ID:q8Na3rMo氏:連呼危険

 連呼危険

 今日も今日とて一人で入浴、今夜はゆたかちゃんが失敗して入りに来ることもなかった。

 がら

「……え?」
「オヨヨ!!」
 やっぱりゆたかちゃんが来たかと思ったが、そこにいたのは身をすくめた全裸のつかさだった。
 慌てて出て行き、擦りガラス越しに謝罪してきた。
「ご、ごめんなさい。そうだよね、白石君『も』みんなの後だよね、男の子なんだし」
 電気ついてるのに深く考えず入ってきたのは女だらけの状態が長かったせいだろうか。
 とにかく、つかさもゆたかちゃんみたいに突発的に風呂入らざるを得ない状態になったのだろう。
 というわけで手早く体を拭いて上がると、つかさは脱衣所でバスタオル巻いて待機していた。
 そのあられもない格好ゆえ仕方のないことだが、彼女は怯えるように俺と距離を取り、入れ違いにそそくさと入る。
 少し開けた扉からバスタオルを置きながら扉越しに話しかけてきた。
「えっと……見た?」
「ごめん、チラっと」
『も』という接続詞から、つかさは女装してる男なのかとも考えてしまったが、見えてしまった体はどう見ても女体です本当にありがとうございましたって誰に何で礼を言ってるかね俺は。
 そりゃたしかに有難いものを拝ませてもらったわけだけどいやいやそういう問題じゃなくて。
「ギョッとしたよね、あの傷あと」
「えっ」
「えっ」
「なにか傷があるの?」
「見たんじゃないの?」
「いや、その、体、チラッと」
「えっ」
「えっ」
 気まずい沈黙に耐えられず、強引に会話を打ち切り自室に戻った。

「……眠れん」
 あれから数時間経ったが、ただでさえ女だらけのこの環境であんなの見せられては辛抱たまらん。目に焼きついて離れない。
 つかさには悪いのだが、処理させてもらうべくティッシュに手を伸ばした。
 そのときノックが聞こえ、慌てて手を引っ込める。
「白石君、起きてる?」
「その声……柊さん?」
「うん、入っていい?」
「なっ!? ちょ、ちょっと待て!」
 夜中に男の部屋に入るなんて何考えてるんだ?
 だが。
「やっぱり駄目? そうだよね、ごめん」
「いや、構わない。ど、どど、どうぞ」
 こんな状態の俺が女の子を招き入れたら大変なことになりそうだが、つかさの声には拒んだらそれはそれでどうにかなってしまいそうな危うさを感じた。
 神妙な顔で入ってきた彼女はパジャマ姿で、これまたシャンプーの香りがして俺を惑わせる。
 いったい何を考えてるんだと動転していたら、後ろ手にドアを閉めたつかさは俺に背を向け……脱ぎだした。
「わ? な、ちょっと」
 慌てて目を背ける。
 やっぱりつかさは男性恐怖症で、乗り越えるための荒療治のつもりなんだろうか。はたまた、過去に色々ありすぎて自分に価値を見出せなくなり自暴自棄になってる?
「いいの、見て」
 やはり危うさに満ちた声だった。
 仕方なくゆっくり振り向くと、つかさは上半身があらわになり、胸を右手で押さえていた。
 俺やゆたかちゃんのように傷や火傷などの痕があるのかと考えてしまったが、今も風呂でチラリと見てしまったときも腹などにそういったものは一切見受けられず、ただひたすらに綺麗だった。
 今抑えている胸に傷があるのか、それをこれから見せようとしてるのかとも考えてしまったが、抑えた右手はそのまま、左手をゆっくりと上に伸ばしてゆく。
 その際、かすかに顔をしかめた。一呼吸置き、更に上に伸ばしていく。
 扇情的なポーズのつもりなのだろうか。
 ポーズ自体にはさほどそそられなかったが、そんなことしなくても俺には十分に刺激的な姿だった。
 さりとて襲い掛かるわけにもいかず、円周率やら素数やらを数えて気を逸らしていたら、つかさはおずおずと口を開いた。
「えっと……白石君、大丈夫?」
「大丈夫って、何が」
 不能と思われてるか?
「その……臭くない? 鉛筆の芯とか鉄サビとかパルサミコ酢とか野良犬とか玉ねぎみたいなニオイがしたり、目にしみたりしない?」
「へ? な、なんだそりゃ? そんなの全然ないけど」
「本当? 本当に本当? 信じていい?」
 迫ってきた。胸を押さえてでできた谷間やら可愛い顔やらで視界が埋め尽くされる。
「う、嘘ついてどうすんだよ、シャンプーのいい香りしかしないって」
 やばいやばいやばい、マジでどうにかなりそうだ。
「……本当、信じて大丈夫みたい」
「え?」
 つかさは顔を赤らめ下を見ていた。
 視線の先には……。
 慌てて飛びのき座り込む。体は正直に反応していた。
「あはは、本当に臭かったらHな気持ちなんか吹っ飛んでTINTINしぼんじゃうよね」
 物凄い単語が飛び出した。
「なっ!? ちょ、ちん……あれ? 臭いって?」
「私ね……ワキガだったんだ。お風呂でどんなに念入りに洗って毛の処理してデオドラント吹き付けてもすぐ臭っちゃうくらい重症だったの」
 一呼吸置いてまた腕をあげ、腋を見せ付けられる。
 そこにはひきつれたような傷が縦横に走っていた。
 腕を上げる際に顔をしかめたのはこのせいらしい。
 それとなく鼻をひくつかせてみたが、不快な臭いなど一切なく、ただ俺の理性を破壊しそうないい香りしかしなかった。
「そ、それって、ひどいのだと手術が必要とは聞いたけど、そんな傷残るものなのか? その医者、ヤブじゃないのか?」
「違う違う、ヤブじゃなくてヤミなんだよね」
 つかさが着衣を直しながら語った内容によると……。

