ID:hgTk2rc0氏:つかさのネタノート(ページ1)

ひより「うーん」
一言唸る。・・・ネタが出ない。気分転換でお風呂に入ったり、
運動もしてもみた。空しく時間ばかりが過ぎていく。今夜も徹夜かな・・・。

ゆたか「おなよう、田村さん・・・どうしたの、顔色悪いよ」
小早川さんにそう言われるとは・・・
ひより「いやー、徹夜でネタ考えたんだけど、全然浮かばなくて・・・」
ゆたか「大変だね、私で何か手伝えることあるかな」
手伝える事?・・・何かどこかで聞いたことがあるような・・・なんだろ
ひより「これは自分との闘い・・・人からどうこうされても・・・」
ゆたか「そうだよね、余計なこと言っちゃったね」
・・・っとは言っても小早川さんと岩崎さんにはいつもお世話になっちゃってる。
今回も二人のネタで行くしかないのかな・・・。
そんな話をしていると岩崎さんが教室に入ってきた。
みなみ「おはよう・・・田村さん、ゆたか」
ひより・ゆたか「おはよう」
みなみ「田村さん、顔色悪い、保健室へ・・・」
ひより「いや、大丈夫、昨夜徹夜しから」
ゆたか「漫画のネタを考えてだって」
みなみ「そう・・・私は力になれそうにない」
ひより「二人とも、もう気にしないで」
私は話題を変えようとした。
みなみ「ここ最近、何か物足りないさを感じる・・・何だろう」
突然岩崎さんが話し出した。自分から話し始めることは滅多にないのに。私は驚いて岩崎さんの顔を見た。
ゆたか「みなみちゃんもそう思うの?、私も最近何か物足りなさを感じて」
小早川さんまでもが同じ事を言い始めた。シンクロにしては出来すぎてる。
ひより「物足りない、って何が」
ゆたか「そう言われると・・・何だろう、みなみちゃん分かる」
みなみ「私も漠然としているだけで、分からない」
二人は見合ったまま首をかしげた。
ゆたか「田村さんは何も感じない」
ひより「何も感じないけどね」
ゆたか「そういえばこなたお姉ちゃんも昨日同じような事言ってた」
ひより「泉先輩も?、それはきっとそろそろ卒業が近いからじゃないの」
私の言葉に二人は納得しないような表情をした。そこにチャイムが鳴り、先生も入ってきた。
ここで話は途切れてしまった。この話は少し興味があったけどそれ以降放課後までこの話は話題にならなかった。

 放課後、部室に着くと先輩が私を睨みつけて迎えた。
こ う「ひよりん、部誌の原稿はもうできた」
この言葉に私の身は凍りついた。
こ う「その表情だとまだみたいね」
ひより「昨夜徹夜したけど・・・だめだったっス」
先輩は呆れた顔をした。
こ う「もう締め切り近い、分かってるでしょうに・・・」
先輩のお小言が始まった。しばらく黙って落ち着くのを待つしかなった。しばらくすると言い疲れたのか、先輩は一息ついて席に座った。
こ う「いっその事、以前言ってたネタ帳使ったらどうなの」
ひより「ネタ帳?」
こ う「・・・以前言ってなかったっけ、先輩からネタ帳もらったって・・・」
ひより「先輩から・・ネタ帳?・・・泉先輩っスか?」
こ う「名前は聞いてないから知らないねぇ、あれ、気のせいだった?、みかんで手が黄色くなるのとか言ってたでしょ」
なんの事だかさっぱり分からない。先輩と言えば八坂先輩と泉先輩くらいしか思い当たらない。
こ う「まあいい、明日までに原案だけでも出しなさいよ」

 結局、部活が終わっても原案すら提案できなかった。もう一晩徹夜するしかない。悪夢だ。
帰り道ふと思い出した。先輩のネタ帳の話。泉先輩からそんなノートをもらった覚えもない。それに、にそんなノートがあったらとっくに使っている。
先輩の勘違いだ。今の私にこんな事を考えている余裕はない。家路を急いだ。

 家に着くなり自室の机に向かって原案を考える・・・思いつかない。夕食も食べずに考えた。だめだ。
こうゆう時は漫画を呼んでインスピレーションを膨らますしかない。本棚の漫画に手をかけた時だった。
一冊のノートが本棚からこぼれ落ちた。拾って表紙を見た。

『つかさのネタノート』

 タイトルはそう書いてあった。つかさのネタ帳・・・つかさって誰だ、まったく覚えがない。ノートを広げてみた。いつこんなノートを誰から貰ったのだろうか。
先輩の言っていたノートってこの事を言っていたのだろうか。
つかさ・・・聞いたこと無いし会ったこともない・・・更にノートをめくっていった。
・・・つかさ・・・何か引っかかる。今朝の岩崎さん達の会話を思い出す。そういえば何かが足りない。何だろう。
私は考えた。つかさ・・・つかさ・・・柊・・・つかさ・・・ん?
柊つかさ・・・つかさ先輩。確か泉先輩のクラスメイト。そして、お姉さんのかがみ先輩・・・高良先輩・・・
なんてことだ、今までの私の記憶につかさ先輩が居なかった。今までとは違う記憶が私の脳裏に浮かんだ。三年は泉先輩以外赤の他人。

 その時私はとんでもない事になっていることに気が付いた。
人が一人完全に忘れ去られている。その存在すら忘れられている。まさか・・・最後につかさ先輩に会った時の事を思い出した。

 数ヶ月前の事だった。小早川さんの家、つまり泉先輩の家に遊びに行った。その後につかさ先輩も遊びに来たんだた。遊びだったかな・・・よく覚えていない。
しかし、小早川さんも泉先輩も丁度買い物に行っていておじさんに居間で待つように言われたのだった。
そこで二人で何気なくした会話・・・
つかさ「最近は漫画の調子はいいの?」
ひより「・・・今回は順調に進んでます」
こう言う以外に選択肢はなかった。ネタ切れなんて言ってつかさ先輩のネタを使わされたら・・・。
つかさ「私のネタ、使ってもいいからね」
つかさ先輩は私の手に持っているノートを見た。
つかさ「嬉しい、私のノート使ってくれてたんだね」
あの時、持ってきたノートは自分のネタ帳のはずだった。暇対策でネタを考えていた時に丁度つかさ先輩がきたんだった。
ひより「これは・・・参考資料に・・・」
つかさ「ひとつネタ思いついたんだけど」
ひより「何ですか」
つかさ「もし、誰か突然居なくなったらどうなるだろうって」
ひより「えっ?」
つかさ「ネタにならないかな、例えば・・・私が突然居なくなるの、そしてそれを誰も気が付かない」
つかさ先輩はノートを取り、書き出した。
ひより「あまりに唐突で、何も思い浮かびません」
つかさ「そっか、唐突か・・・私ってお姉ちゃんの足ばっかり引っ張ってるし、居ても居なくてもあまり変わらないような気がして」
ひより「考えすぎのような気が、私も兄がいますけど、兄妹、姉妹ってそんなものかもしれない・・・」
つかさ先輩の手が止まった。
つかさ「そっか、考えすぎだよね」
つかさ先輩は私にノートを返した。
つかさ「でも一度試してみたい、私が居なくなった世界はどうなってるか、今とそんなに変わらないような気がする」
ひより「平行世界ですか、人一人居なくなると大きく世界は変わるって聞きますけど」
つかさ「ひよりちゃん、もし、居なくなっても、私の事、思い出してね」
ひより「つかさ先輩が居なくなったらすぐに分かりますよ、私的には存在感ありますよ、かなり」
つかさ「そう言ってもらえると嬉しいな」

 この会話の後どのくらいしたかな泉先輩と小早川さんが帰ってきて・・・あれ?
そういえばあの後のつかさ先輩を知らない。それどころかみんなつかさ先輩が居たこと自体を忘れている。
まさか、つかさ先輩の言った通りの事が起きてしまった。そう考えるしかない。このノートもしかして。
ノートを見回した・・・値札の跡が着いている。どこにでも売っている大学ノート。
ノートが原因かと思ったけど違うようだ。つかさ先輩が書いた『私が居なかったら』の字を消しゴムで消そうとした。
消えない。どう見ても鉛筆で書かれているのに。やっぱりこのノートが怪しい。
私の知る限りこういった呪いの類は本を燃やせば解ける。燃やしてしまおうか・・・いや、待て。
燃やしてしまってもし解き方が違ってたら、永遠につかさ先輩は戻って来れない。どうする。
そういえば・・・先輩はネタ帳の存在を覚えていた。そうかあのネタ帳がつかさ先輩の物って知らないから記憶が消えなかったのか・・・
数ヶ月も忘れていたなんて。つかさ先輩との会話で言ってた事が恥ずかしい。とりあえずノートを燃やすのは止めよう。いつでも出来る。
でも何で私だけつかさ先輩の事を思い出せたんだろ?。

 自分の中で想像がどんどん膨らんでいくのを感じた。部誌の締め切りの事を忘れつかさ先輩の呪いの解き方を永遠と考えていた。
とりあえず朝になったら小早川さんと岩崎さんにこの事を話そう。まずはそれからだ。気が付くと窓が明るい。朝が来てしまった。

 学校に着くと早速小早川さんと岩崎さんにつかさ先輩の事を話した。
ゆたか「つかさ・・・先輩?」
みなみ「柊つかさ?」
ひより「そう、泉先輩と同じクラスの」
二人は見合って首をかしげた。
ひより「昨日、何か物足りないっていってたじゃん、きっとつかさ先輩のことだよ」
ゆたか「つかささん、聞いたこともないし、お姉ちゃんにそんな名前の友達居たなんて聞いてないよ」
ひより「ほら、双子で違うクラスにかがみ先輩も居るでしょ」
みなみ「かがみ・・・先輩?」
二人はまた見合って首をかしげた。かがみ先輩も知らない。何で?・・・そうか、今はつかさ先輩居ない事になってたんだ。
泉先輩とかがみ先輩は三年間同じクラスになったことがない。つかさ先輩が居ないから出会う接点がないんだ。
ゆたか「んー、いくら思い出しても柊つかささんって人思い浮かばない」
みなみ「私も」
二人はまったく思い出せない様、名前を出せば思い出せると思ったのに。これじゃつかさ先輩は私の想像だけの人物になってしまう。
つかさ先輩がリボンをつけていた事、料理が得意な事等、思い当たる特徴を言ってみたが効果はなかった。空しく授業の始まるチャイムが鳴った。

 一時限目の授業が終わる頃だった。突然二人は立ち上がった。
ゆたか・みなみ「つかさ先輩!」
叫んだ。クラスメイトの視線が二人に集中する。二人は周りを見渡し顔を赤らめた。
先生が二人を注意しようとした時、授業終了のチャイムが鳴った。

 チャイムが鳴り終わる前に二人は私の座る席に駆け寄ってきた。
ゆたか「つかさ先輩、思い出したよ、お姉ちゃんといつも一緒にいた」
みなみ「お姉さんのかがみ先輩といつも一緒に登校してた」
私は昨夜のノートの話をした。
ゆたか「そのノートの呪い?」
ひより「ノートの呪いか、つかさ先輩自身の想いがそうさせているのか、昨夜考えた限りだとこの二つしか思いつかない」
みなみ「これからどうする?」
ひより「ノートが原因なら燃やしちゃえばいいような気がするけど、つかさ先輩が原因なら・・・それに関係する人の記憶を蘇らせばいいような気がする」
ゆたか「つまり、お姉ちゃん、高良さん、かがみ先輩の記憶を?」
私は頷いた。
ひより「とりあえずお昼、泉先輩のクラスに行ってみようと思うけど・・・」
ゆたか「あっ!、お姉ちゃん今日お弁当忘れててお姉ちゃんに渡そうと思ってたんだ」
みなみ「私も行く、みゆきさんならきっと力になってくれる」

 お昼休み、私達三人は泉先輩のクラス三年B組に向かった。
教室に着き、中を覗いてみて私達は顔を見合わせた。泉先輩と高良先輩はそれぞれ自分の机でお昼ご飯を食べていた。
ゆたか「あれ、お姉ちゃんと高良先輩・・・一緒にお昼食べてない、それにかがみ先輩は?」
ひより「つかさ先輩を思い出す前、どうだった?」
ゆたか「・・・お姉ちゃん高良先輩の話したことない・・・かがみ先輩も家に遊びに来たことない・・・」
泉先輩は小早川さんに気付いた。それとほぼ同じく高良先輩は岩崎さんに気付いて教室の入り口に来てくれた。
ゆたか「お姉ちゃん、ごめんなさいお弁当持ってきたんだけど・・・お昼前に渡せなくて」
こなた「忘れたの私だし、それより三人も来てどうかしたの」
みゆき「みなみさん、何か御用ですか」
みなみ「ここでは話せないので、お昼食べ終わったら屋上へ」
ゆたか「お姉ちゃんも、いい?」
二人は不思議そうな顔をして了解した。

 屋上へ向かう途中隣のクラスの三年C組を通ったので何気に中を覗いた。かがみ先輩が居た。クラスの友達と楽しそうにお昼を食べていた。
かがみ先輩のトレードマーク、ツインテールをしていない。長い髪の毛をそのまま下ろしていた。
かがみ先輩と話している友達は・・・峰岸先輩と日下部先輩。この様子だと泉先輩と高良先輩はこの二人とも会っていない。
本当はかがみ先輩達も呼びたかったけど、私達の事はまったく知らない他人、呼び出方すら分からない。今は泉先輩と高良先輩の事に集中しよう。

 屋上に着くと私達はそこでお昼ご飯を食べた。
ゆたか「私、屋上に来る途中かがみ先輩を見かけたけど、なんか感じが違ってた」
みなみ「私も見た」
ひより「もしかしたら、かがみ先輩が一番難しいかも、どうやってつかさ先輩の事を伝えるのか思い浮かばない・・・かがみ先輩実はあなたに双子の妹が居ます・・・なんて言えない」
突然会話が止まってしまった。沈黙がしばらく続いた。

