ID:RFBP9FGO氏:樹雨

 夏休み、こなちゃんの提案で温泉旅行に行くことになった。もう2回目、
卒業をして、毎年の恒例となりつつあった。

つかさ「お姉ちゃんどうしたの、何か考え事」
お姉ちゃんは何か物思いにふける様に居間の机に頬杖をついていた。
かがみ「ん?、何でもない」
つかさ「もしかして明日の旅行のこと」
かがみ「え」
つかさ「どうしたの、さっきから上の空で・・・」
お姉ちゃんは私の問いに何なら慌てて私の方を向いて話し出した。
かがみ「あ、そうそう、明日の旅行のこと、こなたが旅行の企画全部任せろって言ってたじゃない、それが心配だったのよ」
つかさ「ああ、そういえば泊まる旅館とかまだ聞いてないね」
かがみ「まさか、まだ何もしてないって事は・・・ないだろうってね」
つかさ「んー、私もちょっと心配になった」
そこに私の携帯電話にメール着信音がした。携帯を確認した。
つかさ「お姉ちゃん、こなちゃんからメールだよ、噂をすれば・・・だね」
かがみ「・・・で、内容は」
つかさ「明日の集合時間に遅れないように・・・だって」
かがみ「・・・返信しておいて、そのまま一字一句同じ内容でね」

 お姉ちゃんは嘘をついている。私には分かった。さっきは旅行の事で考え事なんかしていない。もっと別の事を考えていたに違いない。
でもそれ以上私は聞かなかった。話せるような内容ならとっくに私に話してる。
明日は楽しい旅行、お姉ちゃんも悩み事は忘れていたいはず。

 次の日、まだ日が昇る前、私達は駅に向かっていた。こなちゃんと待ち合わせの場所。ゆきちゃんは目的地の駅で合流することになっていた。
駅の入り口に着くと、もうすでにこなちゃんが待っていた。
こたな「おはよう、お二人さん、遅かったね」
つかさ「おはよう、こなちゃん」
かがみ「うーす・・・」
こなた「かがみ、なにか元気ないね」
かがみ「え、そう?、普通でしょ・・・」
お姉ちゃんは、そう言うと改札口の方に向かって行った。
こなちゃんは私の方に寄ってきて私の耳元でささやいた
こなた「どうしたのかがみ、昨日喧嘩でもした」
つかさ「してないよ、昨日からあんな感じなんだ」
こなた「そうなのか、もしかしたらあの日だったり?」
つかさ「そこまでは聞いてないし、いくら私だってそこまでは分からないよ」
こなた「まあ、いいや、途中で気分悪くなられても困るしね」
かがみ「何やってるの、早くしないと電車来ちゃうわよ」
大声で私達を呼ぶ。お姉ちゃんは既に切符を買い改札口に入っていた。私達は急いで切符を買ってお姉ちゃんを追いかけた。

 それからのお姉ちゃんは普段通りのお姉ちゃんだった。電車に乗ってからはこなちゃんと楽しいそうに会話をしていた。
現地に着くとゆきちゃんと合流した。現地からはレンタカーを借りて名所巡りをした。
かがみ「こなた、あんたいつの間に運転免許なんか取ったのよ」
こなた「別に内緒にしてたわけじゃないけどね、ゆい姉さんの勧めでね、何となく取ったんだ」
こなちゃんの言葉は誇らしげだった。
つかさ「凄いねこなちゃん、私も運転免許取ろうかな・・・」
みゆき「私も教習所に通っています、まだ取得には時間がかかると思いますが・・・」
かがみ「へー、みゆきもか、私も取ろうかなー」
こなた「かがみは止めた方がいいよ」
かがみ「なんでよ」
こなた「かがみの性格だと・・・分かるよね、つかさ、みゆきさん、ゆい姉さんといい勝負しそうだよ」
私とゆきちゃんは何も言えなかった。
かがみ「なによ、こなた・・・それに二人まで・・・」
その後、しばらく沈黙が続いた。

こなた「はい、到着・・・今日の宿だよ」
こなちゃんは車のエンジンを止めた。車を降りると、人里離れたちょっと寂しい感じの町・・・村だった。
何だろうこの感じ、初めて来たはずなのに一度来たことあるような不思議な感じだった。
こなた「ちょっと予定より早かったかな、ここの温泉は隠し湯なんだよ」
みゆき「そうなんですか、この雰囲気、都会では味わえないですね」
こなた「そう言ってもらえるとうれしいな、調べるのに苦労した甲斐があったよ」
みゆき「かがみさん、つかささん、どうされたのですか」
かがみ・つかさ「「えっ?」」
ゆきちゃんに言われて私は我に返った。ゆきちゃんはお姉ちゃんにも同じ事を聞いている。私はお姉ちゃんの方を向いた。
お姉ちゃんも私の方を向いた。目が合う。しばらくそのままの状態になった。
こなた「・・・今朝のかがみといい、今度はつかさまで、姉妹そろってどうしたんだい」
こなちゃんは不思議そうに私達を見ていた。
つかさ「車を降りたら、ここ、以前見たような景色のような感じになっちゃって・・・」
みゆき「デジャ・ブ・・・既視感ですか、私は一度もそういった感覚になったことはないのですが、不思議ですね」
こなた「で、かがみも?」
かがみ「・・・まぁ、そんな所ね、悪いわね、折角の旅行なのに・・・」
こなた「双子でデジャブなんて・・・フラグ立ったかな」
かがみ「何言ってるの、きっとうちの神社の風景に似てるからでしょ、行きましょ」
こなた「相変わらずだねかがみは、じゃ宿屋に案内するよ、歩いて5分くらい」
こなちゃんは駐車場を出て私達を案内する。ゆきちゃんはデジャブと言っていたけど、確かに見たことある風景・・・
お姉ちゃんは神社の風景に似ていると言ってたけど・・・私にはそんな感じはしなかった。
歩いているうちに懐かしささえ感じてしまう程だった。

 宿屋の入り口に着くと、私達は立ち止まった。そこには一際大きな木がそびえていた。幹は太く、周りの木を圧倒するほど高く、枝葉を傘ののように広げている。
そして、幹にはしめなわが飾れていた。
つかさ「凄い・・・こんな木を見るの初めて、うちの神社にもないよ、こんな大きいの」
私は思わず見上げた。
みゆき「凄いですね、銀杏ですか・・・」
こなた「その銀杏、樹齢千年は超えてるらしいよ」
つかさ「へー、こなちゃんよく調べたね」
私はその木の根元に近寄った。両手を広げてみたけど幹の太さは私の何人分もある。
こなた「つかさ、こうゆう木ってね、この辺の人々の喜怒哀楽を見てきてね、怨念が溜まっていくんだよ・・・ほら、つかさの後ろ・・」
急に怖くなってお姉ちゃんの後ろに隠れた。
かがみ「なにまだ暗くもないのにバカ言ってるのよ、まさか、百物語でもするためにこの旅館選んだのか」
こなた「はは、まさか、ちょっとつかさをからかっただけ、それに今日は運転して疲れた・・・そんな事する元気ないよ」

 その時、私の頬に冷たいものが当たった。頬に手を当てて、手を見た・・・濡れている。今度は頭に同じ感覚が来た。
空を見上げた。太陽が出ていて雲ひとつ無い青空。今度は腕にも、ぽつぽつと雨のように水が降ってきた。どうやら木から水が落ちているみたい。
こなちゃんのさっきの言葉を思い出した。
つかさ「木から水が落ちてるよ・・・怨念の涙かな・・・怖い」
私はお姉ちゃんの背中に隠れるようにうずくまった。
皆は、両手を広げて手のひらを空に向けた。
こなた「ほんとだ、晴れているのに雨?、お天気雨かな」
かがみ「雨じゃないわね、この銀杏の木からしか落ちてないわよ、不思議ね」
二人は、私とは違って怖がりもせずに銀杏の木を見上げていた。するとゆきちゃんが思い出したように話し出した。
みゆき「これは・・・樹雨ですね」
つかさ「きさめ?」
みゆき「そうです、霧が木の枝葉に付いて水滴となって落ちる現象ですね、山林でよく起きるそうですよ」
こなた「さすがみwikiさん、相変わらず冴えますね」
つかさ「でも・・・霧なんかないよ・・・」
みゆき「霧がなくとも、空気中の水蒸気が飽和状態なら物に触れると水になることがありますね、雲とかは空気中のちいさな塵に水蒸気が水の粒になってできるそうです、
    焚火とか、煤が上空に上がるとその煤に水蒸気が水になって付き、雲になり、やがて雨を降らすこともあるそうですよ・・・この銀杏の木は
    枝、葉が沢山あるので水を呼び易いのかもしれません・・・それでも珍しいですね、このような現象は」
つかさ「そうなんだ・・・よく解らないよ」
かがみ「樹雨・・・」
そよ風が吹き始めた。大きな銀杏の木はゆっくりと左右に揺れる。樹雨は今までよりも激しく降ってきた。私達は銀杏から少し離れた。
こなた「雨宿りによく木陰に入るけど・・・これだと逆だね・・・・・・そろそろ宿屋に入ろうか」
私達が旅館に向こうとお姉ちゃんだけ銀杏の木から離れようとしなかった。
つかさ「どうしたのお姉ちゃん、行こう」
かがみ「私・・・もう少し見ていたい・・・すぐ行くわ」
こなた「かがみ、そんなに珍しいかな、まぁいいや、先に部屋行ってるね」

