ID;FIRHoZs0氏:雨だれ

 ある日の放課後のことだった。
かがみ「つかさ、どうしたの、もう帰るわよ」
つかさ「あ、お姉ちゃん、ちょっと待って」
かがみ「どうしたのよ」
つかさ「おかしいな、アルトリコーダがない」
かがみ「つかさ、家に忘れてきたんじゃないの」
つかさ「今日の音楽の授業の時使ったんだけど」
かがみ「それじゃ、音楽室じゃないの・・・」
つかさ「あっ」
ため息をつくお姉ちゃん。
かがみ「早く取っておいで、待ってるから」
つかさ「待ってなくていいよ、今日はお母さんから買い物頼まれてたでしょ」
かがみ「あっ、そうだったわ、それじゃ悪いけど先に行かせてもらうわ」
私達は別れた。

 私は音楽室に向かった。
音楽室に近づいていくと音が聞こえる。ピアノの音、誰かが弾いている。
部活の練習だろうか、私は邪魔をしないようにゆっくり音楽室の扉を開けた。
扉を開ける。そして何気なくピアノの方を向くと、みなみちゃんが弾いていた。
私はしばらそのまま立ったままピアノの音に耳を傾けていた。
音が止まった。みなみちゃんは私の方を向いている。気が付いてしまった。
つかさ「ごめん、邪魔しちゃったかな」
みなみちゃんは黙って首を横に振った。
つかさ「すごいよ、みなみちゃん、ピアノ弾けるんだ」
みなみちゃんは黙って俯いてしまった。
つかさ「さっき弾いてた曲何かな」
私は音楽室に入り、みなみちゃんに近づいた。
みなみ「雨だれ」
つかさ「あまだれ?」
みなみ「ショパン」
つかさ「ショパン?て・・・クラッシック?、凄い、よく分からないけど凄いよみなみちゃん」
私は思わず驚いてみなみちゃんを褒めた。みなみちゃんは俯いたままこちらを見ようとはしなかった。
つかさ「なんで音楽室でピアノを弾いてたの」
みなみ「・・・家のピアノが壊れて、修理中だから、音楽の先生に音楽室を貸してもらって」
つかさ「そうなんだ、あれ、ゆたかちゃんは?、一緒じゃないの?」
みなみ「・・・ゆたかは、体の調子を崩して・・・」
つかさ「そうか、ゆたかちゃん、座りっ放しだと辛そうだね」
みなみちゃんはそのまま黙り込んでしまった。悪い事を言ってしまった。
つかさ「あっ、長居しちゃってごめん、私、忘れ物を取りに来たんだった、すぐに済むから」
音楽室をしばらく探したが、なかなか見つからない。
みなみ「忘れ物って、これですか、机の上に置いてありました」
みなみちゃんは袋を私に差し出した。
つかさ「それそれ、ありがと、それじゃ」
私は袋を受け取り音楽室の扉に手をかけた時、

みなみ「つかさ先輩・・・」
つかさ「どうかしたの、みなみちゃん」
みなみ「よかったら、聴いてくれませんか、私のピアノ」
つかさ「えっ?、クラッシックなんか知らないし、聴いても分からないよ」
みなみ「よかったらなのですが」
私はしばらく考え込んだ。みなみちゃんは私の目を見ている。
つかさ「たまにはピアノを聴くのもいいかも、私なんかでいいなら」
みなみ「無理言ってすみません」

 私はピアノの前に椅子を置き座った。
みなみちゃんはピアノを弾き始める。
流れるような音、リズミカルに鍵盤を叩く、クラッシックを知らない私でもかなり上手であることは分かった。
それでも、曲を知らないのでどうもしっくりこない。
何曲か弾いた頃だった。私は思わずあくびをしてしまった。ピアノの音が止まった。
みなみ「すみません」
しまった。気を悪くしたかな。
つかさ「謝るのは私の方、あくびなんかしちゃって」
みなみ「いいえ、無理言った私が・・・」
なんか気まずくなった。私はこの場をなんとかしようと考えた。
つかさ「リクエストいいかな・・・私が音楽室にはってきたときに弾いてた曲あるでしょ」
みなみ「雨だれ」
つかさ「そう、それ、私、気に入っちゃった、静かな曲だったよね」
みなみ「分かりました」

