ID:Sy24YXA0氏:呪縛(みゆき編)

この物語は『呪縛』を既に読んでいることを前提に作りましたので注意して下さい。 

 二年の後半が過ぎようとしてたある日でした。私は放課後、学級委員の議題について調べ物を図書室でしていた。調べ物は思いのほか早く終わり、
図書室を出ようとした時だった。何気に本棚を見ると一風変わった本があるのを見つけた。何気に私はその本を手に取った。
古い感じの本。タイトルは『おまじない集』と書かれていた。頁を捲ると大きく貸し出し禁止と印が押されていた。更に頁を捲ると、古今東西の呪術が事細かに
紹介されていた。興味を持ったのが普通のおまじないの本と違い、解き方も書かれている事や使用上の注意書が書いてあることだった。
それにこの本のおまじないはほぼ全てに図形を書くようになっている。不思議な本だった。私は夢中になって本を読んだ。そこに気になるおまじないをみつけた。
『一緒のクラスメイトになるおまじない』……このおまじないを見て直ぐにかがみさんの顔が浮かんだ。高校になって二年、彼女と一緒のクラスになった事がない。
一緒のクラスになりたい。そう思った。そういえば、つかささんも泉さんもそれを望んでいた。この本のおまじないに願いを込めるのも悪くないかもしれない。
???「すみません、もう図書室を閉めたいのですが……」
みゆき「はっ、すみません、もうこんな時間だったのですか」
図書委員が私に話しかけてきた。もう終業時間がきてしまった。私は夢中でこの本を立ち読みしていたようだった。
図書委員「その本借りますか?」
みゆき「そうしたいのですが……貸し出し禁止のようです」
図書委員「すみません、今日はそこまでにして下さい」
みゆき「そうですね、それでは失礼します」
私は本を元に戻し、図書室を後にした。

 次の日、私は図書室に筆記用具を持って行った。貸し出し禁止の本ならば写すしかない。図書室に着くと早速目的の本を取り写し始めた。
呪文に必要な項目を写していると、おまじないの注意と叶った後の注意の二種類あるに気が付いた。どうせおまじないをするなら完璧にしたい。
私はそう思い、本を全て写すことにした。全て写すのに一週間もかかってしまった。この本を写して気が付いた事があった。
この本のおまじないは呪文を唱えるものは一切ない。紙に図や絵を書いて願いや呪いを込めるものだった。
私は早速『一緒のクラスメイトになるおまじない』をした。紙に図を写し願いを込める。ただそれだけ。気休めみたいなもの。月日は流れていく。
私はクラス替えの時がくるまでおまじないをした事さえ忘れていた。

 そして、その日がきた。
こなた「お、つかさ、みゆきさん、私達一緒のクラスじゃん」
つかさ「本当、やったー!、こなちゃん、ゆきちゃん、三年連続だね」
みゆき「また一年間よろしくお願いします」
こなた「さてと……かがみはどうなっているかな……お、一緒のクラスじゃん」
つかさ「やったー」
飛び跳ねて喜ぶつかささん、両手を握りガッツポーズをしている泉さん、この二人の顔を見て私はおまじないの事を思い出した。
まさか、あのおまじないの効果?。そう考えた方が良さそう、私は心の中で喜んだ。かがみさんが来た。
こなた「お、かがみ、今来たね、私達、一緒のクラスだよ」
かがみ「……そうね」
つかさ「お姉ちゃん、嬉しくないの?」
かがみ「……嬉しいわよ、ただ最近だるくて」
みゆき「具合が悪いのですか?」
かがみ「最近寒暖の差が激しかったからかしらね」
こなた「鬼のかくらん……」
かがみ「こなた、クラスが一緒だと、言っておくけどもう教科書とか、貸せないから、覚悟しなしよ」
こなた「あれ?、怒らない、どうして、本当に体が悪いみたいだ」
かがみ「そんな事で試すな!」

 いつもの泉さんとかがみさんのやり取りが始まった。この一年、一段と楽しくなりそうな。そんな気がした。

つかさ「お姉ちゃん!、お姉ちゃん」
こなた「かがみ、かがみ」
いきなり倒れた。二人がかがみさんを呼ぶ。しかしかがみさんは反応しない。クラスの皆が駆け寄る。先生もそれに気付きかがみさんに近づく。

新学期が始まり最初の体育の授業だった。まるで力が抜けたように倒れた。私はかがみさんを起こそうと触った時だった。まるでストーブのように熱かった。
すぐに保健室に搬送された。しかし保健室では手に負えないのでそのまま病院へ運ばれた。付き添いにつかささんが同行した。

 数日が過ぎた。
こなた「白血病?……」
つかささんは黙って頷いた。
こなた「つかさ、悪い冗談を、かがみがそんな病気になるはずないじゃん……冗談だよね……冗談だって」
つかさ「私も、冗談だったらどれほど……」
つかささんの真剣な表情を見て泉さんはかがみさんの状態をようやく理解したようだった。私はつかささん達になって言っていいのか思い浮かばなかった。
こなた「な、何で?、そんなの聞いてないよ、かがみがそんな病気だなんて」
つかさ「最近お姉ちゃんがおかしいのは何となく分かってたけど……そんな病気だんて」
みゆき「白血病は血の病気、確か治療法は全く無いわけではないかと」
つかさ「そう、骨髄移植をすれば助かるって」
みゆき「確か血液の型が合わないと、血縁関係が深いほど型が合うと聞きましたが……」
つかさ「そう、私とお姉ちゃんは双子、二卵性だけど珍しく血の型が同じなんだって……一ヵ月後、骨髄移植することになったんだよ……」
こなた「それじゃ、助かるの?」
つかさ「うん……」
歯切れの悪い返事をする。
こなた「それじゃ、お見舞いに行かないといけないね」
つかさ「それは……治るまで会いたくなって、ゆきちゃんも……」
こなた「なんで」
つかささんは黙ってしまった。
つかさ「ごめん、もう私、お姉ちゃんの所に行かないと」
逃げるように教室を出て行った。泉さんは納得がいかないようだった。
こなた「私、何かかがみ悪い事したかな」
かなり落ち込んでいる様子だった。
みゆき「おそらく、かがみさんの本心は泉さんに会いたいのではないかと」
こなた「それじゃ何で会いたくないだなんて……」
みゆき「骨髄移植をするには、かがみさんの悪くなった骨髄をまず完全に消さなければなりません、それには放射線を照射したり、強い薬を使用します、
     その影響でかがみさんの髪の毛はすべて抜けてしまいます、それに免疫も下がってしまうので無菌室での入院になると思います、
     直接会うことは出来ません、もちろん家族とも、それに薬の副作用でかなり苦しい治療になると思われます……そんな姿を見せたくなではないかと」
こなた「……さすがみゆきさんだね、そこまで知ってたなんて、私達が出来ることって何もないの?」
みゆき「祈ることぐらいでしょうか……」
こなた「祈る……か、何も出来ないのと同じだね、つかさがだけがかがみを救えるのか、その手伝いも出来ないなんて、ごめんみゆきさん、私も帰るよ」
泉さんも教室を後にした。

