ID:bzxCjw150氏:時の悪戯(ページ1)

 ある日の夕方、買い物を終え帰宅中の時だった。大通りの反対側にこなちゃんを見かけた。
つかさ「おーい、こなちゃんー」
何度か呼んだけど気付いてくれない。それならば後ろから近づいておどかしちゃえ。そう思った私は大回りしてこなちゃんの後ろからそっと近づいた。
つかさ「わー!!!」
後ろから大声で叫んだ。こなちゃんはゆっくりと振り返った。驚く様子も無くボーと私の顔を見ている。やっぱり私じゃ誰も驚かないのかな。
こなた「つ、つかさ、つかさじゃないか」
つかさ「へ?」
急に私の両肩を鷲づかみにしてきた。つぎの瞬間こなちゃんの目から涙が出ていた。私は何が何だか分からなかった。
こなた「逢いたかったよー四年ぶりだ」
今度は私を抱いて泣き始めてしまった。
つかさ「四年ぶりって、一昨日会ったばかりだよ」
抱きしめるこなちゃんの力強さ、泣きっぷり、とても演技をしているように見えない。それにこんなこなちゃんを見たのも初めて。
つかさ「く、苦しいよ、一体どうしたの?」
こなちゃんは私の台詞に我にかえったのか抱きついた手を離した。
こなた「ご、ごめん、いきなりで驚いたでしょ、時間が無いから単刀直入に言うよ、本当はみゆきさんの家に行こうとしたんだけど、本人の方がいいよね」
つかさ「本人?……本人って私?」
こなた「良いかな、一回しか言わないよ、〇年〇月〇日、つかさ、つかさは、死んでしまう」
え、何を言ってるんだろう、私が死ぬって。でもその日は。
つかさ「その日って今度の日曜日だよね、皆でコンサートに行く日だよ、そんな未来の日なのに」
こなちゃんは頷いた。
こなた「詳細は話せないけど、私は四年後の世界から来たから分かるんだ、いいかいつかさ、その日はコンサートに行っちゃダメ、一歩も外に出たらダメ
    そうすればつかさは助かる、それが言いたくて」
つかさ「そんな事急に言われても、それにいったいどうして私は死ぬの」
私はこなちゃんをじっと見た。四年後のこなちゃん。分からない。今のこなちゃんと区別が出来ない。本当に未来のこなちゃんなのかな。
こなた「その日、つかさは交通事故に会う……これ以上は言えない、そうだよね、いくらつかさでもこの話は信じ難いよね、
    それじゃ、明日なんだけど、私とかがみがチケットの事で大喧嘩をする、それでかがみはコンサートに行かないって言う筈なんだ。そうしたら信じて」
つかさ「それだと、コンサートにはこなちゃんとゆきちゃんだけで行く事になるけど?」
こなた「かがみは最終的には行くことになるよ……出来ればつかさには生きていて欲しいから……それじゃあね」
こなちゃんは走り去って行った。私は呆然とこなちゃんを見送った。
 
『時の悪戯』
 
次の日、私達は喫茶店でコンサートに行く打ち合わせをしていた。でも……
かがみ「一体どう言うことよ」
重い口調で話し出すお姉ちゃん。
こなた「見ての通りだよ、かがみん」
お姉ちゃんは拳を振り上げてこなちゃんを殴ろうとしたけどヒラリと避けてしまった。
かがみ「こんな時にその呼び名はするな、こっちは本気なんだ、もう一度言ってみろ」
お姉ちゃんの顔が険しくなった。普通ならここまで怒るなんて考えられない。
こなた「だからチケットの枚数間違えて同じ列で予約できなかった」
淡々と話すこなちゃん。
かがみ「チケットは任せろって言ってたわよね、どう責任とるのよ、誰か一人離れて観る事になる」
つかさ「私がその席に行けば……」
かがみ「つかさは黙ってなさい、私は今怒ってるのよ」
私の話なんか聞く状態じゃない。
こなた「あのコンサートは大人気だった、四枚手にできるだけでも凄い事なんだよ、それをそんな風に言われるなんて、かがみなら出来るって?」
こなちゃんの口調も荒々しくなってきた。私はいやな予感がしてきた。
かがみ「出来る、出来ないの問題じゃない、こなたのその態度が気に食わないのよ」
こなた「私は最初からこの態度だよ」
かがみ「そんな態度なら私はコンサートなんか行かない」
もう収拾がつかない。こなちゃんとお姉ちゃんの言い合いの喧嘩が始まってしまった。そしてこなちゃんとお姉ちゃんは席を立つと帰ってしまった。
私とゆきちゃんは喫茶店に取り残されてしまった。
 
