ではなく佐々木さんと住むのを選んだの」
まなぶ「……人間に興味があったから……と言っておこうかな、詳しく知るには人間と暮らすしかない……人間と共に暮らしている仲間は三人いるけど、すすむが一番
    一般の人間と接している人数が多いと聞いて、それで決めた、答えになったかな?」
私は頷いた。
ひより「うん……それで人間に接した感想はどうだった?」
その答えを聞くのが少し恐かった。
まなぶ「まだ調べ足りないけど……よく似ているよ私達に」
ひより「そ、そうなんだ……」
似ている……これはまた微妙な答えだな。そう言えば前にも同じような事を言っていた。
まなぶ「……それで、もう一つの質問って?」
ひより「え、ああ、まなぶさんは何故私達の手伝いをしてくれているの、嬉しいけど、そんなにかがみ先輩と親しかった訳じゃないのでは?」
まなぶ「好きな人の妹が死に瀕している……助けたいと思うのは当然じゃないのか?」
ひより「それは、そうだけど、それだけじゃないと思って」
好きな人……またこの言葉を聞くとは思わなかった。なぜかその言葉はあまり聞きたくなかった。
まなぶ「記憶を失って、コンとして飼われていた頃だった、まつりさんが仕事で散歩に行けない時などはかがみさんが代わりに散歩に連れて行ってくれた、
    私を擬人化してよく愚痴を言って面白かった、それにまつりさんとは違う道を行ってくれてね、飽きさせなかった、とても他人事じゃいられないよ」
かがみ先輩の愚痴の内容も聞きたかったけど、今はそんな雰囲気ではなかった。
まなぶ「それじゃ私から質問、何故君はかがみさんを助けようとする」
ひより「へ?」
まなぶ「見るからに私よりも動機は薄いような気がするが、出身高校が同じと言うだけで血縁関係もない」
ひより「う~ん」
そう言われると……なんて表現していいのだろうか。
まなぶ「なんだ、答えられないのか、好きだからじゃないのか」
わ、え、どう言う事……
ひより「す、好きって……わ、私もかがみ先輩も同姓だし……そ、そんな百合的な展開はな……」
まなぶ「ふ、ふふ……はははは」
まなぶは事務所の方を見たまま笑った。
まなぶ「君は自分の事になると何も答えられないみたいだな、分かったよ、多分田村さんも私と同じ理由だな」
彼はは百合って意味を知っているのかな。そんなのを確認なんかできっこない。
『ピピピ』
まなぶはポケットからスマホを取り出し操作しだ。
まなぶ「君の友人からメールだ、自宅は留守なのでこっちに向かうそうだ、合流しよう……すまない、事務所の入り口を見張っていて欲しい」
ひより「はい……」
まなぶがスマホを操作している間、私が事務所の入り口を見た。
時がゆっくりと流れているように思えた。
 
まなぶ「彼の名は小林ひとし、彼との交渉は全て私に任せて欲しい、かがみさんの意思を尊重して病状は伏せることになった」
ひより「ゆーちゃんとみなみちゃんもそれで良いのなら……」
まなぶ「もう既に打ち合わせ済」
私が風邪をひいている間に話しは進んでいたようだ。
確かにお稲荷さんとの交渉はお稲荷さんに任せた方が良いのかもしれない。
それに最初はあんなに反対していたみなみちゃんも手伝ってくれている。なによりあのゆーちゃんがあれほど積極的になるとは思わなかった。
その時、事務所の近くをゆーちゃんとみなみちゃんが通りかかった。私は携帯電話で二人を呼んだ。
みなみ「ここで張っていたの?」
私とまなぶは頷いた。
ゆたか「自宅は留守だったから多分この事務所だよ」
まなぶ「そろそろお昼だ、出てくると思う」
ゆたか「小林さん、コンちゃんは会ったことあるの?」
まなぶ「いや、会った事はない、向こうの仲間は真奈美さん以外殆ど知らない」
ゆーちゃんはまなぶをまだコンと呼んでいるのか。最初に狐の彼を見つけたのはゆーちゃんだった。あの時のイメージが強かったのか。
それにまなぶも否定していない。人間のときくらいは
みなみ「何人か事務所を出入りしているけど見逃したりしない?」
まなぶ「人間になっていようが、狐になっていようが、他のに化けて居ようが、仲間ならすぐに分かる……ん?」
まなぶの目が鋭く光った。
まなぶ「彼だ!!」
私達は学ぶの目線を追った。事務所の玄関を出てきた男性。その人だろうか??
まなぶ「私と彼が会っている時は出てこないように」
そう言い残すと小走りに彼の元に走っていった。私達はその場に留まりまなぶと男性の動向を見守った。
まなぶが話しかけると彼は立ち止まりしばらく何かを話してから二人は歩き出した。私達は彼等の後を気が付かれないように追いかけた。
 
ひより「こっち、こっち」
小声で二人を呼んだ。
ゆたか「で、でもこれ以上近づいたら……」
ゆーちゃんは更に小さな声で答える。
ひより「大丈夫だって、それに近づかないと会話が聞こえない」
まなぶと小林さんは近くの公園の隅で立ち止まった。私達はぎりぎりまで近づいて物陰から様子を覗う。
ひとし「まさかこんな所で仲間に会えるとは思わなかった……しかし君には一度も会った覚えが無い……」
まなぶ「私は宮本なまぶ」
ひとし「あぁ、思い出した、最近生まれた子じゃないか……大きくなったものだ」
二人の会話がよく聞こえる。小林さんはまなぶを知っているのか……
まなぶ「私より若い仲間は居ないと聞いた」
ひとし「そんな事より用事とはなんだ」
まなぶ「人を探している、化学物質を合成できる人」
ひとし「回りくどい言い方だな……たかしの事を言っているのか、呪術と錬金術で彼の右に出る者は……真奈美くらいだ」
たかし、たかしと言うお稲荷さんが薬を作れるみたいだ。
まなぶ「今何処に居る?」
ひとし「……会ってどうする?」
まなぶ「合成して欲しい物がある」
ひとし「……合成して欲しい物、我々にそんな物は必要ない筈だ、何に使う、人間に復讐でもするのか、武器や毒と言うのなら止めておけ……」
まなぶ「いや……薬を作ってもらおうと……」
ひとし「薬だと……」
まなぶ「治したい病気が……」
ひとし「病気……我々は病気にはならない筈だ」
まなぶ「助けたい……人間が居る」
不味いな、このままだと薬を誰に使うのか分かっていまうかもしれない。
ひとし「そうか……助けたい人間が居るのか、それは君にとって大事な人なのか」
まなぶ「そうだ」
小林さんは暫くまなぶを見て首を振った。
ひとし「彼にそれを頼むのは難しいだろう、彼の人間嫌いは仲間の中でも一、二を争う」
まなぶ「それでもしなければ、何処にいます?」
ひとし「住み慣れた地を離れしまったらしくてね、私でも彼等の住処は分からない……残念だが力にはなれない、それでは失礼させてもらうよ」
小林さんはまなぶに会釈をすると公園を出ようとした。
ゆたか「待ってください!!」
ゆーちゃんが飛び出した。その声に反応して小林さんが振り向いた。
まなぶ「ば、バカ……来たらダメって……」
ひより「まずい、みなみちゃん、ゆーちゃんを止めないと……」
あれ……みなみちゃんの反応がなかった。私は後ろを振り向いた……でも彼女の姿は見えなかった。
再びゆーちゃんに目線を戻すと……あろうことかゆーちゃんの隣にみなみちゃんも立っていた。
ひとし「な、なんだ君達は……何処かで見た顔だな……」
ゆたか「お願いです、どうしても助けたい人が居るの、居場所だけでも教えて頂けませんか」
ゆーちゃんが頭を下げるとみなみちゃんも頭を下げた。こうなったら自棄だ。私も物陰から出て二人の横に並び頭を下げた。
小林さんは私達を見ていた。
ひとし「この人間達はおまえの仲間なのか」
まなぶ「……そうです」
小林さんは私達に向かって話しだした。
ひとし「その様子から見ると私達の正体を知っているみたいだな……さっきも言ったように仲間は住処を離れてしまった、随時移動しているみたいで私でも
    把握しきれないのだよ……それに、本来人間を救うのは人間で行うべきだ、私達が介入する問題ではない」
その言葉は冷たく私達を貫いた。
まなぶ「それを承知で頼んでいるのが分からないのか……」
ひとし「悪いが時間がない」
小林さんは公園の出口に向かって歩き出した。ゆーちゃんは小走りで小林さんを追い抜き公園の出口に立ち塞がった。
ひとし「すまないがそこを退いてくれ……」
ゆーちゃんは首を横に振った。
ゆたか「……本当に……本当に助ける気はないの……貴方の愛ってそんなものなの?」
ひとし「藪から棒に何を言っている……」
ゆたか「私達が誰を助けたいのか知りたくないですか、知っても同じ事が言えますか……」
まさかゆーちゃんはかがみ先輩の名前を言うつもりなのか。
みなみ「ゆたか……」
みなみちゃんはゆーちゃんを見て首を横に振った。ゆーちゃんはみなみちゃんを見て躊躇したようだ。その後の言葉が出てこなかった。
ひとし「……助けたい人とは私の知っている人なのか……」
小林さんはゆーちゃんを見た後、振り返り私とみなみちゃんを見た。
ひとし「……君達は……私の知人と一緒に居た時があるな……まさか……」
ゆーちゃんの言葉で分かってしまったようだ。もう秘密にしている意味はない。
ひより「私達は、かがみ先輩、柊かがみの友人です」
ひとし「かがみ……かがみの何を助けようとしている、彼女に何があった、なぜ我々の力を必要とする……」
小林さんが急に動揺しだした。私はある意味これで少しホッとした気分になった。同じ態度であったならかがみ先輩の恋は終わっていたのかもしれない。
小林さんは辺りを見回した。
ひとし「話しを詳しく聞きたい、ここでは落ち着かないだろう、事務所に戻ろう……来てくれ」
まなぶ、小林さんとみなみちゃん達は公園を出た。
ひより「ゆーちゃん、小林さんにかがみ先輩の話しは内緒にするんじゃなかったの?」
私はゆーちゃんを呼び止めた。ゆーちゃんは立ち止まった。
ゆたか「うん……そう決めたし、かがみ先輩もそれを望んでいた」
ひより「でもそれを破った、どうして?」
ゆたか「かがみ先輩を助けたかったから……それだけしか頭になかった……それで助かるならかがみ先輩に怒られても良い、皆から責められても構わない……」
ひより「かがみ先輩は怒るかもしれないけど、私は責めたりはしないよ、みなみちゃんもね」
ゆたか「えっ?」
ひより「さて、行きますか、皆、先に行っちゃったよ、たかしってお稲荷さんに頼まないといけないからね、まだまだ困難はこれからだよ」
ゆたか「う、うん」
私とゆーちゃんは皆に追いつくために走った。
 
