ID:mChtApYP0氏:隣星

 七月に入りすぐの、とある日の喫茶店。
 泉こなたは友人の柊つかさと共に軽い食事を取っていた。
「で、相談事って何?」
 フォークにパスタを巻きながらこなたがそう切り出すと、つかさはつかさは少し照れくさそうにはにかみ、鞄から一つの小箱を取り出した。
「これ、なんだけど…」
 綺麗にラッピングされた小箱は、どう見ても何かのプレゼント用だった。こなたはフォークを止め少し考えるとその小箱に手を伸ばした。
「ありがとう、つかさ」
 こなたの手を見たつかさは、慌てて小箱を後ろ手に隠した。
「ち、違うよ!こなちゃんにじゃないよ!」
「ちぇ、残念」
 こなたは不服そうに口を尖らせると、またフォークにパスタを巻き始めた。
「もう…これはね、お姉ちゃんへの誕生日プレゼントなんだ」
「…かがみの?」
 こなたは少し不思議そうに小首をかしげた。
「うん…それでね、相談ってのは、これをどう渡したらいいのかなって事なんだけど…」
 つかさの言葉を聞いたこなたは、ますます不思議そうに首を傾げる。
「どうしたらって…何時も通りに渡せばいいんじゃないかな?」
「…えっと…それがね…初めてなの…」
「なにが?」
「…お姉ちゃんに誕生日プレゼント渡すの」
「…へ?」
 こなたはしばらく唖然とした後、恥ずかしげにうつむいているつかさをまじまじと見つめた。
「い、今まであげた事無かったの?」
「う、うん…なんか、そういうの無くて…」
「ふーむ…」
 こなたは少し眉間にしわを寄せて考えた後、必要以上に大量に巻いたパスタを口に入れた。



― 隣星 ―




「…さて、どうしたものか」
 家の玄関をくぐりながら、こなたはため息をついた。少し考えてみるとつかさには言ったものの、特にいい考えが浮かぶことなく家まで戻ってきてしまったのだ。
「おかえり、こなた。みゆきちゃんが部屋でまってるぞ」
 家に入ると、丁度通りかかった父のそうじろうが、そうこなたに声をかけてきた。
「…みゆきさんが?」
 こなたの返事に、そうじろうが訝しげな表情をする。
「メールで家に行くことは伝えてあるって言ってたぞ?」
「…なんと」
 こなたは慌ててポケットに入れてある携帯を取り出し、メールボックスを開いた。
「ホントだ…相談事があるって」
 その様子を見たそうじろうがため息をつく。
「五割だな」
「な、なにが…?」
「俺の知る限りで、お前がメールや着信をチェックする確立だ」
「お父様、それはあんまりですわ…」
 こなたはばつが悪そうに頭をかきながら、自分の部屋へと向かった。


