ID:yoPgHF6o氏:いつまでも

 熱い。
 真っ白な光の中、こなたは思った。
 お腹が熱い、腕も熱く感じる。それに体が軋む。
 ゆっくりと目蓋を開けると、そこには眩しいばかりの太陽があった。
 自分が何をしているのか、わからなかった。昼寝でもしていたのだろうか?
 そうか、この熱さは太陽に当たっていたせいで、体が軋むのは、そんな場所で寝ていたから。
 そう納得し、こなたは地面に手をついた。ぬるりとした感触がしたが、気にかけず起き上がる。
 その、目の前に広がっていたのは、あまりにも、凄惨な光景だった。
 思わず口元を押さえる。
 しかし、せり上がる吐き気をとめる事はできず、嘔吐する。
 ビチャビチャと音を立て、吐き出されるそれは赤く染まっていた。
 視界を彩る赤。
 こなたの居るそこは、血の海になっていた。
「かがみ……つかさ? みゆきさ……んぁ……うあああぁぁぁあああああああ!」



「ああぁぁぁぁああああああ!」
 午前4時、こなたは叫び声を上げながら飛び起きた。
「はぁ……はぁ……」
 ドタドタと廊下を走る音がする。
「こなた!」
「お、おはよー、お父さん」
「お姉ちゃん……?」
「ゆーちゃんもおはよう」
 扉をぶち破って――と言わんばかりの勢いで入って来たのは、そうじろうとゆたかだった。
「何かあったのか?」
「あーいや、ちょっとひどい夢見たから」
「大丈夫? お姉ちゃん」
「うん、大丈夫。ごめんね、起こしちゃって」
「そうか、ならいいんだが……」
 ぎこちない笑顔を作りながら、二人が出て行くのを待つ。
 扉が閉まったところで、こなたは顔を手で覆った。
「ふぅ……」
 大きくため息をつく、と覆った手から嫌な感触がした。
 ぬるりとした、それは……。
「よだれ」
 こなたは再び大きなため息をつき、よだれを腕でぬぐう。
「起きよ……」
 とても二度寝する気にはなれず、ベッドを出た。


「おーすこなた。ってまた徹夜か」
「こなちゃんおはよう~」
 かがみとつかさは、目の前をフラフラしながら歩いているこなたに声をかけた。
「おはぁよぉ~」
「今度はなに、ネトゲ? アニメ?」
「どっちも違うよぉ」
 かがみは少し考え、言った。
「勉強……なわけないわよね。あんたが勉強で徹夜とか天変地異クラスだしね」
「ねぇねぇ、お宅のお姉様ひどくない?」
「えっと……あはは」
 むぅ、と頬を膨らましながらこなたは答えた。
「残念ながらハズレ。そもそも徹夜じゃないしね~」
「へぇ、じゃあ何よ?」
「まぁ、ひどい夢見ちゃってねー二度寝したくもなかったからさ」
「あーっ、わかるよ! 怖い夢とか見ちゃうと、また寝るの嫌だよね……」
「あのねぇ、あんたじゃあるまいし、こいつが」
 言いかけたところで、こなたが目を逸らしていることに気づく。
「……」
「なに図星? ほー……あんたが怖がる夢ってのは興味あるわね。あとで教えなさいよ」
「やめた方がいいと思うよ?」
「余計気になるわよ。昼休みにでもじっくり聞かせてもらうわ」
「えー……」
 嫌がるこなたを尻目に、かがみはスタスタと歩いていった。


 そして昼休み。
 いつものようにお弁当を携え、かがみがやってきた。
「ずっとこの調子なの?」
 かがみは、こなたの頬を突きながら言った。
 当のこなたは、両手を広げて机にもたれかかり、ぐでっとしている。
「うん、ずっとだよ~」
 と、そこで、一人の男子生徒がかがみにぶつかる。ボトン、と何かが床に落ちる音がした。
「あ、わり」
「ちょっと、気をつけなさいよ」
 そう言って、かがみは床に落ちた自分の……頭を持ち上げる。
 言葉を失い、こなたは頭があったであろう場所を見る。そこには何もなく、赤黒い血があふれていた。
「うわぁ!」
 こなたは勢いよく立ち上がり、しりもちをつく。
「ちょっと、人の顔見て悲鳴上げるって、失礼にもほどがあるわよ」
「えっ」
 声を聞き、再び見ると特に変わりのない、かがみの姿があった。
 かがみが持ち上げ、男子生徒に渡したそれは、ただのボールだった。
「なんだ、ボールじゃん」
「他になにに見えるのよ?」
「いや、かがみの頭に」
「は?」
「うおー……夢のせいで……」
 頭を抱えるこなたを見て、三人は首をかしげる。
「こなちゃん、夢って朝いってた?」
「うん、まぁ」
「どういうことよ?」
「えっと、なんのお話でしょうか……?」
「先、お昼食べよ。それから話すよ」
 気分のいい話じゃないしね。と付け加えられ、かがみたちはとりあえず同意し、昼食をはじめた。
 その間、話のつかめないみゆきに長くもない事情を説明する。
「それで、授業中も眠そうだったんですね」
「そうなんだよー」
「まぁあんたの場合、そんなのなくても居眠りしてるわよね」
「防御不可なんだよ睡魔ってやつぁ」
「はいはい」
「みゆきさんは寝るの11時だっけ」
「ええ」
「早いよねー」
「日にもよるけど……つかさ9時よ」
「え!?」
「い、今は10時とかだよ! 変かなぁ?」
「健康的で良いのではないかと……」
「人生損してる気がしてとても真似できない」
「あんたの生き方も大概だけどな」
「う……」
 そうこう話している内に、昼食を終える。
 お弁当箱を片付け、さて、とかがみは言った。
「聞かせてもらいましょうか?」
「うん」
 そして、こなたは話す。夢で見たことを。


