ID:F7ebqHGf0氏:遺書(ページ1)

 

七月六日、
かがみは引き出しから紙と筆記用具を取り出した。
かがみは自分の部屋で遺書を書こうとしていた。二十歳の誕生日前日になんて自殺でもするのだろうか。それは違う。
かがみは死ぬ為でも死期が近いわけでもない。なぜかがみは遺書を書くことになったのか。
それは一年以上遡らなければならない。
 
 
『遺書』
 
 
かがみはつかさの部屋に入ろうとしていた。
かがみ「つかさ」
しかし返事はなかった。
かがみ「入るわよ」
かがみはつかさが出かけているのをかがみは知らない。かがみは貸した本を返しにもらう為につかさの部屋に入った。
(おかしいわね、今日は出かけるって言ってなかったのに)
かがみが部屋を出ようとした時だった。ふとつかさの机の上を見た。手紙が置いてある。何気なく手紙を手にとって見た。つかさの字で書いてあった。
 
 
『お父さん、お母さん、いままで育ててくれてありがとう。先立つ親不孝を許してください』
手紙はこんな件で始まっていた。
 
(うそ、これって遺書じゃない、なぜつかさが遺書なんか)
かがみは手紙を読み続けた。両親への感謝の言葉が綴られている。いのり、まつりにも同じように書いてあった。こなたやみゆきをはじめとする親友にも
お別れの挨拶があった。
しかし手紙の中にかがみの名前は一回も載っていなかった。
かがみは動揺した。それはつかさが遺書を書いていた事ではない、かがみに対する言葉が全くなかった事に動揺したのだ。
つかさが遺書を書いた原因が自分なのかもしれないと思った。かがみは過去を振り返り思い当たる節を考えた。
子供の頃からずっと一緒にいた双子の妹。高校まで一緒の学校。他の兄弟姉妹と比べても仲の良さは誇れると言って良いと自負をしている。
最近になっても態度を変えた覚えはない。つかさもかがみに対して何か変わった行動もしていない。まったく身に覚えがない。
つかさ「ただいま」
玄関の方からつかさの声が聞こえた。かがみは慌てて手紙をつかさの机の上に戻し、素早くつかさの部屋から出て自分の部屋に入った。
慌てて戻る必要なんかなかった。普段なら部屋にかがみが居てもおそらくつかさは不振とは思わないだろう。でも今回は様子が違う。
かがみは自分の部屋でつかさの様子を見守った。
つかさはそのまま自分の部屋に入った。しかし一分もしない内につかさは部屋を出た。そして鏡の部屋をノックした。かがみは遺書を読んだのが分かってしまったのかと思った。
かがみ「居るわよ」
つかさは扉を開けた。
かがみ「おかえり、今日は何処に行ってたのよ、何も聞いてなかった」
つかさ「今日はこなちゃんとお買い物、って言ってなかったっけ?」
そういえばそんな事をいっていたような気がした。
かがみ「そうだったわね、忘れてたわ」
つかさ「そうだ、お姉ちゃんに返さなきゃいけないのが在ったんだったよね」
つかさは本をかがみに渡した。その本は返して欲しかった本だった。
かがみ「返すって、もう読んだの?」
つかさ「うんん、私にはちょっと難しいから」
つかさはそのまま部屋を出ようとした。
かがみ「ちょっと待って」
つかさ「?」
つかさは無言で立ち止まりかがみの顔を見た。
かがみ「いや、何でもない」
つかさは不思議そうに首を傾げてそのまま部屋を出て行った。
聞けなかった。遺書を何故書いたのか。そしてその文の中にかがみの名前が出ていないのか。答えを聞くのが怖かった。
何故黙って勝手に人の手紙を読んだのかと怒るに違いない。なにより『お姉ちゃんに別れの言葉なんかないよ』と言われるのが何より辛い。
 
 家族での夕食。食後の会話。普段どおりのつかさだった。かがみを避けるそぶりを見せない。演技なのだろうか。かがみの知っているつかさならそんな演技なんかできない。
つかさの遺書が頭から離れない。遺書を読まなければつかさは今までどおりのつかさと変わりはない。かがみはただ困惑をするだけだった。
 
