ID:IRl5FPQ0氏:みなゆた不在

 風薫る5月。こなた達一行は1泊2日の小旅行に来ていた。
 つかさが卒業後間も無く『最近みんなで会ってないね』などと、かがみの前でひどく寂しそうに言ったのが事の始まり。
 かがみはかわいい妹のために、ちょっとした同窓会をしないかとこなたとみゆきに提案。
 こなたが表立って、みゆきが裏で段取りを進めていくうち、なんやかんやいろいろあって参加予定者はどんどん増えていった。
 最終的には、チアの時のメンバー全員でゴールデンウィークを利用して宿泊旅行をするイベントにまで発展したのだった。

 こなたが作成した旅のしおりによれば、今は昼食後のちょっとした自由時間。
 各自自由に展望台からの眺めを楽しんだり、散歩したり、売店でお土産を物色したりしているところだ。
 ちなみにこの後は、今いる山頂のレストランから下山して本日宿泊予定の旅館に向うこととなっている。
 みゆきオススメの旅館で豪華な宴と広い温泉を満喫し、翌日は観光しながらゆっくり帰るというプランだ。
 天気も快晴で、早朝のこなたの軽い遅刻以外には特にトラブルもなく、ここまでの行程は順調そのものだった。

 そう、ここまでの行程は。

 自由時間が終わり、集合予定の時間を少しばかり過ぎた頃。
 集合場所には不穏な空気が漂っていた。
 かがみは何度も時計に目をやり、みゆきは心配そうに辺りを窺う。
 
「遅いわね。集合場所がわからなくなったのかしら?」
「いえ、特に迷うような場所ではないと思うのですが」
「そうよね……まあ、もうすぐ来るだろうとは思ってるんだけどさ」
「はい。心配ですよね」
 
 2人の会話からも判るように、まだ集合人数が足りていないのだ。
 しかも足りていないのは1人ではなく複数。 
 5分、10分と時間が過ぎていき、最初は苛立ちをみせていたかがみも不安の方が勝った表情へと変わる。
 時間とともに場の空気も悪くなっていく。

「ごめ~ん、みんな!遅くなっちゃった!」
「やふー。待たせたね、皆の衆」

 そこに、顔を青くしたつかさとふわ~っとした感じのこなたがやって来る。
 瞬間、謎の衝撃によって1mほど吹っ飛ばされるこなた。
 こなたが本来立っているべきはずの場所には、代わりにかがみが右腕を振り抜いた格好で立っていた。

「ゲホ、ゴホッ……ぜ、全体重を乗せてのラリアットはさすがにやりすぎじゃないですか、かがみ様?」
「反省の色の無いあんたが悪いのよ」
「おおおお、お姉ちゃん、ごめんなさいっ!本当にごめんなさいっ!!」
「……ま、あんたらが集合時間に遅れるのは想定の範囲内だから別にいいけどね。ね、みゆき?」

 かがみはつかさの額をコツンと小突きながら呆れたように言った。
 同意を求められたみゆきは、特に何も言わず少し困ったような顔で微笑んだ。
 こなたは憮然とした表情で立ち上がる。
 おそらく、つかさと自分との扱いの差に納得がいっていないのだろう。

「想定の範囲内でこの扱いですか、そうですか」
「あー、悪かったわよ。少しやり過ぎたとは思ってるわ」
「ふーんだ。今さら謝られても、私の心には既に深~い傷ができてしまったのだよ」

 こなたはかがみにそう答えると、荷物を背負ってさっさと下山を開始しようとする。
 拗ねた感じを演出してかがみをからかおうという心づもりで。
 しかし、この行動は予想外の人物からの意外な台詞によって制止されてしまう。

「Waitデス、こなた!まだメンバーが全員集まってイマセンよ!?」
「ふぇ?私とつかさ以外にも遅れてた人がいるんだ?みさきちとあやのんかな?」
「おいおい、あたし達ならさっきから横にいるだろー」
「そうそう。それに、みさちゃんと私は一番最初に集合場所に着いてたんだよ」
「そうなんだ。ということは……」

 こなたはぐるりとその場の全員を見回す。
 そして、自分のよく知る人物が欠けていることにすぐに気が付いた。

「……ゆ、ゆーちゃんがいない!?」
「はい、そのとおりです。そして、みなみさんもまだ姿をみせていないんです」



 ~みなゆた不在~



「だって、もう集合時間から30分は経ってるよ!?2人ともこういうのに遅れるような性格じゃないじゃん!」
「正確には42分よ。私達だって、あんたやつかさ以外の人間が遅れるような事態は想定してなかったんだけどね」
「そんな話は今はいいよ!2人から連絡とかはあったの、みゆきさん!?」
「そ、それが、全く無いんです。こちらからも何度か携帯にかけてはみたのですが、なしのつぶてで……」