ふとおまじないの本を思い出した。確かあの本に病気を治す方法も書いてあった。今日はかがみさんの代理で学級委員の会議に出席する。
帰りに図書室で本を見てみよう。

 図書室に入り、本棚を見て愕然とした。本が無い、丁度その本が置いてある所にが空いていた。思い出した。願いが叶うと一年間消えてしまうって書いてあった。
まさかその通りになるなんて。そうだ、家に帰れば写したノートがある。
私はノートを見て唖然とした。写したはずのノートは真っ白になっていた。書いた跡すら見られなかった。一週間もかけて写したはず。あれは全部夢だった?。
あ、そうだ、おまじないの時に使った図形を描いた紙があったはず。机の引き出しを開けて奥にしまった紙を探した……在った。図形を描いた紙は確かに在った。
私はおまじないをしていた。夢じゃない。そのまま図形を描いた紙をしまった。
私はもう一枚、白紙の紙を取り出し机に置いた。病気を治すおまじないに使用する図形を思い出そうと試みた。しかしその図形はかなり複雑で思い出せない。
諦めるしかない。この本は一年で一回しか使えないようになっている。そんな気がした。かがみさんの病気を事前に知っていたら私は病気を治すおまじない
を選んでいた。事前に知る?。今叶っているおまじないを解けばおまじないが叶う前に戻ることが出来る。そうすれば改めてあの本を使って……それはできない。
おまじないを解くと三つのペナルティが課せられることを思い出した。その中の一つに二度と本を見つけることが出来ないと書いてあった。
八方塞だった。私はとんでもない本を使用してしまったのかもしれない。
済んでしまったことをどうこう考えても仕方が無い。今はかがみさんの回復をただ祈ろう。 

二ヶ月が過ぎた。かがみさんは一般病室に移るまでに回復をした。面会も許可されたので私達は早速お見舞いに行くことにした。しかし、泉さんだけは
用事があると言うので欠席した。
かがみ「皆、悪いわね」
つかさ「お姉ちゃんはそんな事気にしないで、元気になる事だけを考えて」
かがみ「そうだったわね」
みゆき「思ったより元気そうでなによりです」
つかさ「そういえばこなちゃんどうしてお姉ちゃんのお見舞い欠席したのかな、あれほど行きたがっていたのに……」
その理由に心当たりがあった。
みゆき「すみません、私がいけないのかもしれません、かがみさんの治療の話を泉さんにしたのですが、それが原因かと思います」
かがみ「あいつがそんな繊細な心があるとは思えない、気にするなって」
みゆき「それなら良いのですが……」
つかさ「あ、そうだ、食器を片付けるね」
そう言うとつかささんは食器を持って病室を出て行った。私とかがみさんだけになった。するとかがみさんは私に一枚の紙を渡した。
みゆき「手紙、ですか?」
かがみ「つかさが居ないから今のうちね、今朝、こなたが来てね、これを置いていったわ、そして直ぐに帰った」
みゆき「泉さんはお見舞いには行かないと言ったのですが」
かがみ「……こなたは、つかさに知られたくなかった、だから別行動をした」
かがみさんの言っている意味が分からなかった。
かがみ「つかさが帰ってくるといけないからそのまま手紙を持ってて」
みゆき「持っているのは良いのですが、内容は私が読んでもいいのでしょうか?」
かがみ「つかさに内緒って書いてあるだけだから構わないわ」
するとかがみさんの目が潤んでいた。
かがみ「あいつ、こなたは私よりも重い病気だって書いてあった、私が退院するが先か、こなたが亡くなるのが先か……別れの手紙だったわ」
みゆき「なっ?、」
かがみ「私はそんな手紙なんか受け取らないって言って、でも、つかさにはこの事は言わないで、それだけはこなたと同じ意見だから……」
かがみさんはそのまま布団の中に潜り込んでしまった。私は硬直して動けなかった。
つかさ「ただいま……って、お姉ちゃんどうしたの?、具合でも悪いの、ナースコールしようか?」
つかささんはベットに駆け込んだ。
かがみ「なんでもないわよ、久しぶりにみゆきが来たから……ちょっと疲れただけ……」
みゆき「すみません、長居しすぎました、今度は泉さんも連れてきますので」
つかさ「あ、ゆきちゃん……」
つかささんの制止を振り切り私は病室を出た。事態は私が思っているより悪い方向に向かっている。まさかあのおまじないのせいなのでは?。
おまじないの効果を切ることはいつでも出来る。しかしそれによるペナルティが私にとっては重過ぎる。まだなにか打開できる方法があるかもしれない。

 次の日の昼休み、私は泉さんを屋上に呼んだ。
こなた「みゆきさんが私をこんな所に呼び出すなんて、しかも二人きりなんて」
私は黙って昨日の手紙を泉さんに差し出した。流石の泉さんも驚いた様子だった。
みゆき「この手紙の内容、冗談や嘘ならこの場で破いて下さい」
私も泉さんの冗談であって欲しいと願った。しかし泉さんは破ろうとしなかった。
こなた「かがみ、この手紙受け取らなかったんだね……そうだよね、いつも私は嘘や悪戯ばっかりやってるから……自業自得だね」
この言葉は私が一番聞きたくなかった。
みゆき「……本当なのですか、何時からなのですか?」
こなた「三年なってすぐかな……気付いたの」
おまじないの願いが叶った時期と一致している。私は確信した。あのおまじないせいでかがみさん、泉さんがこんな事になってしまった。
こなた「私、これからどうすればいいかな?、何していいか分からないよ……」
みゆき「えっ?」
励ましの言葉をかける?、それとも慰めの言葉……、病気で死んでいく人になんて言葉をかける?。何も思い浮かばない。
みゆき「と、とりあえずこの事をつかささんにも……」