 静かにみなみちゃんは曲を弾き始めた。
私は目を閉じて聴いた。
確かに雨を連想させる。大雨じゃない、しとしとと降っているような感じ。
不思議と曲に聴き入っていると、人の気配がした。
気配のする方を見ると女の子が立っていた。
女の子と言っても、どう見ても小学校に入るかどうかの子供。この学校には場違い。私の方をじっと見ている。
つかさ「みなみちゃん、あの子、どこから来たのかしら」
みなみちゃんも気付き女の子の方を見る。ピアノの音が止まる。
みなみ「わかりません」
つかさ「どこから来たの、迷子?」
私は女の子に話しかけた。すると女の子は私達に微笑みかけて音楽室を出て行く、私達を誘っているようだった。
つかさ「やっぱり、おかしいよね、職員室に連れていかないと」
みなみちゃんは頷いた。私たちも音楽室を出て女の子の後を追った。
女の子は笑いながら私達を誘導するかのように校舎の外に出た。
そして、校舎の裏に来ると女の子は立ち止まった。そして私たちも立ち止まる。
つかさ「もう鬼ごっこは終わり、お母さんの所に帰ろう」
女の子に話しかけると、女の子はその場にしゃがみ込んだ。そして両手を差し出して水を掬うような格好をした。何かが欲しいらしい。
つかさ「どうしたの」
女の子に近づくと、急に女の子は苦しみだした。そして両手を私の目の前に差し出す。
つかさ「何が欲しいの」
その問いに女の子はただ両手を差し出すだけ、そして、苦しみ方がどんどん酷くなっていく。私はただおろおろするだけ。
女の子はその場に倒れ込んだ。すると周りが急に砂漠のような景色に変わってしまった。
そして、女の子の姿は消えた。砂漠に私一人、
暑い、そして喉が渇く、水が欲しい。そうかあの女の子、水が欲しかったんだ。でも今度は私が水が欲しくなる。
私は水を探して、砂漠を歩く、でも水は見つからない。
私は力尽きて倒れてしまった。そしてあの女のこの様に、両手を前に差し出して。水を求めた。

気が遠くなる。

水が欲しい・・・



みなみ「・・・つか」
みなみ「さ先輩」
みなみ「つかさ先輩」
つかさ「?・・・水?」
私は音楽室に居た。そしてピアノの前に座っている。みなみちゃんが私の肩をつかんで心配そうに私を見てる。
つかさ「私・・・寝ていたの」
みなみ「急にうなされだしたので・・・」
つかさ「私・・・寝ちゃったみたい、いつからだった」
みなみ「・・・最初の曲を弾いてすぐ・・・」
つかさ「ごめんなさい」
みなみ「いいえ、それより、大丈夫ですか、保健室に行きますか」
つかさ「・・・大丈夫、ぜんぜん大丈夫」
恥ずかしくなった。すぐに寝てしまったなんて。
つかさ「私、慣れない音楽聴いたからかな・・・あれは夢だったのかな」
みなみ「雨だれ、を弾き出したら、急に・・・」
つかさ「雨だれ・・・女の子が出てきた時と同じ・・・」
みなみ「女の子?」
つかさ「あ、夢の中の話、ちょっとリアルすぎて・・・」
みなみちゃんは安心したのか、私から離れた。そして、興味ありげに私を見ている。
みなみ「どんな夢だったのですか」
私は女の子の話をした。

みなみ「校舎の裏、丁度この音楽室の裏ですね」
みなみちゃんは音楽室の窓を開けて見下ろした。
みなみ「私、そこに行ってみます」
つかさ「みなみちゃん、夢だから気にしないで」
みなみ「私、気になる、女の子の立ち止まった所・・・教えてくれますか」
みなみちゃんってにそうゆうのに興味があるとは思わなかった。
あまり行く気にはなれないけど、すぐ寝てしまった後ろめたさがある。私はみなみちゃんの言うとおりに、女の子が立ち止まった所に案内した。

