ID:PRNf0TFj0氏 :命の輪をわたしに

 駅前の時計台。待ち合わせでよく使われるその場所で、柊つかさは時計を見ながらため息をついた。
「…早く来すぎちゃった」
 待ち合わせの時間までまだ三十分もある。つかさはしかたなく手近にあったベンチの端に腰掛けた。そして、空を見上げながら、待ち合わせの相手のことを思う。
 知り合いから頼まれたからと父に言われ、お見合いをした男性。お互い照れるばかりで、その日は特に何も話すことはできなかった。それでも、何度か会ううちに自然に話せるようになり、今ではすっかり彼氏彼女だ。
「…大事な話があるって言ってたよね」
 話の内容にどうしても期待してしまう。付き合ってる男女の大事な話といえば、やはり…と、そこまで考えたところで、つかさは肩を軽く叩かれながら、声をかけられた。
「待ったかい?」
「う、ううん!い、今来たところだから!全然まってないよ!」
 つかさは慌てて立ち上がり、声のした方を向いた。そして、声をかけてきた人物の方を見て…そのまま固まった。
「さすがつかさ。反応がいいねえ」
 そこにはニヤついてる友人の泉こなたと、その夫が並んで立っていた。



― 命の輪をわたしに ―



「…よく考えたらあと三十分あるんだった」
 ベンチに座りなおして、勢い良く立ち上がったために少し乱れた髪を手鏡を見ながら整えながら、つかさはそうつぶやいた。
「そこでよく考えないのが、つかさのつかさたる所以だよ」
 隣に座ったこなたが、ニヤついた表情を変えないままそう言った。
「そんな所以イヤだよ…」
 心底嫌そうに呟くつかさに、こなたは苦笑して見せた。
「今日は彼氏とデート?やっぱおっちょこちょいなところは見せたくないかー」
「…分かってるんだったら悪戯しないでよー」
 少し頬を膨らませながらそっぽを向くつかさ。しかし、すぐに何かに気がついたようにこなたのほうに向き直った。
「そういえば旦那さんは?」
「ダーリンならその辺ぶらついてもらってるよ。わたしがいいって言うまでね」
 こなたはそう言いながら、ポケットから携帯取り出してそれを指差した。
「い、いいのかな…こなちゃんだってデートだったんでしょ?」
「うん、まあそうなんだけど、なんていうかな…つかさとこうやって二人で話すのって久しぶりだなって思ったら、なんとなくね」
 言葉を濁すようにそう言うこなたを見て、つかさはクスッと笑った。
「そうだね。高校卒業してから、こういうの少なくなったかなあ」
 こなたにそう答えながら、つかさは空を見上げた。
「あの頃は、休み時間とか帰り道とか、ちょっとした時間にくだらないこと駄弁ってたねえ」
 こなたも、つかさと同じように空を見上げながらそう呟いた。
「今は、まとまった時間取らないとなかなか会えないから…やっぱり、ちゃんと話しときたいこと話さないとって思っちゃうよね」
「んだねー」
 こなたはつかさの言葉にうなずきながら、手に持った携帯をもてあそんだ。
「ま、その分くだらないメールは送りまくってるけどね」
 言いながらこなたはつかさの方を向き、その表情が不機嫌そのものになってることに冷や汗を垂らした。
「ど、どったの、つかさ?」
「…昨日のメール。いくらなんでも、あれは無いよ」
 抑揚のない声でそういうつかさに、こなたは申し訳なさそうに頬をかいて見せた。
「あー…やっぱまずかった?…いや、つかさも怒るんだね」
「そりゃ、わたしだって怒るときは怒るよ。もう、あんなのやめてよ?」
「…はい、すいませんでした…ってかかがみが本気で怒ってる並に怖いし。この辺は双子って感じだなあ」
 呟くこなたに、つかさがため息をつく。こなたはつかさから少し視線を逸らし、少し考えるような仕草をした後、再びつかさのほうを向いた。

「くだらない繋がりって言っちゃあなんだけど、ちょっと変な質問していい?」
「変な?…内容にもよるかなあ」
「いや、内容とか言わなきゃ分からないし…まあ、答えたくないならノーコメントでもいいよ」
「そうだね、わかったよ。じゃ、どうぞ」
「ずっと、疑問だったんだけど…つかさ、なんでお見合い受けたのかなって」
「なんでって…変だったかな?」
「いや、なんていうか…つかさってそう言うの最初の段階で断りそうだったからさ。変っていうか意外だったんだ」
「…そーだねー」
 つかさは先ほどのこなたのように、一度視線をこなたから逸らし、再度こなたの方に向き直った。
「それはきっと、こなちゃんのせい」
 そして、そう言いながらピッとこなたを指差した。こなたは二、三度瞬きをして、ゆっくりと自分を指差した。
「…え、わたし?」
「そ、こなちゃん」
 つかさは柔らかく微笑むと、こなたから視線を外して空を見上げた。
「わたしね、こなちゃんが羨ましかったんだ…大学入ってすぐに彼氏さん作って、卒業するまでに結婚までしてさ…わたしにはちょっと無理だなって」
「…いやまあ、改めて言われると、運が良かっただけっていうか、後先考えて無かったって言うか…」
 照れくさそうに頬をかくこなたに、つかさは微笑みかけた。
「運も実力のうちだよ…それで、こなちゃんが羨ましくて、わたしお見合い受けようって思ったんだ。きっかけってのがあるなら、ちゃんと踏み込んでみようって…わたし、きっかけとかあっても、失敗するの怖くてしり込みしてたから…」
「きっかけ?…あったの?」
「うん、専門学校行ってたときに何回か…ね」
「そっか…やっぱつかさがもてなかったのは、かがみがにらみ効かせてたからか」
「え、えっと、それは関係ないかな…」
 こなたの言葉につかさは少し困った顔をし、すぐに真剣な表情をしてこなたを見た。
「お姉ちゃんで思い出したけど…こなちゃん、お姉ちゃんの今の彼氏さんの事、なにか聞いてる?」
「一応はね…かがみははっきり言わないけど、うまくはいって無いみたい」
「そっか…お姉ちゃん、わたしにはそう言うこと、全然話してくれないんだよね」
「かがみのことだから、つかさにそういう事話すのかっこ悪いと思ってるんだろうねー」
「そうかも…話を聞くことくらいしか出来ないかもしれないけど、少しは話して欲しいんだけどね」
「やっぱ、心配?一人目の彼氏があんなだったから」
「え…あ、うん…」
「アレは酷かったからねー」
 こなたは眉間にしわを寄せて、そのことを思い出していた。
 かがみが生まれて初めて付き合った男性…その男が実はかがみの他に二人の女性と付き合っていたことが分かり、かがみが怒って一方的に別れを切り出したのだ。
 しかも、その別れ話の時の相手の態度が悪かったらしく、かがみは思い切り相手の顔面を殴りつけたのだという。
 相手が後ろめたい事をしていたからか、大事にはならなかったが、確実に鼻は折れてたと、こなたはかがみから聞いていた。

