ID:ilryqbMC0氏:つかさの旅(ページ1)

これは 『ID:8sJ1r760氏:かさの一人旅(ページ1)、(ページ2)』 の続編です。

 
一部 <再会>
 
 かえでさんと新しい店を切り盛りする毎日。もうどのくらい経ったのかな。忙しい毎日、そこまで考える余裕がなかった。
店は温泉宿の食堂を改造した。温泉の食堂も兼ねている。店の名は『かえで』。最初は温泉の宿泊客だけだったけど最近になってはこの店だけを目的に訪れる客も増えてきた。
店の運営もひと段落ついてこの町、規模からすると村かな、この村の生活もだいぶ慣れてきた。
別に招待したわけじゃなかったけどお父さん、お母さん、いのりお姉ちゃん、まつりお姉ちゃんは直ぐに店に来てくれた。ゆたかちゃん達も来てくれた。
お姉ちゃんはこなちゃん達と一緒に来ると言ってまだ来てくれていない。
でも今は夏休み、お姉ちゃん達も大学最後の夏休み。明日、待望のお姉ちゃん達が泊りがけで遊びに来てくれる。嬉しいな。自然と仕込みに熱が入る。
 
かえで「いよいよ明日はかがみさん達が来るわね」
つかさ「うん、やっと来てくれる、お姉ちゃんはね……」
かえでさんは手を前に出して私が話そうとするのを止めた。
かえで「その話は何度も聞いたわ、好きなのは分かるけどお腹いっぱいだ、まだ一回も会っていないのに知り合いのように感じるわ」
そうかもしれない。かえでさんと料理の話以外はお姉ちゃん達の話しかしていないかも。でもそれじゃないと真奈美さん、まなちゃんの事を思い出しちゃう。
この村に来て一番悲しい出来事
本当はまなちゃんの話をかえでさんにもしたい。だけど話せばかえでさんはまなちゃんをきっと許さない。辻さんの自殺を止めなかった。
かえで「ご、ごめん、別に悪気はなかった、話したければ話して」
どうやら私は悲しい顔をしてしまったみたい。忘れることはできないけど、今はそれを考えている時じゃないよね。
つかさ「私ってそんなに同じ話してた?」
かえで「それすら気が付かないなんて、もうかがみさん達がどんな人なのかは分かったつもり、それより明日のメニューは決まってるの?」
お姉ちゃん達に出すメニューは私が決めることになっていた。
つかさ「もう決まってる、一応フルコースにしようと思って」
私はかえでさんにメニューを渡した。
かえで「良いわね、問題ないと思う、それで最後のデザートはつかさ、貴女が担当しなさい」
つかさ「えっ、いいの?」
耳を疑って聞き直した。かえでさんは頷いた。かえでさんはいままで私の作ったデザートをお客さんに出していなかった。
かえで「最初からつかさの腕は完成に近い状態だった、お姉さんに腕の上がった所をみせてあげなさい」
デザートでかえでさんに褒められたのは初めてだった。
つかさ「ありがとう、店長」
かえで「この時だけ店長なのね、ふふふ」
私達は笑った。
 
『つかさの旅』
 
 その日が来た。お姉ちゃん、こなちゃん、ゆきちゃんが私たちの店に来た。早速予約席に案内した。
つかさ「今日は来てくれてありがとう」
みゆき「こんにちは、お久しぶりです……」
こなた「いや~つかさもこんなに早く店を持つなんて凄いね~」
つかさ「私の店じゃないよ、かえでさんのお店だよ……募る話はお店が終わってからゆっくり話そう、今夜は私たちの料理を楽しんでね」
こなた・みゆき「はーい」
あれ、おかしいな。さっきからお姉ちゃんは黙って一言も話していない。私がここに住んでから初めて会うのに何も言わないなんて。私と会うのが嬉しくないのかな。
久しぶりだからしょうがないよね。私は気を取り直してかえでさんに合図をした。かえでさんの料理が始まった。
 
 何品か料理を出した時だった。
かがみ「店長、店長を呼んできて」
店内にお姉ちゃんの声が響いた。私はデザートの準備をしていたのでその場を離れる事ができなかった。かえでさんは料理の手を休めてお姉ちゃん達のテーブルに向かった。
かえで「いかがなされましたか?」
かがみ「この料理は何、よくこんな物を客に出せるわね」
お姉ちゃんはお皿をかえでさんに突き出した。
かえで「……何かお気に召さないものでも……」
かえでさんは困惑している様子だった。今までこのお店に難癖をつけてくるお客さんは何人かいた。だけどかえでさんは毅然とした態度で対応してきた。
いくらお姉ちゃんがあんなに怒っているとは言え今までに無い低姿勢、何故だろう。
かがみ「……まだ分からないの、それでよく料理長が務まるわね……」
こなた「かがみ、いきなりどうしたの?」
さすがのこなちゃんも驚きを隠せなかった。ゆきちゃんはお姉ちゃんを見たきり何も出来ない様子だった。お姉ちゃんは一度溜め息を付いた。
かがみ「つかさを貴女に預けてどれほど腕を上げたか楽しみにしていたけど、貴女がこの程度の腕ならつかさの料理も高が知れたわね」
かえで「私はベストを尽くしました、それでお気に召さないのでしたら、せめて理由をご教授お願いします」
お姉ちゃんは立ち上がった。
かがみ「教える必要はない、つかさは貴女の何処に惹かれたのかしらね、こんな寂れた店よりつかさならもっと洒落た店を任せられるわ、がっかりした、
もうこの店に用はない、先に宿に行っているわ」
お姉ちゃんは店を出てしまった。かえでさんは俯いている。両手を握り締めて震えている。
みゆき「あ、あの、すみません、普段のかがみさんは、この様な事は……私はとても美味しく……」
こなた「わ、私も美味しいよ、次の料理……未だかな…」
必死にその場を取り繕うとするこなちゃんとゆきちゃんだった。だけどそれは空しいだけだった。私はお姉ちゃんにデザートを食べてもらえなくて寂しかった。
 
閉店時間。店はすっかり片付いた。でもかえでさんは帰ろうとはしなかった。
つかさ「すみません、お姉ちゃんのあの態度はいくらなんでも酷い、明日会う約束しているからしっかり言っておくね」
普段なら解散の時間。かえでさんはあれから気が抜けたような感じになっていた。私にはこう言うしかなかった。
かえで「……あの方、つかさのお姉さんだったのね……かがみさだったわね、双子にしては似ていなかった、気付かなかったわ」
つかさ「え?」
お姉ちゃんを知っているような言い方だった。
かえで「ここに開店してからすぐに見えたお客様だった、つかさは引越しの準備で居なかったわね」
そういえばお姉ちゃんだけ私の引越しを手伝わないでどこかに出かけていたのを思い出した。お姉ちゃんはこの店に来たのは初めてじゃなかった。
かえで「料理を食べると私を呼び、『美味しかった』……そう一言、初めて私の目の前で褒められた……味付け、盛り付け……いろいろ具体的だった、
あの時の彼女の笑顔が今でもしっかりと思い出せる」
一回だけ来たお姉ちゃんを覚えていたなんて、よっぽど嬉しかったに違いない。
褒めていたのに手のひらを返したようにいきなりのダメ出し。しかも理由を言わないなんて。力が抜けたように椅子に座るかえでさんに私はなんて言って良いか分からなかった。
かえで「……私は開店してから調理法を変えていない、いや、改善はしている、材料も私自身が選んだ、手も抜いていない、今日の料理だって……何がいけなかった」
俯いた顔を私に向けた。
かえで「もう遅いわ、帰りなさい、明日は休みでしょ、戸締りは私がするから」
つかさ「でも……」
かえで「もう少しここに居たいから、一人にして」
つかさ「……お疲れ様」
 
店の外に出ると月の光が射していた。星も綺麗。ほっとする瞬間だった。今は考えてもしょうがない。明日直接お姉ちゃんに聞く。それでいい。
淳子「あら、つかさちゃん」
宿屋の女将の淳子さん、この時間に会うのは珍しい。
つかさ「こんばんは」
淳子「つかさちゃんのお友達は部屋に居るわよ、会っていくかい?」
つかさ「明日の朝、神社で会う約束をしているから」
淳子「神社……あのお稲荷さん?」
私は頷いた。
淳子「そういえば毎月つかさちゃんはお参り行っているんだってね、あの階段大変でしょ」
つかさ「もう慣れました」
淳子「明日は休みだってね、お友達と楽しんでらっしゃいな」
つかさ「ありがとうございます」
淳子「おやすみ」
つかさ「おやすみなさい」
明日は久しぶりに皆とお喋りができる。
 
 次の日の早朝。
私は石の上に稲荷寿司とパンケーキを置いた。そして手を合わせた。後ろにこなちゃんとゆきちゃんも同じく手を合わせてくれた。しばらく静寂が続いた。
みゆき「ここが真奈美さんの……不思議な雰囲気ですね」
こなた「そうかな、私には普通の森にしか見えないけど、しかしこの階段はつかれたよ~よく息も切らさないでつかさは登れるね」
ゆきちゃんはこなちゃんにあの出来事を話した。ここでどんな事が起きたのかこなちゃんは知っている。信じているのかいないのかは別にして。
つかさ「毎月数回は登っているからね」
こなた「普通の森だけど、この景色はいいな、町が見渡せるよ」
こなちゃんは階段から町を見下ろしていた。
みゆき「泉さんは一連の話をどう思われますか?」
おもむろに口を開いた。
こなた「俄かに信じろって言われてもね……でもつかさが嘘をつくとも思えない、幻想でも見た、それで片付けるのも納得がいかない、お稲荷様か……」
町並みを見下ろしながらこなちゃんは答えた。
こなた「でも、つかさがここに来て店を出すなんて言ったのだから、よっぽどの事が起きたのは確かだよね、つかさをそこまで決心させた何かがね」
みゆき「そうですね、でも、一番驚いたのはかがみさんではないでしょうか」
つかさ「お姉ちゃん、来てくれなかった……ゆきちゃんはお姉ちゃんにも話したの?」
ゆきちゃんは頷いた。
つかさ「やっぱりお姉ちゃんは信じてくれなかったのかな」
みゆき「かがみさんは生理痛が酷くて宿で休んでいます、無理は禁物です、おそらく元気なら来てくれたと思いますよ」
こなた「チッチ、みゆきさんはかがみを全く分かってないね……かがみはツンデレだから、ツン、が出てるんだよ」
こなちゃんは人差し指を立て、舌打ちをして私たちの方を向いた。
こなた「昨夜のかがみは本心で言ったんじゃないと思うよ」
みゆき「それでは、どうしてあのような言動を?」
こなた「それは、つかさが原因だよ」
つかさ「え、私?」
こなた「可愛い妹が見ず知らずの人に取られた、それも料理の才能を見込んで、これだけでかがみの嫉妬心に火を付けるには充分さ」
お姉ちゃんはかえでさんに焼餅を焼いていた。そうなのかな。
つかさ「でも、私は別にお嫁さんになったわけじゃないし、かえでさんは女性だよ……それだけで焼餅焼くかな?」
こなた「血縁関係、性別、年齢問わずそうゆうのはあるんだよ、高校時代かがみはいってたじゃん、つかさよりも一歩先にいきたかったって、雲泥の差があったらそんなの
    言わないよ、つかさはかがみとってライバルでもあり、可愛い妹でもあり、友達でもあったんだ、それをいきなり松本さんって人がつかさを取っちゃった、
    これはかがみにとっては言い表せないほどの喪失感があったに違いない……だよね、みゆきさん」
こなちゃんはゆきちゃんの方を向いた。ゆきちゃんは突然振られたのですこし慌てていた。
みゆき「え、ええ、そうですね、なかなか興味深い推理ですね、昨日からかがみさんの様子がおかしかったのですが、生理痛だけはなさそうですね」
こなた「その生理痛も疑わしい、きっと今頃、宿屋であんな事をして後悔しているよ」
つかさ「それなら心配はしないけど……」
そう、後悔しているなら心配はしない、かえでさんとお姉ちゃん、性格がなんとなく似ているからもしかしたらと思った。これ以上の衝突は無く友達になって欲しい。
みゆき「かがみさんが心配です、すみません、私は先に下ります、お昼にまた会いましょう」
ゆきちゃんは階段を下りていった。私達はゆきちゃんが小さくなるまで見送った。
 