 ほどなくして泉先輩と高良先輩はほぼ同時に屋上に来てくれた。私は二人につかさ先輩の事を話した。二人はしばらく黙っていた。
こなた「私のクラス、席が一つ空いてたんだよね、私ずーと不思議に思ってた」
ゆたか「それだけ?」
こなた「それだけって?」
ゆたか「お姉ちゃん、つかさ先輩とは親友だよ、お姉ちゃんのことをこなちゃんって言ってた、高良先輩のことをゆきちゃんって言ってった」
泉先輩は顔を赤らめた。
こなた「こな・・・、恥ずかしいな、そんな風に言われるの・・・、柊つかさ・・・思い出せない、ってか記憶にないよ」
ひより「高良先輩はどうです?、何か感じますか」
高良先輩は目を閉じて瞑想でもするように考えていた。
みゆき「ゆきちゃん・・・何か懐かしい響きですね」
みなみ「思い出しそう?」
みゆき「いいえ、残念ながら全く」
岩崎さんが悲しい顔をした時だった。
みゆき「柊つかささん、私と泉さんととても親しい関係だったとすると、私と泉さんも今より親しい関係になっていたと思いますが」
ひより「お昼、一緒に食べていました」
こなた「私と高良さんが?」
みゆき「柊つかささんが居て私と泉さんが親しく成りえた、縁とはそんなものです、もしかしたら私達はその人の縁が消えた為に失った縁があるかもしれませんね」
さすが高良先輩。私は感心してしまった。
ひより「隣りのクラスからもお昼を食べに来た人が居たんだけど・・・」
みゆき「・・・もしかして柊かがみさんですか」
ひより「そ、その通りです、記憶蘇ったのですか」
こなた「うわ、成績学年トップの・・・信じられない」
みゆき「柊つかささんは相変わらず知りません、苗字が同じ人が居たので言ってみたのですが・・・双子の姉妹でよろしいのでしょうか」
ひより「そうです、そしてそのかがみ先輩のクラスの友達とも交流がありました」
みゆき「興味深いですね、貴方方の記憶にある柊つかささんは確かに実在していたようですね、しかし、私を含め全ての人がその存在を忘れてしまっている、
    田村さん・・・でしたね?、どうして柊つかささんの存在を知ったのですか」

 そっか、高良先輩は私と小早川さん初対面。泉先輩と高良先輩に交流がないから岩崎さん以外は知らないんだな。岩崎さんが来てくれて助かった。
私は数ヶ月前の出来事とノートの話をした。
みなみ「不思議な話・・・」
ゆたか「それ、覚えてる、つかさ先輩と田村さんが来るのが重なった日だよね、お姉ちゃんと一緒に買い物に行った時だ」
こなた「・・・そんなことあったっけ???」
泉先輩は腕を組んで考え込んだ。
みゆき「・・・柊つかささんの行為から察すると、柊かがみさんと何かあったのではないでしょうか」
ひより「何かあった?、何でしょう?」
みゆき「そこまでは分かりませんが、私は喧嘩だったと思います」
確かに、自分が居なくなったらなんて考えるのはそんな時くらい、ますます高良先輩に感心してしまった。

 昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。
みなみ「時間・・・」
ひより「もう時間、高良先輩、泉先輩、来てくれてありがとうございました」
みゆき「いいえ、何も思い出せなくてすみませんでした」
こなた「んー、全く思い出せない」
私達は屋上を後にしようとした。
こなた「あ、ひよりん、その柊つかさってどんな人なの」
私、小早川さん、岩崎さん、三人で顔を見合わせた。
ひより「えーと、なんて言ったらいいのか、料理が得意で・・・」
私達はまごついてしまった。
みゆき「とても素敵な方だと思います、こんなに親身なっている人が三人もいらして・・・それに、柊さんが私のクラスにお昼を食べに来るなんて・・・」
ひより「かがみ先輩と何かあるのですか?」
みゆき「いいえ、気にしないで下さい」
みなみ「行こう、授業が始まる」
私達は屋上を後にした。

 教室へ戻りながら私達は話した。
ひより「岩崎さんが来てくれたのは正解だったね、私じゃ高良先輩は呼べなかったかもしれない」
みなみ「いいえ、私は何も・・・つかさ先輩・・・戻ってこれるのだろうか」
ひより「分からない、でも、とりあえずつかさ先輩と親しい人の記憶を戻していけば何か分かるかもしれない」
ゆたか「それしかないね」
教室に戻ると授業の始まるチャイムが鳴った。

 放課後、私は部室に入った、先輩と目が合ったとき、部誌の原案の事を思い出した・・・
こ う「ひより、原案はもう出来てるでしょうね」
昨日よりも口調が荒い。つかさ先輩の事でそんな事を考えてる余裕はなかった。
ひより「昨夜も徹夜した・・・っス」
こ う「どうする、今回は部誌諦めるかな・・・ん?、ひより、その手に持ってるノートは?」
ひより「これは・・・」
つかさ先輩のネタ帳、私はそれを持っていた。
こ う「なんだ、ネタ帳じゃない、見せなさい」
ひより「いや、こっ、これは・・・」
隠す暇もなく取られてしまった。先輩はノートをめくる。しばらくするとページをめくる手が止まった。
こ う「・・・いいネタだ、これいいじゃない」
ひより「へ?」
このノートでそんな事を言われるとは思わなかった。
こ う「この最後の項・・・忘れ去られた少女の物語」
最後の項、つかさ先輩の書いた『私が居なかったら』の後に私が今までの経過を書いてまとめておいた。それを読んで言っているのかな。
こ う「・・・なんだ途中じゃないか・・・でもなんかインスピレーションが湧いてきた」
ひより「それは、原案じゃなくて・・・」
いや、本当の事と言っても信じてくれない、ってか先輩は私の話を聞いてない。ノートを目を輝かせて見ている。
こ う「どうだろ、ひよりんのこのネタをお題に私がストーリ作る・・・合作という事で」
ひより「私は・・・構わないっス・・・」
こ う「んー、このストーリだったら漫画より小説が良さそうだ、・・・長編になりそう、ひよりの枠がなくなるかも」
お、これは都合がいいかもしれない。このノートがこんな所で役に立つとは。
こ う「挿絵をお願いするかも・・・ノートはもういいや、そこに置いておくよ」
この言葉を最後に先輩は机に向かって考え始めてしまった。私も机に向かった。挿絵か・・・どうせならつかさ先輩をモデルにするかな。
私はつかさ先輩の姿を思い出しながら何枚かの絵を描いた。写真でもあればもっといいのが描けたかもしれない。
下絵を描き終わった頃、終業時間を告げるチャイムが鳴った。


 それから一週間が経った朝、教室に入ると岩崎さんと小早川さんが私の所に寄ってきた。
ゆたか「田村さん、高良先輩、つかさ先輩の事思い出したって」
あの時の様子だと思い出すのは時間の問題と思っていた。でも思い出すのに一週間もかかるなんて。
みなみ「お昼休み、図書室に来て欲しいって言っていた、もし持っていたらきていたらノートも一緒にと」
高良先輩になにかいい案でもあるのであろうか。なにか希望の光がさしてきたような気がした。

 お昼休み、私達は図書室に向かった。図書室に入ると、高良先輩と泉先輩が親しそうに会話をしていた。
ひより「お待たせしました、泉先輩も・・・先輩も記憶が戻ったのですか」
こなた「いやー私は、さっぱり、でもみゆきさんが来て欲しいって言うから」
ん?、泉先輩、高良先輩の事をみゆきさんって呼んでいる。この短期間に二人の関係はつかさ先輩の居た時と同じになってる。
みなみ「どうして記憶が戻ったのですか」
みゆき「昨日、私、眼鏡を壊してしまいまして、授業の殆どノートが取れなかったのです、泉さんにノートを借りたのですが、
    何故か同じ状況、もう一人誰かから借りた事があったような気がしていたら・・・思い出しました、ところで早速ですが
    ノートはお持ちですか?」
私は持ってきたノートを高良先輩に渡した。高良先輩は最初のページをめくって見た。
みゆき「やはり、この筆跡はつかささんのですね、丁寧で綺麗な字・・・」
懐かしそうにそう言うと高良先輩はノートを泉先輩に渡した。
みゆき「これがつかささんの字です、何か思い出しませんか」
こなた「確かに丁寧な字だね、私とは大違いだ・・・・」
泉先輩はノートを立てにしたり横にしたり見ていた。
こなた「・・・何も思い出せない・・・私は柊つかさに対してそんなに思い出がないのかな」
泉先輩は高良先輩にノートを渡した。
みゆき「そんなことありません、気長に思い出して下さい、所で皆さんをここに呼んだのは、かがみさんの事です」
ゆたか「かがみ先輩、この前・・・随分感じが違っていたけど」
みゆき「そうです、学級委員の会議で何度も会っていますけど・・・思い出のかがみさんとはまるで別人です」
こなた「その人、確か柊つかさの双子の姉妹って言ってたよね、姉なの妹なの?」
みゆき「かがみさんが姉ですね・・・」
こなた「ふーん」
泉先輩はあまり興味なさげに気のない声を出した。
みゆき「実は今朝、私はかがみさんに放課後、屋上に来るように言ってあるのです」
ひより「つかさ先輩の事を話すのですか」
みゆき「そうです」
私はかがみ先輩につかさ先輩の事を話す自信がない。なんて言い出していいのかも分からない。
ひより「私・・・話す自信が・・・」
みゆき「かがみさんには私から話します、今の状態で一番かがみさんの事を知っているのは私です、田村さんは私の隣に」
ゆたか「私達はどうすればいいですか」
みゆき「あまり大勢ですと不審に思われるかもしれません、屋上の給水タンクの陰に隠れて下さい、泉さんも」
こなた「私も行くの?」
泉先輩は驚いた顔をした。
こなた「あの人苦手・・・合同の体育の授業でもなにかとムキになってくるし・・・この前の百メートル走の時だって・・・」
みゆき「私とかがみさんの会話から記憶が蘇るかもしれません、今はあらゆる可能性を試すしかありません」
高良先輩・・・何か危機迫るような迫力を感じた。かがみ先輩と話すのはそんなに大変な事なのだろうか。
俗に言うツンデレ、メリハリがあったには確かだけど、いつもは笑顔が絶えない人だった。
このつかさ先輩の居ない世界でかがみ先輩がどんな別人になったのか、興味が湧いてきた。
 
 放課後、約束に時間より早く屋上に向かうとみんなは既にスタンバイ状態だった。高良先輩が私に気付くと、
みゆき「田村さん、私、一人でかがみさんと話したいので、田村さんも隠れていただけますか」
ひより「別に私は、それでもいいですけど」
私は泉先輩達が居る給水タンクの陰に移動した。

 かがみ先輩は時間通り現われた。この前見たのと同じ、ツインテールをしていない。高良先輩が言うより早くかがみ先輩が切り出した。
かがみ「高良さん、私を呼ぶなんて珍しいわね、しかもこんな所に、よほど周りに知られたくないことかしら」
かがみ先輩はすこし不機嫌そうだ。きつい言い方。
みゆき「すみません、ここにお連れしたのは、御察しの通りです」
高良先輩は深々と頭を下げた、かがみ先輩は少し口調を和らげて話す。
かがみ「何かしら、委員会の事、それとも他に何か?」
みゆき「・・・約三ヶ月前の事です、私達に重大な出来事が起きました」
かがみ「重大なこと?」
かがみ先輩は首を傾げた。高良先輩はさらに続ける。
みゆき「何かが抜けたような、喪失感、私はそんな気持ちに・・・」
抽象的な言い方・・・そうか、高良先輩は誘導尋問みたいにつかさ先輩の記憶を引き出そうとしている。直接言えば現実的なかがみ先輩のこと、
現実離れした話を否定するに違いない。すごい、高良先輩はそこまで考えているのか。
かがみ「喪失感・・・」
かがみ先輩は腕を組み、やや上を見上げ考え込んだ。
みゆき「三ヶ月前、私と柊さんの間に大きな溝が出来てしまいました・・・」
この言葉にかがみ先輩は反応した。
かがみ「・・・思い出したわ、三ヶ月前、確かに高良さんと大きな溝ができたわね」
みゆき「思い出しまたか?」
かがみ「三ヶ月前、成績順位が私と高良さんとが入れ替わった」
みゆき「えっ?」
かがみ「喪失感・・・確かに・・・高良さん、私に負けたのがよほど悔しかった、そういうことね」
みゆき「私はそんな事は・・・」
かがみ「こんな所に呼び出して、そんな事を言うために、大人しそうに見えて侮れないわね」
うわ、これは・・・話が違う方向へ、高良先輩はいきなりシドロモドロになってしまった。そこにかがみ先輩は追い討ちをかける。
かがみ「私もこの二年間、あなたに負けっぱなしで喪失感を味わったわ、次のテストだって負けない、宣戦布告として受け取るわよ」
かがみ先輩と高良先輩いつも成績は学年トップクラス、ライバル関係だったとしてもまったく違和感ない。むしろこれが自然なんだろう。
つかさ先輩はこの二人をライバルではなく親友にしてまったのか。この状況を見てそう確信した。
かがみ「果し状は受け取ったわ、お互い悔いのないようにしたいわね」
かがみ先輩は高良先輩に背を向け屋上を出ようとした。
みゆき「待ってください柊さん」
かがみ先輩は立ち止まり振り返った。
かがみ「まだ何か?、もう話すことはないわよ」
みゆき「私の言い方が抽象的で誤解を生んでしまいました、私は柊さんの記憶を取り戻そうと、その為に・・・」
かがみ「私の記憶・・・そっちの方が分からない、私の何を知ってるのよ」
高良先輩は目を閉じ、両手を胸元で組んで一度深呼吸した。祈っているように見えた。そして目を開けたと同時に・・・
みゆき「柊つかさ・・・この名前を聞いて何か感じませんか」
かがみ「柊・・・つかさ・・・苗字が私と同じ、そんな子聞いたことない」
みゆき「目を閉じて、深く、深く、思い出して下さい、柊さん、貴方の双子の妹です、三ヶ月前までこの学校に居ました、私のクラスメイトです」
かがみ「・・・っぷ・・・ふふふ、」
かがみ先輩は吹き出して笑った。そして腹をかかえて大笑いした。
かがみ「何を言い出すかと思えば、私には二人の姉がいるけど妹なんか居ないわよ」
みゆき「不思議な事が起きました、私の記憶には、柊つかさ、が居るのです、その方は私の親友でした・・・そして柊さん、貴方はその妹とお昼を食べに
    度々私の教室に訪れています、そして、私たちと一緒に食事を・・・」
かがみ「・・・高良さん、大丈夫?、そこまでいくと妄想を通り越して幻覚でもみてるんじゃない、それに私はね例え妹が居ても
    高良さんと一緒になんか食事はしないわよ、さっきの会話で分かるでしょうに」
みゆき「これはつかささんが書いたノートです、これが唯一残されたつかささんの居た証拠です」
高良さんがノートを差し出すと黙ってかがみ先輩は受け取った。そしてパラパラとめくって中をみた。
その間高良さんはつかさ先輩が居なくなった経緯を話した。

かがみ「取って付けたような話じゃないことだけは認めてあげる、高良さん、文芸部にでも入れば、きっと賞が取れるわよ」
かがみ先輩は話をまともに聞いてない。棒読み。感情が入っていない。
みゆき「かがみさん、一年の頃からつかささんといつも一緒でした、登校も、下校も、いつも二人とも笑顔で私達に・・・楽しい日々でした、
    そして、かがみさん、泉さんと親友になられて・・・」
高良先輩は切々とつかさ先輩との思い出を語りだした。よく見ると目が潤んでいる。いや、目から涙が出ているのが分かった。
つかさ先輩を助けたい。高良先輩のこの気持ちが私にも伝わってくる。高良先輩に比べれば私はゲーム感覚であった。今になって事の重大性に気付いた。
私、泉さん、小早川さん、岩崎さん、ただ黙って二人を眺めていた。私も高良先輩と同じくつかさ先輩の事を知っているのでもどかしい気持ちになった。