 小林さんの勤める法律事務所の会議室に通された。そこで私達は今まで経緯を小林さんに話した。
まなぶとの出会い、佐々木さんとの出会い、柊家との関係……そしてかがみ先輩の病気の事……
ひとし「脳腫瘍だと……」
私は頷いた。
ひとし「ば、ばかな、そんな気配は微塵も感じなかった」
ひより「秘密にしていたようです、多分家族や親友には知られたくなかったと思います、もちろん恋人の貴方にも……」
ひとし「彼女の心を読めなかったと言うのか、それは在り得ない」
まなぶ「かがみさんは以前呪われている、その時に呪術者と何度も接触しているはずだ、そうこうしているうちに心を読まれない術を身につけたのかもしれないな」
小林さんは何も言わず考え込んでしまった。
ゆたか「そんな事より公園で話していたたかしってお稲荷さんを探さないと、かがみ先輩の病気を治す薬を作れるのでしょ?」
小林さんは目を閉じて腕を組んた。
ゆたか「どこに居るのですか、協力して下さい……」
ひとし「……まなぶはたかしを知らないのか……」
まなぶ「初めて聞く名前……すすむも何も言わなかった……極度の人間嫌いだって言っていたね……」
小林さんは目を開け腕組みを解いた。
ひとし「幼かったまなぶでは覚えていなかったか……人間嫌いだけならまだ希望もあるがな……」
まなぶ「何が言いたい、こっちは急いでいる、こうしている間にも……」
小林さんはもったいぶった様に少し間を空けてから話した。
ひとし「かがみに禁呪をしたのが……そのたかしだ……」
まなぶは何も言い返せなかった。私たち三人は顔を見合わせて驚いた。
私達はかがみ先輩に呪いを掛けたおいなりさんにかがみ先輩の病気を治してもらわなければならない……気が遠くなるような事だった。
でも諦められない。諦めたらかがみ先輩はあと半年後には亡くなってしまう。
ひより「そのたかしってお稲荷さんは何故かがみ先輩に呪いをかけたのです?」
それならばたかしってお稲荷さんの情報をなるべく詳しく知る必要がある。
ひとし「私も直接彼から聞いたわけじゃないから真意はわからん……真奈美が亡くなったのをかがみの妹が原因と思っているらしい、
    その妹に彼と同じ境遇を味合わせてやりと思ったのだろう」
違う……確かにつかさ先輩が関係しているかもしれないけど、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいじゃない。誤解だ。
ひより「たかしって真奈美さんを好きだったのですか?」
ひとし「好きもなにも婚約者だった……」
ひより「こ、婚約者……」
好きな人……愛する人が亡くなれば何かのせいにしたくもなる。それはなんとなく理解できる。
ゆたか「でも、真奈美さんが亡くなったのはつかさ先輩のせいではありません」
珍しく断定的に言うゆーちゃんだった。それも私が思っていたのと同じ内容だった。
ひとし「……そうだな、そうの通り、真奈美が死んだのはむしろ我々側の問題だ……族に言う逆恨みと言うやつだろう」
ゆたか「お願いです、なんとかたかしさんを探し出せませんか……」
祈るように手を合わせて懇願するゆーちゃんだった。
ひとし「君達に頼まれるまでもない、私が直接彼に頼む……いや助けさせる、それが彼の責任だ」
小林さんは席を立ち上がった。そして会議室を出ようとした。
みなみ「何処に行くの?」
小林さんは立ち止まった。会議室に入って初めてみなみちゃんが口を開いた。
ひとし「たかしの所に会いに行く……」
みなみ「会う……何処に居るのか知っている?」
ひとし「草の根分けてでも探し出すまでだ……」
みなみ「会ってたかしさんが拒んだらどうする?」
ひとし「拒むだと、そんな事をすれば彼の命はない、悪いが急いでいる話はこれまでだ」
また小林さんは部屋を出ようとした。
みなみ「……かがみ先輩を第二の真奈美さんにしたいの?」
ドアのノブに手を掛けた所で小林さんは止まった。
ひとし「第二の真奈美……どう言う意味だ」
みなみ「怒りで話しかければ怒りで返ってくるだけ、誰も助からない、誰も救えない……」
小林さんは暫くノブを持ったまま動かなかった。そしてノブから手を放してから大きく深呼吸をした。
ひとし「……そうだな、その通りだ、岩崎さんと言ったな、私は危うく同じ過ちを仕出かすところだった」
小林さんはさっき座っていた椅子に戻り座った。
ひとし「私がたかしに会うとお互いに感情的になってしまう……どうしたものか……」
みなみ「たかしさんとの交渉は私達がします、だから彼を探し出して欲しい……」
そんな話は聞いていない。私には荷が重過ぎる。
ひより「ちょっと……」
ゆーちゃんと目が合った。そしてゆーちゃんは頷いた。その決意に私はその先の言葉を言えなかった。
ひとし「そうか……やってみるが良い、そのくらいの時間はまだある、しかし君達が失敗したら私が直接出向く、それで良いな?」
ゆたか・みなみ「はい!!」
ひより「は、はい……」
急に振って湧いたミッション。自信なんかない。でもやるしかないのか……
 
 さっきからゆーちゃんはモジモジして何かを言いたそうにしていた。少し間があったので決心がついたの小林さんに向かって話しだした。
ゆたか「あ、あの~、質問いいですか?」
ひとし「何か?」
ゆたか「かがみ先輩とはどうして知り合ったのですか、かがみ先輩は小林さんの正体を知っているの?」
ひとし「彼女に私からは話していない、多分私の正体は知らないだろう……彼女とどうして出会ったか……それは、
    たかしが再び彼女を呪うのを監視してくれ……そう友人に頼まれてね、それが切欠だ」
頼まれた……同じだ。私が泉先輩からかがみ先輩の様子を見てくれって言われたのと同じじゃないか。
ゆたか「その友人もお稲荷さんなんですね……」
小林さんは頷いた。
ひとし「……結局たかしは一度もかがみの前に現れていない、しばらくして友人がたかしを保護したと連絡があった、それで私の仕事は終わるはずだった」
ゆたか「筈だった?」
ひとし「たかしは何時現れるか分からない、彼女の監視は四六時中続いた……そういえば君達三人も何度かかがみと会っていたな……
監視していて、そのうちに、一度くらい直接会ってみたくなってね……声を掛けた……」
ひより「それでかがみ先輩を好きになった……ですか?」
小林さんは何も言わず、何も反応しなかった。でもそれが答えだった。
ひとし「さて、身の上話しはここまでだ、約束通り彼を、たかしを探しに行かないとな」
小林さんは立ち上がった。
ひとし「この事務所は好きなように使うと良い、所長には私から言っておく」
そう言うと小林さんは会議室を出て行った。
 
