ID:vrLfkvY0氏:取りとめもない最終話──泉こなた内閣シリーズ

0.闇の中へ
 三人の死体を見下ろす。
 人は死ねばただの死体だ。どんなに偉大な人物であろうとも。
 目の前にあるのは、ただその事実だけだった。

 部下が、もう一体の死体を搬入した。
 扉の鍵を閉め、密室状態を作り出す。
 あとは、隠し扉から逃走するだけだ。
 組織の構成員のほとんどは、既にこの東京からの退避を完了している。あとは、ここにいる数人のメンバーだけだった。
 組織を解散し、身分を偽装して、全国に散らばる。それで、命令は完遂だ。
 組織のすべてを闇の中に葬る。

 それでいい。
 でも、

「いささか残念ですよ。あなたがたを生かしていれば、まだまだ面白いものが見れたかもしれない」

 そう思わせるだけの魅力があの三人には備わっていた。
 だが、それももう過去のことだ。

 彼女はすべてを振り切るように、闇の中へと消えていった。



1.現代史小事典より

小早川ゆたか
 (中略)
 幸星党総裁を辞任したあと、新星党を結成し初代総裁に就任したが、まもなく死去。


幸星党幹部密室殺人事件
 新星党が結成後初の勝利をおさめた衆議院議員総選挙直後に、幸星党本部総裁室で党幹部四名(泉こなた総裁、柊かがみ幹事長、高良みゆき、永森やまと)の他殺体が発見された事件。
 当時、総裁室は密室状態で、残された証拠が乏しかったことから、迷宮入りした。犯人はいまだに判明していない。
 この事件で中核メンバーを一気に失った幸星党は解体し、党員のほとんどが新星党に移籍した。


第二次中央省庁再編
 天原ふゆき内閣下で行われた中央省庁の再編のこと。
 主な内容は下記のとおり。
 (中略)
 これに伴い、副大臣制度を廃止して、担当大臣制度を創設した。各省には、総括大臣と複数の担当大臣が置かれることとなった。なお、総括大臣と担当大臣はともに憲法上の国務大臣として内閣を構成する。


対北朝鮮自衛戦争
 天原ふゆき内閣末期に勃発した戦争。日本国初の防衛出動命令が発令された。
 衆議院議員の任期満了を目前とした政治的には微妙な時期の戦争となった。
 開戦前は一貫して対話路線をとっていた天原首相であったが、北朝鮮のミサイル攻撃(少なからぬ数の核弾頭が含まれていたと見られている)を全弾迎撃したあと、タンカー改装空母を用いて北朝鮮のミサイル関連施設・核関連施設を徹底的に叩くなど、積極果敢な反撃を指揮した。
 その後の北朝鮮海空軍の攻勢を撃退して、北朝鮮軍の対日攻撃能力をほぼ喪失させた時点で、一方的に終戦を宣言し、戦争は終結した。ただし、北朝鮮政府はいまだに戦争状態は継続していると声明している。
 天原首相は戦争の責任をとって新星党総裁を辞任。後任の総裁には岩崎みなみが就任した。ただし、天原ふゆき内閣自体は、衆議院議員総選挙が終了するまで、選挙管理内閣として存続した。


