ID:RPfLcVg0氏:ドア

今更言うまでもないが私は典型的なインドア派だ。
趣味は、ネット、ゲーム、マンガなどオタク趣味全開だし、時計の短針が3を回るころまで起きていることも珍しくない。
部活はやってこなかったし、友人とスポーツをしたりもめったにしない。
休日は家にいるか、オタク御用達のショップへ通う。
そしてなにより体育会系のノリは苦手である。

今更言うまでもないがみさきちは典型的なアウトドア派だ。
部活は陸上部。
それも大学に入っても続けるほどのレベル。
兄に連れられて小さいころからいろんなスポーツをやってるらしい。
休日も基本的には外に出かける。
かがみによるとマンガやゲームもするらしいけど、いまどき全くやらないって人のほうが珍しい気がする。
そしてなにより家でじっとしてられない性質なのだとか。

そんなわけで私とみさきちは、普通であったら交わらない性格であろうと思える。
実際、共通の友人がいて、同じ大学に行かなかったらここまで深くつきあうことはなかったと思う。
まったく縁とは不思議なものだ。

みさきち……
当然嫌いではない
苦手意識があるわけでもない。
かがみみたいにいじっても大丈夫だし、むしろ話しやすいと思う。
でも、なぜかみさきちとの間に隔たりのようなものを感じてしまうのは、その趣味の差があるからだ。

これから話すのはそんな風に考えていた、大学に入りたてのある日の出来事である。
とある金曜日、珍しく私もみさきちも真面目に講義に出席した時のことだった。



「なー、ちびっこ。フットサルのメンバーが足りないんだけど明日来ねぇか?」
「ふっとさる?」
「うん、兄貴の作ったサークルなんだけど。男女混合のチームで大会があるんだけど」
「え?そんなの私が出ていいの?」
「ああ、大会って言っても初心者向けのやつだし、ちびっこの運動神経なら余裕だぜ」
「うーん」
「頼むよ。人足りてないんだ。じゃ、よろしく!」
「ちょ、ちょ……待っ」

私の返事を待たずにみさきちは軽快な動きで教室を出て行った。
残された私は、突然の誘いにため息をつくしかなかった。

「ただいま~」
「お、こなた。おかえりなさい」

はぁ、私は思わずため息をついていた。

「どうした?こなた、元気ないぞ?」
「う~ん、まぁね」

私は、明日のことをお父さんに話した。

「いいじゃないか。若いうちは運動しておいたほうがいいぞ」
「そうかなぁ」
「お父さんも大学生のころは、体育館に忍び込んでバスケしたり、二年生の時、新入生になりすまして歓迎会でおごってもらったり、コミケのために体力づくりのマラソンやったりしたもんだ」
「いや、後ろ二つはいろいろおかしいでしょ!」

どこまで真面目なんだかわからない。

「まあでもせっかく誘ってくれたんだ。そういう縁っていうのは大切にしたほうがいいぞ」

「ま、こなたに予定でもあるんなら別だけどな」

予定は特にない。
バイトも入ってないしこのままいくと、また特に当てもなくオタクショップを散策するか、ネトゲに興じるかいづれかだろう。
有意義とはいいづらいかもしれない。
と考えていると、いつの間にかお父さんは、お父さんも、かなたとの縁があったから云々、と自分の世界に入っていた。
こうなるとお父さんの話は長い。



「あー、はいはい、貴重な意見をどうも」

適当に返事をしてリビングを出る。
後では、まだお父さんがぶつぶつ言っていたがまあいいや。

部屋のドアを閉めると、もうひとつため息をついて私はベッドに倒れこんだ。
体を動かすのは嫌いじゃない。
運動神経だって普通の人に比べればいいほうだと思う。
ただ、私は体育会系のノリがあまり好きじゃないのだ。
仲間内でスポーツをするのはいいが、見知らぬ人がいるとどうにも調子が狂う。

次の日、私は休日だというのに久しぶりに午前中に目を覚ました。

「泉さんだね、話は聞いてるよ。今日はよろしく」

大会が行われるという会場に着くといきなり男の人に声をかけられた。
はあ、これが……

「おっす、ちびっこ。これが私の兄貴な」

言われなくてもわかった。
顔の、全体的な形、目、鼻立ちなんかが良く似ていた。
それよりも私にとっては……
これが峰岸さんの彼氏かぁ……
ということしか頭になかった。

大会の参加チームはあんまり多くない。
トーナメント方式で三回勝てば優勝できるらしい。
なお、大会のルールで、1チームに二人以上は女子が入らなければいけないということだった。
なるほど、私と、みさきちと、あと一人……
あと一人?