 悪い言い方をすれば、こなたとってゆたかは不安要素の塊のような従妹。
 それが初めて来た山中で目の届く範囲にいない上に音信不通、ということで軽くパニックになるこなた。
 これを押さえるのはかがみの役目だ。

「落ち着きなさいよ、こなた」
「落ち着いてる場合じゃないよ!みんな、なんで探しに行ったりして無いのさ!」
「そういう台詞は、まずは自分の携帯の着信履歴を確かめてから言うのね」
「えっ?」
「あんたとつかさにも電話したのよ。あんた達が4人で行動してるのかもしれないって考えてね」

 その言葉に慌てて携帯を確認するこなた。
 かがみとみゆきの携帯からの不在着信が2桁ほどあった。
 パティやひよりの携帯からのものもいくらかあった。
 こなたがつかさの方を見ると、こちらもばつの悪い表情で自分の携帯とにらめっこをしていた。

「ごめん。まったく気がつかなかったよ……」

 謝るこなたに、いつものことでしょ、と軽く流して話を続けるかがみ。
 別にこなたを責めるのが目的ではなく、冷や水を浴びせてとにかく落ち着いてもらうのが目的だったのだ。

「それと、いくらか周りも探しはしたのよ。日下部と峰岸にはあっちのハイキングコースを、田村さんとパトリシアさんには売店と医療室を確認してもらったわ」
「おう。あっちには家族連れが3組くらいいただけで、ちびっこの妹達はいなかったぜ。なあ、あやの?」
「うん。途中にある見晴らし台みたいなところも確認してみたんだけど……」
「ワタシ達の方も手ガカリは無しデシタ」
「医療室は鍵がかかってて人の気配すら無かったッス。トイレものぞいてみたんスけど、そっちにもいなかったッス」

 みんなが2人を探していたのは、こなたとつかさがやって来た方向と反対側だ。
 そして、こなたとつかさはこの場所に来るまでに2人の姿を確認してはいない。
 このことが意味するのは、つまり――

「つまり、2人は行方不明、ってこと?」

 こなたは絶望的な思いでそう口にした。
 そして、すがるような瞳でみゆきの方を見る。
 少しでも反論してほしくて。

「まだ探していないところもありますし、断定はできないと思います。ただ、その可能性は否定できませんが」
 
 みゆきは相当に辛そうな表情で応える。
 みゆきも妹のような存在であるみなみの事が心配でならないのだ。 

「こなちゃん、ゆきちゃん。とりあえずもう少し探してみようよ。じっとしてても始まらないよ?」
「つかさの言うとおりだわ。あと30分だけ探してみて、それで駄目だったら警察なりなんなりに連絡すれば大丈夫よ」

 こなたとみゆきが表情を曇らせていくのが耐えられなくて、少しでも元気の足しになればと無理矢理明るい声をだす柊姉妹。
 それでも、最悪の事態をいくらかふまえた発言をしてしまうあたりが現実主義者のかがみである。

「でもさー、ひいらぎ。これ以上どこを探すってんだよ?後は下山する道くらいしか残ってねーぞ?」
「そ、それは……ねえ、こなた、みゆき。何か心当たりとかはないかしら?何でもいいんだけど?」

 みゆきは『まだ探してないところ』などと表現したが、それについてはみさおの言うとおりに下山する道以外は残っていなかった。
 もちろん、人が立ち入るように整備されていない場所を除いて、だが。
 集合を待たずに勝手に下山するようなことは、あの2人に限って9割9分9厘ありえない。
 勢いでもう少し探そうとは言ったものの、柊姉妹もこれ以上どこを探せばよいかなどわからない。

「そう言われても……今朝のゆーちゃんはいつもより元気なカンジだったし、体調には何の問題もなさそうだったし……う~ん……」
「私にも心当たりはありません。強いて言えば、皆さんに会えるからでしょうか、今朝のみなみさんは少々高揚気味ではありましたけれど」

 2人が山の中で忽然と姿を消してしまう事態の前兆など、普通に考えて思い当たるはずが無かった。
 そもそも姿を消す理由すら思い当たらないのだから。
 何かヒントになるものでもあればと、こなたはゆたか達と同学年の2人にもダメもとで助言を求める。