岩崎みなみ内閣
 天原ふゆき内閣の次の新星党政権。
 前首相天原ふゆきを厚生労働総括大臣に任命した異例の人事が話題となった。
 閣僚は、下記のとおり。

 内閣府
  内閣総理大臣 岩崎みなみ(新星党総裁)
  内閣官房長官 日下部あやの(新星党幹事長)
  地方制度担当大臣 泉そうじろう
  行政管理担当大臣 小早川ゆき
 法務省
  法務総括大臣 桜庭ひかる
  司法制度担当大臣 成美ゆい
  法制担当大臣 中谷あくる
  警察公安担当大臣 桜庭ひかる(法務総括大臣兼務)
 外務防衛省
  外務防衛総括大臣 黒井ななこ
  外務担当大臣 魔天ぱとりしあ
  防衛担当大臣 日下部みさお
 財務金融省
  財務金融総括大臣 八坂こう
  財務担当大臣 柊みき
  金融担当大臣 宮河ひかげ
 文部科学省
  文部科学総括大臣 宮河ひなた
  教育担当大臣 柊ただお
  文化体育担当大臣 田村ひより
  科学技術担当大臣 成美きよたか(経済産業総括大臣兼務)
 厚生労働省
  厚生労働総括大臣 天原ふゆき
  医療保健担当大臣 天原ふゆき(厚生労働総括大臣兼務)
  労働担当大臣 大原こまち
  社会給付担当大臣 高良ゆかり
 経済産業省
  経済産業総括大臣 成美きよたか
  第一次産業担当大臣 柊つかさ
  第二次産業担当大臣 柊いのり
  第三次産業担当大臣 柊まつり
  運輸通信放送担当大臣 小神あきら(内閣広報官兼務)
  資源エネルギー担当大臣 柊いのり(第二次産業担当大臣兼務)
 国土環境省
  国土環境総括大臣 白石みのる
  国土開発担当大臣 兄沢命斗
  環境担当大臣 音無りんこ



2.岩崎みなみ
 みなみは、地道にスケジュールをこなしていた。
 カリスマも指導力もあるわけではないけれども、淡々と仕事をこなしていく。そういう意味では、彼女は前首相天原ふゆきのスタイルを引き継いでいた。
 彼女がこの大任を引き受けることにしたのは、ゆたかの遺言──私のためじゃなくて、みんなのために生きて──を、彼女なりに実現しようと思ったからだった。
 それゆえに、彼女はいつも真面目に仕事をしていた。
 それは、まもなく政権二年目に突入しようという今でも変わらない。

 コトン。

 机のうえに、お茶が差し出された。
 顔をあげると、そこにはあやのがいた。
「あやの先輩、すみません」
「岩崎ちゃん。ちょっと頑張りすぎじゃない?」
「そんなことは……」
「田村ちゃんやパティちゃんみたくなれとはいわないけど、適度に休まないと駄目よ」
 ひよりとパティは、今、仕事そっちのけでコミケの準備にいそしんでいた。
 まもなくお盆の時期。夏のコミケも近い。
「いえ、私は大丈夫ですから。ひよりとパティには、私から厳重注意いたします」
「今のところは公務に支障は出てないからいいと思うわ。度がすぎるようだったら、私がお仕置きしておくから」
 あやのはそういい残して立ち去っていった。

 みさおの弁では「あやのは怒らせると怖い」という。
 みなみは、怒ったあやのの姿を想像しようとしたが、できなかった。



3.日下部みさお
「う~」
 みさおは、防衛担当大臣室の机の上でダレていた。
 対北朝鮮自衛戦争では自衛隊員の士気をおおいに鼓舞した元気娘は、書類を前に頭を抱えていた。

「みさちゃん」
 柔らかく呼びかける声に顔をあげると、いつもどおりのあやのの姿があった。
「あやの~、助けてくれ~。難しいことはよくわかんねぇよ~」
「確かにこの問題はみさちゃんには荷が重いかもね。でも、これは政府全体の問題だから、みさちゃんだけに負担をかけるつもりはないわ」

 現在抱えている問題。それは、対北朝鮮自衛戦争で活躍したタンカー改装空母関係の問題だった。
 どうやら旧防衛省・自衛隊の上層部も預かり知らぬところで進められてきたらしく、タンカー改装空母整備計画の立案から、航空機搭乗員の訓練計画、改装資材備蓄の予算に至るまですべてが不明朗だった。文民統制の原則からして大問題である。
 問題の発覚当時は北朝鮮をめぐって緊張が高まっていた時期だったので真相究明は後回しにされたが、戦後一年近くかけて調査しても真相はさっぱり分からない状態だった。

「よし、あやのと黒井先生にまかせた。私は逃げるぜ」
「それは駄目」



4.黒井ななこ
「ぶぇっクション!」
 派手なクシャミが響き渡る。
「なんや、誰かうちの噂でもしとるんかな」
 ななこは、珍しく仕事を早めに切り上げて帰ってきて、シャワーに入ったところだった。

「今日は久しぶりにネトゲでもするか」
 今日はがっつりネトゲして、明日はチャットでもやろうと思った。
 こなたがいなくなってからいまいち張り合いがないが、それでも飽きたわけではないから。