つかさ「この辺りだったような」
みなみ「何もありませんね」
つかさ「だって、夢だもん、何かあったら大変だよ」
私は校舎に戻ろうと歩き始めた。
みなみ「つかさ先輩、足元!」
珍しく大声で私を止める。ビックリして私は足元を見た。
みなみ「女の子の正体はこれかと」
そこには草が一本生えていた。花が咲きそうなつぼみがついている。しかし今にも枯れそうにしおれていた。
つかさ「これが?、女の子?」
みなみ「雨だれ、を聴いて水が欲しくなった・・・それでつかさ先輩を・・・」
私は思わず笑いそうになった。
つかさ「草が、私を、呼ぶなんて、みなみちゃん、面白い発想だね」
みなみちゃんのイメージとは違う、私は半分からかった。
891 :コンクール 雨だれ [saga]:2009/09/19(土) 17:13:36.08 ID:FIRHoZs0


みなみちゃんは辺りを見回し何かを探している。すぐ近くにある花壇にかけよると花壇に刺さっているスコップ拾った。
みなみ「きっとこの花壇に植えてあった草の種がおちて育った・・・」
花壇を見ると枯れそうな草と同じ形の草が沢山植えてあった。その草も同じくつぼみをつけている。
みなみちゃんはスコップで枯れそうな草の周りの土ごと掬い、花壇に移した。
みなみ「みんなと一緒になったね」
そう優しく草に語りかけた。
みなみちゃんは近くにあった水道から水を手で汲み枯れそうな草周辺にまいた。
水に濡れる枯れそうな草・・・何か喜んでいるように見えた。
女の子と草の姿が重なって見えた。
つかさ「みなみちゃん・・・」

 冗談で言っているのかと思った。違う、みなみちゃんは本気でそう思っている。
クールで何でも出来る。そんなイメージだったみなみちゃん。
それだけじゃない、優しい、暖かいとても。
ゆたかちゃんが慕う理由が分かった。そしてお姉ちゃんとは違った優しさを感じた。
さっきみなみちゃんを笑ったことを反省した。
つかさ「みなみちゃん、その草が呼んだのは私じゃない、みなみちゃんだよ、私はそんな思いにならなかった
ピアノを弾いているみなみちゃんを呼んだんだよ」
みなみ「えっ?、夢を見たのはつかさ先輩・・・」
つかさ「起きてる人を夢では呼べないでしょ、私はねるの得意だから、それに草を助けたのはみなみちゃんだよ」
私は笑ってそう答えた。
みなみちゃんは黙って俯いた。

 しばらく沈黙が続いた。するとみなみちゃんが何か思い切るように話し出した。
みなみ「つかさ先輩、すみません、嘘をついていました」
つかさ「嘘?、いきなりどうしたの」
みなみ「家のピアノが壊れたって言ったこと」
つかさ「壊れてないの?」
みなみ「私、今日、ゆたかにピアノ演奏聴いてもらって練習する約束をしていました」
つかさ「練習?、壊れていないなら家でも・・・」
みなみ「いえ、人前で演奏するのが苦手で・・・ゆたかを観客にに見立てて・・・それに学校だと多数の人に聞こえるから・・・」
つかさ「私が、ゆたかちゃんの代わりってこと・・・それで嘘をついたの」
みなみ「いえ、あがり症が知られるのが」
つかさ「ああ、そうゆう事か、って、意外、そんな風に見えない、私の方がよっぽど・・・だよ、
あ、もうこんな時間、私、かなり寝てたみたいだね、練習になった?」
みなみ「なった・・・かな」
つかさ「ならないよね・・・」
私達は笑った。
つかさ「私は、教室にもどるね」
みなみ「・・・つかさ先輩」
つかさ「?」
みなみ「来週の月曜日の放課後、また音楽室を借りる予定なのですが、また聴きに来てくれますか」
つかさ「んー、また寝ちゃうかも、それでもいいなら、あ、こなちゃん、お姉ちゃんも呼んでいいかな、ゆきちゃんも、数が多い方が練習になるよね」
みなみ「いきなりそんな大人数で・・・それにみゆきさんは来てもらっても練習にならない、子供の頃から聴いてもらってますので」
つかさ「そっか、それじゃ、こなちゃんかお姉ちゃんどっちかかな、分かった、来週の月曜だね」