みゆき「すみません何も出来ませんでした、あんなに怒っている二人を見たのは初めてです」
私は何も言えなかった。昨日のこなちゃんの言葉を思い出したから。
みゆき「どうしたのですか顔色が悪いですよ、確かに凄い喧嘩でしたけど、きっとあの二人の事ですから仲直りするに違いありません、心配は要りません」
私を励ましてくれている。と言うよりは自分にそう言い聞かせているような感じだった。私の顔色が悪いのはお姉ちゃん達の喧嘩のせいじゃない。
ゆきちゃんになら話しても大丈夫かな。そういえばこなちゃんは最初にゆきちゃんに話すつもりだったって言っていた。
私は思い切ってゆきちゃんに昨日の出来事を話した。
みゆき「つかささんが交通事故死ですか、穏やかではない話ですね」
ゆきちゃんは暫く腕組みをして考えた。
みゆき「つかささん、昨日の泉さんは現代の泉さんだと思いますよ」
つかさ「え、現代のって、さっきまで会っていたこなちゃんって事なの、でも、今日の喧嘩を当てたし、お姉ちゃん、コンサートに行かないって言ったのも当てたよ」
みゆき「これから私が言う推測と昨日の泉さんが四年後から来たと言う話し、どちらが現実的か比べてみて下さい」
ゆきちゃんは暫く間を置いて話し始めた。
みゆき「泉さんはコンサートの予約を失敗してしまいました、当初チケットの予約はかがみさんがする予定でした、あの時の泉さんを見る限りかなりの自信があったと思います、
    しかし失敗してしまいました、引き受けた手前素直に謝れなかった、それでも三枚のチケットは使いたい、そこで泉さんは一人欠席者を作ってしまえば良いと考えた、
    昨日偶然に会ったとつかささんは言いましたが、最初から泉さんはつかささんに会うつもりだったのです、偶然を装いつかささんに会って
    未来から来たと言って事故の話をします、つかささんなら信じてくれるに違いないと、つかささんが欠席すれば三枚のチケットは有効になります、
    先ほどの喧嘩もよく考えてみてください、泉さんがあの態度をすればかがみさんが怒るのは火を見るよりも明らかです、」
つかさ「こなちゃんは失敗を誤魔化すためにワザとお姉ちゃんを怒らせたの?」
みゆき「つかささんに交通事故の話を信じさせるためにです」
つかさ「でもゆきちゃん、でも、本当に昨日のこなちゃんが四年後から来たとしたら……」
ゆきちゃんは目を閉じて、私を見ないようにして話した。
みゆき「現時点でタイムマシーンが作れるような技術はありません、仮にあったとしても国家レベル、軍事レベルの最重要極秘になるでしょう、それがたった四年で一般人の
    泉さんが使える可能性を考えてみて下さい、私はつかささんの話を聞くべきではありませんでした、これほど泉さんに怒りを覚えたのは初めてです」
ゆきちゃんはゆっくり席を立った。このままだとコンサートどころか私達四人が一緒にいられなくなっちゃう。
つかさ「ゆきちゃん待って!!」
ゆきちゃんは立ち止まった。なんて言えば良いんだろう。言葉が見つからない。だけど何か言わないと。
つかさ「ゆきちゃんもコンサート行かないの?」
ああ、なんでこんな事しか言えないの。暫く私を見てゆきちゃんは席に戻って座った。
みゆき「泉さんに対して怒ったとしてもコンサートに行く、行かないは別問題です、私は行きます、つかささん」
つかさ「でも、あんなに怒ってたのに」
私は不思議に思った。
みゆき「泉さんが悪いと言っても全てが嫌いになったわけではありません、それに余りある良い所も沢山あります、それはつかささんも分かっていますよね」
私は頷いた。ゆきちゃんは微笑んだ。
みゆき「きっとかがみさんも同じだと思いますよ、どうですか一緒に帰りませんか、駅までになりますが」
つかさ「ちょっと考え事があるから、先に帰っていいよ」
みゆき「そうですか、御代は私が払っておきますから、お先に……」
ゆきちゃんはオーダー表を取るとレジで会計を済ませて外に出て行った。
 
