ID:SzRBGNg0氏:とある日のまつり姉さん

「かがみー。今日の巫女の手伝い、代わってくれないかなー?」
 日曜日の早朝。わたしの部屋にきたまつり姉さんが、突然わたしにそんなことを頼み込んできた。
「先週、わたしがやったじゃない…なんでまたわたしがやらなきゃいけないのよ」
 今日は特に用事があるわけじゃない。でも、まつり姉さんの頼みごとはなんか引き受けづらい。
「いやー、大学のレポートが遅れちゃって…頼む!この通り!」
 両手を合わせてわたしを拝み倒すまつり姉さん。嘘は言ってないみたいだし、本当に切羽詰っているなら代わってもいいかな、と思う。
 でも、どうしてこういう状況になる前にしっかりやっておかなかったのか…そう思うと、やっぱり身勝手なお願いだと思い直した。
「レポートなら、手伝いが終わってからでもできるでしょ?」
「それが出来るなら頼みにこないよー…」
 わたしの言い分に、ばつが悪そうに頭をかきながらまつり姉さんはそう答えた。どうやら相当溜め込んでたらしい。
 不快感が自分の顔に出てるのがわかる。こりゃ、またやっちゃうな。
「そーだ!今度美味しいスィーツ奢ってあげるよ!」
 名案だとばかりに嬉しそうに言うまつり姉さん。
「…お生憎様。今ダイエット中よ」
 冷たく突き放すようにわたしがそう言うと、まつり姉さんの顔がムッとなる。
「あ、じゃあレポートの方をかがみが代わりに…」
「それ、正気で言ってる?」
 我ながら酷い言い方だと思う。
「…なによ、人が下手に出てたら…」
 さすがにカチンときたのか、まつり姉さんの声色が変わる。ホント、なんでいつもこうなるんだろうか。
「まつりー!時間よー!早くきなさいよー!」
 階下からいのり姉さんの声が聞こえた。それを聴いたまつり姉さんの動きがピタリと止まる。
 そして、諦めたようにわたしの部屋から出て行った。いのり姉さんまで怒らせるのは、得策ではないと判断したんだろう。
「…まつりお姉ちゃん。わたしが代わろうか?」
 まつり姉さんが部屋から出た直後に、外からつかさの声が聞こえた。あの子が、日曜のこんな時間に起きてるなんて珍しい。
「マジで!?じゃ、つかさ任せた!」
 パタパタと小走りで去っていくまつり姉さんの足音。わたしはため息をついてベッドから降り、部屋のドアを開けた。
「つかさ、あんな頼み引き受けなくていいわよ…ってか聞いてたの?」
 そして、廊下に立っているつかさにそう言った。
「え、あ、その…なんかまた喧嘩になりそうかなって…」
 止めに入る機会でも伺ってたんだろうか。でも、まつり姉さんとの喧嘩を、つかさにとめられたことは無かった気がする。
「で、なんで引き受けたの?」
 わたしがそう聞くと、怒られるとでも思ったのかつかさがばつの悪そうな顔をした。
「まつりお姉ちゃん、大変そうだったから…」
「大変なのは、姉さんの自業自得よ。普段からちゃんとしてれば、こんなことならないんだからね」
 少々強い口調でわたしがそう言うと、つかさはうつむいた。
「そ、そうだよね…それは…そうなんだけど…」
 しまった。なんで何も悪くないつかさに、わたしは説教じみたことしてるんだ。
「…でも…えっと…あ、も、もう行かなきゃ」
 何か言いかけたつかさが、急に顔を上げて小走りに階段に向かう。
「え?ちょ、つかさ!」
 何を言おうとしたのか気になって呼び止めようとしたが、つかさはそのまま階段を下りて行ってしまった。
 わたしはなんとなく煮え切らない気分のまま、朝食をとろうと階段に向かった。




