ID:mVgT44I0氏:ラブレター

 ある日のこと、私は自分の部屋で勉強をしていた。辞書で調べようとしたら。
辞書が無いことに気が付いた。
そういえばお姉ちゃんに貸したままだった。私はお姉ちゃんの部屋に向かった。ノックをした。
返事がない。
「お姉ちゃん入るよ」
ドアを開けたら、お姉ちゃんは居なかった。買い物にでも出かけたのだろうか。でも宿題はさっさと終わらせたい。
私はちょっと悪いと思いながらも部屋の中に入ってお姉ちゃんの机の上を探した。
辞書は机の真ん中に置いてあった。その辞書を持ち上げた時、その下に封筒があるのを見つけた。
あて先はお姉ちゃん。封筒の中身は出ている。もしかして、ラブレター?
思わず封筒の中身を手に取り読んだ。
字はとても綺麗で丁寧に書かれていた。そして内容は、放課後屋上で大事な話があるから会って欲しいと・・・
これって、思った通りラブレターだ。さらに見ると待ち合わせの日時は・・・明日の日付が書いてあった。
しかし書いた本人の名前が書いてない。
「人の部屋に黙って入って泥棒みたい、感心しないわね」
後ろから突然声がした。お姉ちゃんだ。買い物袋を持っている。どうやらおやつの買出しに行ってたみたい。
「え、そのー、辞書を返してもらおうと思ったんだけど・・・」
「で、今持ってるのは何かしら」
「これは・・・」
「・・・読んだのね」
私は黙って頷いた。そして覚悟した。きっとお姉ちゃんは怒って私を叱り付ける。
「しょうがないわね」
しかしお姉ちゃんは怒ることなく一回大きなため息をつき、部屋の中に入りドアを閉めた。
「ごめんなさい」
お姉ちゃんに手紙を渡した。
「謝ることはないわ、私もそんな所に置いておいたのも悪いし・・・見られたのがつかさでよかった」
「でも凄い、ラブレター貰うなんて、明日、会いに行くんでしょ」
「そうね」
お姉ちゃんは、力のない声で一言、そう答えた。
「嬉しくないの」
「正直言って微妙、書いた人誰だか分からないし・・・」
「でも、明日会いに行くなら応援するよ」
「いや、応援されても困るわ、こればかりは・・・自分がどうこう出来ることじゃないし」
かなり複雑な心境な様、私もお姉ちゃんにどうこう出来ることはないみたい。
「あ、私、部屋に戻るね」
私は部屋を出ようとした。
「つかさ、待って、辞書忘れてるわ」
「ありがとう」
「あと、つかさ、この事は・・・」
「内緒だね、分かった」
「それが一番心配だわ」
「それじゃ約束する、誰にも言わない」
私は部屋に戻った。
今までに無いお姉ちゃんの真剣な顔・・・あの手紙、見なかった方がよかった。今更私は後悔していた。
そして、日付は変わり、手紙の待ち合わせの時刻が近づいた。


こなた「みんな、そろそろ帰ろうか」
かがみ「あ、ごめん、みんな先に帰って、私、用事があるの」
こなた「え、会議でもあった?みゆきさん」
みゆき「今日は会議はありませんね」
かがみ「ちょっと図書室で調べ物よ」
こなた「それじゃしょうがないね、つかさ、みゆきさん行こう」
お姉ちゃんと別れ、私達はバス停に向かっていた。すると、こなちゃんが時計を気にしだした。
こなた「まだ早いけど、早いにこしたことはないかな」
つかさ「どうしたの、こなちゃん」
こなた「ふふふ、お二人さん、これから面白いイベントがあるんだけど見にいかないかい」
つかさ「イベント? 何かな」
こなた「かがみが告白される決定的は瞬間をだよ!」
なんでこなちゃんが手紙のことを知っているのか、自分の耳を疑った、でもこなちゃんははっきりとそう言っている。
つかさ「なんでそんな事をしってるの!」
こなた「ほぅ、つかさは知らないってことは、かがみ、内緒にしてたね、かなり本気っぽいね」
つかさ「どうゆう事なの」
こなた「一週間前、かがみのげた箱の中にラブレターを仕込んでおいたのさ」
つかさ「それって・・・」
こなた「そう、、時間が来たらドッキリ!!、その時のかがみの反応を楽しむのさ」
あの手紙がこなちゃんの書いた手紙?、こなちゃんの筆跡は私もお姉ちゃんも知ってる、すごく特徴のあるある字のはず。
つかさ「こなちゃんが書いたんじゃ字で誰が書いたかばれちゃうよ」
こなた「つかさ、鋭いところに気が付いたね、私もそう思ってね、ゆーちゃんに書いてもらったのだよ」
つかさ「ひどいよこなちゃん、悪戯にしてはやりすぎだよ、私、そんなの見たくない」
こなた「つかさは不参加、みゆきさんは」
みゆき「私は・・・見てみたい・・・です」
こなた「おー、予測と反対だ、みゆきさんが参加してくれるなんて」
みゆき「い、いえ、私はただ、かがみさんが恋愛にどのような概念を持っているのか興味があるだけして・・・」

