ID:jg8blceH0氏:未来を思い出に変えて(ページ1)

一.

今日もいつもどおりの朝が来て、いつもどおりの晴れた日で、そしていつもどおり私は遅刻寸前で、今私はグラウンドを駆け抜けているところだった。
昨夜の深夜アニメはいつもどおりに面白かったものだから、ひと段落して寝ようと思っても興奮して眠れなくなってしまったのだ。
まったく、アニメのせいだ。別に私が悪い訳じゃないよね?うん、うん。
校舎に駆け込み、ロッカーから上履きを抜き出し、放り投げ、すばやく履き替えた。これもいつも通りの動作だった。
廊下を走るな、と言う張り紙をガン無視して突っ走り、3年B組と書かれた表札の前で急停止する。
さすがにもう夏だ。汗が体中から噴出し、髪の毛から雫が垂れる。
この扉を開けると、やはりいつもどおりの風景が広がっているのだと思った。

「せんせーっ!遅刻じゃないです!白いセールスマンに契約して魔法少女にならないかって頼まれまして、何でも叶えるって言うんですけど胡散臭くて、断ろうとしているうちにこんな時間になってしまいました」

いつもどおりだと思っていたら、少しだけ違った。

「ほう、先週は魔女に襲われた言うてたな」
「あれ?」

つかさがどんな顔してこっちを見ているのか気になったのだが。

「あれ?やない。早う、席付け」
「つかさも遅刻ですか?」

あいにく、つかさのいる筈の席には誰もいなかった。
かわりにみゆきさんと目が合うと、困ったような顔をしてつかさの席のほうへと視線をずらした。
私は先生の方へと顔を向けた。しかし、先生まで困った顔するのだった。
そして生徒達の方へと向き、少し息を吸い込んでから声を上げた。

「あー、聞いてくれるか?」

騒がしかった教室が、突然凍った様にシンとなった。
どうしてだろう。走ってきたからと言って、こんなにも胸が苦しいものなのだろうか?

「今日来てないから不思議に思った奴もおると思うけど、柊つかさなんやけどな、病気で暫くの間、入院する事になった」

女子の声で、何かヒソヒソと話しているのが聞こえる。男子の一部はもっと大きな声で騒いでいるのがわかった。

「今、精密検査を受けているところやから、詳しい事は分からんけど、良くなるように願ってやってな」

知らなかった。そんな事、聞いていなかった。いったい昨日は何があったと言うんだろう?
胸が苦しい理由は、このことを暗示していたのだろうか?まだ苦しい。締め付けられているみたいだ。

 

二.

「つかさの部屋はここよ。個室だけど、病院の中だから静かに頼むわよ」

かがみの案内で、つかさが入院している部屋へと通された。
かがみたちの通学路の途中に病院があったので、みゆきさんの家とは正反対の方向に来てしまった。
つかさは起き上がったベッドの背もたれに上半身をもたれながら、隣に座るつかさのお母さんと談笑していたところだった。
つかさの腕には点滴の針が刺さり、足の指には何かのセンサーが付けられているのが見えた。
いつも着けているリボンはなく、いつもと違うつかさに不安を覚えた。

「あ、お姉ちゃんだ。それにゆきちゃんに、こなちゃんも」
「あらみなさん、わざわざありがとう」

つかさとかがみのお母さんにお辞儀をされ、私は軽く頭を下げた。
垂れた自分の髪の隙間から、ふと隣を見ると、きれいなフォームで深々と礼儀正しくお辞儀をするみゆきさんがいたため、それにならって私は慌てて深く頭を振り下ろした。

「つかささん、こんにちは。突然の入院と聞いてビックリして来たんですよ」
「心配かけてごめんね。すぐに私、元気になって学校に行くからね」
「無理するんじゃないわよ。あせってまた体長をこじらされちゃ堪らないんだから。私たちは別に急いでなんかいないわよ」
「オホホ?かがみんに連れられてきたんだけど、一番あせってたのは結局かがみんだったみたい。病院の中で迷子になりかけたんだよ。いやぁ、みゆきさんがいなかったら未だにたどり着けなかったかもしれないね」