「おはよう、お母さん」
「おはよう、かがみ」
 台所に居たお母さんに挨拶をして、わたしはテーブルに着いた。テーブルの上には二人分の朝御飯。わたしと、もう一つはつかさの分だろうか。
「…つかさ、まだ朝御飯食べてなかったんだ」
 わたしがそう呟くと、お母さんがこっちを見て首をかしげた。
「そう言えばまだ来てないわね。どうしたのかしら?」
 お母さんの言葉に、わたしはため息をついた。
「いのり姉さんの手伝いに行ったわ」
「あら、今日はまつりじゃなかったかしら?」
「そうなんだけど…まつり姉さんが代わってくれってわたしのとこに来て、それで断ったら…」
「つかさにお鉢が回っちゃった?」
 わたしの言葉を遮るように、お母さんがそう言った。結果的にはそうなったけど、何かそれは違う気がする。
「…つかさが自分から代わるって言ったのよ。そんな必要ないのに。大体、まつり姉さんがちゃんとしてたらこんなことに…」
「はいはい。お小言はそれくらいにして、早く食べちゃいなさいね」
 またしてもお母さんに話を遮られる。確かにお母さんにするような話じゃないんだけど…。
 なんか今日はうまくいかない。わたしは少しイラついた気分で朝食のパンをかじった。


「そういえば、今日はこなたちゃんのところに行くんでしょ?…つかさは神社の手伝いしてて大丈夫なのかしら?」
 わたしが朝食を食べ終わるころに、お母さんが神社の方を見ながらそう聞いてきた。
「こなた?」
 わたしが思わずそう聞きかえすと、お母さんは不思議そうに首をかしげた。
「あら、違うの?つかさがこなたちゃんの家に行くから起こして欲しいって言ってたから、てっきりかがみも行くんだって思ってたんだけど…」
「ううん。今初めて聞いたよ」
 お母さんにそう答えてから、わたしは考え込んでしまった。
 つかさが早くに起きていた理由は分かった。でも、なんで手伝いを代わったかという、新しい疑問が湧いてくる。
 つかさがこんな時間から、約束もせずにふらっとこなたの家に遊びにいくとは考え難い。かと言って、約束をすっぽかして家の手伝いをするとも考えられない。
 そもそもこなたと遊ぶ約束するなら、わたしに何も言わな…いや、こういうのはつかさのプライバシーだし、突っ込むのは野暮だろう。けっしてハブられたのが悔しいとかそう言うことでは無いはず…いやいや、そう言うことじゃなくて、えーっと。
 と、考え込んでるわたしの前にチャリンと音を立てて何かが置かれた。見てみるとそこにあったのは金属製の鍵。わたしが顔をあげると、お母さんが少し困った顔をしていた。
「いのりね、倉庫の鍵を忘れていったみたいなの…」
「わたし、いってくる」
 お母さんがすべて言い終える前に、わたしは鍵を掴んで玄関に向かっていた。




