ID:xDKSwQN20氏:20個目のお話

※一回~十九回コンクール大賞作品の内容が盛り込まれています。ネタバレ注意です。 

5月28日。


 1人の小さな女の子が5歳の誕生日を迎えました。女の子の誕生日を祝おうと、たくさんの人がお家に遊びに来ました。元気で頼れるお姉さんも、妹のような小さな女の子も、彼女に「おめでとう」と言いました。みんなに囲まれた女の子はとっても嬉しそうに、けれどもちょっと恥ずかしそうに、それでもやっぱり嬉しそうに、にっこりと笑いました。






【 20個目のお話 】






 みんなが帰った後、お父さんは自分の部屋からとっても大きな箱を持ってくると、女の子に渡しました。
「お誕生日プレゼントだよ」
 お父さんがくれた箱は真っ赤な包装紙と緑のリボンできれいに飾りつけてありました。みんなのよりもずっと大きなプレゼントだったので、女の子は今日一番嬉しくなりました。
「ありがとう、おとうさん!」
 女の子はお父さんに大きな声でお礼を言いました。そして「あけてもいいの?」と聞きました。お父さんが頷くと、女の子は大喜びで箱を開けました。
 大きな箱の中には大きな本が入っていました。きれいな箱に入っていましたが、本はあんまりきれいじゃありませんでした。とっても大きくて、そして重たい本だったので、女の子一人では持ちあげられませんでした。
「このほんはなあに?」
 少女はお父さんに尋ねました。
「この本はな、お父さんのお友達が書いたたくさんのお話が載ってるんだ。みんなお前の誕生日を祝ってあげたいって書いてくれたんだよ」
 お父さんはにっこり笑ってそう答えました。女の子は、今度はあんまり嬉しそうじゃありませんでした。こんな古そうな本なんかよりも、かわいいお人形や新しいゲームの方が欲しかったからです。
 けれどもお父さんはそんなことなんかお見通しでした。
「お前は嬉しくないかもしれないと思う。でもちょっとだけでいいからお話を読んで欲しいんだ。お父さんのお願い、聞いてくれないかな?」
 そしてこういえば、女の子はこの本を読んでみてくれる。お父さんはそこまで分かっていました。

 なぜなら、女の子はお父さんが大好きだったからです。

 思った通り、女の子は「しょうがないなぁ」と口をとがらせながらも最初のページを開きました。どうやらお願いを聞いてくれたようでした。



  1つ目のお話は、なんだか寂しそうなお話でした。
 真っ黒な空と、冷たく降る雨の中を歩く孤独な旅人。感じる寒さに身を震わせながら、旅人はひたすら足を進めて行く。道中をゆく旅人の表情は悲しそうで、けれどもちょっとだけ嬉しそう。なぜならこの道には、今はない大切な人と残した、大事な思い出がいくつも存在しているから。そんな思い出を一つ一つ拾い集めながら、孤独な旅人は"雨"に打たれて歩いて行くのでした。


 つまらなそうな女の子はもういませんでした。1つ目のお話を読み終えた女の子は、すぐに次のページを開きました。お話はまだありました。


  2つ目のお話は、ちょっと羨ましいお話でした。
 同じ日に生を受けた2人の女の子。1人は頼りなさそうな、かわいい笑顔の女の子。もう1人は人前で素直になれない、ちょっと不器用な女の子。そんな2人に仲間たちが渡したものは、小さい箱と大きな箱。小さい箱はびっくり箱で、大きな箱も……びっくり箱!!驚いた顔を見て大声で笑う仲間たちに囲まれながら、2人は最高の"誕生日"をくれたことをみんなに感謝するのでした。


 2つ目のお話を読み終えた女の子は、彼女たちが自分と同じ誕生日であることに嬉しくなりながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  3つ目のお話は、少しドキドキなお話でした。
 いつも一緒の2人の女の子。1人は元気百万倍で、1人はおっとりおしとやか。けれども元気な女の子があんまり元気だから、もう1人の女の子の恋の行方まで振り回しちゃって。自分の犯した小さく大きな罪に落ち込んでしまう元気な女の子。けれども実は、その恋の行方は始めからずっと変わってなんかいなかったのです。おしとやかな女の子のドキドキな恋模様に、元気な女の子は甘くて"あつい"ものを感じるのでした。