かがみ「もうそんな作り話聞きたくない」
強い口調で高良先輩を止めた。
かがみ「宣戦布告したと思えば、今度は泣き落とし、高良さん、貴方が分からなくなったわ、それに、泉さん・・・
    あの人も高良さんと同じく友達になれるとは思わない、 もういいでしょ、私はもう帰るわよ」
再びかがみ先輩は屋上を出ようとした。
みゆき「かがみさん」
かがみ「そんな呼び方止めて、高良さんらしくない、・・・・仮に、その話が本当だとして私にどうしろと言うの」
高良先輩は何も言わなかった。
かがみ「私のクラスには中学時代からの友人がいる、家族も父と母、姉が二人いる、もうそれで私は満足、・・・私の記憶をどうこうして何のつもりなの、
    この世界に居ない人間をどうするつもりなのよ」
高良先輩は何も言わない。多分言えない。私にも言い返す言葉が見つからなかった。
かがみ「高良さん、私達にはそんな事を考えている時間はないはず、もうすぐ受験、現実は厳しいわよ」
高良先輩はひざを落としてしまった。かがみ先輩はそんな高良先輩を見て気の毒に思ったのか肩に手をかけて、ノートを返した。
そして・・・そのまま屋上を後にした。

 かがみ先輩が視界から消えると私達は一斉に高良先輩に駆け寄った。
みゆき「私は何もできませんでした、私一人でだなんて、あまりにも無謀でした」
ひより「私が側にいても、ただ傍観していただけでした」
高良先輩は私にノートを渡した。
みなみ「そんな事は、きっとかがみ先輩の心に残ったと思います」
こなた「みゆきさん・・・」
ゆたか「高良先輩のつかささんへの思い、きっとかがみ先輩に届いたと思います」
みゆき「私は、つかささんだけでなく、かがみさんまで失ってしまうのですね」
高良先輩の涙は止まっていなかった。私達の言葉はなんの慰めになっていなかった。

 膝をを落とした高良先輩を泉先輩が起こしてあげた。
ゆたか「かがみ先輩・・・確かに私の知っているかがみ先輩とは違う気がする」
みなみ「私にはそうは思わない」
ゆたか「そう?」
みなみ「つかさ先輩の話の反応は、かがみ先輩でなくても似たよなものになる、むしろ私達の反応の方が稀」
ゆたか「・・・でも、私は田村さんに言われたとき、自然に受け入れられた」
みなみ「それは、田村さんが私達と親しいから、高良先輩とかがみ先輩は委員会が同じだけで、それほど交流してない」
ゆたか「それじゃかがみ先輩と親しい人から言ってもらえれば少しは違うのかな」
みなみ「親しい人・・・峰岸先輩、日下部先輩、あとはかがみ先輩のお姉さん、ご両親・・・」
かがみ先輩の家族は論外、峰岸先輩、日下部先輩、つかさ先輩の居なくなったこの世界では私達に何の接点もない、おそらく泉先輩、高良先輩も、
ひより「さっきの岩崎さんの話を参考にすると、それだとかがみ先輩より話し辛いくない?」
行き詰ってしまった。何をしていいのか分からない。
こなた「柊さん・・・本当に私と親友だったの」
私達は泉先輩の方向を向いた。
こなた「みゆきさんとの会話で、私とは友達になれないって・・・」
ゆたか「それは・・・本当のお姉ちゃんを知らないからそう言ってる・・・と思う」
泉先輩が少し悲しそうに見える、ああ言われれば誰でもそうなるか。
こなた「柊さんじゃないけど、私も記憶が戻らなくてもいいと思ってきた・・・」
ゆたか「・・・え、どうして、つかさ先輩も、かがみ先輩も、いつもお姉ちゃんと一緒に居たんだよ」
こなた「それを知らない・・・でもそれを知ったらみゆきさんと同じ苦しみを受けることになるよ、記憶と違う現実なんて・・・」
高良先輩とかがみ先輩の会話は泉先輩にとっては逆効果だったみたい。このまま終わってしまいそう。
みゆき「私はそうは思いません」
高良先輩はもう涙は引いていた。
みゆき「泉さん、私と親しくなったのもつかささんが居たからです、泉と私を会わせてくれた、そう思いませんか」
泉さんは高良先輩の方を見ている。
みゆき「かがみさんも、仮に本当だとして・・・と言ってくれました、そう考えてくれたのです、全く否定していません、まだ望みはあります」
こなた「私にはそんな考えできないよ、聖人君子みたいに・・・」

 秋も深まる季節、日が落ちるのが早い、外はすっかり夕焼けになっていた。高良先輩の提案で最低週に一回は会うことになった。
とりあえず来週会う日を決めると私達は屋上を後にして教室に戻った。そこで泉先輩と高良先輩とは別れた。

 教室で帰り支度をする。
ゆたか「田村さん、今日は部活大丈夫だったの」
ひより「今日は大丈夫、だから高良先輩に同行できた」
ゆたか「それにしても、かがみ先輩・・・高良先輩をライバル・・・と言うより敵対視しているようにも見えたけど」
ひより「あそこまでとは・・・高良先輩も別人って言ったけど・・・お昼の高良先輩の危機迫るのを感じたけどこの事だったんだね」
ゆたか「でも、なんでそこまで変わっちゃったんだろ、高良先輩、お姉ちゃんはまったく同じなのに」
みなみ「かがみ先輩にとってつかさ先輩の存在が大きかった、かがみ先輩のライバルはつかさ先輩だったのかもしれない」
ゆたか「そうかな、あの二人、いつも一緒で仲良かったと思うけど」
みなみ「双子ならなおさら、周りの目もあるし、意識してしまう、でもつかさ先輩はあの性格だからかがみ先輩のライバル心を吸収してしまっていた」
ゆたか「岩崎さん、一人っ子なのによくそんな事が分かるね」
慕うように岩崎さんを見つめる小早川さん・・・この二人もまったく変わらない。そして、それを腐った目線で見ようとしている私も変わらない。
今はそんなことを考えている場合ではない。私は咳払いをした。
ひより「それより早く帰ろう、この時間になると部活が終わってバスが混むよ」

⑪私達は教室を後にした、帰りながら私達は話した。
みなみ「私は泉先輩が心配、別れ際もなにか元気がなかった」
ゆたか「そうだった、記憶なんか戻らなくていいなんて言ってたね」
ひより「まぁ、あの高良先輩を見たら誰でもそう思うよ」
ゆたか「帰ったらお姉ちゃん元気付けにつかさ先輩の話でもするよ」
ひより「あ、それはかえって逆効果かも、その話題は当分しない方がいいと思うよ、どうせ週一回は会うんだし」
ゆたか「そっか、知らない人の事を話されてもね・・・わかった」
駅で私達は別れた。


 知らない人か・・・自分の記憶とは違う現実、高良先輩とかがみ先輩との会話でそれを目の当たりにした。
帰路を歩いていくと見知らぬ人々とすれ違う。登校の時も同じ、今まで何人の人とすれ違っただろう。
一瞬で出会っては別れていく。この中で私を知っている人は、私が知っている人は何人居るだろうか。
知らない人から知ってる人になる切欠って何だろう、たまたま道を聞かれたりしたのが切欠になったり、
買い物に行くお店が偶然一緒だったりするけど・・・結局偶然か。岩崎さんや小早川さんと友達になれたのはたまたまクラスが一緒になっただけ・・・
いや、クラスが一緒になった人でも殆ど会話すらしない人だっている。
これが高良先輩が言ってた縁ってやつなのかな。例え同じ場所にいても知り合いになったりならなかったり、別に自分で選んでいるわけではないのに。
なにか不思議な気持ちになった。

 それから数日が過ぎた放課後だった。私は部室の扉を開けようとした時だった。後ろから私を呼ぶ声がした。
「田村さん・・・だよね」
聞き覚えのある声だった。振り向くと。そこには峰岸さんが立っていた。
ひより「峰岸・・・先輩」
その呼ぶと峰岸先輩はほっとした様子で私に話しかけてきた。
あやの「やっぱり、私の事知ってるでしょ」
ひより「・・・知っていると言えば知っていますけど・・・」
返答に困った。そんな私を見て峰岸先輩は私に雑誌を見せた。
ひより「これは・・・私の部でつくった雑誌・・・」
あやの「これ、書いたの貴方よね」
雑誌を開き私に見せた。それはこの前先輩に頼まれた挿絵だった。
あやの「もしかして、この絵の子、妹ちゃん・・・柊つかさじゃない」
驚いた。この絵を見て峰岸先輩はつかさ先輩の事を思い出したみたいだ。これは嬉しい。もしかしたら私達の事も思い出したかもしれない。
ひより「ここで話もなんですので、中にどうぞ」
私は部室に案内した。部室には誰も居なかった。
ひより「つかさ先輩の事を思い出したって事は、私の事も分かりますよね」
あやの「・・・泉ちゃんの従姉妹と同じクラスの、田村さん」
これは思ったより確かな記憶、私どころか泉先輩、小早川さんまでしっている。
あやの「私、何がなんだか分からなくて・・・柊ちゃんに聞くのも恥ずかしくて、この絵を描いた本人に聞くしかないと思って・・・」
ひより「いつ、思い出されたのですか」
あやの「昨日・・・この雑誌の小説と挿絵を見てるうちに・・・」
峰岸先輩がうちの部誌を読んでくれていたのは嬉しい誤算だ。先輩の小説の元ネタは今現実に起きていること、それに挿絵はつかさ先輩。
これなら思い出す人も居るかもしれない。私は峰岸さんに今までの経緯を話した。

 あやの「・・・それじゃもう既に、高良さんは・・・」
ひより「ええ、かがみ先輩にこの事は話しています、結果は散々たるものでした」
あやの「そういえば、ここ数日柊ちゃん元気なかったわね・・・」
そういえばこの人はかがみ先輩とは中学時代からの友達だった。聞いてみたいことがあった。
ひより「今のかがみ先輩って、峰岸先輩の記憶のかがみ先輩と違いますよね」
あやの「んー、私達には変わりなく接しているわね、確かに性格がきつくなった面もあったかもしれないわね」
意外な答えだった。もっとも誰でもあんな態度なら峰岸さんも友達にはなっていないか・・・。
ひより「峰岸先輩が居てくれると心強いです、かがみ先輩に話してくれると助かりますが」
あやの「高良さんでもダメだったのに・・・私じゃ力不足ね」
峰岸さんは俯いてしまった。私は話を変えた。
ひより「週一回、この事について話し合いをすることにしてるのですが、参加していただけますか、丁度明日の放課後がその日になります」
あやの「それなら是非、参加したい」
ひより「できればでいいのですが・・・もう一人のお友達・・・日下部先輩はどうでしょうか」
あやの「みさちゃん・・・みさちゃんは私から話しておくわ、来れるかどうか分からないけど、期待しないでね」
ひより「それじゃ、明日の放課後、自習室で」
あやの「分かったわ・・・妹ちゃん、助けられるといいわね」
そう言うと、部室を後にした。そこに入れ替わるように先輩が入ってきた。

こ う「ん、さっきの人誰だ」
ひより「三年C組の峰岸先輩っス」
こ う「ひよりん、意外と顔が広いね、てか、あの人うちの部誌持ってなかったか」
ひより「持っていました、それより部室を空けるなんて無用心っスよ、どこ行ってたんスか」
こ う「いやね、先日発行した部誌が意外と好評でね、再発行の手続きを先生としてたんだ」
私は机においてある部誌を手に取り開いて読んだ。
ひより「・・・この小説、途中でおわってるじゃないっスか、長編になるって息巻いていたじゃないですか」
こ う「・・・いやね、連載物にすればいいかなって・・・だから一緒に考えて」
ひより「私の時は助けてくれないのに・・・」
と言ってもこのおかげで峰岸先輩が力になってくれる。これはいい方向に向かっていくような、そんな気がした。

 あくる日の放課後、すぐにでも自習室に向かいたかったが、先生に書類整理を頼まれたおかげで遅れて向かうことになった。
自習室に入ってみると、峰岸先輩は日下部先輩を連れてきてた。日下部先輩は私を見るなり懐かしそうに話してきた。
みさお「お、田村さんってこの人だったか、ちびっ子とよく話してるの見てたよ」
ひより「あの、もしかして日下部先輩の記憶・・・」
みさお「・・・柊の妹、あやのの持ってた雑誌の絵を見て思い出した、柊といつも一緒にいたっけな・・・その割りに私たちとはあまり話さなかったな」
みゆき「田村さん、あの挿絵の効果は絶大でした」
ひより「いや、別にこれを狙ったわけじゃなかったのですが・・・」
ゆたか「これであとはお姉ちゃんとかがみ先輩だけだよね」
みさお「しかし、なんだろ、一番最初に思い出してもよさそうな二人が残ったな」
ん、私は辺りを見回した、泉先輩の姿が見えない。
ひより「その泉先輩は・・・見当たらない」
ゆたか「お姉ちゃん・・・アルバイトがあるって・・・」
みゆき「私がいけなかったのです・・・」
みなみ「みゆきさんが悪いわけじゃない」
一気に雰囲気が暗くなった。
みさお「記憶が戻らないんじゃそんなもんだ、別に気にするこないんじゃない」
日下部先輩・・・軽く言っているけど的を得ている。確かに泉先輩、かがみ先輩・・つかさって名前を聞くだけで思い出しそうな気がする。
私達一年三人も思い出すのに一日かからなかった、峰岸先輩、日下部先輩もすぐに思い出した。そういえば、高良先輩は思い出すのに一週間掛かってる。なんでだろ?
でもそんな事はどうでもいい、これからどうするかが重要。
ひより「これから・・・どうしよう」
みさお「どうするもこうするも、柊の妹を元に戻す方法考えるしかないよな、でも・・・柊の妹が居ないだけでこんなになっちまうもんなのか」
みゆき「それが、出会い、と言うものです」
みさお「そうなのか」
みゆき「極端な例ですが、お父さん、お母さんが出会わなかったらどうなると思います」
みさお「・・・それりゃ、私はこの世にいない・・・な」
みゆき「出会いは良くも悪くも大なり小なり、人に影響を与えます、時には人の一生を左右するほどに、時には歴史まで大きく変わるほどに・・・」
みさお「わかった、わかった、スケールが大きすぎて・・・分かったよ、要は柊の妹がB組とC組の仲を繋いでたんだよな」
あやの「一年からでしょ、妹ちゃん、泉ちゃん達と三年同じクラスだわ」
みさお「そうだった・・・柊の陰で目立たなかったけど、今思うと結構存在感あるんだな」
しばらく沈黙が続いた。なかなかいい考えはないもの。私も含め皆考え込んでしまった。
まてよ、泉先輩の家でつかさ先輩に最後に会った時の事を思い出した。確かつかさ先輩は試してみたい・・・そう言ってノートに『私が居なかったら』と書いた。