 そう確かに昨日、お姉ちゃんの部屋の出来事がなかったら私も一緒に見に行っていたかもしれない。お姉ちゃんはかなり本気だったことは間違いない。
それがドッキリだったなんて。その時、こなちゃん達が急に心配になった。
そんなお姉ちゃんに、あれは嘘だったなんて・・・出て行ったら、きっと激怒するに違いない。
そして、こなちゃん達と喧嘩にでもなったら・・・
そんなのはやだ。
つかさ「こなちゃん、やっぱり私も行く」
こなた「つかさ、そうこなっくちゃ」
つかさ「でも・・・あまりにお姉ちゃんが可哀想」
こなた「もう、後戻りはできないよ、実行あるのみ」

 私達は一度、自分のクラスに戻った。お姉ちゃんは図書室で時間が来るのを待っていた。
こなちゃんはそれを確認すると、私達を屋上へと案内する。
そして、屋上に着くと、
こなた「ここだと私達が居るのがバレちゃうね」
こなちゃんは辺りを見回した。そして給水タンクの陰に誘導する。
こなた「ここで待とう」
そう言ったと同時だった。お姉ちゃんが屋上にやってきた。手紙の指定時間よりかなり早かった。
こなた「うわ、もう来ちゃった、待ちきれなかったのかな、危ないところだったね、とりあえず時間までは出ないから」
そうこなちゃんは言い私達はしばらくお姉ちゃんの行動を見ることになった。


 お姉ちゃんは同じところを行ったり来たり、落ち着きがない、見ているこっちも焦ってくる。
時間が近づいてくると、その場に止まって、自分の髪の毛を触り始めた。
お姉ちゃんがいつも緊張している時にする仕草、なんだかもう見ていられなくなってなってきた。
こなた「そろそろ時間だ・・・行くよ」
こなちゃんがお姉ちゃんに向かおうとした時だった。
みゆき「ちょっと待ってください」
ゆきちゃんがこなちゃんを止めた。そしてゆきちゃんは黙って指を指す。その方向を見ると。
出入り口から男の子が入ってきた。
男の子はお姉ちゃんを見つけると近づいてきて何やら話しかけている。遠くて何を言っているのか分からない。
お姉ちゃんも一言、二言何かを言っている。
しばらくすると、お姉ちゃんは笑い始めた。とても楽しそうな笑顔。今まで私も見たこともないような・・・楽しそうだった。
そして、二人は肩を並べて屋上を後にした。私達は呆然と出入り口を見ていた。

つかさ「こなちゃん、これってどうゆう事なの」
聞いてもこなちゃんは何も答えてくれなかった。
みゆき「あの男子・・・」
つかさ「知ってる人なの」
みゆき「あの方はA組の学級委員」
つかさ「それじゃ、お姉ちゃんも知ってる人なんだね、ところでどこ行ったのかしら」
みゆき「おそらく、図書室だと思います」
つかさ「何故、声ぜんぜん聞こえなかったよ」
みゆき「かがみさんの唇が、最後に図書室に行こうと言ってたのが分かりました」
つかさ「それじゃ今までの会話も」
みゆき「残念ながら、かがみさんしか正面向いていなかったので、かがみさんはほとんど話していなかったので分かりません」
つかさ「あの男の子、名前は」
みゆき「確か・・・辻さんだったと思います」
つかさ「なんか、こなちゃんの言ってたことが本当になっちゃたね」
みゆき「嘘から出た真ってことでしょうか」
この状況だと、あの手紙は本物になってしまったことになる。するとお姉ちゃんとの約束が・・・
つかさ「こなちゃん、ゆきちゃん、実は昨日、こなちゃんの手紙見ちゃったんだ、それがお姉ちゃんにバレちゃって、誰にも言わないって約束したんだけど」
みゆき「それでつかささんは最初反対したのですね、分かりました、私は他言はしません」
つかさ「こなちゃん? さっきからどうしたの」
こなた「あの手紙は私が確かにかがみのげた箱に入れた・・・」
つかさ「こなちゃん、聞いてるの」
こなた「え、ああ、聞いてるよ、内緒でしょ、分かってる、分かってる」
この後、しばらく沈黙が続いた・・・

 最初の目的がなくなった。もうここに居る理由はない。
つかさ「もうここに居てもしょうがないよね、帰ろう、それとも図書室行く?」
みゆき「そうですね、二人はそのままそっとしておいてあげましょう」
私とゆきちゃんは屋上を出ようとした。しかしこなちゃんはその場を動こうとしなかった。
つかさ「こなちゃんどうしたの?、行こう」
こなた「・・・ここから図書室見えるよね、私、もう少しここに居る」
そう言うと、隣の校舎が見える所に向かった。
こなた「こなちゃん、そっち図書室のある校舎じゃないよ」
こなちゃんは返事をしてくれなかった。
もう一言こなちゃんに話しかけようとした時、ゆきちゃんが私の肩をたたいた。
「行きましょう」
ゆきちゃんのその一言で二人だけで屋上を出ることになった。


