ID:D6u2sDE0氏:ダメな子

そういうわけで、バトンをいただきました。
これから投下される作品は、先ほどとは逆に、『青鈍空』の作者が『ダメな子ってなんですか?』を我流にアレンジしたものです。

ええ、アレンジ元の『ダメな子ってなんですか?』という作品ですが、
やはり第十一回のコンクール、お題が私ということもあり、私視点の作品となっています。
ですが、作風チェンジを明確にするために、あえてそれを変えてみたとのことです。
どうなるのでしょうね。

それでは、木の根の下にうずめられたかがみさんにそっと祈りを捧げつつ、
「ダメな子ってなんですか?」アレンジ作品:「ダメな子」をお楽しみください。





午後も六時を回り、夕暮れ時の日差しが、くすんだ白色の廊下を少し幻想的な橙色で飾る校舎。
その三階の廊下を、整然とした歩調で歩く一人の少女がいる。
ゆるやかなウェーブのかかった桃色の髪に、レンズの綺麗に磨かれた黒縁の眼鏡。
高良みゆきだ。

彼女は今、月一回開かれる定例の委員会を終え、クラスの教室に戻っているところだ。
というのも、彼女はここ陵桜学園高等部の3年B組で、委員長を務めているのだ。
容姿端麗・成績優秀・温厚篤実と、完璧超人の条件をきちんと備える彼女だから、
委員長に立候補してクラスの誰もが賛同したのも当然だろう。
彼女の腕には、委員会で使われた資料を丁寧にまとめた、薄いピンク色のクリアファイルが、
まるで赤ん坊を扱うかのような丁重さで抱えられている。

彼女は自分の教室の扉の前に着く。
戸締りの行き届いていることから察するに、クラスメイトは皆ほとんど帰ってしまったようだ。
一息つき、彼女は扉を開けようと窪みに手をかけた。

と、誰かの声が聞こえた。
教室の中からのようだ。

みゆきは扉を開ける手を止め、隙間から中の様子を覗いてみた。
すると三人の少女が見えた。
みゆきはその顔を見て、すぐさま誰かを判別できた。
泉こなた・柊つかさ・柊かがみ。
三人ともよく見知った友人だ。

泉こなたと柊つかさはクラスメート。
柊かがみは隣のクラス・C組で委員長をやっている。
四人の性格にはかなりの差異があるが、相性は不思議と良く、
昼休みには毎日四人で机を囲って弁当を食べるほどの仲良しグループである。

しかしその様子が、何だか普段とは違う。
皆がばらばらの位置に、ばらばらの格好でいるのだ。
泉こなたは黒板に寄りかかり、その何も書かれていない板面をぼんやり見つめている。
柊つかさは自分の席に座り、机に肘をつきながら何かをぶつぶつ呟いている。
そして柊かがみは、そんな様子にはまったく無関心なように、窓から上半身を乗り出して外を眺めている。

みゆきは不可思議な顔を浮かべつつ、扉をガラリと開く。
三人が一斉にみゆきに注目する。そのタイミングがあまりにぴったり揃っていてみゆきは思わずたじろいだ。

「あ、みゆきさん」

先に声をかけたのは泉こなただった。

「あ、えっと……」

みゆきが反応に窮する。
と、今度は柊つかさが歩み寄ってきた。

「ねえ、一緒に帰ろ? ゆきちゃん」

つかさはそうみゆきに願い出る。みゆきは困惑した表情を浮かべる。

「邪魔つかさ」

泉こなたが、黒板に寄りかかったまま声を荒げ、棘を刺す。
つかさはぴくりとも反応せず、みゆきの顔を見つめる。

「はあ……」

その様子を横目で傍観していた柊かがみは、若干わざとらしく溜息をつき、再び窓の外に向き直る。
みゆきはなお困惑する。

一時の沈黙が教室を流れる。
やがて痺れを切らしたのか、こなたが黒板を離れ、自分の席へ歩いた。
つかさとかがみがそれを尖った視線で観察する。

机の掛け具から鞄をむしり取ったこなたは、ドスドスと床を蹴りながら歩き、
みゆきの前に立つつかさに肩をぶつけ、そのまま無言で退場していった。
誰かが舌打ちする音が聞こえた。