ひより「これはつかさ先輩が自分を試すために仕掛けた呪いじゃないかなって思うのだけど」
皆の視線が私に集まる。更に話し続けた。
ひより「みゆき先輩が言われたように、あの日、かがみ先輩とつかさ先輩は喧嘩した、多分かがみ先輩からつかさ先輩を否定するような事を言われて、それなら
    自分自身が居なくなったらどうなるか見てみたいって願望がこの世界を生んだとしたら・・・」
みさお「姉妹喧嘩か・・・あの二人の仲の良さからすると想像できない」
あやの「仲が良いほど喧嘩する時は激しくなるね、考えられなくはない」
ゆたか「・・・それなら、もう充分つかさ先輩が必要な人って事は証明できてるんじゃないかな、高良先輩もそう思われるのでは?」
みゆき「そうですね、でもつかささんは私達にそれを求めているのではない」
みなみ「・・・かがみ先輩がそう思うのを望んでいる」
また沈黙が続いてしまった。

 日下部先輩が痺れを切らせて話した。
みさお「これで方向性はきまったな、柊の記憶を戻す、そうすれば柊の妹の存在がどれほどのものかって分かる、呪いが解けて柊の妹が復活・・・ってことかな」
ゆたか「でも、お姉ちゃんの記憶は・・・放っておいていいのかな」
ひより「泉先輩・・・今私達と一緒に行動しても辛いだけじゃないかな、つかさ先輩の事知らないから私達の話についていけないし、三年C組の事だって知らないでしょ」
ゆたか「・・・そっか、お姉ちゃんここに来なかった理由、今分かった・・・記憶が戻ったらなら先頭になって協力してくれるよね」
外からチャイムの音が聞こえる。終業の時間だ。
みさお「もうこんな時間か」
みゆき「方向性が決まっただけでも成果はありました、今度はどうやって二人の記憶を戻すか、それについて話しましょう」
私達は解散した。

 私は買い物があったので皆とは別行動する予定だったけど、高良先輩に呼び止められた。
ひより「何か?」
みゆき「あの雑誌の事で・・・」
ひより「雑誌・・・ああ、部誌のことっスか」
しまった。つい癖の『ス』を出してしまった。先輩以外では使わないようにしていたのだが・・・
みゆき「そうです、あの小説を載せたのは田村さんのご意思ですか」
ひより「い、いえ、あれは部長・・・八坂先輩にあのノートを見られてしまいまして・・・一応共同制作としているのですが・・・先輩がえらくこのネタを気に入りまして・・・」
まずい、高良先輩は相談無く載せた事を怒っているのだろうか。
みゆき「そうですか・・・」
高良先輩は目を閉じて何か考えている様子だった。
ひより「高良先輩、すみません、勝手に載せてしまって・・・止められませんでした」
みゆき「あっ、別に私はそれがいけないとは言っていません、むしろして頂いて結構です、私ではそこまで気が付きませんでした」
私はほっと胸をなでおろした。
みゆき「それで相談があるのです、その小説の結末についてなのですが」
ひより「結末・・・ですか」
みゆき「結末は、少女は結局助けることができなかった・・・と、して頂きたいのです」
私は驚いた、ハッピーエンドにした方がいいに決まっている。
ひより「悲話にしてしまうのですか・・・どうしてです」
即座に聞き返した。
みゆき「この小説、かがみさんにも読んで頂きたいからです、悲話にすればかがみさんの奥底にある記憶が蘇るかもしれない・・・」
ひより「逆療法ですか・・・私一人では決められないですけど・・・やってみます」
みゆき「ありがとうございます」
私は自習室を出ようとすると。
みゆき「あの雑誌の挿絵・・・つかささんの雰囲気が出ていてよかったです、絵でしかつかささんの存在を確かめられないのですね」
悲しげな表情だった。私の絵を褒めてくれた。嬉しかったけど素直に喜びを表せなかった。
ひより「このノートが在ります、これはつかさ先輩の書いたノート」
みゆき「そうでしたね」
微かに笑った・・・様に見えた。


 高良先輩とも別れ、一人で帰宅することになった。腕時計を見た。まだ買い物をする時間はある。近道をした。
ふと高良先輩の言葉を思い出した・・・出会い。
つかさ先輩が居ると居ない。こんなに違う世界になるなんて。一つの出会いが歴史も変えるか・・・少なくとも私達の周りではそれが起きた。
つかさ先輩が居た世界の方が楽しい。それはみんなそう思っている。つかさ先輩と知り合いになれたのは泉先輩が友達だったから。いや、
小早川さんが泉先輩の従姉妹だったから。その繋がり。それじゃ私は・・・私が居なくなったら・・・つかさ先輩の様に誰かが思い出してくれるかな・・・
うわ、そんな事考えて私まで消えたらやだ、まだ私はこの世に未練がある。
「Excuse me」
突然後ろから誰かの声が聞こえる。周りを見渡したけど私しか居ない。私を呼んでいるだろうか。
「Excuse me」
同じ方向からもう一度聞こえた。間違えない私を呼んでいる。しかも外人だ。これも縁ってやつかな。英語で道案内くらいの事はできる。
私は声の方向を向いた。思わず見上げた・・・天を突くような大男、二メートルはあろうか。もう冬も近いというのに半袖・・・筋骨隆々・・・私の前に立ちはだかっている。
外人「〇#★ЭЩ@㊥$?」
私は硬直した。何を言っているのか分からない。少なくとも英語ではない。・・・身振り手振りで私に何かを聞こうとしている。道を聞いているのはなんとなく分かった。
外人「〇#★ЭЩ@㊥$?」
同じ事を言っているけど分からない。私は呆然と外人を見ていた。外人は急いでいるらしい、イライラしているのが伝わってくる。私は何かしようとするけど体がついてこない。
思わず私は身を竦めてしまった。それでも外人は執拗に同じ言葉を私に話してきた。

 大男が揺らめいた。大男の後ろから誰かが押したみたいだった。大男はゆっくりと後ろを振り返る。大男はその人にも同じ言葉をかけた。するとまた大男が揺らめいた。
何をしているのだろうか。大男の陰で相手が見えない。
外人「$$$$””””!」
外人はなにやら喚いたかと思うと両腕を天に上げて拳を下ろした。大男の陰から稲妻のように誰かが飛び出し彼の拳を避けると振り下ろした腕を掴みそのままその力に逆らうことなく
大男の腕を捻った・・・大男はまるで木の葉が風に舞うように宙に浮いた。大男は背中から地面に叩きつけられた。
大男は喚きながらその場を立ち去った・・・・。一瞬の出来事だった。私はその場にしゃがみ込んでしまった。

「ゆい姉さん直伝・・・小手返し・・・その変形」
まるで戦隊物のヒーローのようにポーズをとりながら聞き覚えのある声で・・・って
ひより「泉・・・先輩?」
こなた「ひよりん・・・どうしたのこんな所で」
そう言うと私の腕を掴み起こしてくれた。
ひより「泉先輩・・・何か格闘技でもやってたんスか」
こなた「まあね・・・それより間一髪だったね、大丈夫だった?、最近物騒だからね・・・」
ひより「・・・外人の後ろからなにかしたっスか」
こなた「うしろから蹴った」
ひより「・・・振り返ってから何かしったスよね」
こなた「蹴った」
ひより「・・・助けてもらって何ですが、あれは道を聞いてきただけだったような」
そう言うと泉先輩は何も言わず呆然と私を見ていた。
ひより「どうしたんスか?、泉先輩?」
聞き返しても私を見ているだけだった。私は泉先輩の顔の前で手を振った。
こなた「・・・これ、どこかで同じことがあったよ・・・」
ひより「同じこと??、どういうことっスか」
こなた「そう・・・あれは・・・一年生の時・・・」
泉先輩は腕を組み、首を傾けて考えている。私はそれを見守った。
こなた「・・・つかさ・・・つかさに初めて出会った時だ・・・つかさ!」
何度もつかさ先輩の名前を呼んでいる。
ひより「もしかして、思い出したんスか」
泉先輩は急に悲しい顔になった。
こなた「・・・かがみ・・・なんであんな事言うんだよ・・・」
あんなこと、高良先輩とかがみ先輩の会話の事を言っている。そう思った。泉先輩の記憶が戻ればこれほど心強いことはない。
ひより「ここに居てもなんなんで、近くの喫茶店にでも・・・」


 近くの喫茶店でコーヒーを頼み、しばらく気を静めた。そして、泉先輩に放課後で行った会議の事を話した。
こなた「・・・記憶を取り戻す方法・・・」
ひより「そうっス、でも泉先輩はもう大丈夫っスよね、しかし凄かったっスよ、あの大男を投げ飛ばすなんて」
こなた「いいや、たいした事無いよ、私が小さいから油断しただけ」
ちょっと照れくさそうに手を頭に当てた。泉先輩はすぐつかさ先輩の話題に戻した。
こなた「かがみが最後に残った・・・って事だね」
ひより「・・・身内だけに、一番厄介なんっス」
こなた「かがみの性格もあるね、何かと現実主義だし、例え思い出しても、夢か幻かと思っちゃうかもね」
ひより「かがみ先輩とつかさ先輩が出会った時の事でも分かれば・・・」
こなた「・・・ひよりん、二人は双子だよ、生まれた時、いや生まれる前から出会ってるよ」
ひより「・・・なんか絶望的な事を聞いたような気がするっス」
会話がなんの抵抗も無く進んでいく。泉先輩は本当に記憶が戻った。そう思った。それと同時にかがみ先輩の記憶を戻すのがどれほど難しいかも分かってしまった。
こなた「絶望的、そうでもないよ」
ひより「何か秘策でもあるんスか」
泉先輩は笑みを浮かべた。自信があるようだ。
こなた「秘策って程の物じゃないけどね、これはみさきちと峰岸さんの記憶が戻っているのが条件なんだ」
ひより「それなら問題ないっス」
こなた「さっきの放課後の会議の話を聞いて思いついた」
ひより「その策は?」
こなた「それは・・・直接本人に話したいな、明日、全員集まれるかな、放課後、私も準備しないといけないし」
ひより「多分大丈夫・・・私、部活があるっス」
こなた「話は数分で終わるよ、私、明日もバイトだし」
ひより「それなら・・・」
こなた「よし、明日の放課後、自習室集合で、三年の方とゆーちゃんは私から話しておくから」
ひより「私は岩崎さんに話せばいいっスかね」
泉先輩は頷いた。そして何故か不思議そうに私を見ている。
ひより「どうしたんスか?」
こなた「そういえば、ひよりんの口調が戻ったね、これもつかさの影響なのかな」
しまった。大男のショックで癖がそのまま出てしまった。
ひより「いや、これは関係ないっス、いままでのは癖を直そうとしたけっス・・・あれ・・・」
こなた「・・・無理しなくていい、そっちの方がひよりんらしいよ」
ひより「いや、恥ずかしいっス・・・あ、また」
泉先輩は大笑いした。どうやらこの癖、直すのは無理みたい。

こなた「ところで何でこんな所に」
ひより「買い物に・・・」
こなた「買い物ってこれの事かな」
泉先輩は一冊の漫画を見せた。
ひより「それは・・・それを買いに来たっス」
こなた「残念、これはもう売り切れているよ、私が最後だったから」
ひより「えー、」
泉先輩は鞄から同じ漫画の本を取り出し私に手渡した。
ひより「これは・・・」
こなた「布教用・・・あげる、記憶を戻してもらったお礼に」
私はその本を受け取りお礼を言おうとした時だった、私と泉先輩の携帯電話が同時鳴った。私達は同時に着信を確認した。
こなた「誰から?」
ひより「お父さんから・・・早く帰って来いって」
こなた「私もだよ・・・親って考えることって同じだね、帰ろうか」
ひより「そうっスね」
私達は駅で別れた。

 次の日の放課後、約束どおり皆自習室に集まった。しかし泉先輩はまだ来ていない。
みさお「ちびっ子本当に記憶もどったのか、言いだしっぺが遅刻かよ」
ひより「何か準備があるっていってたっス」
日下部先輩は腕を組んで少し怒り気味だった。丁度そこにドアを開けて泉先輩が入ってきた。
みさお「おい、ちびっ子、呼び出しておいて遅刻な・・・・」
日下部先輩の口が止まった。私も泉先輩の姿を見て驚いた。
こなた「ごめん、ごめん、準備にてまどっちゃって、ところで、どう、似合うかな」
泉先輩はその場でクルリと一回転してポーズを決めた。泉先輩の髪の毛は肩までスッパリ切ってしまっていた。
そして頭に黄色いリボンを・・・アホ毛を隠すように。つかさ先輩の髪型を真似ている。すぐに分かった。

ゆたか「お姉ちゃん、どうしたの、まさか・・・」
こなた「時間がないから・・・早速話すね、明日のお昼から、みさきちは私のクラスでご飯食べて、みゆきさんと私と一緒に、そして、一週間経ったら今度は峰岸さんも
    私達と一緒にお昼を食べる・・・」
私達は黙って泉先輩のを眺めていた。
こなた「分かったかな、みんな」
この言葉に私達は我に返った。
みさお「みさきちって・・・、B組で飯を食べるだけでいいのか」
泉先輩は黙って頷いた。
みゆき「どうゆう事ですか、私にはさっぱり分かりません、それにその髪は・・・切ってしまったのですか」
こなた「かがみはいつも私のクラスでお昼を食べていた・・・それを再現するんだよ」
みゆき「再現・・・ですか」
こなた「みさきちと峰岸さんがこっちでお昼を食べれば、否応にもかがみはB組を意識するでしょ、そこにつかさに似た私を見れば・・・どう? この作戦」
高良先輩は黙ってしまった。
こなた「かがみはあれで寂しがりやだからね、みんな集まればきっとB組にくるよ」
みなみ「私達はどうすれば・・・」
こなた「昼休みなんだし、こっち来てお昼食べたら、一年が三年の所でお昼食べちゃいけない校則なんてないよ、それに半分以上は学食に行っちゃうから席は空いてるよ」
みさお「なんで、柊の妹の真似なんかするんだ、リボンだけもいいじゃん」
泉先輩は人差し指を立てて『チッチッチ』と舌打ちをした。
こなた「分かってないね、これはイメージが大事なんだよ、イメージが・・・他に質問は?、無ければ明日からみさきち、よろしく」
みさお「・・・分かったよ・・・」
その返事を聞くと泉先輩は足早に自習室を出て行った。どうやらアルバイトに向かったようだ。