5.小神あきら
「はーい、小神あきらがお送りします政府広報動画チャンネル。今回の配信では、医療制度改革について、今抱えてる問題点からふゆきちゃんの改革案まで詳しく解説しちゃうぞ。大事な問題だから、みんなしっかり聞いてね」

 あきらは、天職ともいえるその役目を今日も充分に果たしていた。



6.天原ふゆき
 とある墓地。
 日傘を差して歩く彼女は、まさしく良家のお嬢様といった雰囲気が全身からかもしだされていた。

 ふゆきは、今、対北朝鮮自衛戦争によって殉職した自衛隊員たちの墓を参るという短い旅の最中だった。本当ならもっと時間をかけたいのだが、公務もあるのでそうもいかない。
 殉職者32名。一般国民に全く犠牲を出さなかったことの代償としては許容範囲内であるのかもしれないが、命に軽重はない。
 彼女は、自分の命令によって死んでいった者たちに謝罪と感謝をささげるべく、忙しい公務の合間をぬって、全国をめぐっているのだった。

 墓の前に立ち、供物をささげて、静かに手をあわせる。

 短い墓参を終え、また次の地に向けて旅立つ。
 この旅が終われば、厚生労働総括大臣としての最大の仕事、崩壊寸前の医療制度を根本的に構築しなおす仕事が、彼女を待っている。



7.桜庭ひかる
 新星党本部。
 ひかるは、いささか不機嫌そうに禁煙パイポをくわえていた。
 ふゆきの茶が飲めないと、どうにも落ち着かない。

 コン、コン。

 ノックとともに、男が入室してきた。今では密かに桜庭機関と呼ばれている組織の部下だった。
「最重要捜索対象人物の現住所を特定しました」
 簡潔な報告に、ひかるの眉があがった。
 五年近くかけて追い続けてきた事件の真相が解明されるときがついに来たのだ。



8.八坂こう
 こうは、財務金融総括大臣室で頭を抱えていた。
 北朝鮮をめぐる国際緊張から発生したインフレを利用したアクロバティックな財政金融運営で、国債残高を10分の1にまで圧縮してみせた「ギャンブラー大臣」の腕をもってしても、目の前にある問題は難題だった。
 その難題とは、ふゆきが進めようとしている医療制度改革に必要な財源の確保である。
 既に特別会計改革を徹底的にやっており、国庫には「埋蔵金」などどこにも残っていない(捻出した埋蔵金はほぼすべてを戦費と国債償還にあててしまった)。
 このままでは、財源はまるごと国債でまかなうしかない状態だった。せっかく国債残高を圧縮したところであるから、それは避けたい。
 しかし、名案はさっぱり浮かばなかった。

「う~」

「なにしけたつらしてんだ、八坂?」
 こうが顔をあげると、そこにはひかるがいた。
「ひかるちゃ~ん、ふゆきちゃんに無茶しないでって言ってよぉ~」
「言って聞くようなやつじゃないぞ、ふゆきは。やると決めたら、どんな抵抗も淡々とスルーして、やりとげちまうやつだ」
 ふゆきは、対北朝鮮自衛戦争のときもそうだった。
 平和主義者の抗議の声も、右翼の徹底抗戦の声も、中国・韓国・ロシアの外交圧力も、さらにいえば、アメリカの意向すらも、淡々とスルーして目前の軍事的脅威の排除に努め、目的を達したらあっさりと幕引きしたのだった。
 今度の医療制度改革も、どんな利権団体が抵抗しようとも、淡々とやりとげてしまうだろう。
「財源ないよぉ~」
「個人的意見だが、この場合は国債発行もやむなしだと思うぞ。医療制度改革のためだといえば、反対するやつもおるまい」
「私は反対で~す」
「最終的には、岩崎の判断になるだろうけどな。まあ、それはいいとして、私の裏の仕事の方で進展があった」

 ガタン!