再び沈黙が流れる。

しばらくして、今度はつかさが席に戻り、静かに鞄を取った。
そしてみゆきの横を通り過ぎると、さよなら、と小さく挨拶し、そそくさと退場した。

それに続いてかがみも、窓枠に寄りかけていた体を起こし、じゃあねと挨拶して足早に帰っていった。

取り残されたみゆきは、しばらく呆然としてその場に佇んでいた。





七時半。太陽はすっかり沈み、月が街を照らしている。
自宅に帰り着いたみゆきは、ただいまの挨拶もせず、リビングの椅子に深く腰をかける。
テーブルには小さなマグカップ。
純白のカップからは、澄んだ深紅色のホットティーが淡く湯気を立てている。

「はあ……」

ティーを一口飲み、溜息をつく。

どうにか、仲直りはできないものか。
みゆきは案じる。

一番いいのは、自分が何か手を加えたりすることなしに、自然とこじれが解消される場合。
策を立てて実行する自信が無いというのもあるが、力技で不自然に人間関係の形を歪めるというのが嫌だからだ。

細工をしないというのであれば、正面きって思いの丈をぶつけるという手もあるかもしれない。
しかしこれを即座に使うことは憚られる気がする。

いい案が浮かばない。
すると、玄関のチャイムが鳴った。
母・高良ゆかりが出先から帰って来たらしい。

「おかえりなさい」
「ただいま。ちょっと遅くなっちゃった」

苦笑いしてそう弁解するゆかりの手には、褐色の紙袋が提げられている。

「料理作るちょっと時間ないわね~。出前でもいいでしょ?」

ゆかりが言う。みゆきはまたか、というような、少し呆れた顔をする。
夕飯が出前で済まされるのは、この家庭ではいつものことだ。

「何がいい?」
「私は何でもいいですが」
「それじゃお寿司にしない? お昼にテレビ見てたんだけどね、すっごくおいしそうでね~」

そう言うやいなやゆかりは、テーブルのすぐ傍にある電話の受話器を持ちダイヤルを押す。
みゆきはやや間延びした顔をした。
ゆかりののんびりした調子に、今まで張りつめていた心がいくらか解放されたのだろう。

完璧超人の母親がこんな風であることを、みゆきの友人はそろって不思議がる。
みゆき自身は自然にそれを受け止めてはいるが、
例えば洗濯を忘れて、びしょ濡れのままの制服を着せられたときや、
掃除を長期間怠って、ゴミ場にGのつく虫を群れさせたときは、
流石に疑問がわいた。

出前の注文を済ませたゆかりは、みゆきの向かいに座り、例の紙袋から中身を取り出し、
出てきた箱のふたを開けた。中には十枚ほどの煎餅が入っていた。

ゆかりは徐にその袋を破り、食べ始める。

「あの、夕飯前だと思いますが……」
「え~、いいじゃない。だって食べたいんだもん」

みゆきの指摘にも構わず、平然と煎餅をほおばり続けるゆかり。
みゆきはまたも呆れた顔になった。溜息を一つつく。

少しの間をおいて、みゆきが口を開いた。

「あの、お母さん」
「ん? どうしたの」

実は、と言ってみゆきが今日の出来事を話し始める。
ゆかりはあらあら、と呑気に相槌を打ちながら話を聞く。
傍目に見たら、本当に同情しているのか、あるいは単なる機械的な動作なのかわからない。

「……それで、どうすればいいかと悩んでいたのですが」

みゆきはゆかりの顔をじっと見る。
ゆかりは構わず、のんびりした調子で答える。

「そうねえ、困ったわねえ」
「はい」
「あのねえ、子はナントカ、ってあるじゃない。夫婦円満の秘訣がどうたらっていうの」

みゆきは首を傾げる。

「『子はかすがい』ですか?」
「それそれ。あれなんでだと思う?」

「どうして子どもがいると夫婦円満につながるのか」という質問。
なぜ今、そんなことを問うのだろうか?
みゆきはまた首を傾げる。

「そうですね……かわいいからでしょうか?」
「う~ん、まあそれもあるかしらねえ。あのね、子どもってとっても手がかかるじゃない」
「? はい」

みゆきはまたも首を傾げる。
こんなに頻繁に首を曲げる動作を強要されたら、いつか首の骨が折れるかもしれない。

「だからほら、夫婦喧嘩なんてやってる暇ないのよ」
「はい……ああ、だから夫婦円満というわけですか」
「そうそう」

ゆかりが微笑む。
彼女の言う論理を、みゆきはそれとなく把握する。
時々こんな真面目なことを説くのも母だ。

「あの、それはどう関係があるのでしょうか?」
「え? えっと、何だっけ~」

ゆかりはまたのんびりした調子で、猫のようにした手を口に当て、物を思い出そうとする。
まったく、私説を語るはいいが、締まりきらない。
みゆきはまた呆れたが、ふと、母の言わんとしていたことを理解する。