みさお「いきなりみさきちって・・・あいつ、あんなんで柊が気が付くとでも思っているのか、それに髪型が似てるだけで、柊の妹と全然似てないぞ」
あやの「そうね、泉ちゃん、少し強引過ぎる気が・・・」
二人はやや呆れたようにそう言った。
みさお「記憶が戻って、まるでゲーム感覚だよな・・・」
その言葉は私の耳にも痛かった。高良先輩とかがみ先輩が話すまでは私もそうだった。
ゆたか「違います、お姉ちゃんのやろうとしている事は、少なくとも・・・本気だと思います」
みさお「本気?」
ゆたか「髪の毛を切るなんて・・・普通はやれない、女の子なら・・・解る・・・・それにお姉ちゃんの長髪は・・・おばさんの髪型を真似て・・・」
日下部先輩は黙ってしまった。そしてそのまま俯いてしまった。
みゆき「私も髪の毛を切るとしたら・・・かなりの覚悟が要ります、泉さんの並々ならぬ気持ちが解ります、どうでしょうか、泉さんの方法に賭けてみるのは」
日下部先輩と峰岸先輩は顔を見合わせた。
みゆき「かがみさんの性格は泉さんの言われた通りの一面があると私も思います、少なくとも、私がかがみさんにした事よりはるかに良いかもしれません」
みさお「そこまで言うなら・・・それに、ちびっ子を見直したぞ、熱い想い・・・私、そうゆうの嫌いじゃない」
あやの「そうね、私もそれでいい、でも何故、私は一週間後なのかな」
みゆき「それは、おそらく、いきなり二人とも私のクラスに来てしまったら怪しまれるからではないでしょうか、怪しまれると、記憶が戻る妨げとなりますし・・・」
みさお「あいつも色々考えてるんだな、それじゃ明日から」
そう言うと二人は自習室を後にした。

ゆたか「高良先輩、ありがとうございます、お姉ちゃんちゃんと説明しないから・・・」
みゆき「泉さんはあまり自分の事は言わない方ですからね、少し補足しただけです」
みなみ「この方法、どこかで聞いたことがある」
みゆき「そうですね、岩戸隠れですね」
ひより「岩戸隠れ?」
みゆき「アマテラスが岩戸に篭ってしまう神話です、アマテラスは太陽の化身、世界は闇に覆われてしまう」
みなみ「篭ったアマテラスを八百万の神が笛や太鼓で岩戸を開けさせる・・・」
ひより「・・・ああ、そういえば、その話知ってる・・・」
みゆき「泉さんがこの神話を意識しているかどうかは分かりませんが、今のかがみさんは記憶は岩戸に篭っているアマテラスと同じだと思います、こちからから開けようとしても
    岩は開けることはできません、しかし、内側からなら、閉めてしまった本人なら開けることができます」
ひより「かがみ先輩自身が記憶の扉を開けるように私達が?」
みゆき「つかささんと私達での昼食はかがみさんにとってもきっと楽しかった思い出に違いありません、私達が楽しそうに食事をしているのを見れば・・・そんな気がします」

 高良先輩と岩崎さん、敵わない、神話まで持ち出して泉先輩の作戦を解説してしまうなんて、この人達ほどの知識があれば私もネタには困らないのに。
それにも増して、かがみ先輩の性格をそこまで知り尽くしている泉先輩も凄いと思った。何より、髪の毛を切ってまでそれを演出しようとしている。泉先輩にとって長髪は特別な想いがあるようなのに。
私も髪の毛を伸ばしているけど、バッサリ切るのは抵抗はある。それを気付かれないように明るく振舞う・・・・
ひより「泉先輩・・・漢(おとこ)だね・・・」
みなみ・ゆたか「おとこ?」
ひより「いや、何でもない・・・」

 次の日、私だけが三年B組にお昼を食べに行った。小早川さんが急に熱を出してしまったので保健室で休んでいるからだ。岩崎さんは付き添い。保健委員じゃしょうがない。
教室に着くと既に三人はお昼ご飯を食べていた。
こなた「こっちだよ、あれ、ゆーちゃん達は」
ひより「実は、熱を出してしまって」
こなた「・・・最近調子良かったのに・・・」
ひより「泉先輩、小早川さんから聞いたっス、先輩の長髪って特別な想いが・・・」
こなた「ゆーちゃん、言っちゃったな・・・」
ひより「何でそこまでして・・・」
こなた「髪の毛なんて時間が経てばまた伸びるよ、大げさだな、私から言わせればひよりん達がそこまでつかさを思ってくれるのは何故だいって聞きたいね、知り合ってそんなに経ってないでしょ」
ひより「そう改まって聞かれると・・・ネタ帳をつくってくれた・・・かな」
こなた「あのノートね、ひよりん、そのノートのネタ、まだ使ってないでしょ、それなのに?」
ひより「使えるネタだったら、そんなにつかさ先輩が好きになれなかったっスね」
こなた「ほぅ、その心は?」
ひより「自分の得意じゃない事なのに、ネタを考えてくれる人なんて・・・今まで居なかったっス、それだけで嬉しかった・・・」
みさお「おっと、柊がこっちみてるぞ、みんな楽しくしようぜ」
チラッと廊下の方を見た。かがみ先輩が確かにこっちを見ている。一日目にしてもう効果が出ているのだろうか。
ひより「先輩、これは思った以上の効果っスね」
こなた「まだまだ、あの目はただ見ているだけ、何も感じてないよ、しかし髪切ったせいで首元がスースするよ」
そう言いながらチョココロネを頬張る。
みさお「そういえばB組で昼飯食べるの初めてだ」
ひより「日下部先輩はかがみ先輩達と中学同じだったっスよね」
みさお「柊、あやのとはクラスも同じだったぞ」
ひより「つかさ先輩とはいつ知り合ったっスか」
みさお「そういえばいつだったかな・・・柊と知り合った時には既に居たけど・・・」
ひより「日下部先輩は今までこっちでお昼たべなかったっスか、つかさ先輩と気が合わないとか・・・」
みさお「いや、そんな事はなかったけど・・・何でだろう」
こなた「そういや三年になるまでC組の友達、正式に紹介してくれなかったな・・・かがみ・・・つかさをみさきちに会わせたくなかったとか」
みさお「何でだよ」
日下部先輩は少し怒り気味だった。

みゆき「つかささんが居なくなって、かがみさんの代わりに日下部さん来るようになった・・・これも何かの縁のような気がします」
こなた「つかさが居なくなっても、私達はつかさが居た世界の記憶があるからこうやって居られるんだよ、私とみゆきさんは二年とちょっとのだけの記憶」
みゆき「そうでしたね・・・」
高良先輩は少し悲しいそうな顔をしてた。
ひより「そうだ・・・つかさ先輩が消えた日の事覚えています?・・・確か泉先輩の家で・・・私が来たときには小早川さんも泉先輩も買い物で居なかったっス
    そこに丁度、つかさ先輩が来たっス」
泉先輩は両手を組んで上を見上げて考えた。
こなた「あの時は・・・丁度ゆーちゃんの友達が来るのと重なった時だったね・・・あれ、なんでつかさだけなんだ・・・確かかがみも来る様な話だったような」
ひより「かがみ先輩も来る予定だったっスか・・・かがみ先輩・・・何かあったんスかね」
こなた「何かって・・・かがみは約束を破ったことないし、何かあれば必ず連絡してた・・・」
みさお「ん・・・その日って私達も来る予定じゃなかったか、あやのと一緒だった気がするぞ」
みゆき「・・・私は確か・・・みなみさんと泉家に行く予定だった気がします・・・」
一同「・・・あれ???・・・」
その日はみんな集まる日だった?、何かのパーティ?、そんな事はない。よく思い出せない。少なくとも泉先輩とは別の用事だったような気がする。
こなた「そうだ、大勢集まるからゆーちゃんと買い物にいったんだ・・・確か・・・勉強会???」
みさお「そんな感じだったかな・・・少なくとも遊びじゃなかったと思う」
こなた「かがみどうしたんだろ、いつもつかさと一緒に来てたのに」
ひより「高良先輩が言ってた姉妹喧嘩説・・・かなり濃厚の気がするっス」
みゆき「かがみさんにとってそれは思い出したたくない事・・・もしかしたら、つかささんをイメージすることが」
こなた「それじゃ今やってることって・・・私、余計な事をしたかな・・・」
泉先輩は急に悲しい顔になった。
みさお「おいおい、楽しく食べるんじゃなかったのか、この話は皆が集まった時にしようぜ、ほら、柊居なくなっちまったぞ」
みゆき「すみませんでした、気を取り直しましょう」
こなた「そうだった・・・」

 私達はつかさ先輩以外の話をした。日下部先輩の話は面白かった。泉先輩と日下部先輩はかがみ先輩とは違った雰囲気、まるで小学生同士でじゃれ合う様な、
こっちまで楽しくさせてしまう。そんな楽しい昼食をすごした。時間を忘れ私達は会話を楽しんだ。すると、高良先輩が時計を見た。
みゆき「そろそろ時間ですね」
みさお「おお、もうこんな時間か・・・楽しかったぞ」
ひより「お邪魔したっス」
こなた「ひよりん、ゆーちゃん達によろしく言っておいて」
私が席を立とうとすると。
みさお「・・・私達って、一年からこうやってみんなで食べることが出来たんだよな、今頃になって・・・もっと早く気付けばよかったよ、
    明日からあやの連れてきていいか、一週間なんか待ってなくていいんじゃないか」
誰も反対を言う人はいなかった。

 自分のクラスに戻ると小早川さんと岩崎さんが居た。もう戻ってきた。小早川さんの調子はどうなのだろうか。
ひより「小早川さん、もう調子いいの」
ゆたか「あ、田村さん、もう熱引いたから、それに午後の授業、私苦手科目だから、休んでられないよ」
みなみ「ゆたか、熱はまだ完全に引いていない・・・」
ゆたか「みなみちゃん、大丈夫だよ」
そう言って見つめあう二人・・・あれ、いつからこの二人名前で呼び合うようになったんだ。保健室で何かあったのか・・・まさかお昼の密室で・・・
頭のなかに妄想がどんどん膨らんでいく。
ゆたか「ところで田村さん、お昼はどうだった?」
この一言で我に返った。自重しろ、私。
ひより「とても楽しかったよ、特に日下部先輩と泉先輩がね、それと泉先輩がよろしくだって、小早川さんのこと心配してたよ」
ゆたか「いいな、私も行きたかった・・・」
ひより「まだ始まったばかりだし・・・そうそう、明日から峰岸先輩もくるみたい、日下部先輩がB組気に入っちゃってさ、明日から呼んでいいって話になって」
ゆたか「何か良い方向になってきてるね」
その時、つかさ先輩の話を思い出した。
ひより「お昼、つかさ先輩が消えた時の話をしたんだけどね、私達ってなんで泉先輩の家に来ることになったんだっけ」
みなみ「その日は・・・勉強会だった気がする」
ゆたか「うん、夏休みが終わってすぐの土曜日だったよね」
そうか、泉先輩達も勉強会。別行動だけど目的は一緒だったのか。
みなみ「何故そんな話に・・・」
ひより「つかさ先輩が消えた日の事ってモヤモヤした感じで曖昧なんだよね」
みなみ「・・・そういえば」
ひより「あの時、私達全員集まったような気がしてきて・・・」
その時、午後のチャイムが鳴り出す。私達は慌てて席に着いた。

 それから二週間が過ぎた・・・峰岸先輩も加わり、小早川さんが調子の良い時は小早川さん、岩崎さんも同席した。女六人、これだけ集まれば会話も
弾む、その笑い声は隣りのクラスへも聞こえるだろう。聞こえているはずだ。おかしい。一向にかがみ先輩は私達の元に来ない。
それどころか様子を見に来ることもなくなった。日下部先輩達に聞いても変わった様子はないと言う。神話のようにはいかないのだろうか。
 
こなた「いったいどうして・・・こんな筈じゃない、かがみ・・・どうしたんだよ」
焦りの色を隠せない。短くなった髪の毛を両手で押さえている。
みさお「そう焦ることもないいじゃないの」
こなた「もう、あれから一ヶ月、なにも進展がないよ・・・ごめん、皆、私の作戦・・・失敗だよ」
そう言うと泉先輩は頭に付いていたリボンを解き始めた。
みゆき「泉さんのせいではありません、私たちも賛同したのですから責任は同じです、でも進展がない以上他の方法を考えた方がよさそうです」
みさお「他の方法って、他に何かいい方法あるのか」
みんな何も言い出さない。私も何も思い浮かばない。
あやの「これはタイムリミットががるような、私達が卒業してしまえばこれほど頻繁に会うことはできない、それに柊ちゃんに会う機会もぐんと減る・・・」
ゆたか「卒業・・・もうそんなにありませんね・・・」
みゆき「そうですね、大学と高校では時間が違いますしね、それぞれの生活もありましょう」
こなた「それで終わっちゃうの・・・つかさは・・・もう戻らない・・・これじゃアニ研の小説とおなじじゃないか・・・」
みゆき「これは・・・すみません、この結末は私が田村さんに提案したもので・・・これもかがみさんに呼んで欲しいと思いまして・・・」
こなた「私・・・記憶なんて戻らなければよかった・・・」
ゆたか「お姉ちゃん・・・」
泉先輩はリボンを外すとそのまま机に埋まってしまった。すすりなく音が聞こえる。これは、高良先輩が屋上で見せた光景によく似ている。
私達はあれから全然状況が変わっていない事に気が付いた。
私は何も策はないけど、一つだけ方法を知っている。でもこの方法は成功、失敗するかどうかもわからないし、後戻りもできない危険な賭け。
ひより「あと一つだけ方法があるっス、でもこれはとても危険な方法・・・」
皆は一斉に私の方を向いた。
ゆたか「危険な方法って?」
ひより「もともとつかさ先輩が消えたのは、このネタ帳につかさ先輩が書き込みをした時からっス、だから、このノートを燃やしてしまえば・・・もしかしたら呪いが解けるかも」
みなみ「燃やす・・・確かに危険」
ひより「燃やすから後戻りできないっス、燃やすことで考えられる出来事は三つ、一つは、今までどおりなんの変化もない、二つは、呪いが解けてかがみ先輩の記憶が復活、
    つかさ先輩も蘇る、そして三つは、全ての人からつかさ先輩の記憶が消えてしまう・・・」
みさお「確かに、後戻りできないな」
こなた「一つ目になるんだったら三つ目の方がいい・・・何も知らないほうがいい・・・」
みゆき「それは・・・確かに賭けですね、それにこの三つ以外の事が起きるかもしれません、例えば、かがみさん、いいえ柊家に何かが起きるかもしれません」
ひより「そうっス、だからこれは少なくともかがみ先輩の記憶が戻ってもつかさ先輩が復活しなから提案しようと・・・」
みさお「つまり最後の手段ってことだろ、まだ早い」
日下部先輩は泉先輩の外したリボンを取り泉先輩に突き出した。泉先輩は不思議そうに日下部先輩を見る。
こなた「何?」
みさお「何、じゃないだろ、もう諦めるのかよ、卒業までまだまだ日はあるぞ、この作戦はまだ終わってない」
こなた「でも・・・」
みさお「なんだ、柊の妹を助けたくないのか、髪を伸ばしていた想いってその程度だったのか」
泉先輩は俯きなにも言い返さなかった。

