ID:5C3c+zXY0氏:紡いでいく二人のライトノベル。~白石は俺の嫁~

 校舎が夕焼けに染まる放課後、白石稔は溜息を吐いた。
 どうやって、意中の女性、柊かがみに誕生日プレゼントを渡そか、と。
 その際、告白もしようというのが彼の計画なのだが、どうにも、勇気が持てず、このままやめちゃおっかな、などと考えている。
 彼女の誕生日まであと、一週間ほど。もっと言えば前々から、白石稔はこの計画を考えていた。
 きっかけは、そう、あまりにも単純である。
 一目ぼれだった。うちのクラスにしゅっちゅう遊びにくる柊かがみのことを見かけるたび、白石は甘い感情が胸で渦巻いた。
 本当は、今すぐにでもこの感情を彼女に伝えたいのだが、白石はその勇気を持てないでいる。
 というのも、クラスでも目立たない地味な白石にとって、柊かがみはあまりにも遠い存在だった。
 成績上位、同級生からの人望も厚く、加えて容姿端麗。
 男子からの人気も密かに高い彼女に、白石が告白の決断を踏み切れないままでいるのは、必然とも言えた。
 もう一度、溜息を吐く。既に、誕生日プレゼントは用意してあった。
彼なりに、考えて考えて、考えあぐねた結果の、プレゼント。喜んで貰えるか自身がないが、そんなことを悩む前に本当に渡せるのかどうか。
 白石稔は、悩んでいた。


 考えることに疲れ始めて、息抜きに本でも読もうと、白石は本を取り出した。放課後の教室で本を読むという行為は何とも孤独的である。
 しばらく、本に没頭していた。自分の好きな作品の、最新刊だったので、楽しめて読めた。それこそ、悩みなど忘れてしまうほどに。
 あんまりにも没頭してたものだから、教室に誰かが入ってきたのもわからなかった。しかも、声をかけられても、白石はまだ気づかなかった。
「おいって」
 肩を突付かれた。驚いて、本から目を離し、顔を上げる。そこにいたのは。
「あんた、そういう本好きなの?」
 意中の相手、柊かがみだった。白石は、内臓が引っくり返った気分になった。随分と間抜けな声が、口から漏れた。
「何よ、人をお化けみたいに」ぷうっ、と柊かがみは頬を膨らませて不満そうに白石を見下ろした。「それで、そういう本よく読むの?」
 白石稔は、焦った。今読んでいるこの本は、ちょっと一般的には恥ずかしい趣味のものだったのだ。
 だからこそ、放課後に読んでいたというのに、よりにもよって意中の人に見つかってしまった。
「ああ、え~っと、その……」
「何よ」
 どう否定しようかと考えていた。だけど、全くいい訳は思いつかない。結局、観念して、白石は趣味を吐露した。
「実は、結構好きで、よく読むんだ」
 恥ずかしくって、顔を伏せた。軽蔑するような声が聞こえてくると思った。だけど、頭上から降ってきたのは、嬉々として跳ねた声だった。


「そうなの? 実は、私もラノベよく読むのよ」
「え、そうなんすか?」
 白石は驚いて、手に持っていた本のタイトルを見た。『撲殺天使ドクロちゃん♪』。
 え、ええ~……まじか……。
 戸惑っていると、意中の彼女は語りだした。
「おかゆまさゆきさんは一番頭空っぽにして読めるわよね~。ねえ、他にどんなの読む?」
「ええと、フルメタルパニックとか」
「私もすごい好きよフルメタ!」
 白石は物凄く意外だと思った。まさか、優等生の彼女がライトノベル愛読者だったととは。内心驚愕すると同時に、嬉しかった。趣味が共通していたのだから。
「それ、最新刊?」
「あ、うん。そうだよ」
「じゃあさ、貸してくれない? 私、まだ読んでないのよね~」
 勿論、断るわけがない。繋がりができる。心の中で全力でガッツポーズをする。平静を装って、本を手渡す。
「あれ、読んでたんじゃないの」
「ああ、今丁度読み終わったところだったから」嘘である。
 柊かがみは本を受け取ると、ありがとう、嬉しそうに笑顔をこぼした。とんでもなく可愛い。
「それじゃあ、私いくわね」
 なんでもない風に、わかった、と言ったが、心の中は残念な気持ちでいっぱいだ。柊かがみは小走りでかけていくと、教室の扉のところで振り返り、手を振りながら言った。
「今度、私からも何か貸すわね」
 それに笑顔で答えて、手を振り替えし、見送った。
 これは夢かもしれないと思って、頬を殴ってみたが、痛かった。