それを聞いたかがみは、急に顔を赤く染め、そっぽを向いてしまった。

「うっさいな、いいじゃないの無事に着いたんだから」

場所は違えど、今話していることや、ハイテンション具合やらは、いつもと変わらない日常だった。
つかさの身に何が起こったのか、詳しい事はかがみから聞いた。
それによると、昨日の夕方の下校途中から腹痛をうったえ始め、家に着いた頃には既に自力で立つのがやっとの状態だったと言う。
慌ててこの病院に連れて来たところ、そのまま入院となったのだそうだ。
今は点滴の投与で落ち着いているが、それは薬のお陰で今の状態を保てているだけで、今の元気なつかさは仮のもの言うことだ。
精密検査は今日一日かけて行われた。結果は早ければ今日中に分かる。
その時になれば、家族ではない私とみゆきさんは、ただのお邪魔虫になってしまうわけだ。今日は長居出来ない。
もとより、みゆきさんの家が遠いため、夜遅くまでいる事はそもそもはそもそも出来ない。
病人に負荷をかけることもない。
かがみも含めて、私たちは病院を後にしたのだった。

みゆきさんと二人で、電車に乗った。お互い口数は少なく、でも無理して何かを言おうとするわけでもなかった。

「明日、かがみさんが、つかささんの事について、また詳しいことを教えてくれるはずです。それまで待ちましょう」

みゆきさんが、ポツリと無言の空間を切り開いた。

「うん、きっとすぐ治るよ」
「はい」

当たり前だと思った。病気を治すために病院にいるのだから。
問題はすぐに治るのかどうか。
しかし、常識的に妥協したこの願いさえ、裏切られる事となった。

 
三.

次の日、かがみは登校しなかった。
何度も携帯に電話やメールを送っているのにまったく返信が来ない。
せっかくこの私が珍しく、携帯電話を活用していると言うのに、かがみは一体何をしているのか。
何をしているのか、それをイメージしようとして、頭をブンブン振って一旦脳味噌をシャッフルした。
なんせ昨日の今日だ。検査結果は既に出ているのだろう。
だから授業中は、何も考えない。

「なんや泉。今日はえらい集中しとるやないか」
「え?」
「え?やないわ。目ぇ開けながら寝とったんやないやろな。ゲームも大概にしときぃよ」

周りから笑い声が聞こえる。笑えない、まったく面白くない。
ただ砂時計の砂を眺めているような、途方もなく無益な時間に思えた。

授業が終わり、私はみゆきさんと下校していた。これから二人で、また病院へ向かうのだ。
校門を出て、左に向きを変えると、石垣に持たれかかりながら、地面を見つめるツインテールの少女がいた。
あんなところで待っていたんだ。いつから?ひょっとして朝からいた訳じゃないだろう。
おそらく、病院を経由してここへ来たんだろう。

「かがみ!どうしたのさ。電話したんだよ」
「ごめん、こなた、みゆき」
「かがみさん、顔色が、優れませんよ?」
「うん……」
「その、つかさがどうかしたの?いつもどおり登校できるのは、いつになるの?」
「もう、戻れないの」
「え?」

ずっと地面を見つめていたかがみが、私に抱きついた。
膝を地面に付けて、顔を私のお腹に押し付けて、ただかがみがプルプルと震えているのが感じられた。
嗚咽が暫く続いた。かがみが続きを喋られるまで、そっと傾けられた頭を抱きしめる。
しっとりとした紫色の髪が、柔らかく私の指に絡んでいる。

「変わっちゃった。私、もういつもみたいに、笑えないかも知れない……。いつもどおりには二度とならない」
「どういう、ことですか?ゆっくりで良いです」
「つかさはね……、つかさはねっ……」
「うん」

また暫く、嗚咽があった。かがみの顔は見えないが、今どんな表情なのかは簡単に想像できた。

「つかさは……。ガンなんだって。もう……、治らないんだって」

みゆきさんも、そして私も、何も言わなかった。いや、何を言えばいいのかわからないのだ。
かがみはいつもの冷静さを取り戻しながら、声を低くして唸るように言葉を続けた。

「レントゲン写真を見せられながらお医者さんに言われたの。リンパ管にガンが出来てたの。そこを中心にしてもう、全身に転移し始めてた。お腹を痛がっていたのは、胃ガンのせい」
「そんなのって……。つかさは?つかさはこの事を知ってるの?」
「ううん、その事は伝えてない。すぐに治る病気だと思ってる筈よ。だって不安を煽るだけじゃない。それを自覚して出来る事は少ないわ。なぜならつかさの寿命は、たったの数週間」

 

四.