こなた「お稲荷さんの末裔か……つかさは神社の娘……これって偶然じゃないよ、まだ何大変な事が起きるような気がするよ、真奈美って人がつかさを殺さなかったのも、
    もっと何か意味があるのかもね、フラグ立ちまくり……そうは思わない?」
つかさ「フラグ云々は別として、まなちゃんにはまた会いたい、助けてもらったお礼も言ってないしね」
ゆきちゃんが見えなくなった頃だった。こなちゃんは目を閉じてから私の方を向いた。
こなた「フラグと言えばね、もう一つ見つけた、つかさは気付いていないだろうね……」
何だろう、勿体ぶった言い方、私はその内容を聞きたくなった。
つかさ「なに、そのフラグって、私に関係するの?」
こなちゃんはニヤリと笑った。
こなた「……昨夜のお店にいた一人の男性客……それがつかさをずっと見つめていた……きっとつかさに気があるよ」
つかさ「男性客、私を見つめていたって、それだけで何故私に気があるって分かるの?」
こなちゃんは得意そうな顔になった。
こなた「バイトをしていて分かるようになった、あの目は普通じゃないよ、もっともストーカーの可能性もあるからその辺り判断できない」
つかさ「ストーカー……なんか怖い」
こなた「まぁ、気を付けることですな……さてと、私もみゆきさんじゃないけどかがみが心配、つかさも心配でしょ」
私は頷いた。
こなた「午後からこの町を探索しに行こうと思ってるんだけど、私はみゆきさんと一緒に行くから、つかさはかがみの相手をして」
つかさ「え、私は皆を町の案内する為に一日休んだし、別行動はあまり良くないよ」
こなちゃんはまた舌打ちをして人差し指を立てた。
こなた「つかさ、まだかがみを分かってないね、きっとかがみは私達と一緒に行くのを断るよ……それに募る話もあるんじゃないの、姉妹だしね」
こなちゃんはウインクをした。
こなた「まぁ、姉妹で何を話しても構わないけど私がツンデレの話をしたって話さないでね……あとで殴られるから」
つかさ「こなちゃんこそまだお姉ちゃんを分かっていないよ、私が何を話してもこなちゃんは殴られるよ」
こなた「え、なんで?」
こなちゃんはキョトンとした顔で私を見つめた。
つかさ「時間は大丈夫なの、遅刻はお姉ちゃん嫌いだから……」
こなちゃんは慌てて腕時計をみた。
こなた「うゎ、もうこんな時間、それじゃ三十分経っても携帯に電話がこなかたらかがみは宿にいるから」
つかさ「それじゃここで待っているね」
こなた「うひゃー、遅刻、遅刻」
こなちゃんは飛び出すように階段を下りていった。そのスピードはゆきちゃんの時の三倍はある感じだった。私はこなちゃんが見えなくなるまで見送った。
 
 私はまたお供えた稲荷寿司とパンケーキの所に向かった。こなちゃんの話が気になっていた訳じゃないけど、なんとなく来てしまった。そして両手を合わせた。
まなちゃん、辻さん、皆を守ってあげて下さい。
 
 私は会談を下りるのに時間がかかるので十五分後には下り始めた。神社の入り口を通る頃、こなちゃんの言う三十分が経った。携帯電話のメール着信が来た。
見るとこなちゃんからだった。内容は、お姉ちゃんはやっぱり出かけないと書いてあった。こなちゃんは電話しないって言ったのに。こなちゃん、変わったかな。
 
 宿が見えてきた。その隣にレストラン。素通りしようとしたけど出来なかった。でも休みの時は店には入るなってかえでさんと約束をしったっけ。ちょっと覗くだけなら。
窓越しに店の中を見た。かえでさんが忙しそうに働いていた。昨夜のような脱力した感じは見受けられなかった。なんか安心した。
 
 お姉ちゃん達が泊まっている部屋の前に着いた。私はノックした。返事は無かったけど扉を開けた。
つかさ「お姉ちゃん、入るよ」
お姉ちゃんは椅子に座っていた。何をするわけでもなく。
つかさ「これからでもこなちゃん達と合流する、こんな所でも結構見るところいっぱいあるよ」
お姉ちゃんはムスっとした顔で窓の外を見ていた。私と目を合わせないようにしているみたいだった。
私はテーブルに置いてあったポットと急須でお姉ちゃんにお茶を入れてあげた。
つかさ「久しぶりだね、お茶なんか高校三年の時以来だね、その時はコーヒーの方が多かったかな?」
お姉ちゃんは何も言わず窓の外を見たままだった。どうしよう。こんな時はどんな話がいいのかな。昨夜の話をしたら余計に話してくれそうにない。
かといって昔話をしたって同じだよね。それなら私が知らないと思っている話をしてあげよう。
つかさ「お姉ちゃん、私が引越しの……」
かがみ「そんな事より、いつ頃帰ってくるの?」
私の話しにいきなり割り込んできた。私はお姉ちゃんが前にもレストランに来てくれた話をしようとしていた。
つかさ「今はそんな話していないよ……」
かがみ「それじゃ何の話をしているのよ」
お姉ちゃんは私を睨み付けてきた。いくら生理痛でもこんな訳の分らない事で怒ったりはしなかったのに。こうなったら直接聞くしかない。
つかさ「昨日の……レストランでお姉ちゃんのした態度……」
お姉ちゃんはお茶をすすった。
かがみ「そんな事をいちいち言わないといけないのか」
私はお姉ちゃんと話しているのかな……
つかさ「そんな事、そんな事って、かえでさんは昨夜、お姉ちゃんの言葉にどれほど苦しんだのか分かっているの」
お姉ちゃんの考えている事が分からなくなった。こなちゃんの推理通りだとしてもあまりにも酷すぎる。
お姉ちゃんはまた黙ってしまった。
つかさ「それに、ここに住んでまだ一年も経っていないよ、少なくともお店が自立できるくらいまでは居ないと、それに私はかえでさんの技術を全部学びたい」
かがみ「……さすが先に卒業して社会に出ているだけはあるわね、この町を、松本さんを選んだ理由なのか、技術ね……はっきり言って彼女から学ぶ技術はないわ」
え、なんか違う、お姉ちゃんはこんな事は言わない。お姉ちゃんと話しているのに、お姉ちゃんじゃないような変な感覚を感じた。
つかさ「私は、かえでさんを友達だと思ってるよ、かえでさんは美味しい料理の技術を持っている、この町だって、まなちゃん、真奈美さんが……」
かがみ「やめろ!!」
お姉ちゃんは怒鳴った。思わず話すのを止めた。
かがみ「そんなおとぎ話みたいなのを信じると思っているのか、バカバカしい」
お姉ちゃんらしい、うんん、これが普通の人の反応かもしれない。こなちゃんやゆきちゃんだって無理に私に合わせてくれているのかもしれない。それでも……
つかさ「それでも私は見たよ、感じた、体験した、それは否定できないよ、まなちゃんは実際に私と話して、笑って、泣いて……勇気を与えてくれた」
かがみ「あんた、その松本って人に唆されているのよ、悪い事は言わない、もう関わり合うのはやめなさい」
お姉ちゃんはかえでさんを良く思っていない。私を笑って見送ってくれたのに。真っ先に賛成してくれたのに。今頃になって……
かがみ「松本かえで……性根が腐っているわ、今からでも遅くはない、私と一緒に帰ろう」
つかさ「お姉ちゃんはかえでさんとお客様と店長の関係でしか接していないでしょ、松本かえで……本人と会って欲しいの、私と同じように、きっといい人だって分かるよ」
お姉ちゃんはしばらく考え込んだ。
かがみ「つかさの良い人はあてにならん、こなたの件もあるしね」
つかさ「でも、そのこなちゃんと一番の親友でしょ」
かがみ「……それはこなたがそう思っているだけよ」
お姉ちゃんは立ち上がった。そして身支度をし始めた。
つかさ「一緒に来てくれるの」
かがみ「なに言ってるのよ、つかさが帰らないのならもう用はないわ、帰り支度よ」
つかさ「え、もう帰るの、あと二泊の予定じゃないの?」
お姉ちゃんは支度をしながら答えた。
かがみ「実はね、つかさを連れ戻しにきたのよ」
つかさ「連れ戻すってなに、まるで私が家出でもしたみたい」
お姉ちゃんは支度の手を止めて私を見た。
かがみ「私以外に賛成した人は居たかしら」
つかさ「……こなちゃんとゆきちゃん……」
かがみ「違う、家族での話をしているの」
確かにお姉ちゃん以外賛成はしなった。でも皆店に来て料理を食べた。美味しいって笑って帰った。もう誰も反対なんかしていないよ。
つかさ「だけど、お父さん達だって店に来たし、もう半年以上生活してきたし……私はもう二十歳を過ぎた、もう子供じゃない……帰る理由なんかないよ」
かがみ「意外と強情ね……まぁいいわ、今に彼女の化けの皮が剥がれて酷い目に遭うわよ、その時になって泣いても知らないから」
お姉ちゃんはまた身支度をし始めた。私は携帯電話を取り出した。
かがみ「なによ、その携帯電話をどうするのよ」
つかさ「帰るならこなちゃんとゆきちゃんに連絡をしないと」
お姉ちゃんは帰り支度を止めた。
かがみ「チッ……宿をキャンセルするのもお金もかかるし、予定通り泊まるわよ、つかさ、その間よく考えておきなさい」
さっきの舌打ち、こなちゃんとは違う。あれは何か失敗した時に使う舌打ち。舌打ちなんかお姉ちゃんは滅多に使わない。よっぽど私を帰したいみたい。
帰らないのならこなちゃん達に連絡は要らない。そのまま携帯電話をしまった。これ以上はお店の話はしない方がいいみたい。話題を変えよう。
つかさ「お父さん達はどう、みんな元気?」
かがみ「皆いつも通りよ、とくにまつり姉さんはね……」
急にお姉ちゃんの顔が笑顔に戻った。これからは家族の話や、お姉ちゃんの大学での話しで盛り上がった。確かにこうしてお姉ちゃんと話していると家が恋しくなる。
 
お姉ちゃんとお話に夢中になっているとこなちゃん達が帰ってきた。時間を見るともう午後三時を超えていた。
こなた・みゆき「ただいま」
こなちゃんは私たちを見るなりまじまじと見つめた。
こなた「やっぱり姉妹だね~そんなかがみの嬉しそうな顔は久しぶりだよ」
冷やかされてしまった。私は何も言わず照れていた。
かがみ「……それはそうと帰りが早いじゃないの、どうしたのよ」
こなた「早く帰ってきて欲しくなったのかな~」
かがみ「違うわよ!!」
こなちゃんは何か言い返そうとしていたけどそれよりも先にゆきちゃんが割って入った。
みゆき「最近流行のパワースポットを目指したのですが……見つかりませんでした」
ゆきちゃんは地図を持っていた。
こなた「携帯の地図でも分からないんだよ」
かがみ「地図を持っていて分からないんじゃ、私も分からないわよ、ここは二回しか来ていないからね」
こなた「え、かがみはこの町、初めてじゃなかったっけ?」
かがみ「あっ、そうそう、初めてだから分からないのよ」
こなちゃんとゆきちゃんは顔を見合わせてお互いに首を傾げた。お姉ちゃんは店に来たのを皆に言っていないみたい。秘密にしたいのかな。
つかさ「そのパワースポットってどこなの?」
ゆきちゃんは地図を広げて私に見せた。
みゆき「この辺りなのですが、よく分からないのです」
地図には印しが付いていたけど道から外れていて場所が確定出来ない。だけどこの場所は私が良く通る場所。何となくイメージが出来た。
こなた「ふふ、みゆきさん、つかさに見せても分かるわけないよ」
笑いながらのこなちゃん。昔の私ならそうかもしれない。
つかさ「この場所はね、地図じゃ分からないよ、段差があるからね、きっと段差の上にあると思うよ」
お姉ちゃん達三人は私をポカンと見ていた。
つかさ「どうしたの?」
かがみ「あんた何時から地図が読めるようになったのよ」
つかさ「お姉ちゃん、私は一人旅でこの町を探索したんだよ、確かに始めは迷ったけど、そのくらいは出来るよ、それにこの印の道は車でよく通るしね」
こなた「え、車も運転するの、事故、事故は……どこかに当ててない?」
身を乗り出して驚いているこなちゃん。引越し前、車の運転には自信なかった。それが心配だった。
つかさ「かえでさんと交代で市場に買出しに行くから使うよ、おかげさまで無事故、無違反だよ、引越しする前にね……成実さんの特訓受けから」
だから成実さんに指導してもらった。
こなた「……ゆい姉さんとはまたとんでもない人に……なぜゆい姉さんに、それでゆい姉さんは何て言ってた?」
つかさ「高校時代の夏休みに引率で連れて行ってもらった時、成実さんの運転……カッコいいなって思って……それでね、最後に成実さんは免許皆伝だって言ってたよ!!」
私は得意げに言った。でも、だれも喜んでくれなかった。何故だろう。
こなた「はは、免許皆伝……ある意味安全で恐ろしい……つかさはハンドル握ると性格変わるタイプなのか……」
つかさ「何ならこれから店の車で案内するけど……」
こなた・かがみ・みゆき「いいえ、遠慮しておきます、また今度お願いします」
思いっきり拒否された。おかしいな、かえでさんも私の運転に同乗は遠慮するし、何か悪いのかな。成実さんはあんなに褒めてくれたのに。
今度成実さんにもっとしっかり教えてもらおう。
つかさ「車がダメなら自転車借りて行こうよ、四人で一緒に、ねぇ、いいでしょ?」
もう私は今日しか皆と一緒に居られない。あとはお店が終わってからしか同行できない。
かがみ「そうね、行ってもいいわよ」
透かさずこなちゃんがニヤニヤする。
かがみ「なによ!!」
こなた「つかさの言う事は聞くんだね、さっきは調子が悪いとか言ってね~」
こなちゃんはゆきちゃんの方を向いて同意を求めた。
みゆき「ふふふ、そうですね」
かがみ「な、何よ、みゆきまで、別につかさだからって事じゃないのよ」
 