 こうは、思わず椅子を跳ねのけんばかりに立ち上がった。



9.成美ゆい
 人のまばらな海岸。
 ゆいは、真っ赤な夕日を眺めていた。
 今日は休みをもらって、一人で車を(交通法規を遵守しつつ)かっ飛ばしてきたのだった。
 この海岸は、海水浴場としては穴場で、夏真っ盛りでもあまり混雑しない。
 ゆたかやこなたをつれてきたことも何回かあった。

 ここに来たのは、ただなんとなくだった。
 過去でことで感傷にひたる趣味は、彼女にはない。
 彼女は常に能天気なお姉さんなのだ。
 そうであることがゆたかの望み。ゆいはそれをよく知っていたから。

「さてと、旅館でもさがそうかな」



10.柊家
 柊家の神社境内。
 目立たない場所に、その墓石はあった。神道方式の墓石だ。
 柊家一同がそろい、神道方式にのっとってお参りをする。
 かがみの命日には早いが、みんな忙しい身の上のため、この時期しかスケジュールに空きがなかったのだ。

 誰もが口には出さないが、やはりかがみがいないのは寂しいものだ。



11.高良家
 ゆかりがぐっすり寝ている横で、小さな女の子が絵本を読んでいた。

 この女の子は、みゆきが死んだあとに、ゆかりがもうけた子供だった。
 若い外見ゆえに看過されそうだったが、それは紛れもない高齢出産で、医者からも止められた。しかし、ゆかりは産むという意思を変えなかった。
 みゆきの代わりというつもりはないけれども、一人娘を失った喪失感は耐え難く、子供が欲しかったのだ。

 絵本は女の子を寝かしつけるためにゆかりが読んでやっていたものなのだが、ゆかりの方が先に寝てしまった。
 絵本を熱心に読んでいた女の子もやがてまぶたが落ち、眠りについていった。



12.泉家
 泉そうじろうは、パソコンに向かっていた。
 幸星党の発足から解体までを題材として、小説を執筆しているのだった。
 一人娘を失ってから長く失意のどん底にあった彼だが、今では何とか立ち直っていた。
 娘が生きていた証を何とか形にして残したいと思い、この小説を書くことにしたのだった。

「そう君、また徹夜? 少しは寝ないと駄目よ」
 そうじろうが振り向くと、そこには、かなたがいた。
「かなた、来てたのか」
「お盆にはまだ早いけど来ちゃった」
「こなたは来れないのか?」
「来れないわ。自分でいうのも変だけど、あの世とこの世を自由に行き来できるのは、善人だけの特権だから。そう君には、前にも言ったはずよ」
「分かってはいるんだけどな」



13.真相
 北海道、某地方都市。
 彼女は近所のスーパーで買い物を終え、自宅に戻ってきたところだった。
 玄関の前に、見覚えのある一人の女性が立っていた。

「桜庭先生……」
「よう、永森。久しぶりだな」
「お久しぶりです。とりあえず、中へ」

 テーブルに向かい合って、座る。
 差し出した茶に、ひかるは手をつけなかった。
 すっかり警戒されてるわねと、やまとは思った。

「まあ、いろいろ聞きたいことはあるんだが、順番に行くぞ」
「どうぞ」
「泉と柊と高良を殺したのは、おまえだな?」
「はい」
「泉と柊は茶に混ぜた毒で殺し、高良は射殺で間違いないか?」
「はい。泉総裁と柊幹事長はあっさりやれたんですけど、高良先輩は毒の存在に気づいたようでして。拳銃を抜くのがあと0.5秒遅かったら、射殺されてたのは私だったでしょうね。毒は無味無臭だったはずなんですが、なぜ気づいたのか。いまだに分かりません」
「高良は博学だからな。茶の色の違いかなんかで気づいたんじゃないか」
「そうかもしれません」
「当時、幸星党本部で銃声を聞いたという証言は一つもないんだが、どういうことだ?」
「工作員のたしなみとして、拳銃は消音装置付きです」
「ふむ。で、三人の殺害は誰の命令だったんだ?」
「小早川元総裁です。私の手元に封緘命令書が届きました。幸星党総裁を辞任なされる前に下された命令である以上、総裁命令として有効と判断しました」
 やまとがひかるに封書を手渡した。便箋を開き、中身を読む。
 命令は簡潔そのもの。

 クーデター計画が発動されそうになったときに、泉こなた、柊かがみ、高良みゆきを殺害すること。
 殺害したあと、永森機関は解散し、構成員は全国各地に散って、身分を偽装して一般人として暮らすこと。