私は溜め息を一回つくとみなみちゃんに向かって話した。
ひより「たかしと交渉ね……そんな無茶振りをアドリブでしちゃうなんて……失敗は許されないよ……私、自信なんかない……」
みなみ「ご、ごめん……」
みなみちゃんは俯いてしまった。
ゆたか「で、でも、あの時みなみちゃんが小林さんを止めなかったら大変な事になっていたよ、私なんかあの時どうして良いか分からなかった……」
それは私も同じか。小林さんが出て行こうとした時、ただの傍観者になっていたのは事実だった。
ひより「こうなるのは必然だったのかな……それはそうとみなみちゃんは何故急に私達を手伝うようになったの」
みなみ「それは、みゆきさんがお稲荷さんを許したから……お稲荷さんの知識を知りたいって……」
ひより「みなみちゃんが説得したんだね、それは良かった」
みなみちゃんは首を横に振った。
ひより「え、それじゃどうして高良先輩はお稲荷さんを許したの?」
私はゆーちゃんの方を向いた。ゆーちゃんは慌てて首を横に振った。
みなみ「つかさ先輩は人間とお稲荷さんが一緒に暮らせるように何かしている、それに賛同するようになったと聞いた……」
ここでもつかさ先輩が出てきた。私の知らない所で、しらないうちに……何故……私の一歩も二歩も先に行っているような気がする。
ゆたか「流石だね……」
当然の事の様に言うゆーちゃん。つかさ先輩はそんな人だったのか。高校時代のつかさ先輩はもっと……もっとボーとしていて、いつも皆の後に付いている様な……
まなぶ「ところで、たかしとの交渉はどうするつもりなんだ?」
まなぶの声に一気に現実に戻された。私達は顔を見合わせるだけだった。
まなぶ「一度はかがみさんを呪った人だ、そんな人にかがみさんの病気を治す薬を作ってもらうように頼むなんて……出来るのか?」
ゆたか「出来る出来ないじゃない、しないとダメだよ……」
まなぶ「どうやって、行き当たりバッタリが通用する相手とも思えないが」
ゆーちゃんは言葉に詰まった。私もみなみちゃんも何も言えない。
ゆたか「頼むしかないよ、頼んで頼んで命乞いするの」
みなみ「私も頼む……」
ひより「それしかない……」
まなぶ「無策の策か、それも良いだろう」
まなぶは席を立った。
まなぶ「ひとし一人より二人で探したほうが早い、手伝ってくる」
まなぶは会議室を出て行った。
ゆーちゃんはまなぶの出たドアを見ていた。
ゆたか「コンちゃん……少し変わったかな」
ひより「変わった?」
ゆたか「うん、なんか少し頼もしくなった、それに人間になっているのに苦しそうじゃなくなってる」
ひより「人間としてまつりさんに会いたいって言ってからね……」
ゆかた「そ、そうだった、もうコンちゃんなんて言えないね……」
みなみちゃんは立ち上がった。
みなみ「こうして居ても仕方がない帰ろう、それで、それぞれがたかしに何を言うのか考えよう、宮本さんが言うように今の私達は無策、
    このままだとたかしはかがみ先輩を救ってくれない……」
ゆたか「そうだね……今はそれしか出来ないよね、帰ろう」
ゆーちゃんも立ち上がった。そして私も立ち上がった。
事務所を出るとき、所長さんに私達の携帯電話の番号と家の電話番号を小林さんに伝えて貰うように頼んでから帰宅した。
 
 帰宅して椅子に座る。
普段ならネタをまとめる作業をしている所。でもネタ帳もボイスレコーダーも最近は使っていない。かがみ先輩の病気の事で頭がいっぱいだ。私が悩んだ所で
先輩の病気が良くなる訳じゃない。そんなのは分かっている。分かっているけど悩まずには居られなかった。
たかしと会って何を言う。
『かがみ先輩を助けて下さい』
これじゃ何の捻りもない。
『貴方の呪ったかがみ先輩が死にそう、だから病気を治して……』
これじゃ当て付けがましい。
『お願いです……』
違う、違う……どんな言葉を繋げたって彼が人間を憎んでいる限りかがみ先輩を助けるなんて在り得ない。まずは彼の人間に対する憎しみを解くのが先……どうやって。
何千年も溜まりに溜まった恨みや憎しみをどうやって。それこそかがみ先輩の病気を治してもらうより難しいかもしれない。
そういえばつかさ先輩は真奈美さんと友達になった……とうやって。
一緒に泊まって一緒に話しただけ……たったそれだけ……それだけで……分からない。今更ながら分からない。つかさ先輩は何をしたのかな……
それならいっそのことつかさ先輩に頼んでしまおうか。かがみ先輩の一大事だから真っ先に駆けつけてくれる……つかさ先輩ならたかしの恨みも解いてくれるかも……
『内緒にして……』
また頭の中にかがみ先輩の声が響いた。
家族には教えたくないだろうな……特につかさ先輩には……
結局何も解決策は出てこなかった。
 
ふと携帯電話を見る。もしかしたら小林さん達がたかしを探したのかもしれない。
なんだ……何もないか……あれ、着信履歴がある。
履歴にかがみ先輩の携帯電話番号が載っていた。ここ数時間前の時間だ。なんの用だろう?
時計を見ると午後十時、電話をするにもそんなに迷惑のかかる時間ではなかった。私はそのままボタンを押して電話をかけた。
かがみ『もしもしひより?』
ひより「こ、こんばんは~」
そうだ。かがみ先輩に許可をとればなんの問題もない。
ひより「かがみ先輩、実ははつかさ先輩に……」
しまった。私はまだかがみ先輩の病気を知らない事になっている。佐々木さんとの口喧嘩で思わず佐々木さんが言ってしまったので分かった。
今ここで言ってしまったら佐々木さんが秘密を破ったのを教えるようなもの。言えない……
かがみ『つかさ、つかさがどうかしたのよ?』
ひより「い、いや、何でもないっス……」
かがみ『それより、佐々木さんといのり姉さんはどうなったのよ?』
ひより「それは……」
今は何も出来ない。その余裕がない。
かがみ『実ね、いのり姉さん、最近元気が無くて……整体院が休みになっているのと関係があると思って電話した、何か心当たりはないかしら?』
ひより「あるような、ないような……」
かがみ『何だ、その中途半端な回答は!!』
本当にかがみ先輩は病気なの。そう疑ってしまう程元気な声だった。
かがみ『電話じゃ埒が明かないわね、明日、時間空いていない、よければ相談に乗って欲しい』
後回しにするはずだった問題をかがみ先輩から依頼されるとは思わなかった。でも、断る理由は無いか……
ひより「空いていますけど……ゆーちゃんやみなみちゃんも呼びましょうか、人数が多い方がいろいろな意見が聞けますよ」
かがみ『いや、ひよりだけで来て』
ひより「は、はい……」
かがみ『時間は午後からなら何時でも良いわ』
ひより「わかりました……おやすみなさい」
かがみ『おやすみ』
電話を切った。
私一人で……何だろう?……。
ひより「ふわ~」
欠伸が出た。元気なかがみ先輩の声を聞いたせいなのか。急に眠くなった。今は眠るしかない。気が紛れる。少なくとも眠っている間は……
 
 次の日、私は午後一番でかがみ先輩の家に行った。
かがみ「いらっしゃい、待ってたわ、入って」
家に入り私は辺りを見回した。
かがみ「今日は私以外誰も居ないわよ、まつり姉さんは仕事、いのり姉さんはお父さんと地鎮祭、お母さんは遠くにお買い物……」
ひより「そ、そうですか……」
かがみ「何心配そうな顔してるのよ、別に襲ったりねじ伏せたりなんかしなから安心しなさい」
ひより「え、あ、心配な訳では……」
かがみ「ふふ、ささ、居間にぞうぞ」
かがみ先輩があんな冗談を言うのを初めて見た。普段と違うと対応に苦慮するもの。
居間に行くと既に飲み物とお菓子が用意されていた。
ひより「こんなにしてくれなくても」
かがみ「いいから、いいから」
私の背中を押して居間の中央まで進みかがみ先輩は腰を落とした。私も席に座った。
ひより「相変わらずお菓子が好きっスね」
かがみ「まぁね、否定はしない……さて、早速いのり姉さんについて話しましょ……」
ひより「……その前に一つ聞きたい事があります」
そう、双子の姉なら分かるかもしれない。それがヒントになるかもしれない。そして、この質問なら私がかがみ先輩の病気を知っているの悟らせない。
かがみ「聞きたい事……何よ改まって……」
お菓子をつまみながら私の質問を待つかがみ先輩だった。
ひより「つかさ先輩はどうやって真奈美さんと仲良くなったのかなって、お稲荷さんと人間の因縁を断ち切るなんてそう簡単に出来るとは思えない、
    つかさ先輩の話を聞いただけでは分からなくて……是非かがみ先輩の意見を聞きたいっス、佐々木さんといのりさんの今後の対応にも参考になるかな……」
かがみ先輩はお菓子を食べるのを止めてしばらく私の後ろ上の方をじっと見つめながら考えていた。
かがみ「真奈美さんね……彼女とは一度会ってみたかった……」
またしばらくかがみ先輩は私の後ろ上を見ながら考えた。
かがみ「真奈美さんが亡くなった今、当事者から話を聞けない、ただ言えるのはつかさの何かに真奈美さんは魅かれた」
ひより「そ、そうですか……」
かがみさん、貴女もそのお稲荷さんを魅了させる何かをもっている。心の中でそう突っ込みを入れた。
かがみ「その何かに一緒に暮らしていて気付かないなんて、私も相当鈍いわ……」
ひより「そうですね」
かがみ「そうそう、私は鈍い……ってこんな時だけ納得するな!」
私は笑った。少し遅れてかがみ先輩も笑った。へぇ、かがみさんってこんなノリツッコミもするのか……
その何かが分かれば全てが解決できるような気がする。
かがみ「ただ一ついえる事は、佐々木さんにしろコン、宮本さんにしろ真奈美さん達みたいに深い憎しみは人間に対して持っていない」
それは私も思っていた。彼らは人間と一体になって暮らしている。それは小林さんも同じなのかもしれない。
かがみ「最近、整体院が休診しているみたいだけど、何か心当たりはないの?」
ひより「引越しをするって言っていました……」
かがみ「なっ!! そう言うのは早く言いなさい」
どうも調子が狂う。普段通りに対応できない。かがみさんを怒らせてばかりいる。
ひより「す、すみません……お稲荷さんは百年に一回、自分の正体を隠すために引越しするって言っていましたけど……」
かがみ「あの整体院は百年も経っていないわよ、それが理由ではない……わね……」
かがみさんは腕組みをして考え込んだ。本来なら私もここでいろいろ考えるところ、でもそこまで深く考えられない。
かがみ「一度、いのり姉さんと佐々木さんを会わす必要があるわね……」
ひより「……はい……」
かがみさんは私をじっと見た。
かがみ「どうしたの、さっきから、いつもなら色々な意見を言うのに……らしくないわよ」
そんな、かがみさんを目の前にして普段通りにしろって言うのは無理があり過ぎる。
ひより「……はぁ、まぁ、頑張ります……」
かがみさんは立ち上がった。
かがみ「人と話すときは目を見るもの、あんた何か隠しているわね」
やばい、こんな時に限ってかがみさんの勘が冴えるなんて。やっぱり来るべきじゃ無かったか。私は慌ててかがみさんの目を見た。
ひより「何も隠してなんかいませんよ……」
かがみ「そうかしら」
 