 宿で自転車を借りてパワースポットがあると言う所まで案内した。途中寄り道をしたので思ったよりも時間が掛かってしまった。
こなた「ここは……最初に来たところだ……」
みゆき「段差には気が付きませんでした……」
こなた「つかさ、本当に地図が読めたんだね」
二人は感心して段差を眺めていた。
かがみ「それで、パワースポットって何なのよ、それらしい物は見当たらないわよ」
確かにそれらしいものは見当たらなかった。そういえばこの段差は道の裏側で谷になっていたような。私は段差に沿って歩いて行った。
そして丁度道の裏側に私の背と幅もと同じくらいの岩があった。上が尖っていて下にいくほど太くなってく形、自然にできた岩みたいだけど不思議な、神秘的な岩だった。
こなた「あった、あった、この岩だよ、説明文と同じ岩だし」
みゆき「そうですね、この岩に間違えなさそうです……不思議な岩ですね……心が洗われると言いましょうか……」
気が付くと皆は目を閉じ、手を合わせて祈っていた。私だけポツンと立っている感じだった。お姉ちゃんが家の神社以外の場所で手を合わせて祈っている姿をみたのは
これが初めてかもしれない。私も気を落ち着かせて手を合わせて祈った。
 
こなた「かがみは何を祈ったの?」
かがみ「何だって良いでしょ」
こなた「あ~さては男関係でしょ~」
かがみ「だからそんなんじゃないって言ってるでしょ!!」
こなた「そうやって否定する所が余計にあやしい……」
………
こなちゃんとお姉ちゃんが言い合っている。高校時代から見慣れた光景。話は言い合いから雑談に変化してお互いに笑いも混じるようになった。こうやって見ていると
仲のいいお友達。卒業してもこうやっているのだから親友って言ってもいいよね。日下部さんやあやちゃんとはまた違った関係のような気がするけど。
宿屋で言ったお姉ちゃんの言葉がいまだに引っかかる。あれは本心でそう言ったのかな。こなちゃんの前でいくらなんでも聞けるわけもない。
それにかえでさんに対する態度も理由が分からない。焼餅を焼いているにしても、私を帰したいにしてもあんな事までしなくても。
こなた「ところでこのパワースポット、どんなご利益があるの?」
かがみ「あんたは知らないでお祈りをしていたのか?」
こなちゃんは頷いた。こなちゃんは私の方を向いた。
つかさ「私も知らない、だってここにこんな岩が在るなんて初めて知ったから」
みゆき「話では万病に効くと、難病のご老人がこの岩を触ったら改善したと……先ほど携帯で調べた限りですけど、この町が出来た頃には既にあったようですね」
こなた「な~んだ、色恋のパワースポットだと思ったのに、皆健康だからここは関係ないね」
するとお姉ちゃんは腕を伸ばして岩を触り始めた。そしてその手を反対の腕に擦り付けた。
こなた「かがみ、なんか病気持っていたっけ?……」
こなちゃんは心配そうだった。私も、ゆきちゃんもお姉ちゃんを見た。そういえば神社に来なかったのも生理痛とか言っていた。
かがみ「最近調子悪くてね、これで健康になるなら安いものでしょ、ほら、皆もやったらどうなの、健康がもっと健康になるかもよ」
ゆきちゃんも岩に触れてお姉ちゃんと同じ事をした。私とこなちゃんも後に続いた。
 
 旅館に戻った私達は先にこなちゃん達を部屋に案内して私は借りた自転車を返しに行った。部屋に戻るとこなちゃん以外は浴衣姿になっていた。
つかさ「今日の夕食だけど……」
かがみ「悪いけど食欲が無いの、行きたければどうぞ、その間温泉にでも入っているわ」
やっぱり、お姉ちゃんは食べる気はないみたい。そういえば何となく顔色が少し悪いような。部屋が蛍光灯だからそう見えるだけなのかな。
みゆき「大丈夫ですか」
かがみ「平気よ、ささ、行ってきなって」
お姉ちゃんはタオルを持って部屋を出て行った。温泉に向かったようだ。お姉ちゃんの足音が聞こえなくなってから暫くして。
こなた「どうしよう、またレストランでかがみが居ないんじゃ松本さん気を悪くしそうだよ……」
ゆきちゃんは俯いて黙ってしまった。私も客として行きたいところだけど流石に行く気にはなれない。
つかさ「それじゃ部屋に持ってきてもらうように女将さんに言っておくよ、お姉ちゃん、明日は来てくれるといいな……」
こなた「つかさは来ないの、折角だから泊まっていけば良いのに、いろいろ話したい事もあるし」
つかさ「ありがとう、でも明日は早いし、もう帰らないと、明日は仕事が終わって夜からなら会えるし、その時に話そう」
こなた「そうだね、おやすみ」
みゆき「おやすみなさい」
私は帰り掛けに女将さんにこなちゃん達の部屋に料理を持ってきてもらうように言った。お姉ちゃんには消化の良いものを特別に作って欲しいと言った。
かえでさんならきっと分かってくれる。本当は直接会いたかったけど休みの日はなるべく仕事の件で会うのは止めようと約束をしていたから出来なかった。
 
旅館を出て駐車場に停めてある車に向かった。車のドアを開けたときだった。
こなた「へぇ、それはつかさの車?」
突然後ろからこなちゃんの声が聞こえた。慌てて後ろを向いた。
つかさ「こ、こなちゃん、温泉に入らなくていいの?」
こなた「24時間入れるし別に今じゃなくていいよ……それはそうとこの車、ゆい姉さんと同じだね」
こなちゃんは車を見ながら話した。
つかさ「でも、お姉ちゃんとゆきちゃんは……」
こなた「二人は温泉に入っているよ、みゆきさんが言ったんだよ、つかさと一緒に居てくれってね……ドライブしようよ、もちろん運転はつかさでね」
こなちゃんは車に乗り込んだ。そういえばこなちゃんは浴衣に着替えていなかった。もしからしたら最初からそのつもりだったのかな。
 
 私は車を走らせた。
つかさ「町を一周でいいかな」
町を一周するには30分くらいはかかる。
こなた「いいよ」
暫く車を走らせた。暫くはしらせていると、こなちゃんは「ふぅ」と溜め息をついた。
こなた「……やっぱりつかさはつかさだね、ゆい姉さんの運転とは違うよ」
つかさ「それって、褒めてるの、貶してるの?」
こなた「……つかさは変わったよ、一人旅をしたからかな、私はまだ学生なのにもうつかさは働いて車も手に入れてさ」
つかさ「え、さっき、私は私だって言っていたのに、こなちゃんの言ってる事分からないよ」
こなちゃんは黙ってしまった。
つかさ「あっ、そうだ、料理を遅くしてもらわないと、誰も居ない部屋に料理が来ちゃう」
こなた「それは大丈夫、私が駐車場に来る前、松本さんに直接言ったから、料理は最後に出してくれってね」
私はホッと胸を撫で下ろした。
こなた「……昔のつかさならそんなの気にもしなかったでしょ……松本さんって人の教育のせいかな……かがみが嫉妬するはずだよ」
こなちゃんはお姉ちゃんについて話したかったのかな。わざわざ私と二人きりで。
つかさ「私ってそんなに変わった?」
こなた「……変わったと言うより大人になった、私達はまだまだ子供だよ、みゆきさんも、そしてかがみもね……」
つかさ「社会人と学生の差って言いたいの、それならこなちゃん達だって来年卒業だよ、大学院に進学するなら別だけど、もう大人だよ」
こなちゃんは何も言わずうっすらと笑みを浮かべながら車の窓の外を見ていた。変な事言ったかな?
 
10分くらい車を走らせた。こなちゃんはボーっとして外を見ている。もう飽きちゃったかな。そうだよね、こんな田舎の町じゃすぐに飽きちゃうかも。
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんをどう思ってる?」
こなた「どうって……友達だよ……今更そんなの聞いて……」
こなちゃんは私の方を向いた。思った通りの返事が返ってきた。そうだよね。今更だよ……
こなた「もしかして昨夜のかがみを気にしているの……確かに師匠を貶されちゃ、弟子は怒るよね、何となく分かるよ」
お姉ちゃんがかえでさんを貶したとは思えない。何か深い理由があると思う、だからその話は今、しなくない。
つかさ「もし、もしだよ、もし、お姉ちゃんがこなちゃんの事を友達だと思っていなかったら……どうする?」
私の顔をじっと見つめるこなちゃん。
こなた「ふーん、かがみはそんな事言ったんだ?」
私は思わずブレーキを踏んで車を止めた。
つかさ「うんん、だ、だから言ったでしょ、もしもって……」
ま、まずい、一発で見破られてしまった。こんなの聞くんじゃなかった。おろおろしている私を見てこなちゃんは笑った。
こなた「ふふ、相変わらず嘘が下手だな、つかさは~」
つかさ「え、えっと……」
こなた「ほらほら、車を止めたなら早くハザード点けないと」
こなちゃんに言われるままハザードボタンを押した。こなちゃんは少し考えたように腕を組んでから話し出した。
こなた「私はかがみを親友だと思っている、それは今でも変わらないよ、かがみがどう思っていてもね……私達は高校が同じと言うだけでなんの共通項もないし、
    趣味や趣向も違う……大学も違うし、これから卒業してからも違った仕事をするようになるだろうね……でもそれが良いんだよ、
    利害を共にするとね、友情なんてすぐ壊れちゃうものだよ、かがみがそう思っているなら私にとっては好都合だよ」
つかさ「そ、そうなの?」
意外な答えが返ってきた。ただ聞き返すことしか出来なかった。
こなた「異性同士の関係ならまだしも、同性だったらこんなもんだよ、つかさ……つかさは松本さんをどう思ってるの、私やみゆきさんとは違うでしょ?」
つかさ「……それは」
初めて会った時は旅館の料理人とお客、今はレストランの店長と従業員の関係……会っていて楽しいけどいつも緊張感をもって接している。
こなた「お店がうまくいかなければ松本さんの責任は重大、あっと言う間につかさは松本さんと別れると思うよ、それでも友達で居られるなら……本物だよ」
私とこなちゃん……何の利害関係もない、だからこうやって話したり、笑ったり、遊んだり出来るのかもしれない。こなちゃんの言葉が重く響いた。
それと同時にお姉ちゃんとこなちゃんはこれからも友達でいられるような安心感も湧き上がった。
つかさ「こなちゃん、今日はいろいろとありがとう、なんかもやもやしているのが晴れた感じだよ」
こなた「いろいろって、私は何もしていないよ?」
つかさ「さてと、宿屋に戻ろうね、全開でいくから」
私は車の窓を全開にした。
こなた「え、え、今までの……全開じゃなかったの?」
つかさ「うんん、成実さんが教えてくれた三割程度だよ……加速は最高で、法規は厳守……風を切るように……」
今日の風は気持ち良さそう。ギヤを入れ、アクセルを思いっきり踏んだ。
こなた「ちょ、つかさ、まだ私の心の準備が、ぎ、ギャー」
 
 旅館の前に着いた。私は車を止めた。
こなた「隣の席に、ゆい姉さんの姿を見た……」
つかさ「こなちゃんにそう言ってもらえると嬉しい」
こなた「言っておくけど、褒めているわけじゃ……まぁ、いいや」
私の顔を見るなり言うのを止めた。そして車の外に出た。私も車を降りようとした。
こなた「いいよ、そのままで、明日は早いんでしょ?」
つかさ「うん」
こなちゃんは運転席の方に回って来た。
こなた「いつの間にゆい姉さんと同じ走りに……信じられない、この調子で松本さんの技術も全て覚えちゃいなよ」
つかさ「うん、頑張るよ、また明日ね」
こなちゃんは手を振り宿屋へと入っていった。
私も帰ろう。
 