みなみちゃん、今ままでのイメージと全然違う、そういえば今まで、こんなに話したことなかった。
私もそうだけど、あまり話しかけてこなかったし。
でも、あんなに寝てた私をまた誘ってくれるなんて、来週が楽しみ。


つかさ「ただいま」
家に帰ると、お姉ちゃんが真っ先に私に話しかけてきた。
かがみ「おかえりつかさ、・・・しかし忘れ物を取りにいくにしては時間かかったわね」
つかさ「そうかな、買い物してきたし」
お姉ちゃんは私の手に持っている袋を見た。
かがみ「買い物ってCDじゃない、最近アルバムなんか出たっけ」
私は袋の中身を見せた。
かがみ「・・・ショパン24の前奏曲・・・・つかさ、風邪でもひいたか」
お姉ちゃんは私の額に手を当てた。
かがみ「・・・平熱みたいね、どうしちゃったのよ」
つかさ「おかしいかな」
かがみ「今までそんなの聴いてないじゃない、聴いて分かるの」
つかさ「分かるために買った」
かがみ「はあ?」
私は、音楽室での出来事を話した。夢の事を除いて。

かがみ「どうせつかさの事だからほとんど寝てたんじゃないの、来週の月曜の為に買ったな」
さすがお姉ちゃん、寝てた事も言わなかったのに、見抜かれてしまった。
つかさ「お姉ちゃんは分かるの」
かがみ「私は・・・この手のジャンルは興味がない」
つかさ「後でお姉ちゃんにも聴かせてあげる、特に雨だれはおすすめ、みなみちゃん弾いてて気に入ったから」
かがみ「雨だれね、それは有名だから知ってるわよ、しかしみなみちゃん、ピアノまで弾けるなんて・・・知らなかった」
つかさ「私も知らなかった、それに話していると、やさしい人だってことも分かったし」
かがみ「私はみなみちゃんとそんなに話したことはない、何か近づき難いような気がして」
つかさ「そんな事ないよ」
お姉ちゃんは私をじっと見ている。
かがみ「また先越された・・・」
つかさ「何のこと」
かがみ「あんたの事、そうやって、どんな人でも飛び込んでいける、みゆきやこなたの時もそう・・・」
つかさ「え、?、言ってる意味が分からないよ」
かがみ「なんでもない、それより月曜日、つかさの他に聴きに来る人いるの」
つかさ「分からない、でも、体の調子がよければゆたかちゃんも来るんじゃないかな」
かがみ「私も聴いてみたいわね、みなみちゃんのピアノ」
つかさ「来てくれるなら、みなみちゃんも喜ぶと思うよ」
かがみ「峰岸は問題ない・・・日下部は・・・あいつは部活かな・・・こなたは・・・」
つかさ「お姉ちゃん、ちょっと・・・」
かがみ「どうせなら皆にも聴かせたいじゃない、明日誘ってみるわ」
つかさ「えっと、そんなに大勢だと・・・」
かがみ「何言ってるの、広い音楽室がもったいないじゃない」
つかさ「間違えることもあるかもって」
かがみ「プロじゃあるまいし、そんなこと誰も気にしないわよ」
違うんだよ、お姉ちゃん、でも、本当の事は言えなかった。私に嘘を付いてまで隠していたみなみちゃんが音楽室で練習の本当の目的を。


その夜、私は夢を見た。
音楽室で見た夢に出てきた女の子、でも今度は何も欲しがっていない、苦しんでもいない。
ただ微笑んで私を見ていた。ただそれだけ・・・
その夢のおかげで目覚まし時計が鳴る前に自然と目が覚めた。お姉ちゃんより先に起きたのは初めてのような気がした。
そして昨日のお姉ちゃんの会話を思い出す。お姉ちゃん、今日みんなを来週の月曜、音楽室に誘うに違いない。
私は学校に行く準備をした。お姉ちゃんより先に学校に着き、ゆきちゃんに相談がしたかったから。