「よっ、つかさ、お見舞いに来たわよ」
「おぉっ、大所帯でやって来たね。ああ、いまつかさは寝てる所だよ」

病室の奥を見ると、かがみとつかさのお姉さんであるまつりさんが座っていた。
そう言えば、代わりにお母さんがいないようだ。家に帰ったのだろうか。

「ま、そこに座りなよ」
「気持ち良さそうに寝ていますね」

みゆきさんがじっとつかさを見つめている。
私とかがみはまつりさんの言うとおりに。ベッド横の椅子に腰掛けた。

「かがみ、うちの神社にリボンが落ちてたけど、これあんたの?」
「うん?違うわね、これはつかさのリボンよ。なんで神社に……、あぁ、病院に来るときに落としたんだ」
「……、そうだ。かがみん、ちょっとそのリボン貸してよ。つかさが起きないように、それを結ぶからさ。ちょっとみゆきさんどいて」

私は半ば強引にリボンを奪うと、つかさの方へと手を伸ばした。
なにやらまつりさんもノリノリのご様子で、ニヤニヤしながら私といっしょに席を立った。
ひらひらとはためいたリボンが、みゆきさんの小ぶりで可愛い鼻に直撃したのが見えた。

「は……はひぃ、ひく、く、くしゅん!」

あぁ……。

「う、うん……。あれ?」
「つ、つかささん。起こしてしまい、申し訳ありません」
「みんな、来てたんだ。あ、こなちゃん。それ私のリボン」
「あ?これ?ヌハハハハ。まつりさんが神社で拾ったんだって。あ、そうだ。ならベッドに結んどくよ」
「ありがとう、まつりお姉ちゃん」
「いやあ、目立つからね。黄色は」
「それをあんた、つかさが普段付けてるリボンだったこと、わかってなかったじゃない」
「ぐぅ……」
「えへへ、ごめんね。私すぐに良くなって、お礼にクッキーたっくさん、焼くからね」

いいや。つかさは二度とクッキーを焼けない。

「そ、そうだね、楽しみにしてるから」
「つかささん、無理しないでくださいね」
「大丈夫だよ、今は外出禁止だけどさ。私、こんな病気すぐに治しちゃうから。そしたらさ、新しく出来たケーキバイキングのお店に行こうよ」
「ええ」

きっと、ケーキも二度と食べられない。

「そうだ、海に行きたいな。去年みたいに、皆でさ。成実さんの運転はちょっと怖かったけど」

もういやだ、こんなの耐えられない。だって、つかさはもう、海を見ることは決してない。
でもその事は言わないと、かがみとみゆきさんと約束したのだ。
ぐっと握った拳に、汗でねっとりとした感触が気持ち悪い

「ごめん、つかさ、みんな。ちょっと急用を思い出しちゃった。ごめん、先に帰るね」

私は逃げるように病院を飛び出したのだった。

 
五.