 
次の日の朝一番、私は市場で食材を買出ししてから店に向かった。店に入ると厨房に明かりが灯っているに気が付いた。かえでさんが居る。
かえでさんは腕を組んでじっと下の方を見ていた。そこには料理が置かれていた。そう、あの時お姉ちゃんがかえでさんに突き出した料理と同じもの。
つかさ「おはようございます!!」
かえでさんは飛び跳ねて驚いた。そして厨房の時計を見た。
かえで「驚いた……もうそんな時間なのね」
つかさ「えっと、食材を買ったので運ぶのを手伝って欲しいのですが」
かえで「OK!!」
一緒に車に向かう。かえでさんあの様子だと徹夜で何故お姉ちゃんが料理を批判したのか考えていたみたい。食材を冷蔵庫に運びながら話をした。
つかさ「もしかして徹夜してた?」
かえで「まあね……貴女のお姉さんの宿題、難しいわね、全く分からないわ、それだけ私が傲慢だった、一つの価値観をお客様に押し付けていたのかもしれない」
つかさ「うんん、あまり気にしないで下さい、お姉ちゃん、きっと私と離れて寂しいからあんな事言ったんです」
かえでさんは笑った。
かえで「ふふ、見た目はそんな感じには見えないわよ、しっかりもののお姉さんってね、つかさの方がよっぽど子供っぽいわ」
そうだよね、見た目も実際もそうかもしれない。
かえで「それよりごめんなさいね、折角お友達とお姉さんが来ているのに休ませられなくて……もう少し軌道に乗れば休んでもらえるのだけど」
つかさ「いいえ、それは覚悟して来ましたから、それより徹夜でこれから開店して大丈夫ですか、私が代わりましょうか?」
かえで「いいえ、それは覚悟しているから……」
言い返された、二人で笑いながら食材を運んだ。この様子ならかえでさん、大丈夫かな。ちょっと安心した。暫くするとスタッフの人達も出勤してきて慌しくなった。
 
 お昼を過ぎて少し時間に余裕が出てきた頃だった。厨房で食器の片付けをしていた。先に食事を終えたかえでさんがやってきた。
かえで「つかさ、前々から気になる事があってね、確認しておきたい」
何だろう改まって。私は作業を止めてかえでさんの方を向いた。
かえで「いや、作業はそのまま続けて、自然にしていて、そのまま私の陰から5番テーブルのお客様を見て」
お皿を片付けながらちらりと5番テーブルを見た。そこには男性が座っていた。中肉中背、年齢は私と同じか少し年上っぽい。じっとこっちを見ているみたいだった。
かえで「半月くらい前からかしら、毎日のように来るようになったお客様よ、しかも店内に居る間はつかさの方ばかり見ているの、知り合い?」
もしかして神社でこなちゃんが言っていた男の人ってこの人なのかな。
つかさ「うんん、初めて見る人です、話もしたことないです」
かえで「毎日来てくれている常連さんだから今まで黙っていたけど、つかさの知らない人であるなら少し心配ね……ストーカーも考えられるわ」
こなちゃんと同じ事言っている。最後の食器を片付けてかえでさんの方を向いて話した。
つかさ「帰りは車だし、後を付いてくるような車とかの気配はなかったです」
かえで「それを聞いて安心したわ、お客様を疑ってはいけないわね、つかさの彼氏とも思ったほどよ、あの目つき、いやらしくはないけどね……つかさに気があるかもよ」
つかさ「え、この町に来てまだ一年経っていないです、そんなに私はもてません」
かえで「ふふ、何赤くなって、別に恋愛禁止って訳じゃないわよ、ちゃんと仕事をしてくれればね……それじゃこの話は頭の片隅にでも置いておいて忘れて……」
ちょうどその時、5番テーブルの男の人が立ち上がった。店を出るみたいだった。かえでさんはそれに反応するかのようにレジに向かった。
今まで気が付かなかった。かえでさんはお客さんもしっかりチェックを入れている。私も見てくれている。やっぱり凄いや。かえでさんは料理だけじゃない。
改めてかえでさんを尊敬してしまった。それにこなちゃんもたった一日だけであのお客さんが私に注目しているのを分かったなんて凄いな。それとも私が鈍感なだけなのか。
こんどはお客さんの様子も見ないとだめ。
それにしてもあの男性のお客さん、どうして私を見ていたのかな。ストーカーだったら怖いし。私に気があるのならどうしていいか分からない。
 
 ラストオーダーが終わり片付けに入った。やっぱりかえでさんを皆に会わせたい。特にお姉ちゃんに本当のかえでさんを知ってもらいたい。
結局今晩もお姉ちゃんは来てくれなかった。
つかさ「かえでさん、この後何か用事はありますか、なければ改めて皆を紹介したい……徹夜で疲れているのは知ってる、だけど明日にはみんな帰っちゃうし……」
かえで「行っても良いけど、私はお邪魔になるだけでは、特にかがみさんにはね」
やっぱりかえでさんは気にしている。
つかさ「普段着のかえでさんを皆に知ってもらいたくて」
かえで「普段着ねぇ、そんなに変わらないわよ、私はいつでも私、場所や立場が変わっても同じよ」
つかさ「それじゃ、決まりだね」
ちょっと強引だったかもしれないけど、かえでさんを連れて宿屋に向かった。
 
お姉ちゃん達が泊まっている部屋の前でノックをする。
つかさ「こんばんは、入るよ」
ドアを開けると三人とも浴衣姿で楽しそうにしていた。きっとお話が盛り上がっていたに違いない。
こなた「つかさ~待ってたよ、ここのお湯いいね、だからあと二泊することになったよ」
嬉しい。まるで地元を褒めていられるたような感覚だった。三人は私の後ろにいるかえでさんに気が付いた。
つかさ「あ、改めてご紹介します、こちらは私がお世話になっている松本かえでさんです、この宿屋の食事兼、レストランの店長です」
かえでさんを前に出した。
かえで「先日のご来店はありがとうございました、私が松本かえでです、つかさのお友達、お姉さまと伺っています、今後ともよろしくお願いします」
こなた「よろしくお願いします」
みゆき「こちらこそお願いします」
こなちゃん、ゆきちゃんは丁寧にお辞儀をした。お姉ちゃんは黙ってそっぽを向いていた。何で、いくらなんでもお姉ちゃんらしくない。
つかさ「お姉ちゃん、お世話になっている人だよ……」
かがみ「どうも、つかさがお世話になっています……」
そっぽ向いたまま何の動作もしなかった。言葉も感情がはいっていなくて棒読み。これで雰囲気が悪くなってしまった。
みゆき「ど、どうぞ中へ」
ゆきちゃんは慌てて座布団を用意し、こなちゃんはお茶を用意しだした。私たちは部屋の中に入り座布団に座った。
こなた「しかし、つかさが一人暮らしするなんて聞いてどうなるかと思ったら、ちゃんとやっているみたいだし、松本さんのご指導が良かったのですね」
みゆき「これからのご活躍を期待しております」
かえで「ま、堅苦しい挨拶はこのへんでいいでしょ、とりあえずはつかさを私に預けてくれてありがとう、お友達と離れるのは辛かったでしょ?」
こなた「いえいえ、天然のつかさを鍛えて下さい」
つかさ「こ、こなちゃん!!」
かえでさんはにやりと笑った。
かえで「天然ね~確かにそうゆう所もあるわね、そういえばね貴女達が来る前日にね……」
つかさ「わ、わ、それ言っちゃダメ、だめだから」
かえで「そう言われると話したくなるのが人情ってものでしょ」
 
 かえでさんが私達の会話に溶け込むに時間は掛からなかった。暫くの間、私たちはお喋りをしながら過ごした。友達が一人増えた。そんな感じだった。
かがみ「所でつかさ、この前の答え聞いてないわ」
お喋りをし始めてから出たお姉ちゃんの一言。会話が止まってしまった。答えも何も。もう決めた事だから。
つかさ「お姉ちゃん、私はここに残るよ……だってそう決めたから、目的を果たすまでは帰らないよ」
みゆき「いったい何の話ですか?」
かがみ「こんな所にいつまでもつかさを置いておけないから連れて帰るのよ」
みゆき「……どうしたのですか、かがみさん、あの時一番、賛成していたではないですか」
こなた「そうだよ、つかさだって頑張ってるし、いまさらそんな事言って……」
こなちゃんとゆきちゃんが驚いた顔でお姉ちゃんを問い質した。そんなこなちゃん達を無視するかのように私を見ていた。
かえで「……なるほどね、可愛い妹さんが居ないと何も出来ない事に気が付いた……そんな所かしら」
お姉ちゃんはかえでさんを睨み付けた。
かがみ「なに、もう一度言ってみろ」
お姉ちゃんもかえでさんを睨み返した。
かえで「貴女の心叫びが聞こえる『寂しい、帰ってきて、寂しいよ』そうそう、そう言っているのが聞こえるわ、つかさに聞いたのと全然違うわ、ただのアマちゃんね」
かがみ「わ、私はシスコンか、バカにするな、私はつかさのためを思って……」
かえで「確かに私はつかさを誘った、でも決めたのはつかさ、ここに来たのも本人の意思、そして戻りたくないと言っている、それ以上望郷を煽って惑わすのは、やめなさい」
きつい口調で諭すようにお姉ちゃんを叱りつけた。それは店で見た時と逆の光景だった。お客さんと店長としてではない。人生の先輩として……
お姉ちゃんは半分涙目になっていた。こんなお姉ちゃんを見るのも初めてだった。
かがみ「つかさ、帰ってきて、お願い、つかさ、あんたのためな……」
お姉ちゃんはそのまま黙ってしまった。
かえで「つかさのためと言うなら、そのまま黙って見守ってあげなさい……少し居すぎたわね、帰るわ」
暫くかえでさんは黙って俯いているお姉ちゃんを見下ろしていた。でもそれは軽蔑している感じではなかった。
かえで「少し居すぎたわね、帰るわ」
かえでさんはそのまま部屋を出て行った。
つかさ「お姉ちゃん、あとで話そうね……」
私はかえでさんを追いかけた。
 
かえでさんは店のの車に乗り込もうとしていた。
つかさ「まって、待ってください」
かえでさんは車に乗るのを止めて私の方を向いた。そして溜め息を一回ついた。
かえで「ごめんなさい、大人気なかったわ、彼女がムキになってくるから思わず怒鳴ってしまった……せっかく会わせてくれたのに」
つかさ「うんん、お姉ちゃんがあんな事言うから……」
かえでさんは苦笑いをした。
かえで「ふふ、彼女と言い合いしていたら……浩子の事を思い出してしまったわ」
つかさ「浩子さんって、辻さんの事?」
かえでさんは頷いた。
かえで「そういえば、浩子とあんな言い合いをしたっけ……容姿も歳も違うのに浩子と彼女が妙に重なった……言い過ぎたかもしれない……謝っておいて」
つかさ「かえでさん……」
かえでさんは車に乗り込みエンジンをかけた。そして私を見ると手を上げてから車を走らせた。私も手を振って見送った。
かえでさんは辻さんとお姉ちゃんの姿が重なったって言っていたけど、言い合いだけでそんな風になるのかな。それよりお姉ちゃんをなんとかしないと。
かえでさんの車が見えなくなると旅館に戻った。
 
 旅館のロビーに着くとこなちゃんとゆきちゃんが居た。私服に着替えている。私の姿を見るなり二人は近づいてきた。
つかさ「どしたの、お姉ちゃんは?」
こなた「暫く誰とも会いたくないって、部屋を追い出されちゃったよ」
みゆき「あんなかがみさん初めて見ました、いったいどうしたのでしょうか、理解できません」
どうしよう、これだと私が部屋に行っても会ってくれないかもしれない。
こなた「実は、宿泊延長はかがみが言い出したんだよ、かがみは是が非でもつかさをつれて帰りたいみたいだね」
つかさ「……何で……」
こなた「訳を聞くと黙り込んじゃってね、かがみらしくないよ、つかさなら心当たりあるんじゃいの?」
つかさ「分からない……」
こなた「あ~あ、つかさが分からないんじゃお手上げだ」
本当に両手を上に上げた。
つかさ「部屋に入れないのなら、私の家で時間を潰すのはどうかな、車で行けば直ぐだし」
みゆき「それはいいで……」
こなた「わー、いいよ、車はもう沢山だよ」
ゆきちゃんに割り込むように身を乗り出してきた。
つかさ「それなら、お店で少し時間を潰すといいよ、お茶くらないなら出せるし」
みゆき「いいのですか、明日の準備は?」
つかさ「もう明日の朝食は仕込んであるから関係ないよ」
 
