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『コンコン』
ドアのノック音、誰だろう私を起こすのは。
『コンコン、コンコン』
ゲームをして徹夜したんだ、もう少し寝かせてほしい。それに今は夏休みじゃないか。
ノックが止んだ。ゆっくりとは起きた。思いっきり背伸びと欠伸をした。ノックのせいで眠れなくなってしまった。私を呼んだのは誰だろう。
お父さんならノックと一緒に言葉で起すよ、パティは夏休みでアメリカに帰っているから……ゆーちゃんか。時計を見ると午前七時、まだ三時間も寝ていない。
とは言ってもまた寝るのも気が引ける。呼ばれてみるか。部屋を出て居間に向かった。
 
ゆたか「昨日つかさ先輩が来ておじさんに何を聞いたのですか」
声が居間の方から聞こえた。足が止まった。昨日つかさが家に来たって。それは知らなかった。
そうじろう「ゆーちゃん、知っていたのか……こなたには内緒にと言われたんだ、話すわけにはいかない」
私に内緒ってどうゆう事だろう。このまま居間に行かない方が良さそうだ。忍び足で声の聞こえるギリギリの所まで戻った。
ゆたか「お姉ちゃんはぐっすり寝ています、私にも話せない内容なのですか?」
ゆーちゃんはそれでノックをして私が寝ているのを確かめたのか。
そうじろう「そうだな、こなたがこの時間に起きるわけもない……たいした事じゃない、こなたがかなたの死を知ったのはいつごろかって聞いてきた」
つかさのやつ、なぜ内緒でそんな質問をお父さんにしたんだ。そんな質問なら私に直接聞けばいい。
ゆたか「それでおじさんは何て?」
そうじろう「昔はこなたにはっきりかなたが死んだとは言ってない、しかしお墓参りも行っている、位牌もある、おそらく小学校に入学する前後には認識はしているはずだ」
そうだった。お母さんが亡くなっていたのは私がまだ幼い頃、その死を知ったのはいつだったかな、多分お父さんので合っているいと思う。
ゆたか「つかさ先輩はなぜそんな質問をしたのかな?」
そうじろう「オレも質問したんだが答えてくれなかった、こなたに内緒にするぐらいだ、多分何か事情があるのだろう、あまり突っ込んで聞かなかった」
事情って。つかさにどんな事情があるって言うんだ。
ゆたか「まさか、つかさ先輩のお母さんに何かあったのかな……病気とか」
そうじろう「こらこら、滅多な事を言うものじゃありません」
ゆたか「ごめんなさい」
おばさんに何かあった、そうならかがみも何か変化があってもいい。かがみは昨日会っているけど何か変わった感じは受けなかった。
あっ、そうか。私とかがみが会っているから家に私が居ないのを知っていてつかさは家に来た。つかさは最初からそのつもりで家に来たのか。
つかさらしくない。内緒でコソコソするなんて。
ゆたか「でもお姉ちゃんは凄いです、私は悲しい表情なんて一回も見たこと無いです」
そうじろう「そう見えるだけかもしれない、こなたはこなたで悲しい時もあったかもしれない」
ゆかた「そうですか、私には分かりません」
そうじろう「残念だが親は子供より先に亡くなる、自然の摂理だ、ゆーちゃんもいつかは分かる時がくる」
そういえば、私はお母さんの事で泣いた事はない。悲しいと思った時もない。だけどつかさやかがみ、みゆきさんのお母さんを見て羨ましいと思った時は何度かある。
たまにかがみとつかさはおばさんの話をするけど私に対する当て付けかと思った時だってある。でもそれを表に出した事はない。
そんな事をしたってお母さんが生き返るわけもないし、それにもう私は大学生、もうお母さんが居ようが居まいがもう関係ない。
そうじろう「そういえばゆーちゃんは実家に帰らなくていいのか?」
ゆたか「はい、夏休みの宿題がもう少しで終わるので、それから帰ろうかと思っています」
そうじろう「そうか……そうそう、くれぐれもさっきの話はこなたに言わないでくれ、バレたらつかさちゃんに申し開きができない」
ゆたか「はい」
 
 
   『 変化 』
 
 
つかさの話は終わったかな。このまま部屋に戻って寝てもいいけど、さすがにもう目が冴えた。私はついさっき起きたような感じで居間に入った。
こなた「おはよう~」
そうじろう・ゆたか「おはよう」
そうじろう「今日は編集で出かけなければならない……」
ゆたか「あ、えっと、今日はひよりちゃん達が来て勉強会する予定なんだけどいいかな?」
私が来るなりいきなり話を切り替えた。今までもこんな風にされた事あったのかな。まぁいいや、つかさは隠れて何かしているけど悪い事をしている訳じゃなさそうだ。
でも内緒にしているのが気になる。そんな思いに成った時電話が鳴った。
こなた「私が出るよ」
受話器を取った。
かがみ『もしもし、泉さんのお宅ですか?』
こなた「かがみ、おはよう」
かがみ『こなた、あんた携帯に何度電話したら出るのよ』
こなた「家に居る時は持っていない方が多いからね、で、用はなに?」
かがみ『今日空いているかしら?』
ほう、かがみの方から誘うなんて珍しい事もあるもんだ。昨日会ったばかりで何の用なんだろう。
こなた「空いているけど?」
かがみ『それなら家に来てくれない、相談したい事があるのよ』
かがみが私に相談って、信じられない。雨でも降りそうだ。
こなた「相談って、私で良いの、みゆきさんの方がいいんじゃない、それに相談なら電話でも出来るじゃん」
かがみ『……電話じゃできない相談なのよ……それにこなたじゃないと……』
言葉に力がない。ふとゆーちゃんの言った言葉がよぎった。まさかおばさんに何かあったのだろうか。そんな相談されてもどうして良いか分からない。
返答が出来ない。どうしよう……
かがみ『……で、来てくれるの?』
ひよりん達が来るみたいだし家にいてもしょうがないな、それに断ったら後味が悪そうだ。
こなた「わ、分かったよ取りあえずそっちに行くよ」
かがみ『ありがとう、待ってるわ』
受話器を置いた。
一回溜め息をついた。
こなた「これからかがみの所に遊びに行ってくるよ」
そうじろう・ゆたか「いってらっしゃい」
 