次の日の朝、かがみはいつもの時間に起きて洗面所に向かった。しかし珍しくその日はつかさが先に洗面所に居た。かがみは朝の挨拶をしようとした。しかしつかさの様子がおかしい。
つかさ「う、うえー」
気分が悪いのか戻しているようだった。かがみはつかさの背中をさすってあげた。
その時、かがみは何かピンと来るものを感じた。まさか。しかしこれが本当だったら大変な事態だ。
かがみ「つかさ、あんた最後に生理があったのはいつよ」
朝から聞くような話ではない。でもあえて聞いた。つかさはしばらく何も言わなかった。
つかさ「最近、ないかな」
かがみ「ちょ、つかさ、その意味分かってるんでしょうね」
かがみはつかさの肩を両手で掴んで問い質した。
つかさ「分かるって何が?」
キョトンとしているつかさを見てかがみは言わざるを得なかった。
かがみ「つかさの意思でそうなったのなら私は何も言わないわ、でもね、無理やり犯されたのなら病院に行かないと、性病も心配だわ」
真剣な眼で言うかがみにつかさもその意味が分かったようだった。
つかさ「お姉ちゃんには関係ない事だよ」
一言だった。そう言ってつかさはかがみの両手を跳ね除けると洗面器で口を洗い始めた。
かがみ「関係ないって、私は家族じゃない、姉妹じゃないの、そんな大事な事黙っているなんて、私じゃ相談相手にならないって言うの?」
つかさは黙ったまま口をタオルで拭った。
つかさ「学校に行かないと、それから今日は用事があって遅くなるからこなちゃんと会えないって言っておいて」
つかさは洗面所を出て行ってしまった。
かがみ「ちょっと待ちなさい」
つかさは身支度をしてそのまま家を出てしまった。話が唐突すぎたか。それにしてもあんな態度をとるつかさは初めてだった。
高校を卒業してからめっきりと一緒に出歩く機会がなくなった。それは確かだ。しかし環境が変わったとはいえこなたやみゆきと
毎週のように会っている。後輩のひよりやみなみ達ともそうだ。最近に至ってはみさおやあやのとも会っているようだ。そういう意味ではつかさは高校時代よりも社交的になった。
これもあの遺書と関係しているのだろうか。それに昨日の遺書を知らなければ戻しただけで妊娠したなんて思わなかっただろう。うだうだ考えてもしょうがない。
かがみも身支度をして大学に向かった。
 
夕方。かがみはいつもの喫茶店でこなたを待っていた。
「こちらです」
こなた「やふー、かがみ」
ウエイトレスに案内されてこなたがやってきた。
みゆき「こんにちは」
かがみ「みゆきじゃない、今日は会う約束はしてなかったのにどうしたのよ」
こなた「駅でバッタリ遇っちゃってね」
みゆき「せっかくなのでご一緒させてもらいました」
こなたは店の周りをきょろきょろと見回した。
こなた「あれ、つかさはどうしたの、トイレ?」
かがみの脳裏に今朝の出来事が思い出された。この場はつかさの言うように伝えるしかないだろう
かがみ「今日は急用で来れないってさ」
こなた「へぇー、珍しいね、私達以外に誰か会う人でもいるのかな」
かがみ「さあね、それより早く座って」
こなた「って、かがみもうケーキなんか頼んじゃって、少なくとも私が来るまで待ってもらいたかったよ」
かがみ「どっちにしても遅刻よ、みゆきが来るならメール入れてくれれば待ってあげたわよ」
こなたとみゆきが席に着いた。二人はスィーツとコーヒーを頼んだ。こなたがいつのものように話を引っ張っていく。
これにつかさが加われば久しぶりに四人揃うはずだった。楽しい会話が弾んだがつかさが気になって会話に集中できない。
みゆき「かがみさん、先ほどからどうしたのですか、気分でも悪いのでしょうか?」
みゆきがかがみの異変に気づいた。
こなた「そうだよ、さっきから突っ込みが弱いよ、いつものかがみらしくない、気分が悪いなら早めに切り上げようか」
かがみ「ちがう、別に気分が悪いわけじゃない」
二人の目線がかがみに集中した。かがみは悩んだ。打ち明けるべきなのだろうか。
かがみ「こなた、みゆき、遺書なんて書いたことある?」
こなた・みゆき「遺書?」
こなたとみゆきは顔を見合わせて首を傾げた。
みゆき「遺書ですか、いきなり過ぎて話が見えませんが」
かがみは思い切って今までの事を話した。
 