 私達三人は先に旅館へと入った。樹雨を見ているお姉ちゃんは悲しげだった。
車から降りた私のこの感覚といい、なにかこの村にはあるような気がしてきた。なんだろう。

 旅館の部屋でくつろいでいると、程なくお姉ちゃんが部屋に入ってきた。少し早いけど私達はそのまま温泉に入った。
こなちゃんの言うように隠し湯だけあってとても気持ちのいい温泉だった。そのまま夕食になり、もう一度温泉に入った。
温泉から出ると、今までは深夜までいろいろおしゃべりなんかするけど・・・こなちゃんは疲れていたらしく寝てしまった。
残った三人もゆきちゃん、お姉ちゃん、私の順に寝てしまった。その眠りはとても深かった。とても。とても・・・

 まつり「つかさ、おきなさい」
まつりお姉ちゃんの声がする。おかしい、この旅行にまつりお姉ちゃんは居ないはず。
まつり「お母さん、つかさ、まだ起きないよ」
み き「しょうがないわね、つかさ、起きなさい、朝ごはん片付けちゃうわよ」
え、お母さんまで居る?。私はふとんからゆっくり起きた・・・・あれ?旅館に居るはずなのに、見たこともない部屋に私は寝ていた。
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃんは、どこ」
まつり「誰よそれ、寝ぼけてないで、仕事の準備しなさいよ、ただでさえ日照りで大変なんだから、お父さんとかがみはもう田んぼに向かってるわよ」
みんなの姿が違う、時代劇を見てるような格好をしている。ふと自分を見ると同じような着物を着ていた。
これは・・・夢?、そう夢だ、そうに違いない、旅行に行って田舎に来たもんだからきっと時代劇の夢を見ている。そう思った。
つかさ「夢だよね、これは、まつりお姉ちゃん、お母さん」
まつり「はぁ、まったくこの子は」
まつりお姉ちゃんは私をげんこつで私の頭を小突いた。痛かった・・・目が覚めた。少なくともこれは夢ではなさそう。私はふとんから起き上がり、着替えた。
なぜか着物の着方を知っている。着物と言っても浴衣のようなもの。そういえばいのりお姉ちゃんが見当たらない。
つかさ「いのりお姉ちゃんはどこかな」
まつり「あんた本当に大丈夫?、いのり姉さんは去年隣町に嫁いでいったでしょ、しっかりしてよね」
急ぐように身支度をして、まつりお姉ちゃんと仕事に行く事になった。訳がが分からないのでまつりお姉ちゃんの後を付いていくしかない。
家の扉を開けると、外に出ると、あたり一面田んぼが広がっていた。振り返りってみると、旅館はではなく長屋のようなわらぶき屋根の家が建っていた。
これが私の家・・・なのかな。
まつり「仕事に行く前に御神木にお祈りして行くわよ」
家の前に大きな銀杏の木・・・旅館の前にあった銀杏の木と同じ・・・ちょっと小さい気がするけど、同じだ。
つかさ「御神木・・・」
まつり「そう、この木のおかげでこの村はどんな干ばつにも耐えられてきた、この木が雨を呼んでくれるのよ」
真剣に私に話していた。そして、まつりお姉ちゃんは両手を合わせて祈った。私も両手を合わせた。
まつり「今度ばかりはどうなるか・・・」
つかさ「どうして?」
まつり「分からない?、もう一ヶ月も雨が降っていないのよ、樹雨も降らなくなってきた・・・樹齢七百年・・・今までこんなことなかった・・・」
樹齢七百年?・・・何が何だか分からない。
まつり「さあ、仕事に行こう」
つかさ「仕事って何?」
まつり「つかさ、朝からおかしいわよ、田んぼでお父さんの手伝いよ、まさか・・・また、逃げ出す気じゃないわよね・・・」
まつりお姉ちゃんは私を疑いの眼で睨んでいる。この世界の私って・・・サボってばかりいたのかな・・・私も同じようなものかも・・・
つかさ「そんな事無いよ」

 私はまつりお姉ちゃんの後を付いていった。しばらく歩くと、二人が田んぼで作業をしている姿を見つけた。
よく見ると・・・お父さん、ちょんまげだけど・・・どう見てもお父さん。そしてその隣りに髪を二つに分けて結っている、ツインテールの・・・・お姉ちゃん。
お父さんは私達を見ると寄り合いがあると言い田んぼを後にした。
そしてお姉ちゃんは私達を見ると怒った声で、
かがみ「まつり姉さん、つかさ、遅いわよ、何してたのよ」
まつり「私は普段どおりよ、つかさが寝ぼけちゃって遅れただけ」
お姉ちゃんは私の方を向いた。そしてため息を一回ついた。
かがみ「まったく、いつも先に寝てるのに・・・はい、昨日の続き頼むわよ」
お姉ちゃんは私に鎌を渡した。お姉ちゃんから鎌を受け取ったその時、私の脳裏に稲妻のような衝撃が走った・・・・記憶が頭の中から湧き出してくる?。

 私はこの村で生まれた。農民のただ介、お父さん・・・名前が少し違う、母のみき、子供の・・・長女いのり、次女まつり、そして、双子の姉妹としてかがみと私が居る。
今と全く同じ家族構成。私達家族は代々受け継いでいる農地で生計を立てている。生活は裕福な方なのかな・・・・
この村は樹雨を降らす銀杏の木のおかげで毎年豊作、幸せな毎日を過ごしていた。
目が覚めた時、まつりお姉ちゃんが言ってたけど、去年いのりお姉ちゃんが隣町へと嫁いでいった。この時代には珍しく恋愛結婚だったらしい。今は五人家族で暮らしている。
こなちゃん、ゆきちゃんは・・・私が知る限り一回も合った事がない。これが大まかな記憶だった。


 かがみ「つかさ、さっきからボーとしちゃって、どうかしたか」
私は我に返った。昨日の続き・・・そうだ、私は昨日、雑草刈りをしていた。
つかさ「昨日の続きだね、向こうの田んぼはもう終わってるから、こっちからね」
かがみ「そうそう、お願いね、まつり姉さんは・・・」
まつり「私はお父さんのやりかけを片付けるわ」

 私達はそれぞれの仕事を始めた。お姉ちゃんをふと見た。あの髪の結い方・・・私の知ってるお姉ちゃんとまったく同じ。
結び目がリボンじゃないけど、もしかしたらお姉ちゃんも私と同じように旅館からここに飛ばされて来たかもしれない。
試してみよう。どうやって試そうかな・・・こなちゃんの名前を出してみよう。
つかさ「お姉ちゃん」
かがみ「なによ」
つかさ「昨日、こなちゃん遊びにこなかった」
かがみ「コナチャン・・・?、誰よそれ」
まつり「寝起きにも言ってたわよね、誰?」
つかさ「私の友達・・・遊びに来なかったならいいよ、気にしないで」
知らないのかな・・・そうか、この世界に合わせてるんだ、まつりお姉ちゃんの反応が気になって本当の事が言えないんだ。二人だけになったら話そう。
しばらく時間が経つと、道具を取りにまつりお姉ちゃんが家に取りにいった・・・。今しかない。
つかさ「お姉ちゃん、二人きりだね」
かがみ「そうね、疲れたなら少し休んでもいいわよ」
つかさ「なんか変だと思わない」
お姉ちゃんは作業を中断して私を見た。
かがみ「・・・何も・・・変じゃないじゃない、そんな事言ってるつかさが変よね」
つかさ「昨夜、お姉ちゃんどこにいた」
かがみ「・・・からかってるの、つかさ、冗談はご飯の時だけにしてよね」

 お姉ちゃんはまた作業に戻ってしまった。お姉ちゃんは、お姉ちゃんじゃない。へんな言い方だけど・・・私の居た世界とは違うお姉ちゃん・・・・
どうしよう、私は元の世界に戻れるのかな、どうやって来たかも分からないのに帰り方なんか知るわけもない。
それにしてもこの世界はどこなんだろう・・・家の前にあった大きな銀杏の木・・・樹雨も降るみたいだし、旅館の前にあった木とほぼ同じ形だった。
そしてまつりお姉ちゃんが樹齢七百年って言ってた。
三百年前の旅館の村に居る・・・って考えた方が自然かな・・・・確かこうゆう小説お姉ちゃん好きだったな。私は読まないけど、こうゆう物語は大抵一晩寝れば元に戻る・・・
それに期待するしかない。
でも不思議、私の家族が全員いるなんて・・・そいえば私は車から降りた時デジャブを感じた、お姉ちゃんもそうだった・・・たぶん私達家族の前世なのかもしれない。
鎌をお姉ちゃんからを受け取った時、この時代のつかさの記憶が頭に入ってきた。これなら私はこの時代のつかさとして居られる。
帰れる時までこのままこの時代のつかさで居させてもらおう。