「今度の人は今度の人で、かがみに気後れしてるみたいだし、かがみも前の事があるからなんか慎重だし、なんかうまくかみ合ってないみたいだねー」
「そうなんだ…」
 こなたの言葉を聞いて、つかさはため息をついた。それにつられるように、こなたもため息をつく。
「かがみはなんか焦ってるんだよね…あんな無理して付き合わなくてもいいのに」
 そう言いながらこなたがつかさの方を向くと、つかさはこなたを指差していた。
「え?なに、つかさ?」
「それも、こなちゃんのせい」
「…かがみもわたしを羨ましいと思ってるってこと?」
 こなたがそう言うと、つかさははっきりとうなずいた。
「お姉ちゃん、こなちゃんにさき越されたの、すごくショックだったみたいだから」
「う、うーん…」
「そうは全然見えないけど、ゆきちゃんもそうだと思うよ」
「え、みゆきさんまで…?」
「うん。だから、同窓会で告白されたとき、あっさりOKしたんだと思うんだ」
 こなたは腕を組んで目をつぶった。
「…みんなつられすぎだよ。わたしなんかに…」
 そう呟くこなたに、つかさは柔らかく微笑んだ。
「なんかに、じゃないよ…こなちゃん頑張ってるもん」
「頑張ってる、ねえ…まあ、そう言われてみれば、そうなのかな」
「うん、きっとそうだよ」
 つかさはそう言いながら、こなたのお腹の辺りを見た。
「この子も、きっとこなちゃんのことそう思ってくれるよ」
 こなたは自分のお腹をさすり、複雑な表情をした。
「…まだあんまり実感無いんだけどね。ここに赤ちゃんがいるなんて…わたしが子供の目標になるような母親になれるとは思えないし」
「なれるよ…こなちゃんだもん」
「はっきり言うねえ…どっからそんな自信が出てくるのやら」
 真っ直ぐな笑顔を見せるつあkさに、こなたは苦笑を返した。



 こなたが去った後、つかさはベンチから立ち上がり大きく伸びをした。そして、空に向かってため息をつく。
「…もっと誇ってもいいと思うんだけどな」
 呟きながら、つかさは目をつぶった。こういう時に思い出すのは、いつも高校時代の自分たちだ。
「…あの頃にこなちゃんがわたしにくれたものが、わたしを歩かせてくれてるんだもの」
 少し恥ずかしい独り言に、つかさは慌てて周りを見た。幸いにも聞いていた人間はいなかったようで、つかさはほっと胸をなでおろした。
 そして、ふと時間が気になって時計を見ると、待ち合わせの時間は五分ほど過ぎていた。
 つかさがもう一度周りを見回すと、遠くから一人の男性が慌てて走ってくるのが見えた。
 その様子がおかしくて、つかさはクスッと笑ってしまった。そして、その男性を迎えるために、身だしなみを軽く整えた。
 男性がつかさの前に辿り着き、呼吸を整える。
「…ご、ごめん。待ったよね?」
「ううん、全然待ってないよ」
 そう答えながら、つかさは柔らかく微笑んだ。



― おしまい ― 


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コメント:
  • 今回はつかさ編ですね
    命の輪シリーズは本当にどんどん発展してて嬉しいです
    なんかかがみって女1人でバリバリやってくキャリアウーマンとして活躍する一方で男で苦労して嘆くシーンしか頭に浮かばないな(笑)
    ここのSS見てるときっと皆同じ考えなんだろうな(笑)
    逆につかさは本当に男で苦労しなさそう
    将来孫に囲まれて幸せに余生を過ごす2人の姿が目に浮かびます -- 名無しさん (2011-03-28 15:27:34)
  • 見ていてなごやかになります!


    gjです\(^_^)/ -- 名無しさん (2011-01-25 22:49:13)
  • 姉妹品の「かgまい」もたまにやります。
    なんか指がすべるんですよねー。 -- 作者 (2011-01-25 19:32:39)
  • つあkさ…… -- 名無し (2011-01-25 16:37:20)
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