ID:odWymcSO氏:迷子!

とある日曜日。わたしは友人の柊かがみの家に遊びに行くために道を歩いていた。
 ほんとは自転車で行くつもりだったんだけど、家から出た直後にチェーンが切れてしまって、いやーついてないったら。
 そんなこんなで道を歩いていると、前の方にやたら周りをキョロキョロ見ている女の子を見つけた。
 一見すると中学生くらいに見える、わたしよりは少し背が高そうだけど、それでも十分小さな体格。でもわたしやゆーちゃんって例もあるし、高校生かもしれない。
 遠目にもわかる艶やかな黒髪をツインテールにしたその女の子は、可愛いという表現がピッタリだ。ってかそれ以外表現が思い浮かばない。
 わたしがその子を見てると、向こうもこっちに気がついた。そしてパタパタとわたしの方に駆けてきた。近づくその子をよく見てみると、なぜか肩から鞄を二つかけていた。
「えっと、キミは地元の子かな?」
 気さくな、と言うか明らかに小さな子供に対する話し方だ。
 わたしの事を中学生…いや、小学生だと思っているのかも。
「うん、そうだよ。お姉ちゃん、どうしたの?」
 面白くなりそうなので、わたしはその勘違いに乗ってみる事にし、いかにもな口調で答えた。
「お、お姉ちゃん…私が…」
 女の子は顔を赤らめて呟いた。なんか嬉しいらしい。
 まあ、気持ちはわかる。わたしもゆーちゃんに初めてお姉ちゃんって言われたときは、それはそれは嬉しかったもんだ。
 女の子はしばらく余韻に浸っていたが、わたしの視線に気がつくと、咳ばらいをして真面目な顔をした。
「え、えっと、人を探してるんだけど、見てないかな?背はこれくらいで、髪はこんな感じでこの辺にヘアピンを二個付けてて…」
 身振り手振りを交えながら、探してる人物…服装等からして女の子らしい…を説明してくれる。
 が、わたしにはまったく見覚えがなかった。
「うーん…ごめんね。見てないや」
「そっか…」
 残念そうにため息をつく女の子。わたしはふと思い付き、女の子の顔を覗き込んだ。
「ねえ、どの辺ではぐれたかわかる?」
 わたしがそう聞くと、女の子は腕を組んで考え始めた。
「えーっと…唯先輩に鞄を渡されてすぐ見失ったから…たしか川が近くにあって…」
 地元の子じゃないらしく、かなり表現が曖昧だが、それでもわたしには何となく場所の見当がついた。恐らく今から行こうとしてるかがみの家の近くだ。
「そこに戻ってみたらどうかな?お友達も戻ってるかもしれないし」
 そう提案すると、女の子は顔を後ろに向けた。頬に冷や汗らしきものがたれている。
「え、えっと…そ、そうだね…そうしよっか…な」
 なんとなく感じてたことだけど、どうやらこの子も迷子っぽい。
「その場所わたし知ってるよ。今から行く所に近いし、連れて行ってあげようか?」
「え、あ…それは…えっと…」
 かなり迷ってる。年下に頼るのはカッコ悪いとか思ってるんだろうか。
「…そ、それじゃお願いできるかな…?」
 わりと早く折れた。結構素直な子のようだ。
「うん、まかせてよ。わたし、泉こなた。よろしくね、お姉ちゃん」
 わたしが自己紹介しながら差し出した手を、女の子は少し躊躇しながら握った。
「う、うん。こちらこそ…えっと、私は中野梓」
「ふーん…もしかして、お姉ちゃんあずにゃんとか呼ばれてない?」
 わたしが適当に考えたあだ名を言うと、梓ちゃんは驚いたように目を見開いた。
「な、なんでそれを…」
 うわお。当たっちゃったよ。



