ID:ZQEonp6o氏:星の導き

 星は見えなくてもそこに在る。
 地上の強すぎる光で見えなくても、空を雲が覆っていても確かに在る。
 だから、見えなくなってしまっても、またいつか見える日が来る。

 昔、そういった奴がいた。
 そいつは普段からいい加減で、まぁいつもの気まぐれか、アニメが好きな奴だったから何かのセリフ程度にしか思っていなかった。
 夜空を見上げながらそのセリフを思い浮かべ、翌日も変わらぬ日々が続くことに何の疑いもなく、その日も眠りについた。
 けれど、それは思いもしない形で裏切られてしまった。


 引越し。
 ホームルームが始まってすぐ、隣のクラスから駆け込んできた双子の妹に告げられたのは、そんな言葉だった。
 意味がわからなかった。引越しした? あいつが? 昨日まで普通に、いつも通りだったのに?
 私は、教師のいる目の前で携帯電話を取り出し、あいつに電話をかけた。
 すぐには出ないかもしれない“いつものこと”だ。でも、出るまでかけよう、そしてちゃんと話を……。
 コール音がなることはなく、電話口から聞こえてきたのは、あいつの声ではなかった。
『おかけになった電話番号は、現在使われておりません』
 そのあとは、よく覚えていない。妹と友人の話によると、あいつのクラスの担任に掴みかかって大変だったらしい。

 電話は解約されていて、あいつの家はもぬけの殻だった。
 一緒に住んでいたあいつの従姉妹の子は、同じクラスの友人の家にお世話になると言うことだった。
 その子に聞いてみても、連絡先は一切知らなかった。
 つまり、あいつに繋がる手がかりはすべて、文字通り消え去ってしまったのだ。


 私には、一つ気になることがあった。
 その従姉妹の子がお世話になっている家は、私の友人の向かいの家。
 そこの子と姉妹のように仲がいいはず。
 なら、あいつが引っ越すことを彼女は知っていたんじゃないのか、と。

 問い詰めると案の定、彼女はそのことを知っていた。知っていて、私たちに黙っていた。
 私は、友人を責めた。
 なぜ言わなかったのか、止められていたにしても言ってくれれば何か出来たかもしれない。
 私の最低な行為を、彼女は黙って受け入れてくれた。
 あいつがいなくなる事を知り、それを私たちに言うことも出来ず、私よりもずっと辛かったはずなのに。
 そのことに気付いたのも、妹に言われてからだ。
 私は彼女に謝り、彼女はそれも笑顔で受け入れてくれた。
 一番辛いのは、あいつのはずだからと。


 それから何年過ぎただろうか。
 今はもう、あの時のように眠れない日々を過ごすこともない。
 何も出来なかったことを悔やみ、腹を立て、誰かに当り散らすようなこともない。
 ただ、星を見上げる。
 あいつの最後の言葉を思い浮かべながら、毎晩、空を見上げている。
 家の神社の境内で、あの日から見えなくなってしまった星を。また見ることが出来ると信じて。

 もし、あいつに会えたらなんて言おうか。
 言いたいことはたくさんあるけれど……。
「やっぱり、おかえりかしらね」
「じゃあ、ただいまかな」
 そんな気はしていた。だって、今日はいつもより星が綺麗に見えるから。
 なんとなくだけど、もしかしたらって思ってた。


 私は声の方へ振り返る。

 やっと顔を出した星を見るために。


~fin~
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