 柊かがみの白石に対する態度は、他のクラスメイトに比べると少し悪い。白石はそれを気にかけていた。
 というか、白石は女子全般からないがしろな態度をされている思う。
 一部の女子からはセバスチャン呼ばわりだし、以前柊かがみにハンカチを拾ってあげたときなど、「どんだけ~」と嘆息を漏らされた。
 それだから、今回のことはかなり嬉しかった。よかった、避けられてない。もしかしたら利用されているだけかもしれないが、よし考えないで置こう。
 柊のかがみまで六日となった今日の昼休み、彼女はクラスに来ると、真っ直ぐに白石のところにきた。
「これ、読んだわよありがとう」
「もう読んだ?」
「うん、私一気に読んじゃうタイプなのよね」
 それから、柊かがみはつらつらと本に対する感想を並べ始めた。律儀なほどに、こと細かく。白石は正直気おされていたが、楽しそうに話を聞く。
 こういう態度は、あきらさまでなれっこだった。
 その白石の態度に満足したように微笑むと、柊かがみは、これっ、と本を差し出してきた。それは、我らがフルメタルパニック。少佐が表紙の巻だった。
 ありがとう、と本を受け取る。そうしてから、柊かがみは友人たちのところにいってしまった。その中の何人か、こちらを興味深そうに見ていた。
 白石をセバスチャンと呼ぶ泉こなたや柊つかさだった。



 またからまれないように、反射的に目を逸らす。そして、今渡された本に目を落とす。
 よっしゃ~。いえすいえす。
 自分も一日で読破しようと思った。一日でも早く、また柊かがみと会話をしたいからだ。
 心躍るってこんな気持ちのことを言うのか。
 次の日、昼休み。白石は少し無理して読破した本を、柊かがみが教室に入ってきたとき、返した。
「どうだった?」
「すごく面白かったよ!」
「ふーん……」
 あれ? 何か、反応が冷たい。昨日まですごい笑顔で話してくれていたのに。
 考えろ、考えろ。何かが、いけないのだ。何かが、彼女の気にいらないのだ。
 そして、はっ、と思いつく。我ながら、それに気づいたのは奇跡みたいだった。
「特に、あのところの、あれが、ああなったのは、すごく意表をつかれたなぁ」
「そうでしょう!」
 やはりそうだった! 柊かがみは、こと細かい感想を望んでいるのだ。ああっぶねえ~。好感度あっぷあっぷ。
 昨日よりさらに、柊かがみは親しげな感じだった。もう幸せすぎて泣きそうだと白石は思う。
「あと、フルメタの最新刊持ってきたんだけど、良かったら」
「本当! いやぁ、丁度読みたかったのよね。ありがとう、明日返すわね」
 と、柊かがみは友人のところにいってしまった。
 これいけんじゃね? と白石が考え始めたのは、そのときからだった。



 いつものように、白石は柊かがみと会話できる昼休みを心待ちに、学校で過ごしていた。しかし、いつもと違うことが起こった。
 柊かがみの妹、柊つかさが、声をかけてきたのだ。
「ねえセバスチャン~」
 なんでもないようにそのあだ名で呼びかけてくる柊つかさ。白石は若干違和を覚えるが、何? と返す。
「セバスチャンって、特撮が好きなんだって?」
 どこでそんな情報を知ったのだろう。そういえば、ラジオでそんなことを言った気がする。
「そうだけど、それがどうかしたのか?」
「気持ち悪いね~マニアックだよね~」
「ええ~……」
 何やねん、と心の中で言い返す。あくまで、心の中で。
「それと、いつも思うんだけど、セバスチャンなんか臭いよ~? もっと気をつけたら~?」
「は、はい、すみません……」
 異臭を放つ心当たりは特に見当たらないのだが、自分ではわからないものらしいし、大分ショックを受ける。
「お姉ちゃんも言ってたよ、もう近づかないで欲しいって」
「え!? 本当に!?」
 目の前が真っ暗になった気がした。あんなににこやかに話していたのに、笑顔の裏ではそんなことを思われていたのか。絶望。



「うん至極本当~それじゃあね~」
 可愛らしく笑顔でさっていく柊つかさが、白石には悪魔のように見えた。
 一体どういった意図で柊つかさがそんなことを言ってきたのかよくわからないが、白石は沈んでいた。
 だから、昼休み柊かがみが貸していた本を返しに来たときも、白石は暗い顔でいた。そして、少し不自然な感じで、距離を置く。どうやら、自分は異臭を放っているのだというから。
「ん~? どうしたの?」白石の異変に気づいて、柊かがみは不思議そうに声をかけてきた。だが、白石はいや、別に、と苦々しい笑顔で答えることしかできなかった。
「まあいいや、今度はこれ貸したげるよぉ。感想教えてよね」
 本を差し出されて、白石は戸惑った。本当に、受け取っていいものだろうか。自分は本当は、避けられているのではないか。この本を貸し借りするという行為も、単なるネタだったりとか。
「いや、俺は……」
 顔を伏せて、口ごもっていると、柊かがみは下から白石の顔を覗き込んだ。その不意の動作に、白石は心臓が跳ねた。
「やっぱり、何かあったでしょう。どうしたの?」
 心のふたが、がばっと外れた。好きな女性にそんなことをされて、嘘をつける男がこの世にどれだけいるだろうか。実は……と白石は全てを話してしまった。