かがみさんが私に一歩近づいた時、急にかがみさんの体がふらついて私に向かって倒れかかってきた。私は中腰になり慌ててかがみさんを支えた。
ひより「だ、大丈夫っスか?」
かがみ「……大丈夫よ……ありがとう……」
またかがみさんが固まってしまったあの時の状況が頭に浮かんだ。かがみさんは姿勢を戻した。私は手を放すと自分の席に戻った。
ひより「また調子が悪くなったのですか?」
こんな質問しか出来ないなんて……
かがみ「大丈夫、なんて言えないわね」
ひより「言えない?」
これはもしかしたら病気を告白するかもしれない。私はグッとお腹に力を入れて聞く準備をした。
かがみ「そう、私……妊娠しているから……これはお母さんしか知らない……」
ひより「それはおめでたいですね……えぇっ?!!!」
私は慌ててかがみさんのお腹を見た。全然膨らんでいない。って事はまだ三ヶ月を越えていないと考えるのが……
まてまて、かがみさんの命は後半年……確か妊娠期間は……間に合わない……かがみさんは赤ちゃんが生まれる前に……すると赤ちゃんも……
かがみ「頭の中で計算しているわね、ひより……」
その言葉に私の思考は止まった。そのままかがみさんの目を見た。
かがみ「あんたの計算は正しいわよ、私は出産する前に亡くなる……」
かがみさんの顔は思いのほか冷静だった。むしろ微笑んで見えるくらいだった。
ひより「……な、何故です、どうして……」
かがみさんは俯いた。
かがみ「そうよね、ひよりもそう思うわね、余命幾許もない私が赤ちゃんなんて……一時の快楽の為に命を弄ぶと思って……」
私は立ち上がった。そして両手で強く机を叩いた。
ひより「違う、そんなんじゃない、何故そんな話を私にするの、他にもっと言わなきゃならない人が居るでしょ、泉先輩、高良先輩、日下部先輩、峰岸先輩……私よりも
    親しい人が居るでしょ……何故私なの、そんな……そんな話をいきなり聞かされて……私にどうしろと……」
かがみ「……峰岸は名前、変っているわよ……」
こんな時に突っ込みを入れるなんて……興奮している私とは対照に冷静すぎるかがみさんだった。私は返事をせずそのままかがみさんを見た。
かがみ「ごめん……ごめんなさい……話を聞いてもらいたかった……それだけ、理由はそれだけ」
「ごめんなさい」初めてかがみさんから聞いた言葉だった。泉先輩と喧嘩をした時でも自分からは謝らない人なのに。気持ちが冷静になっていくのを感じた。
私はゆっくり座った。
ひより「私がかがみさんの病気を知っているの、分かっていたのですね……」
かがみ「……ひよりには話しておきたかった、だから呼んだ……一方的なのは百も承知、それでも聞いて欲しかった……気に障るならこのまま帰っても良いわよ」
別に追い出す感じではなかった。口調は穏やか、私が感情任せに怒鳴ったのに反応していない。さっき怒鳴った私が恥かしくなった。
ひより「……さっきは怒鳴ってすみません……あまりにショッキングだったもので……先輩に対して失礼でした」
かがみ「先輩、後輩なんて関係ない……ありがとう、取り敢えず座って」
かがみさんはにっこり微笑んだ
ひより「はい」
私は座った。
ひより「でも……どうして……私なんか……」
かがみ「もう知っていると思った……あんた泣いてくれたじゃない、それともあの涙は嘘だったの?」
泣いた……かがみさんが固まってしまった時の事を言っているのか。
ひより「い、いいえ、嘘泣き出来る程器用でないです……」
かがみさんはまた微笑んだ。
かがみ「安心したわ……嬉しかった、嘘泣きだったとしても嬉しかった」
ひより「泉先輩達だって泣きますよ、私でなくても……」
かがみ「こなた、みさおがねぇ……あいつらが泣くかしら、みゆきくらいしか想像できない」
ひより「そうかなぁ~私なんか大泣きする泉先輩の姿が頭に浮かびますよ」
かがみさんは私の後ろを見ながら答えた。
かがみ「だから内緒にしてって言った」
ひより「どう言う事です?」
かがみ「私があと半年で死ぬなんて分かったらあいつら絶対に普段通りじゃなくなる」
それはそうだ普通で居られるはずは無い。
ひより「そうですよ、親しければあたりまえじゃないっスか」
かがみ「……私は普段通りのあいつらが良いのよ……急に優しくされたり、泣かれたりしてもそれは本当のあいつらじゃない……それは家族にしても同じ、
    普段通り、話して、笑って、喧嘩して……」
普段通り……か。私にはよく分らない。
ひより「病気が悪くなれば何れバレますよ?」
かがみ「その時までで良いわよ……」
それなら……
ひより「実は、ゆーちゃん、みなみちゃんも知っていますよ」
かがみさんは私の目を見た。
ひより「い、いや、私でなくて……まなぶさんが教えてしまったらしいっス」
かがみ「……別に怒ってなんかいないわよ、知られてしまったのはしょうがないわよ……ひよりも佐々木さんが口を滑らせてしまったって聞いたわよ……」
そうか、かがみさんは佐々木さんの所に行って整体治療をしてもらっているのか。だから私の事も知っているのか。
かがみ「記憶を消す事だって出来るのに、佐々木さんはしなかった、技術に頼らないのは評価に値する」
ひより「みなみちゃん……高良先輩に教えるんじゃないかって少し心配なんです」
かがみ「いまの所それは無いわね、みゆきはつかさの手伝いに夢中だし、かえって良かったわよ」
なんか少し肩の荷が下りた感じだ。でも小林さんが病気を知ってしまったのはかがみさんに教える気にはなれなかった。なぜなら小林さんの正体も知ってしまうから。
 
