ID:5 > 9zzU.0氏:流れの遅い一年間

 世間では、まもなく入学式や入社式などの新年度を告げる行事が行なわれる時期。
 柊かがみは、岩崎邸にいた。

 岩崎みなみに案内されて、テーブルの席についた。
「どうぞ」
 みなみが持ってきたお茶に口をつける。
 そして、
「話って何?」
 かがみは、そう問う。
 みなみとはそんなに接点が多いわけではない。二人だけで話すような内容に心当たりはなかった。
「柊先輩は、この一年間ほど、時の流れが妙に遅かったり、同じ日を繰り返しているような感覚に陥ったことはありませんか?」
「まあ、まったくないとはいわないけど、そんなのは気のせいってやつでしょ?」
「気のせいではありません。暦年でいうこの一年間に、実際の経過時間は三年以上を費やしています。柊先輩に分かりやすいキーワードを用いれば、『涼宮ハルヒの憂鬱』、『エンドレスエイト』といったところでしょうか」
「ちょっと待ってよ。あれはフィクションで、実際にあんなことがあるわけが……」
「エンドレスエイトとは違って、この現象は、一日を数回繰り返したあと、その翌日が来るというパターンを繰り返しています」
「つまり、4月1日を三回繰り返したあとに4月2日が来て、その4月2日も三回繰り返して、そのあとに4月3日が来てって感じ?」
「そうです、すべての日が繰り返されるわけではありませんが。この現象が観測され始めたのは6月前後からですが、最も顕著だったのが11月と12月です。この二ヶ月間については、すべての日が十二回前後繰り返されています」
「それって、二年かけても二ヶ月しかたってなかったってことじゃないの」
「そのとおりです。次に顕著だったのが、直近の3月ですね。とにかく、これなら、遅々とした歩みであっても時は進みます。そのため、我々以外の勢力がこの現象に気づいたのはごく最近のことです」
「みなみちゃんのいう我々って、何なの?」
 なんとなく予想はついていたが、かがみはあえて問うた。
「柊先輩が今思い浮かべたもので正解です。私は、情報統合思念体の主流派に属する対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースです」

 みなみは、例の高速呪文でちょっとした情報操作をやってみせた。
 それを見せ付けられては、かがみも信用せざるをえない。

「情報統合思念体って本当にいたんだ」
「情報統合思念体は、上位世界、下位世界、平行世界のすべてに普遍的に存在し互いに同期をとって情報を共有することが可能です」
「ついでに他の勢力も教えてよ」
「未来人はみゆきさんです。ついでにいうと、超能力者は白石先輩」
「みゆきはなんとなく分かるけど、白石が古泉一樹役? あいつはせいぜい谷口役が分相応よ」
「他の勢力のことについては、私の関与するところではありません。まあ、超能力者といっても、この世界には閉鎖空間は発生してませんので、任務は観測だけです。白石先輩でも充分に務まるでしょう」
「みなみちゃんも結構いうわね。で、このエンドレスエイトもどきを引き起こしてる元凶、涼宮ハルヒ役は誰なの?」
 かがみには、これも予測がついていたが。
「泉先輩です」
 やっぱり、そうだった。
「こなたは、なんでそんなことを?」
「他の勢力とも話し合いましたが、『親しい友人たちと過ごす日々を終わらせたくない』というのが最も近いだろうという結論になりました」
「あいつ、卒業式なんてたいして感慨もないとかいっときながら、そんなこと考えてたんだ」
「問題は、この4月以降です。今まで親しくしていた友人と疎遠になるようでしたら、泉先輩は今度は時を一気に巻き戻してしまう可能性があります。高校三年生の4月まで。あるいは高校一年生の4月ということも考えられます」
「みなみちゃんはそれを阻止したいってわけね?」
「はい。情報統合思念体は、進化の可能性の観測を望んでいます。繰り返されるだけの時の流れに進化はありえません。他の勢力も、理由は異なれど大規模な時間逆行阻止という点については、意見が一致しています」
「要するに、今までどおり付き合ってやればいいんでしょ? そんなの、言われなくたってするわよ」
「それを聞いて安心しました。あなたは、泉先輩にとっての鍵ですから」
「それってなんだか危ない雰囲気を感じるセリフなんだけど……」
「心配はありません。リアルで同性趣味がないという泉先輩の言葉は本当です。泉先輩のあなたへの好意は、純粋に友人としてのものです」
「ならいいけどさ」

 それから世間話をして、岩崎邸をあとにした。
 岩崎邸の前に、高良みゆきが立っていた。
「みなみちゃんからだいたいの話は聞いたわよ」
「そうですか。これからも友人としてよろしくお願いいたします、かがみさん」
「みなみちゃんにもいったけど、言われてなくたって、私たちはずっと友人よ」
「ありがとうございます。それにしても、かがみさんはすごいですね。あんな話をされたら普通はついていけないでしょうに。あなたが泉さんの一番の理解者である理由がよく分かったような気がします」
「そんなたいしたもんじゃないわよ。それはともかくとして、みゆきが未来人ってことは、いつかは未来に帰っちゃうってこと?」
「どうでしょうね。私の任務は時間常駐員ですから、志願すればずっとこの時代にとどまっていることも可能です。父も母もこの時代が気に入っているようですし」
「なら、ずっとここにいてよ。こなただって、それを望んでるわ」
「そうですね。泉さんが望んでいるなら、否応もありませんね」
 それから、かがみは高良邸でみゆきとおしゃべりして過ごしたあと、帰途についた。



 翌日以降、かがみのこなたに対する態度は以前となんら変わることはなかった。

終わり
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