こなた「ふふ、はは、わはははははー」
みゆき「ふふふ……」
二人は同時に笑い出した。
かがみ「二人とも笑うなんて、こっちはこれでも真剣なんだぞ」
こなた「はは、だってかがみ、朝っぱらからそんな話したらつかさじゃなくても同じ態度を取ると思うよ、早とちりだな~」
笑いながら話すこなた。言われたとおりだ。確かにそうだったかもしれない。
かがみ「でも、遺書はどうなのよ、あれはどう説明すればいいのよ」
みゆき「遺書は私たちも書いていますよ」
かがみ「書いているって、こなたも書いたのか、どうして、書く理由が分からん」
驚き眼で二人を見るかがみ。みゆきはコーヒーを一口飲むとゆっくりと話し始めた。
みゆき「高校三年の時、私達のクラスでホームルームの時間を使って書きました、黒井先生の提案でしたね」
笑っていたこなたは笑いを止めた。
こなた「そうそう、卒業間近だったね、黒井先生が『自分が亡くなった時、大事な人に一言のこすもの』ってね、二十歳になる前に家族くらいには一言くらい残せって」
みゆき「そんな事をしたのはおそらく私達のクラスだけでしょう、今思えば大切な事だったのかもしれません」
かがみ「それじゃ、つかさの遺書も?」
こなた「その時書いたものだよ、つかさはいろいろ書きすぎるから肝心なかがみに一言書くのを忘れたんだよ」
かがみ「ふふ、ははは、そんな事だったの、はははは、なにマジになってたんだろ、私、はははは」
かがみは笑った。すっかりこれで謎が解けた。やっぱりつかさはつかさだった。帰ったら今朝のした事を謝れば良い。肩の荷が下りた気分だった。
 
すっかり話し込んで遅くなってしまった。喫茶店を出るとかがみ達は駅で別れた。
みゆき「待ってください」
別れたはずのみゆきがかがみを呼び止めた。こなたはもう電車に乗ってしまったようだ。かがみは振り向いた。
みゆき「さきほどは笑ってしまってすみませんでした」
かがみ「別に気にしなくていいわよ、それより黒井先生も粋なことをするわね」
みゆきの顔が曇った。かがみもすぐにそれに気づいた。
みゆき「実は、つかささんの事でお話が、気になる点がありまして」
かがみ「どうしたのよ」
みゆき「かがみさんのお話ですと今朝のつかささんはかがみさんの話を否定しませんでしたね、つかささんが妊娠していないにしても何かを隠していると思うのですが考えすぎでしょうか」
かがみ「考えすぎよ、つかさは隠し事が苦手、それは私が一番知っている、きっと私の言い方が悪かったから怒っただけ、それは私も認識しているから大丈夫よ、ちゃんと謝るわ」
そんなかがみの言葉にみゆきはかがみに微笑みかけた。
みゆき「やはり考え過ぎのようでした、私はかがみさん、つかささんが羨ましい、お互いに姉妹であり親友でもある、そんな関係を生まれた時から……」
かがみ「そんな大げさなもんじゃないわ、普通の姉妹よ、あっ!電車が着たみたい、またね」
手を上げて去ろうとするかがみ。
みゆき「その普通が一番ですね、また会いましょう」
みゆきも手を上げた。
 
 帰り道、かがみは考えていた。つかさの書いた遺書。読んだだけであれだけ動揺してしまうなんて。洗面所で戻していただけで妊娠を疑ってしまった。確かにこなたの言うように
早とちりだ。遺書なんて死期を予感した時に書くものとばかり思っていた。それがかがみをここまで動揺させたのだった。
自分が死ぬ時、大切な人に一言。大切な人。家族、親友、恋人。いったいどんな言葉をかけるのか。死に際に誰かに何かを言うような気力が残っているとは限らない。
だからこそ今のうちに遺書を書いておく。
(さすが一番の優等生みゆきと一番の劣等生こなたの担任だけのことはあるわね)
心の中でそう呟いた。そして改めてつかさと同じクラスになりたかった感情が今頃になって激しく湧いてきてしまった。もう過ぎてしまった事なのに。
 
