ID:7FbZrFjh氏:総じて、彼方にあるものは。

ねえそうちゃん、この子はどんな子に育つのかしら
きっと、そうちゃんみたいに優しい子だわ
そうちゃんの優しさは溢れ出ているもの、きっと、この子にまで零れ出すぐらいに与えてるよね
そうだと良いなぁ、そうなってくれるとうれしいなぁ
わたし、そうちゃんに倖せにしてもらったもの
この倖せを独り占めなんてできないわ、この子も、きっと他の誰かを倖せにするわ
わたしじゃなくていい
できれば、そうちゃんを倖せにしてほしい
この世に生まれてきたことを、うれしいと思ってほしい
そう思ってくれれば―――私は、それこそ倖せなのよ、そうちゃん
どんなことよりも―――そうなのよ
そうちゃん、そうちゃん
この子は、きっとそうちゃんを愛してくれる
わたしの分まで、愛してくれるわ
だから、そうちゃん
お願いよ―――お願い




この子はきっと、そうちゃん以上に不器用になるわ
だから、そうちゃんが「感情」を教えてあげて
恋をすることを、喜ぶことを、悲しむことを、怒ることを、笑うことを、教えてあげて
倖せを―――教えてあげて
ね?
お願いね
ゆぎきりげんまんだからね、そうちゃん
大好きだからね―――そうちゃん




「あ、起きた?お父さん」

懐かしい夢を見た。かなたの夢だ。
ふんわりとしていて、真っ白に包まれていて―――でも、内容ははっきりと覚えている。
こなたが生まれる前、かなたと話したときのこと。
今でも時々、夢に見る。

夢を見るのは、まだ俺がかなたを忘れていない、まだ充分過ぎるぐらい愛しているという証拠になってくれればと何度も思ったが、
この年になってまでそんな夢見がちな意見は呟いてはいられない。まだ忘れられないし、愛しているが、夢を見るのは脳の造りに基づいた習慣だ。

…いや、誓ったではないか。
こなたが俺の傍にいるときは、俺はいつでも夢見がちな大人でいようと。
恋や愛を大切にする、父親でいようと。
決意―――したではないか。
忘れた訳ではない。
忘れてはいけない。

「…おとーさん、聞いてる?まぁだ寝ぼけてるの?」
「あ?ああ、すまん、ぼーっとしてたよ」
「こたつで寝たら風邪引いちゃうよ、布団行きなよ、もう11時だし」

どうやら俺はこたつのぬくもりに負けて眠ってしまっていたらしい。
テーブルの上にはノートパソコンに、とっくの昔に冷めてしまった熱燗、
テレビは深夜のニュースを淡々と読み上げる、アナウンサーの姿が映っていた。
俺の娘は仕方がないといった見事な呆れ顔で、起き上がった俺の隣に腰を下ろす。

「お酒を飲みながら書くと、変な文章になるよねぇ」

ノートパソコンの画面の、文字の羅列を眺めながら、こなたがにやにやと俺の顔を覗き込んできた。
ああ、失敗した。何故今日になって執筆活動をしながら飲酒などしてしまったんだろう。
寝起きとアルコールの成分で呆けた頭に、その疑問の回答は返ってこない。まぁいい、どうせ大したことではないだろう。
こなたの、ん?と言いたそうに面白く笑いの表情を浮かげている顔の頬を軽く抓り、黙ってろと明るく注意してやった。
こなたは、ひっどーい!せっかく起こしてあげたのにー!と騒いでいる。

「…ねえ、お父さん」
「ん?何だ?」
「もしかして、寂しいの?」
「え?」

急に、先程までのころころ変わる表情をいつも通りの無表情に変えて(無いものに変えるなんて、文法的に変な感じはするが)、こなたが尋ねてくる。
娘の視線は、俺の所有するノートパソコンの画面に向けられていて、それが何故か気になり―――俺も視界を画面に向けてみた。
そこに書かれていたのは。

「……………っ!ち、ちが…っこれはだなぁ!」

そこに書かれていたのは、意味不明な文章の最後に、いっそ孤立したかのように挙げられていた―――…
「かなた」
の、文字。

何故こんな単語を。
そして、選りにも選ってこなたに見つけられるなんて。
まずいことなど何もない。
何もないはず、なのに。
どうしてこんなにも―――動揺しているんだ、俺は。

「……………っ」

どうしよう。
どう言い繕えばいいんだ。
早く、早く何か言わないと―――。

こなたが俺を見ているのに―――どうして、何も言えないんだよ。
かなた―――教えてくれよ。






「私、自分を責めてないよ」






「……………えぇ?」

俺は、間抜けな声を出すしかできなかった。

「お父さんもお母さんも、大好きだよ」
「……………」
「寂しい思いさせてごめんなんて、言わない」
「……………」
「私を、産んでくれてありがとう」
「……………」
「私、

生まれてきて、倖せだよ

これ以上なく―――倖せなんだよ」





「ありがとう、お父さん、お母さん」




かなた。
心配いらないみたいだよ。
俺達の子供は―――こんなにも、良い子に育ってくれた。
お前も、安心するだろう?

「…どういたしまして、こなた」

俺がそう答えると、こなたは心底うれしそうに笑顔を浮かべた。
嬉しいことや、悲しいことや、愛すること。
これからも、教えて、教えられて生きていけそうだ。
















そうちゃん
良かったね
わたしも―――解ったよ

Fin.



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