⑥頭の整理がついた頃。そこにまつりお姉ちゃんが戻ってきた。どのくらい経ったか、お姉ちゃんがまつりお姉ちゃんに話しかけた。
かがみ「お父さん、寄り合いに行くって言ったけど・・・何だろう」
まつり「まさかとは思うけど・・・」
かがみ「まつり姉さんもそう思うの?」
まつり「・・・もし、選ばれたら・・・やっぱり?」
かがみ「・・・一昨日決めたじゃない、今更何言ってるの」
まつり「決めたって言ったって・・・本当にいいの?」
かがみ「これは・・・私が決めた事だから・・・」
二人の話していることが理解できない。まだ記憶が完全に戻っていないのかな。でもなにか深刻な事なのは分かる。二人の顔は真剣だった。
つかさ「何の話してるの」
まつり・かがみ「「つかさには関係ないこと」」
二人に思いっきり言われた。そこまで言われるともうそれ以上聞く気にはなれない。私は雑草刈りに戻った。

まつり「もうすっかり日が落ちたわね、今日はこのくらいにしましょ」
かがみ「そうね」
まつり「へぇー、つかさ、今日は逃げなかったわね、それに、今までで一番捗ったんじゃないの」
つかさ「そうかな・・・」
私達は帰り支度をした。
お姉ちゃんとまつりお姉ちゃんの会話が気になっていた。私に何かを隠してる。
この世界の記憶はあの時ほぼ思い出したみたいだけど、思い当たる事は全くなかった。

 家に戻るとお母さんが夕食の準備をしていた。私は誰からも言われることなくお母さんを手伝った。
食事の準備が終わり、お父さんの帰りを待つ・・・なかなか帰ってこない。
つかさ「お父さん遅いね」
み き「そうね・・・」
なんかおかしい。みんなの表情が暗い。
つかさ「どうしたの、田んぼの時といい、さっきから・・・」
み き「お父さん・・・どうしたのかしらね、お腹が空いたけど、帰ってくるまで待ちましょ」


 外はもうすっかり夜になった。お父さんが帰ってきた。
ただ介「ただいま・・・」
み き「おかえり、遅かったわね」
ただ介「・・・まだ皆、ご飯食べてなかったのか、悪い事をしたな」
まつり「そうだよ、お腹空いた、早速食べましょ」
急ぐように皆は食事を終わらせた。私はマイペースで食事をする。
つかさ「お父さん、なんでこんなに遅かったの」
ただ介「それは・・・」
お父さんは言葉を詰まらせた。私は首を傾げると・・・
かがみ「あ、そうだ、私、今日水汲み当番だったわ、忘れてた、行って来る」
お姉ちゃんは家の外に出て行った。
あれ、水汲み当番、私の記憶が間違っていなければ今日の当番は私のはず。
つかさ「水汲み当番、今日は私じゃなかったっけ」
み き「えっ?、そうだったかしら、それだったら・・・つかさも手伝ってきなさい」
つかさ「そうだね」
私は残ったご飯を片付けてお姉ちゃんの後を追った。

 外は真っ暗・・・街灯も無い時代だし当たり前かな、でも今夜は満月、月の明かりで周りは見える。
水汲みに行ったはずなのに、お姉ちゃんは御神木の前に立って木を見上げていた。私はお姉ちゃんに近づいた。
つかさ「お姉ちゃん、水汲み当番・・・今日は私じゃなかったっけ」
かがみ「そうだった・・・かな、この際だし、一緒にやろう」
つかさ「うん、早く終わるしね」

 水汲み場に着くと・・・川の水は普段の半分以下になっていた。
かがみ「酷いわね・・・そのうち水も汲めなくなるわよ」
つかさ「そうだね・・・お姉ちゃん、さっきあの木に雨が降るようにお願いしたの」
お姉ちゃんは何も答えない。
かがみ「つかさ・・・」
私を呼ぶ。なにか様子がおかしい。何か私に言いたいのは分かった。
つかさ「どうしたの、何か私に言いたい事でも?」
かがみ「・・・何でもない、さっさと終わらせましょ」

 水を汲み始めてすぐのことだった・・・私はつまづいて桶の水をこぼしてしまった。
それを後ろから見ていたお姉ちゃんは、いきなり怒り出した。
かがみ「何やってるのよ、貴重な水なのに・・・」
つかさ「ごめんなさい」
お姉ちゃんはさらに私を怒鳴りつけた。
かがみ「もう我慢できない、今まで我慢してたけど、この際はっきりさせておく」
つかさ「な、何のこと?」
かがみ「つかさ、あんたって、つくづくとろいわね」
つかさ「・・・そうだね、それは否定しないけど・・・」
かがみ「子供の時からそう、私が居ないと何も出来ない、周りの子からいじめられてばかりいたじゃない」
つかさ「・・・そうだったけど・・・今更、そんな話して、どうしたの」
お姉ちゃんは私を見下すような目で話し出した。
かがみ「私はね、あんたがお荷物でどうしようもなかった、寺子屋で習ったことすぐわすれちゃって・・・何度恥ずかしい思いをしたか」
つかさ「お姉ちゃん、いつも一番だったよね、凄いと思ってるよ」
かがみ「私はね、もう我慢できない、こんな奴が私の妹なんて、しかも双子だなんてね」
私は耳を疑った。今まで私にそんなことなんか一回も言ったことないのに。現代のお姉ちゃんも本心はそう思ってるのかな。
なぜか目から涙が出てきた。おかしい、現世のお姉ちゃんなら事言うわけがない、でも涙は止まらない。
つかさ「私は・・・」
かがみ「そうやって自分が追い込まれるとすぐ泣く・・・最低ね、泣けば解決できるとでも思ってるの」
夢であってほしい、こんなの夢だよ、夢なら早く覚めて欲しい。私はそう思った。
お姉ちゃんは更に畳み掛ける。
かがみ「何か言いなさいよ、あまりに図星で言い返せないか、笑っちゃうわね」
お姉ちゃんは笑い出した。
かがみ「スッキリしたわ、明日から私達は姉妹でもなんでもないから」
つかさ「お姉ちゃん、それ・・・本心なの」
かがみ「本心じゃなかったら何よ」
つかさ「・・・私、この世界に居ないほうがいいみたいだね、今晩寝ればきっと夢から覚めて元に戻れる」
かがみ「なに訳の分からないこと言ってるの」
つかさ「ここに居るお姉ちゃんは私の知っているお姉ちゃんじゃない・・・」
家に戻った。

いのり「つかさ、早いわね・・・って、どうしたのよ、涙なんか流して・・・そうか、かがみと・・・話したんだね」
つかさ「何も話してないよ、私・・・もう寝る」
布団を敷いて私は床に入った。寝れば元に戻れる・・・
お姉ちゃんの言葉が頭から離れない。私は布団を頭から被り目を閉じて強引に寝た。
どのくらい時間が経ったか、やっぱり眠れない。しばらくしてお姉ちゃん・・・が水汲みから帰ってきた。
その後、お姉ちゃんといのりお姉ちゃんが何か言い合いをしていたけどあまり覚えていない。
やがて部屋が静まっていく。みんな寝てしまったよう・・・そのうち睡魔がゆっくりと私の意識を遠ざけていく。
やっと眠れる・・・・帰れる。

 蝉の鳴き声がうるさい。蝉の音で私は起きた。辺りを見渡すと・・・・昨日のままだった。寝ただけでは元の世界に戻れないみたいだった。
体を動かすと手足に痛みが走った。昨日の雑草刈りで体を動かしたせいで筋肉痛になったみたい。腕を摩りながらもう一回辺りを見回すと、誰もいない。
外は明るくなってるけどまだ日は昇っていない。仕事に行くにはまだ早いはず。不思議に思いながら家から出た。
お父さん達が御神木に並んで祈っている・・・・。あれ、何かおかしい。
お姉ちゃんだけ白い服を着ている。白装束・・・。髪の毛は後ろで一つで結っている・・・。
私は皆に近づいて聞いた。
つかさ「何してるの・・・こんなに朝早くから」
しばらくすると、お母さんが祈りを止めて私の方を向いた。
み き「つかさ、あなた、何も聞いてないの、昨夜水汲みに行った時、かがみから聞いたんじゃないの」
つかさ「何も・・・聞いてないよ」
お姉ちゃんは黙って祈っていた・・・。まつりお姉ちゃんは祈りを止めて私の方を見た。そして、指を指した。
まつり「昨夜選ばれたのよ、名誉なことよ・・・」
つかさ「選ばれた・・・何のこと」
まつりお姉ちゃんの指差す方向を目で追った。家の屋根。そこに弓矢が刺さっていた。白い羽の弓矢だった。
つかさ「弓矢・・・白い羽・・の」
まつり「白羽の矢が立ったの・・・分かるでしょ・・・私達姉妹の仲から人身御供を差し出すのよ」
つかさ「人身御供って生贄?・・・どうして」
ただ介「村の掟・・・日照りが続いてね、もうどうすることもできないんだよ、雨を呼ぶ為に、村の未婚の娘を人身御供に差し出すことになっている」
つかさ「日照りって・・・たった一ヶ月じゃない、そのくらいのことでそんな事しなきゃいけないの」
ただ介「一ヶ月じゃない、もう三ヶ月も雨は降っていない・・・御神木の樹雨でかろうじてこの村だけ持っていたんだよ、その樹雨も降らなくなってきた・・・
    人身御供が選ばれて三日間雨が降らなかったら・・・この御神木に人身御供を縛り付けて槍で・・・これ以上私は言えない・・・」