ひより「あの、妊娠の件なんですが……御相手は?」
かがみ「そう、この前言っていた彼、恋人、小林ひとしさん……」
すんなりだった。顔を赤らめる事もなくはっきりと言った。小林ひとし、初めて聞く名前ではない。もう既に会っている。
ひより「どうして……」
かがみ「私は彼が好き……だから彼を受け入れた、それだけよ、他に何か必要なの?」
そう正々堂々と言われると言い返せない。もうこの二人は恋人じゃない、愛し合っている。夫婦といってもいいくらい。あの時の小林さんの態度を見ても明らかだ。
ひより「い、いや、それだけで充分だと思います、だけど……」
かがみ「……だけど私には時間がない、私のした事は間違っている……そう言いたそうね」
いちいち私の先回りをするかがみさん。いや、まだ時間がないと決まった訳ではない。
ひより「私達はまなぶさんの協力を得てかがみさんの病気を治す方法を探しています、まだ諦めないで……」
かがみ「お稲荷さんの秘術、それとも知識を使うと言うの……嬉しいじゃない……その気持ちだけでおなか一杯」
ひより「絶対に成功させますから……」
かがみ先輩は目を閉じた。
かがみ「ひよりは後何年生きる、十年、二十年、五十年……もっとかしら、私は後何年生きる、半年、一年……もう少しかしら……期間の違いはあるけど必ず私達は
    死ぬのよ、どんな技術か秘術かしらなけれど、命を救うなんてそう簡単には出来ないわ、絶対なんて言わない方がいい」
かがみさんはもう諦めている……そんな気がしてきた。
ひより「そんな悲観的な……」
かがみ「ふふ、ひより達がしようとしている計画が失敗しても私は怒ったりしないわよ、てか、死んだら怒りようがないわね」
ひより「こんな時になにを冗談なんか……」
かがみ「私は何も特別な事を望んでなんかいない、只、普段通りにしたいだけ……食べて、飲んで、笑って、怒ってそして愛するだけ、一つ心残りなのは私が死ねばお腹の
    赤ちゃんも亡くなる……これくらいね」
私ににっこり微笑みかける。私は何も言えずにた。そしてかがみさんは目を開けた。
かがみ「私のつまらない話しを聞いてくれてありがとう、さて、これからいのり姉さんと佐々木さんをくっ付ける計画を話しましょ……」
ひより「は、はい……」
かがみ「私ね、いのり姉さんはささきさんの事が好きなのは確かだと思うの……それでね」
……
……
 かがみさんの話はいつもと同じ口調、ときより冗談を交えながら話していた。
かがみさんは諦めている。そう、もう自分は助からないと覚悟を決めている。だけど……何故だろう。そこからは悲しみや怒りとかは出てこない。
そして希望や絶望も感じさせない。
かがみさんを呪ったお稲荷さん、たかしは憎くないのだろうか。友達や家族と別れるのは辛くないのだろうか。
死ぬ前になにか遣り残した事はないのだろうか。何か欲しい物は……
幾らでも出てくる未練や無念……でもかがみさんからはそんなのは感じない。それでいて自分が死ぬと言う事実から逃避しようとしている訳でもない。
そう、まるで私達が普段何気なく暮らしている日々と一緒にの様な……
普段……かがみさんはそう言った。
そうか、かがみさん病気が治るのを諦めているけど生きるのは諦めていない。だから冗談を言ってふざけもするし、恋愛だってする。赤ちゃんだってその中の過程に過ぎない……
周りの人がかがみさんを気遣いするのは返ってかがみさんにとっては鬱陶しいだけ……だから内緒にする……そう言う事なのか。
……
……
かがみ「それでね、ひよりには佐々木さんの引越しを止めてもらいたい、いや、思い滞めさせるだけでも良いわ……方法は任せる、お稲荷さんの扱いはひよりの方が慣れているでしょ」
いやいや、かがみさん、貴女はそのお稲荷さんを恋人……いや、夫にしていますよ。心の中でそう呟いた。
もしかしたら、彼がお稲荷さんでも人間でもどちらでも関係ないのかもしれない。もう私が二人に関して何かする事はもうない。二人で解決するに違いない。
ひより「はい、任せて下さい」
かがみ「お、いつものひよりに戻ったわね」
ひより「私は何時でも私ですよ、かがみさんと同じです」
私はウィンクをして笑った。そして家族が誰も居ない日に私を呼んだ意味も分かった。
かがみ「……ひより、分かってくれた……うぅ」
かがみさんの目から光るものが零れ落ちた。
ひより「どうして泣くのですか、私はかがみさんを理解しましたよ」
かがみ「ひよりが大声で怒鳴った時、正直もうダメだって思った、理解者が一人も居なかったら私……もう……」
その場に泣き崩れてしまった。この時私も一緒に泣くところ。でもまだ泣けない。ゆーちゃんが言ったようにまだ助かる可能性があるのなら私はまだ諦めない……
私はかがみさんが泣き止むまで席を立たなかった。
 
かがみ「今日はありがとう、最後に醜態を見せてしまったわ」
ひより「いいえ、私もいろいろ至らぬ点もあったと思います……」
私達は両手でしっかりと握手をした。
かがみ「つかさとみゆきがしようとしている事が成功すれば私達人間の世界観や価値観を根底から変えてしまうような大きな事、羨ましい、私もその一員に入りたかった、
    だけど私には時間がない、せめて……いのり姉さんの手伝いくらいはしてやりたい……」
ひより「それは普段からしているじゃないですか」
かがみ「そうかしら」
ひより「はい」
私は微笑んだ。
かがみ「……それじゃまたね」
ひより「また……」
別れ際のかがみさんがとても淋しそうに見えた。
 
 かがみさん無理しちゃって……
帰り道心の中でそう呟いた。
でも、死期が近い身でありながら普段通りなんて誰でも出来る事じゃない。私だったらどうなんだろう……その時になってみないと分からないかな……
それにしてもかがみさんと小林さん……二人は愛し合っている……私もあんな恋愛をしてみたい…これが……憧れ……か。
ゆーちゃんがつかさ先輩なら私はかがみさんに憧れる。あんな生き様を見せ付けられたら……
「田村さん?」
後ろから声がした。私は振り向いた。
いのり「やっぱり田村さんだ、すれ違ったの気付かなかった?」
そこには巫女服姿のいのりさんが立っていた。その横に神主姿のおじさんも居た。
ひより「あ、こんにちは、す、すみません、気付きませんでした」
私は二人に向かって会釈した。
いのり「この姿で気付かなかったなんて、よっぽどな考え事をしていたみたいね」
確かに二人は巫女と神主姿、普通なら直ぐに目に付く。そう、よっぽどな考え事だったかもしれない。でもこの二人には話す訳にはいかない。
いのり「かがみと会っていたのかな、その帰り道ね」
ひより「はい……」
いのり「あ、丁度良かった、これから神社に持って行く物があるから手伝ってくれる?」
ひより「あ、良いですよ」
いのりさんはおじさんの方を向いた。
いのり「お父さん、神社にお払いもって行くから先に帰って」
だたお「だめじゃないか、かがみのお友達を利用するなんて失礼だろう」
私の顔を見て申し訳なさそうに礼をした。
ひより「いいえ、お構いなく、ここで会ったのも何かの縁ですよ、喜んで手伝わせていただきます」
なんだろう、ここでいのりさんに会うのは何か偶然では片付けられない何かを感じる。
ただお「すまないね、それじゃよろしく頼むよ」
おじさんはいのりさんにお払いを渡した。
いのり「それじゃ、行こうか」
私はおじさんに礼をするといのりさんと神社に向かった。
 
いのり「これでよしっと!!」
神社奥の倉庫、その中にいのりさんは恭しくお払いを納めた。いのりさんを巫女さんなんだなって思った瞬間だった。いのりさんは倉庫の鍵を閉めた。
いのり「ありがとう」
ひより「あの~私、何もしていませんが……」
私は何も渡させていなかった。持ち物は全ていのりさんが持っていた。私と一緒に行く必要は全く無い。そんな私を見ながらいのりさんは咳払いを一回すると真剣な顔になった。
いのり「私達に気付かないような考え事、それはかがみに関係することかしら、かがみと家で何を話したの?」
す、鋭い、流石は柊家の長女、私の表情で只事ではない何かを感じたのか。それでわざわざこんな所まで連れてきたのか。
どうする。「なんでもありません」で帰してくれるほど簡単ではなさそうだ。私が返答に困っていると透かさず話してきた。
いのり「話したくない、話せない……どっちにしても気になる、最近かがみの様子がおかしいから、何か知っていたら話して欲しい」
なんてこった。かがみさんと別れてすぐに秘密を暴かれる危機がくるなんて。安請け合いなんかするんじゃなかった。どうする。中途半端な嘘は通用しないしすぐにバレる。
いのり「田村さんが話せないならかがみに直接聞くか、ごめんなさい、こんな所まで連れてきて」
ま、まずい、直接なんて聞かれたらかがみさんは本当の事を言うしかなくなる。ここでなんとかしないと。考えろ、考えるんだ、ひより!!
ひより「此処、覚えています?」
いのり「え?」
いのりさんは周りを見回した。
いのり「覚えてるって……何?」
いのりさんは首を傾げた。
ひより「ここにコンを連れてきましたよね」
いのり「……あ、あぁ、そう、そうだった、最初は私が見つけたのにまつりに取られてしまった」
本当はゆーちゃんが最初に見つけたのだけどね。あ、そんな事考えている暇はなかった……
ひより「あの犬、狐にすごく似ていませんでしたか?」
いのり「似ている、私が狐に間違えるくらいだった、鳴き声も狐そっくり、だからコンって名付けた」
いいぞいいぞ、こっちの方に話題を掏り替える。
ひより「私、思ったのですよ、つかさ先輩の一人旅の出来事に似ているなって」
いのり「似ている……?」
いのりさんはまた首を傾げた。
ひより「実はつかさ先輩も旅先で狐に会っているのですよ」
暫く考え込んでいたいのりさんだが、急に手を叩いた。
いのり「あ、そういえば思い出した、つかさは夕食の度に度の話しをしていた、狐が、お稲荷さんがどうのこうのって……あんなの話し、作っているだけの絵空事だと思っていたから
    かがみ以外は聞き流していた……そ、それがどうかしたの?」
やっぱりつかさ先輩は家族に話していた。あまりに現実離れしているから普通なら聞き流してしまうのは当たり前。
ひより「つかさ先輩が今まで嘘を付いたり、作り話をしたりした事ってあります?」
いのり「……な、ない……」
ひより「でしょ」
私は微笑んだ。
いのり「つかさが嘘をつかないとしたら……あの話は……ちょっと、田村さん、詳しく教えて!!」
食いついた……このままやり過ごせるかもしれない。真実を話して核心を隠す……また使うとは思わなかった。
私はつかさ先輩の一人旅で起きた出来事を話した。
 