 私達は店に移動した。消していた電灯をつけて、お茶とお茶菓子を二人に出した。そこでの話はやっぱりお姉ちゃんの話しになった。
一時間くらいは話したけど、結局お姉ちゃんの真意は分からなかった。旅館に戻った二人、何とか部屋には戻れた。だけど私は泊まるのを諦めた。
お姉ちゃんは私が帰ると言うまで泊まり続けるつもりなのかな。一日でいいのなら帰ってもいい。そこまで言うのなら、帰って欲しいと言うのなら……
 
 
二部 <訪問者>
 
 車を駐車場に止めて降りた。トランクからコンビニで買った荷物を降ろした。駐車場を出ようとした時だった。壁の陰から人影が飛び出した。そして私の行く手を阻むように
立ちはだかった。男性だった。私は立ち止まった。男性は私から二、三メートル離れて私を見ている。この男性は……店に居たお客さん、かえでさんの言ってた常連さんだ。
かえでさんは私をずっと見ていたと言っていた。も、もしかしたらストーカー……
身がすくんでしまった。で、でも、家は男性を追い越さないと帰れない。小走りに男性を追い越した。男性は邪魔するどころか何もしないで私を通した。
男性「待ってお姉ちゃん!!」
思いもしなかった言葉が後ろからした。私は立ち止まった。
男性「やっぱり、お姉ちゃんだね、探したよ」
私はゆっくり振り向いた。男性は親しいそうな笑顔で近づいてきた。
つかさ「お、お姉ちゃん?」
男性「仲間もいないから探したよ、お姉ちゃん、完全に人間になりきっているね、流石だよ、でも、僕には分かるよ、微かにお姉ちゃんの気配がする」
言っている意味が分からない、人違いに違いない。
つかさ「ひ、人違いじゃないの……私は……」
男性「僕が分からない、そうだよね、僕だって腕を上げたからね……ひろしだよ、真奈美お姉ちゃん」
真奈美……まなちゃん。もしかしてこの人はまなちゃんの弟さんなのかな。
つかさ「まなちゃん……真奈美さんは私の友達だった……」
ひろし「もうお芝居はいいよ、早く仲間の所に戻ろう、みんな神社に居ないからその訳も聞きたいしね」
男性はさらに近づいた。
つかさ「私は真奈美さんじゃないよ、柊つかさ……」
男性は私の直ぐ近くまで来るとまた立ち止まった。
ひろし「ん、おかしい、お、お前、姉さんじゃない……何故姉さんを知っている、お前、人間だよな」
男性は数歩後ろに下がった。そして目つきが鋭くなった。
つかさ「うん、真奈美さんは知り合い……友達だったよ」
ひろし「嘘だ、姉さんは人間を嫌っていた……お前、姉さんに何かしたのか」
さらに目つきが鋭くなった。
つかさ「私、真奈美さんに助けてもらったの」
男性は何も言わなくなった。この感じ……そうだ、身動きが取れなくなる術をしようとしている。二回も受けたから何となく分かった。あれは目を合わせると動けなくなる。
私は男性のすぐ横にある電柱を見て男性の目を見ないようにした。
ひろし「……こ、こいつ、何故人間が金縛りの術を知っている、お前、狐狩りか!!」
あぁ、余計に怒らせてしまった。男性は一瞬で私に近づき右手で胸倉を掴まれた。力は強く身動きが取れない。私の身体は宙に浮いた。そして左手の爪が伸び始めた。
ひろし「……弱いな、弱すぎる、これも芝居か、何を企んでいる……」
苦しくて何も出来ない。声も出ない。これじゃ金縛りを受けているのと変わらない。左手の爪が私の頬に接した。このまま切り裂かれてしまのかな。
まなちゃん、助けて……そう心で叫んだ。
男性は急に私を放した。私はその場に落ちるように座りこんでしまった。
つかさ「げほ、げほ……」
ひろし「お姉ちゃん……嘘だろ……う、うゎー」
男性は両手で頭を抱えながら走り去ってしまった。喉を少し絞められたからまだ少し苦しい。喉を押さえながら立ち上がった。買い物袋を拾って家に向かった。
 
 家に入ると水を一杯飲んだ。まだ少し喉が痛い。あの男の人、私をまなちゃんだと思っていた。あの男の人、まなちゃんが辻さんに化けるようになってから
まなちゃんに会っていない。だから間違えたんだ。でも、どうして私とまなちゃんを間違えたのかな。考えても分からないや。でも、また、まなちゃんに助けられちゃった。
 
 喉の痛みは治まったけど、お姉ちゃんの事とさっきの男性のせいで眠れない。眠れないのは、この町に引っ越してから初めてかもしれない。
こんな時は無理に寝ないで温かいココアでも飲むかな。やかんに水を入れて火を点けた。お姉ちゃんとかえでさんの言い合いを思い出す。
やっぱり明日、かえでさんに話して一日だけでも帰ろう。それでお姉ちゃんの気が済むならそれでいいし。それでダメならお姉ちゃんを叱らないといけないのかもしらない。
『ピンポーン』
呼び鈴が鳴った。置時計を見るともう日が変わろうとしている時間。こんな夜遅く誰だろう。やかんのお湯をポットに移して玄関に向かった。
ドアのノブに手をかけた。さっきの男性を思い出した。もしまたあの男性だったら。また私を……そうしたらもう自分の力ではどうすることも出来ない。開けられない。
つかさ「あ、あの、誰ですか」
ドア越しから声をかけた。
ひろし「……さっきは、ごめんなさい……ひろしです、真奈美の弟です……」
やっぱりあの男性だった。とても静かな声だった。恐い、恐いけど話さないと、またさっきみたいに怒り出すかもしれない。
つかさ「な、なんの用ですか……」
ひろし「……貴女に触れた時、見てしまった……姉と仲間の事……あれは、本当なのか……」
そういえば思い出した。まなちゃん達は触れたものの心とかが分かる能力を持っている。だから私に触れた時、あの時の状況が彼の頭の中に映ったのかな。
つかさ「……多分、見た通りだよ、私からは何も言えない、でも、私は真奈美さんに助けられた……」
ひろし「……そう、出来れば少し話したいけど……酷いことしたから……無理だよね」
……それはまなちゃんだって同じだった。最初は私を殺そうとまでしようとしていた。私は彼を信じる。ロックを解除してドアを開けた。彼は驚いた顔をして立っていた。
つかさ「とうぞ」
ひろし「ドアを開けた……なぜ、少なくとも君を傷つけようとした……」
つかさ「まなちゃん、真奈美さんもそうだったから……」
ひろしさんはそのまま家に上がった。居間に案内した。彼は椅子に座った。
つかさ「今、ちょうどココアを淹れようとしていた所だから」
私は台所に向かった。
ひろし「……いいのか、初対面の男性を家に入れて……人間の世界だといろいろ問題になるぞ」
つかさ「こんな深夜だしだれも見ていないよ、それに貴方は人間じゃないでしょ、まなちゃんが言っていた、人間とは種族が違うからそんな気持ちにはならないって」
ひろし「姉さんはそんな事まで話していたのか……」
つかさ「でも、弟さんが居るなんて一言も言ってなかった」
ココアを淹れたカップを居間に持って行った。
つかさ「どうぞ」
ひろしさんはココアを飲もうとはしなかった。私をじっと見ている。
ひろし「おかしい、どうみても普通の人間なのになぜ、姉さんを感じるのか……今も感じる」
私もそれが不思議だった。まなちゃんを感じる物って……もしかしたら。ポケットから財布を取り出し中から葉っぱを取り出した。お金だと言って渡されたものだった。
それをあきらさんに見せた。ひろしさんは笑みを浮かべた。
ひろし「……それだ、それから姉さんを感じる……はは、まだそんな幼稚な術で悪戯していたのか」
つかさ「御礼だって、渡された時は一万円札に見えた」
ひろし「これは人間を騙す初歩の術さ……」
つかさ「も、もしかして、レストランで払っているお金も……」
ひろし「ははは、まさか、この術は直ぐにバレるからな、使わないよ、人間の社会で仕事してちゃんとしたお金で払ってるよ」
笑いながら話した。そして直ぐに真面目な顔になった。
ひろし「さて、話してくれるかな、姉さんと仲間の事……」
つかさ「私も全ては知らないけど……」
私はまなちゃんとの出会いから別れまでの出来事を話した。
 
ひろし「……お姉ちゃん……」
つかさ「私の知ってるのはここまで」
ひろしさんはうな垂れていた。やっぱりそうとうショックだったに違いない。
ひろし「お頭と姉とはいつも意見が対立していたけど……まさか」
つかさ「お頭って、もしかして大きな狐さん?」
あきら「大きい……確かに、大きくて偉大、最長老で、最高指導者さ……」
つかさ「何故、あの時、えっと、えっと」
なんて呼ぼうかな。ひろしさんでいいのかな。
ひろし「ひろしでいいよ」
私の心を読んだように答えた。
つかさ「何故、あの時ひろしさんは居なかったの?」
ひろし「僕は人間の世界で修行中だったから、僕達は人間とは付かず離れずの関係できていた、最低限、人間の世界は理解しないと生けていけないから、狐狩りさえなければ……」
つかさ「駐車場で私を狐狩りって言ってたけど……」
ひろし「い、いや、大昔の話だよ、動物の狐ではなく、悪魔として狩られた時もあってね、この時代は僕達の存在すら忘れられているから、関係ない話、思わず言ってしまった、
    でも、この時代の人間も動物の狐は狩る……一年中人間の姿で居られる訳じゃないから狙われる場合もある」
つかさ「この町も定期的に狐狩りしているよ……」
ひろしさんは黙ってしまった。
つかさ「まなちゃん、真奈美さんは生きているかな、この葉っぱには真奈美さんの術が残ってるんでしょ、だからまだどこかに生きているような気がする」
ひろし「……分らない、君のイメージから分るのは、かなりの深傷だった、あのまま逃げてもどうなったか……」
つかさ「やっぱり……」
ひろし「君達人間も、僕達も思考や感情はそんなに違いはなかった、恨みや辛みは弱いものに当たる……お頭達は、馬鹿なことをしたものだ」
溜め息をつくひろしさんだった。その表情は怒ると言うより悲しそうだった。ひろしさんは仲間を深くは恨んでいないような気がした。
ひろしさんは置いてあったココアを一口飲んだ。
ひろし「……このココア、美味しく飲んでもらおうとして作ったのが解る……店で出しているのと同じだ、でも、君の作ったのを口にするのは始めだな」
つかさ「私は、デザート担当だから」
ひろし「そうか、だからか……」
ひろしさんはまたココアを一口飲んだ。私は彼をじっと見た。
ひろし「何か?」
つかさ「やっぱり男性は強いですね、まなちゃ……うんん、真奈美さんが亡くなったのに涙一つ見せない」
ひろしさんは一瞬微笑んだ。
ひろし「まだ死体を見たわけじゃないからね、それまでは涙もでないさ、それに、だから君もこの町に来たのでしょ……強いのは君の方だよ、あれだけの恐怖体験をしながら
この町で暮らせるなんて、僕の術を冷静に対処ところなんかは賞賛に値する、名前はなんて言ったっけ?」
これって褒められているのかな。人間じゃないけど男性に褒められたのはお父さん以外では初めてかもしれない。
つかさ「つかさ……柊つかさ」
ひろし「つかさ……覚えておこう」
あきらさんは立ち上がった。
ひろし「お邪魔した、帰ろう……」
ひろしさんは玄関の前で立ち止まった。
つかさ「どうしたの?」
ひろし「……帰る足がなかった」
もう時間が時間だし、交通機関はもう止まっている。
つかさ「車で送るけど……」
ひろし「……いや、車は苦手なんだ……あの音、振動、思い出すだけで身震いがする」
思わず吹き出しそうになった。
ひろし「な、なんだよ、誰にだって苦手なものはあるだろう」
顔が少し赤くなっているのが分った。
つかさ「そ、そうだね、ごめんなさい……自転車もあるけど……」
ひろし「それだと家に着く前に変身が解けそうなんだ、変身の解けたばかりは何も出来ない狐と同じ、野犬にも勝てない」
この状況で答えは一つしかない。
つかさ「それなら家で泊まればいいよ」
ひろし「……今は人間なんだぞ、いいのか、その気がなくともどうなるか分らんぞ……それも分らないような歳じゃないだろう」
ひろしさんの目が真剣になった。でも私は笑った。
つかさ「ふふ、その気になる前に狐になっちゃうでしょ、私はもう寝るけどお風呂が沸いているから入って、居間に布団をひいておくから」
あきらさんは黙ってお風呂場へと向かって行った。あんな事言ったけど、内心はドキドキだった。こんな事を言われるのも初めてだった。男性と一夜を明かす……考えもできない。
でもなんだか心が落ち着いた。まなちゃんは生きている。そうだよ、それもあるからこの町に戻ってきた。また逢えるかも知れない。そんな事を考えていたら眠くなってきた。
もう眠れそう。
 