つかさ「お父さん、こんなこと許されていいの、こんな事したって雨なんか降らないよ」
ただ介「村の・・・掟だ。絶対なんだよ、破れば・・・私達家族全員が・・・」
お父さんの言葉は弱々しくなっていく。
つかさ「それで、なんでお姉ちゃんなの」
皆は黙ってしまった。私は更に問う。
つかさ「なんで、私に黙ってたの、私も未婚の娘・・・だよ、人身御供の条件に入っているよ・・・・」
み き「村の掟ではね、複数居た場合、末妹を差し出すことになっているのよ・・・」
お母さんはお父さんに寄り添って泣いてしまった。
つかさ「私・・・なのに・・・なぜお姉ちゃんが・・・」
まつり「それは、みんなかがみが決めたことだよ、自分が犠牲になるってことも、つかさに内緒にするってこともね、かがみ、あんた馬鹿だよ・・・」
まつりお姉ちゃんも泣き出した。私はお姉ちゃんを見た。

 お姉ちゃんは両手を合わせてお祈りをいている。お姉ちゃんは祈りを止めて私に近づいた。
かがみ「つかさ、寝ていればよかったに、そうすれば別れを言わなくて済んだ」
つかさ「起こさなかったのも、お姉ちゃんが決めたの」
お姉ちゃんは無言で頷いた。
かがみ「私は姉じゃないんじゃないの、昨夜、そう言ってたじゃない」
つかさ「あんな事言われたら誰だって・・・何で・・・」
かがみ「お互いに嫌いになれば・・・別れが少しは楽になるかなって・・・でも、あんな芝居じゃ無理ね・・・まつり姉さんなんかすぐに気付かれたわよ」
お姉ちゃんは苦笑いした。
かがみ「つかさは見事に騙されてくれた・・・」
つかさ「お姉ちゃん・・・馬鹿だよ、生贄なんて私でいいのに・・・」
かがみ「そんな事言うもんじゃない」
つかさ「何故、お姉ちゃんが・・・何で」
お姉ちゃんは微笑んでいる。
かがみ「私はね、心を踏みにじるような掟が嫌いなの、なにが末妹なのさ、反攻したくなった・・・」
つかさ「それだけの理由で」
かがみ「それに・・・つかさには荷が重過ぎるでしょ」
つかさ「お姉ちゃん、そんなに私は子供?、双子だよ、歳も同じ、馬鹿にしないでよ」
かがみ「これでいいのよ・・・」
私はお姉ちゃんに抱きつき泣いた。

 日が昇り始めた。朝日が御神木に当たり金色に輝いて見える。
ただ介「どうやら、時がきたようだ」
お父さんの目線を追うと・・・村人数人と杖を持ったお役人が遠くで人身御供を待っている。三日間逃げないように監視するために監禁するとお父さんは言った。
お姉ちゃんは私の両肩を両手で掴み引き離した。
かがみ「じゃ、みんな行ってくるね」
つかさ「お姉ちゃん」
叫んだ。私の声にお姉ちゃんは振り向いた。そして私に近づいた。
かがみ「まだ、人身御供・・・完全に決まったわけじゃないでしょ、まだ望みはあるわよ」
つかさ「でも・・・この天気・・・」
お姉ちゃんは私の頬に垂れた涙を人差し指で掬い取った。涙がお姉ちゃんの人差し指の上で丸い雫となった。それをお姉ちゃんは自分の目線まで持って
くると、じっと見つめた。そして、私に語りかけるように話し出した。
かがみ「つかさがそれじゃ雨は降らないわよ、雨が降るって強く思って・・・三日間・・・私も祈るよ、それでも降らなければ・・・
    泣いてくれればいいよ、今みたいに・・・それだけでいい、それだけで・・・この涙、宝石みたいね」
お姉ちゃんは手を朝日にかざした。雫は太陽の光を浴びて宝石のように輝いていた。
つかさ「お姉ちゃんは泣かないの、強いんだね」
かがみ「そりゃそうよ、つかさの姉だからね」
お姉ちゃんはかざしていたいた手を軽く握り締めて胸元に当ててしばらく目を閉じた。
つかさ「お姉ちゃん・・・・」
お姉ちゃんは目を開けると私ににっこりと微笑んだ。
痺れを切らしたのか、杖を持ったお役人が私達に近づいてきた。
かがみ「もう行かなきゃ・・・」
お姉ちゃんはお役人の方へ歩き出した。
私はお姉ちゃんを追いかけようと走り出すとお父さんが私の腕を掴んで止めた。
つかさ「お姉ちゃん」
私は何度も叫んだ。でも、お姉ちゃんは振り返ることはなかった。
村人達に連れられていくお姉ちゃんを私達は見えなくなるまで見送った。

 時間は冷酷に過ぎていく、あっと言う間に夕方になった。空は相変わらず雲ひとつ無い・・・ 
お姉ちゃんと御神木の前で遊んだ事、寺子屋で一緒に学んだ事、病気になった時、看病してくれた事・・・
この時代の私の記憶が思い出として浮かんでは消えていく・・・
同じ・・・、現代のお姉ちゃんと全く同じ。もう昔も現代もない、お姉ちゃんを助けたい。
      • 御神木・・・銀杏の木、みんなあの木のがしたことなのかも。私がこの時代に飛ばされたのも、雨が降らないのも・・・
まつり「つかさ何処に行くの」
家を飛び出した。まつりお姉ちゃんに答えることなく夕日に赤く染まる御神木の前に私は立った・・・
つかさ「お願い、雨を降らせて、少しだけでいいの」
      • 銀杏の木はただ静かにそびえているだけだった。
つかさ「何で・・・旅行の日、あんなに樹雨を降らせてくれたじゃないの、それともお姉ちゃんの生き血が欲しいの、そんなに欲しいの、本性は悪魔の木じゃないの」
私は御神木の幹を両手で殴った。巨木はびくともしない。
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃん、助けて、お姉ちゃんが殺されちゃうよ・・・」
ゆきちゃん・・・そう言えばゆきちゃんが言っていた。樹雨が降る訳を・・・その後何か言っていた・・・・焚火・・・
そう、焚火の煤が雲を作るって・・・まくいくか分からない・・・けど考えている時間はない。
つかさ「ゆきちゃん、試してみるよ」
私は家に入るなり叫んだ
つかさ「お父さん、家に薪はないかな」
ただ介「薪・・・御神木の枯れた枝とかを倉庫に保管してあるけど・・・どうしたんだい」
つかさ「ありがとう、あと、お母さん、種火貸して」
み き「いいけど・・・何するの」
つかさ「焚火だよ、それとご近所さんに頼んで、なるべく強火でご飯を作るようにって・・・できれば焚火をするようにって」
お父さんとお母さんは不思議そうに私を見つめた。

 私は薪を家と御神木のちょど中間の距離に運んだ。そしてキャンプファイアーみたいに薪を組み立てた。
そして枯葉を下に敷き詰めた。そして祈った・・・雲ができますように、雨が降りますように。
お母さんに借りた種火を枯葉に移した。

 乾燥した枯葉は瞬く間に燃えた。そしてすぐに薪に火は燃え移った。
力強く火は組み上げた薪を覆った。立ち上る煙はまっすぐ空へ昇っていく。もう空はすっかり暗くなった。その暗くなった空は立ち昇った煙を溶け込むように吸い取っていく。
こんな煙じゃ足りない。もっと薪を持ってこないと。何度も倉庫を往復して薪を焚火の近くに積み上げた。
このくらい在ればいいかな。後は火が消えないように見張ってるだけ。
種火をお母さんに返しに行った。
つかさ「種火、ありがとう」
み き「どうしたの、その手、傷だらけじゃない」
つかさ「薪を運んでいるうちに傷つけちゃった」
み き「こっちに来なさい、手当てしてあげる」
つかさ「そんな時間ない、火を見てないとね」
私は焚火を見守るためにすぐに家を出た。