「ちょっと待って、みさきち、私以外にもう一人女子がいるじゃん」
私は呼ばれる必要なかったんじゃ?
「ああ、何人かに声かけてたから。それにちびっこもその子も普段やり慣れてないから交代交代で出たほうがいいと思って」

まあ言われれば確かに万一三試合やることになったらスタミナ切れをおこす可能性は大だ。
代わりがいると思えば気も楽である。
そうこうしているうちにウォーミングアップがはじまった。

「ちびっこ、思った以上にうまいなー」
「そういうみさきちこそ」
「いやいや、初心者にしてはかなり上手いって!前にあやのを連れてきたときなんかボールから必死に逃げ回ってたんだぜ」
「あ~いるよねー。体育でサッカーやっても女子の方は別種目みたいになっちゃったり」
「あ、そういえばちびっこはスタメンだかんな」
「わかった」
「前半で交代の予定だから体力出しきっちゃっていいぞ」
「ありがたいね」


適度に体が温まったところで試合が始まった。
実際の試合は思った以上に楽だった。
相手とは大分実力の差があったからだ。
両チームの中でもみさきち兄が一番うまい。
みさきちも相手チームの男性陣にも劣らないうまさで、楽勝だった。
点差をつけて前半が終了した。
私の役目はひとまず終了である。

「ふー、楽勝だね」
「油断はまだできねーけどなー、ちびっこお疲れ」
「あんま動いてないけどね」
「体冷やさないようにしとけよ」
「ほーい」

後半も変わらず一方的な試合だった。
最後のほうは相手がかわいそうになってくるほどだった。

二回戦、今度も前半に出ていた私は、後半、ベンチで休んでいた。
チームも大差をつけて勝っていて、なんの心配もないと思われた。
そう思っていた矢先、事件は起きた。

「痛っ!」

私と代わって出ていた女の子が、急に足を押えてうずくまった。
相手と接触したときにひねったようだった。

「うわ~、腫れてるね」
「こりゃ、試合に出るのは無理だな」

全員の視線が私に集中する。
マジですか?
このあと私はフル出場を余儀なくされることになった。

結局そのあとは何事もなく勝ち進み、あとは決勝を残すのみとなった。
コートで行われている準決勝の第二回戦を見ながら私はある考え事をしていた。
私が家でネトゲをしてる時、マンガを、アニメを見てる時、みさきち達はこうやって汗を流している。
将来、昔何をしていたか聞かれた時、胸を張って答えられる青春を過ごしている。
私はどうだろうか……
オタクも一昔前に比べれば、大分偏見も減ったように感じる。
でも、いまだに肩身の狭い思いをするのは確かだ。
少しだけ……みさきちがうらやましくなった。



「何考えてんだ?ちびっこ」
「いや、みさきち達青春してるなーって」
「はぁ?ちびっこだって一緒にやってるじゃねーか?」
「まあそうだけどさ。なんていうか普段家に閉じこもってる私に比べて、みさきち達がまぶしく見えるっていうか」

みさきちは怪訝な顔をしていた。
そうしてしばらく考えてから、言った。

「私はそんなこと考えたこともないし、よくわかんないけど……今自分がやりたいことを一生懸命やってるだけだよ。ちびっこが思ってるほど立派なもんじゃないって。それにさ、ちびっこがアニメとかの話してる時もかっけーって思うぜ」
「なにそれ?」

思わずふきだした。
今までかっけーなんて言われたことがない。

「まあかっけーっていうか、すげー楽しそうだから、うらやましいって感じかな。何かひとつのことに情熱を注いでんのが」

笛の音が体育館に響いた。
準決勝の二試合目は大差がついていた。

「負けたくないね」

知らず知らずのうちにそう呟いていた。

決勝戦が始まった。
さすがに相手は強かった。
早いパス回しから隙ができるとどんどんシュートを打ってくる。
こっちもみさきちのお兄さんを中心に攻め込んでいくが相手の守りは堅く簡単には崩せない。
一進一退の攻防が続き、前半が終了した。