- 迷子! -




 こなたから遊びに来るとメールがあったのは、お昼を少し過ぎた辺りだった。
 買い置きのお菓子が切れてる事に気がついたわたしは、とりあえず手近なコンビニで適当にお菓子を仕入れてくることにした。
 たまには菓子折りの一つでも持ってくればいいんだけど、こなたは何時も手ぶらで来るのよね。
 まあ、こなたにそんなものを望むのが間違ってるんだろうけど。
 別に用意する義理は無いんだけど、あれでも一応友達なわけだし、期間限定のポッキーは一本でも多く食べたいし…。
 などと考えながら歩いていると、一軒の家が目に入った。わたしはその家の門から離れるように道の端に寄った。
 この家の犬はとにかくよく吠える。飼い主以外の人間は例外無く吠えられる。わたしもここを通る度に吠えられている。
 そんなだから、ちょっとでもうるさく無いように、こうして離れて通るんだけど…今日はなぜか吠え声が聞こえて来ない。
 散歩にでも行ってるんだろうかと門の方を見ると、一人の女の子が門の中にいた。
 さらによく見てみると、信じられないことにその女の子は件の犬と戯れている。
「あははっ、くすぐったいよー。舐めちゃだめー」
 わたしと同じ歳くらいだろうか。ホントに楽しそうにしてる。
 わたしがいる事に気がついたのか、女の子は犬に視線を向けたまま手招きをした。
「ほら、おいでよ。この子かわいいよー」
 いきなり見知らぬ人をこういう事に誘うのもどうかと思うんだけど、普段吠えるばかりの犬の違う一面が見れるというのも面白いかも。
 わたしは女の子の横にしゃがんで犬の方を見た。

 その直後に思いきり吠えられ、わたしと女の子は脱兎の如く逃げ出すはめになった。

「び、びっくりしたー」
 わたしの首に抱き着いている女の子が少し震える声でそう言った。わたしは膝に手を置いて呼吸を整えている。
 逃げるのに全力ダッシュしたから、無茶苦茶疲れた。ってか抱き着かれてると重いし暑い。
「あの…離して欲しいんだけど…」
 わたしがそう言うと、女の子は思いきりわたしの顔にほお擦りしてきた。
「あずにゃーん。そんな冷たいこと言わないでよー」
 暑苦しいし、うっとうしい。これがこなたなら無理矢理にでも引きはがすんだけど…ってかあずにゃんって何?あだ名?
「…あれ?あずにゃん背が伸びた?…なんか声も違うような…」
 恐る恐るといった感じで、女の子がわたしから体を離す。わたしの顔を確認した女の子はだらだらと汗を流し始めた。
「ど、どちらさまでしょうか…?」
「わたしもそれを聞きたいわよ」
 女の子は次に回りを見渡した。噴き出す汗の量が増え、見る見る泣きそうな顔になっていく。
「こ、ここどこ…?」
「どこって言われても、わたしの家の近くとしか」
「…あずにゃん、どこ?」
「さあ?」
 どうやら、この子は迷子らしい。わたしはため息をついた。
「携帯は持ってないの?とりあえず、そのあずにゃんって人に連絡いれないと」
 わたしがそう言うと、女の子は慌てた様子で服のポケットを探り始めた…が、その動きが徐々に鈍くなり、遂には止まってしまった。そして、なんとも情けない顔でわたしの方を見てきた。
「…もしかして、無くしたの?」
 わたしがそう聞くと、女の子は首を横に振った。
「ううん、多分鞄の中…」
「その鞄は?」
「…あずにゃんが持ってる」
 わたしは額に手を当て大きなため息をついた。
「わたしもちょっとコンビニ行くだけのつもりだったから、携帯持ってきてないのよね…ああ、そうだ。コンビニに公衆電話あったっけ。そこからかけてみる?」
 わたしがそう言うと、女の子は少し考えるように首を傾げたあと、深々と頭を下げた。
「よろしくお願いします」
「…いやまあ」
 なんかこう…テンションというか、間の掴みにくい子だなあ。
「じゃ、案内するわね…えーっと、わたしは柊かがみよ」
 わたしが自己紹介をすると、女の子はうんうんと頷いた。なんとも無駄な動作の多い子だ。
「私は平沢唯だよ…えーっと、かがみんって呼んでいい?」
「却下」
 唯さんの提案を一蹴して、わたしはコンビニに向かって歩きだした。
「えぇーなんでー?」
 情けない声を上げながら、唯さんがわたしの後をついてくる。
 その様子がおかしくて、わたしはクスッと笑ってしまった。