 夜が更けてきた。焚火は赤々と燃えている。風は無く相変わら真上に立ち昇る。そこにまつりお姉ちゃんが家から出てきた。
まつり「もう夜遅いわよ、いい加減に焚火消して家に戻ろう」
つかさ「この焚火で雲を作るんだよ、そして・・・雨を呼ぶ・・・」
まつりお姉ちゃんは呆れた顔になった。
まつり「つかさ、かがみがあんな状態になってるからって・・・夏に焚火をして自分を追い込んでる、つかさの気持ち、分かるわよ」
つかさ「そんなんじゃないよ、それに、願を懸けているわけでもない・・簡単に言えば・・・科学の実験だよ」
まつり「カガクノジッケン・・・何よそれ」
そうだった。ここは三百年前の世界・・・理屈を言っても分かってもらえない・・・
つかさ「これで雨が降る・・・そう、ゆきちゃんはそう言った・・・」
まつり「誰よそれ・・・焚火なんかしたら雨の神様だって、御神木だって怒って雨なんか降らさないわよ・・・」
つかさ「あと三日しかないよ、それまで火を絶やさないようにしないと」
まつり「聞いてるの、つかさ、私は止めなさいって言ってるのよ」
つかさ「まつりお姉ちゃん、私はお姉ちゃんを助けたいだけ・・・火はちゃんと見てるから、御神木を怒らすようなこともしないよ・・・」
まつり「火と水は喧嘩するのよ・・・」
つかさ「私は・・・火じゃなくて煙が欲しいんだよ」
私は薪を一つ焚火の中に放り込んだ。
まつり「つかさ・・・とうとう気が触れてしまったんだね・・・かがみのことは、私だって・・・つかさ、正気に戻って」
まつりお姉ちゃんは私の肩を抱きしめて泣いてしまった。しばらくするとまつりお姉ちゃんは私から離れた。
まつり「白羽の矢が立った家は・・・重罪以外は許される、もう、好きにしなさい」
まつりお姉ちゃんはそのまま家に戻って行ってしまった。

 私のしてる事って、この村の人々はみんなまつりお姉ちゃんと同じ反応をするのかな。
お父さんもお母さんも・・・そうなると協力してもらえそうにない。私一人で三日間・・・出来るかな。
でもやらないと・・・雨が降るまで、今、私が出来ることはこれだけ。

 日が昇る・・・一日経った。蝉の鳴き声が村中に響き渡る。私は空を見上げた。雲ひとつ無い快晴・・・。
日が昇ると気温もいっきに上がった・・・夜は我慢できたけどさすがに汗がでてきて喉が渇く。お腹も空いた。
水も飲みたい。でも焚火も見ないといけない。わずか一日で私はヘトヘトになってしまった。
「つかさじゃない、いつから雨乞い始めたのよ」
後ろから私に話しかてくる。聞き覚えのある声・・・私は声のする方に振り返った・・・いのりお姉ちゃん。
いのりお姉ちゃんはこの村が干ばつになったことを聞いて心配になって様子を見に来た。
この村は御神木のおかげで雨乞いをする必要がなかったので誰も知らなかった。
隣町は雨乞いをよくするするといのりお姉ちゃんは言った。
隣り村の雨乞いは焚火をして笛や太鼓で演奏しながら踊るというものだった。隣町もその雨乞いを始めた所と言っていた。
私が焚火をしていた事をいのりお姉ちゃんは凄く驚いていた。

 いのりお姉ちゃんが家に入ろうとした時、家の屋根を見て驚愕した。
いのり「・・・白羽の矢・・・なぜ、雨乞いもしないで・・・早すぎるわよ・・・よりによって私の家だなんて・・・」
つかさ「あと二日しかないよ、お姉ちゃんが人身御供になって・・・」
いのり「かがみが・・・何故、つかさじゃないの」
私は何も言えなかった。その私の表情を見て察したようだった。
いのり「そうか・・・かがみらしいわね・・・かがみを助けましょ、私、協力するから」
そう言うといのりお姉ちゃんは竹でできた水筒を私に渡した。そしてそのまま家の中に入っていった。
水筒の水を飲むと今までの疲れと眠気が消し飛んだ。薪を幾つか放り投げて焚火の勢いを上げた。

 ふと、御神木を見た。そして近づいた。よく葉を見ると所々に枯れているものがあった。
つかさ「御神木さんも水が欲しいんだね」
いのりお姉ちゃんからもらった水筒の水を根元にかけてあげた。瞬く間に水は土に吸い込まれた。
つかさ「このくらいじゃ足りないよね、でも、これで終わりなんだ」
あれ、汗が引いている・・・そうかここは木陰・・・わざわざ炎天下で焚火を見なくても焚火を見張れる・・・ばかみたい
私は一人で苦笑いをした。
つかさ「ここで涼ませてもらうね・・・それに、悪魔の木、なんて言ってごめんね、雨が降らないのは誰のせいでもないよね」
御神木の根元に腰を下ろして焚火を見張った。すごく心地よい。木にそっと抱かれているような、そんな感じがした。


 気が付くと日が昇っていた・・・あと一日。木陰越しに空を見上げた・・・相変わらずの快晴・・・
家からいのりお姉ちゃんが出てきてた。
いのり「おはよう、つかさ、ご飯食べてないでしょ、これを食べて、それと水筒かしてくれる」
つかさ「ありがとう、でもあまり食欲なんだ・・・」
水筒とおにぎりを交換した。
いのり「まだ一睡もしていないんでしょ?、ご飯くらいは食べないと身が持たないわよ」
いのりお姉ちゃんは水筒に水を入れ始めた。
つかさ「あと・・・一日しかないよ」
いのり「そうね・・・私の村も雨乞いやってるはずなんだけどね・・・お日様も頑固ね・・・」
いのりお姉ちゃんは空を見上げた。すると家からまつりお姉ちゃんが家から出てきた。
まつり「・・・つかさ、ごめん、気が触れたなんて言っちゃって・・・焚火が雨乞いなんて知らなかったんだよ」
つかさ「別にいいよ、それより、お父さんとお母さんは・・・どうしたの」
まつり「お父さんは薪を調達しに行ってる、お母さんは・・・あれから泣いてばかりだよ・・・」
いのりお姉ちゃんは満タンにした水筒を私に渡した。
いのり「私も最後まで居たいけど・・・このままだと・・・うちの旦那の親戚がちょうどつかさ達と同じ年頃なのよ・・・
    雨乞いでも雨が降らないと・・・私の村も人身御供をするかもしれない・・・」
まつり「それならもう帰りなよ、もう姉さんはこの村人じゃないんだし・・・来てくれてありがとう」
いのり「お母さんに挨拶していくわ」
いのりお姉ちゃんは家に戻っていった。
まつり「それよりつかさ、顔色悪いわよ、家に戻って寝てきなさいよ、焚火は私とお父さんで見るから・・・ご飯も食べてないじゃない」
つかさ「喉が渇いていたんだよ・・・それに眠くないよ」
私は水筒の水を飲んだ。
まつり「いいから少し休んで、かがみを思う気持ち・・・もう十分だよ」
つかさ「あと一日だし・・・それに木陰って気持ちいいから休めるよ」
まつり「分かった、焚火は私が見るから、つかさはそこで休んでて、それでいい?」
つかさ「うん」
まつりお姉ちゃんは焚火に何個か薪を放り投げた。

 しばらく休んだら調子が良くなった。
つかさ「まつりお姉ちゃん、交代しよう」
まつり「つかさ、あんたよく二日も出来たわね、私はもう半日で降参だよ」
つかさ「はい、水筒」
まつりお姉ちゃんは水筒の水を飲みながら御神木の木陰へと移動した。
お昼からはお父さんも参加して、焚火の勢いは一段と強くなった。それでも空は何も変化はしなかった・・・。

 お姉ちゃんは今頃どうしてるかな。なにも悪いことをしていないのに監禁されてるなんて。
雨が降らないだけで人を平気で犠牲にできるこんな時代、今すぐにでも現代に戻りたいと思った。けど・・・
私は知らない、ゆきちゃんが教えてくれた以外に雨の降らせ方を。
この世界から三百年も経っているのに、天気を自由に変えることすら出来ない。この時代とたいして変わってない。
時間がゆっくり流れている。忙しい現代より私に合ってるかもしれない。
この世界にはこなちゃん達は居ないけど・・・家族はみんな居る。ここで一生を暮らしてもいいかな・・・なんてね。
お姉ちゃんが無事に帰って来てくれればだけどね。

ただ介「これで水瓶にある水は全て使ってしまった、飲み水は川の水を汲んでくるしかない」
まつり「川って、もう川の水も干上がってきてるんじゃないの」
ただ介「そうだよ、このままだと、かがみが犠牲になっても・・・すぐ後を追うようだな・・・」
まつり「なによ、かがみと別れてからの方が酷いじゃない、この天気どうなってるのよ・・・」
ただ介「もう日の出まで半時ほどしかない・・・」
まつり「つかさ、よくやったわ、もうどうしようもないよ、つかさ、聞いてるでしょ、もう終わり、終わったのよ」

