ID:I6Qnxl6j氏:きー兄さん

「こなた、こなたじゃないか」
 とある休日。泉こなたと柊かがみが町をぶらついていると、後ろから男性に声をかけられた。振り向いたこなたは、驚きに目を見開いた。
「きー兄さん!?いつ戻ってきたの!?」
「ついさっきだよ。久しぶりに大きな連休が取れたからね」
 親しげに話してるところを見ると、こなたの近しい知り合いではあるとかがみは判断したが、どこの誰かはさっぱり分からない。
「…ねえ、こなた。誰?ってか兄さん?あんた一人っ子じゃなかったっけ?」
 かがみがこなたを肘でつつきながらそう聞くと、こなたは首をかしげた後ポンッと手を叩いた。
「あー、そっか。かがみは知らないんだ…えーっと、この人は成実きよたかさんっていって、ゆい姉さんの旦那さんだよ。だから、きー兄さん」
「なるほど」
 かがみは納得して頷いた。たしか、単身赴任で新婚早々離れ離れになってると、こなたから聞いたことがある。
「ゆい姉さんは知ってるの?」
「いや、前のクリスマスの時みたいに驚かそうと思って、連絡なしで戻ってきたんだ」
「いたずら心もいいけど、ちゃんと連絡しないとまた入れ違うよー」
 従姉妹の旦那。親戚とは言え、血はつながっていない。それにしては、やけに親しく話すなと、かがみは不思議に思った。



― きー兄さん ―



 こなたがきよたかに初めて会ったのは、中学二年の頃だった。
 従姉妹である小早川ゆいに、高校時代から付き合っている恋人がいるとは聞いていた。常に熱暴走気味というか、どこかネジが外れていると言うか、そういった感じのゆいの恋人であるから、さぞ変人だろうと予想もしていた。
 しかし、実際会ってみると物腰は柔らかく、ひたすらに人の良さそうな感じを受けた。同級生の男子はもちろん、今までに会ったどんな男性とも違う雰囲気に、こなたは胸の高鳴りを感じていた。何度か会ううちに、その胸の高鳴りははっきり恋と呼べるものになっていた。
 しかし、彼は従姉妹の恋人。近い将来に、結婚するつもりだとも聞かされた。だからこなたは、自分の想いを隠した。消えて欲しいのに消えてくれない想いを抱いて、日々を過ごした。
 そして、高校二年の六月。ゆいときよたかは結婚した。
 ジューンブライド。なぜ、このうっとうしい梅雨時に結婚するのが幸せなのか。みゆきに理由を聞いても、あまり納得は出来なかった。
 でも、このシトシトと降る雨は、空が自分の代わりに流してくれる涙なんだ。そう考えると、少しばかり気は楽になりそうだ。こなたはそんなことを考えながら、ぽっかりと穴の開いた心で、梅雨の空を見上げた。