 一度、私達は鞄を取りに自分のクラスに戻った。
駅までゆきちゃんと二人だけで帰るのは初めてだったような気がした。
その帰りの途中、バスの中でふとこなちゃんの事を考えていた。
お姉ちゃんとが辻さんと会ってからこなちゃんは変わった。
どう変わったかは分からない、でも・・・少なくとも喜んでいるようには見えなかった。
「こなちゃん、どうしたのかな」
思わず、口に出してしまった。
「分かりませんか」
ゆきちゃんが聞き返した。別にゆきちゃんに質問をしたわけではなかったけど、
「ゆきちゃんは分かるの」
「・・・分からなくもないのですが」
言い難そうに言葉を詰まらせている。私が知りたそうにゆきちゃんの目を見ると、振り切ったように私に話し始めた。
「かがみさんが、私達から去って行くような気がしたのではないでしょうか」
「お姉ちゃんが、何で」
「かがみさんと辻さんが恋人になれば、私達と会ってくれる機会がそれだけ減ります」
「それは、当然じゃない、恋人じゃなくても、新しい友達ができたりすれば、同じことじゃないの」
「そうゆう事を言っているのではなく・・・」
「それじゃ、どうゆうこと」
しばらくゆきちゃんは黙っていた。
「好きな異性ができてしまうと、同性との関わり合いが変わってしまう場合があります」
「・・・言ってる意味が分からないよ」
ゆきちゃんは黙ってしばらく私の目を見た。
「今後かがみさんは、つかささんや私に対する言動が変わるかもしれないと言う事です、良い意味でも、悪い意味でも・・・」
「ゆきちゃん、それ大げさだよ、あれくらいで変わるなんて、お姉ちゃんは、お姉ちゃんだよ」
「それならいいのですが・・・」
その後、私達に会話はなかった。
バスが駅に着きゆきちゃんと別れた。
どうもすっきりない。こなちゃんもゆきちゃんもお姉ちゃんが辻さんに会ってから変わった。
ゆきちゃんはお姉ちゃんが変わるって言ってたけど、さっきのゆきちゃんの方がよっぽど変わってる。
そんな事を考えているうちに自分の家に着いた。

「ただいま」
すると奥からいのりお姉ちゃんの声がする。
「おかえり、あら、かがみはどうしたの」
「遅くなりそうだから、先に帰ってきた」
「珍しいわね、遅くなっても一緒に帰ってきてたじゃない・・・まさか喧嘩でもしてないわよね」
「喧嘩なんてしてないよ」
「まぁ、そうよね、あんた達が喧嘩する所なんて想像できないわね・・・それより丁度よかった」
「丁度よかった?」
「お父さんとお母さん、今日帰りが遅くなるって連絡がきてね、それで夕食の準備をしようとしたら材料が無いのよ」
「それなら私、買い物してくるよ」
その時、以前まつりおねえちゃんが作ってくれたパエリアを思い出した。
「いのりお姉ちゃん、今日の献立って決まってるの」
「いや、まだだけど」
「それじゃ、パエリアでいいかな」
「え、そういえば以前まつりが作ったことがあったわね、つかさ、大丈夫なの」
「作ってるの見てたし、材料も買い物しから覚えてるよ」
「流石ね、それじゃ全面的にお願いしちゃおうかしら」
お姉ちゃんには何もできないけど、これをお祝い代わりにしようと思った。


 夕食の準備をしていると、まつりお姉ちゃんが帰ってきた。
まつり「ただいま・・・この香り」
いのり・つかさ「おかえり」
まつり「あれ、もしかして、パエリア作ってるの」
つかさ「そうだよ」
まつり「そうだよって、レシピ教えてないわよ、なのになんでつかさが作れるのよ」
つかさ「作ってるところ見てから」
まつり「見てただけで作れるなんて・・・私だけの取っておきが」
いのり「つかさと一緒に作った時、盗まれたわね」
まつり「ま、いいわ、それより最近、つかさ、デザート作ってないわね」
つかさ「作ってるけど・・・納得出来るのが作れなくって、お姉ちゃん達に食べてもらっていないだけ」
まつり「納得って、今まででも充分美味しいわよ」
つかさ「ありがと、でも、どうしても上手にできないケーキがあって・・・」
まつり「へー、手が込んでそうね、こんどうまく出来たら食べさせてよ」
つかさ「うん」
いのり「そういえばかがみ遅いわね」
まつり「それなら携帯で・・・」
まつりお姉ちゃんが携帯電話を取ったその時、
かがみ「ただいま」
つかさ「お姉ちゃん、おかえり、丁度夕食ができたよ」
まつり「かがみ、遅いわね、委員会の会議でもあったの」
かがみ「いや、ちょっと友達と話してたら」
まつり「友達?、つかさもとっくに帰ってるし、怪しいわね」
かがみ「別に怪しくなんかないわよ、とにかく着替えてくる」
そう言うと、自分の部屋に向かって行った。
まつり「まったく、何か隠してるわね、だいたい想像つくけどね、かがみはああ見えて隠すのが下手だからね」
いのり「詮索は後にして、お皿並べるの手伝って」

 私達姉妹だけの夕食、みんな私の作ったパエリアを美味しいと言ってくれた。
雑談にも華が咲く、まつりお姉ちゃんのつっこみにお姉ちゃんは軽く受け答える。
なんてことは無い普段の夕食風景、お姉ちゃんもいつものお姉ちゃん、なんの変わりもない。
私はほっとした。やっぱり考えすぎだった。私はみんなの会話に進んで参加した。
とても楽しい夕食になった。