「へー。じゃあお姉ちゃんバンドやってるんだ。かっこいいなー、憧れちゃうよー」
「そ、そんな誉められるほどじゃ…」
 わたしの絶賛の声に、梓ちゃんが顔を赤らめる。うーん、反応がよくて誉めがいのある子だ。
 とりあえず今までの会話で分かったのは、梓ちゃんは桜が丘女子高等学校っていう高校の二年生で、軽音楽部で放課後ティータイムというバンドの一員らしい。
 探してる人は平沢唯って名前で、同じ部活の三年生らしい。
 ちなみに、わたしの方はほとんど情報を漏らしてない。
「唯先輩はリードギターでボーカルなんでしょ?凄いね、やっぱかっこいい人なんだろうなー」
 わたしがそう言うと、梓ちゃんは実に複雑な表情をした。
「…ゆ、唯先輩はかっこいいとはちょっと…」
「違うの?」
「練習あんまりしないし、お菓子ばっか食べてるし、音楽用語とか全然覚えてくれないし、だらけてること多いし…」
 なんか色々大変な人のようだ。
「受験生なのにあんまり勉強してないし、進路もまだ決まってないっていうし、すぐ抱き着いてくるし、変なあだ名つけるし…」
 何個かわたしにも刺さるのがあるんですが。
「今日だって鞄渡されたと思ったらいなくなっちゃうし、探してるうちに私までどこにいてるかわからなくなっちゃうし…」
 ああ、やっぱこの子も迷子だったか。
「じゃあ、ほっといて帰ればいいのに。駅への道教えるよ?」
 わたしがそう言うと、梓ちゃんはわたしの顔をまじまじと見つめてきた。まるで信じられない事を聞かされた、というように。
「ど、どうしてそうなるの?」
「どうしてって…その先輩の事嫌いじゃないの?なんか酷い人みたいだし、この機会にちょっと痛い目にあってもらって…」
 もちろん、こんな事本気で言ってるわけじゃない。多分だけど梓ちゃんはその先輩の事をそれなりに慕ってるんじゃないかって思う。これだけ欠点がすらすら出て来るのも、その人の事よく見てるからだろうし。
 ちょっとつつけば面白い反応が見られるかなあって思ったんだけど…梓ちゃんはうつむいてしまった。
「…えっと…お姉ちゃん?」
 わたしは声をかけながら顔を覗き込もうとした。
「そんなんじゃなーいっ!!」
 するといきなり梓ちゃんが顔を上げ、大声を出した。
 …正直、かなりびっくりシマシタヨ。
「…あ…ご、ごめん…」
 数歩引いたわたしを見た梓ちゃんが謝ってきた。
「あ、うん…」
 梓ちゃんに手を振って答えながら、わたしは元の位置に戻った。
「嫌いじゃないんだね…」
 わたしが呟くようにそう言うと、梓ちゃんは顔を赤らめてそっぽを向き、小さく頷いた。
 うむ、いい反応だ。また驚かされるのもアレだし、先輩をほめる方向でいってみよう。
 そんなことを考えながら、わたしは話しやすいように、いまだそっぽを向いている梓ちゃんの前に回り込んだ。