柊家に着くと私はかがみの部屋に案内された。おばさんは普段と変わらずとても元気そうだった。病気になっているとは思えない。かがみは私になんの相談があるというのか。
相談があるなら昨日のうちに話して欲しかった。
部屋に入るとかがみは椅子に座っていた。表情がいささか困ったように見えた。
かがみ「思ったより早かったわね、お茶でも飲んで……」
こなた「そんなのより相談って何?」
単刀直入に聞いた。かがみはまだ話す準備が出来ていないのか一回深呼吸のような仕草をした。
かがみ「相談というのはつかさの事よ……」
つかさ、そういえばつかさはどうしたのだろう、いつも家を訪ねると真っ先に飛び出してくるのに。
こなた「つかさ、つかさがどうかしたの、そういえばつかさは何処に?」
かがみ「……さあね、何処かに行ったわ、こなた、あんた何か心当たりはない?」
こなた「心当たりって言われても……」
かがみは立ち上がった
かがみ「そうよね、心当たりがあるなら昨日この話になっていた、本当は昨日話そうと思っていた……だけど出来なかった……
    夏休みが始まって直ぐだった、こうやって朝から何処かに行くようになった、部屋で何かやっているみたいだけど教えてくれない」
夏休みから丁度一ヶ月、そういえば夏休みなってからつかさと一回も会っていなかった。かがみやみゆきさんとはもう何度も会っているのに。
こなた「まぁ、部屋に一人でする事の中には人には話したくないのもあるけどね」
かがみ「ばか、こっちは本気で心配しているのよ、話しかけても『何でもない』で終わり、こんなの今までなかった、冗談は止めて」
こなた「それならつかさの部屋の中を調べてみたら、つかさは居ないし、バレないようにすれば大丈夫だよ」
かがみ「つかさの部屋に入るならこなたを呼ばないわ」
かがみは私に何かをさせたいのか。嫌な予感がしてきた。私は身構えた。
かがみ「つかさが何処に行って何をしているのか尾行して探って欲しい」
やっぱりそんな気がした。
こなた「確かにつかさは心配だけど、尾行するならかがみだってできるじゃん、何故私?」
かがみ「私じゃ直ぐにバレちゃうじゃない、こなたは子供に変装できるでしょ、高校時代映画館に子供料金で入ったわよね」
あの頃をまだ覚えていたのか。かがみ達の直ぐ近くに居たのに帽子を取るまで気が付かなかったのを思い出した。
こなた「それでどうやって尾行するの、つかさがいつ家を出るかなんて分からないよ」
かがみ「私に考えがあるわ」
 
 三日後の早朝、私は駅の前に居る。柊家の最寄りの駅だ。かがみからの携帯電話を待つ。つかさが家を出たら連絡がくるようになっている。
そう、私はかがみの頼みを聞き入れた。何故だろう。私はかがみの頼みを聞いたのか。普通ならつかさが何をしようとしているなんてあまり興味はない。
つかさはわざわざ家に来てお父さんに質問をした。私に内緒なんて。しかもかがみにも内緒。彼氏でもできたか。いいや、彼氏ができてあんな質問なんかしない。
お母さんが亡くなったのをいつ知ったか……なんて。つかさはあんなやさしいお母さんがいる。三人の姉までもいると言うのに何が不満なんだ。まったくもって不愉快だ。
待っている時間が暇すぎるせいか怒りが込み上げてきた。携帯ゲーム機でも持ってくればよかった。
突然携帯電話が鳴った。かがみからだ。
かがみ『今つかさが出たわ、後は頼むわよ……』
こなた「分かったよ、言っておくけどつかさがどんな事をしているか知ってから後悔しても知らないからね」
かがみ「私はつかさを信じているから……」
かがみは電話を切った。信じているなら私にこんな事をさせるなと突っ込みたかった。でももう引き受けた。引き受けたからには手抜きはしない。
被っていた帽子を深々と被り直した。髪の毛は全て帽子の中、今まで着たことのない服、一見小学生にも見える身長……これは関係ないか。気を取り直して…他に思い当たらない。
これでは誰が見ても泉こなたとは思うまい。と思う……
 