そう、あの三人が喧嘩をしている暇もないほど、何か手を煩わせることをすればいいのだ。
子はかすがいの例に照らし合わせるならば、自分は「子」で、あの三人が夫婦というわけだ。

「あ、そうそう思いだした」

ゆかりが突然口を開く。

「あのね、つまり、みゆきがダメな子になればいいのよ」

再度の再度、みゆきは首を傾げる。そろそろ首を通る脊髄が縮れているかもしれない。

「ダメな子、ですか?」
「うん」

みゆきは考える。
なるほど確かに、自分が“ダメな子”になり、周りからフォローが必要になるように振る舞えば、
上手い具合に三人が喧嘩している暇を無くすことができるかもしれない。
しかし具体的に、“ダメな子”というのはどういう性格のことを言うのか。
“ダメな子”とは何か。
どう振る舞えば、三人の仲をより戻すことができるのか。

そのとき、ピンポン、とインターホンが鳴った。
寿司が届いたようだ。

「あ、来たわね。は~い行きま~す」

ゆかりが席を立ち玄関へと向かう。
テーブルに置かれたかじりかけの煎餅を見つめながら、みゆきは“ダメな子”になる方法をじっと考えていた。
やがて何か思いついたのか、よしと納得すると、まだ残っていた紅茶を一気に飲み干した。





翌日。「ダメな子作戦」スタートだ。
みゆきは始業時刻ギリギリで、急いだ様子で教室に入ってきた。
こなたとつかさが同時に注目するが、お互い同じ所を見ていると気づくや否や、それぞれ視線を逸らした。
みゆきが慌てて席に着く。

「おはよう。ゆきちゃんけっこう珍しいよね? こんなぎりぎりに来るの」

つかさが不思議そうな顔でみゆきに話しかける。

「はい、ちょっと」
「夜更かしでもしたの?」

みゆきはうーん、と考える仕草の後、答えた。

「はい、深夜の3時くらいまで……」
「えっ!?」

つかさが口を大きく開けて驚く。
同時に、その後ろで机に突っ伏していたこなたの腕が、ぴくんと動いた。
実のところこの言葉は嘘で、みゆきは夜11時には床に就いていた。
「ダメな子作戦その1」というべきか。

「なんでそんな遅くまで?」

つかさが不安そうな表情で聞く。
みゆきはまたも間をおいて答える。

「少し夢中で考え事をしていたら……」
「考え事?」
「はい」

みゆきは即答する。
つかさはどことなく落ち着かなさそうに、おろおろする。
その後ろでこなたの腕がまたぴくりと震えた。

そのときちょうど、担任の教師が扉を開け教室に入ってきたところで、
つかさはまた後でと、自分の席に戻った。
その様子からするとまだ落ち着いていないらしい。
こなたは突っ伏していた顔をむくりと上げると、何かいたたまれないように眉間に皺を寄せていた。

みゆきはそれを横目に確認する。
どうやら作戦1は成功のようだ。
ふと一息つき、さらに作戦を続けた。



一限の授業中。

「高良? おーい、もしかして寝とるんか?」

教師が声をかける。
みゆきはシャープペンシルを左手に持ったまま、ぐったり項垂れている。

ぼそぼそ、と教室中にざわめきが広がっていく。
真面目で優等生の委員長が居眠りをしていれば、クラスメートが騒ぐのも無理はないだろう。

もちろん、みゆきは本当に寝ているのではなく、寝たふりをしているだけだ。
「ダメな子作戦その2」。
今朝時刻すれすれで教室に入ってきたのも相まって、
つかさとこなたはみゆきが本当に寝ていると錯覚し、目を丸めていた。