「はぁはぁ」
「大丈夫か?ちびっこ」
「……なんとか」

答えたものの相当にしんどい。
日ごろの運動不足がたたっているのか……
みさきちはさすがにまだ余裕がありそうだった。

「まああと後半だけだ。がんばろう」

ハーフタイム終了の笛が鳴る。
やけに休憩が短く感じた。

後半になると一方的に押し込まれる展開が続いた。
原因は明らか、スタミナ切れで私が動けなくなったからだ。
ほとんど戦力にならない。
事実上の5人対4人での試合。
不利になるのは当然だった。



「ちびっこ!」

みさきちが叫んだ。
ボールが私のところに転がってきていた。

「あ!」

足がもつれてボールが大きく私から離れた。
その隙を見逃すはずもなく、相手にかっさらわれた。
前がかりになっていた私たちのチームはカウンターに対応できず、失点した。

「どんまい!ちびっこ」
「取り返せばいいよ。泉さん」

みさきち達の励ましの言葉も耳に入らず、私はただ情けなくなった。
リードしたことで相手は守りを固めてきた。
なかなか攻めきれない。
もう残り時間がわずかになったところだった。
一瞬の隙を突いてみさきち兄妹の見事なコンビプレイから同点に追いついた。
相手ががっくりと肩を落とす。
私はそのとき後ろのほうで見事なプレイを眺めているだけだった。

「おい、ちびっこ」

試合が再開されるまでのわずかな時間に、みさきちが話しかけてきた。

「あきらめていーのか?」

いつか、高校3年のとき、合同のバレーボールの授業でみさきちがつかさに話しかけていたことを思い出した。
あのときもみさきちは力強い目で、つかさを勇気づける目で、語りかけていた。

「そうだね」

私は一つ深呼吸をした。

「やれるだけ、やってみるよ」



よおし、とみさきちは頷き私に耳打ちをしてきた。
試合が再開される。
私は前のほうから積極的に守備に参加する。
しかし、相手も技術が高く簡単にパスでかわされてしまった。
その先をみさきちが狙っていた。鮮やかにパスカット。
みさきちが顔を上げる。私と目が合う。

『私がとったら相手ゴールに向かって思いっきり走れ』

「ちびっこ!」

さっき耳元で囁いたとおり、みさきちはロングパスを送ってきた。
一回戦で私に出してきたのと同じ、ぎりぎり届くか届かないかの厳しいパス。

私は走った……

肺が空気を欲しがる。
心臓が暴れまわる。
足は言うことを聞いてくれない。
それでも走るしかない。

相手キーパーも前に出てきている。
なんとか先に触ろうと精一杯足を伸ばした。
フロアに倒れこみながら、視界の端に、キーパーの横をすり抜けゴールに吸い込まれていくボールを確認した。

そして試合終了を告げる笛が鳴った。
大きな歓声が場内に反響して耳に飛び込んできた。
誰のものかわからない声が次々と私に投げかけられ、歓喜に沸くチームメートにもみくちゃにされた。、
その中で私は、今まで感じたことのない充実感を味わっていた。



帰り道、私はふらふらと危うい足取りで歩いていた。

「だらしねーなぁ。そんなに動いてないだろー」
「そうだね、日ごろの運動不足を体感したよ」

みさきちは余裕そうだ。
やはり普段の鍛え方が違うのだろう。

「まあでも今日は付き合ってくれてありがとな」
「いいよ。私も……」

楽しかったし。
そう言葉にするのがなんか照れ臭かった。
それにやっぱり私は体育会系のノリが苦手だ。
体もふらふらだし、明日の筋肉痛を思うと憂鬱になる。
でもまぁ……

「あのさ……」

みさきちが振り返った。

「たまにはいいもんだね、体動かすのも……。また、誘ってよ」

ほんの少しだけ、ドアを開けてみただけだけど、
みさきちがスポーツが好きな理由も少しは理解できた気がした。
やっぱり私はドアの内側がいいと思ったけど、
たまには、外側に出てみるのも悪くないと思った。

おう!と八重歯を見せて笑ったみさきちの顔は輝いていた。

「じゃあまた来週やるか?」
「えっ……それはちょっと」
「なんだよ、軟弱だなぁ」

私たちの笑い声が夕日で赤く染まった町に響いた。
その日、私とみさきちは、親友になった。





後日、みさきちは私に連れられてコミケに参戦するも、午前中で音を上げてしまい、私に「軟弱だなぁ」と言い返されることになるのだが、それはまた別のお話。


コメント・感想フォーム

名前:
コメント:
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。