 ゆきちゃんの言っている事は正しいと思う。どう考えたってこなちゃんが悪い。だけど昨日のこなちゃんの話が私の頭から離れない。自分が死ぬって話だからかもしれない。
ゆきちゃんはこなちゃんが嘘をついた理由まで話していたけど、そうだよね、こなちゃんならそんな嘘もつくかもしれない。だけど昨日のこなちゃんのあの真剣な表情、
私を見た時の涙、抱きついた時の力強さ、あれが演技とは思えない。なんだか頭が混乱してきちゃった。もう帰るかな。
私は喫茶店を出て駅に向かった。もうお姉ちゃんは家に着いた頃かな。帰ったらお姉ちゃんと話してこなちゃんと仲直りさせないとね。
「わー!!」
突然の声に驚いて仰け反った。声のする方を向いた。そこにはニヤニヤと笑っているこなちゃんが立っていた。
こなた「驚いたね、この前のお返しだよ」
まだ心臓がドキドキする。まさかこなちゃん、帰っていなかったなんて。
こなた「何度も声をかけたのに気付いてくれなかったんだもん、みゆきさんと一緒じゃなかったの」
昨日と逆になっちゃった。えっ、さっきなんて言った。『この前の』って言ってた。昨日のこなちゃんは四年後の世界のこなちゃんじゃない。私を騙した。私だってそのくらい分る。
チケットの失敗を誤魔化すために私を騙した。いくら私でも許せない。私はこなちゃんを睨み付けた。こなちゃんは私から一歩引いた。
こなた「やっぱりつかさでも怒るんだ……はぁ」
こなちゃんはその場でうな垂れてしまった。私もゆきちゃんと同じ、こなちゃんの全てを嫌いになったわけじゃない。このまま突き放したってなにもならない。
つかさ「どうして?」
私は一言そう言った。こなちゃんは俯いた顔を私に向けた。
こなた「あのチケット、三枚しか予約できなかった、どうしようもなかった、出来ることは全てやった、だけど……出来なかった」
つかさ「それならちゃんとそう言えば良かったのに、お姉ちゃんだって怒らなかったと思うよ」
こなた「でも、でもね、私から引き受けた予約だった、だから失敗したなんて言えないよ、みんな言い訳になるから」
ゆきちゃんの言っているのと同じだ。さすがゆきちゃん。なんて感心していられない。
つかさ「こらから一緒に家に行ってお姉ちゃんに謝りに行こうよ」
こなた「私もそのつもりだった、だけど一人じゃ行き辛くって、つかさとなら行けそうだよ、喫茶店で一枚別に買ったチケットの席で良いって言ってくれたし」
つかさ「あれはお姉ちゃんがあんなに怒ってるから言っただけ」
こなた「ありがとう、あれが無かったらかがみに謝りに行けなかった」
そう改まって言われると照れちゃうね。とりあえず話はまとまった。早速私達は家に向かった。
 