 後片付けも終わり、自分の部屋に戻った。今日は特に宿題があるわけでもない。
椅子に座り机を見ると漫画の本が置いてあった。以前こなちゃんに借りたものだった。
これから特にすることもない。漫画を見ることにした。しかし一人で見るのも味気ないのでお姉ちゃんの部屋に行こうと思った。夕食の話の続きもしたい。
「お姉ちゃん入るよ」
ドアを開けてお姉ちゃんの部屋に入った。
「何か用なの」
「遊びに来たよ」
私はいつものようにお姉ちゃんのベットを椅子代わりに座り漫画を読み始めた。しばらくすると。
「つかさ、ここは私の部屋よ、漫画なら自分の部屋で読みなさいよ」
「えっ?」
「聞こえなかったの、読むなら自分の部屋でって」
「お姉ちゃん?どうしたの、昨日の事怒ってるの」
お姉ちゃんは一回おおきなため息をついた。
「もう私達は子供じゃないの、もう私達は一人の人間として認め合わないと」
「言っている意味が分からないよ、別にいいじゃん」
「それじゃ、まつり姉さん、いのり姉さんの部屋でまったく同じことができるかしら」
「それは・・・」
「それと同じよ、悪いけど出て行って」
冷たい声が私の耳を貫いた。私はお姉ちゃんの部屋から追い出された。しばらくお姉ちゃんの部屋の前から動けなかった。

 自分の部屋に戻った。ベットに寝そべり仰向けになった。何故か涙が出てきた。
あんな事一度も言ったことないのに。縄張りに入ってきた私を追い払うようだった。
お姉ちゃんの気持ちが理解できない。涙は目から溢れ頬を伝ってく。
ふとゆきちゃんの言葉を思い出した。
ゆきちゃんの言いたいことってこの事だったの。私はもう泣くしかなかった。

 どのくらい時間が経ったか、ドアのノック音がする。
「つかさ、入るわよ、あんた漫画の本忘れてたわよ」
私の泣き顔を見てすこし驚いた様子、ドアの入り口から進もうとしなかった。
「入ってきていいよ、私は追い出したりしないから」
皮肉っぽくお姉ちゃんに話しかける。お姉ちゃんは私が泣いている理由にすぐに気が付いたみたい。
「さっきはごめん、宿題でどうしても解けなかった問題があって気がイライラしてたから・・・」
すぐに謝ってきた。でも、その理由に私は納得しなかった。
「放課後、どうなったの」
私はお姉ちゃんの言い訳を無視してストレートに聞いた。するとお姉ちゃんは扉を閉めて部屋の中央に進んできた。
「つかさに隠しても意味無いわね、昨日手紙も見られてるしね」
「相手はA組の辻さん、つかさは知らないわね、屋上で会うなり、私の読んでいる本の話題で盛り上がってね」
「図書室で話してたら終業時刻になったの、そして・・・帰り際に・・・告白・・・」
顔を真っ赤にして私に話した。
「返事はしたの?」
「いくら知ってる人でも、すぐには返事なんかできないわよ・・・次の日曜に・・・デートの・・・」
言葉がゆっくりと、言い辛そうにしているので続きを思わず言った。
「約束したの?」
「そうよ、そこで返事するって約束をした」
「凄いよ、お姉ちゃん」
「本の趣味も合ってるし、気も合いそうだと思ったわ、でも、つきあってみないと分からないじゃない、それにデートなんて初めてだし・・・つかさならどうする」
「私にそれを聞いたって・・・」
「そうだろうと思った」
「えー」

お姉ちゃんは笑った。それに釣られて私も笑った。そしていつの間にか涙は止まっていた。
「よかった、笑ってくれて、本当にごめん」
「私も、お姉ちゃんの心境も知らないで・・・」
「なんかつかさに話したら気が落ち着いたわ、邪魔したわね、あ、私の部屋で漫画読みたいなら来ていいわよ」
「ありがとう、今日はもういいかな、時間も遅いし」
「そうね、じゃ私、戻るわ」
お姉ちゃんは自分の部屋に戻ろうとした。
「待って、お姉ちゃん」
「何?」
「この話、まだ内緒にするの?、いつまでも隠せないと思うし、ゆきちゃんならきっといいアドバイスしてくれると思うよ」
お姉ちゃんはしばらく黙って考えていた。
「みゆきや峰岸なら話してもいいかな、若干二名以外は・・・」
「こなちゃんと日下部さん・・・」
「つかさは普通にしてれば良いわ、その中でバレたのならそれはそれでいい」
「分かった、そうする」
そうは言ってもみんなはもう知ってしまっている。でもお姉ちゃんに本当のことは言えなかった。それでも心の重荷は取れた。
「それじゃ、おやすみ」
「おやすみ、お姉ちゃん」

 普段のお姉ちゃんに戻った、でも確かにゆきちゃんの言うと通りになった。こなちゃんもこの事を知っていたのだろうか。
そうなると私は何も知らない子供だったのかな。私は一人取り残されたような寂しさがこみ上げてきた。
私が子供なのは今更どうにかなるものじゃない、今はお姉ちゃんと辻さんがうまくいく様に、それだけを祈ろう。

 それから何日か過ぎた。みんなは普段通り、お姉ちゃんと辻さんの事に触れることなく・・・と言うより、そんなことがあったことなど
忘れているようだった。そんな放課後。
かがみ「あれ、おかしいな」
つかさ「どうしたの」
かがみ「携帯電話が見当たらないのよ」
みゆき「ご自宅に忘れてこられたのでは」
かがみ「それはない、朝、家から出るとき確かに持ってから」
つかさ「それじゃ私の携帯から電話してみる?、近くにあれば音で分かるよ」
かがみ「悪いわね」
こなた「あー、かがみ」
かがみ「なによ」
こなた「かがみの携帯、今朝トイレ行っている間に着メロと壁紙、最近私の気に入ったアニメに変更しちゃったんだよね」
かがみ「!」
稲妻のようにお姉ちゃんの拳がこなちゃんの頭に当たった。遅れて雷鳴のようにお姉ちゃんが叫ぶ。
かがみ「なんてことするのよ」
教室にお姉ちゃんの声が木霊する。こなちゃんはその場にうずくまり、両手で頭をおさえた。
こなた「痛いよ、かがみ、黒井先生より痛い、グーで殴らなくても・・・」
かがみ「当たり前でしょ、人の物を勝手に、つかさ、電話するの止めて」
私は手を止めた。
みゆき「落し物でしたら職員室か用務員室へ行かれては、届けられているかもしれませんよ」
かがみ「そうするわ、こなた、あんたも手伝いなさいよ」
こなた「えー、着メロ変えたのと、かがみが失くしたのと関係ないじゃん」
かがみ「あの携帯見られたらオタクと思われるでしょ」
お姉ちゃんはこなちゃんを引きずるように教室を出て行った。こなちゃんは頭を押さえながら渋々ついていく。