「…やられた」
 わたしは倉庫の前で、ガックリと肩を落としてそう呟いた。
 目の前には扉の開いた倉庫。手に持った鍵を良く見ると、お父さんの達筆な字で『予備』と書かれたタグが付いていた。
 つかさのところに行きやすいようにって、お母さんの配慮なんだろうけど、こんな回りくどいこと…しないと、来なかったんだろうなあ、わたしは。
『そんなに気になるなら、直接つかさに聞いてみたら?』
『やめとく。つかさだって子供じゃないんだから、いちいちわたしが色々言わなくても…』
 とかいう会話になってたんだろうな…我ながら難儀な性格だ。こんなんだからこなたにツンデレだのなんだの言われるんだろう。
「…思ったより早く終わったね」
「そうね、お昼過ぎると思ってたんだけど…」
 少し離れたところから聞こえてきた声に、わたしは思わず隠れてしまった。
 …えーっと、なんで隠れるのわたし。しかも倉庫の中に。二人の話し声が扉のすぐ前まで来た。今入ってこられたら、すごく間抜けなんだけど。
「…そういえば、つかさ。どうしてまつりと代わったの?」
 聞こえてきたいのり姉さんの声に、わたしは自分の状況も考えずに扉に身体を寄せて聞き耳を立てた。
「えーっと…かがみお姉ちゃんとまつりお姉ちゃんが喧嘩になりそうだったから…あのまま終わっちゃったら、二人とも気まずいだろうし…」
 お人好しにも程がある。思わず言いそうになった言葉を、わたしは喉の奥に押し込めた。わたしたちの事なんか何時もの事なんだから、気にせずにこなたの家に遊びに行けばよかったのに。
「またあの二人…まつりもそうなるの分かりそうなものなのにね。なんでかがみに頼みに行くんだろ」
 いのり姉さんがため息混じりにそう言った。
「きっと、まつりお姉ちゃんもかがみお姉ちゃんのこと頼りにしてるからだよ」
 にこやかな表情が想像できそうな声でそういうつかさ。いやー、嫌がらせだと思うよわたしは。
「そんなものかしらねえ…つかさがかがみを頼りにするってのなら分かるんだけど…そういえば、つかさとかがみは喧嘩しないわね。少なくともわたしは見たこと無いんだけど」
 言われてみれば、わたしもつかさと喧嘩した覚えがない。
「お、怒られるのはしょっちゅうあるけど…」
 いや、つかさ。そんなことは言わなくていいから。
「まあ、つかさとかがみじゃ喧嘩にならないか…っていうか、つかさは誰とも喧嘩にならない気がするわね」
 わたしもそう思う。怒られてキレたりとかしないし、ましてやつかさから喧嘩売るなんて天地が引っくり返ってもないだろう。
「わたし、臆病だから…そう言うこと怖くて出来ないよ」
「そう?つかさって結構知らない人にも話しかけたりするじゃない」
「そ、そんなに誰でもってわけじゃないよー」
 うん。つかさは引っ込み思案なところがあって、誰にでも気軽に話しかけたりするわけじゃない。ただ、相手が困ってるとわかると、自分の状況考えずに助けようとするのよね…今日みたいに。
「…初めて巫女の手伝いをしたときね、わたしまつりお姉ちゃんとだったんだ」
 唐突につかさがそんなことを話し始めた。そうだったっけ?と記憶をたどってみたが、いまいち思い出せない。
「かがみとじゃなかったんだ」