 その二つが命じられていた。
「あいつらクーデターなんか企んでたのか?」
「はい。それも魔王計画──オタク文化帝国主義による世界征服計画──の一環でしかなかったんですが」
「世界征服って、あいつら正気か?」
「当人たちは本気でした。少なくても、中国幸星党とロシア幸星党による革命を起こして幸星党本部の傘下におさめるあたりまでは、詳細な計画ができあがってましたし」
「まるで、旧ソ連だな。そんな帝国など長持ちしないことぐらい、歴史を振り返れば明らかだろうに」
「別に長持ちさせる必要などありませんから。泉総裁の泉総裁による泉総裁のための帝国。泉総裁が生きてる間だけもてばいい。少なくても、柊幹事長と高良先輩はそう考えていたみたいですね」
「この世界は玩具じゃないんだぞ」
「泉総裁は、本気でそう思っていたみたいですが」
「呆れるな。まあ、それはいいとして、その魔王計画とやらは、小早川にはバレてたわけだ」
「計画書のファイルは隠しファイルでパスワードロックもかかっていたはずなんですが、小早川元総裁はコンピュータも結構お得意だったそうですから、パスワードを破って閲覧したのかもしれません」
「おまえの偽死体。あれは誰のだ?」
 永森やまとの死体と見られていたものは、DNA鑑定の結果全くの別人だと判明していた。
 しかし、厳重な緘口令がしかれ、この事実を知っているのは、警察内部でも極少数の者だけだ。
「部下が適当に見繕ってきたものなので、私は知りません。体格が似ている者の顔を整形して作成しました」
「別人だと判明した直後に、警察内部に怪情報が飛びかって混乱しまくった。これは、おまえらの仕業だな?」
「はい。DNA鑑定でバレるのは時間の問題でしたから、さらに時間をかせぐ必要があると判断しました」
「逃走経路は、総裁室の隠し扉、東京の地下下水道につながる通路で間違いないか?」
 この隠し扉の存在についても、厳重な緘口令がしかれている。
「はい。もともとは泉総裁の命令で作った通路です。本人としてはネタのつもりだったのでしょうが、皮肉なものですね」
「そこまでしておまえの死亡を偽装したのはなぜだ?」
「他の構成員はともかく、私は表に出てる存在でした。小早川元総裁の命令、身分を偽装して一般人として暮らすことを実現するには、自分の存在を一度抹消する必要がありました」
「そういうことか。まあ、確かに命令を完遂するならそうするしかなかったのも事実だな。あと、話は変わるが、今問題になってるタンカー改装空母の件は何か知ってるか?」
「あれは、政府の正規ルートを通してません。第一次泉内閣当時、柊幹事長から防衛省内の協力者へ直接指示がいってます。当時は、空母を整備するとなると外交問題にも発展しかねなかったので、秘密裏に処理したといったところですね」
「予算はどこから出した?」
「一部は内閣官房機密費からまわしてますが、ほとんどは幸星党の裏金からです」
「裏金か。どうやって稼いだ金かは聞かないでおこう。この空母整備計画は、北朝鮮対抗が目的だったのか?」
「はい。世界征服計画といってもだいぶ先の話でしたから、それまでの間、現実的な脅威への具体的な対策が必要だとの判断だったようです」
「経緯はどうあれ、役にはたったからな。その点は柊に感謝すべきなんだろうな」

「私からも質問してよろしいですか?」
「いいぞ」
「どうやって私の居場所を特定しんたんですか?」
「住民基本台帳ネットワーク。あれのデータを片っ端から洗い出した。1億2000万人分全部、不審な経歴や痕跡がないか徹底的にな。この日本じゃ、身分を完全に偽装するには、戸籍と住民票の偽造が欠かせないからな」
「それをやられては、逃げようがありませんね」