「ほら唯、ついたわよ。電話あそこだから、かけてきなさい」
 コンビニについたわたしは、公衆電話のある場所を指差しながら、後ろを歩いている唯にそう言った。
 なんか、自分でもよくわからない内に呼び捨てにしてるし。
 こなた相手でも、呼び捨てになるのに一週間くらいかかったのになあ。
「うん、ありがとう、かがみん」
 …向こうは向こうで、却下したにもかかわらずあだ名で呼んでくるし。
 唯はてくてくと公衆電話へと歩いていき、その前で首を傾げるとまたこちらに戻ってきた。
「かがみーん。十円貸してー」
「…持ってないんかい」
「お財布も鞄の中ー」
 わたしはため息をつくと、財布から十円玉を三枚ほど取り出し唯に手渡した。
「ありがとう!」
 唯はお金を握ってニッコリと微笑むと、もう一度電話の方へと小走りに向かった。
 何て言うか…怒りづらい笑顔なのよね、この子。
 とか思ってると、唯がまたわたしのところに戻ってきた。
「どうしたの?」
「あずにゃんの電話番号って何番だっけ?」
「…わたしが知ってるわけ無いでしょ。ってか、なんであなたが知らないのよ」
「いつもはアドレス帖からだから…」
 そういやそうか。にしても困ったなあ。
「自分の携帯番号は?確かあずにゃんが持ってるんでしょ?」
 わたしは少し考えてから、唯にそう言った。ってか、あずにゃんってあだ名、口にするの恥ずかしいからいい加減本名を教えてほしい。
「え、えーっと…」
 微妙な表情でそっぽを向く唯。おい、自分の携帯番号すらもか。
「じゃあ自宅の番号は?それくらいわかるでしょ?」
「…ごめんなさい」
 謝られた。こういうの何て言うんだろう…ゆとり乙?違うか。
「…わたし、先に買い物済ませるわね」
「見捨てないでかがみーん」
 少し痛くなってきた頭を振りながら、コンビニの入口に向かうわたしの腰の辺りに唯が抱き着いてきた。
「ええい、離しなさい…」
「やだー」
 引きはがそうするが、えらく強い力で引っ付かれてて、まったく離れない。

 結局、唯を引きずりながらコンビニに入る羽目になった。店員の視線が痛いわ…。
 カゴを持って、まずはお目当てのポッキーを入れる。その横から別のお菓子がどさどさと。
「…なにやってんのよ」
 いつの間にかわたしから離れていた唯が、勝手にお菓子を入れていた。
「私の分」
「ないわよ」
「えぇー…かがみんのケチー」
 口を尖らせてぶーたれる唯。子供かまったく。
「わたしはそんなお金持ちじゃないの。奢る余裕なんか無いわよ」
「じゃあ、お財布戻ってきたら返すからさー」
「…わかった、わかったわよ」
 わたしはそれで妥協することにした。このままもめてても、時間を無駄にするだけよね。
「えへへ、ありがとー」
 これまたいい笑顔で礼を言った後、お菓子を物色し始める唯。わたしはため息を一つついて、お菓子選びを再開した。
 …て、あれ?もしかしてこれって、あずにゃんと合流するまでこの子から離れられないって事?…しまったー。
「…これと…これもー…」
 わたしの苦悩はお構いなしに、カゴの中に次々とお菓子を入れていく唯。
「ちょっと待てい」
 わたしは、次のお菓子を物色しに行こうとする唯の襟首を掴んで引き止めた。
「ふえ、なに?」
「なに、じゃ無いでしょ。入れ過ぎよ」
 カゴの中には溢れんばかりのお菓子。大半は唯が入れたのだ。
「大丈夫だよー、お金はちゃんと返すから」
「大丈夫じゃない。わたしの手持ちが足りないわよ」
「ふえ、そうなの?」
「そうよ。ってかこんなに一人で食べるの?太るわよ?」
 わたしの言葉に唯がニコリと微笑む。
「それは大丈夫だよ。わたし食べても太らないから」
 わたしは無言で唯の両方のほっぺを掴み、思いきり左右に引っ張った。
「いふぁいー!はにふるのかふぁみーん!」
「嘘つきはお仕置きです」
「うほひゃないっへー!」
「なお悪い!」
 左右引っ張りに上下動も加える。柔らかくて引っ張りがいのあるほっぺだ。
 十分にこねくり回してから手を離すと、唯はほっぺを手で押さえてしゃがみこんだ。
「ほっぺた伸びちゃうよー」
「安心しなさい。人のほっぺは、こんな程度じゃ伸びないから」
「ぶー」
 ふて腐れながら唯が立ち上がる。
「澪ちゃんやムギちゃんもだけど、なんでこれ言ったら怒るんだろ…」
 そりゃ怒る。世の女性全体の半数を敵に回す台詞だ。
「かがみんだっていっぱい買ってるじゃん」
 カゴからお菓子をいくつか抜きながら、唯が不満そうにそう言った。
「わたしは買い置きするからよ。それに今日は友達も来るからね」
「そっかー…じゃあ私の分の半分はそのお友達さんに」
「だから、買うお金が無いっての。いいから戻してきなさい」
「はーい」
 意外と素直に唯はお菓子を戻しに行った。まあ、ここでごねられても困るけど。
 カゴの中を見てみると、お菓子の総量は半分くらいに減っていた。