かがみ「ただいま」
家に帰るとみきが玄関まで来ていた。
みき「おかえり、遅かったわね、遅くなるときはメールしなさいって言ってるでしょ」
かがみ「あ、すっかり忘れてた」
みき「まったく、その様子だと夕食も要らないみたいね」
すこし怒り気味だった。しかし無事に帰ってきた安堵感が取って伺える。
かがみ「つかさは?」
みき「部屋に居るわよ」
かがみはつかさの部屋に向かった。そしてノックをする。
かがみ「入るわよ」
つかさはベッドを背もたれにして座っていた。
つかさ「入って良いって言ってないよ」
かがみを見るなりいきなりだった。思った通り怒っていた。かがみはつかさを刺激しないように話しかけた。
かがみ「今朝の発言は私の間違いだった、それを言いに来たのよ、ごめんなさい」
つかさ「お姉ちゃんって私を淫らな女って思ってたんだね」
つかさは透かさず言い返した。かがみは驚いた。しかもこんな皮肉を言われるとは思わなかった。
かがみ「そんなのは思っていないわ、ちょっと動揺しちゃって、本当よ」
つかさはかがみを睨み付けた。
つかさ「うそ」
かがみ「嘘じゃない、昨日、つかさの遺書をみてしまったから……はっ!!」
言うつもりは無かった。嘘と言われて弁解するつもりが思わず言ってしまった。つかさは立ち上がり机の引き出しから手紙を取り出した。
つかさ「見ちゃったんだ……」
かがみ「いや、その……」
言い訳が余計にかがみを苦しめる結果となった。
つかさ「泥棒みたいに黙って人の部屋に入って、勝手に読むなんて最低だよ」
かがみ「それは本を返してもらいたかったら入っただけよ、それに遺書も高校時代に黒井先生の提案で書いたものでしょ、隠す必要ないじゃない、こなたやみゆきは読んだんでしょ?」
つかさ「どうしてそれを」
かがみ「今日、こなたとみゆきから聞いたのよ、こなたとみゆきもつかさが来なくてがっかりしてたわよ」
つかさの顔が一瞬悲しい顔になったがすぐに怒った顔に戻った。
つかさ「そんなので誤魔化されないよ、お姉ちゃんのバカ!!」
(いいかげんにしろ!!)
つかさに向かって怒鳴ろうとした時だった。みゆきの言葉を思い出した。そう。何かおかしい。確かに目は本気になって怒っている。しかしつかさの言葉に感情が入っていない。
演技をしているようにも見える。わざとかがみを怒らせている感じがした。みゆきの言うように何かを隠しているのかもしれない。ここで問い質してもおそらく話さないだろう。
それならこの場は、つかさの挑発に乗っているように演技して様子を見るしかない。
かがみ「そんなに読まれたくなかったのか、そうだよね、私の事なんて何にも書いていない、つかさだって私をその程度にしか思ってないようね」
つかさの目が急に潤み始めた。つかさもその次に何かを言うつもりだったのか口がパクパクと動いているが言葉になっていない。そのうちにつかさの目からポロポロと涙が出てきた。
つかさ「……で…出て行って」
かがみ「なによ、つかさから言ってきたのよ」
つかさ「いいから、出てって言ってるでしょ!!」
両手を握り拳にして力いっぱいに怒鳴った。これは本気だ。かがみはつかさを本気に怒らせてしまったようだ。さすがこれ以上部屋にいるのはまずい。かがみは部屋を出た。
しかし危なかった。みゆきの助言がなければかがみは感情を露にしてつかさと喧嘩をしていたに違いない。いや、つかさはそれを望んでいたのかもしれない。
自分の部屋に戻ったかがみは考えた。つかさは何を隠しているのか。しかしいくら考えても答えは出なかった。
 