「ええ? つかさにそんなこと言われたの?」
「自分じゃよくわからないんだけど……」
「どれどれ」
 ぐいっ、と柊かがみは白石の胸元に鼻先を近づけた。不用意すぎる行動に、今までにないぐらい白石はどきっとした。すぐ眼前に、柊かがみの顔があった。
 どうにかなってしまいそうだったが、白石がどうにかなるまえに、柊かがみは顔をふいっ、と戻した。
「ああ、あんた、柑橘系のシャンプーでも使ってるんでしょう」
「あ、うん、そうだけど」
「あの子、柑橘系苦手なのよね。だからあんなこと言ったんじゃない? 私は別に、臭いとは思わないけど。寧ろ、好きだけどね、その匂い」
 やべえええええええ。
 と、白石は今すぐ柊かがみを抱きしめたい欲望を抑えていたので、その後の会話はよく覚えていない。だけど、手にいつのまにか持っていた本で、ああ、また本を借りれたのだな、と思った。
 柊かがみの誕生日まで、あと三日だった。
 とまあ次の日、白石は何の因果か柊つかさに呼び出されていた。びくびくと、呼び出された空き教室に向かう。あきら様以外にも、怖がる相手ができてしまった。
 がらっと扉を滑らした先で、悪魔的な笑顔を浮かべた柊つかさがいた。走って逃げ出したくなったが、耐える。
「話って何だよ」
「敬語を使いなよ~セバスチャン。気分悪いなぁ~」
「あ、すみません……」
「それで、今日は言いたいことがあったの」
「何でしょうか」
 つかつかと、怖いぐらい可愛らしい笑顔を浮かべた柊つかさが、白石の目の前まで歩んできた。思わず、仰け反る。
「お姉ちゃんに付きまとうのやめてくれない? お姉ちゃん、彼氏いるんだからさぁ」
「――へ?」
「知らなかったの? やだなぁセバスチャン。お姉ちゃんぐらい可愛い子だったら、彼氏なんかいて当然だよ~。とっくに大人の階段上ってるよ~」
「ほ、本当なのか?」
「だから敬語を使えよセバスチャン~」
「す、すみません……」


 それも、そうだよな、と白石は思う。彼女ほど可愛かったら、彼氏なんかとっくにできているだろう。
「はは、俺、とことん、アレだな。ラジオでも噛みまくるし」
 心躍る感情は、消失していた。代わりに、息苦しさが残った。
 そして、柊かがみも、いつもと違っていた。白石は、彼女に昼休み、校舎裏に呼び出された。姉妹揃って、と微かに思うが、どうでもいい。
 きっと、「私には彼氏がいるから、勘違いしないでよね」といわれるのだろう。何やら大事な話があるとか言っていたから、きっとそうに違いない。
 昼休みになって、校舎裏に向かおうと教室をでたとき、クラスメイトの泉こなたに声をかけられた。泉こなたは、妖怪じみたにやにや顔で、白石のことを笑ってきた。
「いやぁ、まさかセバスチャンがねぇ」
 後に続く言葉は、「あの格好良い彼氏がいるかがみんに恋心を抱いてしまってたとはねぇ」だろうな多分。
「ほら、早く行ってあげなよ。かがみん、待ってるよ」
 そうだろうな。
 白石は、ついでに借りていた本を返そうと、本を持っていった。もう、借りることも、貸すこともないだろうから。
 校舎裏にいくと、既に柊かがみは白石のことを待っていた。いつもは彼女の姿をみかけるだけで心臓が甘く痺れたが、今はもう息苦しさと切なさを感じるだけだった。
「話って、何かな」
 声をかける。柊かがみは、少し驚いたような顔をして、白石の方を振り向いた。
「ごめんね、急に呼び出しちゃって」
「別にいいよ。はい、これ、楽しかったよ」
 白石はそれだけを言って、柊かがみに本を返した。
 ……いつもは、いつもは感想を細かく話して、その話で盛り上がるところだった。だけど白石は、もう彼女とそんな風に楽しく会話するのが、無理だった。だから、少し冷たく、本を返した。
「感想は……?」
「ああ、楽しかったよ」
「……そう。じゃあ、これ」
 一冊の本を差し出された。少し、驚いた。断ろうと思った。だけど、柊かがみは両手にしっかりと本を持ち、丁寧に差し出していた。何となく、白石は断れないで、受けとってしまった。
「今日、全部読みなさいよね」
 そういうと、柊かがみは走り去ってしまった。残された白石は、一冊の本を手に持ちながら、独り言を呟く。
「今日全部読むのは、ちょっと難しいよな」