 話の振り方間違えた。
 隣で語る梓ちゃんを横目で見ながら、わたしはそう思っていた。
「それでもう唯先輩ったらギー太ギー太って…」
 ちょっと前までは『やるときはやる』とか、『ライブの時はちょっとカッコイイ』とか、唯先輩のいいところを少し照れながら話してたんだけど、使ってるギターの話題になった途端にまた愚痴になってきた。
「そりゃあギターを大事にするのはいいんだけど、大事にする方向が違うっていうか、いちいち話し掛けたり構いすぎっていうか…」
 なんかギターにやきもち焼いてるみたいで、これはこれで面白いんだけど。
「…あれ」
 話を聞きながらふと目を向けたコンビニ。その出入口からかがみが出てくるのが見えた。
「梓お姉ちゃん、ちょっといいかな?」
「え?…あ、ご、ごめんね。私ばっか喋ってて…」
 話を遮ったのを怒ってるのを勘違いしたのか、梓ちゃんは謝ってきた。
「ううん、すれは良いんだけど…あそこのコンビニに友達がいたから、ちょっと挨拶しときたいかなって思って」
 そう言いながらわたしが指差したコンビニの方を梓ちゃんが見る。
「あーっ!!」
 そして大声を上げた。
「ど、どうしたの?」
 驚いてそう聞くわたしを置いて、梓ちゃんはコンビニの方にズンズン歩いて行く。
 コンビニの出入口。かがみの後ろから出てきた女の子。
「唯先輩っ!」
 梓ちゃんはその女の子をそう呼んだ。

 コンビニの駐車場。わたしとかがみは、車止めに並んで腰掛けている。
「…なんていうか、えらい偶然ね」
 コンビニで買ったらしいポッキーをかじりながら、かがみがそう呟いた。
「だねえ…」
 横から手を延ばしてポッキーを一本拝借しながら、わたしは短く答えた。
 梓ちゃんと唯さんはわたし達から少し離れた場所にいる。
 唯さんが、梓ちゃんに説教を食らっているようだ。どっちが先輩なんだか。
「どっちが先輩なんだかねえ…」
 かがみも同じ事を考えてたらしく、小さく呟くのが聞こえた。
「すいません。お待たせしました」
 説教が終わったのか、梓ちゃんがそう言いながらこっちに歩いてきた。後ろには唯さんがとぼとぼとついてきている。
 梓ちゃんはわたしたちの側までくると、かがみに向かって深々と頭を下げた。
「すいません。唯先輩がご迷惑をおかけしたみたいで…」
「ううん、言う程迷惑じゃなかったわよ」
 そう答えるかがみだが、結構愚痴を言ってた気がする。
「こなたちゃんも、ごめんね。付き合わせちゃって…」
 梓ちゃんは今度はわたしに向かってそう言った。
「わたしも人の事言えないけど…この短期間で随分仲良くなったのね。後輩からちゃん付けされるなんて」
 それを聞いたかがみが感心したようにそう言った。
「…へ?後輩?」
 梓ちゃんの目が点になる。ふむ、まあそろそろばれてもいいか。
「え、だって梓ちゃんって唯の後輩なんでしょ?唯とわたしが同い年で、わたしとこなたが同い年なんだから…」
 かがみが説明するにつれ、梓ちゃんの顔から血の気が引いていく。
「…す…すいませんでしたーっ!」
 そしてわたしに向かって思いきり頭を下げてきた。
「…謝る必要ないんじゃない?大方、こいつが年下に見られるのいいことに、からかってたんだろうし」
 わたしが何か言う前に、かがみがわたしの頭を小突きながらそう言った。
「あー、まあ騙してた事には違いないけど、からかった訳じゃないよ。なんてーか…いわゆる試練?観察眼を試す?みたいな?」
「良いように言おうとするな。しかも自信なさ気に」
 もう一度頭を小突かれる。ええい、突っ込みとはいえ人の頭をポカポカと。
「で、でも何か失礼なこと言ってた気がしますし…」
 梓ちゃんはまだ納得いかないようだ。生真面目な子だなあ。
「まあ、そう気にすることないよ。わたしも、年下に見られるのはあんま気にしてないし」
「そうだよあずにゃん。こんなに可愛いんだから」
 わたしの真後ろという予想外の場所から、予想外の内容で、予想外の声が聞こえた。
 わたしは振り返ろうとしたが、それより早く声の主…唯さんがわたしに抱き着いてきた。
「んー、いい抱き心地ー。それに髪の毛フカフカー」
 抱き着きながら、わたしの髪に顔を埋めてくる唯さん。
「ちょ、ちょっと唯先輩!何やってるんですか!?…ってなんか冷静ですね…」
「こういうスキンシップには慣れてるからねー…お髭がちくちくしない分ましだし」
「…普段、誰に抱き着かれてるんですか…」
 血の繋がった実の父親です。

