ID:yRHT0sAO氏:月夜のたわいない会話

「友情は静かな月のように、太陽の現れない前の大空に輝く。だが、恋の光を受けるとすぐに色褪せてしまう…らしいね」

学校からの帰り道。唐突に、山辺たまきは呟いた。
「それ、名言だっけ?」
「ひよりんがネタ探しで読んでた本に載ってたんだ」
「…ひよりんの邪魔して取り上げたあの本か」

部活の時、ひよりんが『今度の本に名言を使いたいから』と何冊か持ってきていた。
やさこは『あ~、このキャラならそういうの必要だね』と納得していたし、私を含めたアニ研部員は気にしなかった。
…この気まぐれな姫を除いて。



『ひよりん、良い台詞あったよ』
『…「汝自らを愛するが如く、汝の隣人を愛せよ」…って聖書はダメっス!』
『じゃあ「豚もおだてりゃ木にのぼる」とか』
『それはタイムボカンです!』
『違うよ、ヤッターマンだよ』

だの

『ふむ、つまりこの名言で言うならひよりんは「まロい」わけか』
『それ迷言です!ってゆうか、載ってる訳ないっスよそれが!』
『ほら、この「かわいそうまさんです」と「お宝はけして失われてはならない」の間に。「…理由などいるか」の上』
『あ、なるほど「アニメ漫画名言集」なら…って今の漫画ひとつだけでしたよね?!』


とか、茶々を入れまくっていた。たぶん、ひよりんは次の〆切に間に合わないだろう。またやさこに怒られるな。

「何ていうか、あの三日月見てたら思い出しちゃった」
「あれ、三日月じゃなくて二十八日目の月だけど」
「まぁまぁ毒さん、細かいことだよ」

確かに細かいことだけど。


「月光って、所詮は太陽の光の反射なんだよね」
「かなり大雑把だけど」
「友情は愛情に敵わない、か」
「…どしたの、急に」
「ん~、いや、格言があくまで『男女の間』を指してるのはわかってるんだけど。恋愛が友情をかきけしちゃうのは性別関係ないなぁって、思い出しちゃったから」

ああ、あの事か。
中学の時、仲の良かったあの子。一応クラスメイト以上の付き合いはあった子の事。
あの子が『変わった』のは正に恋愛事情。
彼氏がアニメとか大嫌いらしくて、彼女は感化された。
元々彼女はアニメが好きでないのは知っていたが、あそこまで嫌うようになるのは確実に感化されたからだろう。

山さんにとってはあまり思い出したい事じゃない。なにしろ、『そんなことしてるからたまきちゃんは不細工顔になっちゃうの!』なんて言われたから。

それ以来、彼女は顔を髪で隠すようになっている。おかげでアニ研で素顔を知っているのは私だけだ。



「…あの時も言ったじゃん。あんなの気にする必要ないって」
「うん。あの彼氏さん、未だにジャンプは読んでるらしいし」
それは関係ない。

「名セリフにもあるじゃん。『月はいつもそこにある』って。友情だって常に近くにあるよ」
「毒さん……クサいよ」
「うっさいなら言わすな」


明日になればこんな会話も忘れたように振る舞うであろう幼なじみ。
この気まぐれもいつものことだ。
満ちたり欠けたり月の変化のような性格。
何やら月のことばかり連想する日だ。
「毒さん、月見うどん食べにいかない?なんか『月』がつくもの食べたくなっちゃった」
「弟達にご飯作るから駄目。月餅で我慢しな」
「なんだ、毒さんも『月』がつくもの食べたくなったんじゃん」

たまにはそんな日もいいか。


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