一夜明けた。
顔を洗いに洗面所に向かおうと部屋の扉を開けるとちょうどつかさも部屋から出てきた。
かがみ「おはようつかさ」
つかさは何事も無かったように通り過ぎようとした。
かがみ「おはよう、つかさ」
もう一度かがみは挨拶をした。つかさは立ち止まった。しかし何の返事もしない。
かがみ「昨日は悪かったわね、一昨日の件も合わせて謝るわ、それでも私を許さない?」
つかさはただ立っているだけだった。
かがみ「つかさを妊娠したと間違えたのが悪かったのか、黙って遺書を読んだのが悪かったのか、その遺書を貶したのが悪かったのか、その全てが許せないのか、
    それとも私を嫌いになったのか、私には分からない、せめて理由を聞かせて、私が嫌いになったと言うなら家を出てもいいと思ってる、丁度一人暮らしもいいと思っていた」
つかさはそのまま階段を下りようとした。かがみは煮え切らないつかさの態度に痺れを切らせた。
かがみ「つかさ、あんた私に何を隠そうとしているの」
つかさの体が大きくビクついた。そして振り向いてかがみを見た。
かがみ「やっぱり、隠している物が私にとって都合の悪いものでないのを祈るばかりね」
かがみはそのまま階段を下りた。つかさは下りて来ない。そこにいのりが居間から出てきた。
かがみ「おはよういのり姉さん」
いのり「おはよう、今日は遅いね、間に合うの?」
かがみ「今日の講義じゃ午後から」
いのり「それなら問題ないね、つかさは?」
つかさが階段を下りてきた。つかさはもう出かける準備ができている。無言のまま家を出てしまった。かがみはため息をついた。
いのり「つかさ……」
かがみ「いのり姉さん、つかさを見ていたけど」
いのりはつかさを何時になく見つめているように見えた。
いのり「いやね、昨日、かがみがつかさの部屋で何か言い合っていたけど喧嘩でもした?」
かがみ「喧嘩の方がまだましだわ、つかさが何を考えているのか分からん」
いのり「そう……」
 
一週間が過ぎた。
かがみ「つかさから誕生日プレゼントだって?」
こなた「かがみー、まさか昨日が私の誕生日だって忘れたの?」
かがみ「いや、忘れていたわけじゃない、だけど高校を卒業したら止めようって皆で約束したじゃない」
日曜日の午後、かがみはこなたと会っていた。久々にこなたの家を訪れていた。
こなた「そうだよね、私はもう十九歳、二ヶ月後にはかがみとつかさだって十九歳だよ、昨日つかさが突然私の家に来てさ、プレゼントだって置いていったんだよ」
かがみ「つかさに何か変わった所とかなかった?」
この一週間つかさはかがみを無視し続けていた。こなたを訪れたのはつかさについて聞くためだった。
こなた「変わったって、別に、つかさはつかさだよ、一時間くらい家でお話して帰ったよ」
かがみ「そう……」
こなたなら何か知っていそうな気がしたが期待はずれだった。土曜日はみゆきと会ったが結果は同じだった。
こなた「つかさは約束を二十歳だと勘違いしてたんじゃないの、なんでもこれが最後のプレゼントなんて言ってたし」
かがみ「つかさならあり得るわね」
こなた「あっ、ごめん、ちょっと待って」
こなたは慌てて居間を出て行った。数分すると戻ってきた。
こなた「ごめん、ごめん話の続きしようか」
かがみ「何か急ぎの用事でもあったのか?」
こなた「いや、ゆーちゃんが熱をだしちゃってね、様子を見に……」
かがみ「バカ!そう言うのは早く言いなさいよ、ごめん邪魔したわね、また今度にしましょ」
かがみは帰る準備をした。
こなた「悪いね、つかさにありがとうって言って、約束はしたけど、やっぱりプレゼントは貰うと嬉しいものだよね」
かがみ「そんな事言っても私はしないわよ」
こなた「ケチ!」
 