「や、みゆきさん。おまたせ」
 こなたは陽気な口調でそう言いながら部屋に入り、部屋の中央に座っているみゆきの隣に座った。
「こんにちは、泉さん。メールはちゃんと目を通してくださいね」
 そのこなたに、みゆきは微笑みながらそう言った。
「…何で見てないってわかるの」
「廊下の会話が聞こえてきましたので」
「そうでしたか…申し訳ございません」
 茶化すように謝るこなたに、みゆきは少し困った顔をしたが、すぐに表情を戻した。
「それで、相談なんですが…」
「うん…ってかみゆきさんがわたしに相談って珍しいね」
「そうでしょうか?…えっと、実は先程かがみさんとお会いしてまして、お誕生日のことで相談を受けまして…」
 そこまで聞いて、こなたは自分がつかさから受けた相談のことを思い出した。
「みゆきさん…まさかその相談って、つかさに誕生日プレゼントをどう渡そうかって事なんじゃ…」
 こなたの言葉に、みゆきは驚いたように瞬きをした。
「そ、そうです、その通りです…もしかして、泉さんも同じ相談をかがみさんから…?」
「いんや、わたしはつかさから。同じような相談されたから、もしかしてって思って」
「そうでしたか…」
 みゆきは顎に人差し指を当てて少し考えた後、小首をかしげた。
「と、いうことは、かがみさんとつかささんがお互いに誕生日プレゼントを贈ろうとしている、ということですか?」
「そうなるねー。双子とはいえ、なんというシンクロニシティ…そういや、つかさはプレゼント渡すの初めてって言ってたけど、かがみはどうなんだろ?」
「はい、かがみさんも初めてだと仰ってましたね」
「そっかー…こう言うのって姉妹とかだと祝わないものなのかなあ」
「どうでしょう…わたしは一人っ子なのでなんとも…」
 こなたとみゆきは少しうつむいて、しばらく考え込んだ。
「…まあ、こういう事を他人に相談するってのは、よっぽど切羽詰ってるんだろうねえ…特に、かがみ」
 そして、そう言いながらこなたは床に仰向けに寝転んだ。
「さて、どうしようかなあ」
 呟くこなたの顔を、みゆきが覗き込む。
「お互いプレゼントを渡そうとしているということを、話せば良いのではないでしょうか?そうすれば上手くいくと…」
 こなたはみゆきの言葉に目を瞑り頭をかいた。
「うーん…わたしもそうは思うんだけど、味気が無いって言うか、もっとこうサプライズ的な何かが欲しいな、と」
「サプライズですか…」
 みゆきは少し困った顔をして、こなたから視線を外した。
「そう、なんかこうプレゼントシーンが盛り上がるような、ロマンチックな演出をだね…」
「素敵だとは思いますが、難しいですね…今年の七夕は星も見えないようですし」
 みゆきの呟きに、こなたが勢いよく上半身を起こした。
「七日、雨降るの?」
「いえ、曇りのようですね。週間予報でそう言ってました」
 こなたの行動に少し驚きながらみゆきがそう言うと、こなたはニンマリとした笑みを浮かべた。
「それだよ、みゆきさん。それでいこう」
「え、それって…」
「ちょっと耳貸して」
 こなたはみゆきの耳元に顔を近づけ、ゴニョゴニョと何かを呟いた。そして、こなたが顔を離すと、みゆきは難しい顔をして考え込み始めた。
「えーっと…ダメだったかな?」
 そのみゆきにこなたがそう聞くと、みゆきは慌てたようにこなたに手を振って見せた。
「いえ、その…それを行なうために、何が必要なのかを考えてまして」
「それじゃ、とりあえず賛成なんだね」
「はい、とても素敵なことだと思いますよ」
 みゆきが嬉しそうにそう言いながら微笑むと、こなたは照れくさそうにそっぽを向いて頬をかいた。
「じゃ、じゃあ資材の調達はみゆきさんにまかせていいかな?わたしは場所を確保しとくから」
「場所はどこか当てがあるのですか?」
「うん、まあこの辺だとあそこしかないかなあって…ま、その辺はなんとかするから任せといてよ」
「わかりました。では、お任せしますね…上手くいくといいですね」
 最後に付け足したみゆきの言葉に、こなたは深く頷いた。




 七月七日。夜の鷹宮神社。
 厚い雲のおかげで星明りすらなく、真っ暗な道をこなたとつかさの二人は歩いていた。光源といえば、こなたの持っている足元を照らすのが精一杯の、頼りない光を放つペンライトだけ。
「…こなちゃん。もうちょっと明るい懐中電灯無かったの?前が見えないよ…」
 つかさが少し怯えた声でこなたにそう聞いた。
「大丈夫だよ。ちゃんと目印通りに歩いてるから。それより手を離してはぐれたりしないでね?あと、プレゼント落としちゃダメだよ」
 こなたが軽い口調でそう言うと、つかさはこなたの服を掴んでいる手に力を込め、反対の手に持っているかがみへの誕生日プレゼントをちゃんと持っていることを確認した。