 3つ目のお話を読み終えた女の子は、ドキドキしながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  4つ目のお話は、甘くて酸っぱいお話でした。
 小学生みたいな振る舞いの男の子と、小学生みたいに小さい女の子。男の子がいっつもふざけていたので、女の子はいっつもしっかりしていました。だから私の方が大人だと、女の子はずっと思っていました。しかし実は、男の子の方が心もずっと大人だったのです。男の子は素敵なお話を書きあげ、みんなを巻き込んで行きました。その主人公を演じた女の子は、この最高の"文化祭"を男の子の胸の中で何時までも覚えていようと思うのでした。


 4つ目のお話を読み終えた女の子は、顔を赤くしたまま次のページを開きました。お話はまだありました。


  5つ目のお話は、なんだか安心するお話でした。
 月日は流れて、みんなは大きくなっていく。お医者さん、弁護士さん、作家さんにお嫁さん。大きくなると、やっぱりいつも一緒にいることなんてできないけれど。それでもきちんと顔を見ると、実はみんな全然変わってなくて。今いるここは、やっぱり終わりなんかじゃなくて、まだ途中なんだ。みんなが一つになった"旅行"の思い出と共に、一人の女の子はそう思うのでした。


 5つ目のお話を読み終えた女の子は、笑い終わらないうちに次のページを開きました。お話はまだありました。


  6つ目のお話は、ちょっぴり悲しいお話でした。
 おしとやかで賢い女の子。寒い雪に凍える中で、1人の男の子に恋心を抱いてしまって。けれどもそれは叶わぬ恋。まるで悪魔のいたずらのように、2人の間に存在する越えられない壁。それでもその壁は2人の"絆"までは阻むことはできません。冷たい終わりと、暖かい始まりは、雪上で熱い戦いを繰り広げる"ウィンタースポーツ"のようでした。


 6つ目のお話を読み終えた女の子は、なんだか悲しい気持ちで次のページを開きました。お話はまだありました。


  7つ目のお話は、とっても怖いお話でした。
 小さいけれど、元気一杯な女の子。友達と一緒の旅行中、迷った道で見た変なもの。それを見たせいなのか、一緒の友達もみんな変。なぜなら女の子がいたのは、女の子とは違う人たちの暮らす、変な世界だったから。だけど自分の世界のお友達は、自分が変なことに気づかない。不思議な経験が永遠に続いてしまう、"ホラー"な世界の中で、女の子は眠りにつくのでした。


 7つ目のお話を読み終えた女の子は、お父さんとおトイレに行った後、次のページを開きました。お話はまだありました。


  8つ目のお話は、びっくりするお話でした。
 お店で働く4人の女の子。真面目に働く中で、どんなお店も大繁盛させてしまう伝説の人物の存在を耳にして。4人は少ない手がかりでその人を探していくけど、やっぱり見つからない。そんな中、たまたまお店に来たお客さんは4人全員のお友達。しかし、そのお友達が実は伝説の人物であって。4人が気づいたころ、お友達は"こなた"にはもういませんでした。


 8つ目のお話を読み終えた女の子は、もし自分の周りの誰かが伝説の人だったら、と考えながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  9つ目のお話は、なんだか素敵なお話でした。
 いつも仲良しの3人の女の子。そのうちの一人には同い年の妹がいて。だけどそんな3人……4人に、もうすぐそこに別れの時が迫っていて。それでも4人はとっても仲がいいから、やっぱりみんな一緒にいたい。そんな中起きた大事件は、1人の女の子の大作戦。でもそのおかげで、"柊姉妹"と女の子たちはずっと一緒にいることができたのでした。


 9つ目のお話を読み終えた女の子は、仲良しのお友達の顔を思い浮かべながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  10個目のお話は、心が暖かくなるお話でした。
 もうすぐ大人になる1匹の蝉。だけどずっと地面の中にいたせいで、空が怖くて外に出れなくて。おかげでずーっと地面の底。でもそこにやってきたのはもう大人になった自分のお友達。みんながあんまり楽しいって言うもんだから、1匹の蝉は空に飛び立ちました。そしてその時、自分が怖いと思っていたのは"失敗"だったんだな、と感じたのでした。