お昼を少し過ぎた時間、予定よりだいぶ早い帰宅になった。かがみが家に着くと話し声が聞こえた。庭の方角からだ。かがみは裏庭の方に向かった。
つかさといのりが庭で何かを話している。かがみは気づかれないように近づいた。
いのり「いつまで黙っているつもりなの、もう知らないのはかがみだけ、つかさが自分で話すって言うから今まで黙っていたけど、あれじゃ話す状態じゃない
    あのままだとかがみは本当に家をでてしまう」
かがみだけが知らない。どう言う事なのだろうか、かがみはつかさを見た。俯いて悲しい顔をしている。
いのり「かがみが帰ってきたら私から話す、これでいいよね」
つかさ「ダメ、言っちゃダメ、絶対に、言ったら一生いのりお姉ちゃんを恨むよ」
必死にいのりを止めている。つかさが隠している事実がこれで分かるかもしれない。かがみは建物の陰に隠れて更に近づいた。
いのり「黙ってても何れ分かってしまうよ、この前だって薬の副作用苦しそうだったじゃない」
つかさ「そうだね、それでお姉ちゃん、私が悪阻だと思ったんだね」
いのり「その薬が効かなかったら、もう……骨髄移植しか助かる道はない、そうなったらかがみしか頼れない、それなのに何故、自分からかがみに嫌われるような真似なんか」
つかさは薬を飲んでいる。そして骨髄移植。かがみはこれを必要とする病気を知っている。つかさは白血病だ。
つかさ「私は、お姉ちゃんに助けてもらう資格なんかないから」
いのり「また同じ事言って、資格って何?」
つかさは黙ってしまった。
いのり「私がかがみだったらどんな理由があってもつかさを助ける、かがみだって同じだよ」
その通りだ。かがみはいのりに思わず相槌をした。
つかさ「うんん、お姉ちゃんの気持ちは関係ないの、このまま私を嫌いになってくれた方がいいよ」
いのり「なぜ」
つかさ「私が死んでも悲しまなくてすむから」
かがみの目が潤んだ。この場に居られないくらいだった。あの程度でかがみがつかさを嫌いになるはずもない。それどころか余計につかさを亡くしたくない。死なせたくない。
いのり「ばか!!つかさは私の、いや、お父さん、お母さん、まつりの気持ちはどうでも良いって言うの、私たちはもう知ってしまった、もう忘れることすらできない」
いのりの目にも涙が溜まっている。つかさがそれに気づいた。
つかさ「ごめんなさい、ほんとうは皆もお姉ちゃんと同じようにするはずだったけど無理だった」
いのり「友達には話したの、よく遊びに来た子がいるでしょ」
つかさ「話してない、でも、遺書も書いたし、それに私の病気は不治の病じゃないんでしょ、だから、話さない」
いのりは何も話さず黙ってしまった。
つかさ「話が終わりなら夕食の買い物行って来るよ」
いのり「部屋で休んでなさない、私が行く」
つかさ「大丈夫だよ、今日はとっても調子がいいの」
つかさは家の中に入っていった。いのりもかがみもその場に立ったまま動かなかった。
 
表の玄関の扉が閉まる音が聞こえた。つかさが出かけたのが分かった。かがみは我に返り涙を拭った。そして表に回った。
かがみ「ただいま」
少し時間が経ってからいのりがやってきた。
いのり「おかえり、かがみ早いね、帰りは夜になるんじゃなかったの」
つかさは家にいない。聞くなら今しかないだろう。
かがみ「そう、そのはずだった、そのおかげかしら、裏庭でつかさといのり姉さんの会話を聞くことができた」
いのりは驚き一歩後退した。
いのり「ま、まさか、さっきの会話聞いてしまった?」
かがみ「聞いたわよ、それでもまだ解せない事がある、話して」
いのり「い、いや、それは……」
いのりは動揺を隠せなかった。
かがみ「安心して、つかさには私はまだ何も知らないように振舞うから、いのり姉さんだってつかさに一生恨まれたくないでしょ」
いのり「つかさが病気なんて夢であって欲しい……こんな事って、かがみ……ううぅ、かがみ」
いのりはまた泣き始めてしまった。かがみも泣きたかったがぐっと堪えた。
かがみ「早くしないとつかさが帰ってくるじゃない」
いのり「そうね」
 
 いのりは当時を思い出しながら話した。
いのり「発病したのは三ヶ月前、その日かがみは大学の行事で留守だった、食事中にいきなり倒れちゃってね、救急車で病院に搬送、その場で緊急入院のはずだった」
かがみ「はずだった?」
いのり「つかさの希望で自宅療養になった、なんでも皆と一緒に居たいって、薬で今の所落ち着いているけど悪化したら入院して骨髄移植を受けないと助からない」
かがみ「骨髄移植って血液型が合わないとできないんじゃ?」
いのり「そう、殆ど一致しないとできない、家族でも出来ない場合があるみたいね、柊家は調べたけど私を含めて全滅ね」
かがみ「……私、私が居るわ、双子なら問題ない、そうでしょ」
いのり「一卵性の双子ならね、あんたたちは二卵性、一緒に生まれただけで普通の姉妹と同じ、調べてみないと分からない」
かがみとつかさ、一緒に生まれただけで普通の姉妹と変わらない。しかもつかさを助けられないかもしれない。厳しい現実を突きつけられた。
かがみ「つかさの病気は分かった、もう一つ、つかさがあれだけ私を避けているのは病気だけの理由じゃないと思うけど知ってる?」
いのり「かがみが悲しまなくて良いって言っていたけど、それ以外知らない」
もしそれが理由ならこなたにやみゆき、その他の友人にも同じ事をするだろう。現にこなたは誕生プレゼントを貰っている。つかさがますます分からなくなった。
かがみ「……それじゃ私は喫茶店でも行って時間を潰してくるわ、夕食の時間ころ戻ってくる、これならつかさにも怪しまれない」
いのり「そこまでしなくても」
かがみ「つかさは必死になっている、私たちには理解できなくてもそれは伝わってくる、好きなようにさせてあげよう、それでつかさの気が済むなら」
いのりは頷いた。
 