 
何だろう。ほっぺたがくすぐったい。ゆっくりと目を開けた。起き上がり背伸びをした。久々に良く眠れたみたい。気分が爽快だった。
つかさ「う~ん」
目覚まし時計を見るとまだセットした時間より10分早かった。
「クゥ~ン」
はっとして声のする方を見るとベッドのすぐ下に狐がお座りをしていた。私は頬を触った。少し濡れている。そうか変身の解けたひろしさんだったのか。私の頬を舐めて
起こしたみたいだった。
つかさ「おはよう」
ひろしさんは私と目が合うとクルリと一回りをして寝室を出て行った。そうか、もう帰りたいに違いない。私も寝室を出ると、あきらさんは玄関の前でお座りをしていた。
つかさ「帰りたいの?」
ひろしさんは頷く仕草をした。この狐……良く見るとまなちゃんが狐になった時と良く似ている。やっぱり姉弟。納得してしまった。玄関を開けようとしたけど開けるのを止めた。
この時間だと近所の人が犬の散歩で出ている。狐が家から飛び出して見つかったら言い訳ができない。
つかさ「他の人に見つかっちゃうかもしれないから、台所の裏窓から出てくれないかな?」
私が台所に向かうと私の後からひろしさんが付いてきた。裏窓を開けると、軽やかに飛び上がり窓から出て行った。やっぱり狐の姿だとドアも開けられないのか……
あれ、それじゃ何で寝室に入ってこられたのかな。もしかして私が眠っている時、人間のあきらさんが入ってきた……
それから……わ、私何かされたのかな。それより寝姿見られた……あまりにも自分が大胆な事をしていたのに気付いてしまった。こんなのまだ早過ぎだった。
今頃になって恥かしくなってしまった。
『お姉ちゃん』、駐車場で彼は私にそう言った。とっても親しみが籠もっていた。私も同じように言っているから直ぐに判った。急いで家に帰ろうとしていた私の足を止めた言葉。
最初は恐かったけど……話してみると優しい人だった。でも、私をまなちゃんに間違えたのならもう私と会うこともない。ちょっと残念。
問題は私のお姉ちゃん。このままにしておくのはやっぱりダメだよ。かえでさんに会ったら話してみよう。私の気持ち……
 
かえで「実家に帰ると言うのか……」
私は頷いた。ひろしさんに会ったからではない。まなちゃんの影響でもない。わたしの率直な気持ちだった。朝一番、かえでさんが出勤した時に話した。
つかさ「お姉ちゃん、普段はあんなんじゃないよ、いつもかえでさんに話していたよね、あんなに言うのには絶対に何か深い事情があると思うの……」
かえでさんは暫く考えていた。黙って私を見ていた。
かえで「私情を仕事に持ち込むなと言ったわよね……それを承知で言っているのか……」
私はまた頷いた。かえでさんは少し驚いた顔をした。
かえで「……成るほどね、そこまでしてお姉さんを……そんなのは私にわざわざ許可を取るまでも無いでしょ」
厳しい目つきで私を見た。やっぱりダメかな……
かえで「貴女のお姉さん……最初に会った彼女と違うのは確かに認める、何があったのかしらね……このまま中途半端な気持ちでいられても困るわ、いってらっしゃい」
つかさ「本当ですか!!」
思わず聞き返した。
かえで「ご家族とそこでしっかり話しなさい、その結果が例えこのままここに戻らなくても私は何も言わない……もともと誘ったのは私、その責任は私があるのだから」
かえでさんはにっこり微笑んだ。
つかさ「あ、ありがとうございます」
かえで「ばか、なに涙なんか流して、まだ何も解決していないわよ」
何故か涙が出ていたのに気が付いた。確かにそうだった。涙を拭った。
かえで「さて、開店準備するわよ」
つかさ「はい!!」
 
 それからお昼近くになった頃だった。かえでさんが厨房に入ってきた。
かえで「つかさ、デザートの注文よ」
何だろう、かえでさん自ら私に注文を言ってくるなんて。かえでさんは客席の方を向いているから私も客席を見た。
つかさ「あ、ひろしさん……」
来るはずもないと思っていた。もう私に用は無いはず。どうして店に来たのだろう。
気付くとかえでさんは細目でにやけた顔で私を見ていた。
かえで「ほ~、会った事もないってね~、そう言っていたわよね……それに名前まで知ってるじゃない、苗字じゃなく名前で呼ぶなんて……いつからそんな仲になったのよ」
はっとした。彼には名前しかないからそう呼ぶしかない。でもかえでさんにはそうは思ってくれない。昨夜や今朝の出来事が頭に浮かぶ。
つかさ「そ、そんなんじゃないよ、知り合ったのは最近で……お友達みたいなものだよ……」
かえで「みたい……ね……ささ、赤い顔をしないでさっさとデザートを持っていきなさい」
勘違いだよ。と言いたかったけど、否定すれば余計に突っ込まれる。私は急いでデザートを準備して客席に持っていった。
つかさ「おまたせしました」
ひろしさんの前にデザートを置いた。そして伝票を置いたついでにあきらさんの耳元に小声で話した。
つかさ「どうして来たの、もう私には用はないでしょ」
ひろし「この店の味が気に入っているから、それに君の料理はまだ食べていないからね……それは用にはならないのか?」
私は何も言えなかった。彼はちゃんとしたお客さんの一人だった。
つかさ「そ、そうだけど……」
ひろし「それより、昨夜は……」
突然背中をツンツン突かれた。振り向くとこなちゃんとゆきちゃんが立っていた。こなちゃんもかえでさんと同じように細目でにやけた顔をしていた。
こなた「お昼を食べにきたけど……お邪魔だったかな」
頭が真っ白になった。こなちゃんまで誤解している。耳元で話していたからからかな。
つかさ「あ、え、全然邪魔じゃないよ、い、いらっしゃいませ……こちらは友達のひろしさん……」
こなちゃんはひろしさんに会釈した。
みゆき「いつもつかささんがお世話になっています」
ゆきちゃんも会釈した。ひろしさんもそれに釣られるように会釈をした。私は二人を席に案内した。ひろしさんは私に何を言いたかったのか少し気になった。でも聞ける状況
ではない。二人が席に着くとメニューを渡した。二人はメニューを開いた。
こなた「なんか普通じゃないと思っていたけど、やっぱり彼氏だったんだ……すみにおけないね~」
つかさ「そんなんじゃないから……昨夜ちょっと会っただけだから……」
こなた「え~、一夜を共に過ごしたの……あちゃ~、のろけられちゃったよ」
まずい、これはまずいよ、話せば話すほど誤解が深まっていく。隣でゆきちゃんもクスクスと笑っていた。
つかさ「ご、ご注文はお決まりですか?」
こなた「えっと、おすすめランチで」
みゆき「私も同じで……」
つかさ「少々お待ち下さい……」
注文を受けて厨房に戻った。
つかさ「おすすめ二つ追加……」
かえでさんはフライパンを取り出し料理に取り掛かった。手を動かしながら話す。
かえで「……今日はつかさのお友達が多いわね……それにしてもかがみさんは見えないわね……」
そういえば気が付かなかった。いつもこなちゃんと一緒にいるからと思ったけど……今日も別行動なのだろうか。
 
かえでさんの作った料理を私が運んだ。
つかさ「おまたせしました、おすすめランチです」
二人の目の前に料理を置いた。
こなた「わぉ、美味しそうだね……いただきます」
みゆき「いただきます」
ふたりは料理を食べだした。
つかさ「お姉ちゃんは?」
二人の動作が止まった。
みゆき「体の調子が優れないようです……それしか言いませんでした」
こなた「私はかがみを見損なったね、まさかあんなに気が弱いなんて……もういい加減にしてほしいよ」
こなちゃんの食べ方が早い。少しやけ食いに見えた。
つかさ「私、一度帰ろうと思うの……今夜お姉ちゃんに直接話すからそれまで内緒にして……」
また二人の動作が止まった。でももうこれ以上同じお客さんに対応出来ない。他のお客さんも見たりしないといけない。
みゆき「分りました……旅館でお待ちしています」
厨房に戻るとかえでさんが心配そうに私を見ていた。もう新たなオーダーは無かったから余裕があったかもしれない。
かえで「かがみさんが来ないのは私のせいかもしれないわね、すまなかった」
つかさ「うんん、昨日、かえでさんと別れてからお姉ちゃんには会っていない、だから……お姉ちゃんの気持ちも分らない」
かえで「そうだったの……つかさ、ひろしさんがお帰りみたい、レジお願いね」
名前まで知られてしまった。こなちゃん達にも紹介してしまったし、変な誤解まで……どうしよう……ここで考え込んでも仕方が無い、レジに向かった。
ひろしさんは伝票を私に渡した。
つかさ「1500円になります……」
ポケットからピッタリ1500円を私に渡した。
ひろし「美味しかった……料理は良かったがデザートは何だ、やっつけ仕事みたいだ、迷いも感じられる……昨日のココアとは別物だな……」
私の今の心を完全に読まれている。それはまなちゃんも同じ、彼等の得意技、ごまかしは通用しない。
つかさ「すみません、デザートの御代は結構ですから……」
御代を返そうとすると……
ひろし「いや、それには及ばない、忙しそうだからな……それより店が終わったら少し話がしたい、いいかな」
話って何だろう……でも私も大事な用事があるし。
つかさ「私は用事が……」
ひろし「時間は取らせない、直ぐに終わるよ……」
つかさ「それなら……」
ひろしさんはそのまま店を出て行った。妙にこなちゃんとかえでさんの視線が気になって仕方がなかった。
 
 夕方になり、旅館の食事の準備もほぼ終わりかけた頃だった。
かえで「つかさ、今日はもういいわ、上がっても良いわよ、いろいろ準備があるでしょ、あとは私とあけみでやっておくわ」
あけみさんは最近になってスタッフになってくれた人。あけみさんが店に入ってからはだいぶ仕事の負担が軽減した。
つかさ「帰るって言ってもそんなにながく滞在するつもりは……」
かえで「成るほどね~彼氏が恋しいか~」
からかう様な口調だった。私もこれ以上どんな反応していいか戸惑ってしまう。否定すれば余計にからかわれるのは分った。でも肯定もできない。
つかさ「折角ですので甘えさせて……お先に失礼します……」
更衣室に向かおうとした時だった。
かえで「つかさ……私はかがみさんにもう一度この店に来てもらいたい……そしてもう一度私の作った料理を食べて欲しい……あの時の笑顔をもう一度見てみたい、美味しいと
    もう一度言ってもらいたい」
私は立ち止まってかえでさんを見た。さっきまでの元気が消えていた。
つかさ「私が帰ってお姉ちゃんがどうなるか、私も分らない……でもこのままで終わるのは私も嫌、やれるだけの事はするつもり……です」
かえで「ありがとう……お疲れ様……」
 
 お姉ちゃんはかえでさんが店を出して初めて料理を褒めてくれた人。そんな人がいきなり手のひらを返したように貶したりしたらそのショックは何倍にもなる。
さっきのかえでさんの言葉を聞いて改めてそう感じた。私が居ない間に家で何があったのかな。それならいのりお姉ちゃんやまつりお姉ちゃんから何か連絡があってもいい。
そうなるとお姉ちゃん自身の何かが変わってしまったとしか考えられない。その原因は私が家を出たから……でもそれなら……何でお姉ちゃんは大賛成したのかな。
 
駐車場の前に着いた。旅館に寄ってお姉ちゃん達に会っても良かった。だけど会うのは夜だって言ったから一度家に帰ってから出直す事にした。
車に乗りエンジンをかけようとした。そうだ。そういえばひろしさんが何か用があるって言っていた。店が終わってからって言ったけど、詳しい時間とかは言っていない。
といっても連絡なんて取れないし……すると目の前にあきらさんが立っているのに気が付いた。私は一度車を降りた。
ひろし「早いお帰りだね、気が付くのが遅れたら会えなかった」
どうしよう、ここだと店から見えちゃう。あまりひろしさんと会っている所をかえでさんに見られたくない。
つかさ「え、えっと、用事は……車の中で話しませんか、家に帰る道でよければ……」
車が苦手だった。乗ってくれるか不安だった。あきらさんは一歩後ろに下がってしまった。そして車をじっと見つめた。
ひろし「……いいよ」
ひろしさんはゆっくり車に近づき車に乗り込んだ。続いて私も乗り込みゆっくり車を走らせた。緊張しているのか、恐いのか少し足が震えているように見えた。あきらさんから
話す気配は全く見受けられない。こっちから話さないとだめかな。何を話そうかな。そういえばお昼言いかけた続きが聞きたかった。
つかさ「話って何ですか、昨夜の事ですか?」
ひろし「昨夜か……さっきの店の人間の反応を見て分っただろう、こんな噂はすぐに立ってしまう、僕が人間ならどうなっていたか、もう少し考えたほうが良いぞ」
つかさ「でも、車も自転車もダメで放っておけないよ……狐に戻ったら危ないでしょ」
ひろし「……その優しさに姉さんは惹かれたのかもしれないな」
何か違う。率直に聞いたほうが良さそう。
つかさ「お昼、お店で言いかけたお話を聞きたかった」
少し間を空けてから話した。いい辛いのだろうか。
ひろし「あ、あれか……昨夜、つかさの部屋に勝手に入ってすまなかった……トイレが何処か聞きたかった……扉を開けたが既に寝ていて聞けなかった、
    探したら直ぐに見つかったから問題はない」
なんだそんな理由だったのか……あれ、私……なんでガッカリしているの。何を期待していたの。彼はお稲荷さんでしょ。だめだめ、考えちゃだめ……
体が熱くなってきた。窓を開けて風をいれた。この後の話ができなくなってしまった。
 
