重なる記憶
「う~ん」
ひよりは、頭を抱えていた。
(なんで、パティがここにいるんだろ……?)
一年生の三学期、盛大にお別れパーティをやって、空港で泣きに泣いて別れたはずなのに。
二年生の一学期、パティは留学生としてそこに存在している。
(あれ? でも……)
しかし、一年生のときに留学生なんていなかったという記憶も確かに存在しており、それは今の現状と矛盾なく連続性をもっていた。
(うう~……)
つまり、高校一年生の期間について、異なる二つの記憶が混在しているわけで。
じゃあ、現状と矛盾している記憶の方は、夢か何かだったのか?
いや、それにしてはあまりにも鮮明すぎる。
「田村さん、どうしたの?」
ゆたかが、心配そうに声をかけてきた。
「いや~、今度のイベントのネタが出なくて」
とっさにそうごまかす。
とりあえず、朝のホームルームから今日の学校での一日が始まった。
普通に授業が進んでいき、昼休みはみんなで一緒にお弁当を食べながら話をして、午後の授業が終わり、放課後となった。
みなみは保健委員の仕事で早々に席を外し、ゆたかはこなたと一緒に帰っていった。
残ったのはひよりとパティ。
「ヒヨリ、ちょっとイイでスか?」
パティにつれられて、校舎の屋上へ。
パティは、ひよりをじっと見据えると、こう切り出した。
「ヒヨリ、キョネンのオウトウサイのチアはオボえてまスか?」
ひよりは、目を見開いた。
そして、ブンブンと首を縦に振った。
「オー、やっとナカマをミツけました!」
パティは、ひよりの両手を握ってブンブンと振り回した。
話を聞けば、パティも、昨年一年間を陵桜学園に留学していた記憶とアメリカのハイスクールで過ごした記憶が重なっているということだった。
「うーん。これってどういうことなんだろうね。脳の病気とかなんじゃ……」
「ビョウキでも、フタリともオナじキオクというのは、おかしいでス」
「確かにそうだよね。医者にいっても相手にされなさそうだし……うーん……。あっ、そうだ。ここは、高良先輩に相談してみるとか。先輩は博識だから、こういう事例も何か知ってるかも」
「それは、グッドアイデアでス。さっそく、レッツゴー」
というわけで、二人で高良邸に押しかけ、みゆきに事情を話した。
「おや、お二人もそうなのですか。これは奇遇ですね」
「えっ、高良先輩もっスか?」
「私の場合は、記憶が重なったのは、高校一年生の二学期のときでしたが」
「先輩の場合は、どんな感じで?」
「私は一人っ子ですけれども、もう一つの記憶の方では、兄がいたんです。こちらでは、その兄は従兄ということになってますが」
「そうなんスか。でも、これっていったい何なんですかね?」
ひよりは、肝心の本題に入る。
「平行世界という概念はご存知ですか?」
ひよりとパティは、うなずいた。
アニメでもマンガでもラノベでも同人誌でも、パラレルワールド物は、定番ネタの一つだ。
二人にとっては馴染みのありすぎる概念であった。
「平行世界の同一人物の記憶が、コピーされてきた。私はそういう仮説を立ててます」
「コピーっスか。移動じゃなくて」
「記憶が移動したのだとすれば、もう一人の私が記憶喪失になって困っているでしょうから。私としては、コピーであってほしいです」
「確かにそうっスね」
「何かの強い思いが、世界の壁を越境して、記憶をコピーさせたのでしょう。お二人とももう一つの世界の方では、別れがたく思っていたのではありませんか?」
「そうでス。ワタシはとてもナゴリおしかったでス。ミンナとずっとイッショにイたかったでス」
「私もそうっスね」
「よかったではありませんか。願いが叶ったのですから」
「そうっスね。前向きに考えることにします。ありがとうございましたっス」
「いえいえ。私は仮説の一つをお話ししただけですから。間違っている可能性もあります。それはともかくとして、初めのうちは記憶の重なりに戸惑うかもしれませんが、すぐに馴染むと思います。また何かありましたら、ご遠慮なく相談にきてください」
二人は、改めて礼を述べて、高良邸をあとにした。
別れ際、ひよりが、
「先輩、つかぬことをお聞きしますが、その従兄の人って結婚なされてるんスか?」
「ええ。昨年ご結婚なさいましたよ」
「そうなんスか……。いえ、変なことをお聞きしてすみませんした」
二人で、帰路につく。
その途中で、
「ヒヨリ、ミユキのイトコのケッコンがどうかしたのでスか?」
「いや、世界の壁を越境して記憶をコピーさせるほどの強い思いってのを考えてたら、気になっちゃって……。定番でしょ? 実の兄じゃなかったら結婚できるのに、ってのはさ」
「オー、なるほど。ミユキのネガイはザンネンなことになったのでスね」
「でも、なんかこう創作意欲が沸いてきた。禁断の恋を叶えるために、平行世界を渡り歩く巨乳美少女。これはいける!」
「オー、グッドアイデアね。ツギのコミケがタノしみでス」
結局のところ、何があろうとも、自重などこれっぽっちもない二人であった。
終わり
コメント・感想フォーム
最終更新:2009年11月20日 17:42