 いのり姉さんが意外そうな声を出す。双子だからか、つかさはなにかとわたしと組まされることが多いからね。
「うん…それでね、御守り売る手伝いしてたんだけど、わたしずっと怖がってたんだ。お祈りしてる人がちょっと怖そうな人で、こっち来たらどうしようって」
 ああ、それはわかる気がする…ってか、つかさでなくてもちょっと身を引いてしまうと思う。
「そしたら、隣に居たまつりお姉ちゃんが言ったんだ『あれは絶対カツラよ。あの人、髪の毛が生えますようにってお祈りしてるわ』…って」
 アホか。
「アホか」
 うわ、いのり姉さんと突っ込みかぶった。
「それでね、その人結局御守りは買いにこなかったんだけど…休憩時間にお散歩してたら、外れの方にその人がいたんだ…なんだか凄く悩んでるっていうか、困ってるていうか…そんな感じで」
 まったく聞いたこと無い話に、わたしはじっと聞き耳を立てていた。いのり姉さんも同じらしく、相槌が聞こえなくなっていた。
「どうしようか迷ってたら、まつりお姉ちゃんの言葉を思い出したの。ホントにそうなら、そう怖い人じゃないのかなって思えてきて…何が出来るかわからないけど、とにかく話しかけてみようって思って…その…『髪の毛無くても大丈夫ですよ』…って、言っちゃって…」
 ………わ、笑うな。笑うな私…ここで笑ったら隠れてるのばれるでしょ…ちなみにいのり姉さんは遠慮なく爆笑してる。
「怒られたでしょ、それ…」
 ひとしきり笑ったいのり姉さんが、つかさにそう聞いた。まあ、見知らぬ女の子にいきなり頭髪の心配されたら、いい気分にはならないでしょうね。
「ううん…その人、しばらくポカンとした後ね、凄く笑ったよ。今のいのりお姉ちゃんみたいに」
 なんだか意外な反応だ。
「それで、しばらくお話ししたんだ。その人、いろんなこと知ってて、凄く楽しかった…それで、別れ際にね『楽になったよ、ありがとう』って言ってくれて…」
 ああ、そっか…話すだけで楽になることもある。相手がつかさならなおさらだ。結構聞き上手なのよね、この子。
「…まつりお姉ちゃんの所に戻って、そのこと話したら言われたんだ『よかったね』って…わたし、思ったんだ。まつりお姉ちゃんはもしかしてあの人がなにか悩んでるってわかってて、話すきっかけになるようにあんな事言ったんじゃないかなって」
「それは…流石に考えすぎじゃないかしら」
 つかさの言葉に答えるいのり姉さんの、苦笑する顔が目に浮かぶ。わたしもまつり姉さんがそこまで考えていったとは思えない…思えないけど、きっかけだったことには変わりない。
「そうかも知れないけど…でも、やっぱりわたしが少しでも人と話せるようになったのは、まつりお姉ちゃんのおかげだと思う。あの事が無かったら、わたしは今でもなんにも出来ないままだと思うから」
 心底嬉しそうに話すつかさ。そのつかさのお人好しの大元が、よりにもよってあのまつり姉さんだとは…。
「あの、まつりが…ねえ」
 いのり姉さんも少し信じられないようだ。
「…あ、あれ。わたし箒どこに置いたっけ…」
 少し話の余韻に浸ってると、つかさが急に慌てたような声を出した。
「どこって…もう、忘れてきたんでしょ。戻るわよ」
 呆れたような可笑しいような。いのり姉さんはそんな感じでそう言った。