 終わりたくない、終わらせたくない。
つかさ「まだ半時あるよ・・・」
ただ介「もうじき、御神木に村人が人身御供の準備をしにやってくる・・・私はそれを迎えに行かなければならない」
お父さんはうなだれながら去っていった。
つかさ「準備・・・また早いよ」
まつり「もう・・・焚火、消すわよ」
まつりお姉ちゃんは杖で焚火を崩しはじめた。私はそれを眺めていた。
もう私にまつりお姉ちゃんを止める元気も理由もなかった。

 日の出前、村人達が御神木の周りを囲むように集まってきた・・・。お姉ちゃんを張り付ける準備をしだした。
家からいのりお姉ちゃんが出てきた。お母さんを支えるように一緒に出てきた。
いのりお姉ちゃん、自分の村に帰らなかった。お母さんの側に居てくれたんだ・・・嬉しかった・・・。
お母さんは目を真っ赤に腫らせて俯いている。いのりお姉ちゃんに寄りかかって歩く元気もないみたい。
祈りお姉ちゃんと目が合った・・・声をかけようとしたけど・・・言葉が浮かばない。しばらく見つめあった。

 村人がざわめき始めた・・・終に来てしまった。
遠くから列になって近づいてくる。先頭にお父さん、その後ろに、お姉ちゃんがいる。
数人の杖を持った役人と・・・槍を肩に抱えている男のひとがお姉ちゃんの後を付いてくる・・・もう見ていられない。

 また村人がざわめいた・・・御神木の方を向いた。
御神木の枝からぽとり、ぽとりと水滴が降ってきた。その水滴の数は次第に増えてくる。樹雨が振り出した。
村人は張り付けの作業を止めた。樹雨の勢いはどんどん強くなっていく。
風を感じた。生暖かい急に風が吹き始めた。御神木はゆっくりとゆれ始めた。樹雨の勢いは更に強くなる。樹雨は音を立てている。
御神木で作業していた人達はたまらず木から離れた。
もう日は昇っているはずなのに日の光が射してこない。空を見上げた。ねずみ色の雲がそらいっぱいに広がっていた。
額に冷たい物を感じた。額に手を当てその手を見た。濡れている。今度は頬に、首に、頭に、次つきと冷たい物が当たる。

 私は目を閉じ、渾身の力を込めて叫んだ

「雨だよ、お姉ちゃんを放して」

 急に静かになった。何も音がしない。ゆっくりと目を開いた・・・私は部屋に立っていた。
あれ、ここは・・・旅館の部屋、足元を見ると布団が敷いてある。私は布団の上に立っていた。服は旅館の浴衣を着ている。
辺りを見回した。こなちゃんとゆきちゃんが気持ち良さそうに眠っている。
今までのは全部夢だった・・・のかな。最後にお姉ちゃんと雨が降ったのを喜びたかった。それより人身御供は中止になったかどうかも分からない。
窓を見るとまだ日の出前、うっすらと明るくなっている。ふと気が付いた。お姉ちゃんが居ない。
また辺りを見回した。お姉ちゃんが寝ていたはずの布団が空になっている。
お姉ちゃんがどこに行いったのか・・・あそこしかない。

 旅館を出て銀杏の木へ向かった。銀杏の木、夢で見たより大きくたくましい。その根元にお姉ちゃんは居た。お姉ちゃんは木を見上げている。
後ろから近づき話しかける。
つかさ「お姉ちゃん、どうしたの」
お姉ちゃんは振り返りもしないで木を見上げたまま答えた。
かがみ「おはよう、珍しいわねこんなに早く」
お姉ちゃんの声、なんかとても懐かしく感じた。
つかさ「私、夢を見たみたい、とてもリアルな夢だったよ」
お姉ちゃんは何も言わなかった。私は話を続けた。
つかさ「三百年前のここに行った夢、そこに家族みんなが居たんだよ、お父さんだけちょっと名前がちがってて、おかしいでしょ、そこではこの銀杏の木は御神木って言われてたよ」
お姉ちゃんは黙っている。
つかさ「あの旅館があったところが私たちの家があった所、そこで暮らしてた、あっ、そうそう、いのりお姉ちゃんがね・・・」
かがみ「隣町へ嫁いでいったんでしょ・・・」
つかさ「えっ・・・何で知ってるの」
かがみ「同じ夢ね、一週間前私の見た夢と・・・」
つかさ「それじゃ、旱になって、白羽の矢が立って・・・」
かがみ「私が人身御供になった、でしょ」
つかさ「そう・・・私の代わりに」
かがみ「ここまで話が合うと・・・気持ち悪いわね」

 お姉ちゃんの夢はどこまで見たんだろう、もしかしたら続きを知っているかもしれない。

つかさ「お姉ちゃん、私の夢、最後が分からないんだ・・・」
かがみ「最後?、最後って何の」
つかさ「雨が降って・・・お姉ちゃん、助かったのかなって」
かがみ「・・・助かったわよ、雷が槍に落ちね、槍が使い物にならなくなった・・・不思議と槍を持ってた人は無傷だった・・・」
つかさ「よかった・・・私、これが一番知りたかった・・・」
かがみ「でもね、これが最後じゃない」
つかさ「最後じゃないって・・・何」
かがみ「どうせ夢なんだから・・・そんなの知ったって・・・」
お姉ちゃんが振り向いて私を見た途端、話すのを止めた。そして私から一歩退き驚きの表情を見せた。
かがみ「つかさ、あんた、その顔どうしたのよ」
つかさ「顔?」
手を頬に当ててその手を見た。手が真っ黒になった。煤が顔に付いていた。
つかさ「三日間、焚火したから・・・煤が付いたんだね・・・お風呂も入ってないや、汚いね」
かがみ「その手はどうしたのよ、傷だらけじゃない・・・」
お姉ちゃんは私の手を掴んだ。
つかさ「薪を運ぶときに付いた傷・・・」
かがみ「何、何なのよ・・・」
つかさ「私、お姉ちゃんを助けたかった、だから、雨を降らすしかなかった、ゆきちゃんの方法を試すしかなかった」
かがみ「みゆきの方法って何の事よ・・・まさか、嘘でしょ」
つかさ「あれは夢じゃなかった・・・良かったね、お姉ちゃん助かって・・・本当に・・・」
その時、急に眠気と空腹そして喉の渇きが私を襲った。体中が痛い・・・気が遠くなっていく。
かがみ「つかさ、どうしたの、しっかりしなさいよ」
つかさ「なんか疲れた・・・力が入らない、眠りたい」
お姉ちゃんにもたれかかった。
かがみ「つかさ、つかさ・・・」
お姉ちゃんが私を呼ぶ声が何度も聞こえた。声がどんどん小さく聞こえていく・・・目の前が暗くなっていった。

 目が覚めると、病院のの部屋で寝ていた。
かがみ「目が覚めたみたいね」
お姉ちゃんが私の側で座っていて心配そうな顔で私を見ている。目を病室の周りを見回した。
窓が赤く染まっている。夕日・・・もう半日以上私は意識を失っていたみたい。
つかさ「お姉ちゃん・・・私」
かがみ「つかさ、あんた昨夜なにしたのよ、極度の疲労、栄養失調、脱水症状、って昨日は電車と車で移動が主であまり動いていないじゃない」
つかさ「ごめんね、旅行、台無しにしちゃたね」
かがみ「そんなの気にしないで、さっき点滴が終わったわよ、今日中に意識が回復したら明日には退院できるって先生は言ってたけど、よかったわ」
私はまた周りを見渡した。
つかさ「こなちゃんとゆきちゃんは・・・もしかして怒って帰っちゃった?」
かがみ「そんな事するわけないでしょ、こなたのやつがレンタカーの借用期限を間違えてね、延長手続きをしにみゆきと行ったわよ、
    昨日までのこなたは見直したけど、まだ詰めが甘いわね」
つかさ「よかった・・・」
かがみ「とりあえずつかさは今晩この病院に泊まって、私達は旅館に戻るから」
つかさ「うん」
かがみ「そうだった、意識が回復したら、食べさせるように言われてたんだ」
お姉ちゃんは慌てて、看護士さんを呼んだ。看護士さんから受け取ると私の目の前に置いた。トーストとコップ一杯の水、シンプルな献立だった。
かがみ「悪いけど御代わりはないわよ、急にいっぱい食べると良くないんだって」
私はお姉ちゃんの話すよりも早くトーストを食べた。お姉ちゃんはじーと私の食べる姿を見ていた。
私は食べながら、お姉ちゃんの方を向いた。
かがみ「いや、つかさがそんなにがっついて食事をするの初めて見るような気がしてね」
つかさ「・・・」
話そうとしたけど、パンが口の中で詰まりうまく話せない。
かがみ「なに慌ててるのよ」
水の入ったコップを私に渡した。私は一気に水を飲み干した。
つかさ「トーストがこんなに美味しかったなんて、この水も・・・今まで飲んだどの水より美味しい」
かがみ「なによ、まるで何日も食べていないみたいじゃない」
私は一回深呼吸をして一息ついた。
つかさ「・・・それより私は続きが聞きたいな」
かがみ「続き、何の」
つかさ「私が倒れる前、最後じゃないって言ってたよね、どうせ夢だからって」
かがみ「・・・」
お姉ちゃんは急に黙ってしまった。
つかさ「そんなに言い難いことなの」