 普段入ることの無いお店。そこでかがみは時間を潰した。いつもの喫茶店だとつかさが来る可能性があったからだ。
そこでコーヒーを一杯。一人なら本でも読んでいるがそんな気にはなれなかった。コーヒーを飲むたびにため息が出た。
『好きなように』とは言ったものの、つかさの考えを正そうと考えていた。できればつかさ自身の口から病気の事を話してもらいたい。どうすればいい。いろいろな案が浮かんでは消えた。
ふと、かがみにある考えが浮かんだ。これならうまくいきそうだ。早速今夜その考えを実行する決意をした。
それとは別につかさの病気を家族だけの秘密にすることは出来ない。しかしメールで教えるのはあまりにも薄情だ。かがみは明日の夕方、陸桜学園の校門前に来るように
かがみが知りうる全てのつかさの友達にメールをした。その時全てを話そう。
 
かがみが家に帰ると既に家族全員帰っていた。
かがみ「ただいま」
「「「おかえり」」」
つかさを除いた全員が答えた。かがみは居間の机の上にこれ見ようがしにパンフレットを置いた。
まつり「なにそれ……アパートの見取り図じゃない」
かがみ「ちょっと不動産屋さんに行って物件を見てきた」
皆は顔を見合わせて驚いている。かがみはチラっとつかさを見た。俯いていて表情は分からないがきっと驚いているに違いない。
みき「不動産ってかがみ、まさか」
かがみ「大学までの通学が結構時間がかかっちゃってね、大学の近くに引っ越すことにしたわ、大学にも寮があるけどそれでもいいかな」
いのり「あんた、それ本気で言ってるの?」
もちろん本気ではない。つかさにしている事が下らないと分かってもらうための演技だ。いのりの質問の意味をかがみだけが理解した。
かがみ「もちろん本気よ、一人暮らしもいいかなって、それに若干一名私をウザいと思ってる人がいるしねー」
かがみはいのりを見ながら話した。いのりは目で合図をした。かがみの意図を理解したようだ。そして全員つかさに注目した。つかさは重い口を開いた。
つかさ「やっと居なくなるんだ、嬉しいな」
つかさは立ち上がり居間を出ようとした。
ただお「つかさ待ちなさい、かがみに何か言うことがあるだろう」
父、ただおがつかさを止めた。かがみはつかさの言葉に期待した。
つかさ「何もないよ、かがみの顔を見なくて済むから引越しは早くしてね、アパート探しなら手伝ってあげるよ」
演技とは言え呼び捨てにされた。それに演技力も上がっているような気がした。もし演技だと知らなかったら本気にするところだった。
まつり「つかさどうしたのさ、かがみを止めないのか、言っちゃいなよ、言うなら今しかない」
珍しく本気になってつかさを説得するまつりだった。
つかさ「何も知らないで、か、かがみのばか、引越し先で死んじゃえばいいんだ!!」
つかさは家を飛び出すように出て行ってしまった。
かがみ「死にそうなのはつかさの方じゃない、ばか」
みき「かがみ、つかさの病気を知っているの?」
母、みきはかがみの呟きに驚いた様子だった。
いのり「私とつかさの会話を偶然聞いちゃってね」
みき「かがみの引越しの話は?」
かがみ「作り話よ、つかさがあそこまで意固地になるとは思わなかったわ」
ただお「それよりつかさが心配だ、迎えに行って来る」
まつり「私も行く、つかさが行く場所に心当たりがあるから」
ただおとまつりはつかさを探しに家を出た。
 
 
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