 いつもより早く学校に着く、教室に入るとゆきちゃんが居た。よかった、居なかったらどうしようかと思った。
つかさ「おはよう、ゆきちゃん」
みゆき「おはようございます、つかささん、今日はかがみさん、泉さんとご一緒ではなかったのですか」
つかさ「今日はちょっと早く来たかったから・・・」
みゆき「どうかしましたか」
私が相談しに来たことを何となく分かったよう。心配そうに私を見ている。
つかさ「実は、みなみちゃんの事・・・来週の月曜、音楽室でピアノ練習するの聴かないかって誘われたのだけど」
みゆき「みなみさん、つかささんを誘ったのですか」
ゆきちゃんは驚いた顔をしている。やっぱりゆきちゃんはみなみちゃんがあがり症だって知っているみたい。
つかさ「その話をお姉ちゃんにしたら、皆を誘って聴きに行くって言って・・・」
みゆき「・・・」
つかさ「みなみちゃんから、ピアノの練習を音楽室でしてる理由を聞いたんだ・・・だからどうしようかなっって・・・」
ゆきちゃんは少しの間黙って考えていた。そして。
みゆき「みなみさんは幼少の頃、ピアノの発表会で大失敗をした事がありまして、それ以来、大勢の前で演奏できなくなりました」
つかさ「いいのゆきちゃん、そんな事話して」
みゆき「構いません、つかささんになら」
つかさ「・・・それなら、まずいよね、大勢でおしかけちゃったら、きっとみなみちゃん演奏できないよね」
ゆきちゃんはまたしばらく考えてから答えた。
みゆき「みなみさんはつかささんを誘った、いい傾向かもしれません、私はこのまま成り行きに任せればいいと思います」
つかさ「ゆきちゃんがそう言うなら・・・」


話がまとまった時、丁度お姉ちゃんとこなちゃんが教室に入ってきた。
こなた「おはよー、つかさ、みゆきさん」
かがみ「おっす、って、つかさ、先に行くなら一言かけてから行きなさいよ」
つかさ「ごめん・・・」
こなた「かがみと別行動してたから、てっきり喧嘩でもしたのかと思ったよ」
つかさ「そんなんじゃないから、たまにはこんな事もあるよ」
かがみ「それより、みゆきはつかさから聞いたかもしれないけど、来週の月曜、音楽室でみなみちゃんのピアノ演奏するから聴きにいかない」
みゆき「私も聴きに行きたいと思っていました」
こなた「へーみなみちゃん、ピアノなんか弾けるのか、私も行くよ、弾いてもらい曲思いついたし」
かがみ「どうせあんたはアニメの曲でしょ」
こなた「どうせって、そりゃ偏見だよ」
かがみ「それじゃ、どんな曲なのよ」
こなた「・・・その通りです」
かがみ「峰岸と日下部も来るって言ってたわよ」
お姉ちゃん、はりきりすぎだよ、そんなにいっぺんに呼ばなくても。楽しく話す皆をよそに私は心配でしょうがなかった



 そして、その月曜日が来た。
放課後、私は少し早く教室を出た。音楽室に行く前に寄って行きたい所があった。音楽室の裏の花壇。
二度目に見た夢、あの女の子は微笑んでいた。女の子の草、今頃はあの花壇に植えてあった草と同じように花を咲かせているに違いない。
それを見てみたかった。それと、みなみちゃんに音楽室に来るのは私だけではないと伝えたかった。