 しばらく歩いたところで、こなたが立ち止まった。そして、ペンライトで足元を調べ、チョークか何かで描かれているらしい、人一人が立てるくらいの丸い円を探し出した。
「つかさ、ちょっとここに立って。それで向こう向いてね」
 こなたに促され、つかさは恐る恐るその円の中に入り指定された方を向いた。
「…こなちゃん、これなに?」
「まあ、ちょっと待ってよ。そろそろだから」
 こなたがそう言うと、少し離れた場所でチカチカと光が瞬いた。
「お、向こうも準備できたみたいだね…それじゃ」
 こなたはペンライトを頭の上にかかげ、クルクルと回した。すると、つかさの目の前が一気に明るくなり、その眩しさにつかさは思わず目をつぶってしまった。
「…わー」
 そして、眩しさに慣れ、目を開けたつかさは思わず感嘆の声を上げた。
 たくさんの小さな輝き。それが川のようにつかさの目の前に広がっていた。まるで、雲で見えない天の川がそこに降りてきているようだった。
「凄い…これ、こなちゃんが用意したの?」
 目の前の光景に息を呑みながらつかさがそう聞くと、こなたは少し苦笑しながら頭をかいた。
「わたしはほとんど何もしてないけどね…ほら、つかさ。対岸の方見てよ」
 こなたにそう言われつかさが対岸を見ると、そこにはかがみと付き添っているみゆきの姿が見えた。
「さ、舞台は整ったよ。後はそのプレゼントを渡して、かがみから受け取るだけだよ」
「え、渡すってここで?って受け取るって?」
 こなたは、混乱したかのように戸惑うつかさの肩を軽く叩いた。
「かがみも、だったんだよ。今年、プレゼント渡そうって考えてたの…さ、いっといで」
 そして、そう言いながら、つかさの背中を天の川の方へと押した。
「い、行くって…この中に?」
「大丈夫だよ。ちゃんと上を歩けるようにしてるから」
 こなたがそう言いながら手に力を込めると、つかさは諦めたように川に足を踏み出した。

「…わー」
 踏み出した光の上。つかさは川を見たときと同じような感嘆の声を上げた。
 足元に広がる天の川。その上を歩くつかさは、まるで自分が彦星に会いに行く織姫になったような気分だった。そして、川の丁度中央あたりに来たところで、同じように川を歩いてきたかがみと向き合った。
「…神社に入るなって言われてたの、こういうことだったのね」
「…そうだね。これ、どうやってるんだろ」
「多分、小さい電球を敷き詰めて、その上に透明な板を張ってると思うんだけど…よくこんなことするわね」
 呆れたようにそういうかがみに、つかさは苦笑した。
「でも、嬉しいよね。わたし達のために、こういうことしてくれるなんて」
「…まあ、そうね」
 そっぽを向いて照れたように頭をかくかがみが少しおかしくて、つかさはクスリと笑った。
「それはそうと…みゆきから聞いたんだけど、つかさも同じ事考えてたのね」
 気を取り直したかがみがそう言うと、つかさは無言で頷いた。
「みゆきにも不思議がられたけど…周りから見ると、わたし達がお互い祝ってないっておかしいのかしらね」
「どうだろ…近すぎたのかもしれないね。わたしとお姉ちゃん」
 つかさは少し首を傾げて考えた後、ポツリとそう呟いた。
「近すぎた?」
「うん。ずっと隣にいたから、逆にお互いが見えてなかったのかも。感じたり、知ったりは出来ても、見えてないから色々抜けちゃってたのかも」
 つかさの言葉に、かがみはポカンと口をあけて固まった。
「…あ、あれ。わたし変な事言った?」
 かがみの反応に、つかさが不安そうにそう聞いた。
「え、あ、いや、そうじゃなくて…驚いたのよ。つかさがそう言うことちゃんと考えてるなんて…」
「あ、お姉ちゃんそれちょっとひどいよ」
 少し頬を膨らませてむくれるつかさに、かがみは思わず笑い出してしまった。
「ごめんごめん…でも、そう言われればそうよね。ずっと隣だったから、か」
 かがみはうつむいて。自分の足元の天の川を少し眺め、そして顔を上げた。
「そうね…一年に一度くらいは、こうやって向かい合うのも悪くないわね」
「うん」
 かがみの言葉に、つかさが満面の笑みで答える。
 しばらく二人はお互いの姿をしっかりと見て、そしてどちらとも無く誕生日プレゼントをお互いの前に差し出した。
「それじゃ、つかさ」
「うん、お姉ちゃん」

『お誕生日、おめでとう』



― おしまい ―


コメント・感想フォーム

名前:
コメント:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。