 しばらく待つとつかさがこっちに向かってきたのが見えた。私はさりげなく切符売りの側で立っていた。つかさは私の直ぐ目の前を通過した。しめた、つかさは私に全く
気付いていない。かがみの話だと電車に乗るまでは確認していると言っていた。つかさは切符を買うはずだ。つかさは自販機の前で立ち止まり切符を買った。
つかさがいくらの切符を買ったのか確認した。つかさはそのまま改札口に入っていく、透かさずわたしもつかさと同じ値段の切符を買い、つかさの後を追った。
 
 つかさとやや距離を置いて電車を待つ。切符の値段からすると駅は二つか三つ先と言ったところか。そう遠くではない。つかさをそこから見てみた。
つかさの持っている物は何だろう。お弁当でも入っているみたいだ。お弁当を一緒に誰かと食べるのか。誰だろう、女性なのか男性なのか。私の知っている人なのか。
つかさの表情を見ると電車が来るのが待ち遠しいような感じを受ける。何だろう、彼氏と公園でデートのような……そんな気さえしてきた。
 
 駅を降りるとつかさは辺りを見回している。何だろう、まるで何かを探しているような感じだった。特に電車から出てきている乗客を見ている。そうか、
かがみが後を付いてきていないか確認しているのか。かがみが尾行を諦めた理由が今分かった。つかさにしてはすごい警戒心だな。ますますつかさが何処に行くのか
興味が湧いてきた。
 
改札口を出たつかさはまるで慣れた町のように進み始めた。この町に私の知り合いはいない。つかさに付いて10分位しただろうか、一件の家の前でつかさの足が止まった。
つかさは何の迷いも無くインターホンを押した。遠くで表札が見えない、誰の家だろう。暫くすると玄関のドアが開いた。男性だった。もちろん私は知らない人。
年齢は三十歳くらいだろうか。男性は親しげに話しかけている……そうか、そうだったんだ。つかさは彼氏、恋人……に会いに来たんだ。
つかさと男性は話に夢中、私が直ぐ近くに居るのに気が付かない。つかさは年上が好みだったとは思わなかった。もうこれ以上居ても意味は無い。これから彼氏とお楽しみだろう。
かがみにはつかさに彼氏が出来たと伝えるかな。何かちょっと寂しくなってきた。彼氏が出来たくらいで私に会わなくなるなんて、女の友情ってそんなものなのかな。
私が家を離れようとした時だった。
男性「おーい、かなた、柊さんがきたぞ」
かなた、かなただって、咄嗟に直ぐ近くの電信柱に隠れた。
女の子「わーい、巫女のお姉ちゃん」
ドアからもう一人出てきた。今度は女の子だ。小学校低学年よりも幼く見える。4、5歳くらいかな。女の子は玄関から飛び出すとすぐさまつかさに抱きついた。
つかさ「おはよう、かなちゃん、今日もいっぱい遊ぼうね」
かなた「うん」
なんだ、どうゆう事なんだ。つかさの目的はこの女の子に会うためなのか。女の子はつかさが巫女をしているのを知っているみたい。それに女の子の名前がかなた……なんて。
男性「いつもすまないね」
つかさ「いいえ、それではかなたちゃんを預かりますね」
男性「夕方前までには戻る予定です、一応鍵を預けて置くよ、何かあったら携帯によろしく」
つかさ「はい」
つかさの親戚の家なのかな。それならかがみなら気が付くはず。この家の人とつかさの関係が全く分からない。男性はそのまま家を出て駅の方角に歩いて行った。
つかさは男性から受け取った鍵でドアの鍵を閉めた。
つかさ「それじゃ、公園にいこっか?」
かなた「うん」
二人は手をつないで駅の方向とは反対に歩いていった。他人に鍵を預けるなんて、よほどつかさが信頼されているのが分かる。やっぱりあの男性はつかさの恋人なのだろうか。
もう少し調べる必要があるな。女の子はつかさにすごく懐いているのが分かる。つかさの手を引くようにして歩いていた。
 
 公園に着いた二人、つかさは公園の木陰にシートをひいた。女の子は靴を脱いでシートの上に腰を下ろした。つかさは鞄からピンポン球くらいのボールを取り出した。
右手でそのボールを握り両手を女の子の目の前に出した。女の子は右手を差した。つかさは右手を開く、しかしボールは無かった。つかさは左手を開いた。ボールが左手に
移っていた。女の子は笑いながら拍手をした。これって手品、マジックじゃないか。私が見ても騙されるくらい上手だった。つかさは次々とボールを使ったマジックを
女の子に見せている。いつの間につかさはあんなのを覚えたのか。まさか、つかさが部屋で何かしていたってかがみが言っていたけど、マジックの練習をしていたのか。
ますますつかさが分からなくなった。
つかさはボールをしまうと、靴を脱ぎ女の子前に座った。今度は本を取り出し女の子に読んで聞かせ始めた。ここからじゃ聞き取り難い、一度公園を出てつかさ達に近づいた。
植え込み越しなら気付かれないだろう。つかさは童話を読んでいた。女の子は真剣につかさに耳を傾けていた。お昼はつかさの作ったお弁当で昼食。
まさに至れり尽くせりだった。つかさに女の子が懐くはずだ。
 
