ID:rsf00NfY氏:夜明け

夜、私は夢を見た。

夢の中で、私は会話をしていた。
全く知らない人と……
全く知らない場所で……
でも、私はふと気づくまでは、自分が今いる場所も、今話している相手のことも全く気にならなかった。
ここは、私のいるべき場所で、この人は私が心を許して話せる人間だ。
そう思っていた。
そして事実そうなのだ。
この夢の中では……
私が夢を夢と認識するまでは……

気づいてから急に怖くなった。
ここはどこなのだろう…話しているのは誰なのだろう……
こなちゃんは?ゆきちゃんは?お姉ちゃんは?
必死で見知った世界へのカギを探し、そして携帯電話がポケットに入っていることに気づく。
これで電話をすればいい!
溺れているところに投げ込まれた浮き輪をつかむように、ぐっと携帯を握りしめた途端、覚醒の気配を感じた。

勢いよく飛び起きる。
夢とはわかっていても空気を求めて水面から必死で顔を出そうともがくように


いやな夢見ちゃったな……

上半身を起こしてあたりを見渡すと、3人が私とは対照的に穏やかな表情を浮かべて眠っている。
そう、今日はこなちゃんが言い出した卒業旅行に4人で来ていたのだ。
今いる部屋はその旅行先の民宿の一室。
ここに自分がいる経緯をなぞるように思い出す。
あまりにもリアルな夢のせいで少し頭が混乱している。

どうしよう……目がさめちゃったよ

どうやらしばらくは寝れそうにない。
しばらく悩んでいると、窓から差し込んでくる月の光が目に入った。
おいでおいで、と優しく語りかけてくるその光に吸い寄せられる。
私はパジャマのままで外に出た。
私たちの民宿は前に黒井先生たちと海に来た時に泊まったところだ。
海までは歩いてすぐ
夏には人がいっぱいいるはずの海もこんな季節のこんな時間には誰もいない。
風、波の音
星、月の光
世界に私一人しかいないような錯覚に陥る。

さっき見た夢を思い出す
知らない場所、知らない人
これから訪れるだろう場所、これから出会うかもしれない人

星は、変わらず輝き続けるだろう
私が生きている間はおそらく
でも私は変わっていく
月は、変わらず廻り続けるだろう
私が死んでもおそらく
でも私の人間関係は変わっていく

そしてそのときはもうすぐそこに迫っている

寒い…
まだ冬が明けきってないのだろうか、それともこんな真夜中だから冷えるのかな
違う
心がそう感じさせるんだ
怖い
心の中の寒さがその壁を突き破って肉体からも体温を奪っていく
苦しい
さっきまで優しく見守っていてくれていたはずの海が急に牙をむく
意識が海の底に引きづり込まれる
息が…苦しい
精神がおぼれて悲鳴をあげたい衝動に駆られた時、後ろからの声に私は引き上げられた。


「つかさ?」


「こなちゃん?」
「どったの?つかさ。こんな時間に。ぼーっと立ってたけど大丈夫?」
「うん。もう大丈夫」
「ホントに?」
「……うん」

「こんな時間に何してたの?」
「あのね、いやな夢……見たんだ」

「それで寝れなかったからすこし歩こうかと思って」
「そっか、起きた時つかさがいなかったから心配したよ」
「ごめんね」
「無事だったならいいよ」

「無事……じゃないかも」

「え?」
「こなちゃんは怖くない?」
「何が?」
「卒業しちゃうこと」
「なんで?」
「なんでって……」
「新しい生活に、とか?」
「いろいろ変わっちゃうのが」
「怖い、かぁ。あんまり感じたことないなぁ」
「夢の中でね」
「うん」
「私、全く知らない人と話してるの……」
「それで?」
「それだけ」
「それだけ?」
「うん」


「私ね、中学校のときに仲の良い友達がいたんだ。だけど高校に入ってからは電話もしなくなっちゃった」
「うん」
「あんなに仲が良かったのに……でも今はもうそのことが自然になっちゃったし、ほとんどの時間はその子のこと自体忘れちゃってるんだ」

「だからね……怖いんだ。これからみんな大学生になったらこなちゃん達とも会わなくなって、最終的には全部忘れちゃうんじゃないかって…」

「私はあんまりそういうこと考えたことないな。基本的に今が楽しければいいっていうか、あんまり先のことは考えない」
「うん」
「それでよくかがみなんかには怒られちゃうけどね」
「……そうだね」
「だからつかさの言うようなことは考えたことないな。でも」
「……?」
「そんなに心配する事じゃないよ、多分」
「そう……かな?」
「私も中学校のころ仲が良かった子がいてね」
「そう言ってたね」
「今は全然連絡取ってないけど」
「うん」
「でもそれでその子と関係が切れたなんて思ってないよ」

「高校に入って新しい友達ができて、連絡とらなくなってさみしく思ったこともあったけどそうやって変わっていくことは悪いことじゃないよ、多分」
「でも、私は怖いよ、こなちゃん達と離れていくのが」
「だったら積極的に連絡を取ればいい話だよ。昔の人も遠く離れても、手紙とかで連絡し合ってたんだから」
「そっか、じゃあ私、こなちゃんに手紙を書くよ、いっぱい」
「……はは、つかさってほんとそういうとこホント天然だよね」
「ふぇ?」
「現代なら手紙じゃなくてもいつでも電話やメールで連絡取れるじゃん」
「はぅ、でもこなちゃんメール返してくれないし」
「むぅ、つかさに一本返されるとは」


そう言いながらこなちゃんは嬉しそうに笑った。
つられて私も笑った。
二人並んで空を見上げる。

星は、変わらず輝き続けるだろう
私が生きている間はおそらく
でも私は変わっていく
月は、変わらず廻り続けるだろう
私が死んでもおそらく
でも私の人間関係は変わっていく

そしてそのときはもうすぐそこに迫っている

暖かい……
そう感じるのは朝が近づいてきたから?
ううん、きっとそれだけじゃない


白んだ空が長い夜の終りを告げようとしていた。





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