 10個目のお話を読み終えた女の子は、次のページを開きました。お話はもう半分ほどありました。


  11個目のお話は、とってもかわいらしいお話でした。
 眼鏡が似合う真面目な女の子。とっても真面目なので、お友達と遊ぶ時も大真面目。でもそのお友達が、喧嘩を始めちゃったからさあ大変。なんとか仲直りしてほしい女の子は、ここでも真面目に不真面目に。その様子があんまり可笑しかったので、お友達は仲直り。みんなそれぞれの笑顔の中で、真面目な"みゆき"も笑顔になるのでした。


 11個目のお話を読み終えた女の子は、一緒に笑顔になりながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  12個目のお話は、ユーモア溢れるお話でした。
 いつも笑顔の女の子。どんな時でも笑顔でいて、周りもみんな笑顔になる。どうしていつも笑顔なの?お友達がそう聞いたから、女の子は昔を思い出す。それは1人の魔法使いが、女の子に魔法をかけてくれたから。魔法使いとのお話は、悲しいけれど、やっぱり可笑しいお話で。とっても面白かったので、いつまでも"笑い"が絶えることはありませんでした。


 12個目のお話を読み終えた女の子は、声を出して笑いながら、次のページを開きました。お話はまだありました。


  13個目のお話は、不思議な不思議なお話でした。
 いっつも無口な女の子。大好きな友達に会いたくて、たくさんたくさん歩いてく。それでもあと1歩という所で、お友達とはどうしても会えない。どうして会わせてくれないの?女の子は悲しそう。でも実は、本当の女の子はもう遠くの世界に行ってしまっていたから。あと1歩なんかじゃなかったから。やがて女の子が歩くのをやめても、"死亡フラグ"は有り続けるのでした。


 13個目のお話を読み終えた女の子は、ちょっとだけ悩んだ後、次のページを開きました。お話はまだありました。


  14個目のお話は、今度も不思議なお話でした。
 とても仲良しな2人の女の子。小さくて可愛い女の子と、大きくてカッコいい女の子。ある朝目が覚めると、入れ替わってしまっているもんだから。あなたが私で私があなた。2人しか知らない大事件は、やがてみんなを巻き込む大事件に。不思議な不思議な大事件。けれども"みなみとゆたか"の二人の関係は、変わることなんてありませんでした。


 14個目のお話を読み終えた女の子は、近くにあった鏡を見た後、次のページを開きました。お話はまだありました。



  15個目のお話は、ほんのり暖かいお話でした。
 夜空に上る、2つの光。1つはとってもしっかり者の、頼れる一番星。もう1つはいっつも遅れて出てくる、頼りないお星様。頼りないお星様は、いっつも一番星を追いかけて。喧嘩したって、どうなったって一番星に近づきたいから。やがて真っ黒な夜の空には、二つの"星"が仲良く寄り添って光っているのでした。


 15個目のお話を読み終えた女の子は、窓の外にあるお星様を眺めながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  16個目のお話は少し難しいお話でした。
 ずっと子どものままでいることのできる人なんていない。みんなしっかり前を見て、次に見える景色を目にしていく。自分はずっと子どもでいることができると思ったけれど、気づけばみんなは大人になってる。開けない夜が無いように私だって大人になるんだ。だから私も前を見なくちゃ。その先にある"夢"を見続けるために、女の子は目を開くのでした。


 16個目のお話を読み終えた女の子は、ふんと声を漏らした後、次のページを開きました。お話はまだありました。


  17個目のお話は、悲しくて奇妙なお話でした。
 いっつも頼りない女の子。どじばっかりで見ていて不安なくらいに。大きな銀杏の木に導かれて、目を覚ましたら300年前の世界。そこで起こった大事件は、辛くて悲しくて、それでもどうしようもなくて。それでも健気に頑張る女の子。不意に流れ落ちた一滴の雫は銀杏の樹雨に混ざって"水"となり、川を下っていくのでした。