あやの「私は今までやってきて全く効果がないとは思わない、柊ちゃん少しだけど確かに変わってるの分かる」
みゆき「人の記憶は何が切欠で思い出すのか分かりません、私は他の方法とが良いといいましたが、継続するのもの一つの手段でしょう」
ゆたか「お姉ちゃん、諦めないで」
みなみ「継続は力なり・・・」
皆が泉先輩を励ます。すっかり日下部先輩のペースになってしまった。体育会系のノリ・・・こうゆう雰囲気は初めてだ。でも私も胸が熱くなった。
こなた「これが最良の方法じゃないかもしれないよ・・・」
みさお「それは最後にならいと分からないぞ」
泉先輩は日下部先輩からリボンを取りまた付けた。
みさお「これで卒業まで突っ走るぞ、それでダメなら後悔はないだろ」
こなた「まさかみさきちに説教くらうとは・・・」
みさお「まさかとは何だよ、まさかとは、それにいつも、みさきちってなんだよ」
こなた「だってみさきちじゃん」
この会合で泉先輩は初めて笑った。一気に和んだ。そして、泉さんの作戦、これを最後まで続ける事になった。っと言ってもこれ以外に選択肢はなかった。

 月日は過ぎていく。かがみ先輩の様子は変わらない、そして、三年の皆の進路がほぼ決まっていく時期にさしかかった頃だった。アニ研部に一通の手紙が届けられた。
ひより「私宛?」
こ う「そう、なぜかひよりん宛なんだよね、ファンレターだな」
ひより「ファンレター・・・・私にッスか」
こ う「屋上に来て欲しいそうだ、サインはもう作ってあるのか」
ひより「もう考えてあるッス・・・差出人の名前がないッスね・・・って今日じゃないですか」
こ う「そうだった」
先輩は時計を見た。
こ う「時間は今行けばまだ間に合うぞ、別に行きたくなければそのまま無視すればいい」
ひより「そう言うわけにもいかないッス、ちょっと行って来ます」

 この手紙は何日か前に届けられたみたいだ、ここ最近の部誌で載せた漫画なのだろうか、どんな人なんだろう。そんな期待を胸に屋上へと向かった。
屋上に着くと、一人の女生徒が立っていた。よく知っている人だった。かがみ先輩・・・・。どういう事だ。緊急事態だ。私は高良先輩みたいにかがみ先輩と
言い合うような度胸も知識もない。下手なことを言えば突っ込まれてしまいそうだ。ファンレター・・・何か違うような。緊張感が急に出てきた。冷や汗が手から出てくる。
屋上の入り口で止まっていると、かがみ先輩が私に気付いた。
かがみ「すまないわね、急に呼び出してしまって、田村さん」
口調はいたって穏やか、顔の表情も高良先輩と会った時のような威圧感はなかった。つかさ先輩が居ない世界、かがみ先輩は私の事はしらないはず。
初対面だ、敬語・・・癖が出ませんように・・・・。
ひより「あの、ファンレターありがとうございます、用件はなんでしょうか」
かがみ「田村さんをこんな所に呼んだのはね、ひとつだけ確かめたいことがあったから・・・ファンレターって偽ってごめんない
    それの方が部活動から抜け出し易いと思ったから・・・貴方、柊つかさ って知ってる」
もしかして、かがみ先輩は記憶を思い出した。思い出そうとしているのか。これはチャンスかもしれない。
ひより「柊つかさ先輩、私は知っています、かがみ先輩もご存知のはずです、双子の妹の名前ですから・・・」
そう言うとかがみ先輩は急に悲しい顔になった。
かがみ「やっぱり、本当だった・・・みゆき、こなた・・・」
私は嬉しかった、泉先輩の作戦が成功した。
ひより「かがみ先輩、記憶もどられたのですか」
かがみ「皆・・・やっぱり皆も記憶が戻っているみたいね、この雑誌の物語、途中から急に悲話になってるけど、みゆきあたりの提案じゃない、」
そう言うと、最新の部雑を私に見せた。
かがみ「峰岸に勧められて読んだわ・・・この主人公、つかさがモデルね、」
凄い、当たってる、それにかがみ先輩は記憶が戻っている。皆に教えないと。
ひより「その小説は偶然が重なって載ることに・・・みんな、かがみ先輩が来るのを心待ちにしていますよ、丁度明日が集まる日なんですよ」
かがみ「それは、できない」
ひより「えっ?、なんでですか」
かがみ先輩は、私に背を向けて屋上から校庭を見下ろした。
かがみ「出来ない、私につかさの話をしろ言うの、出来ないわ、だから田村さんを呼んだの、もう、つかさの事は諦めて・・・そう皆に言って欲しい」
ひより「そんな・・・高良先輩がここで話し事、覚えていますよね」
かがみ「・・・田村さん、あの時の会話どこかで見てたみたいね・・・みゆきから見たらさぞかし私は冷たい女に見られたでしょうね」
かがみ先輩の態度が許せなかった。私は本当の事を言う事にした。
ひより「泉先輩も見ていました、かがみ先輩を見て記憶が戻るのが遅れたと思ってます、その泉先輩だって今は・・・」
かがみ「日下部と峰岸がB組でお昼食べてるわね、それで私の気を引こうって作戦ね、あいつらしいわ」
ひより「そこまで知っていて・・・何故来れないのですか、そのために泉さんは髪の毛を・・・」
かがみ「だから、私はこなたを見れないのよ・・・」
突然私に振り返った。かがみ先輩の目には涙が溜まってた。
かがみ「こなたのお母さんの写真、二年の時に見た、こなたと同じ髪型だった、すぐに分かったわ、こなたが髪型を真似していることくらい・・・
    それを切ってつかさと同じ髪型にして・・・バカだよ、そんな事したら私、こなたを見れない・・・・その姿を見たとき、私はここで泣いた・・・」
泉先輩が髪を切った時にはすでに記憶が戻っている。かがみ先輩は記憶が戻っていたことを黙っていた。
ひより「かがみ先輩・・・いつ記憶がもどったのですか・・・」

 かがみ先輩はハンカチで涙を拭い話し始めた。
かがみ「みゆきがつかさの話をした日、みゆきのあまりに感情がこもった言葉が忘れられなくてね、その日の夜、何気なしに家族につかさの名前を出した、
    そうすると、急にみんな改まってね、私が二十歳になるまで秘密にするはずだったってね、つかさはね、生まれて間もなく亡くなってしまった、
    そう、お母さんが言ったわ・・・」
ひより「亡くなった・・・」
かがみ「早期胎盤剥離・・・が起きた、緊急だった、二人同時には出せなかったからどちらかが犠牲になる必要があった、先に出された私が助かった・・・
    そう聞かされた・・・違う、先に出されたんじゃない、つかさが先に私を出してくれた・・・そんな気がした時、全てを思い出した・・・」
私は言葉を失った。泉先輩の記憶が戻るのが最後だった。だけどつかさ先輩は復活していない。この世界につかさ先輩が存在しなかったわけじゃなかった。
存在していた。死んだ人を生き返らすことは出来ない・・・。
かがみ「田村さん、つかさは貴方にノートを渡したわね、普段そんなことする子じゃないわ、だから私は田村さんを選んだ、今の話、皆に言って欲しい・・・」
私から皆に言えるような話ではなかった。
ひより「私は・・・そんな事話せません、それより、明日のお昼ご飯、放課後の自習室に来て下さい・・・私にはそれしかかがみ先輩に言えません」
思わず強い口調で答えた。一瞬かがみ先輩の反撃を恐れた。
かがみ「それが出来るようだったらこんな事しない・・・」
高良先輩との会話が嘘のような弱気なかがみ先輩。つかさ先輩が居た世界とも違う。こんなに変わってしまうものなのか。どっちが本当のかがみ先輩だろうか。
ひより「すみません、私もう戻らないと、部活動がありますので・・・」
何故かもう話をする気になれなかった。
かがみ「待って田村さん、貴方たち集まって何をしようとしてるの」
ひより「つかさ先輩を元に戻そうと・・・」
かがみ「そんな事出来るの、方法なんてあるの」
ひより「分かりません、だから集まっているんですよ」
かがみ先輩は黙り込んで俯いた。
ひより「高良先輩は言いました、考えられる事は何でもやろうって・・・と言っても泉先輩の作戦しか思いつかなかったんですがね・・・あれだけ集まって・・・たいしたことないっスね」
私は苦笑いをした。
かがみ「田村さん・・・」
私はそのまま屋上を後にした。かがみ先輩は動こうとせずそのまま私を見送った。一人屋上に残ったかがみ先輩、何を思い、何を考えるのだろうか。

こ う「おかえり、丁度いい、山さん、毒さんも集まった事だし来期の新人獲得の為の作品のことで会議を・・・ってひよりんどうした、ファンと会ったんじゃないの」
私を見て驚いたようだった。自分的には至って普通にしているつもりだった。鏡を見てみたい。
ひより「いや、なんでもないっス、いやあ、ファン持つと色々たいへんっスよね」
こ う「のろけかい、いいから会議始めるぞ・・・」
会議に集中できない、怒る先輩たち。結局私は今度発行する部誌の編集をやらされることになった。成り行きとは言え・・・また徹夜になりそうだ。

 次の日、いつもの昼食風景、今日は小早川さんも調子がいい。何気ない会話に皆は夢中になっていた。お昼休みも中盤。私は何気なく辺りを見回した。
かがみ先輩が来てくれるような気がしたから。
ゆたか「どうしたの、田村さん」
ひより「何でもない・・・ところで、かがみ先輩の様子はどうです」
みさお「相変わらずなんにも変わってないな」
あやの「今朝も普段どおり・・・何か?」
ひより「何でもないっス」
こなた「さっきから落ち着きがないけど、どったの?」
かがみ先輩はもうとっくに記憶は戻ってる。そしてつかさ先輩の事。・・・言えない。確かに。かがみ先輩が言えない理由が今頃になって分かった。
そして、高良先輩にした言動を思い出すと会えない理由も理解できた。昨日、もっとかがみ先輩と話すべきだった。この雰囲気に耐えられない。
ひより「徹夜したせいかな・・・ちょっと調子が悪いっス、私、先に戻るっス」
みなみ「それなら、保健室で仮眠を・・・」
ひより「あ、そこまでしなくても大丈夫、それじゃ・・・」

 逃げるように教室を出た。これじゃかがみ先輩と同じじゃないか。途中三年C組を通る。思ったとおり教室にかがみ先輩の姿がなかった。きっと屋上に居るに違いない。
でも屋上に行く気になれなかった。それにお昼休みもそんなに残っていない。これじゃ放課後もかがみ先輩はきっと来ない。私が言うしかないのかな・・・。

 放課後の自習室、みんなが集まってもう一時間は経っている。なぜか今日は誰も発言しない。沈黙が続いていた。さすがにこれだけ進展がないと話すこともない。
私の知っていることを話せば何か反応があるかもしれない。逆にみんなもっと黙ってしまうかもしれない。もんもんとこんな事を考えている自分自身が嫌になってきた。
こうなったら話すしかない。私は覚悟を決めた。
「オッス、みんな」
突然ドアが開いた。元気な声が響いた。みんなドアの方を向いた。そのまま私達は口を開けていた。
「何辛気臭くなってるのよ、そんなんじゃつかさを元にもどすことなんかでかいないわよ」
いつも見慣れたツインテール。片手を腰に当てて少し口を尖らせている。かがみ先輩は周りを見回して一回おおきく深呼吸をした。そしてそのまま私の方に近寄ってきた。
かがみ「田村さん、昨日はありがとう、おかげで決心がついたわ、やっぱり私が言わないとだめだよね」
小早川さんと岩崎さんの方に向かった。
かがみ「つかさの事、そんなに思ってくれてありがとう、妹に代わってお礼を言わせて・・・ありがとう」
かがみ先輩は日下部先輩と峰岸先輩の元に向かった。
かがみ「こなたの作戦に付き合ってるみたいね、まさかあんた達がB組に行くとは思わなかった、もっと早くこなた、みゆきを紹介してれば良かったわね」
今度は高良先輩のに近寄る。
かがみ「屋上でとんでもない思い違いをしたわ、私がみゆきだったら殴っていたわよ、よく我慢したわね、知らなかったとはいえ悪かった、それに・・・あの涙、心に響いた」
みゆき「かがみさん・・・」
かがみ「その呼び方・・・屋上でも言ってくれたわね」
そして最後に泉先輩のに近寄った。
かがみ「こなた、その姿全然似合わないわよ、悪いけどこなたの作戦は効果ゼロだった、私はとっくに記憶は戻っていたのだから・・・だから間が抜けているのよ」
こなた「かがみ・・・」
かがみ「悔しいでしょ、どうしたのよ、さっさと殴りなさいよ、その髪の毛切らせたの私なんでしょ、伸ばしていた理由知らないとでも思ってるの」
こなた「かがみ・・・戻ったんだね・・・やっぱりかがみはツインテールじゃないとダメだよ」
かがみ「そっちかよ、私の話聞いてないのか、私はねあんたの好意をふみにじった・・・」
泉先輩はかがみ先輩に抱きつき泣いてしまった。
かがみ「放せよ、皆がみてるでしょ・・・そんな事したら・・・私まで涙が出るじゃないの・・・」
そのまま二人は抱き合って泣き崩れた。ツインテールのかがみ先輩。髪を短くしてリボンを付けた泉先輩。何故かかがみ先輩とつかさ先輩が再会を喜んで抱き合っている
姿が頭の中に浮かんだ。二人を囲むように他の皆も見ている。小早川さんは目を潤ませていた。皆も私と同じ事を考えていたと思った。
しばらく私達はその余韻に浸っていた。