 お姉ちゃんはしばらく黙っていた。
かがみ「雨が降った所でつかさの夢は終わったって言ってたわよね」
つかさ「うん、突然旅館に戻ってた」
かがみ「その先は見れるはずないわよ」
つかさ「見れないはずって・・・」
かがみ「そのまま倒れて、亡くなったのよ」
つかさ「亡くなった・・・私、死んじゃったんだ」
かがみ「そう、私が開放された時にはもう虫の息だった・・・」
つかさ「三日間、ちょっと無理しただけなのに・・・」
かがみ「ちょっと所じゃないじゃない、一睡もしないで、水分もろくに取らず、三日間もご飯食べなかったら危ないわよ」
つかさ「そうなんだ・・・私、死んじゃったんだ」
かがみ「掟通り、つかさが人身御供になっただけ」
つかさ「私は犠牲になるつもりなんてなかったよ、またお姉ちゃんに合いたかった」
かがみ「あんたは、死んだから知らないのよ、残された私達があの後どれだけ苦しんだと思ってるの、あの木を見る度に
    つかさを返してって・・・そう訴えてきた、旅行に行く前も、旅館に着いたときも、今朝も、その時の事を思い出していたんだから・・・」
お姉ちゃんは少し怒り口調だった。
つかさ「あの木は生贄なんて欲しくなかったと思うよ」
かがみ「なんでよ、あの状況だとそれしか考えられないじゃない」
更に怒り出した。
つかさ「雨乞いしている時、あの木は枯れそうだった、焚火の番をしている時、木陰で休んだけど、気持ちよかった、
    私を守ってくれていた感じだった、きっとあの木も私と一緒に雨乞いをしてくれてた」
かがみ「さっきから、まるでその時に居たように話して・・・夢のレベルじゃないわね」
私は傷だらけの手を見ながら話した。
つかさ「夢じゃない、私はあの世界にいたよ、そのおかげで、ゆきちゃんの言った事が役に立った」
お姉ちゃんは少し間を空けてた。

かがみ「みゆきが樹雨の話をしている時、夢を思い出した・・・監禁されてた時のことを、家の方角から煙が立ち昇っていた・・・
    監禁されたことはそこしか覚えていない・・・けど、なぜが急に頭に浮かんだ」
つかさ「お姉ちゃん、見てくれてたんだね、私達の雨乞い」
かがみ「人身御供から開放されて、いのり姉さんが居たから、いのり姉さんの村の儀式だと思ってたけど・・・」
お姉ちゃんは私の手を見た。
かがみ「・・・つかさ、あんた、顔が煤だらけだったわね、一晩であんなに衰弱するはずない・・・あの時代のいつから居たのよ・・・」
つかさ「白羽の矢が立った日の朝」
お姉ちゃんはしばらく考えていた。
かがみ「普段どおりのつかさだった・・・」
つかさ「お姉ちゃんから鎌を渡された時ね、あの時代のつかさの記憶が湧くように浮かんできた・・・だから分からないと思うよ、
    でもね、お姉ちゃんも一緒に来たと思ってお姉ちゃんに聞いたんだ・・・こなちゃんって、覚えてない?」
かがみ「私の見た夢はつかさほど鮮明じゃない、そんなに細かい所まで・・・」
急にお姉ちゃんは立ち上がった。
かがみ「・・・言った、確かに・・・」
つかさ「ここまで同じ記憶なら、もう偶然じゃないよね」
かがみ「そういえば、つかさがこなたを初めてあだ名で呼んだとき、妙な懐かしさを感じたけど、この事だったのか」
お姉ちゃんは病室の窓を見た。
かがみ「夕日が綺麗ね・・・ここからでも泊まってた旅館が見えるわね」
つかさ「本当?」
私は起き上がった。
かがみ「まだ寝てなくちゃ」
つかさ「もう大丈夫、みたい」
お姉ちゃんと並び窓を見た。村が一望できる。この病院は高台に建っている。
つかさ「本当だ、見えるね、あの銀杏の木も見える、やっぱり大きいね」
お姉ちゃんの顔が曇った。

かがみ「私はあの木・・・どうしても好きになれないわね、つかさがどう思っても、あの木の為に犠牲になった事は変わらない」
つかさ「犠牲って、前世の私の事だよね」
かがみ「前世ね、私は生まれ変わりなんて信じられないけど、そう言う事よ」
私は窓を開けた。夕日がもう沈みかけていた。生暖かい風が入ってくる。雨乞いの最後に吹いた風と同じ風。
つかさ「私ね、前世のつかさの記憶、多分ね、全部覚えてるよ」
かがみ「そう・・・」
上の空で答えた。興味がないみたい。
つかさ「この高台、子供の頃よくここで遊んだよね、目を瞑ると思い出すよ、今と同じように夕日を一緒に見てたよね、
    それにあの銀杏の木・・・あの木の周りでもよく遊んだ、樹雨の中を駆け抜けたり、実を獲ったりしたよね、
    銀杏の実って素手で触れると被れるんだよ、初めて触って被れた時、お姉ちゃんに手当てしてもらった、
    あとね、寺子屋でお姉ちゃんいつも一番だった、今と同じだね、あとね・・・」
私はありったけの記憶をお姉ちゃんに話した。
かがみ「もういいわよ、それがどうしたのよ」
お姉ちゃんは怒鳴った。
つかさ「分からないのお姉ちゃん、私は死んでいないよ」
かがみ「はぁ?」
つかさ「私は助けられた、あの銀杏の木に、そして今、ここに居る」
かがみ「なに訳のわからない事を、あの時、つかさは死んだのよ、私が、家族が、村人が、みんな見てる」
つかさ「あれは人形みたいなものだよ、私が死んだことにしないとお姉ちゃんそのまま張り付けにされたかもしれないでしょ」
かがみ「人形って・・・誰よ」
つかさ「この手、傷付いてるでしょ・・・多分、今の私の体・・・」
かがみ「・・・それじゃ、今そこに居るのは誰よ」
つかさ「私は、一つになった・・・そんな気がする、鎌を渡された時、今の私と、昔の私が、そうすると一つ体が残るから・・・」
かがみ「・・・」
お姉ちゃんは窓を閉めた。
かがみ「こなた達遅いわね、なにやってるのかしら」
つかさ「お姉ちゃん、私、冗談で言ってないよ、あの木はお姉ちゃんも私も助けたかったんだよ」
私は強い口調で言った。
かがみ「つかさすごい想像力ね、その話田村さんにしてあげなさいよ、喜ぶわよ」
つかさ「そんなつもりで言ったんじゃないんだけど」
そうか・・・私にはいくらリアルな体験でも、お姉ちゃんには夢の中の出来事。私達の前世が干ばつで苦しんでいる話なんか興味ある訳がないし・・・
ましてお姉ちゃんは人身御供になっちゃってる。
もうこの話は止めよう。これ以上話しても悲しくなるだけ。この体験はもう私の心の中にしまっておこう。それにもう全て終わった事。

つかさ「お姉ちゃん、こなちゃん達遅いね」
話題を変えた。しかしお姉ちゃんは何も話さない。窓の夕日を見ているだけだった。
つかさ「私、もう随分元気になったよ、もうそのまま旅館に戻れるくらい・・・」
お姉ちゃんは何も話してくれない。今までの私の話がしつこすぎかな。
つかさ「明日の予定ってこなちゃんから聞いているの・・・」
かがみ「つかさ、無理に話題を変えなくてもいいわよ、いや、変えようとしてたのは私だったわね」
静かに優しくゆっくりと口を開いた。
かがみ「つかさの体験、私の夢、あれは本当にあった出来事」
つかさ「お姉ちゃんもうその話はいいよ、せっかくの旅行だし、もう忘れよう」
お姉ちゃんは私の方に向いた。
かがみ「私ね、昨日レンタカーから降りた時からなんとなく分かってた、私の見た夢が本当の出来事だったってね、
    今朝の銀杏の木でのつかさの話、そして、つかさが倒れた時確信に変わったわ」
つかさ「それなら何であんな態度取ったの」
かがみ「夢のままにしたかっただけ、それだけよ、つかさが死んだなんて夢にしておきたかった、
    つかさと話してると、どんどん夢の中へ引き込まれてね、それが怖くなってあんな態度をとったのよ」
するとお姉ちゃんは改まったように私の正面に立った。
かがみ「つかさの前世の思い出話を聞いているうちに私も思い出したわ、人身御供で監禁されてた時の事をね・・・
    監禁された部屋で震えていた、怖くて、死ぬのが怖かった、部屋の隅っこで震えて泣いていた家族の名前を呼びながら・・・つかさ・・・怖かったよ・・・」
急に声が震えて目が潤みだした。そして私に抱きついた。私に初めて見せた弱気な姿だった。私は呆然とお姉ちゃんを見ていた。
夕日はもうすっかり沈んだ。空は真っ赤に焼けている。病室が赤くなっている。お姉ちゃんは私から離れた。そして私の手を両手で握り締めた。
かがみ「つかさ、助けてくれてありがとう・・・これが言いたかった、あの時・・・」