こなた「それは止めたほうがいいと思う」
みゆき「しかしながら、時が経てば必ず分かってしまいます」
こなた「そうだね、でも、出きれば私が死ぬ直前までつかさには知られない方がいい、みゆきさんだってそう思ったからこんな所に私を呼んだんでしょ、
     ここに人が来るのはゲームでは告白か自殺の時くらいだよ、みゆきさん」
私は無意識につかささんを避けていたことに気が付いた。泉さんもかがみさんも同じことを考えていた。もうこの話は続けなくていいかもしれない。
みゆき「すみません、泉さんのこれからどうすればいいと言う質問に明確な答えを私は持っていません、でも、もう一度、かがみさんに会われてみては?」
こなた「近いうちにね、いくらみゆきさんでも、即答できる質問じゃないことくらい分かるよ……もう戻ろうか、あまり遅いといくら鈍感なつかさでも怪しまれるよ」
みゆき「戻りましょう……」
私は逃げてしまった。答えを出せないから代わりにかがみさんに答えてもらおうとしていた。かがみさんもそれどころではないはずなのに。

 教室に戻ると……つかささんの姿が見えなかった。
こなた「あれ?、つかさはどうしたんだろ?」
クラスメイト「あっ、泉さん、高良さん、さっき黒井先生が来てつかささんを連れて行ったよ、何か先生、慌てていたよ」
私と泉さんは顔を見合わせた。まさか……私達は職員室へ急いだ。職員室に着くとすでに先生とつかささんは病院に向かったの事だった。
かがみさんの容態が急変したようだ。泉さんは教室に戻るように言われた。私は学級委員代理として病院に行くように言われた。
みゆき「私は昨日すでにかがみさんと会ってきました、今、かがみさんが一番会いたいと思っているのはおそらく泉さんだと思います」
こなた「みゆきさん、私は……」
みゆき「手紙を返却された、それなら本人の言葉で伝えなければ、これが最後かもしれません……私は構いません、泉さん!」
先生「それなら二人とも行ってきなさい、と言いたいが他の生徒の示しもつかない、どうするかね」
こなた「みゆきさん、ごめん、私、行ってくる」
みゆき「いってらっしゃい」
泉さんは駆け足で走り去った。私はそれを見送った。

 午後の授業を終え私は病院に向かった。病室に入ると、日下部さんと峰岸さんが既に居た。いや柊家のご家族の方々も揃っている。まさか……。
つかさ「お姉ちゃん、ゆきちゃん来たよ……もうちょっと早ければ逢えたのにね」
その場で泣き崩れるつかささん、黒井先生もがつかささんを支えている。
みゆき「かがみさん……まさか」
みさお「一足遅かったな、最後に会いたいって言ってたぞ」
頭が真っ白になった。昨日はあんなに元気だったのに。峰岸さんが私をかがみさんの所へと手を引いた。ベットに横たわるかがみさん、
顔には白い布がかけられていた。
あやの「高校になって高良ちゃん達と一緒のクラスになりたいって何度も言ってた、何か言ってあげて」
みゆき「かがみさん、私、今来ました……」
これ以上言えなかった。しかし何故か涙はでなかった。冷たい女だと思われそう。しばらく私達は悲しみに包まれた。

 一通りの手続きが終え、私達は病室を出て控え室に移った。ふと気が付くと泉さんの姿が見えない。
みゆき「泉さんは……どうしたのですか?」
つかささんは泣き崩れていて私の質問など聞こえないようだった。
みさお「ちびっ子なら学校へ戻るって言ってたぞ、なんでも屋上へ行くって、何でだろう」
屋上へ、泉さんの言葉が浮かんだ『屋上に行くのは告白か自殺くらい』……自殺……この言葉が頭の中に響いた。
みゆき「早まってはいけない!」
私は叫んで病院を飛び出した。そして学校に向かった。

 屋上に着くと私は辺りを見回した。屋上の端に泉さんが立っていた。一歩足を出せば落ちる位置に立っている。
みゆき「泉さん!」
叫んだ。しかし泉さんは振り返ろうとはしなかった。
こなた「やっぱりみゆきさん来たんだ、流石だね、屋上での会話で私が何をするか分かるなんて」
みゆき「そんな事はどうでもいいです、早まった事は考えないことです」
こなた「私の命と引き換えにかがみが助かるなら……そう思った、でもそれも無理だった、それに私に残された時間も無い」
みゆき「そんな事はありません、私とつかささん、いえ、泉さんが知りうる全ての人の為に、生きていて下さい」
こなた「つかさ……自分の身を削ってまでしても助けられなかった、今の私じゃつかさの支えどころか余計に苦しめるだけ」

みゆき「違います、違います」
こなた「かがみ、一人じゃ寂しいよね、一緒に行ってあげる……」
泉さんは私の目の前で屋上から飛び降りた。それから先はよく覚えていない。救急車が来た。それから暫くして屋上に先生と警察が来た。
そして何時間か職員室で質問された。質問の内容も答えた事もあまり覚えていない。夜遅くなり、お母さんが迎えにきた。
そこで初めて泉さんが亡くなった事を知った。それでも私は涙がでなかった。一日に二人の友人を亡くしたと言うのに……。

 もう真夜中の三時を過ぎていた。家族は皆寝静まっている。気が付くと私はおまじないの紙を持って台所に立っていた。そしてコンロの前に居る。
私はおまじないの効果を消そうとしていた。そう、この紙を燃やせば元に戻れる。かがみさんと泉さんの笑顔がまた見られる。
いや、まだ燃やす事はできない。あの本の正体を知りたい。そして、燃やす事によって課せられるペナルティも消したい。私は紙を燃やすのを止めた。
私は紙を貯金箱の中に入れて鍵を閉めた。おまじないの効果を消す期限は一年間とあの本には書いてあった、まだ半年以上残ってる。
それまでに全てを元に戻す方法を見つける。私は固く誓った。亡くなった二人の為に。

 それから私は学校の図書館を始めに街中の図書館を調べた。最終的には国立図書館まで足を伸ばした。しかし、あの本と同じものは無かった。
似たような本はあったが図形が曖昧だったりしている。この本はかなり古いものだった。二千年前の中国で書かれたものの写しらしい。
おそらく学校にあった本が原本と思った。少なくともあの本は二千年前より古い。それと、全てのおまじないは火を使うことによって
解除できる。おそらくあの本を燃やせば全ては解決する。分かったのはそれだけだった。