「だいじょーぶか? おーい高良。どないしたんや」

教師は再び声をかけ、みゆきの席に歩み寄る。
みゆきは顔を俯かせたまま、返事をせず、気付かないふりをする。

「あー黒井センセ、そーいやみゆきさん夜遅くまで起きてたって言ってましたけど」

こなたが口を開く。
つかさは一瞬怪訝な顔をこなたに向けかけるが、すぐにみゆきの方に視線を戻した。

「あの、保健室に連れて行きます」

つかさがそう口火を切る。みゆきの頭がぴくんと動く。

「ん? ああ、そうやな。よろしく頼むわ」

教師が承諾する。
みゆきは不意ながら、心配するつかさに手を取られ、一階の保健室まで送られた。
予想以上のフォローを受けてしまったが、まあ良いだろう。
授業終了のチャイムが鳴るまで、みゆきは保健室のベッドの上で、次なる策を整理していた。



休み時間。
養護教諭に礼を済ませたみゆきは、保健室を出、隣のクラスへかがみと話しに行った。

「あ、かがみさんすみません」
「あ、みゆき。どうしたのよ?」

かがみが少し驚くように返事をする。
普段、こうしてかがみの元に話しに来るのはこなたくらいのものだから、みゆきが来るのは珍しいのだ。
みゆきが言う。

「実は、お恥ずかしいのですが、英語の教科書を自宅に置いてきてしまって……」
「ええっ? ずいぶん珍しいわね」
「はい、申し訳ないのですが……」
「まあ、貸してあげるけどさ」

かがみは英語の教科書を手渡す。
実際は、みゆきは教科書を忘れたのではなく、あえて持ってきていないだけだ。
「ダメな子作戦その3」。
すみません、とその教科書を受け取ると、みゆきはさらに続けた。

「あの、重ねて申し訳ないのですが、宿題を写させてもらっても……」
「ええっ!? 宿題まで!?」
「はい」
「……はあ、それじゃあ、はい」

かがみは呆気にとられながら宿題の解いてあるノートを手渡す。
今まで提出物の類はきちんと仕上げていたみゆきが突然これとは、驚きも相当なものだろう。
みゆきはありがとうございます、と丁寧に一礼してノートを受け取り、さらに踏み切る。

「……あと、もう一つ、黒井先生の授業ノートを後ほど貸していただいても……」
「……ホント大丈夫? なんか風邪でも引いた?」
「あ、いえ、そういうわけでは……」
「んー……まあ、わかったけど」

みゆきはまたありがとうございます、と謝辞を述べると、自分の教室へ戻っていった。
かがみは呆然とした表情で、教室の窓ガラス越しに廊下を歩くみゆきを目で追っていた。



昼休み。

「今日相当眠そうだねえ?」

授業の終了と同時に、こなたがみゆきに話しかける。

「あ、いえ……」
「ホント、今日だいじょーぶ?」
「あ、はい、ちょっとダメな感じなだけで……」

こなたの問いに、みゆきは髪を撫でながら答える。
こなたはやや不安を帯びた表情だ。

「んー……あれ、みゆきさんお弁当は?」
「それが、忘れてしまいまして」
「えっ?」

こなたは素っ頓狂な声を出す。
当然、弁当を持参していないのも作戦のうちだ。
「ダメな子作戦その4」。
こなたは取り直して言う。

「んまあいいや、そんなら学食でも行こーよ?」
「ええ、そうしたいところですが……お金持ってきてないんです」
「ええ!?」

こなたはさらに驚く。同時に若干眉が歪む。

「いやー……そんなら、奢るよ」
「申し訳ないです。それではお言葉に甘えさせていただきますね」

みゆきは語調を崩さず言いきる。
こなたは険しい表情で、何かを考えるように、目の前の虚空を睨んでいた。



「ふう」

放課後、一通りの作戦を終えたみゆきは、深く溜息をつき、一人自分の席に座った。
指を弄び、考える。

上手くいっただろうか。
三人のまごついた挙動を見る限り、おそらく自分の異変に気付かせることは成功しただろう。
自分が“ダメな子”になる、という目的は達成されたわけだ。

しかし、それが三人の仲直りにつながるのか。
よく考えてみれば、自分が皆に世話を焼かせるように振る舞ったとしても、三人が協力して助けようと考える保証はない。
自分の異変に気がついたところで、多分あの子はたまたま調子が悪いだけで、すぐ元に戻るだろう、
と楽観視して終わりという可能性だってあり得る。
それでは何の成果もないばかりか、自分は演技によって友人を騙した上、迷惑をかけただけの悪人だ。