家の玄関に着いた。私はこなちゃんに玄関の前で待つように言った。
つかさ「ただいま、お姉ちゃん居る?」
暫くすると二階からお姉ちゃんが下りて来た。
つかさ「ちょっと時間いいかな、外で話したい事が……」
かがみ「何よ、言いたい事があるならここでも良いじゃない」
少し怒り気味だった。やっぱり喫茶店の影響がまだ残っている。でもここで挫けちゃだめ。
つかさ「どうしても外で話さないといけないの、お願い」
私は両手を合わせて頼んだ。
かがみ「しょうがないわね」
お姉ちゃんは渋々玄関の扉を開けた。外にはこなちゃんが居る。
こなた「かがみ、さっきはごめんなさい」
お姉ちゃんがこなちゃんを見るなり謝った。お姉ちゃんも何かこなちゃんに言いたかったみたいだった。きっと文句の一つもあったに違いない。
だけど先に謝れたらこれ以上何も言えない。お姉ちゃんは一回ため息をついた。
かがみ「あのコンサート、人気があるのは分ってた、チケットが四枚取れるか私も心配だった、はっきり言うとね、もし私がチケットを予約していたら
    一枚も取れる自信はなかった、それでもこなたは四枚予約をした、どんな形であれそれは認めるわよ」
こなた「かがみ……」
おねえちゃんはこなちゃんが何か言おうとしたけど直ぐに止めた。
かがみ「もういいわ、私も大人気なかった、もうこの話は無しにしましょう、ただ一言言わせて、何故昨日言ってくれなかった、その時言えば違っただろうに」
こなた「タイミングを失っちゃって、本当は昨日言えば良かった」
一件落着。私は胸を撫で下ろした。二人の笑顔を見てそう思った。
つかさ「こなちゃん、せっかくだから夕食食べて行かない?」
かがみ「いいわね、どう、どうせ時間はあるんでしょ」
こなた「どうせは酷いよ~」
私達はこなちゃんを家の中に招いた。お姉ちゃんとこなちゃんは昨日会っていた。もうその時から喧嘩は始まっていたのかもしれない。
あれ。昨日会っていた。お姉ちゃんとこなちゃんは昨日会っていた……
つかさ「お姉ちゃんとこなちゃん、昨日会っていたって言ったよね?」
かがみ「そうよ、こなたの家に行っていた、つかさは買い物だったわね」
それじゃ昨日私に会ったこなちゃんは誰。そうだ。お姉ちゃんと別れてからに違いない。
つかさ「こなちゃんとお姉ちゃんが別れたのは何時?」
こなた「夕食たべてからだから、夕方7時くらいかな」
あり得ない。昨日あの時間にこなちゃんと会うなんてあり得ない。
つかさ「こ、こなちゃん、私が喫茶店から出たとき脅かしたよね、その時『お返し』って言ったけど……」
こなた「え、あれは、どのくらい前かな、2から3週間前だよ、つかさに不意をくらって後ろから驚かされた、そのお返しだよ、さっきからどうしたの」
昨日の話じゃない。もう直接聞くしかない。
つかさ「こなちゃん、昨日、私と会わなかった?」
お姉ちゃんとこなちゃんは顔を見合わせた。
こなた「つかさ大丈夫?」
心配そうに私の顔を覗き込むこなちゃん。
かがみ「私達の為にそこまで親身になってくれるのは有難いけどもういいわよ、仲直りもしたしコンサートも行くわ、安心して」
つかさ「そ、そうだね、食事の準備があるから、こなちゃん少し休んでて」
かがみ「それなら私の部屋で」
お姉ちゃんとこなちゃんはお姉ちゃんの部屋に向かって行った。
 
 昨日のこなちゃんは言った。喧嘩したけど結局お姉ちゃんはコンサートに行くって。今の所その通りになっている。コンサートの当日私は交通事故に遭うのかな。
その日私が一歩も外に出なければ助かるかもしれない。だけどあのコンサート、私だって行きたい。こうやって集まれるのも学生生活最後になるかもしれないし。
私はどうすればいいのかな。ゆきちゃんにはもう相談できない。それにお姉ちゃんやこなちゃんも私の話をまともに聞いてくれそうに無い。
私一人で決めなきゃいけない。コンサートに行くか行かないか。
みき「ほら、つかさ何してるの、おなべが吹き零れるわよ」
慌てて私は火を弱めてお鍋の中をかき回した。焦げなかったみたい。今は料理に集中しよう。
 