つかさ「ゆきちゃん、最近忙しそうだけど、体大丈夫なの?、黒井先生に居眠り注意されてたし」
心配そうに私に話しかけてきた。あれから三ヶ月、つかささんは少し元気を取り戻してきた。とは言っても事あるごとに涙ぐむことはしばしばあった。
みゆき「ご心配なく」
つかさ「ゆきちゃんは凄いよね、また学年で一位だったんでしょ、希望通りの大学も行けそうだし」
みゆき「私は、ただ調べるのが好きなだけです」
つかさ「私はね、料理関係の専門学校に行くことに決めたよ」
みゆき「つかささんなら、お料理は上手いし、手も器用なので良いと思いますよ」
つかさ「ゆきちゃんにそう言ってもらえると嬉しいな……私が作った料理、お姉ちゃん喜んで食べてくれた、誰か知らない人もそんな喜んで食べてくれるような
     料理を作りたい、私にはそれしか出来ない、ゆきちゃんは医者になるんだよね、こなちゃんやお姉ちゃんの病気なんかすぐ治せるお薬作って、
     そうすれば、だれも悲しまなくて済むから……」
つかささんの料理を喜んで食べてくれたかがみさん、それを聞いて私は初めて目から涙が出た。私はあのおまじないの本と戦っていた。
おまじないを解く事はあの本の力に屈服したとことになる。そう思っていた。でもつかさんの言葉を聞いてそんな事はどうでもよくなった。
私に課せられるペナルティなんて、泉さんやかがみさんの苦痛に比べれば大したことじゃない。それにこれ以上あの本の正体に迫れそうにない。
みゆき「そうですね、泉さんとかがみさんの笑顔、もう一度見たくなりました、つかささんありがとう」
目を涙に潤ませたつかささんに私はそう答えた。今日、おまじないを解こう。
家に着くと私は貯金箱の鍵を開けて紙を取り出した。そして庭で紙に火をつけた……。

 気が付くと私は学校の教室に居た。泉さん、かがみさん、私がつかささんの机を囲むように立っている。教室のカレンダーで今の日付を確認した。
二年の二月だった。
こなた「それでね、そのルートを選ぶとヒロインに振られちゃうんだよね」
つかさ「そんな、それじゃそのゲーム終わっちゃうよ」
かがみ「もう、ゲームの話は止めて帰らないか?」
久しぶりに聞いた泉さん、かがみさんの声だった。
何故だろう、あの時はまったく涙が出なかったのに、今にになって溢れるように涙が出てきた。そしてこみ上げてくる感情、抑えられない。
みゆき「泉さん、かがみさん……」
思わず二人の名前を呼んだ。
こなた「ちょ、みゆきさん、いきなりどうしたの」
慌てて私の元に駆け寄った。
かがみ「……、こなた、あんがあんな事言うから、昔の事を思い出したんだわ、みゆき……」
こなた「……ごめん、まさかみゆきさんが失恋……」
かがみ「ばか、何も言うな、こうゆう時は何も言わない……」
かがみさんは私をやさしく抱き寄せた。そのやさしさに私は声を出して泣いた。
あの悪夢は私だけの胸に、そして本は永遠に見つからない所へ……。これで良い。これで……。

 

 そして、クラス替えの日が来た。今度はもうおまじないの効果はない。かがみさんには申し訳ないけどもうクラス割の結果は分かっている。
つかさ「やったー」
つかささんの喜ぶ元気な声が響く……クラス割表を見て自分の目を疑った。
何故?、どうして?、かがみさんが一緒のクラスになる?、そんなはずはない。あのおまじないの効果で一緒のクラスになった。その効果がないのなら
必然的に逆の結果になるはず。誰かが私のおまじないを解いた後、あの本を使った……。いや、ペナルティであの本は見つからない所に移る。
つかさつかさ「やったー!、お姉ちゃん、一緒のクラスだよ、小学校からの夢が叶ったよ、この前のお……」
途中で会話を中断したつかささんだった。
みゆき「どうしたのですか?つかささん」
つかさ「うんん、なんでも……ないよ」
かがみ「つかさ、はっきり言っていいわよ、こなたとまた同じクラスになって先が思いやれるって」
こなた「つかさ、はっきり言っていいよ、お姉ちゃん、学校まで一緒になって鬱陶しいって」
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃん、私は……」
みゆき「ふふ、楽しいクラスになりそうですね、私は学級委員の引継ぎがありますので」
確かにつかささんの態度が急に変わった。もしかしたら……引継ぎは嘘。私はそのまま図書室に向かった。確かめたい事があった。

 図書室であの本があった本棚を確認した。一冊分の空間が空いている。おまじないを解いてからも何度か図書室は使って、その度にこの本棚は確認
しているけどこの場所には違う本が置かれていた。違う本?。まさか、見つけられないと言うのは私の事だった?。別に違う場所に移ったわけじゃない。
私の目にはあの本は別な本に見える。それならば別人がおまじないの本を使う可能性がある。それがつかささん。つかささんならこの本に興味を持つ
のは理解できる。いや、まだつかささんがおまじないをしたと言う確証はない。まだ泉さん、かがみさん本人がいる。直接聞きたいけど、それは出来ない。
聞いてしまったらおまじないの事を知ることになる。それだとおまじないを解除できなくなってしまう。悪夢が蘇った。これはおまじないなんかじゃない。
呪い。呪縛。この呪いでまた悪夢を見るのでは。もうそんなのは沢山。何とかして呪いを行った本人を特定して。真実を話して本を燃やしてもらわないと。
でも、一度呪いを解いた人が本の内容を他人に伝えると、伝えた人はこの世から消えてしまう。このペナルティが私を最後まで呪いを解くことを躊躇させた。
失敗は許されない。

 私の心配とは裏腹に楽しい日々が続いた。確かにかがみさんと泉さんが以前よりも喧嘩が激しくなった感じはあるけど、それはクラスが一緒になったから、
そう思っていた。そんなある日、私は泉さんから屋上に来るように言われた。屋上……。いやな予感がした。