こなた「そんな・・・つかさはもう既にいない」
かがみ「こなた、もうそのリボン要らないわよ・・・もう作戦終了」
かがみ先輩は話した。昨日私にしたように・・・皆はさすがに動揺した。雰囲気は一変した。
こなた「いや、外さないよ、つかさが戻ってくるまでは、かがみだってさっき私をつかさだと思ってたでしょ」
かがみ先輩は反論しなかった。
みゆき「すると、私達の記憶は別の世界、つまりつかささんが死ななかった世界の記憶だった・・・」
こなた「呪いの類じゃないね、平行世界、私達はつかさのいる世界に戻らなければならい、つかさも助かった世界に」
みなみ「その考えはまだ早い、まだ記憶が戻っていない人がいるのでは、例えばかがみ先輩のご家族・・・」
かがみ「それはない・・・私の記憶が戻った時家族に話したわ、つかさの事を、するとね次々にみんな思い出した・・・お父さん、お母さん、いのり姉さん、まつり姉さん、
    それでね、倉庫になっている部屋がつかさの部屋だって事が分かってね、家族みんなで探したわ、つかさの痕跡を・・・何も見つからなかった・・・」
ゆたか「記憶って考えたらつかさ先輩を知っている人私達だけじゃないよ、いままでつかさ先輩と関わった人って数え切れないほどいるよ、
    小中学校の友達、先生・・・通学ですれ違った人や買い物をした時の店員・・・高校だって先生や一、二年生でクラスが一緒だった人も・・・限がない・・・」
みゆき「そうですね、さすがにそこまでの人たちのつかささんの記憶を戻すことは不可能に近いですね、私達は近くの事しか考えていませんでした」
こなた「するとキーワードはやっぱりつかさのネタ帳・・・」
皆は一斉に私を方を向いた。
かがみ「田村さんノートはあるかしら」
ひより「持ってますよ」
机の上にノートを置いた。皆はノートに注目した。
みさお「これって、どう見ても普通の大学ノートだよな」
あやの「そうね、呪いの類ならもっと古風なイメージがあるね」
岩崎さんはノートを手に取りパラパラと開いて見た。
みなみ「中身もいったって普通」
岩崎さんはノートを元に戻した。

みゆき「かがみさん、一つお聞きしたい事があります」
かがみ「なによ改まって」
みゆき「つかささんが居なくなる前、つまり泉さんの家に行く前、かがみさんとつかささんで何かありませんでしたか・・・例えば喧嘩・・・」
するとかがみ先輩はどこか一点を見て考えているみたいだった。
かがみ「それが・・・分からない、それだけが思い出せない、あの日の事は全て思い出せない」
こなた「勉強会だってことも?」
かがみ「勉強会・・・その為につかさはこなたの家に?」
こなた「かがみも来るはずだった・・・私たちもこの日の記憶ははっきりしてない」
かがみ「それで何で私とつかさが喧嘩したって言うのよ」
ひより「それは、このノートにつかさ先輩が書いた事を見れば・・・」
かがみ先輩にノートを渡し、その項を広げて見せた。
かがみ「・・・『私が居なかったら』・・・何よこれ、まるで今の事じゃないの、この前みゆきに見せてもらった時は・・・バカにして見てなかった・・・」
みゆき「それを見て何か感じませんか、つかささんがそんな事を書く理由を考えると結論はかがみさんとの喧嘩・・・でした」
かがみ「なんで・・・そうなのよ」
こなた「かがみ、つかさに何か酷い事言ったんじゃないの、じゃなきゃつかさはそんなの書かないよ、それにね、私の家に来たのはつかさだけだった、でしょ、ひよりん」
私は頷いた。

かがみ「つかさだけ・・・喧嘩・・・どこで、何の喧嘩、そんな事した覚えない、他に何かないの」
ひより「そういえば・・・ノートに書く前、かがみ先輩の足を引っ張ってるからとか言ってました」
かがみ「なによそれ・・・足なんか引っ張っていないわよ、昔は・・・小さい頃はよくつかさの面倒をみたけど、でもつかさは可愛いってよく言われて・・・」
こなた「それでツインテールをするようになったんだよね」
かがみ「うるさい、余計なこと言うな」
かがみ先輩は拳を握った。泉先輩はしゃがんで頭を両手で押さえて防御の姿勢をした。
かがみ「と、とにかく、子供の頃はそうだったかもしれないけど、今じゃ私よりも優れてる所もあるし、そうゆう喧嘩は考えられない」
みさお「喧嘩じゃなくてもコンプレックスってことも、妹が姉に対して認めてもらいって思う事はよくあるんじゃないか」
こなた「みさきちが横文字使うとは」
かがみ・みさお「さっきから、足引っ張るな」
みゆき「それを言われるなら、揚げ足を取るではないでしょうか」
かがみ「なんだ、この緊張感のなさは・・・今まで何やってたのよ・・・」
かがみ先輩はため息をついた。

 何か懐かしいノリだった。でも何か足りない。こんな時、つかさ先輩はいつも笑顔でいたっけな。
つかさ先輩がきえた日のかがみ先輩の記憶・・・。これを思い出せばつかさ先輩の居る世界に戻れる。これがこの日の結論になった。
そして、数日が過ぎた時だった。突然かがみ先輩からみんな集まるように連絡が入った。
三年生はもう自由登校になっていたので三年B組に集まることになった。教室には私達以外誰も居なかった。

かがみ「悪いわね、急に呼び出して」
みさお「急に呼び出したってことは何か分かったことでもあったんか」
かがみ「まずはこれを見て」
そう言うとかがみ先輩は一冊のノートを机の上に置いた。見ると大きなシミが付いている。飲み物でも溢したのだろうか。
こなた「ノートだね、見たところ普通のノートだけど・・・」
かがみ「みゆき、このノート、心当たりある?」
高良先輩はノートを取り、何枚か頁を捲った。
みゆき「・・・私の字ですが・・・覚えがありません、このノートの内容は授業で受けた記憶がありません」
かがみ「これはね、家族みんながつかさの記憶を思い出したとき、倉庫、つまりつかさの部屋だった所を探していのり姉さんが見つけたノートよ」
こなた「なんで倉庫にみゆきさんのノートがあるのさ」
かがみ「私も最初は訳が分からなかった・・・でもね、これは田村さんが持っているノートと同じ、つかさが残したものだって分かった」
言っている意味が分からない。なぜ高良先輩のノートがつかさ先輩のノートになっているのか・・・。周りを見ても皆首を傾げている。
かがみ「このノート、三年の夏休み前、私がみゆきから借りたノート、もちろんつかさが居た世界でね」
みゆき「思い出しました・・・任意参加の特別授業ですね、確かかがみさんは風邪で欠席されました」
かがみ「つかさが消える日の前日、勉強会の準備でこのノートを写していた、悔しかったけど内容が全く理解できなかった・・・」
みゆき「そうですね、あの授業は任意参加でしたし、私も講義を聞いて半分理解できたかどうか・・・ノートだけでは不十分だったと思います」
かがみ「勉強会でみゆきに教えてもらおうとノートの整理をしてたらつかさがコーヒーを持ってきてくれた、ところがそのコーヒーをみゆきの
    ノートに溢してしまった・・・私のノートになら怒らなかった、いや、みゆきのノートでも怒らなかったかもしれない、でもね、なぜかあの時、
    私は激怒してしまった、今思えば自分が理解できなかったノートを汚されてただ怒っただけ、八つ当たりよね、感情むき出しでつかさにぶちまけた、
    つかさは平謝りだったけど、私は許さなかった、そしてノートをつかさに渡して元に戻してみゆきに返せって言った」
こなた「酷い、そりゃないよ・・・」
かがみ「出来ないと分かって言った、それでもつかさはノートを受け取って自分の部屋に戻った、そこで何をしたのかは分からないけどつかさなりに復元
    しようとしたんだろうね、私が寝ようとトイレに行った時もつかさの部屋から灯りがこぼれていた、次の日、今にも泣き出しそうにして、
    直せなかったからみゆきに謝りに行くって言ってね、私は行かないから勝手にしろって言ってしまった」
みさお「喧嘩というよりは、いじめだぞ、柊らしくない」
かがみ「・・・私もそう思ってね、しばらくしてつかさの後を追った、結局追いつかなくてこなたの家の前まで来てしまった、一言、ごめん、って言いたかった、
    どのくらい居たかは忘れたけど、諦めて家に帰ろうとした・・・そこから先は真っ白・・・覚えてない」
ひより「その先はつかさ先輩の居ない世界っスよ、多分」
かがみ「みんな、私、思い出したわよ・・・」
私達は黙ってかがみ先輩を見ていた。
かがみ「つかさは、どこよ、この教室の席にも居ない、私の家にも居ない、つかさの部屋にも居ない・・・帰ってくるんじゃなかったの」

みさお「この様子だと、柊の妹・・・復活してないな」
みゆき「そうなると、記憶はつかささんの復活とは何の関係もなかった・・・これが結論です」
かがみ「私ね、皆とは別に色々試していた、お父さんに呪術関係の事を聞いた、黒井先生につかさの事を聞いたりした、図書室や図書館でも関係しそうな本を
    読んだ、だけど何も分からなかった・・・・もう万策尽きたわ」
あやの「そうね、もう私達に出来ることはないわね」
みなみ「私達はこの世界で一生過ごす以外に道はない」
みさお「まだあるぞ、最後に残った方法が」
ゆたか「ノートを燃やしちゃうって・・・田村さんのノートだよ、それに唯一残ったつかさ先輩の居た証拠なのに」
ひより「私は・・・別にそれでも、一番最初に思いついた方法なので・・・でもこれは満場一致でないとできないっス」
こなた「それじゃ多数決をとるよ、ノートを燃やしていいと思う人手を上げて」

 一人、一人、と手を上げていく、すると、かがみ先輩と小早川さんだけが手を上げなかった。
こなた「二人反対だね、燃やすのは止めにして・・・どうする?、二人を説得するわけじゃないけど、このノート、残しても良いことないと思うよ」
ゆたか「私、入学前につかさ先輩に会った時の事が忘れられない、とても親切だった・・・」
かがみ「私は燃やすことは反対しない、でも、せめて卒業の日にして欲しい、それだけよ」
ゆたか「かがみ先輩がそんな事言うとは思いませんでした、つかさ先輩を消したのはかがみ先輩ですよ、私・・・」
目にいっぱいに涙を溜めて、教室を出てしまった。当然のごとく岩崎さんがその後を追った。
かがみ「言われてしまったわね、まさかゆたかちゃんに・・・そうよね、私がつかさを消したと言われても反論できない」
みさお「まあ、程度の違いはあるけど、このくらいの事なら普通の兄弟姉妹ならなくはないよな、その度に誰か消えてたら誰もいなくなっちまうぞ」
あやの「そうね、気にしないで・・・」
かがみ「私もここに居るのは場違いね、帰らせてもらうわ・・・つかさも言ってたっけ、ゆたかちゃん妹みたいだって・・・」
小早川さんに言われたことがこたえたのかうな垂れたまま教室を出て行った。
みさお「おい、まだ話終わってないぞ、どうするんだ、このノート・・・行っちまった、」
みゆき「小早川さん、入学前からつかささんとお会いになってたのですね」
こなた「かがみも会ってるよ、春休みの時、私の家に遊びに来たんだよ」
みさお「いいのかちびっ子、柊思いつめてたぞ」
こなた「ああゆう態度の時のかがみは何言っても無駄だよ、そっとしておこう」
みさお「これから、どうする」
こなた「どうだろ、卒業式後、もう一回ここで多数決取るのは」
みさお「異論なし、あやのは?」
あやの「私も、柊ちゃんには私から言っておく」
みゆき「賛成です」
ひより「同じく」
日下部先輩と峰岸先輩は教室を出て行った。
みゆき「かがみさん、ノート忘れてますね」
ひより「そのノート私が預かりますよ、あ、このノート高良先輩のでしたね」
みゆき「いいえ、そのノートは私が持っていても・・・私も失礼します」
高良先輩も教室を出て行った。私と泉先輩だけが残った。泉先輩は大きく一回ため息をついた。私は泉先輩を見た。泉先輩はまだリボンを付けてる。
ひより「泉先輩まだリボンつけてるっスね、もしかしてまだつかさ先輩の復活諦めてないっスか」
こなた「諦めてないよ、私は今すぐにでもノートを燃やしたいね」
ひより「ノートを燃やすと元の世界に戻れると?」
こなた「そうだよ、それに・・・もし、つかさの記憶が無くなってもこの髪型がつかさ居たって証拠になるからね・・・誰も知らない、私さえも知らない証拠になるけどね」
ひより「私の言った三つ目っスか・・・切ないっスね」
こなた「・・・ゆーちゃんには私から言っておくから、みなみちゃんはひよりんからお願い」
泉先輩は教室を走り去った。そして私だけが残った。

 シミの付いたノートをしまうと教室を見渡した。三年生の教室か・・・。私達はあと二年この学校にいる。
この教室が私のクラスになったらきっとつかさ先輩の事を思い出すに違いない。そう思うと小早川さんのあの行動も大げさじゃないと思った。
つかさ先輩が復活してもしなくてもこの学校につかさ先輩が来ることはもうない。つかさ先輩、卒業の時は笑顔見れるかな・・・いや、泣いちゃってるかな・・・つかさ先輩のことだから。
おっと、長居しすぎた。私も帰るかな。

 家に帰ってもまだやることがあった、部誌の編集。っと言ってももう殆ど出来上がっていた
あとは提出するだけ。さっさと仕事を片付け、明日の準備をする。鞄を空けるとシミの付いたノートが出てきた。
よく見ると半分以上がシミだ。みごとにコップの中身を全て溢してしまったようだ。頁を開いてみると。うわー字がにじんで読めない。ただでさえ難しい内容なのに・・・
これはかがみ先輩じゃなくても怒るかな・・・。おや、最後の頁、字が違うな・・・ゆきちゃんへ・・・ゆきちゃん、そう呼ぶのはつかさ先輩だけ。
よく見るとこの字、つかさ先輩の字だ。ネタ帳と同じ字・・・
『ごめんなさい、ゆきちゃん。私、飲み物をこぼしてノートをダメにしてしまいました。元に戻そうとしたけど、シミを取ろうとすればするほど
紙が傷んでしまうので手が付けられませんでした。せっかくお姉ちゃんに貸してくれたのに、お詫びのしようがありません。・・・つかさ』
これって、謝罪文じゃないのか・・・。短い文だけどこれを高良先輩にに渡すつもりだったのかな。下手な細工でごまかすよりよっぽどいいかな。
この項にだけ違うシミが付いている。飲み物・・・コーヒーのシミじゃない、丸く色の付いていないシミ・・・これは涙だ。
この謝罪文泣きながら書いたに違いない。思わず私も目が潤んだ。かがみ先輩はこれに気付いていたのだろうか。この話は一切していないから
気付いていないと思った。このネタ帳の他にまだつかさ先輩が残したものが在ったなんて。このシミのノートは最後に皆に見せるかな。
きっとネタ帳と一緒に燃やすことになる・・・。本当に燃やしていいのかな?。今考えてもしょうがない。全ては卒業式後だ。