 家に近づいた。ひろしさんは徐に話し始めた。
ひろし「本題に入らせてもらう……お昼の二人組み、親しそうだったが友達なのか」
つかさ「うん、友達だよ」
ひろし「この前、もう人居たな、店長に言いがかりをつけていた、今でも印象に残っている、その人も二人組みの仲間か?」
お姉ちゃんの事を言っているみたい。
つかさ「そうだけど……」
ひろし「僕にはその人に何の義理もない、でもつかさにはある、いろいろ教えてくれた、だから教える、そいつは重い呪術にかかっている、このままだとそう長くはないだろう」
私はブレーキを踏んで車を止めた。そしてひろしさんの方を向いた。
つかさ「長くないって……呪術ってどうゆう事なの?」
ひろしさんは驚いたのか少し身を引いた。
ひろし「『服従』……って言ってね、呪術者の命令を聞かないと命を落とす術だ、僕達仲間でも禁じている呪いなんだ……」
つかさ「……そ、そんな、何とかならないの?」
ひろし「呪術者が呪いを解くか、命令を成し遂げないと消えない……」
私はすがりついた。
つかさ「ねえ、お願い、術を解いてよ……」
ひろし「僕には……無理だ、術が高度すぎる、お頭か、姉さんじゃないと解けそうにない……つかさにとってよほど親しい人みたいだな……教えるべきではなかったか」
つかさ「その人、店長に言いがかりをつけた人は私のお姉ちゃんだよ」
ひろし「な、似ていないぞ……姉妹だったのか……そういえば髪質が似ているか……」
今までお姉ちゃんの様子が変だったのはこの呪いのせいだった……どうすれば……
ひろし「……その姉さんから最近頼まれた事とか無いのか、理由もなく頼むはずだ……命令を無視、理由を話す、呪術者の話をしようとすると死ぬほどの苦痛が襲うからな」
思い当たる事が一つあった。
つかさ「私を頻りに実家に帰そうとしていた……理由なんて言わなかった」
ひろし「何だって……恐らくそれが命令だ……もし帰る意志があるなら早く伝えた方がいい……」
私が帰ると言えば呪いが解ける。一度帰ってなんて悠長な事はやっていられない。
つかさ「ひろしさん、このまま旅館に戻るよ……つかまっていて、全力でいくよ」
アクセル全開、ドリフトUターン。
ひろし「え、え、わ、わー」
ひろしさんの悲鳴のような声が聞こえたけど、それからはよく覚えていない。ただ旅館に戻るのに夢中だった。
 
 お姉ちゃんは誰かに呪いをかけられた。その人は私をこの町から追い出そうとしている。こんな呪いをかけられるのはまなちゃんの仲間しか考えられない。
やっぱり私はこの町に来てはいけなかったのかな。本当だったらもうこの世にはいなかったかもしれない私……来るべきじゃなかったんだ。
でも、こんな回りくどい事しないで直接言ってくれれば良いのに。お姉ちゃんを利用するなんて。呪いまでかけるなんて……
 
つかさ「ひろしさんは車で待っていて……」
お店の駐車場に車を止めると旅館に向かって飛び出した。そしてお姉ちゃん達が泊まっている部屋に直行する。部屋のドアをノックする。こなちゃんが出てきた。
こなた「……つかさ……」
私の顔を見て驚いた様子だった。きっと私の切羽詰った顔を見たからかもしれない。
つかさ「お姉ちゃん……お姉ちゃんはいる?」
こなた「……うん、さっきみゆきさんと温泉から戻ってきたところだよ」
部屋の中に入った。テーブルにゆきちゃんとお姉ちゃんが座っていた。お姉ちゃんは私を見るとにっこり微笑んだ。
かがみ「なに慌ててるのよ……それより仕事はもういいのか、やけに早いわね」
私はお姉ちゃんの目の前で座った。
つかさ「私……決めたよ、一度帰るよ、だから……」
私の視界からお姉ちゃんの姿が消えた。
『ドサ』
畳に何かが当たる鈍い音がした。お姉ちゃんが倒れた。苦しそうにもがいている。
つかさ「お、お姉ちゃん、どうしたの……お姉ちゃん」
何がなんだか分らない。私は……帰るって言ったのに。
側に居たゆきちゃんが慌ててお姉ちゃんに近づいた。
みゆき「かがみさん、しっかり……つかささん、何があったのですか」
こなちゃんも異変に気が付いた。すぐにお姉ちゃんに近づいた。ゆきちゃんはお姉ちゃんの浴衣を緩めて楽な姿勢に寝かせようとしていた。
お姉ちゃんの口から泡が吹き出してきた。全身が痙攣しはじめてしまった。
みゆき「私では手に負えません、救急車を……泉さん……」
こなた「わ、分った……」
こなちゃんは部屋を出ようとした。
ひろし「救急車を呼んでも無駄だよ……これは人間には治せない」
部屋の入り口にひろしさんが立っていた。こなちゃんは立ち止まった。ひろしさんはそのまま部屋に入ってきて倒れているお姉ちゃんの目の前に近づいた。
そして座るとなになら呪文のようなのを唱え始めた。ひろしさんの手が伸びてお姉ちゃんの額に触れた。
ひろし「つかさ、さっき言ったのを否定して」
なんだか頭が真っ白でひろしさんの言っている意味が分らない。
ひろし「否定するんだ、早く!!!……さっき言ってやつだ、しっかりしろ!!!」
怒鳴り声、私ははっとした。
つかさ「やっぱり私は、帰らないよ……」
お姉ちゃんの痙攣がみるみる引いていく……静かに、眠るように落ち着いていった。ゆきちゃんはタオルでおねえちゃんの口の周りを拭いた。ひろしさんは深呼吸を一回した。
ひろし「……少し休ませた方がいい……」
こなちゃんは布団を敷いた。ひろしさんは軽々とお姉ちゃんを抱きかかえるとそのまま布団に寝かせた。
ひろし「話がある、ここだと少しまずい、この人に聞かれるとね……」
つかさ「でも……お姉ちゃんが……」
ひろし「今の所は大丈夫だ……そのまま寝かせておけばいい」
話を聞く必要がありそう。
つかさ「ロビーでいいかな」
ひろし「お二人も一緒に……聞いておいた方がいい」
こなた「貴方は……誰?」
ひろしさんは何も言わない。
つかさ「まなちゃんの弟さんだよ……」
こなた「え……狐……この人が……?」
みゆき「私は残ります、かがみさんを一人にしておくのは……」
ひろしさんはお姉ちゃんを見た。
ひろし「それならここで話す……彼女の意識はないようだからな……」
 
 私はひろしさんとの出会いを皆に話した。こなちゃんもゆきちゃんもただ黙って聞いていた。
お姉ちゃんは静かに眠っていた。何かから開放されたように。静かに眠っている。
つかさ「もしかして呪いは解けたの?」
ひろし「さっき試みたがやっぱりだめだった、強力な呪いだよ」
つかさ「でも、こんなに安らかに眠っているから……」
ひろし「……それは、つかさがさっき帰るのを否定したからさ」
言っている意味が分らなかった。
ひろし「彼女は最初から呪術者の命令に従うつもりはなかったようだな、つかさを帰すのは命令違反だった……つまり呪術者はこの町の何処かにつかさを連れていくのを
    命令した、しかし彼女はそれに従わずつかさを逃がすようにした訳だ、恐らく彼女はつかさに帰れと言う度にさっきの様な苦痛が襲っていたはずだ……
    今は、つかさが帰るのを止めたと言ったから一時的に呪いが収まった、それだけだ」
つかさ「そんな……お姉ちゃんは何度も言ったよ……帰って来てって……でも苦しい表情なんて見せなかった……」
ひろし「……凄い精神力だな、そこまでしてつかさを、妹を助けたいのか……」
ひろしさんは立ち上がった。
ひろし「気休めにしかならんが、魔除けの石をもってきてやろう……少し待ってくれ」
ひろしさんは部屋を出て行った。
 
ゆきちゃんは心配そうにお姉ちゃんを見ていた。こなちゃんは腕を組んで考え込んでいる様子だった。
こなた「……どうも引っかかる、あのひろしって人、真奈美さんの弟って言ってたよね」
つかさ「うん、そうだよ」
こなた「それだ、それが引っかかる、本来つかさは生贄となっていなきゃならない、生贄になっていれば真奈美さんは死なずに済んだ、普通考えればつかさを憎むはずだよ」
つかさ「な、何が言いたいの?」
こなちゃんは溜め息をついた。
こなた「つまりかがみに呪いをかけたのはあの人じゃないかなって、そうすると辻褄が合うんだよ、姉の真奈美さんの命を奪ったつかさに復讐するために、同じ目に遭うようにね」
つかさ「もしかして、ひろしさんを疑ってるの?」
こなた「真奈美さんの仲間は姿を現していないじゃないか、それにつかさを殺すならとっくに神社で殺しているでしょ、つかさの稲荷寿司で心が変わったならつかさに
    何かをするとも思えない……」
つかさ「わ、私は……まなちゃんと友達になった、それをまなちゃんの仲間は許さなかった……それでひろしさんは私を恨むの?」
こなた「逆恨みってやつだね、私が彼ならやり場のない怒りをつかさにぶつける……私達人間と彼が同じ思考ならだけど……さっきから黙っているけどみゆきさんも
    同感なんじゃないの、さすがの聖人君子も今回ばかりは疑うでしょ?」
いきなり振られてゆきちゃんはオドオドした。
みゆき「……お店であんな振る舞いをしたのも、店長、松本さんと言い合いをしたのも、駄々っ子みたいな言動も……全てつかささんを逃がすためだった……
    その度に襲い掛かる激痛に耐えながら……私だったら……いくら親友であるつかささんの為とは言え……出来ません……そのかがみさんを死の寸前で
    助けたのがひろしさんだと思います……それに、もしつかささんが憎いのであれば、昨夜、つかささんが熟睡している所を狙えば確実です」
淡々と話すゆきちゃんだった。
つかさ「私もそう思うよ、少なくとも呪いは別の人だと思う……」
こなた「ふぅ~私はゲームのやりすぎかな、捻くれた考えばかりみたいだね、さっき言ったのは忘れて、ここで疑ったら何も進まない、確かに」
こなちゃんは俯いてしまった。
つかさ「私、女将さんの所にいって今晩泊めてもらうように頼んでくるよ……少しお姉ちゃんと一緒に居たいから……」
みゆき「それがいいかも知れません……いいですか皆さん、かがみさんの意識が戻っても呪いのお話は決してしないように、何が切欠で呪いが出てくるか分りませんので」
つかさ・こなた「うん」
 