「みゆきさん、ちょっといいかな?」

声がかかり、みゆきは神妙にしていた顔を上げる。
目の前に立っていたのはこなただった。
その後ろで、つかさとかがみも、こちらを向いて立っていた。

みゆきはその様子を見て、あることに気がついた。
皆、どこか表情が冴えない。ばつが悪いという感じだ。
さらに、昨日まで三人の間に立ちこめていた険悪な雰囲気が、全く感じられない。

「……ごめん」

こなたが静かに切り出す。
みゆきは眉を顰めた。
こなたの言葉の意味を測りかねたからだ。
どういう意味なのだろう?
みゆきが返事に迷っていると、つかさとかがみも続けて口を開いた。

「ごめん」
「ゆきちゃんごめん」

みゆきはますます困惑する。
なぜ、今自分は謝られているのだろうか?
謝るとしたら、迷惑をかけて回った自分の方ではないか。

「やっぱあの、すっごく気にしてたんだよね?」

こなたが言う。みゆきが首を傾げると、かがみが言い直すように続けた。

「ほらさ、私達さ、昨日すごく喧嘩してたじゃない。それで今日あんな不調だったんじゃないかなって。
 昨日すごく遅くまで考え事してたんでしょ?」

みゆきはようやく、顰めていた眉を開いた。
なるほど。
自分は今日、三人の手を煩わせようとして、“ダメな子”を演じた。
それがどうも、三人には、昨日の喧嘩を心配し過ぎた結果ダメになってしまった、というふうに捉えられたらしい。

予想外の結果だ。いや、予想以上だ。
友人の異常を放っておけないあまり、三人は嫌悪の感情を踏みつぶして、意気投合したのだ。
なんと深くつながり合った仲なのだろう。
考えていた成り行きとは少し違ったが、まあ結果オーライだ。

「ごめん、ホントに」

つかさがまた謝る。
いえ、と言いかけて、みゆきは改めて三人の顔を見る。
三人とも、いたたまれなさそうに、視線を落としている。
まるで悪さをして、教師の前で立たされている児童みたいだ。
なんだか可笑しくなった。

「……いえ。仲直りされたのなら、私は何も」

みゆきは安堵を含めた笑顔で、そう言った。





四人一緒の帰り道、流石に三人に罪を着せすぎたと反省したみゆきは、
今日の自分の振る舞いの真相を明らかにした。
三人の反応は様々で、つかさは安堵し、かがみは呆れつつ苦笑い、そしてこなたは笑い通していた。
誰も自分を咎めなかったことが、みゆきには意外だった。

みゆきは一つ疑問を残していた。

今日自分は、演技をし、三人の心を痛ませることで、仲を取り戻させた。
しかし本来は、そんな良心の呵責に助けられずとも、ただ自分が“ダメな子”になり皆に気苦労をかけることで、
自然に仲直りさせるはずだったのだ。
つまり自分の演技は“ダメな子”としては不十分だった。
では結局、“ダメな子”とは何だったのだろうか?




四人それぞれ家路に分かれ日も沈んだ頃、一人家に到着したみゆきは、ただいまの挨拶をしてリビングへ上がった。
マグカップに並々ホットティーを注ぎ、テーブルの椅子に腰を掛けると間もなく、聞きなれた声がした。

「あらおかえりなさい、みゆき。あのね、今日も出前で、よかったりするかしら?」

みゆきはもはや呆れることもできず、平坦にはいと答える。

「あ、そういえば、あの子たち、元通りになった?」
「あ、はい、なんとか」
「それじゃ今日はお寿司にしましょっか、おめでたいしねー」

昨日も食べた、という突っ込みを無用だと感じたみゆきは、何も言わずにティーを一口すする。
そのとき、ふと、あることに気が付いた。

ああ、なるほど。
みゆきは納得し、頭の中で手を合わせた。
そう、件の疑問の答えは。

みゆきは、まだカップに十分な嵩を残した、深紅色の紅茶をじっと見る。
その揺らめく水面には、夕飯前だというのに残り物の煎餅をおいしそうに頬張っている、
知る限り一番の“ダメな子”の姿が映っていた。


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  • 上手いですね。 -- 名無しさん (2012-12-20 19:35:31)
  • おもしろかった  -- CHESS D7 (2009-08-16 18:30:29)
  • 二つの作品。
    みゆきの作品を作るうえでかなり勉強になった。
    元作品のアレンジだけあってすっきりした
    表現になってる。GJでした。
    -- 名無しさん (2009-08-16 17:41:03)
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