 音楽室の裏に着くとみなみちゃんとゆたかちゃんが花壇の前に居た。でも、ゆたかちゃんの様子がおかしい。
私は花壇に近づき二人に話しかけた。
つかさ「みなみちゃん、ゆたかちゃん、どうしたの」
ゆたか「つかさ先輩、みなみちゃんが・・・急に黙り込んじゃって」
みなみちゃんを見ると、私には普通に見える。どこがどう違っているのか分からない。みなみちゃんは花壇を見ている。私はみなみちゃんの目線を追った。
女の子の草を見ている・・・あれ、私は目を疑った。
女の子の草の葉は全て枯れてしまっている。花は咲いていない。つぼみのまま枯れて土に倒れていた。
つかさ「これ・・・確かに水をあげたよね・・・」
ゆたかちゃんも私の視線を追って枯れている草に気付く。
ゆたか「この枯れた草がどうかしたのですか」
みなみちゃんは黙っている。私も言葉を失った。私の見た夢からは想像もできない光景。あの女の子の微笑は何。やっぱり夢は夢なのかな。
つかさ「ゆたかちゃん、この草ね、実は・・・」
みなみ「・・・花壇にも移した・・・それが悪かった」
ゆたかちゃんに説明しようとすると、みなみちゃんが割って入るように話し出した。
みなみ「私がいけなかった・・・私、根を傷つけてしまった・・・私が枯らせてしまった・・・もっと早く気付いていれば」

 みなみちゃんの目から涙が出てきている。そして左手の手を握って力んでいる。草を枯らせたのを自分のせいにして、後悔している。
みなみちゃんはそのまま泣き出してしまった。
ゆたかちゃんはみなみちゃんを見たまま立ち尽くしてしまっている。
私も驚いてしまった。みなみちゃんがそこまであの草を助けようとしてたなんて。
でも、みなみちゃんの悲しみ方・・・草が一本枯れただけなのに激しすぎるような気がした。
私も涙もろいけど一本の草の為に涙は流したことはない。
そう言えば、音楽室で夢の話をした時、私の夢にすごく興味を持っていた。
きっとこれには訳がある。でも話してくれるかな。

つかさ「悲しいことって、人に話すと半分になるって言うよね、ここに二人いるよ、涙の理由は枯れただけじゃないよね」
私はそう問いかけた。
ゆたか「私も知りたい」
ゆたかちゃんはハンカチをみなみちゃんに差し出した。
みなみちゃんは私達をしばらく見てハンカチを受け取った。そして話し出した。淡々と。



「入学してすぐ私は音楽室のピアノを借りに行った、新学期だったのか三日連続で借りることができた、私は椅子に座った、
鍵盤に手を触れることすらできなかった、三日間、ピアノの音が音楽室からこぼれるのが怖かった、家では家族やみゆきさんの目の前で弾くことができるのに、
三日目の夜、私は夢を見た、音楽室でピアノを弾こうとしていると、少女が私を見ている・・・初めはそれだけの夢だった、
それから一週間ほどして、私は思い切ってピアノを弾いた、弾いた曲は覚えていない、その夜、また少女の夢を見た、今度は私がピアノを弾いている、
少女は喜んでいた・・・
私がピアノを借りる度に、その夜、必ず少女の夢を見るようになった、少女は私の弾く曲を気に入ってくれている、いつしか私は音楽室で平気で曲を弾けるようになった
そして、ゆたかの前ならなんとか、緊張しないでいられるようになった、その頃から少女は次第に雨だれに強い関心があることに気付いた、
それに少女の正体も気になった、私は音楽室の周りを調べた、音楽の先生にも音楽室に関わる話を聞いたりした、でも、分からなかった、
つい最近、夢の中で雨だれを演奏すると、少女はしきりに何かを欲しがる仕草をし始めた、私はそれが知りたかった、助けたかった、私の演奏を聴いてくれたお礼がしたかった」

つかさ「そんな時に、忘れ物を取りに私が音楽室に入って来た・・・そして、女の子の夢を見た話をしたら、みなみちゃん、本当のように信じたのか・・・」
ゆたか「つかさ先輩の見た夢って?」
私はゆたかちゃんに説明した。
ゆたか「この枯れた草が女の子の正体、花壇から漏れて淋しかったんだね、みなみちゃんの演奏を楽しみにしてたんだね」
みなみ「・・・そんな事も知らないで・・・私はもう、演奏できない」
ゆたか「そんな事言わないで、音楽室へ行こう、ね、田村さんとパティちゃんも、音楽室に居るよ、私も今日は調子いいし」
みなみちゃんは動こうとしなかった。
私はどうすることも出来ないのかな、ふとこの前見た夢を思い出す。