こなちゃんは帰った。お姉ちゃんと楽しそうに食事をし、会話も楽しんだみたいだった。だけど私はそんな気分になれなかった。
もう普段なら寝ている時間。でも眠れない。私はいったいどうなるのかな。
突然私の携帯電話が鳴り出した。相手はゆきちゃんだった。こんな遅い時間になんの用事だろう。
この時間ならゆきちゃんも寝ているのに。それに普段ならメールで連絡くるのに。
つかさ「もしもし」
みゆき『夜分申し訳ありません、起こしてしまいましたか?』
つかさ「うんん、眠れなくて起きてた」
みゆき『喫茶店では失礼しました、あの時私は怒りでどうかしていました』
つかさ「気にしてないよ、それよりお姉ちゃんとこなちゃんは仲直りしたから、それにお姉ちゃん、コンサートに行くって」
みゆき『そうでしたか、四年後の泉さんの言った事と同じ展開になっていますね』
その時ゆきちゃんがなんで私に電話してきたのか分った。
つかさ「ゆきちゃん、あの時こなちゃんはお姉ちゃんと一緒にこなちゃんの家にいた、だから、だから」
慌ててその先が言えない。
みゆき『それを聞きたくて電話をしたのです、これは軽率な行動はできませんね』
つかさ「ゆきちゃん、信じてくれる?」
みゆき『信じる、信じないの問題ではありません、実際につかささんが見たと言うならば考えなければなりません、もう時間が遅いですね、明日、時間ありますか?』
つかさ「えっと、明日は自習があるから夕方からなら時間があるよ」
みゆき『そうですか、午後7時、駅前の喫茶店で待ち合わせますか?』
つかさ「うん、ありがとう、お姉ちゃんとこなちゃんにも話す?」
みゆき『お二人はある意味で現実主義者です、常識から大きく外れた問題に対してはおそらく真剣に受け止めないでしょう、話さない方がいいと思います』
家でのお姉ちゃんとこなちゃんのを見て私もそう思った。ここはゆきちゃんの言うとおりにしよう。
つかさ「それじゃ、おやすみ」
みゆき『おやすみなさい』
携帯を切って机に置いた。ゆきちゃん。なんだか急に頼もしく感じた。何か解決策があるのかもしれない。安心したせいなのかな何か急に眠気が。
もう寝よう。明日のことは明日考えよう。
 