 私はロビーで宿泊の手続きをした。と言っても旅館もお店も共同経営みたいなものなので無料で泊めてくれた。
つかさ「済みません、お手数をおかけします」
淳子「いいのよ……それより、さっきの男性は誰……つかさちゃんの彼氏かな、旅館でもこの話になってね」
うわ、ここでもこんな話になっている。皆、どうかしているよ……でもなんだか悪い感じはしなくなった。
つかさ「そこまででは……友達です」
女将さんは笑った。
淳子「ふふ……照れちゃって……まぁ、ゆっくりしていきなさい…」
女将さんはロビーの奥に戻っていった。
つかさ「ふぅ~」
溜め息を一回。ひろしさんが人間ならこんなに悩まなくてもよかったのに……バカ、私ったら何考えているのだろう、好きになってもどうしようもないよ。人間とお稲荷さんの恋
なんて……人間の男性もまだ好きになった事ないのに、ばか、考えちゃだめ、そんなのは考えちゃいけない。
ひろし「またせたな……」
つかさ「え?」
気付くとロビー入り口にひろしさんが立っていた。
ひろし「本当に気休めにしかならないが受け取ってくれ、弱った身体には良いだろう」
ひろしさんは片手で掴めるほどの小石を私に渡した。この石の色どこかで見たことある……
つかさ「この石……パワースポットの岩の色に似ているね」
ひろし「そうさ、あの岩は僕達も調子が悪いときはよく行く、普通の病気なら治る筈だ……でも、あの呪いは別物だ……」
ひろしさんはロビーを出ようとした。
つかさ「えっ、帰っちゃうの、お茶でも飲んで帰って……」
ひろしさんは立ち止まった。
ひろし「……君の仲間、背の低い子が居たけど、あまり僕を良く思っていないみたい、行かない方がいいだろう」
つかさ「す、凄い……触れても居ないのに、分るの?」
ひろし「な、なんだ、図星か……経験でそう思っただけだ、心理学少しかじったからな……腕組みをしているのは警戒している場合が多い」
ひろしさんはまたロビーを出ようとしている。このまま帰していいのかな。もっと聞きたい事があったんじゃないの。自問自答した。
つかさ「待ってください」
ひろし「ん?」
また止まってくれた。聞いて答えてくれるかどうか分らない。だけどお姉ちゃんの命が懸かっているから……
つかさ「お姉ちゃんの呪いをかけた人……知っているの?」
ひろし「あれだけ強力な呪術……僕の知っている仲間で数人……それを聞いてどうするつもりだ」
つかさ「もし、知っているなら、その人に会って呪いを解いてもらおうと思って……」
あきらさんは呆れた顔をした。
ひろし「何処にいるのか分らない、知っているとしてつかさに説得できるのか、姉さんのように好意的じゃない、禁呪まで使ってくる奴だ……」
そうだよね。私なんかじゃ何も出来ない。
つかさ「……でも、あきらさんは何故私の味方を……」
ひろし「……味方……味方だと思っているのか、僕が君に何をした……」
つかさ「お姉ちゃんを助けてくれたから……」
ひろし「助けた……あれで助けたと言えるのか、呪いは解いていない、いや、解けない……あとはつかさの家に一晩泊めてもらっただけだ、他に何をした」
つかさ「……助けられなくても、助けようとしたから、私にはそう見えたよ、それだけで充分味方だと思う、石も貰ったし」
ひろし「僕は一度、つかさを殺そうとまでした、駐車場の出来事を忘れたわけじゃあるまい」
つかさ「その台詞……まなちゃんも同じように言っていたよ……やっぱり姉弟だね……そのまなちゃんは私を助けてくれた」
私は微笑みかけた。ひろしさんは言い返してこなかった。
ひろし「僕は昔人間に育てられた、だから人間の心は理解できる……そして僕は狐一族、彼らが人間を憎むのも理解できる……一族で唯一信頼できる姉さんは傷ついた
……姉さんは仲間に……味方も敵も分りはしない」
重い何かを感じた。
つかさ「両方の気持ちが分るなら、両方仲良くなれる方法が見つかるかも」
ひろしさんは笑った。
ひろし「僕にコウモリになれと言うのか……」
つかさ「こうもり?」
ひろし「……何でもない、ところで、君の友達と姉さんの名前をまだ聞いていない」
つかさ「えっと、お姉ちゃんは柊かがみ、背の低い子は泉こなた、眼鏡をかけた子は高良みゆき……」
ひろし「……また明日来る、かがみとは呪いの話はしないように、今言えるのはそれだけだ」
ひろしさんはロビーを出て行った。
 
 彼が居なくなったロビーに私一人が残った。そうだ、お姉ちゃんが心配だ。早く部屋に戻ろう。戻ろうとした方角から人影が見えた。ゆきちゃんだった。
つかさ「ゆきちゃん、どうしたの?」
みゆき「白湯をもらいにきたのですが……」
つかさ「お姉ちゃんの具合が悪いの?」
みゆき「いいえ、落ち着いています……どうしたのですが、つかささん、何かあったのですか?」
私の顔を見ると心配そうに聞いてきた。
つかさ「コウモリ……って何だろう」
みゆき「コウモリ?」
つかさ「うん、さっきひろしさんが来て、コウモリみたになるのかって言っていたから……」
みゆき「……もう少し詳しく話して頂けませんか?」
私はひろしさんとロビーで会話した内容を説明した。
みゆき「それはコウモリの昔話の事を言っているのではないでしょうか……」
つかさ「なにそれ……」
みゆき「昔、森で獣と鳥がとても仲が悪かった、そこに獣の姿でありながら翼を持っているコウモリが仲介するお話です……ひろしさんは狐の種族でありながら人間に
    近い思考をお持ちなので……その昔話と比喩しているのでしょう」
つかさ「……そうなんだ、コウモリの様に……」
みゆき「その話なのですが、獣と鳥は仲良くなれた……しかしコウモリはどちらからも憎まれる存在になった……それで闇夜にひっそり飛ぶようになったと聞いています」
別れ際のひろしさんの表情が悲しげだったけど……
つかさ「私は、そんな意味で言ったわけじゃないよ……憎むなんて……」
みゆき「この昔話はいろいろなバリエーションがありますので……所詮昔話です」
私は……本当にこの町に戻ってきて良かったのだろうか。
つかさ「……ごめんね、私のために、巻き込んじゃって……私はやっぱりこの町に来ちゃいけなかった……私がこの町に戻ってこなければ……」
みゆき「戻って来なければ、このような事にならなかったと言いたいのですか?」
ゆきちゃんに先回りされてしまった。私は頷いた。
みゆき「つかささんを憎み、かがみさんに禁じられた呪いをかけたと、それが本当なら、その人物……いえ、狐は例えつかささんがこの町に戻らなくとも同じ事をしたでしょう、
    つかささんが一人旅をしようと思ったその時からこうなるのは決まっていたのかもしれません、それでもその旅で得たものは大きいはずです、
悔やむよりもこれからの事を考えませんか?」
つかさ「……でも、お姉ちゃんが呪われて……呪いが解けなくて……どうして良いか分らないよ」
目頭が熱くなった、自分でも涙が出ているのが分った。
みゆき「……かがみさんはつかささんを何処に連れて行くように命令されていたのでしょうか……呪いの苦痛に耐え、さらに店長である松本さんとわざと言い合いをして
    つかささんを帰る気持ちにさせようとした……私達に気が付かないように……そこまでつかささん……妹の為に……死ぬ覚悟だったはずです……」
つかさ「……お姉ちゃん……」
ゆきちゃんは微笑んだ。そして私の目の前に手を差し出して招いた。
みゆき「行きましょう、つかささん、かがみさんの側に居てあげて下さい……私も微力ながらお手伝いさせて頂きます……」
つかさ「う、うん」
お湯を貰ってから私達は部屋に戻った。
 
部屋に戻るとこなちゃんが首を長くして待っていた。お姉ちゃんの寝ている直ぐ近くで座っていた。お姉ちゃんを看病していたみたいだった。
こなた「つかさ~みゆきさん~遅い、遅いよ、いったい今までなにしていたの、泊まるって言うのにそんなに時間かからないよね」
つかさ「ごめんなさい、ひろしさんが来てこれをお姉ちゃんに渡してって」
私は石をこなちゃんに見せた。ゆきちゃんもその石を見た。
こなた「その石……どっかで見たことある……どこだっけ……」
みゆき「その石の色、艶……それはパワースポットの岩と同じものですね、削ったのでしょうか?」
つかさ「削ったかどうかは分らないけど、同じ物だって、気休めって言っていたけど……」
お姉ちゃんを見るとぐっすりと眠っていた。
こなた「つかさ達が離れている間、見ておいたよ……つかさって何度か言っていた……私はかがみに呪いをかけた人を許さない…」
こなちゃんが怒っている、あんな怒った顔を見たのは、はじめてかもしれない。
私はお姉ちゃんの鞄に付いていたお守りを外してその中に石を入れた。そのお守りを胸元にそっと置いた。
こなた「そういえば、かがみはあのパワースポットの岩で体に擦り付けていたね……気休めじゃないかも、あれでかがみはだいぶ楽になったんだよ」
みゆき「落ち着きましょう……お湯を貰ってきましたのでお茶でも入れますね……」
ゆきちゃんはお茶の準備をしだした。私が手伝おうとすると。
みゆき「私がしますので、つかささんはかがみさんの傍に居てあげてください」
言われるまま私はお姉ちゃんの傍に移動した。そしてこなちゃんと入れ替わった。こなちゃんはゆきちゃんの手伝いをした。
 
 お姉ちゃんは静かに眠っている。お姉ちゃんはいつ呪われちゃったのだろう……移動中はこなちゃんやゆきちゃんが居るから無理だし……。
そんなのどうでもいい。お姉ちゃんは私を守ってくれた。あんなに、倒れるまで苦しんで……昔から、幼い頃からそうだった。きっとそうだったに違いない。
私の気が付かない所で私を守ってくれていた。そして今も……やっぱりお姉ちゃんには敵わない。
でも……今度は私がお姉ちゃんを助ける番かもしれない……でも、どうやって……呪いをかけたのはお稲荷さんとまで言われた人……人じゃない。
人間に恨み、憎み、嫌っている。今まで私達人間が彼等にどんな仕打ちをしてきたのかは知らない。まなちゃんの時だって……
私があの神社に行かなければこんな事には……あっ、ゆきちゃんに言われたばかりなのに……
こなた「つかさ」
こなちゃんが私を呼んだ。一人で考えたっていい考えは浮かばない。こなちゃんの方を向いた。
つかさ「何?」
こなちゃんは申し訳ないような顔をしていた。
こなた「さっきは、ごめん……ひろしさんを疑っちゃって……かがみに呪いをかけたならわざわざパワースポットの石なんかもって来るわけない……」
つかさ「こなちゃんの仕草でひろしさんは分っちゃったみたいだよ、疑っているの」
こなた「やば……どうしよう」
つかさ「あまり気にしていないみたい、明日も来てくれるって言ってた……それに今、頼れるのはひろしさんだけ、疑ったら協力してくれないかも」
こなた「……それにしても彼はなんでこんなに協力的なのだろう……つかさが真奈美さんと友達という理由だけじゃないような……」
こなちゃんはマジマジと私を見た。
こなた「う~ん」
何か納得したように頷いた。
つかさ「何?何なの?」
こなちゃんは不敵な笑みを浮かべた
こなた「惚れたな……」
つかさ「え?」
こなた「つかさに惚れたんだよ、それしかない……いいね~禁じられた恋……よくあるシチュだけど」
つかさ「ちょ、からかわないで……」
こなた「いやいや、そう言うつかさはどうなの、彼を好きじゃないの?」
つかさ「それは……」
その続きは言えなかった。恥かしい……みんなから言われたから本当に好きになってしまったのかもしらない。
こなた「……まぁ、私が彼を批判した時のつかさの表情を見たらすぐに分るよ……『彼はそんな事絶対にしない』って顔してたからね……うんうん」
こなちゃんはまた何回も頷いた。
みゆき「そうですね、少なくともつかささんに特別な好意を持っているのは確か様です」
こなた「おお、今回はみゆきさんと意見が一致した」
つかさ「ゆきちゃんまで……」
私と目が合うとにっこりと微笑んだ。そしてこなちゃんとゆきちゃんは私とひろしさんの話で盛り上がっていった。
こなた「そういえば私、もうこれ以上滞在する宿代が底をついちゃってね、かがみもこんなんだし、どうしていいか迷っていたんだ……夏休みで時間はいっぱいあるけどね」
みゆき「それならばお金……お貸ししましょうか?」
つかさ「うんん、学生なんだしお金は大事にしないとね、私の家に泊まればいいよ、居間と寝室で二人ずつ寝られると思うよ、温泉はないけど……」
こなた「つかさの提案に賛成!!!」
みゆき「済みません、ありがとうございます」
こなた「ところでみゆきさん、さっきの話にもどるけどね……」
こなちゃんはまたさっきの話をし始めた。
 
 最初は好きでも嫌いでもない。だけど周りの人たちが勝手にこの人とこの人は好き合っているなんて言い出す。そんな雰囲気に飲み込まれて何時の日か
お互いに本当に好きになってしまう。そんな話をどこかで聞いた事がある。今回は私だけの話だけど。これだけいろいろな人から言われると本当に好きになってしまうかも。
でも、彼は人間じゃないし……それじゃ人間だったら……優しそうだよね、それに料理も美味しそうに食べてくれる。恋人にするには……あ、また変な事考えている。
もうこんな事考えるのは止めよう。
お姉ちゃんもぐっすり眠っているし。安心したのかな、少し眠くなってきた。こなちゃんとゆきちゃんの会話が子守唄に聞こえる……。

 

 

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