私は家に帰らなかった。
お父さんには、今日はかがみの家に泊めてもらうと電話を入れたのだ。
携帯電話が便利だと言うのが、ようやく理解できてきた気がする。
私は今、病院の近くのマンガ喫茶にいる。時間はもうすぐ夜の九時。そろそろ良いだろう。
結局、マンガを読むのに集中できず、どんなストーリーだったのかまったく頭に入っていない。
マンガ喫茶の会計を終えると、私は病院へと再び足を向けた。

夜の病院と言うのは、意外にも不気味さなどは少なく、人の気配も感じられて安心感がある。
それもそのはず、灯りはぽつぽつと点いている。
そもそもこの施設の中には大勢の患者さんや、夜勤中のナースやお医者さんがまだいるのだから。
ホラーの中でも定番中の定番の場所設定だったが、あれは廃病院とか、そういった類だっただろうか?まあ、どうでも良いや。
私は堂々と、いっさいの不信感を感じさせずに、玄関にいる警備員をスルーして病院へと突入した。
ナースとすれ違ったが、軽くお辞儀をして(泊り込みで付き添いをしている者ですが、なにか?)という雰囲気をかもし出しながら闊歩した。
そして難なくつかさの部屋にたどり着くと、そうっと、スライドドアを開いた。
そこにはベッドで安心したように眠るつかさの姿があった。
だまって入院していれば、自分は必ず回復すると信じているつかさ。
その寝顔が、私には怖かった。夏だと言うのに、汗をかいているというのに、急に寒くなった気がした。

「つかさ、つかさ。起きて、つかさ」

私はつかさの肩を叩いた。

「う、うぅん?」

目をこすりながら、私の顔を見つめようとする。
そこで気がついたが、こんなに暗かったら私が誰かわからないのではないか。

「こなちゃんの声?どうしたの?」
「つかさ、私がわかる?」
「うん、こなちゃんだよね?どうしたの、まだ真っ暗だよ?」
「つかさ、だまって、聞いてほしいんだ」

私は、今日の夕方にかがみから聞いた、つかさの本当の現状をありのまま全てを、つかさにゆっくりと言い聞かせた。
ガンだと言う事、治らないということ、そしてつかさの命は、残り数週間で終わりを迎えるということを。
真実を伝えるというのが、こんなに簡単なものだとは思っていなかった。
一度口を開いたら、後から後から残酷な言葉を吐き出す自分の口が、自分のものではない様に思えた。
全てを語った。暗くてつかさの表情が分からない。

「こなちゃん、それは、私のためを思って、教えてくれたんだよね?」
「うん……」
「ありがとうこなちゃん。本当に辛かったのは、みんなだったんだね」
「違うよ!私たちの事なんて考えなくていいから。だからさ、自分の事を考えて良いんだよ。つかさが私に甘えてくれれば、それだけで良いんだよ」
「ありがとう……」

相変わらずつかさの表情は分からないが、言葉の端が震えているのが、つかさが泣いているのだとわかる、ただ一つの証だった。
何気なくベッドの手すりに手を添えると、手になじむやわらかい物に当たった。
今日の夕方に自分で結んだ、つかさの黄色いリボンだった。こんなに暗くても、鮮やかな黄色が闇を弾いている様に良く見えた。
このリボンを付けて、元気良く登校して、なんの不安もなく当たり前の日常を、当たり前に謳歌していた、あの頃のつかさが脳裏によぎった。
かがみは言っていた、いつもどおりには二度とならない、と。

「酷いよね、酷すぎるよね。つかさはまだ「待って」」

ハッとした。私の小さな同情は、ますますつかさを傷つける。今の言葉はただの毒だ。
つかさはまだやりたい事たくさんあるよね。そう言ってなんになる?出来る事は限られている。

「私、せめて一つだけやりたい事があるの。こなちゃんお願い、叶えて」


六.

金曜日。結局、その日は眠れなかった。
だから寝坊はしなかったものの、頭が働かずにボーっとする。
自分の席について、うつらうつらしていると、かがみが教室に入ってきて私の席の前にやって来た。
みゆきさんが不思議そうにこちらを見ているのがわかる。
ちょっと来なさいと、私の手を引いて人のいない会議室の中に連れ込まれた。何をするつもりなのかと、寝ぼけた頭で考えた。

バシンッ

強烈な衝撃が、寝ぼけた脳天を貫いた。大きな音が無人の会議室に響く。
訳が分からないまま、私は会議室の床にしりもちを着いた。
暫く呆然としていたが、頬がじんと痛くなって、初めてかがみに頬を叩かれたのだとわかった。