次の日、午後7時喫茶店で席を取って待っているとゆきちゃんがやってきた。
みゆき「おまたせしました、待ちましたか?」
つかさ「うんん、ちょっと待っただけ」
ゆきちゃんは席に着くと紅茶を注文した。
みゆき「つかささんが四年後の泉さんに会ったと言う大通りを見てきました、何も変わりはなかったですね」
早速ゆきちゃんは問題を話し始めた。
つかさ「私の妄想か幻覚でも見たのかな、でも、あのこなちゃんはこなちゃんだったし、ちゃんとお話もしたし、こなちゃんの態度が私と何年も会っていなかったみたいだった」
みゆき「私はつかささんを疑ったりはしていません、何か手掛かりを探していただけです、見つかりませんでしたけど……」
つかさ「私、どうすればいいかな?」
ゆきちゃんは暫く私を見ていた。
みゆき「つかささんが今度の日曜日コンサートに行くと交通事故に遭って亡くなってしまわれる、それは何も知らなかったからです、未来から泉さんが来たとしたらその時点で
    私達は未来の情報を手に入れた、もしかしたら交通事故を回避できるかもしれません」
つかさ「え~と、分んない、どうすればいいの」
みゆき「未来の泉さんの言うとおりに日曜日、つかささんは外に出かけなければ助かります」
それって、私にコンサートを欠席してって言っているの。それが出来ればこんなに悩まない。
つかさ「でも、あのチケットこなちゃんが一所懸命にとってくれたチケットだよ、それにあのコンサート、皆楽しみにしてた、ゆきちゃんだってそうじゃないの?」
ゆきちゃんは黙ってしまった。
つかさ「私だって行きたい、交通事故があるなら気をつければきっと避けられるよ」
みゆき「交通事故は自分だけで起こすものではありません、相手がいるのです、私達だけ気をつけても回避できる可能性は五割です、あとの五割は相手次第、危険すぎます」
つかさ「ゆきちゃん、もう私達四人、こうして集まる事が出来なくなるかもしれない、だから、皆が集う時間を大事にしたい」
みゆき「それならば、このコンサートに行くのを中止しましょう、それならば皆同じです、その代わりにお食事でも」
つかさ「そんな私の為にそこまでしなくてもいいよ、それにお姉ちゃん達が承知しないよ」
みゆき「私は只、今度の日曜日をつかささんの命日にしたくない、それだけです、分っていてみすみす見逃す訳にはいかないです、その可能性があるなら私は……」
ゆきちゃんの目から涙が出ている。あの時と同じ。こなちゃんが流した涙と同じ。私のために。
みゆき「ごめんなさい、でも聞いてください、つかささんが亡くなればもっと悲しむ人がいます、ご両親、お姉さん方、特にかがみさんが悲しみは計り知れないかもしれません、
    コンサートは何れ行く機会もあるでしょう、しかし、亡くなってはもう二度とできません」
こんなに私を心配してくれるなんて。
つかさ「未来のこなちゃんの話はしない方がよかったかな、そうすれば何の心配もなくコンサートに行けた、でもゆきちゃんがこれじゃコンサートに行っても楽しくないよね、
    チケットは連番で三枚あるから三人で行ってきて、それが一番いいかも、余ったチケットは別席だけどゆたかちゃんにでも……」
ゆきちゃんは首を横に振った。
みゆき「つかささんの代わりは止めておいた方がいいと思います、小早川さんがつかささんの代わりになってしまうかもしれません、はっ!!!」
ゆきちゃんは何かに気付いたみたいに大きな目で私を見た。
みゆき「私達がコンサートに行く行動自体が交通事故を招くのかもしれません、そうなれば例え三人で行ったとしても交通事故に遭うかもしれません」
やっぱりコンサートに行くのは中止にした方がいいかもしれない。だけどそれをするには大きな難関がある。
つかさ「ゆきちゃんの考えは分ったよ、だけどお姉ちゃんとこなちゃんにどうやってコンサートを諦めてもらうの?」
本当の事を言わないで納得させるなんて出来るかな。私もゆきちゃんも嘘をついてもすぐにバレちゃうし。本当の事を言っても信じてもらえない。
さすがのゆきちゃんも腕を組んで考え込んでしまった。わたしも考えた。ふと浮かんだ。だけどあまりにも当たり前すぎて参考にもならいかも。だけど言わないよりましかな。
つかさ「ねぇ、ゆきちゃん、今の私達って四年後のこなちゃんが来なければこんな話ししていないよね、それは四年後のこなちゃんが現代に来たから
    歴史が変わったって事だよね……」
ゆきちゃんは腕組みを止めて私を見た。なんか呆気に取られている感じだった。ダメもとで続けちゃえ。
つかさ「私思うんだけど、歴史が変わっちゃたら私が交通事故に遭うのも変わっちゃうかもしれないよ、私じゃなくてお姉ちゃんかもしれないし、交通事故が起こらないかもね、
    それならこんな話しても無意味だよ、未来なんて決まってないのと同じ」
みゆき「量子力学の不確定性原理に基づくパラレルワールドの事ですね、その説が当てはまるなら……」
つかさ「え、なにそれ?」
お経のように何を言っているのか分らない。
みゆき「話すと長くなりますので、要はつかささんが言うようにこの世界の未来は決まっていないと言う説です、泉さんが交通事故で亡くなった世界もあれば、生きている
    世界もあると言う事です、もしかしたら私達はその分岐点に居るのかもしれません、もし、世界が一つの未来しかないのなら、私達がどんなに抗っても
    つかささんは交通事故に遭って亡くなってしまいます、でもつかささん、つかささんは言いました、確かに今、こうして話している事実、これは、四年後の泉さんの
    世界では無かった出来事、もう歴史の歯車が変わっています」
これでも充分長い話だよ。話しているうちに笑顔に満ちているゆきちゃん。私の言った事が何かのヒントになったのかな。あの喜び様は何なんだろう。
みゆき「歯車は多いほうがいいはずです、かがみさん、泉さんにもこの話をするのです」
つかさ「昨日は話をしない方が良いって……言ってたよね」
みゆき「私は交通事故を回避する事ばかり考えていました、これから行う事は未来を変える行為なのです」
ゆきちゃんが変わった。確信的な何かを見つけたみたい。私には何がなんだか分からない。ゆきちゃんに従った方がいいのかもしれない。
つかさ「お姉ちゃん達に話すのはいいけど、私、話す自信がないよ、りょうし何とかの話なんか説明できない」
みゆき「量子力学の話はする必要はないですね、コンサート前にもう一度皆で集まって話した方がいいかもしれません、喧嘩で中途半端になってしまっています」
つかさ「そうだね、明後日はどう、お姉ちゃんと私ならこのくらいの時間なら空いてるよ」
みゆき「私も大丈夫です、泉さんには私から伝えておきましょう」
 