 二人の声が遠ざかった後、わたしはこっそり倉庫を出て家に戻った。
 その途中、さっきのつかさの話を思い出していた。
 つかさのお人好しの原点。あの子の美点ともいえるそれを引き出したのが、あのまつり姉さんだということ。
 それがなんというか…悔しいというか…つかさのことは、なんでもわたしが一番だと思ってたのに。
 双子だから、近すぎるから、見えないことや伝わらないこともある…ということだろうか。
 まとまりそうに無い考えを色々とこね回しながら、わたしは家の玄関を潜った。


 家に入ったわたしは、お母さんに鍵を返しながら文句を言った後、自分の部屋に戻った。
 お昼までもうすぐと言ったところで、いのり姉さんとつかさの声が階下から聞こえてきた。結構時間かかったみたいだけど、つかさは箒をどこに忘れてきたのやら。
 ふと、わたしはつかさにこなたとの事を聞こうと唐突に思った。巫女の手伝いを代わったのは、わたしとまつり姉さんのためだとはわかったけど、こなたとの事はどうなったのか、なんとなく気になったのだ。
 わたしは椅子から立ち上がると、自分の部屋を出てつかさの部屋に向かった。



「つかさ、入るわよ」
 軽くノックして、返事も待たずにドアを開けて部屋に入る。
 家族の中でもわたしとつかさの間柄だから許される行為で、この前まつり姉さんの部屋に入るときにやったら、『ノックの意味無いじゃない』って怒られたっけか…いや、今はそんなこと関係ないわね。
「お姉ちゃん。どうしたの?」
 ベッドの上に座っていたつかさが、軽く首をかしげながらそう聞いてきた。どこかに電話してたのかメールでも打ってたのか、手には携帯を握っている。
「えーっと、まあその…今日はごくろうさま。悪かったわね、巻き込んだみたいで…」
「ううん、大丈夫。わたしが出来ることってこんなくらいだし」
 わたしの言葉に、笑顔で答えるつかざ。うーん、改めて考えると、ほんと双子なのかと疑わしくなるくらいお人好しだ。
「でも、今日こなたの家に行くつもりだったんでしょ?お母さんがそう言ってたけど」
 わたしがそう言うと、つかさの表情が凍りついた。なんだろう、嫌な予感がする。
「…うん…その…つもりだったんだけど…」
 うつむきながら、歯切れ悪く答えるつかさ。これは絶対何かあった。
「…こなたと何かあったの?」
「ちょっと…えっと…」
 うつむいたまま呟くつかさ。相当言いにくいことらしい。わたしはつかさの座って、その顔を覗き込んだ。
「何があったの?言ってみて」
 わたしは少し強めの口調で聞いた。こういう時のつかさは押すに限る。何があったにせよ、わたしに何が出来るかにせよ、とにかく話を聞かないと、文字通り話にならない。
「…あの…先週、こなちゃんち行った時に…」
 先週…金曜日ね。こなたが見せたいものがあるからって、学校の帰りによったんだっけか。
「その時にね…こなちゃんの部屋にわたし一人になったでしょ?」
「うん。なんか見せたいものがおじさんの部屋にあるからって、こなたに連れ出されたのよね」
「…わたし、部屋にあったこなちゃんのお人形に手を引っ掛けちゃって、落としちゃって…首がとれて…」
 お人形って…フィギュアのことか。
「それで…わたし、元に戻してそのまま帰ってきちゃって…昨日、こなちゃんから電話があって…『つかさでしょ』って…」
 わたしはどういって言いか分からず、泣きそうなつかさの顔をただ見ていた。
「謝らなきゃいけないって思ったのに…思ったのに…わたし、『こなちゃんがあんなところに置いとくのが悪い』って言っちゃって…」
 最悪だ。なんというか、あまりにもつかさらしくない。
「こなちゃん凄く怒って…今日何とか謝ろうって思ってたんだけど…朝、お姉ちゃんたちの話し聞いたら、つい…」
 逃げた。そう言うことだったのか。もちろん、つかさがわたし達の喧嘩を止めたかったというのは嘘じゃないだろう。でも、それ以上にこなたから逃げたかったのだろう。
「どうして、最初に…フィギュアを落としたときに謝らなかったの?」
 わたしがそう聞くと、つかさは首を横に振った。
「怖かったの。こなちゃんがこういうのすごく大事にしてるって知ってたから…こなちゃん普段怒らないから、怒ったらどうなるんだろうって…もしかして、ばれたら友達じゃなくなるんじゃないかって…そう思ったら、謝れなくなって…隠さなきゃって思って…」
 これは、どうすべきなんだろうか。つかさが謝ったのに、こなたが意地を張って許さないってのならまだ対処のしようもある。わたしが間に入ってなんとかなだめれば良いだけだ。
 しかし、今回はつかさが全面的に悪い。フィギュアを落としたのが事故なのだろうけど、その後が悪すぎる。わたしが間に入れば余計にこじらせる可能性もある…いや、こなたとわたしの間柄を考えると、確実にこじれるだろう。
 とにかくなんとか助言だけでもしないと…と、焦るわたしの頭に、なぜかまつり姉さんの顔が浮かんだ。
「…つかさ、今からこなたのところに謝りに行きなさい」
 そして、わたしはつかさにそう言っていた。
「…え…でも…」
 つかさが顔を上げる。わたしの方を見たその顔は、酷く怯えた表情を見せていた。
「大丈夫、うまくいくから。わたしが保証するわ」
 そのつかさに、わたしは出来うる限り優しく話す。躊躇する気持ちはわかるけど、ここはなんとしても背中を押さなければならない…たぶん、それが最善だから。
「もしうまくいかなかったら…その時は、わたしの事殴っても良いから、ね」
 つかさはしばらく迷った後、恐る恐るうなずいた。


 つかさの部屋を出て自分の部屋に戻ると、わたしは携帯を開いてこなたにメールを打った。
「今からつかさが謝りに行くわよ…っと」
 送信し、携帯を机に置こうとすると、着信音が鳴った。携帯を開いてみるとこなたからの返信だった。その過去最速の早さに、わたしは自分の考えが間違ってなかったことを確信した。