お昼を過ぎ、日が西に傾き始めた頃だった。急に女の子の表情が暗くなった。つかさが何度か呼びかけても反応しなくなってしまった。
かなた「ママに会いたい……」
つかさの動きが止まった。つかさは困ったような悲しいような複雑な表情をした。
つかさ「お母さん……ママは遠い所に行ったんだよ」
かなた「おまじないして、ママに会えるおまじない、約束したよ」
雰囲気が一変した。いままであんなに笑顔だった女の子が今にも泣き出しそうになってしまった。あの女の子の言い方と表情、つかさの答えでピンと来た。
女の子のお母さんは亡くなっている。それにしてもおまじないってなんだろう。
つかさ「そうだったね、約束だったね、それじゃね……おまじないしてあげるよ」
かなた「やったー!!」
女の子は立ち上がり飛び跳ねて喜んだ。
つかさ「座って……」
女の子はつかさの言った通りにした。つかさは女の子の頭に手をそっと当てると目を閉じて何ならブツブツと言いはじめた。呪文かなんかだろうか。数分くらい経った。
つかさ「えい!!  終わったよ」
女の子はキョロキョロと周りを見回した。
かなた「ママ……ママは?」
つかさ「そんなに直ぐは来ないよ、準備があるから……明後日、あさってになったらきっと会えるよ」
お母さんに会えるおまじない、あのくらいの歳で死を告げるのは酷なのは理解できるけど良い方法とは思えない。明後日、つかさはどう言い訳をするつもりなのか。
かなた「ありがとう、お姉ちゃん」
満面の笑みでお礼をする女の子。つかさ、今まで凄いと思っていたけど最後の最後で大失態をしたね。無計画なつかさに怒りさえ感じてきた。
男性「おーい」
かなた「パパ」
公園の入り口に男性が立っていた。女の子は走って男性に飛びついた。
かなた「パパ、巫女のお姉ちゃんがおまじないしてくれたよ、ママに会えるよ」
飛び跳ねながら男性の周りをグルグルと廻った。男性は悲しい顔をしてつかさを見た。つかさも悲しい顔で返した。
男性「予定より早く終わってね、娘を引き取りに来たよ……どうだい、夕食でも、こんなお礼しか出来ないが」
つかさ「いいえ、かなちゃんと遊べただけで良いです」
男性「今度はいつ来てくれるのかな」
かなた「あさって、あさってだよね」
つかさ「う、うん、明後日……」
かなた・男性「さようなら」
つかさ「さようなら」
男性は女の子の手を取り公園を出た。女の子は何度も振り返り手を振った。つかさも二人が見えなくなるまで手を振った。そして、二人の姿が見えなくなった。
つかさは暫く立ったまま動かなかった。
 
 つかさはシートをたたみ、片付け始めた。そして一回大きな溜め息をついた。今更後悔しても遅い、自業自得だ。私のミッションもコンプリートした。
このまま帰ってかがみに報告する……なんて出来ない。つかさには責任をとってもらわないと、あの女の子、かなたちゃんを悲しませるわけにはいかない。
つかさは公園の出口に差し掛かった。私も公園の出口に向かった。出口で会ってもつかさは私に気付かない。俯いているだけだった。
私は帽子を取り、髪を元に戻した。
こなた「つかさ」
つかさは二、三歩進んでから立ち止まりゆっくりこっちを向いた。突然飛び上がって驚いた。
つかさ「こ、こ、こなちゃん、何でこんな所に」
こなた「手品、朗読、お弁当……ママに逢えるおまじない……」
つかさ「え、え、こなちゃん、今まで見てたの?」
こなた「聞きたい事があるよ、良いかい?」
私はかがみとの約束を破って自分の姿をつかさに見せた。かがみに言い訳ならいくらでも出来る。でもかなたちゃんの言い訳はもっと難しい。
 