「ひよりん、パティ。念のために聞くけどさ、ゆーちゃんの学校での様子とかで、最近変わった事とかあったりした?」
「変わったことッスか。うーん……2人とも相変わらずって感じッスけど。パティは何か思いつくことある?」
「ワタシも特には思いつかないデスネ。むしろ2人とも去年よりラヴラヴで、イロイロと順調だと思いマス」
「あー、そうなんスよねー。見てるとまるで初々しい恋人達のようで、私も筆がすすんで――って、そんな話してる状況じゃないッスよね、すみません」

 いつもの癖で一瞬でも『腐』の方向へと話が進みかけたことに陳謝するひより。
 しかし、状況が状況だけにこなたもこれには説教をせずにいられなかった。

「ひよりん、いくら同志といえども謝って済む状況とそうでない状況が――って、かがみ?どうしたの?」

 説教はすぐに中断される。
 いつもなら不謹慎なネタには人一倍厳しく反応するはずのかがみの様子が明らかにおかしくなったのだ。
 丁度ひよりとパティの発言の後ぐらいから妙にそわそわし始めたのだ。

「かがみさん、何か思い当たることでもあったんですか?」
「え?いやいやいや、別に何も無いわよ、何も。全然まったく100%関係ないことを思い出しただけだから。気にしないでいいわよ」
「柊ちゃん、そんなに力一杯否定しなくても……」
「隠し事が下手だよねえ。関係ないかどうかはこっちで判断するから、何を思い出したか聞かせてくれるかな、かがみんや?」

 全員の注目がかがみに集まり、言わざるを得ない空気が形成される。
 かがみは諦めたように溜息をつくと、『別にゆたかちゃん達とは関係ない話だからね、本気で』などとしつこく前置きをしてから話し始めた。

「ほら、私の家って神社だからさ、願掛けとか呪いとか、その手の話をよく聞くのよね。でね、この山にもそれ系の噂があるのを思い出したのよ。
 その噂っていうのはさ、この山であることをすれば、それをした2人は来世でもまた強い絆で結ばれる、っていうカンジのものなんだけど……
 ちなみにこの話、みゆきは知ってたりしないの?」
「いえ、初耳です」
「そ、そう。一般的にはほとんど知られてないらしいから無理ないわよね。まあ、その程度の噂ってことかしら」
「かがみ、この山でする『あること』って何さ?」
「べ、別にそこは気にしなくていいのよ。聞いて面白いところでもないし」

 こなたの発した当然の質問に、目を逸らしながら答えるかがみ。

「いや、そこは大事なところでしょ。仲の良いことには定評のあるゆーちゃんたちがその話を知ってたら、その行動をとろうとするかもしれないし」
「みゆきも知らない話を、ゆたかちゃんが知ってるとは思えないけど」
「むう。確かにそれはそうかもしれないけどさ……万が一ってこともある訳だし、それに今はどんなくだらないヒントでもいいから欲しいんだよ」
「かがみさん、泉さんの言うことも一理あります。私からもお願いしますので教えていただけませんか?」

 みゆきにまで懇願され、断ることのできなくなったかがみは、ギリギリ聞こえるか聞こえないか程度の小さな声で短く答えた。

「……自殺するのよ」

 その一言に気を失って倒れそうになったみゆきを、みさおとあやのが慌てて両側から支える。
 こなたも顔面蒼白で、今にも倒れてしまいそうな顔をしている。

「か、かがみ……今、なんて……?」
「山頂付近のとある崖から2人で一緒に投身自殺をするの。そうすれば、例え現世では結ばれることの無い運命にある2人でも来世で強く結ばれるっていう話なのよ」
「そ、そんな……自殺だなんて……」
「だ、大丈夫よ!ゆたかちゃん達がそんなことするはずがないじゃない!だいたい、この話だってゆたかちゃん達は絶対に知らない――」
「ごめんなさい、お姉ちゃん!」

 かがみの発言を遮って、目に涙をいっぱいに溜めたつかさが叫ぶようにして謝った。

「つかさ、ごめんなさいって、どういうこと?」
「わたし、わたし……その話、しゃべっちゃったんだ。先週、駅で偶然ゆたかちゃんに会った時、今回の旅行の話になって、それで……ごめんなさい……」
「じゃ、じゃあ、ゆたかちゃん達はこの話を……!?」

 今度こそみゆきが気を失って倒れ、みさおとあやのがかろうじてその体を受け止めた。





 山のひときわ高い場所、切り立った崖の上で身を寄せ合って立つ2人の少女。
 どことなく悲しげな、決意に満ちた表情で崖の下を見下ろしていた。
 やがて、小柄な少女が前を見据えて口を開く。
 その視線はどこか遠くの方へと向けられていた。
 もう一方の少女は、小柄な少女を後ろから優しく包むように抱きしめている。
 