 屋上に着くと、泉さんの他にかがみさんが居た。泉さんは私だけを呼んだのではなかった。
みゆき「お待たせしました」
かがみ「……みゆきも呼んだの?、つかさは、何故つかさは呼ばないのよ」
二人の顔は暗い表情だった。もう泉さんが何を言うかは想像できた。
こなた「かがみだって分かってるでしょ、つかさが知ったらどうなるくらい……」
かがみ「……分かるわよ、でも、それじゃつかさが、つかさが……」
みゆき「あのー、詳しくお話していただけますか?」
二人は既に話し合っているようだった。と言うよりは意見の違いがある。そんな感じだった。
こなた「……」
かがみ「どうしたのよ、みゆきに話しなさいよ、私に話したように……」
泉さんは話す様子がなかった。じれったくなったのかかがみさんが話し始めた。
かがみ「……こなたね、病気なの、もう末期らしいわ……」
同じだった。あの時と同じ。状況は微妙に違うけど同じことが起きている。あの時は涙はでなかった。何故か今は自然と涙が出てきた。
泉さんは同じ苦しみを二度も受けることになるから。
こなた「ごめん、みゆきさん、みゆきさんには知ってもらいたかったから、今後の事も相談したかった……」
かがみ「それでつかさには教えなくていいって言うの?、おかしいじゃない」
こなた「それじゃかがみから話して、出来る?、話したらきっとつかさ、自殺しちゃう、死なないまでもいままでのつかさじゃなくなっちゃう、そうでしょ?」
二人の話を聞いて思い出した。亡くなったかがみさんの側で泣きじゃくるつかささんの姿を、誰の話を聞こうとしないほどの激しさで泣いていた。
みゆき「私も泉さんの意見に賛成です、今話すのは早いような気がします、しかしこのままではいつかは気付かれてしまいす、何か対策が必要かと」
かがみ「みゆきがそう言うなら……」
こなた「ありがとう、みゆきさん、で、その対策って?」

みゆき「そ、そこまでは考えていませんでした、すみません」
かがみ「それなら、私とこなた以前DSの事で大喧嘩したでしょ?、喧嘩で絶交した事にしない?、それならつかさだって気が付かないわよ」
こなた「喧嘩ね、それほど大喧嘩じゃなかったけど……それはいいけどお昼とかはどうするのさ、少しでも話しかければ喧嘩してないのバレちゃうよ」
かがみ「そうね……お昼は私、日下部達のクラスに行くわ、それでいいかしら?、みゆきは中立的な立場でいれば問題ないじゃない?」
こなた「つかさが喧嘩の内容とか聞いてきたらどうするのさ」
かがみ「そんな所まで話し合わないといけないのか」
みゆき「そうですね、つかささんに内緒にしたければ出来るだけ合わせた方がいいと思います」
かがみ「逆に喧嘩の内容を話したらつかさが何かしようとしてややこしくなるわ、喧嘩の内容は内緒にしましょ」
みゆき「それで良いと思います」
こなた「決まったね、さすがみゆきさんが来ると話しが早いね、これからお茶でも飲んで解散しない?」
かがみ「いいわよ」
みゆき「はい」
こなた「それじゃいつもの喫茶で、先に行って席とっておくよ」
泉さんは駆け足で屋上を後にした。かがみさんはため息を一回ついた。
かがみ「ふぅ、あいつ本当に病気なのか、まったくもう……」
みゆき「まだ不満があるのですか?、今のうちに解決しておいた方がいいですよ」
するとかがみさんは私を睨み付けた。
かがみ「みゆきが賛成するとは思わなかった、つかさの何を知ってるって言うの?、話すのは早い?、見てきたような言い方をして!」
珍しく私に感情を露にした。見てきたような言い方……確かに私は見てきた。でもそんな事、言えるはずもない。
我に返ったのかかがみさんは直ぐに元の口調に戻った。
かがみ「ごめん、みゆき、私は内緒にする自信がない、こなたやみゆきは学校と放課後だけつかさと一緒にいればいい、でも私はつかさの家族なの、
     放課後、朝、夜、休日、つかさと一緒の家で生活しているのよ……一人っ子のあんた達じゃ分からないわね、行きましょ喫茶店」
私は黙って頷いた。かがみさんが病気を秘密にするのを反対していた理由が分かった。

 喫茶店では雰囲気は変わった。さっきまでの暗い話とは違って、いつもの話題で楽しい時間が過ぎていった。泉さんが時計を気にした。
こなた「ごめん、薬の時間になっちゃた、もうお開きにしよう」
みゆき「あ、もうこんな時間ですね、私も帰ります」
かがみ「あっ、いけない、まつり姉さんから買い物頼まれていたの忘れてた、みゆき悪いけど付き合ってくれない?」
みゆき「買い物、ですか、構いませんが……」
こなた「悪い、私急ぐから、今日は私のおごり、そのまま出ちゃっていいから」
泉さんは伝票を鷲づかみにするとレジに向かった。

 買い物に同行して欲しいと言っていた。しかしかがみさんは商店街の方向とは逆に歩き始めた。そして寂れた公園に入り立ち止まった。
みゆき「あの、買い物は……」
かがみさんはそのまま立ち止まったままだった。
かがみ「あいつ、薬の時間だ、って言った」
みゆき「言いましたけど、それが何か?」
かがみ「病気なんだな、あいつ、今まで半分冗談かと思ったけど、あの言葉で初めて実感した」
みゆき「そうですか……」
かがみ「みゆきなら分かるよね、末期の患者が使用する薬」
みゆき「強力な痛み止め、モルヒネ、後は……」
かがみ「ばか、本当に答える奴がいるか!、私は、私は、そんな事聞いているんじゃない」
かがみさんの目が真っ赤に腫れていた、
かがみ「もうあいつを見ていられない」
そう言うと私に抱きつき、泣き始めた。
かがみ「泣かせて、もうつかさの前で泣くことも出来なくなる、だから……」
かがみさんの覚悟を感じた。私はやさしくかがみさんを抱き寄せた。呪いを解いたとき、かがみさんが私にしてくれた様に。

 どのくらい時間が経ったか、かがみさんは我に返ったように私から離れた。
かがみ「ごめん、みゆき、もう気が済んだわ、ごめん」

みゆき「私こそ、何も気が付きませんで」
かがみ「まずい、本当に閉店しちゃう、急がないと」
みゆき「……買い物の件は本当だったのですか?」
かがみ「まあね、あれで忘れたなんて言うと凄いんだから、まつり姉さん、それでいつも喧嘩よ」
みゆき「それじゃ、急ぎませんと、それにどこかで顔を洗った方がいいですよ、涙の跡が……」
かがみ「分かってるわよ、悪いけどここで別れましょ」
挨拶代わりに片手をあげて走り去って行くかがみさんを見送った。
姉妹か……。お姉さんの事を良く言っていないのに私に話しているときは自慢げだった。確かに親子とは違う関係、一人っ子の私には理解できない。
羨ましいと思った。