「…なーんて…」
「かがみ。かがみ!」
「…って、うわ!?こなた!?」
 こなたに急に声をかけられ、かがみの妄想は半ば強制的に中断させられた。
「なにボーっとしてんだよー。さては話聞いてなかったなー」
「ご、ごめん」
 むくれるこなたにかがみが謝ると、こなたはすぐに表情を緩めた。
「ま、いいや。そういうことだから、わたし買ってくるね。かがみはきー兄さんとここで待ってて」
「えっ?あ、ちょっ」
 かがみが止める間もなく、こなたはとてとてと効果音が聞こえてきそうな足取りで、どこかへ行ってしまった。
「…話聞いてないの分かってるのに、説明なしで行くのな…」
 かがみはため息をついて、きよたかの方をチラッと見た。なんと言うか、少しやりにくいというか居づらい。
 素性は知ってるものの、今日初めて会った見知らぬ男性と二人きり。あまり経験のないシチュエーションに、かがみはどう話して良いか分からいし、どう話しかけられても困るような気がした。
「面白い子だよね。こなたって」
「え、あ、そ、そうですね」
 いきなりきよたかにそう言われ、かがみは少しどもりながら答えた。しかし、話題としては悪くないとかがみは思った。お互いが知ってる第三者の事なら、あまり不都合もなく会話が出来るはずだ。
 きっと良い人なんだと、かがみは先ほどの妄想の中の人物像があまり的外れではないと、確信した。
「いつも何かと振り回されてます…」
「ゆいといい、そうじろうさんといい、ああいう感じの血筋なんだろうね」
 挙げた名前のなかにゆいの妹であるゆたかと、そうじろうの妹で自らの義理の母であるゆきが入っていないのは、その二人はきよたかから見て普通に見えているいうことだろう。
「…いや、ゆたかちゃんは見えているっつーか普通にまともだろうに…」
「え?」
「い、いえ、なんでも…」
「…恥ずかしい話だけど、僕は自分の親戚がどれだけいるのか把握してなくてね」
 唐突に、きよたかはそんな事を言い出した。
「…はあ」
 きよたかの意図が分からず、かがみは思わず生返事で答えてしまった。
「親戚付き合いってのが薄かったんだ。だからゆいに出会って、泉さんたちを知って…本当に驚いたよ」
 確かにあの親子には驚かされることは多い。けど、それは親戚云々とは関係ないことだ。そんなことを思いながら、かがみは黙ってきよたかの話の続きを待った。
「付き合い方が濃いというか、一つ屋根の家族みたいだというかね…ゆいも当たり前みたいに泉さんちに遊びに行ってるし」
「それは…」
 と、かがみは何かを言うとして、何も言えなかった。考えてみれば、自分の家もそれほど親戚づきあいが良い方じゃない。きよたかと同じく、親戚の正確な数も把握していない。
「ゆき義母さんは『あの二人は根っからのひきこ…インドア派だから、ちゃんと構ってあげないとね』って言ってたけどね」
 漏れかけた失言まで律儀に真似するきよたかに、かがみは思わず苦笑してしまった。
「でも僕はね、かなたさんの事が大きいんじゃないかって思うんだ」
 思ってもみなかった名が出て、かがみは驚いた。泉かなた。こなたの母親。故人だ。
「僕がゆいと付き合いだした頃にはもう亡くなっていたから、会ったことはないんだけど…素敵な人だったって聞いてる。そうじろうさんにとって、かけがえのない人だとも」
 かがみは会ったことどころか、かなたに関する詳しい話もよく知らない。知っていることは、こなたによく似ていると言うことだけだった。
「人が好きなんだって、そうじろうさんが言ってたよ」
「人、ですか…」
「うん。人との繋がり、関わり、絆…そういったものが好きなんだって。そのかなたさんに、そうじろうさんが影響を受けて、それがこなたに受け継がれて、僕たちも二人に影響されて…かなたさんの想いは、どんどん広がっていくんだと思う」
 死してなお、その想いは広がっていく。その発端であるかなたがもし生きていたら、こなたはどのような人物に育っていただろうか。かがみはそんなことを思っていた。
「…あの、でもどうして、その話をわたしに?」
 そしてかがみは、話の最初から抱いていた疑問を、きよたかに聞いてみた。
「こなたから、君は親友だって聞いてたからね。君にも伝わってるんじゃないかって思ったんだよ。君が気づいてなくてもね」
 確かに、こなたと出会ってから人の見方が少し変わったかもしれない。かがみはきよたかの言葉に納得し、そしてこなたが自分の事を親友だと紹介してくれてたことに、少しばかり嬉しさを感じていた。
「あの…こんな事聞くのアレなんですけど…こなたはわたしのこと、どういう風に言ってました?」
 かがみがそう聞くと、きよたかは少し考えて答えた。
「家が神社で巫女さんなんだって?」
 目の前の男性の印象だとか今までの話だとか、色んなものが音を立てて崩れるような感じをかがみは受けた。なんというか、すさまじい脱力感だ。
「って、そうじろうさんだったら言うんじゃないかな」
「…ええ、言われましたよ。初対面のときに…っていうか、色々聞いてるうちからどうしてそこをチョイスされるのか…」
 血は繋がって無くても家族なんだ。朱に交わって赤くなったんだ。かがみはそう実感していた。
「…わたしも、だよね…」
 そして、さっきの妄想を思い出し、かがみは地面に両手をつきたい気分になった。
「それにしても、こなた遅いな…っと、もうこんな時間か。かがみちゃん、悪いけどこなたに僕は先に家に帰ったって伝えておいてよ」
「え?」
「それじゃ、また」
「あ、ちょっと………いっちゃった」
 軽く手を振りながら去っていくきよたか。急なことだったので、かがみは何も言えずに、その背中を見送っていた。



「おまたせー…ってあれ、きー兄さんは?」
 しばらくして戻ってきたこなたは、辺りを見回しながらかがみにそう聞いた。
「先に家に帰るって。あんたが遅いからよ」
「そっかー、残念。せっかくこの青い青汁、試してもらおうと思ったのに」
 少し気落ちした感じを見せるこなたは、手にペットボトルを持っていた。中の液体は爽やかとは程遠い、おどろおどろしいと言う表現がぴったりの青い液体が入っていた。
「…なに、それ?…ていうか見た目怖いんだけど」
「ほら、見てよこのジュース。青汁なんだけど、色がほんとに青色なんだよ。味が気にならない?」
「確かに気になるけど…やばい予感しかしないわよ、ソレ…」
 冷や汗を垂らしながら一歩下がるかがみに、こなたが詰め寄る。
「よし、かがみ飲んでみて」
「い、いやよ!」
「いーから飲んでレポートしてみてよー…もしかしたら、ダイエットに効果ありかもよ?」
「ないないないない!ありえないから!…ってか、あの人!こういうの予見して逃げたんじゃないでしょうね!?」
「きー兄さんはそんなことしないよー。まあ、いいから飲んでみれ」
「…ってか自分で飲みなさいよ」
「…死ぬかもしんないじゃん」
「生死かかるのかよ!絶対飲まんわ!ってか、人に飲まそうとするなー!」

 結局そのジュースは半分ずつ飲んだのだが、その後二人して三日ほど食欲不振に陥ったとさ。



― おしまい ―


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