 彼女は手術を望んだがそれは叶わなかった。
 裕福な家庭ではないが、保険がおりる(みさおの親と違いきちんと納めてはいたようだ)から費用はさほど問題にならないはずだった。だが親は手術を許可してくれなかったという。
 自分を体臭で疎んじる世の中に激しい敵意を持ち続け、そんな人間同士で傷を舐めあっていたのが両親であり、ワキガはその遺伝だった。
 だから、敵と見なした一般人の快適な生活のため体にメスを入れるという行為が許せなかったという。
「でも、私のニオイで苦しむ人はそんな家庭の事情なんて関係ないし、親の許可がなきゃお医者さんだって手術するわけにも行かなかったし」
 そんなわけでネットで探し出したヤミ医者になけなしの貯金全額はたいて依頼したという。
 だが、設備や技術に問題あったため酷い傷が残ってしまったらしい。
「これで親が反省して私や皆の気持ちに真剣に向き合って、皆と仲良くやっていこうと考えてくれればよかったんだけど、ダメだった。ますます意固地になって、私の顔見るのも嫌って言い出したの」
「そんな無茶苦茶な方法で自分らの生き方を否定されたら、もう家族としてやっていけなかったのかな」
「うーん、親は自分の子供かどうか動物みたいにニオイで識別してたんじゃないかな。それなのにニオイの元を取っちゃったからわからなくなったのかも」
 などとつかさは笑うが、俺は笑えなかった。
 こうして家庭内が険悪になった矢先に親は職場で体臭に関するクレームや人間関係のトラブルが蓄積してとうとうクビになり、養育不可能と見なされつかさは保護されたという。
 他の子同様に壮絶な経歴に呆然としていたら更にものすごい発言が飛び出す。
「本当はまだニオイの元が残ってるのにみんな気を使って平気なフリしてるんじゃないかって不安でしょうがなかったの。だけどTINTINは嘘つけないもんね。だから本当に安心できたんだ、男の子が来てくれてよかった」
 そう言って目をぬぐう。
こんなことで涙ぐむとは、どんだけコンプレックスだったんだ。
 臭ってるかどうかの確認が夜這いの目的だったらしい。
「なんちゅう確認方法だ。俺に襲われる心配は無いのかよ」
 正直言って、辛抱たまりません。
「あ、あはは、一応退路は確保してあるし、そういう対象になれるならそれはそれでマシかもしれないし」
 絶句する。体臭によるコンプレックスはそこまで自分の価値を否定させてしまうのか。
 だが、たちまち彼女の顔は不安に彩られる。
「って、もしかして、白石君はニオイフェチだったりする? 臭いからこそTINTIN元気になっちゃったのかな?」
「違う! 俺を変態にするな! 普通に可愛いしセクシーだしいい香りだからこうなったんだっての!」
「えっ!?」
 俺の発言で真っ赤になる。
 これまでにやらかした大胆な行動や乙女が口にするのははばかられる単語の連呼に比べりゃ俺の発言なんて可愛いものだと思うが。
 乙女心は複雑だ。
「というわけで、用が済んだなら出て行ってくれないか。あ、臭いからじゃないぞ? 俺が、その……このままじゃどうにかなりそうだからだ」
「あ、うん! 信じる」
 などと明るく返事するが、俺のベッドに腰掛けたつかさはいつまでたっても自発的に出て行こうとしない。
 椅子の背もたれを前に回してのしかかり前傾姿勢で座る俺を見る彼女の顔には、悪戯っぽく少々サディスティックな笑みが浮かんでいた。
 今の俺は立ち上がることすら困難であることを見抜いてやがる。
 まったく見れば見るほど可愛い子悪魔だぜ、お前は。
 崩壊家庭出身の俺ですら、久しく錆ついてた願望がうずいてくる。

 埒が明かないので仕方なく、前かがみの情けない体勢でつかさを追い出す羽目になった。
「きゃぁきゃぁ♪ あはは」

 ケッ、笑ってやがる。
 てめえなんぞ、この夜の終わりまでベッドで眠ってりゃよかったんだ。

 などと内心で某アニメの平民出の軍人さんみたいな悪態をつく。
 廊下に出ると……。
「ひ、柊さん、白石君の部屋でいったい……」
 みゆきさんが呆然としていた。
 俺を見て、視線は股間に向かう。
 それからなぜか焦燥感に満ちた顔で俺に迫り、ハッと我に返ったみゆきさんは飛びのいた。
「え、あ、その、白石君は自分でできますよね」
 などと言って慌てて去っていった。
 いや、確かにできるけど。というかそこらへんは踏み込まれるの非常に困るんだが。
 慌てて座り込んだ俺は、困惑したままつかさと顔を見合わせるのだった。


??「……これまた、凄い」
つかさ「あ、あはは、流石に使えませんよね~」
みのる「使わないで下さい~!」
こなた「いやいや、木琴でピロリロリンって擬音鳴らして前かがみになって痛がれば」
??「『毎度おさわがせします』のノリはこの時代では通らないって。(本当に偏ってるなこの子)」
ひより「タイトルの『らき』を『わき』って置換したフェティシズム全開の同人誌書かれそうっスね」
こなた「まだ本編できてもいないのに2次創作考えるのはイタいって」
??「う~ん、不条理ギャグとして『臭くってさ~』という問答を所々に入れようと考えてたけど、つかさちゃん傷つくか」
つかさ「いえ、もう大丈夫です。自分のことじゃないって信じる根拠、見つかりましたから」
みのる「うぁあああ」


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