 卒業式が終わり、卒業生達は学校を後にする。すっかり静かになった校舎。もう誰も居るはずもない三年B組の教室に私達は居た。
始めは行かないと言っていた小早川さんも参加している。欠席すると反対票が無効になるからだと言っていた。多数決の結果は見えていた。
泉先輩が多数決を取ろうとするとかがみ先輩がその前に話があると言って止めた。すかさず私も話したい事があると言った。私は先輩に譲った。
かがみ「悪いわね、先に話させてもらうわ、私は今日の事を家族に話した。そうしたらお母さんがこれを渡してくれた」
そう言うと小さな箱を机の上に置いた。
みゆき「何ですか」
かがみ「つかさのへその緒よ・・・もしノートを燃やしてつかさが帰って来なかったら一緒に燃やしてって・・・これが私達家族の答え、家族もつかさを元に戻そうと
    いろいろ試したみたい、結果は見ての通りよ、父、母、姉に代わってお礼を言うわ、みんなありがとう」
みゆき「柊家はノートを燃やす事に異論はないと・・・」
かがみ「そうよ、どんな結論が出てもそれに従うわ」
この発言に小早川さんはかなり動揺している様子だった。
こなた「ひよりんは何の話かな」
ひより「私はこの前のシミノートを預かったのですが、家で中を見ていると、つかさ先輩が書いた頁が見つかったので皆に見てもらおうと持って来ました」
つかさ先輩の書いた頁を開いて机の上に置いた。皆は机に寄ってきた。
みゆき「これは・・・」
こなた「つかさの字だ・・・」
あやの「謝罪文・・・みたいね」
ゆたか「つかさ先輩、かがみ先輩に追い詰められてこんなことまで、かがみ先輩・・・・」
小早川さんが言うのを止めたので私はかがみ先輩の方を向くと、かがみ先輩はノートを見ていなかった。
かがみ「私はわざとこのノートを置いていった、やっぱり見つけてくれたわね、でも私の見てもらいたかったのは謝罪文じゃない、そのノート、頁が全部捲れるでしょ、
    紙は濡れるとくっ付いちゃうよね、つかさはくっ付かないように一頁、一頁、丁寧に乾かしたのよ、それににじんだ字は分かる範囲で修正してある」
私はそこまで気が付かなかった、小早川さんは頁を捲って確認している。
かがみ「つかさはねああ見えて自分が納得しないと誰の言う事も聞かない子でね、私と同じ高校に行くと言った時もそうだった、だから私が怒らなくてもつかさはそうたわよ」
みさお「それじゃこのノートも家族は知ってるのか」
かがみ「私がつかさにした仕打ち、家族は知っている・・・だからそのノートも踏まえて焼く事を決意したのよ、焼いたらどうなるか分からない、
    うまくいけばつかさは助かるかもしれない、今のままかもしれないし、もっと違う事が起きるかもしれない、ただ私達は選ぶ事ができない」
みさお「その話は前にした、もう私は決まってる、いつでも良いぜ、多数決」
こなた「それじゃ、ノートを焼くの賛成の人手を上げて」
全員の手が上がった。

 ノートを燃やす場所は柊家の庭に決まった。日下部先輩が部活の関係でもう少し学校に残ると言うので燃やす時間は午後7時になった。
そして一度解散した。一年の私達は特に用事はないのでそのまま柊家に向かった。これも縁というのであろうか、駅でかがみ先輩とばったり会った。泉先輩、高良先輩も一緒だ。
こなた「奇遇だねひよりん達、どうせ行く所は同じだし一緒にいくか、かがみの家行くの初めてでしょ」
ひより「そうっスね、あれ、峰岸先輩は・・・」
こなた「峰岸さんはみさきちを待つって」
ひより「へーあのお二人仲がいいんっスね」
こなた「中学時代から仲がいいらしいよ、ね、かがみ」
かがみ「・・・そうね」
気のない返事、かがみ先輩はどうやら小早川さんを意識しているらしい、この前の発言がまだこたえているのだろうか。ふと小早川さんを見ると、彼女も急に話さなくなっている。
岩崎さんの陰に隠れているような、そんな感じに見えた。
こなた「ところでゆーちゃん、賛成したね、どうしたのさ、家でも反対するって言ってたのに」
ゆたか「えっと、・・・」
何か言い辛そうな感じだ。かがみ先輩が居ることを知っててあんな質問を。泉先輩はあえて聞いているのか、それともただの興味本位なのか、全く分からない。
かがみ「ゆたかちゃん、言いたいことがあるなら言った方がいいわよ・・・あの時みたいに・・・あの言葉、胸に響いたわよ」
にっこりと小早川さんに微笑みかけた。
ゆたか「私・・・ごめんなさい、かがみ先輩のご家族がそこまでの覚悟だったなんて・・・それにかがみ先輩・・・あの時何も隠さず話されましたね」
かがみ「嘘ついたって現実が変わるわけじゃないわよ・・・真実をありのまま・・・それだけよ」
いい雰囲気になった。まさか泉先輩これを狙ったのか。
こなた「胸に響いたねー・・・響くほどないくせに」
かがみ「なんだと、あんたに言われたくないわ」
軽く泉先輩の頭を小突いた。
こなた「殴られたーゆーちゃん、たすけてー」
かがみ「子供か、もう電車くるぞ」
小早川さんの陰に隠れて身をかがめる泉先輩。高良先輩はただ黙って見ている。なるほどね。全てこの三人は分かり合ってる。私達はまだこの三人、いや四人の域に達していないな。
みなみ「ゆたか、もう戻った・・・ゆたかが教室を出て追いかけた時、すぐにあんな事言ったのを後悔していた、タイミングが難しい、でも泉先輩のおかげで助かった」
ひより「そうだね、私達、泉先輩達みたいになれるかな」
みなみ「なろうとしてなれる訳じゃない、なってしまってしまうもの、難しい・・・」

 私達はかなり早くかがみ先輩の家に着いた。
かがみ「こなた、そのリボン取りなさいよ」
こなた「この前言わなかった、取らないよ」
かがみ「知らないわよ・・・ただいまー」
かがみ先輩はドアを開いた。奥から何人かが出迎える。
「おかえり、かがみ、あら、皆さんおそろいで・・・泉さん、高良さん・・・覚えているわ、つかさが居たとき、遊びに来たことあった・・・その髪型・・・」
かがみ「ちょっとお母さん、やめてよこんな所で・・・」
この人がかがみ先輩のお母さん・・・かがみ先輩に似ている・・・おばさんは泉先輩の前に近寄り涙ぐんでいる。
また奥から二人来たが同じく泉先輩の前で涙ぐんでしまった。泉先輩も気付いたみたいだったけどもう遅かった。泉先輩は三人に囲まれてしまった。
この二人は姉なのだろう、かがみ先輩、つかさ先輩と似ている。。
おばさんは気を取り直た。私達はつかさ先輩の部屋になるはずだった部屋に案内された。

ひより「ここがつかさ先輩の部屋・・・倉庫じゃなかったっスか」
かがみ「とりあえず荷物は別の部屋に移した、さすがに全て元にもどせないから何もないけどね、とりあえずここで日下部達を待ちましょ、お茶もってくるわ」
かがみ先輩は部屋を出た。そこに入れ替わるように泉先輩が入ってきた。
こなた「やっと開放された・・・かがみの言った意味がわかったよ」
ゆたか「お姉ちゃん、記憶を戻す作戦でその髪型にしたんだよ、記憶が戻ったかがみ先輩の家族に会えばどうなるか・・・」
みゆき「そうですね、これで泉さんの作戦の有効性が証明されました」
こなた「なんだ、みんな知ってたのか・・・かがみもはっきり言わないから・・・」
ひより「所で、泉先輩の所にいたお二人は誰っスか、かがみ先輩のお姉さんなのは分かるけど・・・」
こなた「ああ、ひよりん達はまだ知らないか・・・私も直接話したことはなんだど・・・あれ、みゆきさん覚えてる」
みゆき「確か・・・釣り目の方が長女のいのりさん、そして垂れ目の方が次女のまつりさんだと・・・」
ゆたか「まつりさん・・・つかさ先輩に似てますね」
かがみ「性格はぜんぜん違うけどね・・・」
お茶とお菓子を持ってかがみ先輩が入ってきた。
「誰の性格がぜんぜん違うって、聞き捨てならないな」
かがみ「げっ、まつり姉さん、いつの間に・・・」
かがみ先輩のすぐ後ろにまつりさんが居た。そしてすぐにいのりさんもやってきて、私達は学校でのつかさ先輩の話を、がかみ先輩姉妹は家でのつかさ先輩の話を
交換するように話し合った。つかさ先輩の居ないこの世界で私達の記憶と思い出だけが楽しげに交差した。お互いの欠けた記憶を補填するように。
程なく日下部先輩、峰岸先輩が来ると話は一段と盛り上がった。もうここにつかさ先輩が居るようだった。

ゆたか「もう、時間すぎてますよ・・・」
この一声で皆の会話は止まった。予定の時間はとっくに過ぎていた。
まつり「楽しかった、私は立ち会えないけど・・・つかさもきっと喜んでるよ」
まつりさんが部屋を出た。
いのり「私は立ち会わせもらうわ、準備が出来たら呼んで、かがみ」
かがみ「準備なんてすぐよ、庭で待ってて」
いのりさんは手で返事すると部屋を出ていった。
こなた「さて、私た達も行こうか、ひよりん、ノートは持って来てるよね」
ひより「もちろん、ここに二冊あるっス・・・って両方ともっスか」
みさお「片方残す理由もないぞ、行こう」
私達は部屋をでて庭に向かった。

 みんなを見渡すと暗く沈んでいる。燃やしてしまってどうなるか不安なのだろう。
泉先輩はいまだにリボンを外していない。その表情もなんとなく明るい。日下部先輩もそんな感じだ。
ノートを燃やすことにかなりの期待をしているのが伺える。確かに私も最初に考えた事だし今更ネガティブになってもしょうがないな。

 庭に出ると既にいのりさんが待っていた。そしてその隣りにはおばさんとおじさんもいる。まつりさんは見当たらない、別れ際に言ったことは本当だったようだ。
み き「ここにマッチがあるわ、誰が火を点けるの」
そんなの決めてなかった。皆を顔を見合わせた。
みゆき「火を点ける方はかがみさんの他に居ないと思います」
即答だった。皆は一斉にかがみ先輩に注目する。かがみ先輩はそう予感していたのか、立候補するつもりだったのか、手に持っていた小箱、つかさ先輩のへそ緒を持って
おばさんに向かってマッチと小箱を交換した。
かがみ「お父さん、お母さん、いのり姉さんその箱燃やすことにならないように祈って・・・皆も祈って・・・田村さん、ノートをここに・・・」
私は二冊のノートをかがみ先輩の足元に置いた。
かがみ先輩はしばらく目を瞑るとマッチに手をかけた。

 何分経っただろうか、かがみ先輩はマッチに手をかけたまま動こうとしない。
かがみ「・・・出来ない、やっぱり私には出来ない」
かがみ先輩はマッチに手をかけるのを止めた。
いのり「私達、決めたじゃないの、今更そんな・・・友達だって納得しないわよ」
かがみ「まつり姉さんだって、最後まで反対してたじゃない、だから・・・居ないんでしょ、分かるわよそのくらい」
いきなり姉妹同士で言い合いが始まった。家族一致の決断じゃなかったのか。私達でさえ一致するのに時間かかった。まして家族ともなれば・・・。
おじさんとおばさんも止めには入らない。
私達はいのりさんとかがみ先輩の言い合いをただ見ていた。
こなた「マッチ貸して、私が燃やす」
痺れを切らしたようにかがみ先輩に近寄り手を伸ばした。
二人は言い合いを止めた。

かがみ「こなた、あんた分かってるの・・・もう二度とつかさに会えないかもしれないのよ・・・」
こなた「今でも充分会えないよ、いいから貸して」
さっきよりも口調がきつくなった。しかしかがみ先輩はマッチを渡そうとしなかった。
かがみ「今になって分かった、私はつかさが居ないとダメだって、小さい頃から世話したのはつかさが私から離れないようにしたかったら、
    なんで消えたのよ、あれだけで、何も言わないで簡単に消えちゃって・・・コーヒー溢したのなんて・・・大したことないじゃない・・・」
そのままノートの前にしゃがみこんで泣き崩れた。
こなた「もういいよ、かがみ、もう、かがみがつかさを必要だってことはもう分かった、もう他に方法ないよ・・・私だってこんな賭け・・・」

 泉先輩も涙を流し始めた。さすがの私も目が潤んできた。確かにつかさ先輩はノートに書いて簡単に消えた。簡単に消えた・・・。

 かがみ先輩は全てを託すように泉先輩にマッチを渡した。泉先輩はマッチに手をかけるとすぐに火を点けた。

 簡単に消えた。つかさ先輩は簡単に消えたんだ。シミの付いたノートに謝罪文を書いている時じゃない。ノートを補修している時でもない、
ネタ帳にったった一言書いただけ、それだけでまるで消しゴムで消したように消えた。

 あれ、消しゴム。私は燃やそうと思う前に確か消しゴムでつかさ先輩の書いた文字を消そうとしたんだっけ。でも消えなかった。
つかさ先輩は言った。私がいなくなったらどうなるか試したいって。かがみ先輩の足をひっぱるから・・・。
かがみ先輩はさっき言った。つかさ先輩が居ないとだめだって・・・。もうこのノートのシミの件は解決している。つかさ先輩の目的はもう果たせた。
私では消せなかった文字・・・まだ一つやっていない事があった。

ひより「火を点けるの待った」
こなた「えっ?」

 叫ぶと同時にノートを見るとメラメラと炎を上げて燃えて上がっていた。
ひより「まだあった、やっていない事、まだ燃やすの早いっス」
それを聞いた泉先輩はノートを手で煽り始めた。かなり慌てていた。
かがみ「ばか、煽ってどうする、砂をかけろ」
二人は足元の土を手で掴んでノートにかけた。途中から小早川さんも参加した。炎はみるみる小さくなった。

こなた「びっくりした」
かがみ「びっくりしたのはこっちだ、まったく」

 皆は私に注目する。
こなた「なんだい、まだやっていない事って」
ひより「いや・・・もう遅いかも、ノートが燃えちゃたらダメっス」
小早川さんがノートを拾った。
ゆたか「シミの付いたノートは半分焼けてる、田村さんのは、表紙が少し焦げただけみたい」
ひより「よかった、小早川さん焼けてない方貸して」

 ノートを受け取ると私はかがみ先輩に消しゴムを渡した。
かがみ「何・・・これをどうするの」
ひより「つかさ先輩は簡単に消えた、だからもっと簡単に考えて・・・」
ノートを開いてつかさ先輩が最後に書いた頁を開いてかがみ先輩に渡した。
ひより「つかさ先輩が書いた『私が居なかったら』をその消しゴムで消して下さい」
かがみ「何よ・・・そんな事したって、何も変わらないわよ」
ひより「その字、鉛筆で書いた字っス、私では消えませんでした、かがみ先輩はこの字を否定してるっス、今のかがみ先輩なら消せるかもしれません」
かがみ「無駄よ・・・消してどうなるのよ・・・」
みゆき「消しゴムで消すだけです、燃やしたら、それすらも分からなくなります、それでもいいのですか」

 かがみ先輩は黙って消しゴムでこすり始めた。文字は消しゴムで鉛筆の字を消すように消えていく。
かがみ「普通に消えるじゃない・・・何も起きないわよ」

 

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