 白石は、家に帰ってから、本を読む気にはならなかった。適当に、鞄の中に放り込んでおいたままだった。少し乱雑に鞄の中にいれてお

いたので、ページが捲れたままになっていたようだった。
 次の日の昼休み、白石は柊かがみに未読の本を返した。
「全部読んでくれた?」
「ああ。本当に、面白かったよ」
 やっぱり、白石はそれだけを言った。柊かがみは悲しそうに顔を曇らせて、それは良かったわ、と言った。
 何でそんな顔をするのだろう。本当に、悲しそうな顔だった。
 放課後、白石は夕焼けのその教室で、一人残っていた。そして、貸そうと思ってそのまま鞄のなかに入れておいた本を、ぺらぺら捲っていた。読む気なんかない。
 もう帰ろうと思って、鞄の中に本をしまおうとした。そして、鞄の中に一枚の栞を見つけた。見覚えのないものだった。
 気になって、手にとって見る。それは、買ったばかりの本についているような、安っぽいものではなかった。しっかりした装飾の、綺麗なものだった。
 何気なく、それを眺めようとしたら、文字を発見した。栞には、何かが書いてあった。
「何だ……?」
 栞には、こうある。
『最初は単なる冴えない男子だと思っていただけだったけど、まさかあれだけのことで、こんなに気になるようになるとは思わなかったし、そうやって過ごしてたら、今回のことだから、もうわかるわよね? 放課後校舎裏で待ってます』
「……はあ?」
 訳がわからなかった。ただ、柊かがみは、どうやら校舎裏で待っているらしい。
 時計を見る。放課になって、一時間は経っていた。
 訳のわからない文章に、訳のわからない焦燥感が募った。もし、本当に彼女が放課後になってから、ずっと校舎裏で待っていたのだとしたら、自分はとんでもないことをしていないか?
 白石は、駆け出した。校舎裏に向かった。
 校舎裏には、誰もいなかった。ただ、夕焼けが校舎の白い壁を染めていた。
 無意味に息を切らして、白石は虚しくなった。
 何してんだろう、俺。
 もう帰ろうと、踵を返したときだった。後ろから、声をかけらた。



「やっときたわね」
 驚き、振り返ると、そこには柊かがみが立っていた。
「遅い、遅すぎるわよ」
 そう言って、息を切らす白石の前にたった。そして、
「もう、わかってるわよね?」
 だから、何をだっ。柊かがみの意図するところがわからず、あたふた慌てていると、呆れたような表情を向けられた。
「あんたねぇ、貸した本読んでないでしょう」
「あ、ああ、実は」
 もうそんな関係は、終わりだと思っていたから。
 はぁっ、と柊かがみは盛大な溜息を吐く。そして、夕焼けのせいで紅潮したように見える顔で、言い放った。
「いい? あの本の最後はね、主人公とヒロインが、放課後の学校で結ばれるっていう話なの。それと、ヒロインは、主人公にハンカチを拾ってもらったってだけのことで好きになっちゃった、もうどうしようもない子なの。……もう、わかってくれるでしょう?」
 白石は、柊かがみの顔が赤いのは、気のせいだと思った。
 だけど、え? だけど、あれ~?
 極度の混乱に襲われる。だって柊かがみの話は、いつぞやの自分たちのことであったし、しかも、この状況は、正に。
 すう、と白石は息を吸う。
 これが、仮にドッキリだとしても、この人に彼氏がいたとしても、今、全て、気持ちを伝えてしまおう。
 そうすれば、もう、この胸の息苦しさはとれるはずだから。
「そこまで、言わなきゃいけないの?」
「いいや、もう、そんな必要はないよ」
 決意した、落ち着いた声だった。二人は、同時に、息を吸った。
「――俺は」



 ――そして、後日の、柊かがみの誕生日。
 白石は、ずっと前から用意してあった誕生日プレゼントを、柊かがみに渡した。それは紙で包まれていて、中身がわからない。
「何かしら!」
「開けて、見てくれよ」
 嬉しそうに、柊かがみはプレゼントを開けていく。
 中からでてきたのは、一枚のハンカチだった。
「女の子に送るプレゼントとか、よくわからなくって」
 いい訳っぽく白石は頭をかく。
 柊かがみは、それを胸に抱きしめると、笑いながら言う。
「どんだけ~」
 そういう彼女の顔は、しかし、嬉しそうだった。
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