「永森機関の元構成員はすべて警察の監視下にある。そして、おまえは、桜庭機関の直接監視下におかれる。余計なことはするなよ」
「我々は既に解散してます。再結成を命じられるのは幸星党総裁のみですから、もう不可能ですよ。でもいいんですか? 我々には処罰されるに足るだけの罪状がいくらでもありますが」
「おまえらの存在は歴史の暗部だ。表沙汰にするわけにはいかん。模倣犯が現れたら、今の日本のシステムじゃ防ぎきれんからな。それに、新星党初代総裁の小早川までかかわっていたとなれば、なおさらだ。新星党をスキャンダルに巻き込むわけにはいかん」
「それは理解できますが、あなたの立場なら、表沙汰にせずに始末することも可能でしょうに」
「無理だな。桜庭機関は総裁命令で、正当防衛・緊急避難以外の殺傷行為を禁じられてる」
「それは厳しいですね」
「そうだな。でも、そのおかげで、おまえらのようになることは避けられる」
「なるほど。賢明なご判断ですね」

「私の話はこんぐらいだ。邪魔したな」
 ひかるは世間話でもしたあとのようにあっさりと、立ち去っていった。

 そして、入れ替わるように入ってきた人物を見て、やまとはしばらく声も出なかった。



14.再会
「久しぶりだな、やまと」
「こう……」

 目の前にいるのは、まぎれもなく、親友の八坂こうだった。
 あの日以来、もう二度と会うことはないだろうと思っていたのに……。

 そのあとの光景は、どこの青春ドラマだとでもいいたくなるようなものだった。
 いきなりの殴り合いのあと、腹がよじれるほど馬鹿笑いして、そして、堰を切ったように号泣した。
 二人とも、張り詰めていた何かがプツンと切れてしまったかのような、そんな感じだった。

 そのあと二人は一晩中語り明かして、そして翌朝早くに別れた。
 二人が何を語り合ったのか、それを詮索するのは野暮というものだろう。



15.あの世
 こなた、かがみ、みゆき、ゆたかは、遅々として進まぬ長蛇の列に並んでいた。
 この列は、地獄の閻魔様の裁判を受ける罪人たちの列で、ただいまの待ち時間は平均500年。ちなみに、善人は即決裁判で天国行きになるので、このように待たされることはない。
 待ち時間が500年ではさすがに暇をもてあますので、娯楽はそれなりに整えられていた。
 現世から複製した本やゲーム機、ゲームソフトがふんだんに取り揃えられてたし、現世のネットに接続してネットサーフィン等を楽しむこともできる。
 ネトゲプレイヤーや2ちゃんねらー、チャットの住人に、あの世の者が少なからず存在する事実を知ったら、現世の人々はおおいに驚くに違いない。

 かがみとみゆきは、読書。ゆたかは、ネット。こなたは、ゲーム。
 それぞれ暇つぶしにいそしんでいる。

「あー、コミケ行きたーい」
 こなたが、唐突にそう叫んだ。
「同人誌だって、複製で取り寄せられるんだから、わざわざ行く必要なんてないでしょ」
 かがみがすかさず突っ込む。
「分かってないなぁ、かがみ。あの人ごみをかきわけて、同人誌をゲットする過程が大事なんだよ」
「さいですか」
「お母さんはいいよねー。自由にあっちに行けてさ」
「私らみたいな罪人は、そんな贅沢いえる身分じゃないわな」
「罪と一言でいっても、軽重はありますけどね」
 フォローのつもりなのか、みゆきがそう発言した。
「確かに、ゆたかちゃんは情状酌量で天国にいってもいいぐらいよね」
「漏れ聞くところによると、実際そういう事例はあるそうですよ。私たちの裁判のときには、小早川さんに有利な証言をいたしますね」
「かがみ先輩、高良先輩、そんなに気をつかっていただかなくてもいいですよ。罪は罪ですから」
 ゆたかが、チャットの手を休めて、そういった。
 再び、チャット画面に視線を戻して、
「あっ。お姉ちゃん」
「なんだい、ゆーちゃん?」
「黒井先生が入ってきたよ」
「おっ、久しぶりだね。最近は忙しかったのかな?」
 ゆたかがパソコンをこなたに譲る。
「正体バレるようなことすんなよ」
「分かってるよ、かがみん」
 こなたは、神速のキー捌きでチャットをこなしていく。
「なんか、黒井先生、最近愚痴ばっかだよね」
「お姉ちゃんたちがいなくなって、寂しいんだよ、きっと」

 あの世の緩やかな時間はまったりとすぎていく。



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  • 頭が痛い・・・結局アンチかよ。 -- 名無しさん (2012-03-18 23:56:04)
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