病院の個室でつかさが横になっている。
呼吸は落ち着いているが少し体をひねるだけで涙を流すほどに痛がるようだった。
つかさの枕元には何通かの手紙と写真、そして筆がある。
その傍でかがみはつかさの手を優しく握り、苦痛をうったえるつかさの手をさすっている。
かがみはここ2日ほど眠っていない。
看病疲れか心労か、心なし頬がこけている。
かがみは眠ることができない。
少し手を休めるとつかさが指をほんの少しだけ動かして、かがみに手をさするようにせがむのだ。
かがみ「大丈夫、大丈夫。ここにいるよ。」
つかさ「ああ・・・ごめんなさい。ありがとう。」
かがみ「大丈夫。大丈夫。平気よ。ここにいるよ。」
学校を終えたこなたとみゆきがつかさの見舞いに来た。
こなた「やほー!お見舞いに来たよー!さっき買ってきたの、はいこれ。」
かがみ「わあ!ありがとう!つかさ、こなたとみゆきさんがリンゴをこんなに買ってきてくれたよ!」
つかさ「うん、いいにおいっ」
つかさは目を閉じたまま答えている。
こなた「それで、大丈夫?」
かがみ「今は落ち着いてる、体は痛むみt・・・」
こなた「かがみがだよ。」
かがみ「え・・・?ああ・・・大丈夫よ。」
みゆき「少しお休みになられたほうがいいのではないでしょうか・・・。私達と交代しましょう。」
かがみ「でも・・・。」
つかさ「大丈夫だよおねえちゃん。休んできて」
つかさは他の者がはっとするほどの笑顔をしてみせた。
それにどれだけの努力と苦痛が必要か、病室の誰も気づかないことは無かった。
かがみ「じゃ、じゃあお願いね。私・・ジュース買ってくるわっ」
そういい終わるが早いか振り返り、パタパタと病室を後にする。顔が赤らんでいた。
みゆき「おかげんはどうですか?つらくありませんか?」
つかさ「つらいよぉ。とにかく関節が痛いんだ。」
みゆき「そうですか・・・。」
つかさ「だけどね、お姉ちゃんに手をさすってもらっていると、痛みを吸い取ってくれるみたいに落ち着くの。
お姉ちゃんの手には特別な力があるのかもね。」
みゆき「魔法の手ですね。」
つかさ「そうだね。えへへ。」
その間こなたはりんごをすりおろしている。
一ヶ月ほど前まで、薄く切った梨をおいしそうに食べていたことを思い出し、涙が出そうになるのを堪えた。
病室はリンゴの香りで満ちた。
つかさ「こなちゃん、どうかした?」
こなた「う・・・ううん!
そうだ!もうちょっとしたらスキー合宿があるんだ!」
みゆき「そのときは一緒に行きましょうね。」
こなたがそのリンゴをお碗に移して、みゆきはつかさの体をゆっくりと起こした。
つかさ「スキーかぁ。わたしあんまり上手にすべれないや。」
みゆき「大丈夫ですよ。やさしいコースがありますし、
こなた「そうそう、わたしもぜんぜんすべれないから一緒だね。」
つかさ「じゃあ、一緒にすべろうねっ」
つかさはリンゴをひとくちふたくち食べると、もうすっかり疲れてしまって休んでしまった。
夜になり、つかさの容態が悪化した。高熱を発してうなされている。
解熱剤を入れているが、それでも様子が悪い。
つかさ「・・リンゴが食べたい・・・・が食べたい。」
かがみ「私が買ってくるわ。ちょっと待ってt」
つかさ「いやだ、だめ。お姉ちゃんここにいて。お姉ちゃんここにいて。」
かがみ「そっか、じゃあ、ここにいるね。」
このころはもう、つかさの言葉の半分はうわごとで、どちらが本音か分からない。
つかさの魂はすでに夢の中にあり、4人組で弁当を食べているのだろう。
かがみはずっとつかさの手を握っている。握る手に力がこもってしまう。
父が「少し待っていなさい。」と席をはずした。
ほんの数分間、二人だけの時間が流れた。
つかさ「・・・・・・ぅ」
かがみ「だいじょうぶ。だいじょうぶ。」
つかさ「ぃぁぅ・・・・」
かがみ「だいじょうぶ、だいじょうぶ、だいじょうぶだから。」
自分に言い聞かせるようで、もうこうなると涙が止まらなくなってしまう。
当のつかさ本人はうめいているのではなくて、かがみに伝えたいことがあるらしかった。
が、かがみがこの様子なので、すっかりあきらめてしまった。
つかさ「(お姉ちゃんも泣き虫だなぁ・・・。)」
それがつかさが最後に思った事で、それは言葉にはならなかった。
かがみはつかさの手を握っている。強く握っていたが、
つかさに負担をかけているのではないかと気づいてその手を緩めた。
そして異変に気づいた。
つかさの指が少しも動かないのだ。
かがみ「・・・・つかさ?」
ゆっくり、やさしくなでてやる。それでも反応が無い。
だんだんなで方が強くはげしくなってしまう。
かがみ「つかさ!つかさ!!」
「おちつきなさい!お医者様を!」
病室に戻ってきた父がそう叫ぶと、かがみは飛び出して医者を呼びにいった。
かがみの泣き顔をみてすぐに察した医者は駆け足で病室に向かったが、
仕事を終えたかがみの足どりは一気に重くなった。
かがみ「(もどりたくない・・・。)」
病室に戻っても、あるのはつかさの・・・
それを確認したとたん、かがみ自身どうなってしまうか分からなかったし、
その後にこなたやみゆきに電話をしなければならない。そのしごとの一つ一つが
かがみの胸を締め付けるだろう。
廊下から見える窓にはきれいに丸い月が浮かんでいた。
そのおかげで空の様子がはっきり見てとれた。
雲がひとつも無いのに粉雪が舞い降りてきた。
かがみ「(こういったことも狐の嫁入りというのかしら。)」
およそつかさの死と関係の無い思いにふけってしまう。
医者と一緒に父が病室から出てきた。
父の手には数枚の紙が握られており、「通夜までに読みなさい」とそれをかがみに手渡した。
ほかにもみゆき宛、こなた宛と、何通かある。
その日は何もする気が起きず、泣くこともできず、
翌日、2人に連絡を入れて3人でその手紙を読むことにした。
痛みに震えるからだで書いたのだろう。読みづらい箇所が何箇所もある。
いや、読みづらいというよりも不自然である。
手紙の内容は、感謝の言葉や、簡単な挨拶だけである。こんなことを本当につかさは言いたかったのか?
なにか、つかさが本当に伝えたいことがあるような・・・。
かがみ「これは・・・・まさか・・・・2chで有名な・・・・立て読みとかいう・・・。」
こなた「そんなまさか。」
みゆき「そうですよ。つかささんにかぎって・・・あれ・・・?」
かがみ「ば・・・る・・・・さ・・・・・」
みゆき「えぇと、こっちは・・・・み・・・・こ・・・・」
こなた「酢・・・・?」
その瞬間、霊安室に置かれていたつかさの体から突如光が!!
つかさ「バルサミコス~♪」
そう、普段つかさがなんとなしに唱えていた意味不明の文字列は復活の呪文だったのだ!
最終更新:2007年10月21日 12:15