私達は公園に戻りベンチに座った。私はつかさを尾行した理由を話した。
つかさ「お姉ちゃんがこなちゃんに頼んだの?」
こなた「そうだよ、私は秘密を話した、今度はつかさの番だよ、あの女の子とつかさの関係を話して」
つかさは俯き黙ってしまった。今更秘密もないだろう。
こなた「話せないの、無責任なおまじない許さないよ、あの女の子のお母さんは既に亡くなっているんでしょ?」
つかさは両手を握り締めている。今の言葉はそうとう堪えたかもしれない。観念したのか顔を上げて私の目を見て話し始めた。
つかさ「夏休みが始まった日、丁度一ヶ月くらい前かな、巫女の手伝いをしてた、境内の隅で女の子が一人泣いていた、迷子だと思って話しかけた、だけど
    泣いてばかりで何も話してくれなかった、まずは泣き止んでもらおうと思って、おせんべい占いをして見せた、あの時はおせんべいじゃなくてクッキーだったけどね」
こなた「おせんべい占い?」
つかさ「文化祭の時、私がした占いだよ、覚えてないかな、おせんべいを割ってその形から……」
ああ、思い出した。そういえばそんな事していたな。
こなた「みゆきさんに教えてもらったやつかい?」
つかさ「うん、それで女の子の名前を当てちゃった、たまたま偶然に女の子の付けていたリボンに書いてかったからすぐ分かったんだけどね、そしたら急に泣き止んで
    もっとしてって言うから、今度はそろそろお父さんが迎えにくるよって言ったら、おじさんが直ぐにやってきた」
なんとなく分かってきた。巫女服きているつかさが二回も未来を言い当てた。何か不思議な力をもっているように見えたのかもしれない。
つかさ「かなちゃんってすごく人見知りするんだって、私がかなちゃんを笑わせたからおじさん驚いちゃって……それでいろいろおじさんと話しているうちに
    かなたちゃんの遊び相手になってくれって頼まれちゃって、断ろうと思ったけど、かなたってこなちゃんのお母さんの名前、なにか運命みたいなのを感じて
    引き受けた」
なるほど、運命か、あの子の名前がかなたじゃなかったら私もこうしてつかさと話していないかもしれない。
こなた「手品はみゆきさんに教えてもらったね?」
つかさは頷いた。
つかさ「かなたちゃんが魔法をもっと見せてって言うから、手品を練習した」
それだけであんなに上達するものなかな。もっともつかさは料理が上手いから手が器用なのは確かだな。でも、問題はこれからだ。
こなた「それで、魔法がエスカレートしてつかさはとんでもない約束をしたって訳だね、言っておくけど手品やマジックでかなたちゃんのお母さんなんか出せないよ、
    どうするのさ、明後日、あの子になんて言うの、中途半端な希望は後で何倍の悲しみになるよ」
怒った口調に自然になった。そんな私を尻目につかさはポケットから財布を出して一枚の紙を取り出して私に差し出した。
手にとって紙を見た。写真だ。かがみが写っていた。
こなた「いきなりかがみの写真なんか見せてなんのつもりだよ」
写真をつかさに突き返した。
つかさ「それ、お姉ちゃんじゃないよ、よく見て……かなたちゃんのお母さんだよ」
慌てて写真を見直した。長髪を下ろしているけど何度みてもかがみにしか見えない。
つかさ「ね、凄いでしょ、双子の私よりお姉ちゃんに似ている人がいるなんて、この写真を見て思いついたんだよ」
こなた「思い付いたって、何を?」
つかさ「お姉ちゃんにかなたちゃんのお母さんになってもらうの、一日、うんん、一時間でいいの、それでもうこれで逢うのが最後だよって言ってもらう」
なるほど、かがみに内緒にしていたのはこの理由か。だけどつかさは重要な事を忘れている。
こなた「かがみがそんな役を引き受けると思う、妹でしょ、少しは考えようよ」
つかさは怯んだ。
つかさ「お願いすれば、理由を言えばきっと……」
こなた「かがみは嘘を付くのが嫌いだ、それに恥かしがりやで相手が幼い子供だとしても演技なんかできるとは思えない、なぜ約束する前にかがみに聞かなかったの?」
つかさ「まさかこんなに早くかなたちゃんがおまじないを思い出すとは思わなかったから……」
やっぱりつかさはつかさか。もう話にならない
こなた「つかさご自慢、柊家秘伝のおまじないの効果を楽しみにしているよ」
皮肉を言って私は立ち上がり帰ろうとした。
つかさ「待って、こなちゃん、ごめん……ごめんなさい」
こなた「謝るなら私じゃなくてあの子に謝って」
今度は私に助けを求めるつもりなのか、結局つかさは遊び半分だったに違いない。子供心を弄んでいた。可愛そうに、かなたちゃん。
つかさ「この前、こなちゃんに内緒でおじさんに会いに行ったの、こなちゃんがおばさんの死をいつ知ったのかって」
自分で内緒にするって言っていて自分で破っている。何のつもりだろう。私もかがみとの約束を破ったから人の事言えないか。
つかさ「かなちゃんを見て分かっちゃった、私ってよくお母さんの話をするけど、こなちゃんからしてみれば辛い話しだったよね、だから直接聞けなかった、お母さんの死を
教えてあげる時期はいつが良いかなって……こなちゃんが知ったのは五歳くらいだよね、かなちゃん、もうその歳になったから……
教えてあげようと思ったの、なるべく悲しまないように考えて……」
こなた「その考えた結果がおまじないなんて、やっぱりつかさは何も分かってない、お母さんの死を知って悲しまない方法なんかないよ、余計な事しないで放っておけばいい」
あれ、何を言っているんだろう。私は悲しいなんて思った事んて一度もなかったのに。どうしてだろう。
つかさ「そう、そうだよね、私の身内でまだ亡くなった人が居ないから何も知らないかもしれない、でもかなちゃんと遊んでいると笑顔でママ、ママって何度も言ってくるから、
    ……そんなの見ていられないよ」
つかさの目が潤み始めた。両手を握って体を強張らせて震えていた。そんなつかさを見ているとさっきまでの怒りが消えてきた。本気なのか。
少なくとも面白半分でやっていはいない。一ヶ月もあの子と接してきたつかさが出した結論がおまじないか……
やり方は気に入らないけどつかさのあの子を思う気持ちは本物みたい。気が付くともう日は完全に沈んでいた。いつまでもここには居られない。
こなた「明後日だよね、こんな所に居て良いの、かがみを説得しなきゃいけないでしょ、行こうつかさの家に」
つかさ「こなちゃん!!」
笑顔で叫んだ。
こなた「悪いけどおまじないに納得はしていからかがみがかなたちゃんのお母さん役をする説得の手伝いはしないよ、見ているだけ……」
つかさ「それでもいいよ、ありがとう」
 