 次の日の放課後、私は先生の依頼で日誌の整理を図書室でしていた。三年前の日誌がどうしても見つからなかった。本棚を探していた。
???「何の本を探しているのですか」
突然後ろから声をかけられた、後ろを向くと男子生徒が立っていた。
???「一時間も探していたので、図書委員が何の為にいるのか分からなくなります」
みゆき「そうですか、三年前の日誌を探しているのですか……」
図書委員「管理番号はわかりますか?」
みゆき「管理番号?、二年前の日誌はあるので、これですか?」
私は二年前の日誌を図書委員に見せた。すると図書委員は受付の方も向いてもう一人の図書委員に管理番号を告げた。
図書委員「この番号からすると倉庫の方にしまってあると思いますよ……」
みゆき「そうですか、ありがとうございます」
図書委員「昨日も終業時間まで探している子がいて、あれは可哀想でした、せめてタイトルくらい覚えててくれてば……」
就業時間まで本を探していた子?、そういえば昨日、つかささんとは別行動だった。
みゆき「その人、どんな人でしたか?」
図書委員「貸し出し禁止の本って漠然と言ってたから印象に残った……ショートヘアーでリボンをしていた女の子、多分三年生だと思いますけど」
間違いない、つかささんだ。タイトルを教えなかったのは本の内容を読んでいるから、でもおかしい、本の内容を読んでいるのなら就業時間まで探すのは
不自然、願いが叶うと一年間は消えてしまうと書いてある。どうしてだろうか。
図書委員「はい、お探しの日誌です」
私は日誌を受け取った。

 先生の依頼を全て終え、教室にもどった。教室には誰も居なかった。今日は一人。そういえばつかささん、二年生の時、図書室に何回行っただろうか、
私が知る限り、数回くらい?、内緒で行ったとしても私と同じか早い時間に帰宅している。私はあの本を写すのに二週間、つかささんは丁寧に書くから
全て写すには倍以上の時間がかかるはず。すると短時間で要点だけを写しておまじない、いや、呪いを行ってしまった。するとつかささんは
注意書きを全て読んでいないことになる。ペナルティの事、呪いの解き方。そうか最初の願いが叶うまで内緒にすると言うのをそのまま守っているだけかも。
それなら好都合、黙って呪いを解除されたら本を燃やす機会を失ってしまう。しかし、つかささんに全てを話して私の言うと通りに行動してくれるかが問題。
気が動転して失敗してしまうかもしれない。これ以上何も考えることができなかった。つかささんには悪いけど、全てを託すまでの気持ちにはなれなかった。

 それから何週間か経ったか、私、泉さん、かがみさんで帰宅途中の時だった。
こなた「昨日、つかさ、怒っていたね……」
みゆき「ええ」
かがみ「昨日?、どうしたのよ、つかさは昨日の事は何も言ってなかったわよ」
こなた「私とかがみがあまり会っていないから何故って聞かれて……打ち合わせ通り喧嘩の事内緒にしたら怒った」
かがみ「つかさは言われたことを真に受けるから、今思えばもう少し考えるべきだったか」
こなた「本当にこれで良かったのかな」
かがみ「何今更言ってるのよ、言い出したのはこなたの方でしょ、もう後戻りできないわよ……ってそのつかさが来てないけど?」
みゆき「何か用事があると言っていました、先に帰っていいと、それに、泉さんとかがみさんはつかささんの前では一緒に居ない方がいいと思いまして、承知して
     つかささんと別れました」
何か泉さんの歩き方が辛そうに見えた。

みゆき「それより泉さん、辛そうですけど大丈夫ですか?」
こなた「大丈夫、って言いたいけど、ちょっと辛いや」

かがみ「ちょっとここで休みましょ」
皆が足を止めた時だった。
???「お嬢ちゃん達、何してるのかな」
???「この制服、陸桜学園じゃないか、私立金持ち高校、金もってそうじゃないか」
二人組みの男達が私たちの目の前に立ちはだかった。私は畏縮してしまった。私の前にかがみさんが立った。
かがみ「何よ、あんた達!」
チンピラA「威勢のいい姉ちゃんだ、何、ちょっとばかり金を恵んでくれれば直ぐに立ち去るさ」
かがみ「あんた達に渡すお金なんか無いわ」
こなた「あのー、かがみさん、そんな強気で大丈夫ですか?」
チンピラA「痛い目見ないとわからんようだな……ぐえっ!!」
何がなんだか分からなかった。男が振りかぶった瞬間泉さんが何かをしたようだ。男はその場に倒れ込んだ。
チンピラB「やってくれたな」
こなた「いや、そっちの方が先だったよ、正当防衛だよ」
男は懐からナイフのような武器を取り出した。
こなた「……流石に武器は辛いな……逃げて」
私は震えて動けない。かがみさんが私の手を引く。男は泉さんではなく私達の方を目掛けて突進してきた。私は目を閉じてしゃがんだ。

 何も音がしなかった。
チンピラB「お、俺は知らないぞ、お前たちがいけないんだからな」
走り去る足音が聞こえた。私はゆっくり目を開いた。
かがみ「こ、こなた」
こなた「技、失敗しちゃった……」
泉さんはその場に倒れた。泉さんの腹部に男の持ってたナイフが突き刺さっている。
かがみ「こなた、しっかりしなさいよ、こんなの取ってやる」
かがみさんは刺さっているナイフに手をかけた。
みゆき「触ってはいけません、そのままにして下さい」
そう、刃物を無理に引き抜くと余計に出血が酷くなるを何かで聞いたことがあった。わたしはかがみさんにハンカチを渡し、傷口を直接押さえるように言った。
通行人が通報してくれたのか、すぐに救急車とパトカーが来てくれた。それから泉さんはベルトコンベヤーのような流れ作業のように病院に搬送された。
私達もパトカーで病院に向かい、病院の待合室で警察官の質問を受けた。一通りの質問を終えると、大半の警察官はその場を去った。
犯人がまだ逃走中とのことなので数人の警察官が残った。

かがみ「応急処置がよかったせいか、なんとかなったみたいね、さすがみゆきね」
みゆき「いいえ、通報が早かったからです」
かがみ「私がいけなかった様ね、勝算のないから威張りで……」
みゆき「聞くところによるとあの二人組みは凶悪犯のようです、どんな対応しても結果は同じだったのかもしれません、しかし、何故あんな事を?」
かがみ「あんな連中にこなたと会える短い時間を取られたくなかった、それだけよ」
急に弱気な声になった。
みゆき「かがみさん……」
かがみ「今朝も、さっきもこなたの辛そうな姿、もう見ていられない、薬も利かなくなってきてるみたいだし、それなのに私たちをかばうなんて……」
私は何も言えなかった。
かがみ「頭冷やしてくるわ」
かがみさんはそのまま病院を出てしまった。私はそれを引きとめることができなかった。