『みなみちゃん。ここから飛べば、私達は一緒になれるんだよ』
『ゆたか、本当にやるの?』

 小柄な少女は振り返ると、上目遣いにもう一方の少女を見つめる。
 そして、真剣な瞳で相手を見つめながら尋ねる。

『みなみちゃんは……戻りたい?』

 もう一方の少女もまた、真剣な瞳で見つめ返しながら言葉を返す。

『私は……ゆたかと一緒がいい』

 その言葉に迷いの色はなかった。
 小柄な少女は悲しそうに微笑む。

『そっか。ごめんね、みなみちゃん』
『謝らないで、ゆたか』

 もう一方の少女は優しく微笑む。

『うん。ありがとう、みなみちゃん』

 小柄な少女は少し無理をして明るく微笑むと、再び前を見据えた。
 その肩は少しだけ震えている。

『ゆたか……』
『みなみちゃん。私ね、みなみちゃんのこと……』

 もう一方の少女が、小柄な少女を再び後ろから抱きしめる。
 今度はさきほどより強く、これから先2度と離すまいという意思を表すかのように。 

『大丈夫。言わなくてもわかってるから』
『うん』
『それと……私も、ゆたかと同じ気持ちだから』

 小柄な少女は、自分を包む少女の腕をぎゅっと抱きしめる。
 そして、決して絶望ではなく、希望に満ちた声で言った。

『うん。それじゃあ行こうか、みなみちゃん』

 そして2人の姿はその場所から消えた。





 ――みたいな妄想を気を失ったみゆき以外の全員が頭に思い描いていた、その時。

「こなたお姉ちゃん、お待たせー。ごめんね、思ったより遅くなっちゃった」
「すみません、遅くなりました」
「ゆゆゆ、ゆーちゃん!?みなみちゃん!?」

 みんなの妄想上では、未来を目指して飛んでしまったはずの2人が戻ってきた。

「うわあああああん!よかったよぉー!ゆーちゃん達が生きてるよぉー!」
「え?え?」
「まったくもう!本気で心配したわよ、2人共!」
「でも、2人が無事で本当に良かったよー」
「は、はあ……?」

 泣きながら抱きつくこなた。
 状況を全く把握できないゆたか。
 再開を心から喜ぶ柊姉妹。
 状況を全く把握できないみなみ。

「むー?なーんか妙な温度差を感じる光景ッスねー?」

 妄想と現実の行き来が人一倍上手なひよりだけが、この状況を客観的に捉えていた。 


 ☆


 全員がようやく落ち着きを取り戻し、みゆきの意識もなんとか戻った頃。
 みんなを代表してかがみが2人に質問を始めていた。

「とりあえず、連絡も無しに2人でどこへ行っていたのか説明してほしいんだけど?」
「え?連絡も無しに、ですか?」
「ええ。携帯にも何度か電話させてもらったんだけど、2人ともでなかったでしょ?」
「あ、すみません。携帯は荷物と一緒にこなたお姉ちゃんに預けたままにしちゃったものですから」
「私もゆたかと同じで、携帯を預けた荷物に入れたままにしていたので……すみません」
「ちょっと待って。こなたに?荷物を?」
「は、はい……あれ?こなたお姉ちゃんから何も聞いてないんですか?」

 自然とみんなの視線がこなたに集まる。
 しかも、その視線のほとんどがかなり冷たい。
 かがみは、自分の傍の地面のやたらごつごつした辺りを指差してこなたに命令する。

「……こなた。ちょっとここに正座しなさい。今すぐに」
「ちょ、ちょっと待ってよ、かがみ!わたしは何も知らないよ!?濡れ衣だよ!」
「えっ?何も知らないって……こなたお姉ちゃん、私達の荷物はどうしたの?」
「わたしは荷物なんて預かってないはずだよ、ゆーちゃん」
「ええっ!?じゃあ、私達の荷物は置きっぱなしで、ここには持ってきてないの!?ひどいよ!」
「いや、だから預かってないってば!」
「……ゆたか、とりあえず私は荷物を取りに行ってくるから」
「あ、うん。ありがとう、みなみちゃん」

「ねえ、ゆたかちゃん。こなたに荷物を預ける前くらいから、もう少し詳しく話してくれないかしら」 
「あ、はい。わかりました。えーっと、集合時間の30分くらい前に伯父さんから私に連絡があったんです」
「え?お父さんから?ゆーちゃんに?」
「うん。なんか、こなたお姉ちゃんの携帯にかけてもどうせでてくれないだろうからって」
「至極正論ね。それで?」

