ID:1n2d23ov0氏:初恋

 はぁ、疲れた。でも今日は大掃除しないとだめだ。そう自分に言いきかせた。
今年最後の仕事を終え、自分の部屋の大掃除を始めた。普段は使わない所を重点的に掃除しないと……
掃除をして数分だった。埃を被ったアルバムが出てきた……
これは、卒業アルバムだ。何十年ぶりだろう。そういえばあの友人はどうしているかな……彼は三年になって直ぐに意気投合した親友、
でも卒業してから彼には一度も会っていない。いや、あの時から会わなくなった。
アルバムの表紙を見ていると、あの時の出来事が思い浮かんできた……


「おまえ、好きな人はいるのか」
三年生になって暫くした頃だった。お昼休み、ベランダで数人の友人と話していた時、ふと友人の口から出た質問。無視をしても良かった。話題を変えてもよかった。
「……柊さん」
何故か答えてしまった。
「…柊って、学年トップの……無理だな、相手にもされないぞ」
自分の成績は下から数えたほうが早いかもしれない。運動も下手、彼女は恐らく彼の言う通り相手にもされないだろう、でも彼の言っている柊さんは僕の言っている人とは違う。
「いや、柊つかささんの方だよ」
友人は暫く考え込んだ。
「柊つかさ……ああ、柊の妹か……話した事ないな、どんな子だかあまり印象にない、全然目立たないし……なんで好きになったんだよ」
興味津々に聞いてきた。
どうして……


『初恋』


 更に一年前、二年生の時、彼女は僕と同じクラスになった。友人の言うようにあまり目立たない子だった。僕も最初は彼女を意識しなかった。
二年生最初の席替えの時、彼女は僕の隣の席になった。隣の席になっただけだった。これだけなら彼女を好きになったりはしない。

 何週間か経った頃。
「しまった!!」
二時限目の教科書を忘れていたのに気が付いた。一年の時の友人、部活の友人など別のクラスの人に借りに行ったが、その日は同じ学科の授業が無く借りられなかった。
このままだと先生に怒られてしまう。
「どうしたの?」
隣の席から声がした。僕は声のする方を向いた。柊さんだった。彼女は心配そうな顔で僕を見ていた。
「次の授業の教科書わすれてしまって……」
すると彼女は鞄から教科書を取り出し僕に差し出した。
「え、でも、柊さんの教科書はどうするの?」
「……確かお姉ちゃんも同じ授業があったから……」
彼女は僕に教科書を渡すと教室を出て行った。これが彼女との最初の会話だった。
優しい人だな……。そんな第一印象。それ以来お互いに教科書の貸し借りが続いた。二人とも忘れん棒だった。

 夏休みが終わり、二回目の席替えが行われた。前回と同じくじ引きで席が決められた。その時隣の席になったのが彼女だった。
「また隣の席になったね」
「よろしく……」
全くの偶然だった。少しだけど運命的な何かを感じた。多分これは僕だけの感情だったのかもしれない。
それでも夏休み前より彼女と話す機会は格段に増えた。その中で僕は彼女を好きになった。そして気持ちを伝えたいと思った。
でもそれは思っただけだった。とても恥かしくてそんな事が出来るわけがない。ただ時間だけが過ぎていった。

 三年生になった。自分の中では彼女と一緒のクラスになる自信があった。二度も隣の席になったのだから。でもそれは何の根拠もない自信だった。
偶然は二度起きない。彼女とは別々のクラスになった。
別のクラスになると彼女と話すことも会うこともすっかり無くなってしまった。所詮その程度の関係だった。
しかし不思議なものだ、会わなくなった今の方が二年の頃より彼女に対する気持ちは強くなっていた。


「席が隣になったからか……そんなもんだよな、切欠なんて……」
友人はさも自分がそうだったかような口調で話していた。もうこんな話は止めようと言おうとした時だった。
「それなら、告白しなよ」
友人は僕の顔を見ながらそういった。
「告白?」
僕は言い返した。
「そうだよ、彼女の気持ち聞きたいとは思わない?」
それが出来るなら二年の時にしていた。僕は首を横に振った。
「そんな中途半端な方が俺は嫌だな……」
まったくお節介な奴だな……
『キンコーン』
「あ、次は体育だったよな、やば、早く着替えようぜ……」
友人は慌てて教室に戻った。お昼休みは終わった。そしてこの話もこれで終わり。ほっと一息ついた。

 話は終わらなかった。友人は暇を見つけると柊さんの話を持ちかけてきて告白しろと僕を説得した。その度に僕は首を横に振った。友人はある意味面白半分だった
のかもしれない。告白させてその後の成り行きを見たいのだろう。
友人もそれなりの恋愛論があったらしく告白の重要性を熱く語る場面もしばしばあった。

 卒業も近づいた。この頃になると部活動も自由参加になり放課後はそのまま帰る日が多くなった。彼が面白半分でなかったに気が付いたのはその頃だった。
友人は人気の居ない所に僕を呼び出した。
「柊は友達と長話をしてから帰る、その友達と別れた時がチャンスだよ、人気の居ない道を通るから」
「チャンスってなんだよ?」
「告白だよ、もう時間がないぞ、するなら今しかないだろ」
いつの間にそんな事まで調べていたなんて。僕はとっくに諦めていた。三年になって彼女と話した事なんて一回もないのに。今更……
「それじゃ明日決行だ、逃げるなよ」
有無を言わさず友人は教室に戻って行った。友人は本気らしい。でも告白なんて……。