 突然出入り口のドアがゴトゴトと音を立てた。私達は扉の方向を見た・・・なにやらささやき声で話している。
「・・・押さないでよ」
「そこだと・・・見えないもので」
「バレちゃうじゃん、もっと右にずれて・・・」
お姉ちゃんはしのび足で扉に近づいた。そして扉を一気に開けた・・・こなちゃんとゆきちゃんが扉の前に立っていた・・・
かがみ「こなた、あんたレンタカーの用事はどうしたのよ・・・」
こなた「えーと・・・もう終わったよ・・・」
お姉ちゃんはこなちゃんを睨んでいる。
こなた「ほら、かがみ、姉妹で水入らず、邪魔するの悪いと思って・・・」
かがみ「だから・・・覗いてたのか、最低だな、みゆきまで一緒にやるなんて」
みゆき「えーと、その、なんと言いますか・・・ごめんなさい」
二人はお姉ちゃんに睨まれて首を竦めて立っていた。
かがみ「いつから居たのよ」
みゆき「・・・つかささんが、意識を回復されたあたりからかと・・・」
こなちゃんとゆきちゃんは入り口で申し訳なさそうに立っている。
かがみ「こなた、みゆき、そこに居てもしょうがないでしょ、入りなさいよ」
みゆき「すみませんでした・・・」
こなた「別にいいじゃん・・・ブツブツ・・・」
かがみ「なんか言いたい事があるのか」
お姉ちゃんがこなちゃんを睨んだ。
こなた「ごめんなさい」
懐かしいこなちゃんとゆきちゃんの声・・・そんな感じがした。

みゆき「つかささん、もう起きて大丈夫なのですか」
つかさ「もうすっかり元気・・・でもあの旅館の温泉入りたい」
かがみ「そうね、あの温泉はいいお湯だったわ、明日、入りましょ」
こなた「ところで、つかさ、かがみ、さっきまでの二人の会話、私にはさっぱり分からなかったけど、なんの話をしてたんだい」
こなちゃんが割って入ってきた。
かがみ「こなたには関係ないことよ」
みゆき「私も知りたいです、何かとても感情が入っていました、興味あります」
かがみ「みゆきまで・・・何でもないわよ」
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃん、知りたい?・・・私達家族の時を越えた不思議な物語を」
こなちゃん、ゆきちゃんの目がらんらんと輝いた。
かがみ「つかさ、余計なことを・・・何でもない、つかさ話さないで・・」
つかさ「確かお姉ちゃん、田村さんに話したら、って言ってたよね、こなちゃん達にも教えなきゃ」
お姉ちゃんは顔が赤くなった・・・話されるのが恥ずかしいみたい。でも私は話したくてしょうがなかった。
つかさ「うんとね、旅行に行く前ね、お姉ちゃんは夢をみました・・・」
かがみ「勝手にしなさい、私は先に旅館に帰ってるわよ」
お姉ちゃんは、そのまま部屋を出て行ってしまった。
私はそのまま二人に今までの事を話した。あの木を見つけてくれたこなちゃん、雨の降らせ方を教えてくれたゆきちゃん、お礼だよ。


 また元の生活に戻った。夢のようなそうでないような不思議な体験だった。
次の日、旅館を離れるとき、銀杏の木は樹雨を降らせて私達を送ってくれた。

 家に帰って、今までの話を家族にした。みんなその銀杏の木を見たいと言ってた。
来年、家族でその旅館に行こうって約束した。・・・けど、お姉ちゃんはその時は留守番するって言った。
誘えば誘うほどお姉ちゃんは行くのを拒んだ。そのうち私は諦めて誘わなくなった。

数ヵ月後・・・

 日曜日、お姉ちゃんと私は久しぶりに神社の手伝いをしていた。
かがみ「巫女服も久しぶりね、つかさ」
つかさ「そうだね」
かがみ「つかさ、こなたには教えていないでしょうね」
つかさ「うん」
かがみ「さて・・・大晦日の準備、倉庫の整理しましょ」
私たちが倉庫に向かうと、一人の女の子が花壇の片隅でしゃがんで泣いていた。
つかさ「お姉ちゃん、あの子、迷子かな」
かがみ「どうかしら・・・きっと近所の子だね、見覚えがあるわ」
つかさ「私、ちょっと見てくる・・・」
かがみ「最近は物騒だから誤解されるわよ、止めなさいよ」
つかさ「大丈夫、今私、巫女だから」
かがみ「おいおい、それじゃある意味こなたと同じだぞ・・・」

私は女の子に近づき声をかけた。
つかさ「どうしたの」
女の子は泣いていて話してくれない。私はしゃがみ込んで女の子と同じ目線になった。もう一度声をかけた。
つかさ「どうしたの」
女の子「学校で・・・飼ってた・・ウサギが死んじゃったの・・・」
つかさ「悲しいね、でもね、泣くならウサギさんの所でね」
女の子はまた泣き出してしまった。
女の子「お供え・・・のね、お花がないの・・・」
つかさ「お花が欲しいんだね、お母さんは?」
女の子「お買い物・・・」
どうやら女の子は死んだウサギさんに供える花が欲しいらしい、花壇の近くに居た理由が分かった。
この女の子花を摘もうとしているみたい、このまま渡してもいいけど・・・お花も詰まれると悲しいかな・・・
つかさ「お花がなくても、大丈夫だよ」
女の子「でも・・・友達・・・みんな、持って来る・・・」
つかさ「お花は要らないよ」
私は女の子の頬に伝わる涙を人差し指で掬った。指に雫のように丸くなった。そして日の光にかざして見せた。
つかさ「綺麗でしょ、宝石ののうに光ってる、お嬢ちゃんの涙だよ」
女の子は私の指を眩しそうに見ていた。
つかさ「ウサギさんの所に言ったら、いっぱい泣いてあげて、そして涙をいっぱい見せてあげて、それだけでいいから、それだけでウサギさんは喜ぶよ」
女の子は無言で立ち上がり、そのまま学校の方に歩いて行った。
私はかざした手を胸に当てて目を閉じて祈った。ウサギさんの為に。そして女の子が見えなくなるまで見送った。

かがみ「つかさ・・・それって」
つかさ「お姉ちゃん見てたんだ、覚えてる?、すごく心に残ったからやってみた・・・あの子、分かってくれたみたい」
かがみ「あれは、樹雨が止んだ時、葉に付いてた雫が太陽の光に反射して綺麗だったから、つかさの涙をそれに例えた・・・今思い出したわよ」
つかさ「そんな意味があったんだ、知らなかったよ、雨乞いの願をかけてたんだね」
かがみ「それより、あの子に花の一、二本渡してやればよかったのに、あの花壇の花はいっぱいあるんだしさ」
つかさ「人身御供の事を思いだしちゃって、お花が可哀想になったから」
かがみ「大げさね」
お姉ちゃんは笑った。

 家族みんなであの木を見たい。そんな気持ちが急にこみ上げてきた。一人でも欠けちゃだめ。
銀杏の木を嫌っているように見えたけど、樹雨を涙に例えたお姉ちゃん。誰よりも銀杏の木を慕っている。
銀杏の木もきっとお姉ちゃんに会いたいと思ってる。お姉ちゃんをもう苦しませたくない。誘ってみよう。もう一回。

私は一回大きく深呼吸をした。
かがみ「どうしたのよ、いきなり」
つかさ「私達って今、幸せだよね、昔と違って人身御供なんてもう無い」
かがみ「そうね、あんな事は無くなったわね」
つかさ「あの銀杏の木、私達家族をこの時代に移してくれたのかもしれない、もう一回やり直すために、
    それに、きっと、こなちゃんやゆきちゃんも、いつの時代が分からないけどあの木に関わっていたと思うよ」
かがみ「またつかさの想像が始まった」
呆れた顔した。それでも構わず話した。
つかさ「私はこの家族に居てよかったと思ってるよ、お姉ちゃんはどうなの」
かがみ「そんなの・・・聞くまでもないでしょ」
私はお姉ちゃんの正面に立ち改まった。
かがみ「何よ」
少し驚いた表情をした。
つかさ「私ね、旅館を離れるとき、あの木にお願い事をしたんだ」
かがみ「何をお願いしたのよ」
つかさ「皆、三百年後もまた同じ家族で会えますように・・・」
お姉ちゃんは少し間を置いて話した。
かがみ「そういえば私、あの木にお礼を言ってなかったわね、もう一度見たくなったわ、あの木を・・・もう一度」
つかさ「お姉ちゃん、留守番はなしだよ」
かがみ「そうね、私も・・・あっ、もうこんな時間じゃない、大晦日の準備忙しくなるわよ」
つかさ「うん」
お姉ちゃんは走り出して行った。

 私はあの銀杏の木を思い浮かべながら問いかけた

「これで、良いんだよね」





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