つかさ「この前、みなみちゃんの演奏を聴いた夜、女の子の夢を見たよ、みなみちゃんは見なかったの、演奏する日の夜は見るんじゃないの」
みなみ「・・・」
つかさ「見たなら、私に教えてくれるかな」
みなみ「・・・」
つかさ「それじゃ、私の見た夢を教えてあげる、微笑んでたよね、ただそれだけだった、だから私はここに来た、きっと花が咲いているかなって」
みなみ「・・・」
つかさ「みなみちゃんもそれでここに来たんじゃないの、女の子、ちがう、この草、私達をここに呼んだと思わない、きっと見せたかっただよ、花の咲いている自分を」
みなみ「・・・見た、夢・・・同じ夢」
つかさ「きっと、今日、聴きたかったと思うよ、雨だれ、私が演奏できれば聴かせてあげるのに」

 自分の思っていることをみなみちゃんにぶつけてみた。
これでだめなら、もう私に何も出来ることはない。

みなみ「最後に、雨だれ、聞かせたい」

みなみちゃんは音楽室に向かった。


ゆたか「つかさ先輩、ありがとうございます、みなみちゃん、涙が止まったよ」
つかさ「え、思った事を言っただけだよ、ちょっと演技もはいってるかも」
ゆたか「もう、みなみちゃんの演奏聴かないと思いました、ほんとうに、ありがとうございます」
ちょっと照れてしまった。
ゆたか「でも、なんで枯れちゃったのかな、きっと病気だよね、みなみちゃんが移したせいじゃないよね」
そう私に言うとみなみちゃんを追いかけるように音楽室に向かった。

 私も音楽室に向かった。ゆたかちゃんの言葉が妙に頭の中に残った。
ふと女の子の微笑んだ顔が浮かんだ。
死のうという時、あんな笑顔できるかな、音楽室で見た夢の女の子は水欲しさに苦しそうだった。それなのにあの笑顔・・・まさか・・・
私は花壇に戻った。枯れた草がある。
私は、枯れた葉、茎、つぼみを丁寧に取り払った。すると根っ子の中に緑色の芽を見つけた。

 やっぱり、生きてる。
これだと、来年はちゃんと花を咲かせそう・・・来年は・・・私は見れないな・・・卒業してる。って感傷に浸っていられない。
私は少し怒って草に話した。
つかさ「なんでそんな死んだ真似したの、どうゆうつもりなの、私、みなみちゃんに死んだように言っちゃったよ、悪戯だったら怒るよ」

 音楽室の方からピアノの調べが聞こえてきた。雨だれ・・・
みなみちゃん、演奏してる。そういえば、お姉ちゃん達が聴きに来ていることをみなみちゃんに言っていない。
ゆたかちゃんも田村さん達が来てるって言ってた。それなのに演奏してる・・・大勢の前で。

 草は黙ってピアノを聴いている。これが答えと言っているよう。
自然と涙が出てきた。一本の草の為に私は涙を流した。みなみちゃんは草の為に、草はみなみちゃんの為に・・・。
夢でしか通じ合えないけど、こんな事ってあるんだね。
音楽室に向かおうとしたけど止めた。ここからでも充分にピアノの音は聞こえる。
花壇に腰を下ろした。目を閉じ草と一緒にピアノを聴く。そういえばこの草の名前をまだ知らない。今度ゆきちゃんに聞いてみるかな。
隣りに女の子と一緒に聴いているような、そんな感じになった。

 二階の音楽室から漏れるピアノの音、雨を連想させる。大雨じゃない、しとしとと降っているような感じ。
音楽はまだ聴いていたいと惜しむように静かに終わった。

 音楽室から沢山の拍手の音が聞こえる。人数が多すぎる。通りすがりの人もいるのかな。
私も花壇から立ち上がり拍手をしていた。



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