いのり「ま、真奈美さん……」
話が終わるといのりさんは袖で目を隠した。涙を拭っているように見えた。
ひより「もし、コンが真奈美さんの一族だとしたら……って考えいたらいのりさん達とすれ違った……」
いのり「かがみとそんな話しをしていた訳ね……ちょっと待って、もし、もしコンがお稲荷さんだとしたらその飼い主である佐々木さんはどうなの……」
私は両手を広げてお手上げのポーズをした。話すのはここまで。
ひより「そうなんです、想像だけが膨らむのですよ……」
いのり「……分かった、ごめんなさいね、変な疑惑をしてしまって」
ひより「いいえ、それでは帰らせてもらいますね、さようなら」
私は歩き始めた。
いのり「ちょっと待って」
ギクリとした。まだ何かあるのだろうか。私は振り向いた。
いのり「この話はあまり他言すべきでないと思う、つかさは喋り捲っているみたいだけど……大丈夫かしら?」
ひより「つかさ先輩もその辺りは分かっているみたいですよ、気の許した人にしか話していないみたいですから……」
私は内心ホッと胸を撫で下ろした。
いのり「そうね、私も話さないようにする……」
いのりさんは少し心配そうな顔をしていた。
ひより「いのりさん……佐々木さん、気になりますか?」
しまった。何を言っているのだ。さっさと帰ればいいものを。
いのり「……気にならない、なんて言えない、彼の整体院が連日休診しているから……」
もし、本当にいのりさんが佐々木さんを好きならばいつかは通る道。でもそれは私ではどうする事もできない。
ひより「私……まだ異性を本気に好きになった事がないから分からない、でも特別な人で無い限り誰もが一度は誰かを好きになるものでしょ?」
いのり「……まぁ、そうね……」
ひより「生まれて、成長して、誰かを好きになって、次に命を繋ぐ……そして亡くなる……生きているなら当たり前、生命が生まれてからずっと続いてきた営み……
    こんな当たり前な事なのに何故祝ったり悔やんだりするのが不思議に思っていました」
いのり「冠婚葬祭ね、私も巫女をやっていると何度もそう言う場面に出あうわね」
ひより「でも実は、当たり前の様でどれもが奇跡に近い出来事だったって……」
いのり「そうね、そうかもしれない……なぜそんな話しを?」
かがみさんを見てそう思った。何て言えない……
ひより「いえ、そう思っただけです……」
私は会釈をしてその場を離れた。いのりさんはこれ以上私を引き止めなかった。
 
 神社の入り口に差し掛かるとかがみさんが走って向かって来た。いのりさんの帰宅が遅いので心配になったのだろうか。かがみさんは私に気が付いて駆け寄ってきた。
かがみ「はぁ、はぁ、いのり姉さんは一緒じゃなかった?」
息が切れている。全速力だったみたい。
ひより「さっきまで一緒でした、まだ倉庫に居るかもしれません、それよりそんなに走って大丈夫なのですか?」
かがみ「ま、まさかひより、私の事を言ってしまったんじゃないでしょうね?」
私は首を横に振った。かがみさんがホッとした表情で中腰になった。
ひより「でも、いのりさんはかがみさんの異変に気付いていますよ、誤魔化すためにつかさ先輩の一人旅の話しをしました……ですから、まなぶさんや佐々木さんを
    お稲荷さんかもしれないと思っているかもしれません」
かがみ「私の異変に気付いているだって、そうか、それじゃ私はこのまま戻った方がよさそう……」
ひより「行ってあげて下さい、いのろさんも悩んでいるみたいだし……佐々木さんの事で」
かがみ「私が行っても姉さんの悩みなんか解決できっこないわよ」
ひより「それでも良いじゃないっスか、二人で話す機会なんてそうそう無いですよ」
かがみさんは暫く神社の奥を見ていた。
かがみ「……そうね、そうするわ」
ひより「それでは、私は帰ります」
かがみ「あんた、急に変わったわね……いつも外から覗き込んでいて介入なんかしない感じだった、こなたと一緒にいても行動するのはこなたの方だったでしょ、
    でも、今のひよりは……まぁ、良いわ、また会いましょ」
かがみさんは私の肩をポンと叩くと早歩きで神社の奥に入っていった。
二人は倉庫で何を話すのかな……お稲荷さん、佐々木さん、コン……それとも自分の病気を明かすのか……それはないか……戻ってみるのも良いけど二人の邪魔はしない方がいい。
ここは私、ひより流の想像で済ますとするか。
私は家路に向かった。
 
 私はかがみさんの言うように佐々木さんの整体院に行き引越しを止めてもらうように頼んだ。だけど答えはノーだった。
それでも私は時間があれば佐々木さんの所に行き続けた。佐々木さんの答えは変わらなかったけど私が来るのは拒まなかった。そして。
かがみさんが生きている間は整体の治療をしなければならないので居てくれると約束してくれた。また、私とかがみさんにゆーちゃんと同じ呼吸法を教えてくれると言った。
ゆーちゃんやみなみちゃん、まなぶの協力があったのは言うまでもない。それで、ここまで漕ぎ付けたのに一ヶ月近く掛かってしまった
それから間もなくだった。小林さんから連絡があったのは……
 
ひより「ワールドホテル本社……」
東京の一等地に聳えるビル。高級ホテルだ。私はビルを見上げた。
ひより「このビルにたかしが来るって……間違いないの?」
まなぶ「そうひとしは言った、私も仲間の気配を感じる……もうこのビルに居る」
ひより「間違いはない……だけど……どうしてこんな東京のど真ん中で……このビルなんだろう?」
私達三人とまなぶは小林さんの言った通りの日と場所に待ち合わせをして合流をした。小林さんはたかしがこのビルに用事があるのと分かったので私達に教えてくれた。
これが彼の行方を知る数少ないチャンスと言う事だ。
みなみ「ワールドホテル……会長は柊けいこ、ホテル以外に幾つも工場も経営している、しかも特許申請が数千に及びその全てを会長が申請したと……」
ひより「柊……」
何だろうこれは偶然なのかな……
ゆたか「……こなたお姉ちゃんから聞いたのだけど、レストランかえでがこのホテルの傘下に入るって聞いたの……なんか偶然にしては出来すぎているような……」
ひより「……そうだね、その通り出来すぎている……」
まなぶ「いや、偶然じゃない、もう一人仲間の気配を感じる……きっとこのホテルの関係者の中に我々の仲間が居る」
ここにもつかさ先輩が関係していると言うのだろうか?
ひより「それって、佐々木さんや小林さんみたいに人間と一緒に暮らしているお稲荷って事だよね、あと何人いるの?」
まなぶ「……それは分からない、すすむはそんなに詳しくは教えてくれない、只、その一人がこのホテルに居るのは確かだな」
ゆたか「小林さんも来れば良かったのに……」
ひより「それはダメだよ、私達がたかしと交渉しないといけないから……」
ゆたか「そ、そうだったね……」
まなぶ「たかしは真奈美さんの婚約者だった、だとすれば幼い頃の私を知っているかもしれない、最初に私が彼を呼び止める、その後は君達に任せるよ」
ゆーちゃんは俯いてしまった。
ゆたか「今日までに彼にどんな交渉をするか……皆、考えて来たの……私、何も思いつかなかった……ごめんなさい……」
みなみ「一ヶ月もあったのに、何故……真剣に考えたの?」
ゆたか「一ヶ月なんて短すぎる……そう言うみなみちゃんはどうなの」
みなみ「私は……」
みなみちゃんはおどおどし始めた。
ゆたか「みなみちゃんだって同じでしょ、自分が言い出したのだからもうとっくに案が出ていると思った」
まなぶ「おいおい……この期に及んで喧嘩かよ……もう計画は実行されている、後戻りは出来ない……それだけは忘れるな」
ゆたか・みなみ「あ、う、ごめんなさい……」
まなぶの一活で二人は静かになった。でも、二人の喧嘩はそれだけたかしとの交渉が難しい事を物語っている。はっきり言って私も二人同様になにか決め手を持っているわけじゃない。
だけど私はかがみさんと会った。話した……それだけはゆーちゃんとみなみちゃんと違う……
ひより「この東京のど真ん中、人間の住む世界の首都と呼ばれている場所にたかしが来た、これは私達に少しは都合がいいかもしれない」
ゆたか「何故?」
ひより「たかしは人間が嫌い、そんな人がわざわざこんな所に来るってことは彼の人間に対する考え方が変わったのかなって思う、だから話せば分かってくれるような気がする」
その考え方を変えたのは何だろうか。自然に変わるとは思えない。でも、今それを考えている余裕はない。
ゆたか・みなみ「それで……どうすれば……」
ひより「下手な芝居や、感情的に訴えるのは逆効果……単刀直入に私達の想いを伝える……」
ゆたか「それだと、私が最初に言った方法とそんなに変わらないよ……」
ひより「え、ははは……そうだね」
私は苦笑いをした。まさかゆーちゃんに突っ込まれるとは……
まなぶ「しかしそれが一番シンプルで良いのでは、それならたかしがどう出てきても柔軟に対応が取れる」
まなぶは私達三人を見回した。
まなぶ「三人一斉に出て来られると相手も警戒する、ここは一番冷静なひよりに担当してもらってはどうだ?」
うげ、まなぶは何を宣わっていらっしゃるのですか、いきなりそんな大役を……
私が断ろうとすると、ゆーちゃんとみなみちゃんは目を輝かせて私の手を取った。
ゆたか「そうだよ、ひよりちゃん、お願いします」
みなみ「私では多分何も言えないと思う、ひよりなら……」
皆は私を買い被り過ぎている。私だって何も出来ない……
ひより「私……そんなに自信ないよ、失敗するかもしれない、それでも良いの?」
ゆたか「そうかな、佐々木さんを取り敢えずでも留まらせたのはひよりちゃんだよ、大丈夫だよ」
みなみ「私をここまで連れて来たのはひより、大丈夫」
ひより「で、でも、人の命が懸かっているし……」
まなぶ「誰もひよりを責めたりはしない」
皆が私を励ましている……それにかがみさんも言っていたっけ、助けたいと思ってくれるだけで嬉しいって……それならば……
私は手の平に人の字を三度書いて飲んだ……
ひより「結果はどうなってもそれを受け止める、それで良いなら」
三人は頷いた。そしてこの言葉は自分自身にも言い聞かせた。
まなぶ「さて、彼を何処に呼ぶかが問題だ。飲食店だと騒がしくて話しに集中できない」
みなみ「皇居外苑の公園はどう、ここから歩いて行ける距離……」
まなぶ「分かった……彼が動いた……ひより達は公園に向かってくれ、私が彼を連れて行く」
ゆたか「私はここに残る、ひよりちゃん達と合流できるようにしないと」
まなぶ「そうしてくれ」
まなぶはワールドホテルの入り口に向かった。ゆーちゃんは此処に留まり、私とみなみちゃんは公園に向かった。
いよいよ本番だ……
 