「な、なんのつもりさ!」
「昨日の夜、つかさから電話がかかって来たわ。あんた、つかさに言ったわね?秘密にするって約束したじゃない」
「それは……」
「なにをしたのか分かってるの?あんたのした事は、ただの逃避よ。つかさに対して黙って、嘘をついて、自分に罪を被せられるの嫌になったんでしょう?この約束を破った時に、一番苦しむのはつかさなの!あんただけ楽になろうなんて、許さない!」
「かがみ、私は……」

私は必死で言い訳を考えている。あぁ、かがみの言っている事は正しい。言い訳なんて出来る訳ない。
私はうつむいた。

「ごめん、ごめん、なさい……」

涙がこぼれた。私が泣いている。何年ぶりの事だろう?

「謝らなくていいわ。私にも、つかさにも、今さらその言葉はどうでもいいの。ただ、その気持ちは忘れないで。あんたにはやるべき事があるわ。私も、そしてみゆきにもお願いするから」

私はゆっくりと顔を上げた。かがみと目が合うと、ばつの悪そうな顔をして吐き捨てるように言った。

「つかさが、海に行きたいって言ってる」

 
七.

携帯が鳴った。かすむ目をごしごしとこすり、携帯を開くとかがみからだった。現在早朝の三時。モーニングコールだ。
夜九時に、前と同じくつかさの部屋に侵入。そのままベッドの隣にあった長椅子の下に潜り込み、一夜を過ごした。
きゅうくつな場所から体をひねり、ズルズルと這い出す。再び夜の病院。この光景を目のあたりにしたものは、ホラー映画も真っ青だ。
ベッドではつかさがまだ眠っていた。

「つかさ、起きろ~」
「あと五分……」

申し訳ないが、布団をひっぺ返してつかさをたたき起こした。
部屋の片隅には車椅子が置かれていた。
つかさがすでに自力では立てないほど脚力を失っていた事を知ったのは、つい昨日の事だった。
しかし今回、この車椅子を使う事はしない。私はつかさを背負い上げた。
都合のいい事に、今はつかさに点滴は投与されていない。
つかさと私の身長差はある。誰かがこの様子を見れば、きっと不恰好なのだろうが、そもそも誰にも見られないように病院を抜け出す事が今のミッションだ。

「こなちゃん、なんだか緊張するね」
「しーっ、静かに。敵はどこに潜んでいるか分からないからね」

ベッドに結わいであったつかさの黄色いリボンが、今日は久しぶりにつかさの髪を縛っている。
ナースも誰もいない廊下。つかさに負荷を掛けないように、走る事はしない。
ただ目立たないように、黒いジャージを上下に着込み、闇にまぎれて廊下を突き進む。
エレベーターは誰かが使用しているかもしれないため、非常階段を使って一階に降りる。
また少しの距離を廊下を進まなければならない。しかしすぐに出られる。そんな時に、背中のつかさがピクリと動いた。

「こなちゃん、後ろから足音が聞こえる」
「むむっ、トイレに隠れよう」

私たちは、二人で女子トイレの個室に隠れた。もちろん、鍵もかけて。
女子二人でトイレに篭る。一人は無防備。なんかエロい……。もちろん何もしないが。
足音が通過していき、しんといっさいの物音がしなくなった。
体力には自信があるが、さすがに体格差もあって、つかさを支える腕が限界に近づいている。

「よし、行こう」

トイレを出たなら、すぐにガラス張りの廊下が見える。ガラスの向こうは、病院の中庭だ。その廊下の一番すみっこに、非常用の扉があった。
鍵がかけられていて、外からは鍵がなければ開かないが、内側からなら誰でもサムターンを回せば開けられる構造だ。
私たちはそれを開いて、外へ出た。まだ太陽は顔を出していないが、空がすでに白んでいた。とびっきりの快晴だった。

「きれい……」

つかさが耳元でささやく。百パーセント同意だった。
中庭を抜けて、病院の駐車場に行くと、予定通りの場所にステーションワゴンが一台、駐車してあった。
車の隣には、みゆきさんとかがみが立っている。

「さあ、乗ってください。海へ行きましょう」
 

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