「お姉ちゃん、本気で怒ってたね」
「そうですね、あの様子ですとかがみさん時間かかるかしら」
「ゆきちゃん、お姉ちゃんに何か用があったの」
「委員会の書類が溜まったので、倉庫の整理をしたかったのですが」
「私でよければ手伝うよ」
「つかささん、お願いしてもよろしいでしょうか」
「うん」
「それでは鍵をもってきますので、自習室に行って下さい」

 私は自習室に入りゆきちゃんを待った。だれも居ない。とても静かな部屋。
「お待たせしました」
ゆきちゃんが入ってきた。自習室の奥に扉が在り、その扉を鍵で開けた。
「こちらです」
案内されると本棚に書類が山のように積まれていた。
「沢山在るね」
「そうなんです。こちらの書類をあちらへ運んで欲しいのですが」
「わー、確かに一人でやるには大変だよ」
早速私達は作業に入った。約半分くらい片付けた頃、私はバスでの会話のお礼をした。
「この前、とても助かったよ、ありがとう」
「何の事でしょうか」
「こなちゃんの偽ラブレターの事だよ、バスの中で私に言ってくれた事」
「ああ、あの事ですか、何かあったのですか」
「あの日の夜、お姉ちゃんの部屋に遊びに行ったら追い出されちゃって・・・ここは私の部屋だからって」
「そんな事があったのですか」
「すぐ謝ってくれたけどね、でも、ゆきちゃんのあの言葉が無かったら私今頃どうなってたか」
「あれは例え話なので・・・かがみさんはすぐ謝りましたか・・・凄いですね、普通出来る事ではありませんね、とても敵いません」
ゆきちゃんはお姉ちゃんに感心していた。


「終わりました、つかささんありがとうございました」
「いいえ、どういたしまして」
書類の移動が終わり、ゆきちゃんが扉に手をかけた、だけどそのまま止まって動こうとしなかった。
「どうしたの」
するとゆきちゃんは口に人差し指を立てた。
「しー」
私も音を立てないようにその場に留まった。すると自習室の扉が開く音がした。そして中に誰かが入ってくる。
???「ここなら誰もいない、ここにしよう」
壁越しに男の子の声がした。
「辻さん・・・」
ゆきちゃんは小さい声でそう言った。
生徒「何だよ、急に呼び出して」
辻「とりあえず奥に入って」
自習室の扉が閉まる音がした。
辻「以前ラブレターをげた箱に入れた話しただろ」
生徒「そんな事いってたな」
辻「とりあえず、今度の日曜、デートする所まではいったんだけどね」
生徒「お、凄いじゃん、で、相手は誰だよ」
辻「柊・・・」
生徒「柊?ってC組の?」
辻「・・・そうだよ」
生徒「なんで」
辻「委員会で何度か会っているうちにね、いい人だなって思った。さっきまで」
生徒「さっきまで?、なんか意味深だな」
辻「見てしまったよ、友達なのかな青い髪の小柄な女子を思いっきり殴ってるのを・・・」
生徒「・・・俺、二年の時柊と同じクラスだったから分かる、その子はたぶん泉だな、二年の時もよく泉を怒鳴っているの見かけたよ、結構名物だったぞ」
辻「・・・知らなかった・・・会議の時とえらい違いだな・・・そんな人だったなんて」
生徒「で、話ってなんだい、こんな事を言う為にこんな所まで・・・」
辻「俺、そのデート断ろうと思ってるんだけど、自分から誘っておいてだから・・・柊を屋上まで呼んでくれないかな、呼んでくれるだけでいいんだ」
生徒「そんなの自分でやれよ」
辻「二年の時同じクラスなら話やすいじゃないか、な」
生徒「しょうがないな、明日の昼飯おごれよ、で彼女何処にいるんだ?、放課後だから帰ったんじゃないのか」
辻「殴られた子、泉だっけ、その子と鞄も持たないで出て行ったからまた戻ってくるはず、C組の辺りを探してくれ」
生徒「わかった」
自習室の扉が開く音がして二人は出て行った。