 公園の一角に私達とみなみちゃんは場所を確保した。人通りが少なく思いのほか静かだったからだ。
ひより「此処なら問題なさそう」
みなみ「ごめん……私、ひよりに全部押し付けてしまった……」
みなみちゃんは私に深く頭を下げた。
ひより「ふふ、今更そんな事言われてもね……でも、今ならまだ代われるよ、代わってくれるなら喜んで代わるよ」
みなみちゃんは慌てて頭を上げ、驚いた表情をした。
ひより「ははは、じょうだん、冗談だってば」
みなみ「……こんな時に冗談が言えるなんて、やっぱりひよりが適任……」
みなみちゃんは驚いた表情のまま答えた。
ひより「冗談でも言わなきゃこんな事出来ないよ、かがみさんは覚悟を決めているみたいだけど、やっぱりそれでも生きたいと思っているに違いない、
    一人の体じゃないからね……」
みなみ「……ひより、今、何て……」
みなみちゃんの携帯電話が鳴った。私を見ながら携帯電話を手に持った。
みなみ「……そう、橋を抜けて暫く歩くと私達がいる……」
みなみちゃんは私に向かって頷いた。合図だ。彼が、たかしが来る……みなみちゃんは携帯体電話を耳に当てながら私から離れて迎えに行った。
 
私一人広い公園に立っている。
みなみちゃんにかがみさんの赤ちゃんの話しをするのは少しフライングだったかな。結果がどうであれたかしと会った後にみんなに話すつもりだった。
空を見上げると夏の青空が広がっている。さて、覚悟を決めるか……私の覚悟なんてかがみさんに比べたら取るに足らないものかもしれないけど……
みなみちゃんは随分遠くに迎えに行った。小さく見える。どんどんみなみちゃんが近づいてくるのが分かった。そのすぐ後ろにゆーちゃん。またその後ろにまなぶが居た。
まなぶの後ろに男性が付いて来ている。彼がたかしだろうか。人間と距離を置いて住んでいるお稲荷さんの一人。はたして彼はどんなお稲荷さんなのだろう。
まなぶや佐々木さん以外のお稲荷さんは話しに聞いた真奈美さんしか知らない。緊張とプレッシャーが私を襲う。
彼はまなぶと一緒にどんどん私に近づいてきた。ゆーちゃんとみなみちゃんは途中で止まり私を見ている。
男「……彼女か、俺に用があると言う人間は」
ぶっきらぼうな話し方、ここに来るのが余り良く思っていないみたい。
まなぶ「そうだ」
男「あまり時間がない、手短に頼む……俺はたかしだ」
まなぶは私達から離れてゆーちゃん達の所に移動した。自己紹介か。それなら私も。ただの自己紹介じゃ私が誰か分からない。
ひより「わ、私は田村ひより、柊かがみの友人と言えば分かってもらえるでしょうか……」
たかしは少し驚いた顔になった。
たかし「柊かがみの友人、それで、その友人が俺に何の用だ?」
ここからが勝負、お願い。うまく行って……
ひより「い、今、柊かがみは不治の病に侵されています……残念ながら私達人間の力では彼女を治す事ができません、はるか彼方の惑星の、進んだ文明の知識を貸していただけませんか、
    私にとって彼女は掛け替えのない友人です……お願いです」
私は深々と頭を下げた。たかしは暫く私を見て大きく息を吐いた。
たかし「……まなぶが居たとは言え、よく俺を探し当てたな……俺が彼女、柊かがみにした事を知っていて、それでも俺に救えと頼むのか……」
ひより「はい、救えるお稲荷さんは貴方しかいないと伺っています……」
たかし「彼女の病名は何だ」
ひより「悪性脳腫瘍……」
たかし「そうか、それは残念だ……その病気を治す薬に必要な物質はトカゲの尻尾……野草……更に二年の発酵期間が必要だ……」
ひより「に、二年……」
私の頭の中が真っ白になった。
ひより「かがみさんの余命はあと半年……間に合いません、ど、どうすれば良いですか、何でもします、お願いです……なんとかなりませんか……」
私の目から涙が出てきた。わたしはたかしの目を見ながら懇願した。たかしは私の目をじっとみていた。
たかし「不思議だな、ホテルの会議室で君と同じように頼んだ人間が二人いた……」
ひより「えっ?」
たかし「ふ、ふふふ、はははは、これは傑作だはははは……田村ひより、遅い、遅すぎるぞ……」
急に笑い出した……何故、それに私と同じって……誰……理解出来ない……
たかしは笑い終わると真面目な顔になった。
たかし「二年前……柊つかさと言う人間が既に薬を作っている……昨夜、もう柊かがみに飲ませた、もうその話は終わっている」
ひより「へ、あれ……ど、ど、どう言う事ですか……」
まさに狐につままれるとはこの事なのか。何がなんだか分からない。
たかし「二年前、俺は人間の銃に撃たれた、その時通りかかった柊つかさに助けられた……彼女は俺を恋人のひろしと勘違いしていたがな……俺は彼女を試した、
    彼女は寸分狂わず俺の指示通り薬を調合した、薬を俺に使いたいが為に……俺がたかしと分かっていても彼女は同じ事をした、違うか、田村ひより」
ひより「あ、は、はい……つかさ先輩ならしたと思います」
たかしは微笑んだ。
たかし「俺はもう必要ないだろう、帰るぞ……」
ひより「待ってください、ホテルに居た二人って、柊つかさと高良みゆきですか?」
たかし「……そんな名前だったか」
ひより「あ、ありがとうございます」
たかし「何故礼を言う、薬を作ったのも飲ませたのも柊つかさだ、礼は彼女に言え……」
ひより「でも、その方法を教えたのは……」
たかし「教えさせたのも柊つかさだ……」
たかしは私に背を向けてきた道を戻って行った。
 
 ゆーちゃん達が私に駆け寄ってきた。
ゆたか「いまのたかしさんの言った事本当かな……」
みなみ「もし嘘を言っていたらどうする、もう彼を探せなくなるかもしれない」
ひより「いや、嘘は言っていない、近くで話した感じでは嘘は言っていない」
まなぶ「私も態度や仕草からは嘘を感じなかった……」
そう、つかさ先輩を語るときのたかしの表情に嘘はない。ゆーちゃんは携帯電話を取り出してボタンを操作し始めた。
ゆたか「話していても何も分からない、確かめよう……こなたお姉ちゃんに……」
ゆーちゃんは携帯電話を耳に当てた。
ゆかた「もしもしお姉ちゃん……え今何処なの……え……そ、それでどうしたの……」
始めは驚いた表情だった。だけど次第に笑顔になってくゆーちゃんだった。内容は分からないけど結果はだいたい理解できた。
ゆーちゃんは満面の笑みで携帯電話をしまった。
ゆたか「昨日……かがみ先輩が倒れて緊急入院したって……それで、お姉ちゃんとつかさ先輩が病院に駆けつけると、柊家の家族がいて……病気がみんなにわかってしまった、
    今日、精密検査のはずだった、だけど……」
ひより・みなみ・まなぶ「だけど?」
思わず復唱した。ゆーちゃんは笑いながら言った。
ゆたか「何も無かった、誤診として退院したって!!!」
ひより・ゆたか・みなみ・まなぶ「やったー!!!!!」
私達は手を取り合って喜んだ。
つかさ先輩。柊つかさ。ゆーちゃんが憧れている先輩。高校時代ではいつもかがみさんと一緒に居て目立たない存在だった。自分から積極的に何かするような人ではなかった。
ただ、いつも笑顔でその場を和やかにしていただけの存在……そう思っていた。ゆーちゃんの過大評価だと思っていた。コミケ事件のつかさ先輩を見ても憧れの対象にはならなかった。
でもそれは私の過小評価だった。私や、ゆーちゃん、みなみちゃん、お稲荷さんのまなぶまでも動員しても出来なかった事をつかさ先輩はたった一人でしてしまった……
数値では表現できないって……この事なのかな……憧れのの対象がまた一人私の心に刻まれた。
お稲荷さんと人間と共存か……つかさ先輩なら出来るかもしれない。
ひより「これでお腹の赤ちゃんも安心だ……」
みなみ「それはどう言う意味、たかしさんが来る前にも言っていた」
皆が私に注目した。
ひより「じ、実ね、かがみさんには子供が……」
みなみちゃんは驚いた。
ゆたか「あっ、その事なんだけど……おばさん、みきさんの勘違いだって、病院で検査したけど妊娠はしていなかったって……」
ひより「へ、うそ……私はそれで……それで……」
それで何度泣いた事か。勘違いじゃ済まないよ……でも、さすがかがみさん、つかさ先輩のお母さんだ、勘違いもスケールが大きい。
まなぶ「妊娠はありえない、我々は変身しても卵巣、精巣とも変わる事はない、人間の子供ができるわけがない……完全に人間になれば別だ、ひとしは人間になっていない」
ひより「ふ~ん、避妊の必要がないわけだ……生でし放題だね……」
ゆたか「ひ、ひよりちゃんのエッチ!!」
みなみ「ひより、下品すぎる……」
まなぶ「私はそんな意味で言ってはいない……」
ぬぇ、みんな全否定ですか。
ひより「そんな、私はこの場を和やかにしようと……」
一瞬周りが凍りついたと思った。
ゆたか・みなみ・まなぶ「ぷっ、は、ははは、うははは」
三人は爆笑し始めた。私が浮いてしまった形になってしまった。三人の笑い顔を見て私も笑った。いままで圧し掛かった岩のような重いものが取れたような瞬間だった。
 