 しばらくすると日下部さんが駆け込んできた。辺りを見まして私に気付くと近寄ってきた。
みさお「眼鏡ちゃんじゃないか」
みゆき「いったいどうしてここに?」
みさお「いや、校庭で柊の妹とはなしてて、うちの生徒が刺された話が来てね、まさか、ここに眼鏡ちゃんがいるってことは?」
みゆき「はい、泉さんが、刺されました」
みさお「柊!!!、なんでちびっ子を刺すんだよ!」
日下部さんの言葉を聞いて驚いた。なぜそんな話になっているか。

みゆき「日下部さん、何の話ですか?」
みさお「え?、違うの?柊の妹が、柊とちびっ子が大喧嘩してるって聞いて、その矢先にこの事件、タイミング悪すぎる」
みゆき「泉さんは今重態です、しかし、刺したのは他の人です」
みさお「そうか……犯人が柊じゃないだけでも良かったと言う事か」

 するとつかささんが息を切らせて入ってきた。
みさお「柊の妹……、刺された人は泉こなた……やっぱりちびっ子だったぞ」
私を見て真っ青な顔になっている。日下部さんと同じ勘違いをしているに違いない。
みゆき「出血は止まったようですがまだ予断を許さない状況だそうです……つかささん、実は……」
つかさ「やめてー!、」
つかささんは両手で耳を塞ぎながらまた病院を走り去っていった。私はそれを追いかけようとすると日下部さんが私の腕を掴み止めた。
みさお「ちょっと話が聞きたい、柊の妹について……」
みゆき「しかし、つかささんが……」
みさお「柊の妹はそのまま放っておいても大丈夫、それより何故こうなったか聞きたい」
日下部さんは真剣な顔で私を見ている。私は待合室の奥に案内して椅子に座った。そして経緯を話した。

みさお「それで柊の妹に嘘をついた?、口裏合わせて?、眼鏡ちゃん、三年もクラスが一緒で……その程度の仲だったのかよ」
そんな言い方をするとは思わなかった。
みゆき「どうゆうことですか?」
みさお「それって、ハブるって言うんだぞ」
みゆき「そんな事していません、ただ、つかささんが泉さんの病気を知れば……」
みさお「知ったらどうする?、本当に柊の妹が死ぬと思ってる?、私が柊の妹だったら何故ちびっ子の病気の事を教えてくれなかったって死んじゃうぞ」
私は黙ってしまった。反論できなかった。
みさお「いつも仲良く楽しいときは一緒に笑って、悲しいときは別だなんて、柊の妹それを知ったら怒るぞ、部室に来た時の柊の妹の真剣な表情、
     あれだけ真剣に仲直りさせようとしている柊の妹の心を三人で踏みにじった、違うかい?、眼鏡ちゃん」
私達は間違っていた。都合が悪いときだけ仲間はずれだなんて、本当につかささんの事を考えていなかった。
みゆき「私は、どうすれば……」
みさお「ここで待ってればいいと思う、柊の妹は戻ってくる、それに眼鏡ちゃんが居ないとちびっ子も寂しがるぞ」

 どのくらい待ったか、つかささんはかがみさんを連れて帰ってきた。泣き崩れたかがみさんをしっかり支えながら病院に入ってきた。
すると、後から泉家の方々が続々と入ってきた。特におじ様の取り乱しようは見るに耐えがたかった。
その後、しばらく待ったが今日はもう面会できないので泉家以外の人は帰ることになった。皆が待合室を出るとかがみさんが私を呼び止めた。
かがみ「私、つかさに助けられた……」
みゆき「どうしたのですか?」
かがみ「私がこなたの死んでいく姿は見られないって言ったら何て行ったと思う?、私がこなたを刺した方がよっぽど良かったって言いった、
     それならやり直しも仲直りもできるって、それを聞いたら私は……自殺する気が無くなった、それに、嘘をついた事を少しも怒っていなかった、
     私達はつかさを子供だと思ってたけど、つかさの方がよっぽど私達より大人、つかさには悪いことした」
かがみさんはそのまま退室した。

 つかささんがかがみさんの自殺を止めた。もし、泉さんが自殺しようとしていた時、つかささんが居たら同じように止められたかもしれない。
そういえば私が呪いを解く切欠を作ってくれたのもつかささんだった。もしつかささんの言葉が無かったら期限内に呪いを解いただろうか。
意固地になって本の正体を調べ続けていたかもしれない。そして一生あの本の呪いに苦しみ続けたかもしれない。何故もっと早く気が付かなかった。
つかささんは苦境に見舞われてもそれを跳ね除ける力がある。もう迷いは消えた。私の全てをつかささんに託す。そして呪縛を解く。

 次の日の放課後、つかささんを自習室に呼んだ。つかさんは泉さんのお見舞いに行きたがっていたが無理に呼んだ。自習室は滅多に人が来ない。
これから行う事を誰にも邪魔されたくなかった。念のために私はお昼に自習室を貸し切るように先生に頼んだ。チャンスは一回しかない。
出来るだけ万全を期したい。
 
 私が自習室にはいると既につかささんが席に座ってまっていた。
みゆき「おまたせしました」

つかささんは私の声に反応した振り返ろうとした。
みゆき「振り向かないで、そのまま後ろ向きの姿勢でいて下さい」
つかさ「これじゃ話し難いよ、なんでこのままなの?」
みゆき「すみません許してください……、これからつかささんにいくつか質問をします、ですが、つかささんは一言も答えなくていいです、
     そのまま私の話を聞いているだけでいいですから、いいですね?」
私はあえてつかささんを後ろ向きにさせた。つかささんに何も答えさせたくなかった、うっかり事故を防ぐため、それに正面だとつかささんの顔を見ながら
話すとお互いに感情が湧き、話が続けられなくなる、そう思った。沈黙が続いた。つかささんは私の質問を理解してくれた。
みゆき「ご理解いただき、ありがとうございます……、つかささん、私は泉さんを助けたいと思っています、それにはつかささんの協力が不可欠なのです、
     でも……これにはかなりの危険が伴います、失敗すれば命の保障ができません、それでも、私の話を聞く覚悟はありますか、もし、
     少しでも疑問に思うのでしたら、私に話しかけて下さい……」
つかさ「……」
これでつかささんが拒否したら私はこの計画を中止する。かがみさんもこれから発病をするかもしれない。そしてわずかな時間かもしれないけど泉さん、
かがみさんと一緒に生きる時間を大切に過ごしたい……。つかささんは沈黙を守ったままだった。