 公園でつかさとかなたちゃん見ていいた時、ふとゆい姉さんを思い出した。私がかなたちゃんと同じ歳の頃、ゆい姉さんが私の世話をしてくれていた。
細かいところまでは覚えていない。だけど少なくとも手品まではしていない。ゆい姉さんは私の親戚、つかさは親戚でもない赤の他人になぜあそこまで本気になれる。
名前が私のお母さんと同じだから。かなたちゃんのお母さんがかがみと瓜二つだから。つかさは運命って言っていたっけ、運命か……ただの偶然にすぎないのに大げさだ。
 
 柊家の近く着いた頃にはすっかり辺りは暗くなっていた。つかさは家では話し辛いというので神社の入り口にかがみを呼び出した。見ているだけって言ったのにもう
破ってしまった。私もお人よし過ぎるか。
かがみが来ると私とつかさが一緒に居るのを見て驚いた。思わず言い訳を言いそうになった。だけどもう話したくない。後はつかさに任せる。
つかさはあの写真をかがみに渡してから今までの経緯を話し出した。かがみは写真を見ながらつかさの話を聞いていた。話が終わるとかがみはつかさに写真を返した。
かがみ「結論から先に言うわ、つかさの計画に私は賛成しない、かなたって言う子のお母さん役なんか出来ないわ」
即決だった。かがみらしいと言えばそれまでだが、もう少しは悩むと予想していた。つかさの話し方が良くなかったのか。いや、少なくともちゃんと経緯は話していた。
つかさ「どうして……」
早くもつかさは涙目だ。しかしかがみはそんなつかさに同情する素振りを見せない。
かがみ「そんな事をしたらあの子、またお母さんに逢いたいって言うに違いないわ、それにちゃんと死を認識してくれそうにないと思う、つかさが今までしてきた
    手品やおまじないの延長として見るに違いない、あの子にとってつかさは巫女の秘術を使う魔法使いみたいな存在、そんな幻想は後々大きな悲しみしか残さない」
反論の余地はない。ごもっともだ。これはつかさの負けだな。
つかさ「かなちゃんは私の手品を魔法だなんて思っていないよ……サンタクロースだって幻想だよね、でも、嘘だと分かってもお父さんやお母さんに怒ったりしないよね、
    それと同じだよ、お願いお姉ちゃん、何もしなくていいよ、かなちゃんの目の前に立ってくれるだけでいいから」
驚いた、つかさが反論をするなんて、しかもそれなりに説得力があった。サプライズとして割り切るか。その考えならそれも悪くない気がしてきた。
かがみは何も言わなかった。これも珍しい。かがみは直ぐに言い返すのが普通だ。ツッコミかがみはどこに行った。
かがみ「私はそのかなたって子に一度も会っていない、もちろんその母親にだって、どんな性格なのか、癖は、仕草は、声は、いったいどうすればいいのよ、
    容姿が似ているからって成りきれるものじゃない……私はそんな演技力なんかないわ」
かがみの本音ってところか。そうだろうね。写真だけじゃ分からないものがあるのかもしれない。子供は意外と直ぐに見破っちゃう。
つかさ「お姉ちゃんに演技なんて望んでないよ、だから立っているだけで……」
かがみ「私は案山子かよ、それよりこなたはこの件をどう思ってる、さっきから黙って、母親のいないこなたならその子の気持ちは分かるでしょ」
かがみは私の方を向いた。その言葉にはちょっと引っかかるものを感じた。お母さんは居ないけどそんなのは人それぞれだ。かなたちゃんとは違う。
つかさ「お姉ちゃん、そんな言い方は止めて……こなちゃんはお姉ちゃんと同じような意見だった」
かがみ「それなら結論はでたようなもの、諦めなさい、協力できない」
かがみは振り向くとそのまま帰ってしまった。だいたい予想はしていた通りの展開になった。
 
つかさもだいたい予想していたのか、あまり動揺しているように見えなかった。
こなた「つかさもバカだな、私がかがみと同じ意見だなんて言わなければ良いのに」
つかさ「だってこなちゃんはそう思ってたんでしょ、嘘なんかつけないよ」
こなた「でもつかさは嘘をつこうとしている、かなたちゃんにね、矛盾してるよ」
つかさは夜空を見上げた。
つかさ「嘘はね、ついていいのといけないのがあると思ってる、全ての嘘がダメならサンタクロースも七夕も映画も全部無くなっちゃうよ、辛くて悲しい真実より楽しくて愉快な
    嘘の方がいいよね」
これがつかさなのか、高校時代、いや、ほんの一ヶ月前のつかさならこんな事は言わない。それにかがみを注意するなんて。かがみは注意されているのに気付いていない。
でもつかさは私がどんな気持ちか分かってかがみに注意した。
つかさ「それよりこんちゃん、朝から私をずっと見ていたからご飯食べていないでしょ、家で食べていかない?」
確かにかがみから配給されたスポーツドリンク意外は口にしていない。お腹が空いている。
こなた「家に帰ってから食べるよ」
つかさは私の目を見ながら話し始めた。
つかさ「できれば、出来ればでいいんだけど、明後日、あの公園に来て欲しい、お姉ちゃんが来ても来なくても」
かがみが来ても来なくてもあの子には辛くて悲しい真実が待っている。私はそれを直視できる強さなんてない。
こなた「悪いけど行けそうにないや、それにかがみは気が変わる事なんかないと思うよ」
つかさ「……分かった、私、頑張るよ……お姉ちゃんはまだ脈があるよ、だってこなちゃんを怒っていなかったでしょ、きっと心の奥底では行く気になっていると思う」
確かにかがみは怒っていなかった。それはそれで驚きだけどね、かがみが理由を言って断った時はほぼ気が変わる事はない。それは私がかがみと知り合ってから
見つけた法則みたいなもの。ただ単にしたくないって言ったならかがみをその気にさせる方法はいくらでもある。今回ばかりは望み薄しって所だな。あんなに理由を言われたね。
こなた「そうかな、かがみは諦めた方がいい」
つかさ「やるだけやってみるよ、私とお姉ちゃんは家が同じ、会う機会は皆よずっとり多いから、説得してみるね」
こなた「私は何も力になれない、ごめん」
つかさ「うんん、いいよ、私が始めた事だし、私が解決しないとね、いろいろありがとう、あとでポケットの中見てみて」
こなた「それじゃね……」
私達は別れた。
 