 聞いてはいけないものを聞いてしまった。そんな気がした。でもなんか納得ができない。
「ゆきちゃん、なんか間違ってるよ、見ただけで、理由も聞かないで、一方的に決めちゃうなんて」
「・・・」
ゆきちゃんはただ黙って扉のとってを握っていた。
「お姉ちゃんのいい所もいっぱいあるのに、ゆきちゃんもそう思うでしょ」
珍しく私の問いに何も答えようとしなかった。しばらくして、ゆきちゃんはゆっくり口を開いた。
「かがみさんの一番見せたくない所を見られてしまいましたね・・・」
「でも、約束してたんだよ」
「かがみさんと辻さん、お互いに会議での姿しか知りません、会議でのかがみさんはとても輝いて見えました
私は二年の時、委員長を務めましたが・・・会議を最後にまとめてくれたのはいつもかがみさんでした」
「そんな話初めて聞いた・・・お姉ちゃん委員会の話なんかしないし」
「そこもかがみさんの素晴らしい所です」
「それなのに・・・どうにもできないの、ゆきちゃん」
「私も・・・私もこの手でドアを開けて辻さんに訴えたかった、かがみさんはそんな人ではないと」
「そうだよね」
「しかし、先ほどの状態を見られたのであれば、弁解の余地はありません」
「ゆきちゃんも、そんな事を言うの」
「あれは、じゃれ合いみたいなもの、確かに私達から見ればそうですが、彼らから見ればただの暴力なのです」
「ゆきちゃん・・・悔しいよ、あれは私が知る限り初めてだよ、殴ったの、何とかならないの」
「私にもう聞かないで下さい」
少し大きな声でゆきちゃんは言った。私は思わず一歩引いて驚いてしまった。こんな事を言うゆきちゃん、初めてだった。
「ごめんなさい、私、何をしていいか分からない」
よく見るとゆきちゃんの目に涙が溜まっていた。
「ゆきちゃん・・・」
「何をしていいか分からない、ただ彼らの話を聞いていただけ、かがみさんには助けられてばかりなのに、何も出来ないなんて」
「そんな事言ったら、私も同じだよゆきちゃん」
「屋上のかがみさんの笑顔、素敵だった・・・それがこんな結果に・・・偶然を怨みます・・・私は屋上に行くべきじゃなかった・・・
ごめんなさい、この鍵で倉庫を閉めてを図書室に返して頂けませんか」
そう言うとゆきちゃんは倉庫のドアを開けて、逃げるように自習室を出て行った。私はしばらく倉庫から出ることができなかった。
ゆきちゃんはもう終わるって決め付けちゃってる。お姉ちゃんならきっと誤解だって言って解決だよ。


 倉庫の鍵を閉め、私はゆきちゃんの言われた通りに鍵を図書室へ返した。
教室に戻ると、こなちゃんが一人、頭をさすりながら自分の机に座っていた。
「つかさ、どこ行ってたの」
「ゆきちゃんの手伝いをちょっとね」
「みゆきさんが・・・」
「ゆきちゃんがどうしたの」
「飛び込むように教室入ってきて、さっさと荷物まとめて帰っちゃったよ、何かあったの?」
「家の用事があったみたい」
「ふーん」
こなちゃんはそれ以上聞いてこなかった。
「ところでこなちゃん、お姉ちゃんの携帯電話見つかったの」
「ああ、あったよ、職員室に届けられてた」
「かがみは慌てて携帯取って隠そうとしてたよ、電源切れてたのに」
私はこなちゃんに言いたいことがあった。私がそれを言いかけたとき。
「私・・・ちょっとやり過ぎちゃったかな」
言おうとしたことを先に言われてしまった。調子が狂ってしまった。
「お姉ちゃん、あんな事するの初めてみた」
「・・・つかさがそう言うなら、かがみの怒りは相当のものだね」
「そうだね」
私はわざと冷たくそう答えた。こなちゃんはそのまま黙り込んでしまった。俯き悲しそうな顔。
今更こなちゃんを怒ってもどうにもなるわけない。それよりまだこなちゃんは頭をおさえている。それが心配になった。
「こなちゃん、頭見せてみて」
「いてて、普通ならすぐ痛みがとれるんだけどね」
「見事にできてる、こぶが・・・冷やした方がいいかな」
私は洗面所に行きハンカチを水に浸してきてそれをこなちゃんに渡した。
「ありがと」
こなちゃんはハンカチを頭に置いた。
突然私の携帯電話が着信した。携帯をみるとお姉ちゃんからの電子メールだった。
「電子メール?、かがみから?」
「うん」
「内容は?」
「遅くなるから先帰っていいよって」
「かがみ、さっき男子に呼ばれてどっか行ったけど、その用事なのかな、すぐ戻るって言ってたけど・・・」
私はその用事を知っている。答えられるわけがない、話を続けた。
「私はお姉ちゃん待つけど、こなちゃんはどうする」
「今日は・・・帰らせてもらうよ」
そう言うとこなちゃんは帰り支度を始めた。
「かがみに合ったら、携帯の事、ごめんって言っておいて、直接なんて言い辛いし」
「うん、言っておく」