みゆき「これからは後戻りできません、続けます……つかささん、図書室で『おまじない集』と言う本を探しませんでしたか」
つかさ「……」
つかささんのからだがピクリと震えた。これは最後の確認。つかささんはこれで驚いているはず。
みゆき「つかささんはもっと以前にその本を見て、おまじないを試しましたか」
つかさ「……」
これで私があの本を知っていることが分かったはず。
みゆき「その試したおまじないは『一緒のクラスメイトになるおまじない』ではなかったですか」
つかさ「……」
呪いの内容まで当てたようにつかささんに印象付けたかった。これで私の話に集中するはず。
みゆき「最後の質問です、そのおまじないの解き方を知りませんね」
つかさ「……」
なんの反応もない。やっぱりつかささんは最小限度の情報しか知っていない。
私の計画。まず私がつかささんに自分の呪いを解いてもらう、そして本を燃やしてもうらう。それだけではつかささんは本を燃やすことはできない。
呪いを解いたつかささんには別の本に見えてしまう。それをつかささんに教える。。つかささんが呪いを解けば今の私は消えても呪いを解いた私が
復活しているはず。その時つかささんは私が何故泣いたか本当の意味を知るに違いない。後は全てつかささんに任せる。
つかささんが本を置いてある場所を忘れていたら……そんな事はどうでもいい。 例えつかささんが失敗しても私は後悔しない。

 私はつかささんに説明した。途中、私が体験した呪いの出来事を話した。感極まって声が詰まりそうになった。
つかささんと正面で話していたら、顔を見ながら話していたら。私は話を続けられなくなっていた。

そして呪いの解き方を教えた。もう消えてもいい時間、最後につかささんが私には出来なかった素晴らしい事をした事を教えたかった。
みゆき「かがみさんから聞きました、かがみさんの自殺を止めたと、つかささんならきっと本を燃やすことが出来ると確信しています」

 突然目の前が真っ白になった。

 気付くと泉さんとかがみさんが立っていた。二人は人形のように静止していた。
周りを見ると駅前に居る。ここは……柊家最寄の駅……。駅に居る人々も同じく人形のように動いていない。いや人だけじゃない、電車も、車も、全てが
止まっている。
???「今、貴女は高校二年の二月に居ます、そして柊かがみと泉こなたと共に柊家に向かっています」
わたしは声のする方を向いた。ギリシャの神話に出てきそうな服を着た女性が立っていた。
みゆき「どちら様でしょうか?」
???「私は悪い魔法使いに封印された妖精、私は六千年もの間呪いの本に封印されていました、今、本は燃やされ封印は解けた」
みゆき「本が燃えた、それでは、つかささんは本を燃やしたのですね」
妖精「そうです、見事でした、貴女に多くの説明は無用なようですね、ペナルティを逆に利用するとは、今まで誰も思いつかなかった方法です、
    例え思いついても自分を犠牲にしてまで実行する人は稀でしょう」
私は泉さんとかがみさんの事が気がかりだった。

みゆき「妖精さん、教えてください、泉さんとかがみさんは今後どうなるのでしょうか」
妖精「……、二人の病気は本の呪いとは一切関係ありません、今後、二人は確実に発病するでしょう、しかし、呪いの影響で病気の進行が早くなったのは
    否定しません……今、柊つかさが私に同じような質問をしました、どうでしょう、貴女と柊つかさの勇気を称え、二人の病気を治してあげましょう」
みゆき「ありがとうございます、しかし、何故、今回、かがみさんは病気にならなかったのですか?」
妖精「柊かがみの発病の時期が遅れただけです、この世は同じ条件でも必ず同じになるわけではありません、貴女なら理解できるはずです、それより、一つだけ
    頼みたいことがあります、簡単な事です、それにこれは貴女しか出来ない事です」
みゆき「私に出来ることなら……」
妖精「燃やされた本は完全に灰にはなりませんでした、柊つかさが早く焚火を消してしまったのです、そして私は三日後にまたあの本に封印されてしまいます、
    もう私は封印されたくありません、自由でいたい、しかし私達妖精は私利私欲の為に力を使うことを禁じています、だから貴女に頼むのです」
この妖精さんは未来の事まで分かってしまう力を持もっている。そんな妖精さんを封印した魔法使いってどんな人なのだろうか。
妖精「私は日食の日は普通の人間になってしますのです、その時に封印されてしまいました」
私の心までも読んでいる。妖精さんと言うよりは女神様のような気がした。
妖精「貴女は焚火から離れる時、一言、柊つかさに言うのです、『まだ焚火が燻っていますね、消さなくていいのですか?』 と、柊つかさは全てが灰に
    なった事を確認するはず」
みゆき「それだけでいいのですか?」
妖精さんは頷いた。
妖精「忘れなさい、この本の関わることの全てを、そして、封印を解いたことにより開かれた新しい道を歩みなさい、貴女達にはその資格がある」


こなた「みゆきさん、みゆきさん」
みゆき「えっ?、何ですか?」
こなた「さっきから空見上げて、何か見えるの?」
空は青く透き通っていた。まるで今の私の心を映しているようだった。
みゆき「楽しい時も、悲しい時も、皆で分かち合う事ができたら、素晴らしいとは思いませんか」
かがみ「みゆき、いったい何を言ってるの?、やぶから棒に」
みゆき「えっ?、私、何故言ったのでしょうか?」
かがみ「みゆき、大丈夫か?、こなたの近くにいるからボケが移ったか」
こなた「かがみー、酷いよ……でも、さっきのみゆきさんの言った言葉、何故か心に響いたよ」
かがみ「……楽しい事だけの友達じゃ寂しいじゃない、さっ、行こうか、つかさが何か用意して待ってるらしい、メールがきたわ」
こなた「つかさの作ったデザートは美味しいからね、楽しみだ、って?、つかさが何で私たちより先に家に帰ってるの?」
かがみ「何故って……私達ゲームセンターで遊んで……つまらないから家にでもって……みゆき、つかさから何か聞いてない?」
みゆき「用事があるから……と言っていた気がしますが」
こなた「つかさが用事?、こんなに早い用事は、さては告白してふられたな……まっ、いいか、行こう!」

 先ほど何故あんな事を言ったのかは思い出せない。でも、泉さんとかがみさんの反応を見て分かった。掛け替えのない物を私達は手に入れたと。

 

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