私は家に帰ると早速お姉ちゃんに話をした。
かがみ「四年後のこなたがだって?」
私は頷いた。お姉ちゃんに笑われるか相手にされないと思った。お姉ちゃんは笑わなかった。とりあえず話だけは聞いてくれた。ゆきちゃんが相談にのってくれたおかげなのかな。
かがみ「つかさが嘘をつくとは思えないし、つかさもコンサートは楽しみにしていた、つかさが行かないとする理由もない、あとはつかさが幻覚でも見たとしか思えない、
    私はそんな時間を越えた事象が起きるなんて信じない……でも幻覚だったにしろつかさが見たと言うのなら、四年後のこなたの言うようにつかさは行かないのが賢明ね」
お姉ちゃんはあっさり答えを出した。でもそれは私が一番したくない答えだった。
つかさ「でも、お姉ちゃん……」
かがみ「つかさが死ぬなんて冗談じゃない、予定通り行動してその通りになって後悔するより行かない方がいい」
私が言うのを止めるように言った。お姉ちゃんは私がなんて言うのか分っちゃってるのかな。
つかさ「ゆきちゃんは皆コンサートに行くのを中止した方が良いって」
かがみ「未来のこなたはつかさにだけ行くなと言った、そうよね」
私は頷いた。
かがみ「何処で、何時、どんな風に事故に遭うのか言ってない、話さなかったのか、話せなかったのかは知らない、でもあいつだってバカじゃない、つかさだけが行かなければ
    避けられると考えたに違いない、今ここで余計な詮索や行動はかえって危険よ」
意外だった。お姉ちゃんは未来のこなちゃんの言うとおりにしようとしている。
かがみ「私が事故に遭うと言うのならこんな事はしないわよ、どうせ起きっこない、でもね、他人となるとそうはいかない、分かってつかさ、つかさが死ぬところなんて……」
私はもうこれ以上なにも言えなかった。自分が死ねばそれで終わり。だけど生きている人はその後も生きていく。お姉ちゃんのその悲しい顔を見たら分かるよ。
お姉ちゃんが私と同じ立場だったらきっと私はお姉ちゃんを行かせない。
かがみ「さてと、明後日皆で最終決定、こなたの意見も聞いてみたい、まぁ、今のこなたに聞いても何も分からないだろうけどな」
 
 コンサート当日が来た。皆の会合ではお姉ちゃんの強い希望で私だけ家で留守番する事になった。私もそれを承知した。
つかさ「行ってらっしゃい、お姉ちゃん私の分まで楽しんでね」
お姉ちゃんは何も言わず手を上げ微笑んだ。そして玄関を出て行った。
 