 17個目のお話を読み終えた女の子は、ハンカチで目の周りをこすりながら次のページを開きました。お話はまだありました。


  18個目のお話は、幸せそうなお話でした。
 仲のいい夫婦が住んでるお家は、なんだかちょっと広すぎる。どうしてこんなに広いんだろう?どうして私と二人なんだろう?広いお風呂の中で、お嫁さんは考える。その答えを知った時、一人の女の子を残して、お嫁さんは遠い世界にいってしまって。お家はちょっと広いけど、女の子は"二人"でいることをちょっと嬉しく思うのでした。


 18個目のお話を読み終えた女の子は、お父さんの方をちょっとだけ見てから次のページを開きました。お話はまだありました。


  19個目のお話は、不思議で素敵なお話でした。
 1人の女の子のお友達は、きっと誰よりも遠い所。それでも2人は仲良しだから、今日も仲良くおしゃべりをする。こちらは少しずつ暖かくなってきます。そちらの様子はどうですか?他愛もないおしゃべりは音ではなくて、光となって飛んでいく。お友達からのお返事も光となって返ってくる。おしゃべりを続ける女の子は、小さな"月"に手を振り続けるのでした。


 19個目のお話を読み終えた女の子は、次のページを開きました。お話は―――


「あれ?」


  もう、ありませんでした。


「おとうさん、おとうさん」
 何も書いてない真っ白のページを指さしながら、女の子はお父さんに尋ねました。
「ここ、まっしろだよ?ほんはおわってないけどおはなしがないよ?」
「そうだな。ここにはお話がないな」
 でもお父さんはそんなことわかっていたように、しみじみと答えました。
「このお話は全部、みんながお前にくれたものだ」
「うん」
「でもな、それだけじゃこの本は完成、とは言えない」
「そうなの?」
「そうだとも、だから……」
 お父さんは少し、黙りこみました。そして、ちょっとだけ時間をおいた後、ゆっくりと口を開きました。
「今度は、お前が物語の続きを書いて欲しいんだ。お前がこの本を完成させて欲しい。そして、今度はお父さんと……後、お母さんに、お話をプレゼントして欲しいんだ」
 お父さんは優しくそう言いました。優しくそう言ってから、ちょっとだけ鼻をすすりました。女の子の返事は、お父さんにはもうお見通しでした。




 なぜなら―――




 それから何年も、何年も時間が過ぎて行きました。女の子はどんどん大きくなっていきました。身体はあんまり変わっていませんでした
が、心はどんどん大人になっていきました。そして―――


  5月28日。


 「―――。あいつももう18になったぞ。本当に早いもんだな」
 すっかりおじさんになったお父さんは小さな仏壇の前で、優しく語りかけていました。この日は女の子の18歳の誕生日。だけどお家には誰も遊びには来ていませんでした。元気で頼れるお姉さんも、妹のような小さな女の子も、お家にはいませんでした。そして、18歳になった女の子もお家にはいませんでした。
 ふと。お父さんは仏壇の近くになんだか古くて、大きい箱を見つけました。お父さんは少しハッとして、それからふふんと微笑みました。箱の中身なんてお父さんにはお見通しでした。



 なぜなら―――なぜなら、女の子はお父さんが大好きだったからです。



 大きな箱を開けると、やっぱり。大きな本が入っていました。入っていた箱と同じように、あんまりきれいではありませんでした。大きい本ではあったけれど、持てないことはありませんでした。
 お父さんは、最初のページを開きました。お話を読み終えると次のページを開きました。どんどん、どんどん開きました。そして、19個目のお話を読み終えたお父さんは、次のページを開きました。




「…………まったく、こなたのやつめ」


  お父さんはちょっと嬉しそうに、けれどもちょっと恥ずかしそうに、それでもやっぱり嬉しそうに、にっこりと笑いました。






 お話は、まだありました。






FIN


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コメント:
  • 一回から十九回コンクールを一つの流れで表現しているのが良かった。
    当時、二十回コンクールに向かって行くモチベーションも上がりました。
    GJ


    コンクールが下火になってきているのでこういった作品を是非
    作って下さい。 -- 名無しさん (2012-11-10 18:23:49)
  • これ、結構いい。 -- 名無し (2011-02-08 07:42:55)
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