「仕事の合間をぬって差入れを持って行くから受け取って欲しい、ということだったんで、みなみちゃんと一緒に駐車場まで下りることにしました」
「ああ、2人が戻ってきたときに持ってた袋は差し入れだったのね。荷物は邪魔になるから予めこなたに預けてたってとこかしら?」
「はい。近くにこなたお姉ちゃんが居たので、行き先を告げて荷物を預けたはずなんですけど……」
「だから、わたしは知らないってば。だいたい、さっきの自由時間の間は誰とも会ってないんだよ?つかさも集合場所に戻る時にたまたま一緒になっただけだし」

 まったく違う2人の言い分に、腕を組み首を傾げて考え込むかがみ。
 ふっと視線をみゆきの方に向け、ヘルプを要求する。
 みゆきはコホンと小さく咳払いをすると、こなたに対して尋ねた。

「ええっと。泉さんは自由時間の間、何をされていたのですか?」
「え?私?」
「はい。例えば他人の声が聞こえにくい状況にあったとか、そういったことはありませんか?」
「んー、でも別にイヤホンとかはしてなかったしなぁ。普通にDSをしてただけでさ」
「DS?……あの携帯ゲーム機のことですか?」
「そうそう。今日は調子がよくってさ、みゆきさんの記録をもう少しで抜けそうなところまでいったんだけどねー」
「はあ、そうなんですか」
「あと一歩で新記録ってところで誰かに声をかけられてミスしちゃってさー……ん?声をかけられて?……っ!!」

 こなたが血の気の引いた真っ青な顔でダラダラと変な汗をかきはじめる。
 そして、油のきれた機械のようにぎこちなく首をまわし、ゆたかの方に顔を向ける。

「えっと、ゆーちゃん……もしかしてなんだけどさ、ゆーちゃんが私に荷物を預けたときって……」
「うん。こなたお姉ちゃん、ゲームしてたと思うよ。でも、ちゃんと返事もしてくれてたけど……」

 こなたの頭がガシッと鷲掴みにされ、強引に首が元の方向へとまわされる。
 そこには、微笑をたたえたかがみの顔があった。

「こなた。これで、誰が一番悪いのか決まったと思わない?」
「ででで、でもさ!仕方ないんだよ!だって、みゆきさんの刻んだあの記録だよ!?やっと更新できそうだったんだよ!?」
「最期の言葉がそれ?あんたにしては、少々洒落っ気が足りないわね」
「ちょ、待ってって!かがみにも私の気持ちがわかるでしょ!?他人に自分の持ってるゲームの記録を塗り替えられた日には――」

 ギリギリと増していくかがみの握力。
 こなたがなんとか理由をつけて必死になって逃れようとしていると、ゆらりと背後に誰かが近付いた気配がした。

「泉さん。先程から私の名前を頻繁に出されていますが……まさか、泉さんは私にも責任の一端があるとでも言いたいのですか?」
「みっ、みゆきさん!?いや、そういう訳じゃなくってさ、その、実際にあの記録をうちたてたのはみゆきさんだから、ほら、ね?」
「往生際が悪いわよ、こなた。あんたのせいでゆたかちゃん達に対して失礼なことを考えたりまでしちゃったんだから、素直に刑に服しなさい」
「いや、それについては別に私だけが悪いわけじゃないでしょ!?」

 自分の名前がだされたので、当然の如くそれが気になってしまうゆたか。
 取り込み中ではあるが、事態に関わっていることかもしれないので、ゆたかはそれを思い切ってこなたに聞いてみる。

「ねえ、こなたお姉ちゃん。かがみ先輩が言ってる、私達に失礼なことって何?」
「ああ、それはね、ゆーちゃんとみなみちゃんが――へぶっ!?」

 少しでも話の矛先が違う方を向けば幸いと思って、すぐにゆたかの質問に答えようとするこなた。
 しかし、瞬時に眼光鋭いかがみによってアイアンクローのように顔面を鷲掴みにされる。

「少しでもしゃべってごらんなさい、こなた……アンタヲ消スワヨ!」

 こなたとゆたかを始め、その場に居た全員が思った。
 神社生まれって怖い。
 みなみが2人分の荷物を遺失物届出所で引き取って帰ってくる頃には、こなたの顔色は燃え尽きた灰のように真っ白になっていたという。
 おまけに、こなた愛用のDSも粉々になっていたという。

 結局、無事(?)に全員揃ったものの、下山はこなたの精神が復活してから、ということになって余分な時間をくってしまう一行であった。


 ☆


「あ、そうだ。みなみちゃん、下山する前にどうしても2人きりで行きたい所があるんだけど……いいかな?」
「……ゆたかと一緒なら、どこにでも」
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