 こなちゃんと別れ、私はしばらく教室でお姉ちゃんを待っていた。だけど来る気配はない。
もう日は落ちかけて終業時間も近い、私は教室を出て向かった。屋上に。

 屋上に着いた、そこにお姉ちゃんが居た。辻さんとお姉ちゃんが出会った所に。後ろを向いて夕日をを見ている様。
私はお姉ちゃんに近づいた。そして話しかける。
「お姉ちゃん、もう帰ろう、終業時間だよ」
後ろを向いたままお姉ちゃんは話した。
「つかさ、先に帰っていいってメールしたのに、よくここが分かったわね」
「誰かに呼ばれてどこかに行ったってこなちゃんが言ってたから」
「そう、まだ就業時間までまだ時間があるわね、もう少しいいかしら」
お姉ちゃんはここを離れようとしない。私は思い切って聞いた。
「呼ばれて、何かあったの」
その質問にお姉ちゃんは即答した。
「呼ばれてここに来たら辻さんがいねて、デート断ってきたわよ」
「それでどうしたの」
「承知したわ」
「・・・お姉ちゃんそれで本当にいいの」
「・・・」
黙っているお姉ちゃん、私は黙っていられない。
「お姉ちゃんは辻さんをどう思ってたの、好きだったの」
「・・・好きだった・・・手紙をくれる前からなんとなく気になってた・・・」
「それならどうして・・・お姉ちゃんが分からないよ、辻さんも分からない、何のためにラブレターなんか出したのか」
お姉ちゃんは振り返り、私の額を中指で軽く弾いた。
「つかさ、なに一人で熱くなってるのよ、これは私と辻さんの問題でしょ」
痛くはないけど、打たれた額を手で押さえた。お姉ちゃんの顔を見ると私を見て笑っている。
「え、だって悔しくないの」
するとお姉ちゃんは、また振り返り、夕日を見ながら答えた。
「彼に言われたわ、友達を殴るような人と付き合いたくないって・・・こなたの事を言っているのはすぐ分かった、
こうまでハッキリ言われると、さっぱりするわね」
「あれは、こなちゃんの悪戯・・・理由を言えば・・・」
「そう、あれはこなたの悪戯、だけど、あの程度で殴ることはなかったわね、つかさもそう思うでしょ」
「それは・・・」
「こなたを殴ったどころか、怒鳴ったことは数え切れない、オタクって見下したこともあった・・・最低じゃない
今になって気が付くなんて、好きな人にそんな事言われたら・・・」
「こなちゃんは気にしていないと思うよ、こなちゃん、さっき、携帯の事、ごめん、そう言ってたよ」
お姉ちゃんは振り向いて私の目をみた。なにも言わない。その代わりに目に涙が溜まっていた。
そして、そのまま泣き崩れてしまった。




 目の前のお姉ちゃんがが歪んで見える。私もいつの間にか涙を流していた。何も言わない。言えなかった。
もう終わっている・・・私が何を言っても、すでにもう過去のこと。後戻りできない。
ハンカチを出そうとしたけど・・・こなちゃんに渡したままだった。
涙を拭えず、手で目を押さえても涙は止まらない。もう諦めて泣いた。
就業時間を知らせるチャイムが鳴る。もう日は完全に暮れて空はもう暗くなっていた。

「お姉ちゃん、もう帰ろう」
お姉ちゃんの手を引いた。起き上がったけど力が入っていない私にもたれかかった。お姉ちゃんの腕を私の肩に回して運ぶように進んだ。とりあえず教室に向かった。
教室に着き適当な椅子にお姉ちゃんを座らせて、購買の自動販売機でコーヒーを買ってきてお姉ちゃんに渡した。
落ち着くまでにかなり時間がかかった。宿直の用務員さんに追い出されるように学校を出る。
そして、最終バスに乗った。家に帰ってもその日はお姉ちゃんは部屋から出ることはなかった。

こなちゃんの悪戯で始まり、こなちゃんの悪戯で終わった。
私はそれを全て見た。違う、見ていただけだった。助けることも救うことも出来なかった。ただ一緒に泣いただけ。それだけだった。


 一ヶ月が経った、いつものみんなに戻るのに三日も要らなかった。
でも、ゆきちゃんもこなちゃんもおあれから、姉ちゃんと辻さんがどうなったか聞いてこなかった。
辻さんと別れての二日間のお姉ちゃんの気が抜けたような姿を見てもう分かってしまったのかもしれない。
まつりお姉ちゃんがお姉ちゃんの事を隠すのが下手だって言ってたけど、その意味が今分かった。
そして、いつもの生活に戻った。
いいえ、完全には戻っていない。何かが少し違う。何が違うのかは分からない、でも以前とは何かが違っている。

 放課後、私はお姉ちゃんを待っていた。
「帰るわよ」
お姉ちゃんが教室に入ってきた。
「こなたとみゆきはどうした」
「こなちゃんは・・・限定品が売れきれるって言って先に行っちゃったよ、ゆきちゃんはそれに付いていったよ」
お姉ちゃんはため息をつく
「付いていったじゃなくて、連れて行かれたでしょ、まったく・・・そういえば、最近みゆき、私たちの寄り道付き合うようになったわね
「そういえばそうだね」
「それでいて、成績以前より上がってる・・・みゆきにもう勝てそうにない」
「お姉ちゃん、ゆきちゃんと成績争ってたの」
「いや、私が勝手に追いかけているだけ、みゆきは私なんか眼中にないわ」
違うよ、ゆきちゃんはお姉ちゃんを尊敬してる。私はあの時そう感じたよ。
「そういえば、こなちゃんも最近変わったよね」
「こなたが、どこが?」
「んー、そう言われると、説明できないけど、お姉ちゃんをあまり怒らせなくなったよね」
「そんな事はない、あいつは変わってない、断言するわよ」
そう、こなちゃんは変わってない。でも、怒鳴ったり、殴ったり、そこまで気が許せ合える友達がいるっていいよね。
「そういえば、お姉ちゃん遅かったね、どうしたの」
「ホームルームが長引いてね、メールすることも出来なかったわ」
「それじゃ、こなちゃん達を追いかけよう」
「そうね」