 次の日の放課後、帰ろうとすると友人は教室の出口で僕を待っていた。どうやら逃げられそうにない。友人は僕を柊さんのクラスに連れて行った。
教室の中で柊さんは背の小さい子とお喋りをしていた。泉さんだったかな……確か二年の時同じクラスだった子だ、そういえば二年の時も同じようによくお喋りをしていた。
時より見せる笑顔がなんとも言えない気持ちにさせた。やっぱり僕は柊さんが好きだった。
もう少し見て居たかったけど友人は僕を連れて教室を後にした。どうやら柊さんが居るのかどうかの確認だったようだ。

 学校裏の人気の居ない通りに友人は僕を連れてきた。
「柊は友達と別れるとこの道を通るから待っていればいいよ、俺は校舎側にいて柊来たら合図するから準備しれおけよな」
準備って何をすればいい。告白するってどうやって柊さんに話せばいい。何も分らない。聞く間もなく友人は校舎の方に走って行った。

 一人残されて誰も居ない通りに居る。緊張してきたのか心臓がドキドキしてきた。冷や汗も出てきてきた。とりあえず壁の陰に隠れた。まさか本当に僕は
告白をするのだろうか。他人事みたいだけど、そんな気分だった。柊さんになんて言うのか全く考えていなかった。このまま帰ってしまおうか。
そんな考えも過ぎった。

 暫くすると校舎側から友人が出てきて僕の居る方を向いた。そしてまた校舎の方に戻って行った。これが合図なのか……それとも柊さんは別の道を通ったのか。
そんな事を考えていると校舎側から人影が現れた。
柊さんだ……僕は唾を飲んだ。彼女はどんどん僕の方に近づいてくる。僕は隠れているので彼女から僕は見えていない。
このままやり過ごせば彼女はそのまま僕を通り過ぎて帰る……やっぱり告白なんて出来ない。
柊さんが僕の目の前を通過した。さっき教室で友達と笑顔で話している柊さんを思い出した。
「柊さん」
僕は壁の影から出て彼女を呼び止めた。彼女は立ち止まり振り返った。少し驚いた表情をしていた。それもそうだ、三年になって始めて彼女を呼んだのだから。
呼び止めたはいいが何て言えばいい。彼女は何で自分を呼び止めたのか不思議に思っているに違いない。もうここまで来て後に引けない。
「柊さんが好きです……」
頭が真っ白になった。彼女は慌てて辺りをきょろきょろと見ている。他に誰か居ないか見ているのだろうか……
「で、電話して……」
彼女はそう言ったまま立っていた。僕は恥かしくなって走って校舎の方に向かった。
校舎に着くと友人が待っていた。走ったせいで息が荒くなっていた。
「どうだった……」
「分らない……」
友人は僕の顔をみるとそれ以上聞かずに置いてあった鞄を持つと帰った。
僕は息を落ち着かせてから帰宅した。


 家に帰ると自分の部屋に直行して着替えずにヘッドホンを付けて音楽を聴いた。少し頭を冷やし買った。だけど告白した時の彼女の驚いた顔が頭から離れない。
彼女は電話してと言っていたが告白するだけで精一杯だった。これ以上なにかをする気にはなれなかった。
『コンコン』
ドアをノックする音がした。ヘッドホンを外してドアを開けた。
「柊さんって人から電話よ」
お母さんだった。音楽で電話のベルに気付かなかった。柊さんの方から電話をしてくるなんて……どうしてだろう。もしかしたら……期待が膨らんだ。

 ゆっくり受話器をとった。
「もしもし……」
『ごめんなさい、こっちから電話しちゃって……で、でもこうゆうのは早い方がいいと思って……』

1分だったか、5分だったか、どのくらい話だろうか。これから先の会話はよく覚えていない。でも断りの返事だったのは分った。話が終わるとゆっくりと受話器を置いた。

「どんな電話だったの」
お母さんが聞いてきた。それもそうだ。女性から電話なんてはじめてだったから。
「え、あ、クラス会の準備の話だよ」
それに納得したのかそれ以上お母さんは聞いてこなかった。

これが彼女との会話の最後となった。でも何かすっきりした感じだった。これで良かったのかもしれない……彼女の気持ちが分ったのだから。

進学、就職、そして仕事……目まぐるしく時は進む……それから何十年か経った。


僕は埃を掃ってアルバムを開いた。
修学旅行、体育祭、文化祭……いろいろあったな。自分のクラスの写真があった。そこにはクラスメンバー全員が写っていた。何か足りないような気がした。
何だろう……そうだった。このアルバムに一緒に写りたかった人が居た。僕はアルバムを捲り別のクラスの写真を探した。
今頃どうしているのか、きっと結婚して家庭をもっているに違いない。子供も随分大きくなっているかもしれない……
写っていた……柊つかさ……にっこりと満面の笑顔で写っていた。僕の記憶とまったく同じ姿がそこにあった。
目頭が熱くなった。手を目に当てると涙が出ていた。
電話を置いた時、すっきりした感じ……あれは嘘だった。僕はまだ彼女が好きだった。そして今も……それは今の彼女ではなくアルバムの写真に写っていた彼女……
柊つかさが好きだった。未練たっぷりだ。初恋が叶うのは希なのは知っているのに……友人と会わなくなったのも彼女を思い出したくないから。
僕は自分の中の時計を止めてしまっていた。あの時の彼女の姿のまま時間を止めていた。やっとそれに気が付いた。

アルバムを閉じて押入れの一番奥にしまった。もうアルバムは見ない。
もう一度恋がしたい。そう思った時、涙が止まった。
そして自分の中の止まっていた時計が動いたような気がした。

さてと、掃除を終わらせるか。




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