 昼食のテーブルに着くと、お母さんがわたしの方を見て首をかしげた。
「つかさはどうしたの?」
「こなたの家に行ったわよ。昼食はいらないみたい」
 わたしが答えると、お母さんはやれやれといった感じでつかさの分のお皿を片付け始めた。
「つかさ、謝りに行くことにしたのね」
 わたしの隣に座っていたいのり姉さんがそう呟いた。
「知ってたの?」
「仕事の片付けしてる時に、つかさが話してくれたのよ」
 わたしが倉庫から帰ってきた後だろうか。二人が帰るの遅かったのは、その話をしてたからなのかな。
「わたしはこなたちゃんの事あんまり知らないから、相談するならかがみがいいって言っておいたけどね」
「そうね。いのり姉さんが適当なこと言ったら、余計ややこしくなりそうだし…」
 わたしが茶化すようにそう言うと、いのり姉さんは不機嫌そうな顔をした。
「まつりじゃあるまいし、そんな適当なこと言わないわよ」
「…そこでわたしか」
 今度はまつり姉さんが口を尖らせる。こういう連鎖っぷりはさすが姉妹だと思う。
「なんていうか…つかさは結構深刻っぽかったけど、かがみはあんまり心配してなさそうね」
 いのり姉さんがわたしの方を見ながらそう言った。わたしは、少し上を見ながら頬をかいた。
「んー…なんていうんだろ。なんとなく似てるっていうのかな…」
 そして、まつり姉さんの方を横目で見た。わたしの視線を追ったいのり姉さんは、納得したように微笑んだ。
「なるほどね。怒るの、続かないんだ」
「え、なに?わたしがなに?」
 まつり姉さんは急に視線が集まったことに戸惑ってる。たぶん、もう今朝喧嘩しかかったことなんか、どうでも良くなってるのだろう。
「…こなたはこんな風じゃなくて、つかさに怒ったの後悔してたみたいだけどね」
 わたしの呟きに、まつり姉さんはますますわからないと言った風に、首をかしげた。
「んー、なんなのよ…」
「なんでもないよ…それより、レポートの方は順調なの?」
 わたしがそう聞くと、まつり姉さんはそっぽを向いた。頬に冷や汗が流れてる。なんか嫌な予感。
「…いや…それが…えっと…かがみ!レポート手伝って!」
 今朝と同じように拝み倒してくるまつり姉さん。高校生にレポート手伝わせる大学生ってどんなだ。
「…いいわよ。わたしの分かる所だけならね」
 突っ込もうとする心を抑えて、わたしはそう答えていた。
「え…」
「あら…」
「へ?」
 いのり姉さんやお母さんはともかく、言いだしっぺのまつり姉さんまで目を丸くしてる。そんなに意外な答えだったのだろうか。
「たまには…ね」
 今日くらいはまつり姉さんの理不尽に付き合ってもいい。わたしはそう思っていた。





 以下、余談。

 つかさは夕飯が終わったころに、上機嫌で帰ってきた。
 なんでもお詫びにと、こなたの家で夕飯を作ってあげてきたらしい。
 誤りに行った人間が楽しんできてどうするんだと思ったけど、それもまたつかさらしいなとも思う。
 何はともあれ、全部丸く収まってよかったと思う。
 まつり姉さんのおかげ…と言うほどではないと思うけど、きっかけにはなったはず。
 わたしは未だ終わらないレポートを手伝いながら、まつり姉さんのことを少しだけ見直していた。

 ………にしても、ホントにこれどんだけ溜め込んだのよ。



― おわり ―


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コメント:
  • なんだか、ほのぼのしました。 -- チャムチロ (2014-05-11 16:10:02)
  • こんなに楽しい家族うらやましいですw -- 名無しさん (2010-10-14 22:57:19)
  • なんかこういうの好きです。
    姉妹・家族が多いと良いですよね。
    良いことも悪いことも有るけど楽しそうだ。
    少し憧れるかも…。


    -- 名無しさん (2010-08-13 23:24:31)
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