 私達は教室を出た。靴を履き換えて外で待っているとなかなかお姉ちゃんは来ない。私はお姉ちゃんのげた箱に向かった。
お姉ちゃんはげた箱で手紙を読んでいた。
「お姉ちゃんそれは、もしかして・・・」
「そう、ラブレター」
お姉ちゃんはそう言うと隠すことなく私に手紙を渡した。
手紙を見ると、辻さんの書いた内容とほぼ同じ事が書いてあった。待ち合わせの場所も、日付時刻も。そして書いた本人の名前も書いていない。
字は綺麗に書かれている。見覚えがある字。一週間前、こなちゃんの家で見せてもらったゆたかちゃんの字と同じだ。
「げた箱の奥に入ってたわ、今まで気が付かなかった」
間違いない、この手紙はこなちゃんが入れた手紙。
「つかさ、私、この手紙の方を取っていたらどうなったかしら」
私に問いかける。私は想像した。あの時辻さんが来なかったらどうなったか。
屋上で待つお姉ちゃん、そこにこなちゃんが走ってお姉ちゃんの前に立つ。慌て、おろおろするお姉ちゃん。
そこでこなちゃんの種明かし。すると、怒ったお姉ちゃんはこなちゃんの頭をグーで殴る・・・
こっちでもこなちゃん、お姉ちゃんに殴られちゃうよ。私は思わず吹き出して笑ってしまった。
「つかさ、笑ったな、どうせ結果は同じってことね、聞くんじゃなかった」
「ごめん、お姉ちゃん」
お姉ちゃんに手紙を渡した。
お姉ちゃんはしばらく手紙を見ると両手で丸めて出入り口のごみ箱に投げ捨てた。
「さ、これで全て終わり、行くわよ」
そう言うと、校舎の外へ出て行った。

 私はごみ箱から丸まった手紙を拾った。
やっぱりお姉ちゃんは優しいね、手紙を捨てるなら破るよね。でもそうしなかった。
そういえばこなちゃんの悪戯、まだ途中だった。まだ終わっていない。終わらせなきゃね。
終わらせるのは、私しか居ない。全ての種明かしができるのは私。
こなちゃんには悪いけど、この悪戯私が引き継ぐよ。
でも、今すぐ種明かしはできない。今やったら、きっとみんな泣いちゃうよ。
一年後、五年後、十年後、いつがいいかしら。
この手紙を見せたとき、こんな事があったねって笑って語り合える、そんな時まで・・・おあずけだね。
丸まった手紙を私は丁寧に元に戻した。
それまで、私達が仲良しでいられますように。手紙にそれだけを祈りを込めて鞄にしまった。
「つかさー なにしてる、先行っちゃうわよ」
遠くからお姉ちゃんの怒鳴り声。いつものお姉ちゃん。やっぱりこうじゃないと、こなちゃん、ゆきちゃんも最近物足りないって言ってたよ。


 それから私達は楽しい一時を過ごした。家に帰り、夕食を済ませた後、私は台所を占領してデザート作りに専念していた。
「お、つかさ、久しぶりに作っているわね、この前言ってた納得できなってデザートなの」
「まつりお姉ちゃん、そうだよ」
「で、なにを作ってるんだい」
「塩キャラメルレアチーズケーキ」
「それ、有名な店で食べたことあるわ、私はあまり美味しいと思わなかった」
「・・・有名なお店と私のとじゃ比べ物にもならない、お店のが美味しくなかったら私のなんて・・・それにこれは試作だし」
「悪かっわね悪気はないわよ、ってもう出来てるじゃん」
まつりお姉ちゃんは出来立てのケーキを近くにあったフォークですくいとって食べた。
「まつりお姉ちゃん、試作だって言ってるのに」
まつりお姉ちゃんはしばらく何も言わずにケーキの味を確かめるように噛んでいた。
「この味・・・どこかで味わったことある」
そのまま目を閉じて何かを思い出そうとしているようだった。
「これはは卒業の時・・・つかさ、この味どこで・・・」
「この試作の試食、お姉ちゃんに最初に食べてもらおうと思ったのに」
「なぜかがみが最初なのさ」
「・・・言えない」
「言えないって、あんた達、最近おかしいと思ったけど、やっぱりね・・・かがみに試食ね、反応が楽しみだわ」
まつりお姉ちゃんはクスリと笑った。
「美味しくない?、やっぱりこのケーキ、お姉ちゃんにあげるの止めた方がいいかな」
するとお姉ちゃんは黙ってやかんに水を入れて湯を沸かし始めた。
「このケーキには紅茶が合うわね、私がかがみにいれてあげる」
「まつりお姉ちゃん・・・」
「私もあの時こんなお菓子が食べたかったわ、あの時、食べていたら・・・思い出にできたのに・・・きっとかがみも喜ぶわよ・・・きっと」
まつりお姉ちゃんは目を潤ませてそう言った。

 塩キャラメルレアチーズケーキ、甘さの中に、塩のしょっぱさとキャラメルの苦さを入れた大人のスィーツ。
レピシ通りに作ってもどうしても上手く作れなかった。そして気が付いた。しょっぱさと苦さ、これは涙の味・・・実らなかった恋の切ない涙の味。
私はレピシを変えて作った。屋上での涙の味を思い出しながら心を込めて。
この涙の味を思い出にしまうために。





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  • 偶然が重なって出来た物語。とても楽しめました。GJ -- CHESS D7 (2009-09-18 21:11:02)
  •  いつものかがみのツッコミが招いた運命の悪戯ですか...。
    何だかものすごく現実味のある話でとても面白かったです。 -- insane (2009-09-16 22:01:01)
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