「本当にご迷惑をおかけしました…」
 わたし達に向かってまた頭を下げる梓ちゃん。もう何度目だろうか。
「ほら、唯先輩も」
 そして隣にいる唯さんにも促す。
「んー…よし、お詫びにこれをあげよう!」
 唯さんは鞄の中から紙を取り出して、わたしに手渡してきた。
「唯先輩、そうじゃなくて…あーもう」
 苦労してるなあ、梓ちゃん。
「それじゃ、ここで解散でいいかしら?駅へはさっき言った通りに行けばいいから」
 そして仕切るかがみ。
「はい、ありがとうございました…ほら、行きますよ唯先輩」
「ほーい…それじゃ、かがみん、こなたん、またねー」
 手を振る唯さんと、それを引っ張っていく梓ちゃん。ってかいつの間にかあだ名付けられてるし。
「またねーって、会えるんかねえ」
 二人が見えなくなった後、わたしがそう言うと、かがみは自分の携帯をひらひらさせた。
「唯とメアド交換しといたから、会おうと思えば会えるわね」
「いつの間に…」
「そういや唯から貰ったの何だったの?」
「なんだろうね。えーっと」
 わたしは唯さんから貰った紙を、かがみにも見えるように広げた。
「…放課後ティータイムコンサートチケット…」
「…所、桜高軽音部部室かっこ音楽準備室かっことじる。時間、放課後…」
 わたしとかがみはどちらともなく顔を見合わせた。
「へー、唯ってバンドやってるんだ」
「あれ、かがみ聞いてなかったの?わたしは梓ちゃんから聞いてたけど」
「…そんな話、まったく出なかったわね」
 それを聞いたわたしは思わず吹き出してしまい、かがみもつられて笑い出した。
「まあ、せっかく貰ったんだし、つかさやみゆきさん誘って行ってみる?」
「そうね」
 わたしは手作りチケットを丁寧にたたんでポケットにしまうと、先に歩き出したかがみの後を追った。



- 終 -


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  • 良いね良いね -- 名無しさん (2011-01-15 01:20:24)
  • ぜひ続編を!


    ただやっぱり唯がちょっとアレな感じなのは… -- 名無しさん (2010-12-05 06:44:16)
  • GJ!


    両作品の登場人物の雰囲気を崩さずに上手くまとめていました。面白かった!! -- 名無し (2010-10-14 18:36:23)
  • けいおん!!&らき☆すたのコラボ本当に良かったです!!
    両方大好きな俺にとっては大満足の1作です!!!
    京アニの新旧人気アニメの競演ですね(マテ
    唯は池nゲフンゲフンちょっとアホの子過ぎるwww
    かがみはつかさやみさおで耐性がついてると思ったが唯はやっぱり強かった(マテ
    こなたを年下と勘違いしているあずにゃん可愛いwww正体知った後の反応のGOODですwww
    個人的にこなたと律は凄く気が合いそうwww次のコラボは是非それを実現させてください(マテ
    皆でHTTライブ見に行く続編を希望! -- 名無しさん (2010-10-04 21:51:12)

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最終更新:2011年01月15日 01:20
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