 帰宅して自分の部屋で少し考えた。
つかさとかなたちゃんとのやりとりが頭に浮かんでは消えた。かなたちゃんとつかさの出会いはつかさを大きく変えた。何だろう、大人になったって言うのかな。
ついて良い嘘と悪い嘘か。考えさせられる言葉だった。つかさはかなたちゃんの為に嘘をついた。人の為につく嘘は良いってつかさは言いたいのかな。人を楽しくさせる嘘なんか
なかなかつけないよ。幼い子供がつかさを大人にするなんて、それに比べれば私なんてまだまだかもしれない。かがみもそんなつかさの変化に気が付かないなんて不思議だな。
そういえばつかさはポケットの中って言っていたな。自分のポケットの中に手を入れた。何か入っている。掴んで目の前に出してみた。ボールが一個。
つかさが手品で使っていたボールじゃないか。いつの間に入れたんだろう。それよりお腹が空いた。
 
居間に向かうと誰も居なかった。そうだったゆーちゃんは実家に帰った。お父さんは出版社に出かけている。ゆい姉さんは夜勤で来ないか。
抵当に冷蔵庫の材料で料理を作った。
一人で食事をする。今日が初めてではないのに何か寂しく感じる。さっさと食べて後片付けをしてすぐに自分の部屋に戻った。
さて何をするかな。久々にゲームにインするかな。パソコンのスイッチを入れようとした。机の上につかさのボールがある。そういえばここに置いたのだった。
つかさは今頃かがみを説得しいるのかもしれない。いくらつかさでも今度ばかりはかがみを動かせない。明後日つかさはあの子になんて言うのだろう。
ボールを掴みあげた。つかさの手品、どれだけ練習したのか。私のポケットに気付かれずに入れるなんて……やっぱり何もしないなんて出来ない
私は見届けないといけない。お母さんと同じ名前の女の子、同じ結果を見るなら一度、母さんに逢わせてあげたい。それにはかがみの協力が不可欠。
かがみの説得くらいは私にもできる。でも今度ばかりは私にも説得できる自信はない。
しばらく考えた。ただ闇雲に言ってもだめだろう。みゆきさんに相談するか。それしかない。時計を見た。まだみゆきさんは起きている時間だ。携帯電話取り出し電話をかけた。
 
みゆき『もしもし、泉さんですか、こんばんは』
そしておまじないの話をした。
みゆき『そうですか、つかささんはおまじないをしてしまったのですね、おまじないをする時期をいつにするのか悩んでいました、泉さんを参考したかったみたいですね』
みゆきさんはつかさの計画を知っているみたいな言い方だった。
こなた「もしかしておまじないの計画ってみゆきさんが考えたの?」
みゆき『いいえ、手品、おまじないは全てつかささんが考えました、手品の選定と方法は私が用意をしてつかささんに教えました、みるみる上達して私も驚きました』
こなた「教えたって事は、みゆきさんはおまじないに賛成なんだよね」
みゆき『そうですね、基本的には賛成です、しかしそれはかがみさんが参加してくれる条件が必要です』
つかさはみゆきさんに全てを話していたのか。それなら話は早い。
こなた「そのかがみなんだけど、おまじないをした事を散々けなしたあげくに断っちゃった、つかさは何度か試すって言ってたけど……どうしたらいいのか分からない」
みゆき『そうですか、かがみさんは断りましたか……それで泉さんはどうだったのですか?』
こなた「どうって?」
みゆき『質問を変えます、泉さんは反対しなかったのですか?』
こなた「……反対した、もしかしたらかがみよりも反対したかもしれない」
みゆき『実は私も当初は反対したのですよ、しかしつかささんの熱意と信念で変わりました』
こなた「私は……つかさのとかなたちゃんが遊んでいる姿を見たし、その時のつかさのは輝いてた、それにおまじないをした時のかなたちゃんの笑顔が印象的だった……」
みゆき『それをかがみさんに話されてはいかがですか、心境の変化がおきるかもしれません』
こなた「かがみは理由を言った時は梃子でも動かないよ、今までの経験からそうなんだ、かがみを説得するには時間が短すぎるよ」
みゆきさんは黙ってしまった。さすがのみゆきさんも打つ手なしか。
みゆき『理由を言わなかったら泉さんは説得できるのですか?』
こなた「意外と簡単だよ、それじゃ私だけでするよって一回引き離しちゃえばいい、するとかがみは……」
みゆき『それをしてみてはいかがですか』
割り込むように話してきた。
こなた「それが出来れば苦労しないよ」
みゆき『及ばずながら私も手伝わせていただきます、私は早速かがみさんに電話をして泉さんの方法を試してみるつもりです』
みゆきさんにそれができるか心配だ、それでもみゆきさんが直接かがみに言ってくるれるのは効果は高いかもしれない。
こなた「それじゃ私もやってみるかな」
みゆき『その調子です、ですけど間隔をあけた方がいいと思います』
こなた「それじゃ私は明日してみるよ」
 