 家族の皆も今日はお出かけ、私一人でお留守番。家で一人になるのは何年ぶりだろう。そういえばお姉ちゃんはよく一人でお留守番をしていた。
何だか急に静かになった。うんん。夜じゃないから静かじゃない。外の音が聞こえる。遠くで子供達がはしゃいで遊んでいるのかな。声が聞こえる。
時より大きな車のエンジン音も聞こえる。そういえば風邪をひいて寝た時、こんな音が耳に入ってきてそれを子守唄代わりに眠ったかな。
なんだろう。この感じ。寂しいのにホッとする。やっぱり私も本音はコンサートに行かない方がよかったと思っていたのかな。
そうだよね、もしかしたら今日死んじゃうかもしれない日。未来から来たこなちゃん。あれは本当だったのかな。お姉ちゃんは幻想だって言った。
もしかしたら夢だったのかもしれない。私、夢と現実も区別できなくなったのかな。もういいや。こんな事考えていたら気が滅入っちゃうね。テレビでも見よう。
居間に移動したときだった。机の上に封筒が置いてあった。見覚えのある封筒だった。封筒を取り中身を見てみた。コンサートのチケットが三枚……。
間違えない今日行くはずだったコンサートのチケットだ。どうしてこんな所に。こなちゃんが予約したんじゃなかったの。まさか、こなちゃんは忘れ物が多いから
お姉ちゃんが預かったのか。時計を見た。まだ電車に乗っていないかもしれない。携帯電話を手に取りお姉ちゃんに電話した。出ない。きっともう電車に乗ってしまった。
どうしよう。そうだ、こなちゃんに電話してみよう。
こなた『もしもし……つかさ、何か用?』
つかさ「こなちゃん、お姉ちゃんがね、チケット持って行くのを忘れちゃった、お姉ちゃんもう電車に乗っちゃったみだいで連絡とれないの」
こなた『えー、それを心配して預けたのに、かがみが自らそれじゃダメだよね』
嘆くような声だった。暫く沈黙が続いた。
こなた『分かった、私はこれから家を出る所だからそっちに寄ってから行くよ、まったくかがみは……』
つかさ「ごめんね、お姉ちゃんにはメールしておくよ」
こなた『つかさが謝る必要はないよ、まったくかがみは肝心な時にこれだからね~』
冗談っぽく笑い声も混じっていた。
つかさ「それじゃ待ってるよ」
携帯を切った。忘れ物をしたお姉ちゃんは久しぶりだった。高校時代では三年間を通じて数える程も忘れ物なんかしたこと無いのに。特に自ら進んで預かったのに
忘れるなんてお姉ちゃんらしくない。そのまま携帯でメールを打ってお姉ちゃんに送った。数分もしないうちに返信が来た。やっぱり電車に乗っていた。
『まったくの不覚だった、こなたには感謝のしようがない、知らせてありがとう』
こんな内容だった。私が忘れ物をした時でも一度も怒らなかった。だけど自分には厳しい。と思っているとダイエット中なのにお菓子を食べたりする。そんなお姉ちゃんが好き。
私のコンサート行きを最後まで反対していた。結局それに皆が折れたみたいなもの。私を大事に思ってくれるのはいいけど、もう私もそんな甘えが許される歳ではなくなっている。
これが最後の甘えになるかもしれない。うんん、最後にしなきゃいけない。こなちゃんやゆきちゃんも。いつも私は皆に迷惑かけちゃっている。起きるかもしれない交通事故も
私の不注意が原因なのかもしれない。しっかりしないとダメなんだ。
ふと時計を見た。そろそろこなちゃんか来る時間。
『キー、ガシャン!!!』
外から大きな音が聞こえた。車が急ブレーキをした音。何処かにぶつかった。しかも家から近い。妙な胸騒ぎがした。玄関を出て音のする方に向かった。
近所の人達もこの音で皆出てきている。その中の一人は携帯電話で話している。きっと救急車か警察に電話をしているに違いない。信号の無い交差点。一台の乗用車が電信柱に
激突していた車の軌跡を追った。その先に人が倒れていた。長髪の青い髪の毛、小柄な体格、すぐに分かった。
つかさ「こなちゃん!!」
叫んだ。そして駆け寄った。一見なんの外傷は見られなかった。だけどぐったりしていて動かない。私はこなちゃんの名前を何度も呼んだ。何の反応もない。
どうして、どうして、交通事故に遭うのは私じゃなかったの。なんでこなちゃんが。これじゃ私とこなちゃんが入れ替わっただけじゃないの。そんなのないよ
つかさ「こなちゃん、起きて」
優しく言葉をかけた。動かない。閉じた目はまるで寝ているみたい。どうして。私はしゃがみ込んでこなちゃんを触ろうとしたけどできない。こんなのは認めない。
こなちゃんはこれを望んでいたの。横たわるこなちゃん。私は何度も声をかけた。周りの音がどんどん小さく聞こえてくる。
目の前が急に暗くなった。遠くから救急車のサイレンが聞こえてきた。
 
 私は布団の中に居た。辺りを見回すと自分の部屋にいる。そしてパジャマを着ていた。夢。あれは夢だった。まだ心臓の鼓動がドキドキしていた。よかった夢で。
起き上がると枕が濡れていた。机の置き鏡を見ると顔に涙の跡があった。夢で泣いていたなんて、こんなの初めて。それにしてもリアルな夢だった。
あれが正夢だったら、私の代わりにこなちゃんが交通事故に遭う。未来のこなちゃんは事故の話は話せないって言っていた。
もし、未来のこなちゃんと会わなかったら、お姉ちゃんがチケットを忘れた時家にチケットを取りに行くのは私かお姉ちゃん。まさか、こなちゃんは最初から自分が犠牲に
なるつもりだった。だから事故の話はしなかった。そんな。私はこなちゃんが命を懸けてまで助けてもらうような事していないよ。でも夢は夢。逆夢になる事も。
とりあえず顔を洗いに行こう。置時計を見た。まだ午前七時。休日ならまだ熟睡している。
 
 
 
ツールボックス

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