 とある交差点。自分の座り込むそこは文字通りの血の海。
 目の前に転がる、誰かの体。
 人の形を保ってはいるものの、それはあまりにもひどい有様だった。
 腕は曲がり、足は潰れ、血にまみれている。
 自分もまた、血を吐き、腕が裂け、動くことも出来ない。
 激しい痛みと生暖かい感触は、まだこなたに残っていた。


「……かがみなんて、首チョンパだよ」
「それでさっきのかよ……」
「確かに、ひどい夢ですね……」
 かがみもみゆきも、さきほどの元気がなくなり、つかさに到っては涙目になっている。
「私たち、死んじゃうの?」
「いや、まぁただの夢だしね……」
「夢って、自分の願望とかが反映されるんだっけ? みゆき」
「はい、全てがそうだと言うわけではありませんが……」
「私の首飛ぶとか、なんかそういう殺人願望みたいなの、あるんじゃないでしょうね」
「いやいや、ないから。大体事故だし、私も死にかけだし」
 二人の話す横で、みゆきは考える。
「あの、少しよろしいですか?」
「うん? なにみゆきさん」
 みゆきは軽く頷き、言った。
「夢の詳細はともかく、それは泉さんの願望と言いますか、不安に関係してるのではないかと」
「不安?」
「死とはつまり別れを意味します。ですから、それに対する不安では……その、卒業も近いですから」
「卒業……」
「そうだったわね……」
「もう、半年ぐらいしかないんだね」
 窓の外を見て、少しの間、感傷に浸る。
「……だから、そんな夢を見てしまったのではないでしょうか」
「そうかな……うん、そうかもしれないね」
「みんな離れ離れになっちゃうんだね」
「そうですね……でも、大丈夫だと思います」
 そう言い切ったみゆきに、三人の視線があつまった。
「私たちも、子供ではありませんし。会いたくなったら会いにいけます。思い出も消えません。
だから、大丈夫です。たとえ、どんなに離れていても、心はいつまでも一緒だと信じています」
 その真っ直ぐな目には、本当にそう信じて疑わないと言う、光があった。
「みゆきさん……」
「ゆきちゃん……」
「そうね。みゆきの言うとおりだわ。海外だろうとどこだろうと、会いに行けばいいのよ」
「うん! 私絶対行くよ!」
「電話とかメールとか、簡単に連絡できるしね」
「あんたはまず携帯を持ち歩くことから始めなさいね」
「うぐぅ」
「ふふふ」
 教室の中、四人で笑いあう。
 いつまでも一緒に。愛する友人たちと共に。




 白い部屋、白いベッドの上に、こなたが眠っている。
 ベッドの隣には美しい花が飾られていた。
「お姉ちゃん、笑ってますね」
「ああ、楽しい夢でも見てるんだろう」
 微笑むこなたを見ながら、そうじろうは言った。
「ゆーちゃん、いつもお見舞いありがとうな」
「いえ……」
「学年も変わって色々大変だろう」
「大丈夫です。私が来たいので」
「そうか。でも、無理はしちゃだめだぞ。こなたもそれを望まないだろうし、たぶんもう……こなたが戻ってくることは無いだろう」
「おじさん……」
「幸せな夢の世界に、いつまでも……」




【事故報告書】

200X年○月○日
管内交差点にて、交通事故発生。
死傷者は5名。
トラック運転手1名、女子高生3名が死亡。
女子高生1名が病院に搬送され意識不明の重体。



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  • (`;ω;´) -- 名無しさん (2017-05-18 06:55:17)
  • (゚Д゚) -- 名無しさん (2012-11-03 12:05:28)
  • [-,-;;;;] -- 名無しさん (2009-12-15 19:10:52)
  • ('A`) -- 名無しさん (2009-12-15 17:28:39)
  • (゜△゜;) -- 名無しさん (2009-12-15 07:28:34)
  • (^^) -- 名無しさん (2009-12-15 03:49:08)
  • (°∇°;) -- 名無しさん (2009-11-01 08:44:03)
  • [;^^] -- 名無しさん (2009-10-30 23:11:44)
  • (;・∀・) -- 名無しさん (2009-10-30 21:08:07)
  • (^ω^;) -- 名無しさん (2009-10-29 17:03:48)
  • (^^;) -- 名無しさん (2009-10-11 16:05:30)
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