まなぶ「私は帰るとしよう、すすむが結果を気にしている……」
みなみ「私も帰る、みゆきさんに今までの事を話すつもり、ひより、ゆたか、構わないでしょ?」
私とゆーちゃんは頷いた。
ひより「さて、あとはまつりさんといのりさんだけだな……あっ、そういえば忘れていた、まつりさん、わたしとまなぶさんが付き合っていると思ったままだった……」
まなぶ「そんな誤解はすぐに解けるさ……もう私は自分の力でで解決する、いのりさんとすすむに集中してくれ」
ひより「う、うんそうだったね……」
誤解か……そうだ、誤解だった……
ゆたか「それじゃ、ここで解散だね」
ひより「そうしようか……お疲れ様」
みなみちゃんとまなぶは東京駅の方に歩いて行った。さて、私も帰るとするかな。
ゆたか「ひよりちゃん……」
後ろから私を呼ぶ声がした。私は振り向いた。
ひより「ゆーちゃん、そういえば帰り道が同じだったね、一緒に帰る?」
ゆたか「ひよりちゃん、宮本さんの事どう思っているの?」
ひより「どう思っている……彼はお稲荷さんで、私の弟子……みたいなものだけどそれがどうかしたの」
ゆたか「……さっき宮本さんが「誤解」って言った時、ひよりちゃんすごく淋しそうな顔になった」
私が淋しそうな顔に……まさか。
ひより「え……そうかな、そんな事無いよ」
ゆたか「宮本さんと一緒にいる時、ひよりちゃん凄く楽しそうだった、名前も下の方で呼んでいるし、いのりさんやかがみ先輩が誤解するのも分かるようなきがするの、
ひよりちゃんの気持ちは、好きじゃないの?」
ゆーちゃんの目が真剣だ。お稲荷さんはもともと苗字なんかないから名前で呼んでいるだけなんだけだけど……
ひより「彼はお稲荷さんだし、彼はまつさんが好きだから……」
ゆたか「違う、宮本さんやまつりさんは関係ない、ひよりちゃんの気持ちを聞いているの」
ひより「彼は友達でそれ以上でもそれ以下でもないよ……」
ゆーちゃんはガッカリしたような顔になり溜め息をついた。
ゆたか「そうなんだ……そうなんだね」
ひより「そうだよ、それがどうかしたの?」
ゆたか「あ、うん、何でもない、何でもないよ、ちょっと気になったから聞いただけ……なんでもない、一緒に帰ろう……」
ゆーちゃんは小走りに走っていった……ゆーちゃん何を知りたかったのだろう?
私は首を傾げた。
少し遅れてゆーちゃんの後を追った。
ゆたか「ねぇ、せっかく東京まで出てきたのだし、皆を呼び戻して食事でも食べていかない、かがみ先輩に会いたいけど、お姉ちゃん達が先に会っているから押し掛けるのも悪いし」
ひより「私は別に良いけど、みなみちゃんとまんぶさんは……」
ゆたか「私、みなみちゃんに連絡するね」
ゆーちゃんは携帯電話を取り出した。私も携帯電話を取り出した。当然のように携帯電話のメモリからまなぶの携帯電話の番号を選ぶ……そういえば
男性の携帯番号を登録しているなんて……友達なら当然だ。ゆーちゃんが変な事を言いだすものだから変に意識してしまう。
二人はまだ東京駅に居たので呼び戻すのはそんなに時間は掛からなかった。
ワールドホテルのレストランで私達四人は食事をした。そこで私達はかがみさんの無事を祝った……
 
精神を集中させて……ゆっくりと、慌てず時間を忘れて、ゆっくりと……吸って……吐いて……静かな海の波のように……
ひより「ゴホ、ゴホ……」
すすむ「はい、止め……どうした、この前はうまくいったのに、今日は全然ダメだな」
ひより「……すみません、なんか調子が乗らなくて」
かがみ「確かにその呼吸法は難しいわね、私もこの前出来るようになったばかりよ、ゆたかちゃんがわずか一週間で一通りできるようになったのは驚きだわ」
かがみさんの病気が治って一週間を越えた頃、私は整体院でゆーちゃんと同じ呼吸法を学んでいた。ゆーちゃんが出来るくらいだから直ぐに物になると思ったがそれは大きな間違えだった。
一ヶ月以上経っても基本が出来ていないと言われる始末。
それでも呼吸法が成功すると身体が軽くなったような感じになり、頭もスッキリする、疲れも取れて何日でも徹夜で漫画を描けるような気になる位調子が良くなる。
ひより「でもこの呼吸法凄いですね、流石はお稲荷さんの秘術、知識ですね」
すすむ「いいや、前にも言ったかもしれないがこれは我々の物ではない、人間が独自に見つけ出したものだ」
ひより「そ、そうですか……こんな凄いのに……どうして広まらなかったのかな」
すすむ「確かに悪性新生物や感染症には効果が無いがそれ以外には絶大な効果を発揮する……物には適材適所があるものだ、そうした人間の捨てた技術や知識を私は
    拾って歩いた……その技術だけでも今の医術に引けを取らない、人間はこうした物を平気で捨てていく……」
なんか重い話しになってしまった。私はそこまで深く考えなんかいないのに。
かがみ「平気で捨てるのは進歩するからよ、貴方達の故郷でも同じ様にして来たんじゃないの、それが文明と言うものよ、それが良いか悪いかなんて今は分からない、
    失って初めてその価値に気付く、いや、捨てた事すら気付かない、違うかしら」
すすむ「……そうかもしれないな……」
ぬぅ、話しに入っていけない。あんな話しに突っ込むなんて。泉先輩の時の突っ込みとは大違いだ。かがみさんって人に合わせる事が出来るみたい。
かがみ「私の病気がこんなに容易く治るなんて、何故たかしと言うお稲荷さんにしか調合が出来ないのよ」
すすむ「我々はは母星での知識は全て共有で出来るようになっている、しかし、この地球に来てからの知識や技術は各々独自に身につけていて共有できないのだよ、
    たかしはこの地球の物から我々が使用する物を作れないかと日夜研究していた……」
かがみ「……それでトカゲの尻尾を使うのは納得がいかない、つかさのやつ、そんなのを平気で飲ませるのよ、まったく頭に来るわ」
すすむ「トカゲの尻尾……そんな物を使うのか、初めて聞いた」
佐々木さんは笑いながら答えた。
ひより「彼がそう言っていましたから……でも治ったから良かったじゃないですか、私達は何も出来ませんでしたけど」
やっぱり言わない方が良かったかな……でも、そう言うのも面白いでしょ、かがみさん。
かがみ「うんん、そんなこと無いわよ、あんた達が動いたからこそつかさの薬が成功したのよ……まだお礼を言っていなかったね、ありがとう」
ひより「そう言ってもらえると嬉しいっス」
かがみさんは真面目な顔になって佐々木さんの方を向いた。
かがみ「ところで、佐々木さん、いつまでこの整体院を休むつもりなの、引越しもいいけどせめてその時までは再開してもいんじゃない、
    男性の家に未婚の女性が何度も出入りすると何かと悪い噂が出るわよ」
すすむ「……またその話しか……」
うんざりする佐々木さん。
かがみ「いのり姉さんと会うのがそんなに辛いの、何がそうさせるの、私達に話せないの?」
ひより「微力ながら手伝いますよ」
すすむ「そう言ってくれるのは嬉しいが……もうその話は止してくれ……」
かがみさんは溜め息を付いた。
『ドンドンドン』
居間の入り口の扉から叩く音がした。
ひより「私が行くっス」
私は扉を開いた。あれ、誰も居ないと思って下を向くと狐の姿になったまなぶが立っていた。こんな状況にも全く驚かなくなった私……慣れすぎちゃっているな……
ひより「まなぶさん……そんな姿で何か用?」
まなぶ「フン、フン、フン!!」
興奮している息づかい。だけど彼が何を言いたいの理解出来ない。
ひより「どうしたの、人間にならないと分からないよ……」
すすむ「居間に来て欲しいと言っている……田村さん、かがみさんも……」
かがみ「私も……ですか」
私達は居間に移動した。

 

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