私はかがみを呼び出した。昨日と同じ神社の前、私が一方的に誘った。だから来るかどうかはわからない。
かがみは私が言った時間通りやってきた。
かがみ「昨日のみゆきに続いて今度はこなたか、あんたは反対していたんじゃないの、それとも別の用でもあるのか」
この調子ではみゆきさんの説得は効果なかったみたい。だけどここに来たのだから全く効果が無かった訳じゃなさそうだ。もう作戦とかそうゆうのは考えない。
こなた「そうだね、私はつかさがおまじないをする所を直接見た、その時は怒りすら覚えたよ」
かがみ「それなら私を呼ぶ必要なんか無いじゃない、つかさの自業自得よ、放っておけばいいわ」
怒鳴っている。かがみも悩んでいるに違いない。
こなた「私もそう思った」
かがみ「だったらなぜ?」
私はポケットからボールを取り出した。そしてかがみに見せた。かがみは首を傾げてそのボールを見た。ボールを右手で握り両手をかがみの前に出した。
こなた「どっちだ?」
かがみは即座に右手を指差した。右手を開けるとボールがあった。
こなた「大当たりだね」
かがみ「なにバカやってるのよ、当たり前じゃない」
こなた「今のつかさならこのボールを左手に移すことができる、知らない間にポケットに入れる事だってできる、もちろん種も仕掛けもあるけどね、必死になって覚えたと思う」
かがみ「あんた何がいいたいの?」
こなた「おせんべい占いから始まったつかさの嘘、嘘が嘘を呼んで最後は死んだ母親まで行き返そうとしている、それでもあの子にとってつかさは魔法をつかう巫女様なんだよ、それなら最後まで巫女様で居させてあげようよ」
かがみ「私が母親の役をしたら、もう終わりよ、全ての嘘がバレるわよ」
こなた「バレるかどうかは分からないよ、その場だけバレなければいいよ、そのうちバレるだろうけどね」
かがみ「そんな中途半端でいいのか、かなたと言う子はつかさを恨むわよ」
こなた「つかさがサンタクロースの話をしたの覚えているかな、子供の頃はあれだけ信じていたのにある日それは嘘だと分かってしまう、でも誰も恨まないむしろ感謝するでしょ」
かがみ「私はサンタクロースかよ」
こなた「そのくらいの気持ちでいてくれた方がいいかもね、何があってもその責任はつかさが負うから安心して」
かがみは一回大きな溜め息を付いた。やれやれって感じだ。
かがみ「こなた、かなたって子の母親は何で亡くなったのか聞いている?」
私は首を横に振った。そういえば何も聞いていなかった。
かがみ「詳しくは教えてくれなかった、去年の台風5号は覚えているわよね」
そういえば全国に大被害を与えた台風だ。私は頷いた。
かがみ「台風の水害で流されたらしいわ、あの子の目の前でね……流された日を思い出してしまうわよ、それでも私にその母親役をさせたいのか、みゆきは何も言えなかったわよ」
みゆきさんの説得が失敗したのはこのせいなのか。つかさもそこまで言わなくていいのに。これもついてはいけない嘘なのか。ある意味つかさはかがみよりも嘘が嫌いなのかも。
こなた「逢いたいと言ったのはかなたちゃん本人だよ、災害の恐怖よりも逢いたい方が強い……」
かがみ「言い切るわね、直接話していないのによく分かるわね」
かがみもしぶとい。もうダメかもしれない。
こなた「かなたちゃんは母親の姿を思い出せる、だけどね、私は写真でしかお母さんを知らないんだ、遊んだことも、話したことも覚えていない、
    かなたちゃんがまだ母親の死を知らないうちに逢わせてあげたい、それがつかさの願い、そして私の希望だよ、もう言うことはないよ、あとはかがみが決めて」
かがみは黙って私を見ていた。演技のつもりで出そうと思った涙だけど自然に出ていた。おかしいな、今になって悲しい感情が湧くなんて。私はボールをかがみに差し出した。
かがみ「これを、私に、なぜ?」
こなた「つかさに返す、渡したら伝えて、私は明日公園に行くって」
かがみ「それなら直接しなさいよ、家はすぐ近くよ、つかさも家にいるわ」
こなた「かがみから渡して欲しい、それで最後につかさに言うといい、母親役はしないってね」
ゆっくりと手を伸ばしてボールを受け取った。つかさに渡すのが嫌そうだった。そうじゃない。つかさに会うと明日の話になるからだ。それが嫌なんだ。
かがみ「ボールは渡すわよ……でも明日は約束出来ない……悪いけどもう少し考えさせて」
変わった、確かに少しだけどかがみの態度が変わった。あとはつかさに懸けるしかない。だからボールをかがみに預けた。少しでもつかさと話す機会を。
今のつかさならきっと……
 

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